説明

内燃機関制御装置

【課題】内燃機関の制御において、デュアルマスフライホイールの共振回転数への内燃機関回転数の接近状態を考慮することにより共振防止処理を適切なタイミングで実行し強い共振やエンストが生じるのを防止する。
【解決手段】回転数基準値A及び回転数変動量基準値Bをエンジン回転数減速度Dneと変速段SFTとに応じて設定し(S112,S114)、これらの基準値A,Bと、平均回転数Nea及び回転数変動量ΔNeとを比較している(S116,S118)。エンジン回転数減速度Dneが高いほど、回転数基準値Aを大きく、かつ回転数変動量基準値Bを小さくし、更に変速段により変化する共振回転数に対応させてこれら基準値A,Bの調節状態を変化させている。このため共振防止処理を適切なタイミングで実行でき、強い共振やエンストが生じるのを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デュアルマスフライホイールを介して駆動系へ出力を伝達する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のトルク変動が駆動系に伝達されるのを抑制するためにデュアルマスフライホイールを使用する技術が知られている(例えば特許文献1,2参照)。このデュアルマスフライホイールは、バネなどの弾性体により2つのフライホイールを接続したものである。したがってデュアルマスフライホイールには共振周波数が存在し、共振が生じた場合には2つのフライホイール間での振幅が大きくなり、バネの突き当たりによるショックが生じたり、場合によりデュアルマスフライホイールが破損したりするおそれもある。
【0003】
このようなデュアルマスフライホイールの共振を防止するために、通常は、共振点をアイドル回転数より低い回転数域に設定していた。しかし内燃機関の運転状態によっては一時的にアイドル回転数よりも回転数が低下する場合があり、このような共振点の設定のみではデュアルマスフライホイールの共振を十分に防止できない。
【0004】
特許文献1では内燃機関回転数が共振回転速度領域に所定時間とどまっていた場合に、燃料停止や減量により共振回転速度領域から離脱させている。
特許文献2では、アイドル回転数よりも低い回転数領域にて最大燃料噴射量による制限を強めている。
【特許文献1】特開2005−54601号公報(第5−9頁、図2−5)
【特許文献2】特開2006−183484号公報(第3−5頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし内燃機関の運転状態や駆動系の出力伝達状態によっては、共振防止に効果的に対応できない場合がある。すなわち車両用内燃機関の場合などに急速に減速が行われた場合に、共振防止処理が間に合わずに強い共振を生じてしまう場合がある。更に内燃機関の駆動系に出力を伝達する変速機における変速段の違いにより共振回転数も異なるため、変速段によっては共振防止処理が遅すぎて強い共振を生じてしまう場合があり、他の変速段では逆に共振防止処理が早すぎることで内燃機関出力低下が必要以上に生じてエンストを招く場合がある。
【0006】
本発明は、共振回転数への内燃機関回転数の接近状態を考慮することにより共振防止処理を適切なタイミングで実行し、このことにより上記問題を生じないようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の内燃機関制御装置は、デュアルマスフライホイールを介して駆動系へ出力を伝達する内燃機関の制御装置であって、内燃機関の回転状態を検出する内燃機関回転状態検出手段と、前記内燃機関回転状態検出手段にて検出される回転状態が、回転変動抑制条件を満足した場合には、内燃機関に対して回転変動を抑制する処理を実行する回転変動抑制手段と、前記回転変動抑制条件を内燃機関の運転状態に応じて調節する回転変動抑制条件調節手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
回転変動抑制条件調節手段は、回転変動抑制手段にて用いる回転変動抑制条件を、内燃機関の運転状態に応じて調節している。この調節により、共振回転数へ内燃機関回転数の接近状態を考慮することができるようになる。したがって共振防止処理を適切なタイミングで実行することが可能となり、強い共振やエンストが生じるのを防止できるようになる。
【0009】
請求項2に記載の内燃機関制御装置では、請求項1において、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記内燃機関回転状態検出手段にて検出される回転状態が、デュアルマスフライホイールの共振回転数に近づき易い状態であるほど早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように前記回転変動抑制条件を調節することを特徴とする。
【0010】
回転変動抑制条件を調節することにより、内燃機関の回転状態がデュアルマスフライホイールの共振回転数に近づき易いほど早期に回転変動抑制条件が満足されるようにしている。このことは内燃機関の回転状態がデュアルマスフライホイールの共振回転数に近づき難いほど遅く回転変動抑制条件が満足されるようにしていることでもある。
【0011】
このことにより共振防止処理の実行を適切なタイミングとすることができ、強い共振やエンストが生じるのを防止できる。
請求項3に記載の内燃機関制御装置では、請求項1又は2において、前記内燃機関回転状態検出手段は、内燃機関平均回転数を前記回転状態として検出し、前記回転変動抑制手段は、内燃機関平均回転数上に設けた基準値よりも実際の内燃機関平均回転数が低い条件を前記回転変動抑制条件とし、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記内燃機関回転状態検出手段にて検出される内燃機関平均回転数の減速度が高いほど早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように前記基準値を調節することを特徴とする。
【0012】
内燃機関平均回転数の減速度が高いと、基準値よりも実際の内燃機関平均回転数が低くなる状態に急速に近づく回転状態となることから、内燃機関平均回転数の減速度が高いほど早期に回転変動抑制条件が満足されるようにすることで、共振防止処理を早期に開始させている。このことで実際に強い共振が生じる前に回転変動を抑制する処理を実行でき、確実に共振の防止ができる。逆に内燃機関平均回転数の減速度が低いほど遅く回転変動抑制条件が満足されることで、内燃機関出力低下などが不必要に早期に生じることが防止でき、エンストを防ぐことができる。
【0013】
請求項4に記載の内燃機関制御装置では、請求項3において、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記内燃機関回転状態検出手段にて検出される内燃機関平均回転数の減速度が高いほど前記基準値を大きくすることにより早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように調節することを特徴とする。
【0014】
より具体的には、このように内燃機関平均回転数の減速度が高いほど基準値を大きくすることで、早期に回転変動抑制条件が満足されるようにでき、更に内燃機関平均回転数の減速度が低いほど基準値を小さくすることになるので、回転変動抑制条件が満足されるのを遅くするようにできる。
【0015】
このことにより共振防止処理の実行を適切なタイミングとすることができ、強い共振やエンストが生じるのを防止できる。
請求項5に記載の内燃機関制御装置では、請求項1又は2において、前記内燃機関回転状態検出手段は、内燃機関回転変動と内燃機関平均回転数とを前記回転状態として検出し、前記回転変動抑制手段は、内燃機関回転数変動量上に設けた基準値よりも実際の内燃機関回転数変動量が大きい条件を前記回転変動抑制条件とし、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記内燃機関回転状態検出手段にて検出される内燃機関平均回転数の減速度が高いほど早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように前記基準値を調節することを特徴とする。
【0016】
内燃機関平均回転数の減速度が高いほど共振回転数に急速に近づき、基準値よりも実際の内燃機関回転数変動量が大きくなる状態に急速に近づくので、内燃機関平均回転数の減速度が高いほど早期に回転変動抑制条件が満足されるようにして共振防止処理を早期に開始させている。このことで実際に強い共振が生じる前に対処させることができ、確実に共振の防止ができる。このことは内燃機関平均回転数の減速度が低いほど遅く回転変動抑制条件を満足させることでもあり、必要以上に早く共振防止処理を実行させることがないので、内燃機関出力低下などが不必要に生じることが防止でき、エンストを防ぐことができる。
【0017】
請求項6に記載の内燃機関制御装置では、請求項5において、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記内燃機関回転状態検出手段にて検出される内燃機関平均回転数の減速度が高いほど前記基準値を小さくすることにより早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように調節することを特徴とする。
【0018】
より具体的には、このように内燃機関平均回転数の減速度が高いほど基準値を小さくすることで、早期に回転変動抑制条件が満足されるようにできる。このことは内燃機関平均回転数の減速度が低いほど基準値を大きくすることでもあり、このように基準値を大きくすることにより回転変動抑制条件が満足されるのを遅くするようにできる。
【0019】
このことにより共振防止処理の実行を適切なタイミングとすることができ、強い共振やエンストが生じるのを防止できる。
請求項7に記載の内燃機関制御装置では、請求項5又は6において、前記回転変動抑制手段は、前記回転変動抑制条件と、請求項3又は4に記載の回転変動抑制条件とが共に満足された場合に、内燃機関に対して回転変動を抑制する処理を実行することを特徴とする。
【0020】
すなわち内燃機関平均回転数の減速度が高いほど、基準値よりも実際の内燃機関平均回転数が低くなる状態に急速に近づき、更に基準値よりも実際の内燃機関回転数変動量が大きくなる状態に急速に近づく。
【0021】
したがって内燃機関平均回転数の減速度が高いほど早期に2つの回転変動抑制条件が満足されるようにすることで、共振防止処理を早期に開始させている。このことは内燃機関平均回転数の減速度が低いほど遅く2つの回転変動抑制条件を満足させて、共振防止処理の開始を遅くさせている。
【0022】
このことで、実際に強い共振が生じる状態を、高精度に判定でき、強い共振が生じる前に確実に対処させることができ、更に不要な内燃機関出力低下が生じることが防止できるので、強い共振やエンストを防ぐことができる。
【0023】
請求項8に記載の内燃機関制御装置では、請求項1〜7のいずれか一項において、内燃機関は車両走行駆動用であり、前記内燃機関回転状態検出手段は、車両減速度を内燃機関の回転状態として検出していることを特徴とする。
【0024】
このように車両走行駆動用の内燃機関の場合には車両減速度を内燃機関の回転状態として用いることができ、このことによっても共振防止処理を適切なタイミングで実行することが可能となり、強い共振やエンストが生じるのを防止できるようになる。
【0025】
請求項9に記載の内燃機関制御装置では、請求項1〜8のいずれか一項において、前記駆動系の出力伝達状態を検出する駆動系出力伝達状態検出手段を備え、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記駆動系出力伝達状態検出手段により検出される出力伝達状態に応じて、前記回転変動抑制条件の調節状態を変更することを特徴とする。
【0026】
駆動系の出力伝達状態によって共振回転数が変化する。このため駆動系出力伝達状態検出手段により検出される出力伝達状態に応じて、回転変動抑制条件調節手段が回転変動抑制条件の調節状態を変更することで共振回転数変更に対応させることができる。このことで、より高精度に回転変動抑制条件を設定できる。
【0027】
請求項10に記載の内燃機関制御装置では、請求項9において、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記駆動系出力伝達状態検出手段により検出される出力伝達状態に対応して変化するデュアルマスフライホイールの共振回転数に応じて前記回転変動抑制条件の調節状態を変更することを特徴とする。
【0028】
より具体的には、出力伝達状態に対応して変化するデュアルマスフライホイールの共振回転数に応じて回転変動抑制条件の調節状態を変更することで、より高精度に回転変動抑制条件を設定できる。
【0029】
請求項11に記載の内燃機関制御装置では、請求項9又は10において、前記駆動系はトランスミッションを含み、前記駆動系出力伝達状態検出手段は前記トランスミッションの変速段を前記駆動系の出力伝達状態として検出することを特徴とする。
【0030】
このように駆動系の出力伝達状態としてはトランスミッションの変速段を挙げることができ、変速段による共振回転数の違いに基づいて高精度に回転変動抑制条件を設定できる。
【0031】
請求項12に記載の内燃機関制御装置は、デュアルマスフライホイールを介して駆動系へ出力を伝達する内燃機関の制御装置であって、前記駆動系の出力伝達状態を検出する駆動系出力伝達状態検出手段と、内燃機関の回転状態を検出する内燃機関回転状態検出手段と、前記内燃機関回転状態検出手段にて検出される回転状態が、回転変動抑制条件を満足した場合には、内燃機関に対して回転変動を抑制する処理を実行する回転変動抑制手段と、前記駆動系出力伝達状態検出手段にて検出される出力伝達状態に応じて前記回転変動抑制条件を調節する回転変動抑制条件調節手段とを備えたことを特徴とする。
【0032】
回転変動抑制条件調節手段は、回転変動抑制手段にて用いる回転変動抑制条件を、内燃機関から駆動系への出力伝達状態に応じて調節している。この調節により、共振回転数へ内燃機関平均回転数の接近状態を正確に判断できるようになる。したがって共振防止処理を適切なタイミングで実行することが可能となり、強い共振やエンストが生じるのを防止できるようになる。
【0033】
請求項13に記載の内燃機関制御装置では、請求項12において、前記駆動系はトランスミッションを含み、前記駆動系出力伝達状態検出手段は前記トランスミッションの変速段を前記駆動系の出力伝達状態として検出することを特徴とする。
【0034】
このように駆動系の出力伝達状態としてはトランスミッションの変速段を挙げることができ、変速段による共振回転数の違いに基づいて高精度に回転変動抑制条件を設定できる。
【0035】
請求項14に記載の内燃機関制御装置では、請求項12又は13において、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記駆動系出力伝達状態検出手段にて検出される出力伝達状態が、デュアルマスフライホイールの共振回転数に近づき易い状態であるほど早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように前記回転変動抑制条件を調節することを特徴とする。
【0036】
このように出力伝達状態が共振回転数に近づき易い状態であるほど早期に回転変動抑制条件が満足されるように回転変動抑制条件を調節している。このことは、逆に出力伝達状態が共振回転数に近づき難い状態であるほど遅く回転変動抑制条件が満足されるように回転変動抑制条件を調節することになる。このようにすることで、共振防止処理の実行を適切なタイミングとすることができ、強い共振やエンストが生じるのを防止できる。
【0037】
請求項15に記載の内燃機関制御装置では、請求項12〜14のいずれか一項において、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記駆動系出力伝達状態検出手段にて検出される出力伝達状態に対応するデュアルマスフライホイールの共振回転数に応じて前記回転変動抑制条件を調節することを特徴とする。
【0038】
より具体的には、出力伝達状態に対応するデュアルマスフライホイールの共振回転数に応じて回転変動抑制条件を調節することにより、実際に強い共振が生じる状態を、より正確に判定でき、強い共振が生じる前に確実に対処させることができる。
【0039】
請求項16に記載の内燃機関制御装置では、請求項15において、前記内燃機関回転状態検出手段は、内燃機関平均回転数を前記回転状態として検出し、前記回転変動抑制手段は、内燃機関平均回転数上に設けた基準値よりも実際の内燃機関平均回転数が低い条件を前記回転変動抑制条件とし、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記駆動系出力伝達状態検出手段にて検出される出力伝達状態に対応する前記共振回転数が高いほど前記基準値を大きくすることにより早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように調節することを特徴とする。
【0040】
共振回転数が高いと、実際の内燃機関の回転数は共振回転数に到達し易くなる。したがって共振回転数が高いほど、すなわち共振回転数に近づき易いほど基準値を大きくすることにより、早期に回転変動抑制条件が満足されるようにしている。逆に共振回転数が低いほど、すなわち共振回転数に近づき難いほど基準値を小さくすることにより、回転変動抑制条件が満足されるのを遅くしている。
【0041】
このことにより共振防止処理の実行を適切なタイミングとすることができ、強い共振やエンストが生じるのを防止できる。
請求項17に記載の内燃機関制御装置では、請求項15において、前記内燃機関回転状態検出手段は、内燃機関回転変動を前記回転状態として検出し、前記回転変動抑制手段は、内燃機関回転数変動量上に設けた基準値よりも実際の内燃機関回転数変動量が大きい条件を前記回転変動抑制条件とし、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記駆動系出力伝達状態検出手段にて検出される出力伝達状態に対応する前記共振回転数が高いほど前記基準値を小さくすることにより早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように調節することを特徴とする。
【0042】
このように共振回転数が高いと、実際の内燃機関の回転数は共振回転数に到達し易くなる。したがって共振回転数が高いほど、すなわち共振回転数に近づき易いほど基準値を小さくすることにより、早期に回転変動抑制条件が満足されるようにしている。逆に共振回転数が低いほど、すなわち共振回転数に近づき難いほど基準値を大きくすることにより、回転変動抑制条件が満足されるのを遅くしている。
【0043】
このことにより共振防止処理の実行を適切なタイミングとすることができ、強い共振やエンストが生じるのを防止できる。
請求項18に記載の内燃機関制御装置では、請求項17において、前記回転変動抑制手段は、前記回転変動抑制条件と、請求項16に記載の回転変動抑制条件とが共に満足された場合に、内燃機関に対して回転変動を抑制する処理を実行することを特徴とする。
【0044】
すなわち共振回転数が高いほど早期に、実際の内燃機関平均回転数が基準値よりも低くなるように、かつ実際の内燃機関回転数変動量が基準値よりも大きくなるようにしている。逆に共振回転数が低いほど遅く、実際の内燃機関平均回転数が基準値よりも低くなるように、かつ実際の内燃機関回転数変動量が基準値よりも大きくなるようにしている。
【0045】
このことで、実際に強い共振が生じる状態を高精度に判定して、強い共振が生じる前に確実に対処させることができ、更に不要な内燃機関出力低下が生じることが防止できるので、強い共振やエンストを防ぐことができる。
【0046】
請求項19に記載の内燃機関制御装置では、請求項1〜18のいずれか一項において、前記回転変動抑制手段は、内燃機関出力の低減と内燃機関出力変動周波数の変化との一方又は両方を実行することにより、内燃機関に対して回転変動を抑制する処理を実行することを特徴とする。
【0047】
このように内燃機関出力の低減と内燃機関出力変動周波数の変化との一方又は両方を実行することにより、内燃機関の回転変動を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
[実施の形態1]
図1は、本発明が適用された車両走行駆動用内燃機関としてのディーゼルエンジン(以下、エンジンと略す)2、その駆動系及び制御系の概略構成を示すブロック図である。このエンジン2は直列4気筒であり、各気筒には燃焼室内へ直接燃料を噴射する燃料噴射弁4が配置されている。
【0049】
燃料噴射弁4は燃料を所定圧まで蓄圧するコモンレール6と連通し、コモンレール6はエンジン2により回転駆動される燃料ポンプから加圧燃料を供給されている。コモンレール6から各気筒の燃料噴射弁4へ分配される加圧燃料は、燃料噴射弁4に所定の駆動電流が印加されることで燃料噴射弁4が開弁し、その結果、燃料噴射弁4から気筒内へ燃料が噴射される。
【0050】
エンジン2にはインテークマニホールド8が接続されており、インテークマニホールド8の各枝管は、各気筒の燃焼室に対して吸気ポートを介して連通している。インテークマニホールド8は吸気管10に接続されてこの吸気管10から吸気を流入させている。この吸気管10には吸気量を絞るためのディーゼルスロットル弁(以下、「Dスロットル」と称する)12が取り付けられ、このDスロットル12は電動アクチュエータ14により開度調節がなされる。尚、吸気管10の上流側にはインタークーラ、ターボチャージャのコンプレッサ、エアクリーナが配置されている。
【0051】
吸気管10においてDスロットル12の下流側には排気再循環通路(EGR通路)16が開口している。EGR通路16は、その上流側にてエンジン2の排気経路側を流れる排気の一部を導入している。このことにより排気をEGRガスとして、流量調節用のEGR弁18を介して吸気管10に導入している。
【0052】
尚、排気経路側では、排気の流動エネルギーによりターボチャージャのタービンが回転される。このタービンを回転させた排気は排気浄化触媒にて処理されてから排出される。
エンジン2の出力は、プライマリフライホイール20及びセカンダリフライホイール22からなるデュアルマスフライホイール(以下、DMFと略す)24とセカンダリフライホイール22側に設けられたクラッチ26を介して、手動変速機(以下、MTと略す)28側に伝達される。尚、本実施の形態ではMT28は前進6段・後進1段の変速機である。
【0053】
DMF24はプライマリフライホイール20とセカンダリフライホイール22とをバネ24aを介して接続したものである。プライマリフライホイール20とセカンダリフライホイール22とは、それぞれの回転軸20a,22aがベアリング24bを間にして相対回転可能に接続されている。このDMF24によりエンジン2の出力がクランク軸2a側からMT28側へ伝達されると共に、バネ24aの存在によりエンジン2の出力変動が吸収・低減される。したがって通常運転時においては駆動系の捻り振動を抑制し、これに起因する騒音・振動の発生を低減・回避することができる。
【0054】
このようなエンジン2に対してエンジン運転状態を制御するための電子制御ユニット(ECU)30が設けられている。このECU30は、エンジン運転状態やドライバーの要求に応じてエンジン運転状態を制御する制御回路であり、CPU、ROM、RAM、及びバックアップRAM等を備えたマイクロコンピュータを中心として構成されている。
【0055】
ECU30には、クランク軸2aの回転数を検出するクランク軸回転数センサ32、Dスロットル12の開度を検出する開度センサ34、MT28の変速段を検出するシフトセンサ36から信号が入力されている。更に、車速センサ、アクセル開度センサ、ブレーキスイッチ、クラッチスイッチ、吸入空気量センサ、燃料圧力センサ、その他のセンサ・スイッチ類から信号が入力されている。
【0056】
ECU30は、これらの検出データと各種制御演算とにより適切な燃料噴射量、燃料噴射時期、Dスロットル12の開度、EGR弁18の開度等を調節している。尚、必要に応じてドライバーに車両やエンジン2の状態を知らせるための情報は、ダッシュボードに設けられたディスプレイ部38にあるLCDやランプにて表示している。
【0057】
次にECU30にて実行されるDMF共振防止処理を図2のフローチャートに示す。この処理は一定時間周期の割り込みにて繰り返し実行される。尚、個々の処理内容に対応するフローチャート中のステップを「S〜」で表す。
【0058】
本処理が開始されると、まずDMF24の共振防止処理のための前提条件が成立しているか否かが判定される(S102)。この前提条件は、次の3つの条件(1)〜(3)の全てが満足されている場合に成立する。
【0059】
(1)クラッチスイッチがオフ(クラッチ26が係合状態)。
(2)スタータがオフ。
(3)ブレーキスイッチがオン(ブレーキペダルの踏み込みによる制動中)。
【0060】
いずれか1つでも満足されていない場合には(S102でNO)、このまま本処理を出る。以後、前提条件が不成立である限り、ステップS102にてNOと判定されるので、DMF共振防止処理(図2)では実質的な処理はなされない。
【0061】
前提条件が成立すると(S102でYES)、次にエンジン2の平均回転数Nea(rpm)の検出値が読み込まれる(S104)。この平均回転数Neaは図3に示すごとく、エンジン2の回転変動を除いた回転数であり、クランク軸回転数センサ32の検出値を用いて、重み付け平均処理などのフィルタリング処理により、ECU30が別途繰り返し算出している値である。
【0062】
次に回転数変動量ΔNe(rpm)が読み込まれる(S106)。この回転数変動量ΔNeは図3に示したごとく平均回転数Neaと瞬時回転数Neとの差における絶対値のピーク値に相当し、ECU30が別途繰り返し算出している値である。
【0063】
次にMT28における変速段SFTがシフトセンサ36の信号に基づいて検出される(S108)。
次にエンジン回転数減速度Dne(rpm/s)が検出される(S110)。このエンジン回転数減速度Dneは単位時間(ここでは1秒)当たりの平均回転数Neaの減少量である。
【0064】
次に図4に示す回転数基準値設定マップMAPaにより、エンジン回転数減速度Dne及び変速段SFTに基づいて回転数基準値A(内燃機関平均回転数上に設けた基準値に相当)が設定される(S112)。このマップMAPaは変速段が一定の場合にはエンジン回転数減速度Dneが高くなるほど、すなわち平均回転数Neaの低下が急速であるほど、高い回転数値が回転数基準値Aとして設定されることを示している。ただしエンジン回転数減速度Dneが低い側と高い側とにそれぞれ限界(図示下限回転数及び上限回転数)が存在し、一定の回転数に収束している。
【0065】
更に図4に示したごとくマップMAPaは変速段SFTが高速段になるほど大きい回転数値が回転数基準値Aとして設定される。ただし、MT28の機種によってはこのように変速段SFTが高速段ほど回転数基準値Aが大きくなるとは限らず、一部の変速段にて回転数基準値Aが同一となる場合もあり、変速段と回転数基準値Aとの大小関係が逆転する場合もある。これは変速段SFTの違いに対して生じるDMF24の共振回転数の変化に対応させるためである。
【0066】
又、図4ではエンジン回転数減速度Dneが低い側では、回転数基準値Aは変速段SFT毎に異なる下限回転数に収束している。ここでは変速段SFTが高速段であるほど、回転数基準値Aは高い回転数に収束している。一方、エンジン回転数減速度Dneが高い側では、回転数基準値Aは全ての変速段SFTにおいて同一の上限回転数に収束している。
【0067】
図5は、或る変速段(ここでは第4速)での平均回転数Neaと回転数変動量ΔNeとの関係を示したグラフである。ここで回転数Ne1,Ne2,Ne3はそれぞれエンジン回転数減速度Dneに応じてマップMAPaにて設定される回転数基準値Aを表している。回転数Ne1はエンジン回転数減速度Dneが高い側での回転数基準値Aに相当し、回転数Ne2はエンジン回転数減速度Dneが中間での回転数基準値Aに相当し、回転数Ne3はエンジン回転数減速度Dneが低い側での回転数基準値Aに相当する。
【0068】
これらの回転数基準値AがマップMAPaによって設定される範囲はDMF24の共振回転数NeRよりも高い側に離れて設定されている。したがってエンジン回転数減速度Dneが高いほど回転数基準値Aが大きいことから、低下する平均回転数Neaは早期に回転数基準値Aに達する。逆に、エンジン回転数減速度Dneが低いほど回転数基準値Aは小さいことから、エンジン回転数減速度Dneが高い場合よりも遅れて、すなわち平均回転数Neaは十分に低下してから回転数基準値Aに達することになる。
【0069】
図6は変速段の違いによる平均回転数Neaと回転数変動量ΔNeとの関係を示したグラフである。ここで回転数Ne11,Ne12,Ne13はそれぞれ同一回転数変動量ΔNeにて変速段毎の平均回転数Neaの値を示している。このように同一回転数変動量ΔNeであっても、高速段では平均回転数Neaは高い側となり、中速段では平均回転数Neaは中間の値となり、低速段では平均回転数Neaは低い側となる。このためマップMAPaにおいても高速段側では回転数基準値Aを大きくし、中速段では中間とし、低速段側では小さくなるように設定している。
【0070】
このようにMT28が高速段側であるほど回転数基準値Aが大きいため、低下する平均回転数Neaが早期に回転数基準値Aに達し、低速段であるほど回転数基準値Aが小さいため、高速段の場合よりも遅れて、すなわち平均回転数Neaは十分に低下してから回転数基準値Aに達することになる。
【0071】
次に図7に示す回転数変動量基準値設定マップMAPbにより、エンジン回転数減速度Dne及び変速段SFTに基づいて回転数変動量基準値B(内燃機関回転数変動量上に設けた基準値に相当)が設定される(S114)。このマップMAPbは変速段が一定の場合にはエンジン回転数減速度Dneが高くなるほど、すなわち平均回転数Neaの低下が急速であるほど、低い回転数変動量が回転数変動量基準値Bとして設定されることを示している。ただしエンジン回転数減速度Dneが低い側と高い側とにそれぞれ限界(図示下限回転数及び上限回転数)が存在し、一定の回転数変動量に収束している。
【0072】
更に図7に示したごとくマップMAPbは変速段SFTが高速段になるほど小さい回転数変動量が回転数変動量基準値Bとして設定される。ただしMT28の機種によってはこのように変速段SFTが高速段ほど回転数変動量基準値Bが小さくなるとは限らず、一部の変速段にて回転数変動量基準値Bが同一となる場合もあり、変速段と回転数変動量基準値Bとの大小関係が逆転する場合もある。これは変速段SFTの違いに対して生じるDMF24の共振回転数の変化に対応させるためである。
【0073】
尚、図7ではエンジン回転数減速度Dneが低い側でも高い側でも、全ての変速段SFTにおいて回転数変動量基準値Bは同一の回転数変動量に収束している。
図5に示したごとく、回転数変動量ΔNe1はエンジン回転数減速度Dneが高い側での回転数変動量基準値Bに相当し、回転数変動量ΔNe2はエンジン回転数減速度Dneが中間での回転数変動量基準値Bに相当し、回転数変動量ΔNe3はエンジン回転数減速度Dneが低い側での回転数変動量基準値Bに相当する。これらの回転数変動量基準値BがマップMAPbによって設定される範囲は共振時の回転数変動量ΔNeRよりも低い側に離れて設定されている。
【0074】
したがってエンジン回転数減速度Dneが高いほど回転数変動量基準値Bが小さいため、増加する回転数変動量ΔNeは早期に回転数変動量基準値Bに達する。逆に、エンジン回転数減速度Dneが低いほど回転数変動量基準値Bは大きいため、エンジン回転数減速度Dneが高い場合よりも遅れて、すなわち回転数変動量ΔNeは或る程度増加してから回転数変動量基準値Bに達することになる。
【0075】
図6にて説明したごとく変速段の違いによりDMF24の共振回転数NeR1,NeR2,NeR3はずれる。同一平均回転数Neaであっても、高速段では回転数変動量ΔNeは急速な上昇領域となり、中速段では中間の上昇領域となり、低速段では急速でない上昇領域となる。このためマップMAPbにおいても高速段側では回転数変動量基準値Bを小さくし、中速段では中間とし、低速段側では大きくなるように設定している。
【0076】
したがってMT28が高速段側であるほど回転数変動量基準値Bが小さいため、平均回転数Neaの低下に応じて上昇する回転数変動量ΔNeが早期に回転数変動量基準値Bに達する。低速段側では低速段であるほど回転数変動量基準値Bが大きいため、回転数変動量ΔNeが或る程度上昇しても回転数変動量基準値Bに達するまでに変動抑制処理の余裕が存在する。
【0077】
このようにして回転数基準値Aと回転数変動量基準値Bとが設定されると、次に実際の平均回転数Neaが回転数基準値Aより小さいか否かが判定される(S116)。ここでNea≧Aであれば(S116でNO)、このまま本処理を出る。
【0078】
Nea<Aであれば(S116でYES)、次に回転数変動量ΔNeが回転数変動量基準値Bより大きいか否かが判定される(S118)。ここでΔNe≦Bであれば(S118でNO)、このまま本処理を出る。
【0079】
ΔNe>Bであれば(S118でYES)、次に回転変動抑制処理(S120)が実行される。
すなわち、「Nea<A」と「ΔNe>B」との2つの論理積条件からなる回転変動抑制条件を満足した場合に、回転変動抑制処理(S120)が実行されることになる。
【0080】
回転変動抑制処理(S120)としては、例えば次のごとくの処理が単独あるいは組み合わされて実行される。
(1).エンジン2の気筒間にて、燃料噴射弁4による燃料噴射時期の差と燃料噴射量の差との一方又は両方を生じさせることで、エンジン2がクランク角変化において発生する出力変動の周波数を変化させる。このことにより平均回転数NeaをDMF24の共振回転数から離す。
【0081】
(2).Dスロットル12の開度を低下させることにより、エンジン2の吸気量を減少させる。このことによりエンジン出力を低減させる。
(3).燃料噴射弁4からの燃料噴射量を低減させる。このことによりエンジン出力を低減させる。
【0082】
(4).燃料噴射弁4からの燃料噴射時期を遅角させる。このことによりエンジン出力を低減させる。
これらの処理の単独あるいは組み合わせによる回転変動抑制処理(S120)の実行により共振による過大なトルクショックを防止する。
【0083】
上述した構成において、請求項との関係は、ECU30が内燃機関回転状態検出手段、回転変動抑制手段、及び回転変動抑制条件調節手段に相当し、シフトセンサ36が駆動系出力伝達状態検出手段に相当する。ECU30が実行するクランク軸回転数センサ32の検出値に基づいて平均回転数Nea及び回転数変動量ΔNeを求める処理が内燃機関回転状態検出手段としての処理に相当する。ECU30が実行するステップ116,S118,S120の処理が回転変動抑制手段としての処理に相当する。マップMAPa,MAPbにより回転数基準値A及び回転数変動量基準値Bを設定するステップS112,S114の処理が回転変動抑制条件調節手段としての処理に相当する。
【0084】
以上説明した本実施の形態1によれば、以下の効果が得られる。
(イ).ECU30が実行するDMF共振防止処理(図2)では、回転数基準値A及び回転数変動量基準値Bを設定し(S112,S114)、これらの基準値A,Bと、平均回転数Nea及び回転数変動量ΔNeとの比較により、エンジン回転が共振回転数へ接近している状態を判定している(S116,S118)。共振回転数に接近している場合には(S116,S118で共にYES)、回転変動抑制処理(S120)を実行し、強い共振やエンストが生じるのを防止している。
【0085】
回転数基準値A及び回転数変動量基準値Bの値は、マップMAPa,MAPb(図4,7)を用いることで、エンジン2の運転状態及び駆動系の出力伝達状態に応じて調節されている(S112,S114)。この調節は、エンジン2の運転状態として平均回転数Neaを算出して、この平均回転数Neaの減速度(エンジン回転数減速度Dne)が高いほど、回転数基準値Aについては、図4に示したごとく共振防止のための下限回転数と誤判定防止のための上限回転数との間で次第に大きくなるように設定している。回転数変動量基準値Bについては、図7に示したごとく共振防止のための上限回転数変動量と誤判定防止のための下限回転数変動量との間で次第に小さくなるように設定している。
【0086】
このことにより、変速段を一定として(ここでは第2速として)、走行状態の車両を停止させた場合、その停止の過程にて生じる瞬時回転数Neの推移(a)、回転数変動量の推移(b)、車両加速度gの推移(c)、及びクランク軸2aのトルク変動Nmの推移(d)を図8に示す。
【0087】
尚、比較として、固定された回転数基準値A及び回転数変動量基準値Bを用いることにより回転変動抑制処理(S120)の実行が適切なタイミングよりも遅れた場合を図9に示す。図9では図8と同じく瞬時回転数Neの推移(a)、回転数変動量の推移(b)、車両加速度gの推移(c)、及びクランク軸2aのトルク変動Nmの推移(d)を示しているが、いずれも大きい上下振動を生じ、強い共振を発生させていることが判る。これに比較して、本実施の形態による図8の場合には、最終的にエンジン停止に至っても、大きな上下振動は生じることがなく、強い共振を防止できていることが判る。
【0088】
したがって比較例(図9)の場合には強い共振が生じたタイミングtesでエンストが生じてしまうが、本実施の形態(図8)では回転数基準値A及び回転数変動量基準値Bがエンジン回転数減速度Dneに応じた値に調節されることにより早期に回転変動抑制処理(S120)が実行されている。このため平均回転数Neaが図9のタイミングtesと同様なレベルに低下しても、エンストは生じることなく、それ以後は、ドライバーの意志によりエンジン運転を継続させることができる。
【0089】
(ロ).更に変速段SFTに応じて、回転数基準値A及び回転数変動量基準値Bの調節状態が変更されることにより、図10に示すごとく、いずれの変速段(○,●,◎)においてもDMF24での衝撃トルクNmは、比較例(□:回転数基準値A及び回転数変動量基準値Bが固定)の場合よりも十分に低くすることができる。
【0090】
もしマップMAPa,MAPbが、エンジン回転数減速度Dneに応じて基準値A,Bを設定しているものであるが、変速段については第2速に固定されたものである場合には、第2速又はこれに近い変速段については衝撃を低減する効果が存在するが、例えば第6速については、図10に符号Zにて示すごとく衝撃トルクは十分に小さくならない。このため変速段SFTに対応させずに基準値A,Bを第6速まで衝撃トルクを低減させるには、第6速あるいは第6速に近い変速段に対応したマップMAPa,MAPbとすれば良い。ただしこのように第6速あるいは第6速に近い変速段に対応させると、実際に第2速でのエンジン減速時には、共振回転数到達までに余裕があるにもかかわらず、図2のステップS116,S118にて共にYESと判定されて回転変動抑制処理(S120)が実行されてしまう。このため不要なエンジン出力低下によりエンストが生じるおそれがある。
【0091】
しかし本実施の形態ではマップMAPa,MAPbがエンジン回転数減速度Dneと共に変速段SFTも考慮していることから、このような不要なエンジン出力低下によるエンストを防止することができる。
【0092】
(ハ).(ロ)に述べたごとく発生する衝撃トルクは常に低い状態に抑制できるので、DMF24に与える衝撃トルクをマイナー則における疲労限界トルクより下に維持することが可能となる。このためDMF24の寿命を長大化して、保証期間を十分に長期なものとすることができる。
【0093】
[実施の形態2]
本実施の形態では、DMF共振防止処理として図11に示すごとくの処理がなされる。内燃機関制御装置としての構成は前記図1に示したごとくである。
【0094】
図11において、ステップS202,S204,S206,S210,S216,S218,S220は、図2におけるステップS102,S104,S106,S110,S116,S118,S120と同じ処理である。
【0095】
異なる処理は、ステップS108が存在しないことと、ステップS212にては図12に示すマップMAPadによりエンジン回転数減速度Dneのみに基づいて回転数基準値Aが設定され、ステップS214にては図13に示すマップMAPbdによりエンジン回転数減速度Dneのみに基づいて回転数変動量基準値Bが設定されている点である。これらマップMAPad,MAPbdは、例えば図4,7に示したマップMAPa,MAPbにおける第6速の場合のエンジン回転数減速度Dneと基準値A,Bとの関係、あるいはこの第6速に近い変速段での関係に設定されている。
【0096】
上述した構成において、請求項との関係は、ECU30が実行するステップ216,S218,S220の処理が回転変動抑制手段としての処理に相当する。マップMAPad,MAPbdにより回転数基準値A及び回転数変動量基準値Bを設定するステップS212,S214の処理が回転変動抑制条件調節手段としての処理に相当する。
【0097】
以上説明した本実施の形態2によれば、以下の効果が得られる。
(イ).変速段SFTへの対応以外の点について、前記実施の形態1の(イ)及び(ハ)の効果を生じさせることができる。
【0098】
[実施の形態3]
本実施の形態では、DMF共振防止処理として図14に示すごとくの処理がなされる。内燃機関制御装置としての構成は前記図1に示したごとくである。
【0099】
図14において、ステップS302,S304,S306,S308,S316,S318,S320は、図2におけるステップS102,S104,S106,S108,S116,S118,S120と同じ処理である。
【0100】
異なる処理は、ステップS110が存在しないことと、ステップS312では図15に示すマップMAPasにより変速段SFTのみに基づいて回転数基準値Aが設定され、ステップS314では図16に示すマップMAPbsにより変速段SFTのみに基づいて回転数変動量基準値Bが設定されている点である。マップMAPas(図15)は変速段SFTが高くなるほど、本実施の形態のMT28では共振回転数が高くなり共振回転数に近づき易い状態となる。したがって、このことに対応させて早期に回転変動抑制条件の内のステップS316の条件が満足されるように回転数基準値Aを大きくしている。
【0101】
マップMAPbs(図16)は、同様に変速段SFTが高くなるほど共振回転数が高くなり共振回転数に近づき易い状態となるので、このことに対応させて早期に回転変動抑制条件の内のステップS318の条件が満足されるように回転数変動量基準値Bを小さくしている。
【0102】
上述した構成において、請求項との関係は、ECU30が実行するステップ316,S318,S320の処理が回転変動抑制手段としての処理に相当する。マップMAPas,MAPbsにより回転数基準値A及び回転数変動量基準値Bを設定するステップS312,S314の処理が回転変動抑制条件調節手段としての処理に相当する。
【0103】
以上説明した本実施の形態3によれば、以下の効果が得られる。
(イ).ECU30が実行するDMF共振防止処理(図14)では、回転数基準値A及び回転数変動量基準値Bを設定し(S312,S314)、これらの基準値A,Bと、平均回転数Nea及び回転数変動量ΔNeとの比較により、エンジン回転が共振回転数へ接近している状態を判定している(S316,S318)。共振回転数に接近している場合には(S316,S318で共にYES)、回転変動抑制処理(S320)を実行し、強い共振やエンストが生じるのを防止している。
【0104】
回転数基準値A及び回転数変動量基準値Bの値は、マップMAPas,MAPbs(図15,16)を用いることで、駆動系の出力伝達状態に応じて調節されている(S312,S314)。この調節は、回転数基準値Aについては、図15に示したごとく変速段SFTによる共振回転数変化に対応させて変速段SFTが高いほど次第に大きくなるように設定している。回転数変動量基準値Bについては、図16に示したごとく変速段SFTによる共振回転数変化に対応させて変速段SFTが高いほど次第に小さくなるように設定している。
【0105】
このように基準値A,BはMT28によるエンジン2から駆動系への出力伝達状態に応じて調節されている。この調節により、共振回転数への接近状態を正確に判断できるようになり、共振防止処理としての回転変動抑制処理(S320)を適切なタイミングで実行することが可能となり、強い共振やエンストが生じるのを防止できるようになる。
【0106】
[その他の実施の形態]
(a).前記実施の形態1,2では、クランク軸2aの回転状態(エンジン回転数減速度Dne)を用いて基準値A,Bを求め、クランク軸2aの回転状態(平均回転数Neaや回転数変動量ΔNe)を基準値A,Bと比較することにより回転変動抑制処理(S120,S220)の実行有無を判定していた。この代わりにMT28の出力軸にて車速センサが検出する車速から得られる車両減速度を、クランク軸2aの回転状態に対応する値として求めても良い。この車両減速度を、エンジン回転数減速度Dneの代わりに用いて基準値A,Bを求め、平均回転数Neaや回転数変動量ΔNeと比較することにより回転変動抑制処理(S120,S220)の実行有無を判定しても良い。
【0107】
(b).前記各実施の形態では、回転数基準値Aと回転数変動量基準値Bとをそれぞれ用いて、平均回転数Neaと回転数変動量ΔNeと比較したが、回転数基準値Aを平均回転数Neaと比較したのみで回転変動抑制処理(S120,S220,S320)の実行有無を判断しても良い。あるいは回転数変動量基準値Bを回転数変動量ΔNeと比較したのみで回転変動抑制処理(S120,S220,S320)の実行有無を判断しても良い。
【0108】
(c).前記各実施の形態において行われる回転変動抑制処理(ステップS120,S220,S320)としては、前述したごとく(1)〜(4)の各処理の組み合わせ、あるいは各処理単独にて実行が可能であるが、例えば(1)〜(4)の各処理を組み合わせて実行する場合も回転変動抑制条件を(1)〜(4)の各処理毎に変更しても良い。すなわち前記マップMAPa,MAPb,MAPad,MAPbd,MAPas,MAPbs(図4,7,12,13,15,16)を、(1)〜(4)の各処理毎に異なるマップとしても回転変動抑制条件を設定しても良い。
【0109】
(d).クランク軸回転加速度のピーク値は回転数変動の大きさに連動していることから、図3に示したごとく回転数変動量ΔNeを直接的にクランク軸回転数振動の振幅を捉えずに、クランク軸2aにおける回転加速度ピーク値を捉えて、回転数変動量ΔNeとして用いても良い。
【0110】
又、クランク軸回転数変動は、クランク軸2aの仕事量の変動にも対応することから、クランク軸2aの仕事量変動を計算することにより、この仕事量変動のピークを回転数変動量ΔNeとして用いても良い。すなわち、この仕事量変動のピーク値を用いて各DMF共振防止処理(図2,11,14)を実行することになる。エンジン回転数の時間変化を自乗した値が仕事量に対応するので、このエンジン回転数の時間変化を自乗した値を用いて共振状態を判定すれば良い。
【0111】
(e).上記各実施の形態はディーゼルエンジンであったがガソリンエンジンにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】実施の形態1の車両走行駆動用内燃機関の駆動系及び制御系の概略構成を示すブロック図。
【図2】実施の形態1のECUが実行するDMF共振防止処理のフローチャート。
【図3】平均回転数Nea、回転数変動量ΔNe及びエンジン回転数減速度Dneの関係を示すタイミングチャート。
【図4】実施の形態1のDMF共振防止処理にて用いる回転数基準値設定マップMAPaの構成説明図。
【図5】ディーゼルエンジンにおける平均回転数Neaと回転数変動量ΔNeとの関係を示すグラフ。
【図6】変速段の違いによる平均回転数Neaと回転数変動量ΔNeとの関係の違いを示すグラフ。
【図7】実施の形態1のDMF共振防止処理にて用いる回転数変動量基準値設定マップMAPbの構成説明図。
【図8】実施の形態1の効果を示すエンジン回転数低下時のタイミングチャート。
【図9】比較例でのエンジン回転数低下時のタイミングチャート。
【図10】実施の形態1の変速段毎の効果を示すグラフ。
【図11】実施の形態2のECUが実行するDMF共振防止処理のフローチャート。
【図12】実施の形態2のDMF共振防止処理にて用いる回転数基準値設定マップMAPadの構成説明図。
【図13】実施の形態2のDMF共振防止処理にて用いる回転数変動量基準値設定マップMAPbdの構成説明図。
【図14】実施の形態3のECUが実行するDMF共振防止処理のフローチャート。
【図15】実施の形態3のDMF共振防止処理にて用いる回転数基準値設定マップMAPasの構成説明図。
【図16】実施の形態3のDMF共振防止処理にて用いる回転数変動量基準値設定マップMAPbsの構成説明図。
【符号の説明】
【0113】
2…エンジン、2a…クランク軸、4…燃料噴射弁、6…コモンレール、8…インテークマニホールド、10…吸気管、12…Dスロットル(ディーゼルスロットル弁)、14…電動アクチュエータ、16…EGR通路、18…EGR弁、20…プライマリフライホイール、20a…回転軸、22…セカンダリフライホイール、22a…回転軸、24…DMF(デュアルマスフライホイール)、24a…バネ、24b…ベアリング、26…クラッチ、28…MT(手動変速機)、30…ECU(電子制御ユニット)、32…クランク軸回転数センサ、34…開度センサ、36…シフトセンサ、38…ディスプレイ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デュアルマスフライホイールを介して駆動系へ出力を伝達する内燃機関の制御装置であって、
内燃機関の回転状態を検出する内燃機関回転状態検出手段と、
前記内燃機関回転状態検出手段にて検出される回転状態が、回転変動抑制条件を満足した場合には、内燃機関に対して回転変動を抑制する処理を実行する回転変動抑制手段と、
前記回転変動抑制条件を内燃機関の運転状態に応じて調節する回転変動抑制条件調節手段と、
を備えたことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記内燃機関回転状態検出手段にて検出される回転状態が、デュアルマスフライホイールの共振回転数に近づき易い状態であるほど早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように前記回転変動抑制条件を調節することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記内燃機関回転状態検出手段は、内燃機関平均回転数を前記回転状態として検出し、前記回転変動抑制手段は、内燃機関平均回転数上に設けた基準値よりも実際の内燃機関平均回転数が低い条件を前記回転変動抑制条件とし、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記内燃機関回転状態検出手段にて検出される内燃機関平均回転数の減速度が高いほど早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように前記基準値を調節することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項4】
請求項3において、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記内燃機関回転状態検出手段にて検出される内燃機関平均回転数の減速度が高いほど前記基準値を大きくすることにより早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように調節することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項5】
請求項1又は2において、前記内燃機関回転状態検出手段は、内燃機関回転変動と内燃機関平均回転数とを前記回転状態として検出し、前記回転変動抑制手段は、内燃機関回転数変動量上に設けた基準値よりも実際の内燃機関回転数変動量が大きい条件を前記回転変動抑制条件とし、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記内燃機関回転状態検出手段にて検出される内燃機関平均回転数の減速度が高いほど早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように前記基準値を調節することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項6】
請求項5において、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記内燃機関回転状態検出手段にて検出される内燃機関平均回転数の減速度が高いほど前記基準値を小さくすることにより早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように調節することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項7】
請求項5又は6において、前記回転変動抑制手段は、前記回転変動抑制条件と、請求項3又は4に記載の回転変動抑制条件とが共に満足された場合に、内燃機関に対して回転変動を抑制する処理を実行することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項において、内燃機関は車両走行駆動用であり、前記内燃機関回転状態検出手段は、車両減速度を内燃機関の回転状態として検出していることを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項において、前記駆動系の出力伝達状態を検出する駆動系出力伝達状態検出手段を備え、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記駆動系出力伝達状態検出手段により検出される出力伝達状態に応じて、前記回転変動抑制条件の調節状態を変更することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項10】
請求項9において、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記駆動系出力伝達状態検出手段により検出される出力伝達状態に対応して変化するデュアルマスフライホイールの共振回転数に応じて前記回転変動抑制条件の調節状態を変更することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項11】
請求項9又は10において、前記駆動系はトランスミッションを含み、前記駆動系出力伝達状態検出手段は前記トランスミッションの変速段を前記駆動系の出力伝達状態として検出することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項12】
デュアルマスフライホイールを介して駆動系へ出力を伝達する内燃機関の制御装置であって、
前記駆動系の出力伝達状態を検出する駆動系出力伝達状態検出手段と、
内燃機関の回転状態を検出する内燃機関回転状態検出手段と、
前記内燃機関回転状態検出手段にて検出される回転状態が、回転変動抑制条件を満足した場合には、内燃機関に対して回転変動を抑制する処理を実行する回転変動抑制手段と、
前記駆動系出力伝達状態検出手段にて検出される出力伝達状態に応じて前記回転変動抑制条件を調節する回転変動抑制条件調節手段と、
を備えたことを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項13】
請求項12において、前記駆動系はトランスミッションを含み、前記駆動系出力伝達状態検出手段は前記トランスミッションの変速段を前記駆動系の出力伝達状態として検出することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項14】
請求項12又は13において、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記駆動系出力伝達状態検出手段にて検出される出力伝達状態が、デュアルマスフライホイールの共振回転数に近づき易い状態であるほど早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように前記回転変動抑制条件を調節することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれか一項において、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記駆動系出力伝達状態検出手段にて検出される出力伝達状態に対応するデュアルマスフライホイールの共振回転数に応じて前記回転変動抑制条件を調節することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項16】
請求項15において、前記内燃機関回転状態検出手段は、内燃機関平均回転数を前記回転状態として検出し、前記回転変動抑制手段は、内燃機関平均回転数上に設けた基準値よりも実際の内燃機関平均回転数が低い条件を前記回転変動抑制条件とし、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記駆動系出力伝達状態検出手段にて検出される出力伝達状態に対応する前記共振回転数が高いほど前記基準値を大きくすることにより早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように調節することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項17】
請求項15において、前記内燃機関回転状態検出手段は、内燃機関回転変動を前記回転状態として検出し、前記回転変動抑制手段は、内燃機関回転数変動量上に設けた基準値よりも実際の内燃機関回転数変動量が大きい条件を前記回転変動抑制条件とし、前記回転変動抑制条件調節手段は、前記駆動系出力伝達状態検出手段にて検出される出力伝達状態に対応する前記共振回転数が高いほど前記基準値を小さくすることにより早期に前記回転変動抑制条件が満足されるように調節することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項18】
請求項17において、前記回転変動抑制手段は、前記回転変動抑制条件と、請求項16に記載の回転変動抑制条件とが共に満足された場合に、内燃機関に対して回転変動を抑制する処理を実行することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項において、前記回転変動抑制手段は、内燃機関出力の低減と内燃機関出力変動周波数の変化との一方又は両方を実行することにより、内燃機関に対して回転変動を抑制する処理を実行することを特徴とする内燃機関制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−37988(P2010−37988A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199930(P2008−199930)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】