説明

内燃機関用ピストンのオイル供給装置

【課題】ピストンの摺動抵抗の低減とオイル消費量の低減とを両立し、潤滑性能と冷却性能を高めるオイル供給装置を提供する。
【解決手段】ピストン10のオイル供給装置1において、ピストン10は、ピンボス部13の吸気側端部からそれら端部に対向する吸気側スカート部12の方へ膨出させた1対の膨出部13と、これら膨出部13の下端に夫々開口した1対のオイル導入穴18と、これらオイル導入穴18とオイルリング溝17とセカンドリング溝16の間のランド部14とを連通する給油路19a〜19cを有し、オイル導入穴18の開口部18aに対して潤滑用オイルを噴射する第1オイル噴射ノズル22と、排気側スカート部12側のピストンクラウン部11の裏面11bに対して冷却用オイルを噴射する第2オイル噴射ノズル32と、ピストン10が上昇過程のときのみ、オイル導入穴18の開口部18aに対して潤滑用オイルを供給可能なバッフル部材7を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダボア内を往復動する内燃機関用ピストンのオイル供給装置に関し、特にピストンに対して潤滑用オイルを噴射するオイル噴射ノズルと冷却用オイルを噴射するオイル噴射ノズルを備えた内燃機関用ピストンのオイル供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関(以下、エンジンと記す)のピストンには、燃焼ガスの爆発ガス圧を受ける頂部と周囲にピストンリング溝を設けたランド部から形成されるピストンクラウン部と、ピストンピンを介してコネクティングロッドの小端部に連結されるピンボス部と、ピストンの往復動をガイドするスカート部が形成されている。特に、ピストンクラウン部の頂部は高温の燃焼ガスに曝されるため、ピストンクラウン部の裏面に対して冷却用オイルを噴射するオイルジェットを設け、ピストンを冷却している。
【0003】
通常、ピストンの複数のランド部同士間には、トップリングとセカンドリングを夫々装着する2つのコンプレッションリング溝とオイルリングを装着するオイルリング溝が形成されている。オイルリングは、ピストンが上昇(上死点側へ移動)するとき、オイルを持ち上げシリンダボアの内周面にオイル油膜を形成し、ピストンが下降(下死点側へ移動)するとき、潤滑に必要なオイル油膜を残しながら余分なオイルを掻き落とす機能を有している。それ故、オイルの掻き落としが不十分な場合、セカンドリング溝とオイルリング溝との間のランド部にオイルが滞留し、この滞留したオイルが燃焼室へ侵入するため、オイル消費量増加の原因になっていた。
【0004】
特許文献1に記載されたエンジンの潤滑装置は、ピストンのセカンドリング溝とオイルリング溝との間のランド部に径方向へ貫通してランド部外周とピストン内方を連通する複数の連通路と、ピストンクラウン部の裏面側にオイルジェットから噴射されたオイルを導入可能な開口部を有し且つ複数の連通路のピストン内方側開口に連通するオイル溜め部と、オイルジェットから噴射されたオイルをピストン上昇時に開口部へ誘導し、ピントン下降時に開口部への導入を制限するオイル誘導制限部を備えている。このエンジンの潤滑装置は、ピストン上昇時にオイルジェットから噴射されたオイルがオイル溜め部に導入し、ピストン下降時にオイルジェットから噴射されたオイルがオイル溜め部に入ることを制限するため、オイルリングの上方空間に滞留するオイル量を適切に調整し、摺動抵抗の低減とオイル消費量の低減を両立している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−84576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のエンジンの潤滑装置は、ピストン部の裏面にオイル誘導斜面とオイル制限斜面を備えたピストン側凸部を設け、コネクティングロッドの小端部にコンロッド側凸部を設けることにより、ピントン上昇時にはコンロッド側凸部がオイルをオイル誘導斜面側へ誘導し、ピントン下降時にはコンロッド側凸部がオイルをオイル制限斜面側へ誘導している。しかし、潤滑用オイルをセカンドリング溝とオイルリング溝との間のランド部に供給するとき、コンロッド側凸部とオイル誘導斜面にオイルを衝突させてオイルの進行方向を強制的に変更し、一旦オイル溜め部に貯留した後、貯留されたオイルをランド部へ供給するような潤滑用オイル径路であるため、供給される潤滑用オイルの油圧損失が大きく、前記ランド部に十分なオイル量を供給できない虞がある。しかも、特許文献1の潤滑用オイル径路では、ピストン構造やコンロッド構造等の構造の複雑化を招き、ピストンの製造コストが高価になるという虞もある。
【0007】
また、ピストンの冷却性能を向上する場合、前記エンジンの潤滑装置と冷却用オイルを噴射するオイルジェットを併用することも考えられる。しかし、オイルジェットから噴射された冷却用オイルをピストンの一端部側から他端部側に亙ってピストンクラウン部の裏面全域に安定的に流す必要があるものの、前記エンジンの潤滑装置には冷却用オイル径路の途中にオイル溜め部の開口部やピストン側凸部等の障害物が存在し、これらの障害物が冷却用オイルの流れを阻害するため、ピストンの冷却性能を十分に確保できない虞がある。
【0008】
本発明の目的は、ピストンの摺動抵抗の低減とオイル消費量の低減とを両立でき、ピストン構造を簡単化しつつピストンの潤滑性能と冷却性能を高めることができる内燃機関用ピストンのオイル供給装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の内燃機関用ピストンのオイル供給装置は、ピストンクラウン部と、このピストンクラウン部の裏面に形成され且つコネクティングロッド及びピストンピンを介してクランク軸に連結される1対のピンボス部と、前記ピストンクラウン部から下方へ延びる1対のスカート部を備え、シリンダボア内を往復動する内燃機関用ピストンのオイル供給装置において、前記ピストンは、一方のスカート部側において前記1対のピンボス部のピン軸直交方向の一方側端部からそれら端部に対向する前記一方のスカート部の方へ膨出させた1対の膨出部と、これら1対の膨出部の下端に夫々開口し且つ上方へ凹入した1対のオイル導入穴と、これらオイル導入穴と前記ピストンクラウン部のオイルリング溝とコンプレッションリング溝の間の周面とを連通する複数の給油路を有し、前記1対のオイル導入穴の開口に対して潤滑用オイルを噴射する第1オイル噴射ノズルと、他方のスカート部側のピストンクラウン部の裏面に対して冷却用オイルを噴射する第2オイル噴射ノズルと、前記ピストンが上昇過程のときのみ、前記1対のオイル導入穴の開口に対してオイルを供給するオイル間欠供給手段とを設けたことを特徴としている。
【0010】
この内燃機関用ピストンのオイル供給装置では、ピストンが上昇過程のときのみ、第1オイル噴射ノズルから噴射された潤滑用オイルがオイル導入穴に導入される。この潤滑用オイルは、複数の給油路を経てオイルリング溝とコンプレッションリング溝の間の周面に相当するランド部へ供給され、シリンダボア面のオイル油膜形成に寄与する。ピストンが下降過程のとき、潤滑用オイルはオイル導入穴への導入が規制されるため、前記ランド部に供給されない。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記複数の給油路は前記オイル導入穴の頂部に連通し且つピストン軸心直交方向へ延びることを特徴としている。
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記第1オイル噴射ノズルを平面視にて吸気側位置に配置し、前記第2オイル噴射ノズルを平面視にて排気側位置に配置したことを特徴としている。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1〜3の何れか1項の発明において、前記オイル間欠供給手段は、前記第1オイル噴射ノズルとオイル導入穴の開口との間に位置する前記コネクティングロッドの側部に設けられ、前記ピストンが下降過程のとき、前記第1オイル噴射ノズルから噴射されたオイルの進路を遮断可能なオイル供給遮断手段であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、潤滑用オイルが、ピストンが上昇過程のときのみ、オイルリングの先行域に対応したランド部に供給されるため、ピストンの摺動抵抗の低減とオイル消費量の低減を両立できる。また、1対のピンボス部を利用してオイル導入穴を形成し、オイル導入穴から前記ランド部へ連なる給油路を設けたため、ピストン構造を簡単化でき、潤滑用オイルの油圧損失を生じることなくピストンの潤滑性能を増すことができる。しかも、1対のピンボス部に形成された膨出部により冷却用オイルが流れる径路を形成したため、冷却用オイルの流れを阻害することなくピストンクラウン部の裏面を流動する冷却用オイルを誘導することができ、一方のスカート側から他方のスカート側に亙ってピストンクラウン部の裏面に冷却用オイルを供給することができ、ピストンの冷却性能を増すことができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、オイル導入穴に噴射された第1オイル噴射ノズルからの潤滑用オイルの油圧損失を最小に抑え、ランド部への給油能率を向上できる。
請求項3の発明によれば、吸気側部分に比べて熱負荷が高いピストンの排気側部分を先行冷却でき、第1オイル噴射ノズルのレイアウトの自由度を増すことができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、コネクティングロッドの作動軌跡を利用して、オイル間欠供給手段を簡単な構成で形成でき、ピストンが上昇過程のときのみオイル導入穴への潤滑用オイルの導入を許容し、ピストンが下降過程のときオイル導入穴への潤滑用オイルの導入を制限することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1に係るピストンのオイル供給装置の全体構成図である。
【図2】ピストンと第1,第2オイル噴射装置を下方から視た図である。
【図3】ピストンとコネクティングロッドの組み立て図である。
【図4】ピストンの側面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】図4のVI−VI線断面図である。
【図7】ピストンの縦断面図である。
【図8】クランク角が90°のときのオイル供給装置を示す図である。
【図9】クランク角が270°のときのオイル供給装置を示す図である。
【図10】従来のオイル供給装置と実施例1のオイル供給装置のピストンリング抵抗値を比較したグラフである。
【図11】実施例2に係るピストンのオイル供給装置の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。尚、以下、図における上下方向を上下方向とし、エンジンの吸気側を前方、排気側を後方として説明する。
【実施例1】
【0018】
以下、本発明の実施例1について図1〜図10に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施例のオイル供給装置1は、車両の多気筒エンジン、例えば横置き直列4気筒ガソリンレシプロエンジンEのピストン10に対して潤滑用オイルと冷却用オイルを供給するものである。
【0019】
エンジンEは、シリンダヘッド(図示略)と、シリンダブロック2と、オイルパン9(図11参照)等を備えている。シリンダヘッドには、吸気側カム軸(図示略)と排気側カム軸(図示略)が回転自在に枢支されている。これら両カム軸にはクランク軸3から回転駆動力が伝達され、夫々のカム軸に連動連結された吸排気バルブ(図示略)が往復動される。エンジンEは、吸気側カム軸が車両の進行方向前方になるよう自動車のエンジンルームに搭載され、上方程後側へ傾斜する後方スラント状に配置されている。
【0020】
図1に示すように、シリンダブロック2は、クランク軸3と、4本のコネクティングロッド4と、4つのシリンダボア5と、4つのピストン10と、気筒毎に1対の第1オイル噴射装置20と、4つの第2オイル噴射装置30等を備えている。シリンダブロック2は、クランク軸3を収容するクランク室を形成している。
【0021】
図1に示すように、クランク軸3は、ジャーナル部(図示略)と、ピン部3aと、アーム部(図示略)等を備え、図中、矢印Aで示す方向に回転する。クランク軸3は、シリンダブロック2に軸受部を介して回転自在に枢支されている。ピン部3aには、コネクティングロッド4の下端に形成された大端部4aが軸受部を介して回転自在に連結されている。コネクティングロッド4の上端に形成された小端部4bには、クランク軸3と平行に配置されたピストンピン10aを介してピストン10が揺動自在に連結されている。シリンダボア5は円筒状に形成されている。
【0022】
図1〜図7に示すように、ピストン10は、ピストンクラウン部11と、1対のスカート部12と、1対のピンボス部13と、1対のオイル導入穴18と、複数の給油路19a〜19c等を備えている。ピストン10は、下方に向かって開口する有底円筒状に形成され、例えば、アルミニウム合金により形成されている。ピストン10は、シリンダボア5内に嵌入され、シリンダボア5内を上下方向に往復動可能に形成されている。
【0023】
ピストンクラウン部11は、頂面11aと、裏面11bと、ランド部14と、3つのリング溝15〜17等を備えている。裏面11bには、吸気側リセス部11cと、排気側リセス部11dと、両リセス部11c,11dの間に亙って形成されたリセス間連結部11eが形成されている。吸気側リセス部11cと排気側リセス部11dは、夫々、裏面11bの吸気側部分と排気側部分の位置に頂面11a側へ湾曲状に凹入形成されている。リセス間連結部11eは、吸気側リセス部11cと排気側リセス部11dに滑らかに連なるよう構成されている。
【0024】
1対のスカート部12は、ピストン10の吸気側部分と排気側部分に夫々ピストンクラウン部11の下端から下方へ延びるよう形成されている。それ故、ピストン10が上下方向へ往復動するとき、1対のスカート部12がシリンダボア5にガイドされるため、ピストンピン10aを回転中心とするピストン10の揺動が抑制される。
【0025】
ピストンクラウン部11の外周には、頂面11aとスカート部12との間の位置にランド部14が形成されている。ランド部14には、トップリング溝15とセカンドリング溝16とオイルリング溝17が形成されている。トップリング溝15は、頂面11aに最も近接した位置に形成され、トップリング45(第1コンプレッションリング)が装着されている。セカンドリング溝16は、トップリング溝15よりも下方位置に形成され、セカンドリング46(第2コンプレッションリング)が装着されている。オイルリング溝17は、セカンドリング溝16よりも下方且つスカート部12側位置に形成され、オイルリング47が装着されている。尚、説明の便宜上、図3を除いて、各リング45〜47の図示を省略している。
【0026】
図3に示すように、トップリング45とセカンドリング46は、略C字状に形成され、トップリング溝15とセカンドリング溝16に夫々強制的に弾性圧縮変形された状態で嵌め込まれている。これにより、両リング45,46は、一定の復元力によりシリンダボア5の表面に接触し、エンジンEの燃焼室からクランク室に漏出するブローバイガス量を抑制している。オイルリング47は、両リング45,46と同様に略C字状に形成され、オイルリング溝17に強制的に弾性圧縮変形された状態で嵌め込まれている。これにより、オイルリング47は、一定の復元力によりシリンダボア5の表面に接触し、ピストン10が上昇過程のとき、オイルを持ち上げてシリンダボア5の内周面にオイル油膜を形成し、ピストン10が下降過程のとき、潤滑に必要なオイル油膜を残しながら大部分のオイルを掻き落としている。
【0027】
図1,図5,図7に示すように、ピストンクラウン部11には、1対のスカート部12の間の位置において裏面11bから下方へ延びる1対のピンボス部13が形成されている。
一方のピンボス部13は、ピストン10の中心に対してピストンピン10aの軸線平行方向一方側寄りの位置に配置され、他方のピンボス部13はピストン10の中心に対してピストンピン10aの軸線平行方向他方側寄りの位置に配置され、両ピンボス部13はピストン10の中心を挟むように並列状に形成されている。
【0028】
図2,図5,図6に示すように、1対のピンボス部13は、裏面11bの中央部分にリセス間連結部11eを挟んで対向配置され、夫々、ピン孔13aと、膨出部13bと、オイル導入穴18を備えている。1対のピン孔13aは、軸受部を介してピストンピン10aを支承している。1対のピンボス部13がピストンピン10aを介してコネクティングロッド4と連結されるため、クランク軸3の回転駆動力がコネクティングロッド4を介してピストン10に伝達され、ピストン10がシリンダボア内を上下方向に往復動する。
【0029】
1対の膨出部13bは、1対のピンボス部13の吸気側端部から、これら吸気側端部に対向する吸気側スカート部12の方向へ膨出するように形成されている。それ故、ピストン10の中心から各ピンボス部13の吸気側端部までの距離はピストン10の軸心から各ピンボス部13の排気側端部までの距離よりも長く構成され、平面視にて、吸気側リセス部11cの面積は排気側リセス部11dの面積よりも小さく形成されている。
【0030】
1対の膨出部13bには、夫々、オイル導入穴18が形成されている。各オイル導入穴18は、膨出部13bの下端に開口し、この開口部18aからピストンクラウン部11内部に亙り上方へ凹入するよう形成されている。それ故、吸気側リセス部11cの近傍部分をオイル導入穴18に滞留するオイルを利用して冷却することができる。これらオイル導入穴18は、ピンボス部13と膨出部13bを一体形成し、膨出部13bに対してドリル等の加工工具を用いて機械加工により製造している。
【0031】
図6に示すように、ピストンクラウン部11内部には、複数の給油路19a〜19cが形成されている。複数の給油路19a〜19cは、1対のオイル導入穴18の頂部からピストン10の軸線直交方向へ延び、セカンドリング溝16とオイルリング溝17の間のランド部14と連通するよう形成されている。
【0032】
各オイル導入穴18には、夫々、3つの給油路19a〜19cが連通されている。給油路19aはオイル導入穴18と吸気側ランド部14を連通し、給油路19bはオイル導入穴18と吸気側と吸気側の中間位置近傍のランド部14を連通し、給油路19cはオイル導入穴18と排気側ランド部14を連通している。給油路19bは給油路19cよりも通路長が短く、給油路19aは給油路19bよりも通路長が短く形成されている。これら給油路19a〜19cは、オイル導入穴18と同様に、ピストンクラウン部11に対してドリル等の加工工具を用いて機械加工により製造している。
【0033】
図1,図2に示すように、第1オイル噴射装置20は、各シリンダボア5に2つづつ配置されている。1対の第1オイル噴射装置20は、エンジンEのオイルポンプ8(図11参照)にオイルギャラリ6aを介して接続され、前記1対のオイル導入穴18の開口部18aに対して潤滑用オイルを噴射可能に構成されている。各第1オイル噴射装置20は、夫々、平面視にて対応するピンボス部13に対してピストンピン10aの軸線直行方向吸気側位置、又は、ピストンピン10aの反スラスト側スカート部12側に配置されている。1対の第1オイル噴射装置20は、略同一の構造であるため、以下の説明では一方の第1オイル噴射装置20のみについて説明する。
【0034】
第1オイル噴射装置20は、第1バルブ部21と、第1オイル噴射ノズル22と、第1ケース部23等を備えている。第1バルブ部21は、ボルト部材の内部にチェックバルブを備えている。第1バルブ部21は、シリンダブロック2に形成されたねじ穴に螺合され、その先端に形成された開口がオイルギャラリ6aに連通されている。第1バルブ部21がシリンダブロック2に取付けられた状態で、オイル供給圧が所定値のとき、第1バルブ部21が開動作し、オイルは第1ケース部23内の油路を介して第1オイル噴射ノズル22へ流動する。
【0035】
第1オイル噴射ノズル22は、シリンダボア5の外側位置からシリンダボア5の内側位置に向かって延びる管状部材により形成されている。第1オイル噴射ノズル22は、ピストン10が下死点付近のとき、噴射開口端がオイル導入穴18の開口部18aの略直下近傍位置に配置されている。尚、第1オイル噴射装置20はチェックバルブとしての第1バルブ部21を省くことが可能である。
【0036】
図1,図2に示すように、第2オイル噴射装置30は、シリンダボア5毎に1つづつ配置されている。第2オイル噴射装置30は、エンジンEのオイルポンプ8にオイルギャラリ6bを介して接続され、排気側リセス部11dに対して冷却用オイルを噴射可能に構成されている。第2オイル噴射装置30は、平面視にてピストン中心に対してピストンピン10aの軸線直行方向排気側位置、又は、ピストンピン10aのスラスト側スカート部12側に配置されている。それ故、1対の第1オイル噴射装置20と第2オイル噴射装置30は、平面視にてピストンピン10aの軸線に対して千鳥状にレイアウトされている。
【0037】
第2オイル噴射装置30は、第2バルブ部31と、第2オイル噴射ノズル32と、第2ケース部33等を備えている。第2バルブ部31は、ボルト部材の内部にチェックバルブを備えている。第2バルブ部31は、シリンダブロック2に形成されたねじ穴に螺合され、先端に形成された開口がオイルギャラリ6bに連通されている。第2バルブ部31がシリンダブロック2に取付けられた状態で、オイル供給圧が所定値以上のとき、第2バルブ部31が開動作し、オイルは第2ケース部33内の油路を介して第2オイル噴射ノズル32へ流動する。
【0038】
第2オイル噴射ノズル32は、シリンダボア5の外側位置からシリンダボア5の内側位置に向かって延びる管状部材により形成されている。第2オイル噴射ノズル32から噴射された冷却用オイルは、排気側リセス部11dからリセス間連結部11eを流れ吸気側リセス部11cに到達し、クランク室内へ滴下する。
【0039】
次に、オイル間欠供給手段について説明する。
図1,図3に示すように、本実施例1のオイル供給装置1には、ピストン10が上昇過程のときのみ、1対のオイル導入穴18の開口部18aに対して潤滑用オイルを供給可能なオイル間欠供給手段としてのバッフル部材7(オイル供給遮断手段)が設けられている。バッフル部材7は、矩形形状の金属製板状部材により形成され、コネクティングロッド4の小端部4bの下方位置にコネクティングロッド4と一体的に設けられている。バッフル部材7は、コネクティングロッド4の吸気側側部にボルト(図示略)により固定され、1対の第1オイル噴射ノズル22と1対のオイル導入穴18の開口部18aとの間の位置に形成され、ピストン10が下降過程のとき、1対の第1オイル噴射ノズル22から噴射された潤滑用オイルの進路を遮断するよう構成されている。
【0040】
図8に示すように、ピストン10が上死点位置から下死点に移動する下降過程(クランク角が90°)のとき、コネクティングロッド4の大端部4aは小端部4bに比べて吸気側位置に移動している。これにより、バッフル部材7の位置は、ピストン10が上死点位置(クランク角が0°)のときのバッフル部材7の位置と比べて吸気側に移動し、第1オイル噴射ノズル22から噴射された潤滑用オイルの進路を遮断している。
【0041】
図9に示すように、ピストン10が下死点位置から上死点に移動する上昇過程(クランク角が270°)のとき、コネクティングロッド4の大端部4aは小端部4bに比べて排気側位置に移動している。これにより、バッフル部材7の位置は、ピストン10が下死点位置(クランク角が180°)のときのバッフル部材7の位置と比べて排気側に移動し、第1オイル噴射ノズル22から噴射された潤滑用オイルの進路を開放している。
【0042】
バッフル部材7のピストンピン10aの軸線直行方向の幅は、ピストン10が下死点位置のとき、オイル導入穴18の開口部18aに対して第1オイル噴射ノズル22から噴射された潤滑用オイルを供給可能な長さに設定している。バッフル部材7のピストンピン10aの軸線方向の幅は、ピストン10が下降過程のとき、1対の第1オイル噴射ノズル22から噴射された潤滑用オイルの進路を遮断可能な長さに設定している。
【0043】
次に、オイル供給装置1の作用、効果について説明する。
このオイル供給装置1では、ピストン10が上昇過程のときのみ、1対の第1オイル噴射ノズル22から噴射された潤滑用オイルが開口部18aからオイル導入穴18に導入される。この導入された潤滑用オイルは、複数の給油路19a〜19cを経てオイルリング溝17とセカンドリング溝16の間のランド部14へ供給され、シリンダボア5周面のオイル油膜を形成する。ピストン10が下降過程のとき、潤滑用オイルはバッフル部材7の作動によりオイル導入穴18に導入されないため、前記ランド部14には供給されない。それ故、ピストン10の摺動抵抗の低減とオイル消費量の低減を両立できる。
また、1対のピンボス部13を利用してオイル導入穴18を形成し、オイル導入穴18から前記ランド部14へ連なる給油路19a〜19cを設けたため、ピストン10の構造を簡単化できる。潤滑用オイルを直接的にオイル導入穴18の内部に溜めると共に潤滑用オイル径路を短縮化できるため、潤滑用オイルの油圧損失を生じることなく潤滑用オイルを前記ランド部14へ供給でき、ピストン10の潤滑性能を増すことができる。それ故、図10に示すように、各ピストンリング45〜47の摺動抵抗を減少でき、エンジンEの燃費を改善できる。
【0044】
吸気側リセス部11cと排気側リセス部11dとリセス間連結部11eにより冷却用オイル径路を形成したため、ピストンクラウン部11の裏面11bを流れる冷却用オイルを誘導することができ、排気側スカート部12から吸気側スカート部12に亙って冷却用オイルの流動抵抗を低減でき、ピストン10の冷却性能を増すことができる。1対のピンボス部13の膨出部13bによりリセス間連結部11eを吸気側へ延長したため、吸気側スカート部12側の冷却用オイルの流速低下を防止でき、オイル導入穴18の潤滑用オイルと協働してピストン10の吸気側部分を効果的に冷却できる。
【0045】
複数の給油路19a〜19cはオイル導入穴18の頂部に連通し、ピストン10軸心直交方向へ延びているため、オイル導入穴18に噴射された第1オイル噴射ノズル22からの潤滑用オイルの油圧損失を最小に抑え、ランド部14への給油能率を向上できる。
第1オイル噴射ノズル22を平面視にて吸気側位置に配置し、第2オイル噴射ノズル32を平面視にて排気側位置に配置したため、ピストン10の吸気側部分に比べて熱負荷が高いピストン10の排気側部分を先行冷却でき、第1オイル噴射ノズル22のレイアウトの自由度を増すことができる。
【0046】
第1オイル噴射ノズル22とオイル導入穴18の開口部18aとの間に位置するコネクティングロッド4の側部に設けられ、ピストン10が下降過程のとき、第1オイル噴射ノズル22から噴射されたオイルの進路を遮断可能なバッフル部材7を設けたため、コネクティングロッド4の作動軌跡を利用して、オイル間欠供給手段を簡単な構成で形成でき、ピストン10が上昇過程のときのみオイル導入穴18への潤滑用オイルの導入を許容し、ピストン10が下降過程のときオイル導入穴18への潤滑用オイルの導入を制限することができる。
【実施例2】
【0047】
図11に基づいて、実施例2に係るオイル供給装置1Aについて説明する。尚、実施例1と同様の部材については、同一の符号を附し、説明を省略する。
実施例1との相違点は、実施例1では、エンジンEの運転状態に拘わらず、ピストン10が上昇過程のとき、1対のオイル導入穴18の開口部18aに対して潤滑用オイルを供給していたのに対し、本実施例2では、エンジンEAの運転状態に応じて潤滑用オイルの供給を制限している点である。
【0048】
図11に示すように、エンジンEAは、オイルポンプ8と、メインギャラリ6と、オイルギャラリ6a〜6cと、オイル供給装置1Aと、コントロールユニット50等を有している。オイルポンプ8は、オイルパン9に貯留されたオイルを加圧し、メインギャラリ6によりエンジンEAの各部位へ圧送している。オイルポンプ8の下流側には、オイルに含まれる不純物を除去するためオイルフィルタ8aが設けられている。メインギャラリ6には、オイルギャラリ6a〜6cが並列接続されている。オイルギャラリ6cには、クランク軸給油装置52が設けられている。クランク軸給油装置52は、クランク軸3の各軸受部(図示略)に設けられ、クランク軸3の軸受部やピン部3a等の各摺動部に潤滑用オイルを供給している。
【0049】
オイル供給装置1Aは、第1オイル噴射装置20Aと、第2オイル噴射装置30と、流量制御弁51等を備えている。第1オイル噴射装置20Aは、実施例1と同様に、各シリンダボア5に2つづつ配置されている。1対の第1オイル噴射装置20Aは、1対のオイル導入穴18の開口部18aに対して潤滑用オイルを噴射可能に構成されている。
流量制御弁51は、オイルギャラリ6aの第1オイル噴射装置20Aよりも上流側位置に設けられている。流量制御弁51は、例えば、デューティソレノイドにより駆動するスプール弁であり、コントロールユニット50から送信される制御信号によりオイルギャラリ6aの上流側位置で開閉制御される。
【0050】
コントロールユニット50は、エンジン回転数センサ、負荷センサ、水温センサ、クランクアングルセンサ等に電気的に接続され、各センサの検出値に基づき、エンジンEAの運転状態に応じて流量制御弁51を制御している。
【0051】
次に、オイル供給装置1Aの作動について説明する。
コントロールユニット50は、流量制御弁51を以下のような形態で開閉制御している。
【0052】
エンジンEAが暖機状態で且つエンジン負荷が所定負荷以下の燃費運転領域のとき、潤滑用オイルの供給を禁止している。これにより、シリンダライナ壁からの吸熱を防止し、シリンダライナ壁の早期昇温を図っている。エンジンEAが暖機状態で且つエンジン負荷が所定負荷以上の高負荷運転領域のとき、エンジンEAが低回転の場合、潤滑用オイルの供給を禁止し、エンジンEAが高回転の場合、潤滑用オイルを供給する前記基本作動を行う。この高回転における潤滑用オイルの供給により、ピストン10の焼付きを防止し、エンジンEAの信頼性を増すことができる。
【0053】
エンジンEAが温間状態で且つエンジン負荷が所定負荷以下の燃費運転領域のとき、潤滑用オイルを供給する前記基本作動を行う。エンジンEAが温間状態で且つエンジン負荷が所定負荷以上の高負荷運転領域のとき、潤滑用オイルの供給を禁止している。これにより、ピストン10の下降過程のとき、オイルリング47の上方空間に滞留する低粘度の潤滑用オイルが燃焼室へ侵入することを防止でき、オイル消費量を低減できる。
【0054】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、横置き4気筒エンジンの例を説明したが、少なくともレシプロエンジンであれば良く、単気筒エンジンや2気筒以上のエンジンやV型エンジン等種々の内燃機関用ピストンに適用することができる。また、縦置きエンジンにも適用可能である。
【0055】
2〕前記実施例1においては、バッフル部材をボルトによりコネクティングロッドの側部へ固定した例を説明したが、コネクティングロッドの製造時、バッフル部材をコネクティングロッドと同時に一体形成しても良い。
3〕前記実施例1においては、1対の第1オイル噴射装置を吸気側位置に配置し、単一の第2オイル噴射装置を排気側位置に配置した例を説明したが、第1オイル噴射装置を排気側位置に配置し、第2オイル噴射装置を吸気側位置に配置しても良い。また、第2オイル噴射装置を1つのピストンに対して複数設置することも可能である。
【0056】
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、シリンダボア内を往復動する内燃機関用ピストンのオイル供給装置において、潤滑用オイル噴射ノズルと冷却用オイル噴射ノズルを設け、ピンボス部により潤滑用オイル径路と冷却用オイル径路を形成したことにより、ピストンの摺動抵抗の低減とオイル消費量の低減とを両立でき、ピストン構造を簡単化しつつピストンの潤滑性能と冷却性能を高めることができる。
【符号の説明】
【0058】
1,1A オイル供給装置
3 クランク軸
4 コネクティングロッド
5 シリンダボア
7 バッフル部材
10 ピストン
10a ピストンピン
11 ピストンクラウン部
12 スカート部
13 ピンボス部
13b 膨出部
14 ランド部
15 トップリング溝
16 セカンドリング溝
17 オイルリング溝
18 オイル導入穴
19a〜19c 給油路
20,20A 第1オイル噴射装置
22 第1オイル噴射ノズル
30 第2オイル噴射装置
32 第2オイル噴射ノズル
50 コントロールユニット
51 流量制御弁
E,EA エンジン




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンクラウン部と、このピストンクラウン部の裏面に形成され且つコネクティングロッド及びピストンピンを介してクランク軸に連結される1対のピンボス部と、前記ピストンクラウン部から下方へ延びる1対のスカート部を備え、シリンダボア内を往復動する内燃機関用ピストンのオイル供給装置において、
前記ピストンは、一方のスカート部側において前記1対のピンボス部のピン軸直交方向の一方側端部からそれら端部に対向する前記一方のスカート部の方へ膨出させた1対の膨出部と、これら1対の膨出部の下端に夫々開口し且つ上方へ凹入した1対のオイル導入穴と、これらオイル導入穴と前記ピストンクラウン部のオイルリング溝とコンプレッションリング溝の間の周面とを連通する複数の給油路を有し、
前記1対のオイル導入穴の開口に対して潤滑用オイルを噴射する第1オイル噴射ノズルと、
他方のスカート部側のピストンクラウン部の裏面に対して冷却用オイルを噴射する第2オイル噴射ノズルと、
前記ピストンが上昇過程のときのみ、前記1対のオイル導入穴の開口に対してオイルを供給するオイル間欠供給手段とを設けたことを特徴とする内燃機関用ピストンのオイル供給装置。
【請求項2】
前記複数の給油路は前記オイル導入穴の頂部に連通し且つピストン軸心直交方向へ延びることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用ピストンのオイル供給装置。
【請求項3】
前記第1オイル噴射ノズルを平面視にて吸気側位置に配置し、前記第2オイル噴射ノズルを平面視にて排気側位置に配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関用ピストンのオイル供給装置。
【請求項4】
前記オイル間欠供給手段は、前記第1オイル噴射ノズルとオイル導入穴の開口との間に位置する前記コネクティングロッドの側部に設けられ、前記ピストンが下降過程のとき、前記第1オイル噴射ノズルから噴射されたオイルの進路を遮断可能なオイル供給遮断手段であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の内燃機関用ピストンのオイル供給装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−140866(P2012−140866A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291884(P2010−291884)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】