説明

内燃機関用過給装置

【課題】ディフューザ部でコーキングが発生しても過給性能の低下を抑制することが可能な内燃機関用過給装置を提供する。
【解決手段】コンプレッサホイール15の周囲に設けられてコンプレッサホイール15の出口15aと連通されるディフューザ部16と、ディフューザ部16と連通されるスクロール室17とを有し、内燃機関1の吸気通路3に設けられるコンプレッサ11を備えた内燃機関用過給装置10において、コンプレッサ11には、コンプレッサホイール15から排出された吸気をディフューザ部16を迂回してスクロール室17に導くバイパス通路19と、バイパス通路19に吸気が導かれる開位置P1とバイパス通路19への吸気の導入が遮断される閉位置P2とに移動可能な弁20とが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の吸気通路に設けられ、コンプレッサホイールから排出された吸気がディフューザ部を介してスクロール室に導かれるコンプレッサを備えた内燃機関用過給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に設けられる過給装置としてターボ過給機が知られている。一般にターボ過給機は、排気通路に設けられたタービンを排気で回転させ、この回転により吸気通路に設けられたコンプレッサのコンプレッサホイールを回転させて吸気を昇圧する。この際、コンプレッサ内において吸気は、まずコンプレッサホイールにて加速され、次にディフューザ部を通過してスクロール室に送られ、その後コンプレッサハウジングの出口部から排出される。ところで、吸気通路には、排気通路から排気が再循環されたり機関本体からブローバイガスが導入されたりする。周知のように排気やブローバイガスには、オイルや未燃燃料が含まれており、これらオイルや未燃燃料がコンプレッサ内に吸気とともに吸引されてコンプレッサ内で加熱されると加熱されたオイルや未燃燃料がコンプレッサの内側に付着する、いわゆるコーキングが発生する。コンプレッサ内にてコーキングが発生すると吸気が流れ難くなったり吸気の流れが変化したりするため、コンプレッサの効率が低下し、過給性能が低下するおそれがある。コンプレッサ内においては、ディフューザ部において吸気の速度が一旦低下するため、このディフューザ部にオイルや未燃燃料が付着し易い。そこで、コンプレッサのディフューザ部でのコーキングの発生が抑制されるように過給圧を調整する制御装置が知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2〜6が存在する。
【0003】
【特許文献1】特開2006−299827号公報
【特許文献2】特開平8−254127号公報
【特許文献3】特表2003−526037号公報
【特許文献4】特開平9−119396号公報
【特許文献5】特開平10−252696号公報
【特許文献6】特開平5−71498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置はコーキングの発生が抑制されるように過給圧を調整するものであるため、実際にディフューザ部にてコーキングが発生した場合はこれに対応できずコンプレッサの効率が低下して過給性能が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、ディフューザ部でコーキングが発生しても過給性能の低下を抑制することが可能な内燃機関用過給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関用過給装置は、コンプレッサホイールの周囲に設けられて前記コンプレッサホイールの出口と連通されるディフューザ部と、前記ディフューザ部と連通されるスクロール室と、を有し、内燃機関の吸気通路に設けられるコンプレッサを備えた内燃機関用過給装置において、前記コンプレッサには、前記コンプレッサホイールから排出された吸気を前記ディフューザ部を迂回して前記スクロール室に導くバイパス通路と、前記バイパス通路に吸気が導かれる開位置と前記バイパス通路への吸気の導入が遮断される閉位置とに移動可能な開閉部材と、が設けられることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0007】
本発明の内燃機関用過給装置によれば、ディフューザ部でコーキングが発生し、ディフューザ部の流路面積が減少したりディフューザ部が閉塞したりしても開閉部材を開位置に移動させることにより、バイパス通路を介して吸気をスクロール室に導くことができる。そのため、過給性能の低下を抑制することができる。
【0008】
本発明の内燃機関用過給装置の一形態においては、前記開閉部材を前記開位置と前記閉位置との間で駆動する駆動手段と、前記コンプレッサの効率が所定の判定値より低下したと判断した場合、前記開閉部材が前記開位置に駆動されるように前記駆動手段の動作を制御する制御手段と、を備えてもよい(請求項2)。このように駆動手段を制御することにより、ディフューザ部でコーキングが発生したことよってコンプレッサの効率が低下していた場合はコンプレッサの効率を回復させることができる。
【0009】
この形態において、前記制御手段は、前記コンプレッサから吐出される吸気の温度が所定温度以上に上昇した場合、又は前記コンプレッサにて昇圧された吸気の圧力が所定圧力以上に上昇した場合に前記開閉部材が前記開位置に駆動されるように前記駆動手段の動作を制御してもよい(請求項3)。吸気の温度が高くなるとコンプレッサ内に付着したオイルや未燃燃料が固化され易くなるので、コーキングが発生し易くなる。また、吸気の圧力が高くなるとコンプレッサ内における吸気の流速が低下するため、オイルや未燃燃料がコンプレッサ内に付着し易くなり、コーキングが発生し易くなる。そこで、このような場合はバイパス通路を介して吸気をスクロール室に導き、ディフューザ部においてコーキングが発生することを抑制する。これにより、過給装置の過給性能の低下を抑制できる。
【0010】
本発明の内燃機関用過給装置の一形態において、前記ディフューザ部には、吸気が所定の方向に案内されるように配置される複数のベーンが設けられていてもよい(請求項4)。このようにディフューザ部に複数のベーンが設けられるとこれらベーンにもオイルや未燃燃料が付着するので、ディフューザ部においてコーキングが発生し易い。そのため、本発明が好適に適用される。
【発明の効果】
【0011】
以上に説明したように、本発明の内燃機関用過給装置によれば、ディフューザ部でコーキングが発生しても開閉部材を開位置に移動させ、バイパス通路を介して吸気をスクロール室に導入することができる。そのため、過給性能の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の一形態に係る過給装置が組み込まれた内燃機関の概略を示している。
図1の内燃機関(以降、エンジンと称することがある。)1は、車両の走行用動力源として搭載されるものであり、機関本体2と、機関本体2に接続される吸気通路3及び排気通路4とを備えている。吸気通路3には、ターボ過給機10のコンプレッサ11と、吸気を冷却するためのインタークーラ5が設けられている。排気通路4には、ターボ過給機10のタービン12が設けられている。タービン12より下流側の排気通路4とコンプレッサ11より上流側の吸気通路3とは、排気通路4から排気の一部を吸気通路3に還流するためのEGR通路6で接続されている。また、図示は省略したが機関本体2とコンプレッサ11より上流側の吸気通路3とは、機関本体2から吸気通路3にブローバイガスを排出するためのブローバイガス還元通路にて連通されている。
【0013】
図2は、コンプレッサ11の内部の一部を拡大して示している。図2に示したようにコンプレッサ11は、コンプレッサハウジング13と、コンプレッサハウジング13内に配置され、回転軸14にて回転自在に支持されるコンプレッサホイール15と、コンプレッサホイール15の周囲に設けられてコンプレッサホイール15の出口15aと連通されるディフューザ部16と、ディフューザ部16の外側に設けられてディフューザ部16と連通されるスクロール室17とを備えている。コンプレッサホイール15は、回転軸14にてタービン12のタービンホイール(不図示)と一体に回転するように連結されている。図2に示したようにディフューザ部16には、複数のディフューザベーン18が設けられている。これら複数のディフューザベーン18は、コンプレッサホイール15から排出された吸気を所定の方向に案内すべく隣り合うディフューザベーン18との間にスロート部が形成されるように周方向に等間隔で配置されている。なお、これらは周知のターボ過給機10のコンプレッサ11と同様でよいため、詳細な説明は省略する。
【0014】
また、図2に示したようにコンプレッサ11は、コンプレッサホイール15から排出された吸気をディフューザ部16を迂回させてスクロール室17に導くバイパス通路19と、図2に矢印Aで示したようにバイパス通路19に吸気が導かれる開位置P1とバイパス通路19への吸気の導入が遮断される閉位置P2とに移動可能な開閉部材としての弁20と、弁20を開位置P1と閉位置P2との間で駆動する駆動手段としてのアクチュエータ21とを備えている。バイパス通路19は、コンプレッサハウジング13に全周に亘って設けられる。また、バイパス通路19は、弁20が開位置P1に移動したときにバイパス通路19内に形成される吸気の流路の断面積がディフューザ部16の流路断面積とほぼ同じになるように設けられる。図2に示したように弁20は、閉位置P2に移動するとバイパス通路19の入口19aと出口19bを塞ぐ部分がディフューザ部16の壁面と同じ高さになり、ディフューザ部16を形成する壁面がほぼ滑らかに連続するような形状を有している。
【0015】
アクチュエータ21の動作は、エンジンコントロールユニット(ECU)30にて制御される。ECU30は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータとして構成され、各種センサからの出力信号に基づいてエンジン1の運転状態を制御する周知のコンピュータユニットである。図1に示したようにECU30には、例えばコンプレッサ11から吐出された吸気の温度に対応する信号を出力する吸気温センサ31、及び吸気通路3の一部を形成するインテークマニホールド3aの吸気の圧力、すなわち過給圧に対応する信号を出力する過給圧センサ32などが接続される。ECU30には、この他にも種々のセンサが接続されるが、それらの図示は省略した。
【0016】
図3は、ECU30がアクチュエータ21の動作を制御するためにエンジン1の運転中に所定の周期で繰り返し実行するアクチュエータ制御ルーチンを示している。図3の制御ルーチンを実行することにより、ECU30が本発明の制御手段として機能する。
【0017】
図3の制御ルーチンにおいてECU30は、まずステップS11でエンジン1の運転状態を取得する。エンジン1の運転状態としては、例えば吸気温センサ31及び過給圧センサ32の出力信号を参照して吸気の温度及び過給圧などが取得される。次のステップS12においてECU30は、吸気の温度(吸気温度)が所定の判定温度以上か否か判断する。吸気の温度が高くなるとオイルや未燃燃料がコンプレッサ11内に付着した際に固化し易くなるため、コーキングが発生し易くなる。そこで、所定の判定温度には、例えばディフューザ部16におけるコーキングの発生を適切に抑制可能な吸気温度が設定される。このような温度は、ディフューザ部16の流路断面積などに応じて変化するため、例えばディフューザ部16の形状などに応じて適宜設定される。吸気温度が判定温度以上であると判断した場合はステップS13に進み、ECU30は弁20が開位置P1に駆動されるようにアクチュエータ21の動作を制御してバイパス通路19を開ける。なお、既に弁20が開位置P1に駆動されていた場合はその状態を維持する。このようにバイパス通路19を開けることにより、吸気をコンプレッサホイール15からスクロール室17にディフューザ部16を迂回して導くことができる。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0018】
一方、吸気の温度が判定温度未満であると判断した場合はステップS14に進み、ECU30は過給圧が所定の判定圧力以上か否か判断する。過給圧が高くなるとコンプレッサ11内における吸気の流速が低下するため、コンプレッサ11内にオイルや未燃燃料が付着し易くなる。そこで、所定の判定圧力は、例えばディフューザ部16へのオイルや未燃燃料の付着を十分に抑制可能な過給圧、すなわち過給圧がこの判定圧力未満であればディフューザ部16における吸気の流速をディフューザ部16へのオイルや未燃燃料の付着を適切に抑制可能な流速以上に維持することが可能な過給圧が設定される。なお、このように過給圧はディフューザ部16の流路断面積などに応じて変化するため、例えばディフューザ部16の形状などに応じて適宜設定される。過給圧が判定圧力以上であると判断した場合はステップS13に進み、ECU30はバイパス通路19を開ける。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0019】
一方、過給圧が判定圧力未満であると判断した場合はステップS15に進み、ECU30はコンプレッサ11の効率が所定の判定値未満か否か判断する。コンプレッサ11の効率は、コンプレッサ11にて昇圧される吸気を空気と仮定することにより、コンプレッサ11入口の吸気の温度と圧力、及びコンプレッサ11出口の吸気の温度と圧力に基づいて求めることができる。コンプレッサ11入口の吸気の温度及び圧力には、外気の温度及び圧力を用いればよい。また、コンプレッサ11出口の吸気の温度にはエンジン1の運転状態として取得した吸気の温度を使用し、コンプレッサ11出口の温度には過給圧を使用すればよい。所定の判定値は、ディフューザ部16においてコーキングが発生しているか否か判断するための基準として設定される。そのため、所定の判定値としては、例えばディフューザ部16にてコーキングが発生したことを確実に判断することが可能な値が設定される。コンプレッサ11の効率が判定値未満と判断した場合はステップS13に進み、ECU30はバイパス通路19を開ける。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0020】
一方、コンプレッサ11の効率が判定値以上と判断した場合はステップS16に進み、ECU30は弁20が閉位置P2に駆動されるようにアクチュエータ21の動作を制御してバイパス通路19を閉じる。なお、既に弁20が閉位置P2に駆動されていた場合はその状態を維持する。このようにバイパス通路19を閉じることにより、コンプレッサホイール15からディフューザ部16を介してスクロール室17に吸気を送ることができる。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0021】
本発明の過給装置によれば、ディフューザ部16においてコーキングが発生した場合、バイパス通路19が開けられるので、このバイパス通路19を介して吸気をスクロール室17に導くことができる。そのため、ターボ過給機10の過給性能の低下を抑制することができる。また、吸気の温度が判定温度以上の場合、又は過給圧が判定圧力以上の場合、すなわちディフューザ部16においてコーキングが発生すると予測される場合はバイパス通路19が開けられるので、ディフューザ部16へのオイルや未燃燃料の付着を抑制することができる。これによりディフューザ部16にけるコーキングの発生を抑制できるので、ターボ過給機10の過給性能の低下を抑制することができる。
【0022】
本発明は上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、バイパス通路は上述した形態の形状に限定されない。バイパス通路は、コンプレッサホイールから排出された吸気をディフューザ部を迂回させてスクロール室に導くことが可能なように設けられていればよい。また、バイパス通路を開閉する弁も上述した形態のものに限定されない。例えば、バイパス通路の入口又は出口の一方のみを開閉する弁が設けられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一形態に係る過給装置が組み込まれた内燃機関の概略を示す図。
【図2】コンプレッサの内部の一部を拡大して示す図。
【図3】ECUが実行するアクチュエータ制御ルーチンを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0024】
1 内燃機関
3 吸気通路
10 ターボ過給機
11 コンプレッサ
15 コンプレッサホイール
15a 出口
16 ディフューザ部
17 スクロール室
18 ディフューザベーン
19 バイパス通路
20 弁(開閉部材)
21 アクチュエータ(駆動手段)
30 エンジンコントロールユニット(制御手段)
P1 開位置
P2 閉位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサホイールの周囲に設けられて前記コンプレッサホイールの出口と連通されるディフューザ部と、前記ディフューザ部と連通されるスクロール室と、を有し、内燃機関の吸気通路に設けられるコンプレッサを備えた内燃機関用過給装置において、
前記コンプレッサには、前記コンプレッサホイールから排出された吸気を前記ディフューザ部を迂回して前記スクロール室に導くバイパス通路と、前記バイパス通路に吸気が導かれる開位置と前記バイパス通路への吸気の導入が遮断される閉位置とに移動可能な開閉部材と、が設けられることを特徴とする内燃機関用過給装置。
【請求項2】
前記開閉部材を前記開位置と前記閉位置との間で駆動する駆動手段と、前記コンプレッサの効率が所定の判定値より低下したと判断した場合、前記開閉部材が前記開位置に駆動されるように前記駆動手段の動作を制御する制御手段と、を備える請求項1に記載の内燃機関用過給装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記コンプレッサから吐出される吸気の温度が所定温度以上に上昇した場合、又は前記コンプレッサにて昇圧された吸気の圧力が所定圧力以上に上昇した場合に前記開閉部材が前記開位置に駆動されるように前記駆動手段の動作を制御する請求項2に記載の内燃機関用過給装置。
【請求項4】
前記ディフューザ部には、吸気が所定の方向に案内されるように配置される複数のベーンが設けられている請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関用過給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−108680(P2009−108680A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278576(P2007−278576)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】