説明

内燃機関

【課題】燃焼室内の爆発的な自然発火(自己着火)を抑制するとともに、緩慢な燃焼を進行させる内燃機関を提供すること。
【解決手段】シリンダヘッド内壁とピストンヘッドによって形成される燃焼室を備え、ピストンが上死点にあるときに点火プラグから最も離れる部位やその近傍に卑金属系酸化触媒を配設した内燃機関である。角部やその近傍に卑金属系酸化触媒を配設する。卑金属系酸化触媒が700℃以下で混合ガスの酸化反応を開始させ得る。卑金属系酸化触媒が、コバルト、クロム、マンガン及び銅などを含む。卑金属系酸化触媒が、アルミナ、チタニア、シリカ、イットリア、ジルコニア、セリアなどの多孔質無機担体に担持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に係り、更に詳細には、エンドガスの爆発的な燃焼により引き起こされるノッキングを、触媒の緩慢な酸化反応を利用することで回避できる内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンの理論熱効率は、圧縮比と作動ガスの比熱比による。従って、高圧縮比化を行えば熱効率は向上するが、実際にはノッキングが発生するために圧縮比は限定される。
これは、ガソリンエンジンの燃焼室では、点火プラグによって着火された混合気は、ピストン側やシリンダー壁側へ伝播するために、燃焼室には、高温の燃焼ガスと、火炎伝播する前の燃焼していないガス(燃焼室の隅にある混合気で「エンドガス」という)との両方が共存する。そして、火炎伝播が進行すると、未燃の混合気(エンドガス)を断熱圧縮し、これによる温度上昇で未燃の混合気は自己着火温度を超えるためである。
【0003】
かかるノッキングを抑制する方法としては、燃料面からは、ノッキングを起こしにくい性質の燃料、つまり、オクタン価の高い燃料を使うことが知られている。
また、制御面からは、点火タイミングを遅らせることが知られている。その他にも、圧縮比を低く抑えること、空燃比を上げること、吸気温度を下げること、シリンダーヘッドやシリンダーライナーの冷却により温度を下げることなどが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、上記方法とは異なる方法として、触媒反応を利用したノッキング抑制方法が知られている。
具体的には、吸気行程で燃焼室に逆流したNOxがノッキングの原因であることから、排気ポートにNOx浄化触媒を設置することが提案されている(例えば特許文献1参照)。
しかし、排気ポートに設置した触媒では排気ガスとNOx触媒との接触が少ないために、NOxがあまり浄化できないという問題点があった。
【特許文献1】特開平11−223122号公報
【0005】
また、1サイクルに使用する燃料の一部を前もって噴射し、触媒により燃焼(予備燃焼)させることによりエンドガスの発生を防止することが提案されている(例えば特許文献2,3参照)。
しかし、この場合は、予備燃焼に使用される燃料の消費が避けられないという問題点があった。
【特許文献2】特開平8−326541号公報
【特許文献3】特開平9−256854号公報
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、燃焼室内の爆発的な自然発火(自己着火)を抑制するとともに、緩慢な燃焼を進行させる内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ノッキングが発生する温度域で酸化活性を示す触媒を設置することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の内燃機関は、シリンダヘッド内壁とピストンヘッドによって形成される燃焼室を備えた内燃機関であって、
上記燃焼室に点火プラグを配設し、ピストンが上死点にあるときに該プラグから最も離れる部位及び/又はその近傍に卑金属系酸化触媒を配設したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の内燃機関は、シリンダヘッド内壁とピストンヘッドによって形成される燃焼室を備えた内燃機関であって、
シリンダヘッド内壁とピストンヘッドが接触して成る角部及び/又はその近傍に卑金属系酸化触媒を配設したことを特徴とする。
【0010】
更に、本発明の内燃機関の好適形態は、上記卑金属系酸化触媒が700℃以下で混合ガスの酸化反応を開始させ得ることを特徴とする。
【0011】
更にまた、本発明の内燃機関の他の好適形態は、上記卑金属系酸化触媒が、コバルト、クロム、マンガン及び銅から成る群より選ばれた少なくとも1種のものを含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の内燃機関の更に他の好適形態は、上記卑金属系酸化触媒が、アルミナ、チタニア、シリカ、イットリア、ジルコニア及びセリアから成る群より選ばれた少なくとも1種の多孔質無機担体に担持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、混合気の温度が自己着火温度になる前に触媒燃焼により緩慢な燃焼を行うので、爆発的な自然発火を抑制してノッキングを防止し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の内燃機関について詳細に説明する。なお、本特許請求の範囲及び本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0015】
本発明の第1の内燃機関は、シリンダヘッド内壁とピストンヘッドによって形成される燃焼室を備え、上記燃焼室に点火プラグを配設し、ピストンが上死点にあるときに該プラグから最も離れる部位、その近傍のいずれか一方又は双方に卑金属系酸化触媒を配設する。
【0016】
また、本発明の第2の内燃機関は、シリンダヘッド内壁とピストンヘッドによって形成される燃焼室を備え、シリンダヘッド内壁とピストンヘッドが接触して成る角部、その近傍のいずれか一方又は双方に卑金属系酸化触媒を配設する。
【0017】
具体的には、図1に示すように、ノッキングの原因であるエンドガス(燃焼室の隅にある未燃焼の混合気)が接触する部位、即ち、ピストンヘッド上部の外周辺のリングクレビス、シリンダヘッド外周辺に卑金属系酸化触媒を配設できる。
なお、上記卑金属系酸化触媒は、シリンダに対するピストンの容積変化(特に収縮時)を考慮して、リングループなどにも配設することが望ましい。
【0018】
本発明では、このような燃焼室を内燃機関に設けることにより、ノッキングの原因とされているエンドガスの爆発的な燃焼を、触媒反応を用いて回避できる。
また、ノッキングを回避して、圧縮比を高く設定できるため、熱効率が向上する。
なお、上記卑金属系酸化触媒の代わりに貴金属を用いた場合は、ノッキングが起こる温度よりも低温域から酸化反応が進行してしまうために、最適な筒内圧力が得られなくなる。
【0019】
ここで、上記卑金属系酸化触媒は、エンドガスの爆発的な燃焼が開始される前に混合ガスの酸化反応を開始させ得ることが好適である。
即ち、ノッキングが進行する温度は、約700℃超から800℃の範囲であるので、700℃以下で混合ガスの酸化反応が開始されることで、爆発的な燃焼を回避できる。
このときは、ノッキングを回避し、圧縮比を高く設定できるため、熱効率がより向上する。
【0020】
また、上記卑金属系酸化触媒は、500〜700℃で混合ガスの酸化反応を開始させ得る、より好ましくは600〜700℃で混合ガスの酸化反応を開始させ得ることが良い。
このときは、早期着火が起こりにくく、燃料の無駄な消費が減少するので有効である。また、シリンダ内を好適な圧力に調整し易い。
なお、500℃未満で酸化反応が進行すると早期着火が起こる可能性があり、その結果所望の筒内圧力が得られないことがある。
【0021】
かかる卑金属系酸化触媒としては、例えば、コバルト(Co)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)又は銅(Cu)、及びこれらを任意に組合わせたものを含んで成る触媒を使用することが好適である。
エンドガスは、圧縮行程中に熱分解反応が進行し、含酸素化合物等に変換され得る。このときに活性種として効果的であるのが卑金属系酸化触媒であり、中でも上記成分を含むと酸化触媒の性能が向上し得るので特に有効である。
【0022】
更に、上記卑金属系酸化触媒は、エンドガスが接触する部位に直接設置してもよいが、酸化性能をより向上させる観点からは、比表面積を増加させることが有効である。
代表的には、高い比表面積をもつアルミナ、チタニア、シリカ、イットリア、ジルコニア又はセリア、及びこれらを任意に組合わせて成る多孔質無機担体に担持して使用することができる。このときは、卑金属系酸化触媒は、多孔質無機担体に担持した形態で、ピストンヘッド上部の外周辺のリングクレビスや、シリンダヘッド外周辺に設置するのが良い。
【0023】
なお、本発明の内燃機関で使用する混合ガスは、特に限定されるものではなく、例えば、酸素−メタン、空気−ガソリンなどが使用できる。
また、上記燃焼室は、特に限定されるものではなく、例えば、半球形型、多球形型、くさび型、バスタブ型、ペントルーフ型などを所望の排気量で使用できる。
更に、上記点火プラグは、特に限定されるものではなく、例えば、U溝型、突出し型、2極型、沿面型、ワイドU型、ワイド型、4極型、レジスター内蔵型、レーシング用などを適宜使用できる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
図2に示すようなモデル燃焼室を用意した。この燃焼室の内壁はアルミナから成り、そのうちの触媒担持部位に、卑金属系酸化触媒であるコバルト(Co)0.1g(アルミナに対して10%)を水溶液を用いて担持させ、焼成した。
【0026】
(実施例2)
卑金属系酸化触媒としてクロム(Cr)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、燃焼室に担持させ、焼成した。
【0027】
(実施例3)
卑金属系酸化触媒としてマンガン(Mn)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、燃焼室に担持させ、焼成した。
【0028】
(比較例1)
卑金属系酸化触媒を使用しないモデル燃焼室(アルミナのみ)を用意した。
【0029】
(比較例2)
触媒担持部位に、白金(Pt)をアルミナに対して3%担持させた以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、燃焼室に担持させ、焼成した。
【0030】
・燃焼反応実験
混合気として、メタンと酸素をCH:O=1:2のモル比で混合し使用した。 混合気は、燃焼室内を100cc/min程度の流速で、空気過剰率λ=1となるように調整して触媒に供給した。
混合気を10℃/minで昇温させ、400℃,500℃,600℃,700℃,800℃におけるCH転化率を測定した。結果を表1及び図3のグラフに示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1及び図3のグラフより、比較例1のアルミナのみの燃焼室では、混合気の温度上昇とともにメタン転化率は徐々に増加し、700℃から800℃の間でメタン転化率が20%を超えて一気に100%となっていることがわかる。
これはアルミナのみでは触媒活性が低いために表面反応が進行せずに高いメタン濃度が維持され、所定温度を超えると気相反応が進行するためである。
このような急激な気相反応の進行がノッキングに影響を与えていると考えられる。
【0033】
また、比較例2では、400℃から転化し,500℃の間ではメタン転化率が100%となっていることがわかる。
これは貴金属を添加すると触媒活性が向上しすぎて低温域からメタンを消費してしまうため、内燃機関としての効率が低下するためである。
【0034】
これに対して、実施例1〜3のように、アルミナに卑金属系酸化触媒を一部担持させた場合は、徐々に増加するメタン転化率に急激な増加は見られなかった。
これは卑金属系酸化触媒の添加により触媒活性が適度に増加し、表面反応によりメタンが消費されるために急激な気相反応には至らないことによる。
【0035】
以上の結果から、本発明の内燃機関では、緩慢な燃焼が行われ、気相反応の進行が抑制されることによりノッキングを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】卑金属系酸化触媒を配設した燃焼室の一例を示す概略断面図である。
【図2】反応部を示す概略図である。
【図3】各実施例におけるメタン転化率の温度依存性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッド内壁とピストンヘッドによって形成される燃焼室を備えた内燃機関であって、
上記燃焼室に点火プラグを配設し、ピストンが上死点にあるときに該プラグから最も離れる部位及び/又はその近傍に卑金属系酸化触媒を配設したことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
シリンダヘッド内壁とピストンヘッドによって形成される燃焼室を備えた内燃機関であって、
シリンダヘッド内壁とピストンヘッドが接触して成る角部及び/又はその近傍に卑金属系酸化触媒を配設したことを特徴とする内燃機関。
【請求項3】
上記卑金属系酸化触媒が700℃以下で混合ガスの酸化反応を開始させ得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関。
【請求項4】
上記卑金属系酸化触媒が500〜700℃で混合ガスの酸化反応を開始させ得ることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関。
【請求項5】
上記卑金属系酸化触媒が600〜700℃で混合ガスの酸化反応を開始させ得ることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関。
【請求項6】
上記卑金属系酸化触媒が、コバルト、クロム、マンガン及び銅から成る群より選ばれた少なくとも1種のものを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の内燃機関。
【請求項7】
上記卑金属系酸化触媒が、アルミナ、チタニア、シリカ、イットリア、ジルコニア及びセリアから成る群より選ばれた少なくとも1種の多孔質無機担体に担持されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−336519(P2006−336519A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161203(P2005−161203)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】