説明

内燃機関

【課題】この発明は、PCV機構とアルコール吸着材とを組合わせることにより、システムの構成や制御を簡略化することを目的とする。
【解決手段】アルコール燃料を用いるエンジン10は、クランクケース38内のガスを吸気通路18に還流させるPCV通路40と、PCV通路40に設けられたPCVバルブ42と、PCVバルブ42に内蔵されたアルコール吸着材44とを備える。アルコール吸着材44は、周囲の圧力雰囲気に応じてアルコールを吸着,脱離させる機能を有する。これより、PCVバルブ42を用いてアルコール吸着材44に作用する負圧を制御し、ガス中のアルコールを吸着材44に吸着させたり、吸着したアルコールを脱離させて筒内に供給することができる。従って、ガソリンとアルコールの噴射系統をそれぞれ個別に用意しなくてもよいので、システムの構成や制御を簡略化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール燃料を用いる内燃機関に関し、特に、PCV機構を備えた内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1(特開2009−138569号公報)に開示されているように、アルコール燃料とガソリンからなる2種類の燃料を併用する内燃機関が知られている。従来技術の内燃機関は、これら2種類の燃料をそれぞれ貯留する2つの燃料タンクと、各燃料をそれぞれ吸気通路に噴射する2つの燃料噴射弁とを備えている。そして、内燃機関の運転時は、2つの燃料の噴射比率を運転状態に応じて可変に設定し、始動性の確保等を図るようにしている。
【0003】
一方、他の従来技術として、特許文献2(特開2008−215214号公報)、特許文献3(特開2009−257222号公報)等には、クランクケース内のブローバイガスを吸気通路に還流させるPCV(Positive Crankcase Ventiration)機構を備えた内燃機関が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−138569号公報
【特許文献2】特開2008−215214号公報
【特許文献3】特開2009−257222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の従来技術では、ガソリンとアルコールのそれぞれに対応して燃料タンクと燃料噴射弁を2つずつ用意し、これら2種類の燃料を所望の比率で混合させた混合気を形成するようにしている。しかしながら、この構成では、混合気を形成するシステムが大型で複雑なものとなる。また、各燃料タンク内に貯留された燃料の残量等を考慮しながら燃料噴射を行う必要が生じる。このため、従来技術では、燃料噴射系統の構成や制御が複雑化し、システムの信頼性が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、PCV機構を利用して吸気系にアルコールを供給することにより、システムの構成や制御を簡略化し、信頼性を向上させることが可能な内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、筒内にアルコール燃料を噴射する筒内噴射弁と、
クランクケース内のガスを吸気通路に還流させるPCV通路と、
前記PCV通路に設けられた流量制御弁であって、前記PCV通路を流れるガスの量を調整するPCVバルブと、
前記PCV通路を流れるガス中のアルコールを吸着する機能と吸着したアルコールを脱離させる機能とを有する吸着材であって、周囲の圧力雰囲気に応じて機能が切換わるアルコール吸着材と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
第2の発明によると、前記PCVバルブは、前記アルコール吸着材を内蔵した吸着材一体型のバルブにより構成している。
【0009】
第3の発明によると、前記アルコール吸着材は、加圧状態において前記ガス中のアルコールを吸着し、吸着したアルコールを減圧状態において脱離させる機能を有し、かつ、前記アルコール吸着材を前記PCVバルブの閉弁時にも前記クランクケース内のガスと接触する位置に設ける構成としている。
【0010】
第4の発明は、始動してから暖機が完了するまでの間に前記PCVバルブの開度を制限し、前記ガスの還流量を最低限に抑制する暖機前PCV抑制手段と、
暖機が完了した状態において、前記アルコール吸着材に吸着されたアルコールを筒内に供給する必要があるか否かを、運転状態に基いて判定するアルコール要求判定手段と、
前記アルコール要求判定手段によりアルコールの供給が不要であると判定された場合に前記PCVバルブを閉弁し、アルコールの供給が必要であると判定された場合に前記PCVバルブを開弁するアルコール供給制御手段と、
を備える。
【0011】
第5の発明によると、前記アルコール要求判定手段は、ノッキングが発生し易い運転領域において、アルコールの供給が必要であると判定する構成としている。
【0012】
第6の発明によると、前記アルコール供給制御手段は、前記アルコール要求判定手段によりアルコールの供給が必要であると判定された場合に、ノッキングの強度に基いて前記PCVバルブの開度を制御する構成としている。
【0013】
第7の発明によると、前記アルコール要求判定手段は、高負荷でのアイドル運転時にアルコールの供給が必要であると判定する構成としている。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、PCV通路、PCVバルブ及びアルコール吸着材を組合わせることにより、PCVバルブを用いてアルコール吸着材に作用する負圧を制御することができる。これにより、ガス中に含まれるアルコールを所望のタイミングでアルコール吸着材に吸着させることができる。そして、吸着されたアルコールを必要に応じて吸着材から脱離させ、筒内に供給することができる。この結果、混合気のアルコール濃度を運転状態に応じて適切に制御することができる。従って、従来技術のように、ガソリンとアルコールの噴射系統をそれぞれ個別に用意しなくてもよいので、システムの構成や制御を簡略化し、信頼性を向上させることができる。
【0015】
第2の発明によれば、アルコール吸着材を内蔵した吸着材一体型のPCVバルブを用いることができる。これにより、システムの部品点数を削減し、システムをコンパクトに構成することができる。
【0016】
第3の発明によれば、PCVバルブを全閉した場合には、クランクケース側の高い圧力をアルコール吸着材に作用させることができる。この状態では、ガス中のアルコールを吸着材に吸着させて蓄えることができる。また、PCVバルブを開弁した場合には、アルコール吸着材に吸気負圧を作用させつつ、ガスの流れを発生させることができる。これにより、吸着材からアルコールを脱離させ、このアルコールを筒内に供給することができる。
【0017】
第4の発明によれば、暖機前PCV抑制手段は、始動から暖機完了までの半暖機状態において、クランクケース内のガスを吸気系へと適度に還流させつつ、始動直後の空燃比を安定させることができる。アルコール供給制御手段は、筒内へのアルコール供給が不要な場合に、PCVバルブを閉弁することができる。また、アルコール供給が必要な場合には、PCVバルブを開弁することができる。これにより、混合気のアルコール濃度を適切に制御することができる。
【0018】
第5の発明によれば、ノッキングが発生し易い運転領域では、混合気のアルコール濃度を上昇させ、ノッキングの発生を効果的に抑制することができる。また、ノッキングが発生した場合でも、その強度を低下させることができる。
【0019】
第6の発明によれば、ノック強度に応じて筒内へのアルコールの供給量(混合気のアルコール濃度)を適切に制御し、必要最低限のアルコール供給量によってノッキングを的確に抑制することができる。
【0020】
第7の発明によれば、燃費が悪化し易い高負荷でのアイドル運転時には、混合気のアルコール濃度が上昇させることができる。これにより、燃費の悪化を抑制し、車両の燃費性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1おいて、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
以下、図1及び図2を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。本実施の形態のシステムは、例えばFFV(Flexible Fuel Vehicle)に搭載される内燃機関としてのエンジン10を備えており、エンジン10は、アルコールとガソリンが混合されたアルコール燃料を用いて作動する。エンジン10の各気筒には、ピストン12が設けられており、ピストン12により燃焼室14が画成されている。ピストン12は、エンジンの出力軸であるクランク軸16に連結されている。また、エンジン10は、各気筒に吸入空気を吸込む吸気通路18と、各気筒から排気ガスが排出される排気通路20とを備えている。吸気通路18は各気筒の吸気ポートに接続されており、排気通路20は各気筒の排気ポートに接続されている。
【0023】
また、吸気通路18には、吸入空気量を検出するエアフローセンサ22と、電子制御式のスロットルバルブ24とが設けられている。スロットルバルブ24は、アクセル開度等に基いてスロットルモータ26により駆動され、吸入空気量を増減させる。一方、排気通路20には、排気ガスを浄化する触媒28が設けられている。また、各気筒には、燃焼室14内(筒内)にアルコール燃料を噴射する燃料噴射弁30と、筒内の混合気に点火する点火プラグ32と、吸気ポートを筒内に対して開,閉する吸気バルブ34と、排気ポートを筒内に対して開,閉する排気バルブ36とが設けられている。
【0024】
また、エンジン10は、吸気通路18とクランクケース38との間に設けられたPCV機構を備えている。このPCV機構は、クランクケース38内のブローバイガスを吸気通路18に還流させるPCV通路40と、PCV通路40に設けられたPCVバルブ42と、PCVバルブ42に内蔵されたアルコール吸着材44とを備えている。ここで、PCV通路40の上流部40Aはクランクケース38に接続され、下流部40Bは吸気通路18に接続されている。
【0025】
PCVバルブ42は、例えば一般的に公知な電動式の流量制御弁により構成されている。具体的に述べると、PCVバルブ42は、内部にガス流路が設けられたハウジングと、このハウジング内に変位可能に配置され、前記ガス流路を開,閉する弁体と、この弁体を閉弁方向に常時付勢する戻しばねと、前記弁体を電磁気的に吸引して開弁させるアクチュエータとを備えている。また、ハウジング内のガス流路は、PCV通路40の上流部40Aと下流部40Bとの間に接続され、PCV通路40の一部を構成している。
【0026】
そして、PCVバルブ42の弁体は、アクチュエータに入力される制御信号に応じて全閉位置と全開位置との間で任意の開度に駆動され、この開度に応じて前記ガス通路の流路面積が変化する。これにより、PCVバルブ42は、後述のECU60から入力される制御信号に応じて、PCV通路40を流れるガスの量を調整するように構成されている。また、PCVバルブ42は、PCV通路40の上流部40A及びアルコール吸着材44に作用する吸気負圧を調整する。なお、図1では、PCVバルブ42とアルコール吸着材44を判り易くするために、これらを他の構造物よりも拡大して記載している。
【0027】
PCVバルブ42は、アルコール吸着材44を内蔵した吸着材一体型のバルブとして構成されている。アルコール吸着材44は、PCV通路40を流れるブローバイガス中のアルコール蒸気を吸着するもので、アルコールに対して高い吸着性能を有する一般的に公知な吸着材料により構成されている。また、アルコール吸着材44は、周囲の圧力雰囲気に応じてアルコールの吸着及び脱離を行う機能を有している。具体的に述べると、アルコール吸着材44は、周囲の圧力が基準圧力(例えば大気圧)より高い加圧状態において、ガス中のアルコールを吸着する。また、周囲の圧力が基準圧力よりも低い減圧状態では、アルコール吸着材44に吸着されていたアルコールが脱離する構成となっている。
【0028】
また、アルコール吸着材44は、PCVバルブ42のハウジング内で弁体よりもクランクケース38側の位置に配設されている。この位置は、PCVバルブ42が全閉した状態でも、PCV通路40の上流部40Aを介してクランクケース38内の空間と連通する位置である。このため、アルコール吸着材44は、PCVバルブ42の全閉時にも、クランクケース38内のブローバイガスと接触するようになっている。なお、本実施の形態では、アルコール吸着材44をPCVバルブ42の内部に配置する構成としたが、本発明はこれに限らず、アルコール吸着材をPCVバルブ42とは別部品として形成し、このアルコール吸着材をPCV通路40の上流部40Aに設ける構成としてもよい。
【0029】
さらに、本実施の形態のシステムは、図1に示すように、クランク角センサ46、水温センサ48、ノックセンサ50等を含むセンサ系統と、エンジン10の運転状態を制御するECU(Electronic Control Unit)60とを備えている。まず、センサ系統について説明すると、クランク角センサ46は、クランク軸16の回転に同期した信号を出力するもので、ECU60は、この出力に基いて機関回転数及びクランク角を検出することができる。また、水温センサ48は、エンジンの機関温度としてエンジン冷却水の温度(エンジン水温)を検出するもので、ノックセンサ50は、エンジン本体の振動等によりノッキングの発生を検出する。
【0030】
センサ系統には、前記センサ22,46〜50に加えて、エンジン10及びこれを搭載した車両の制御に必要な各種のセンサ(例えばアクセル開度を検出するアクセル開度センサ、排気空燃比を検出する空燃比センサ、燃料中のアルコール濃度を検出する燃料性状センサ等)が含まれており、これらのセンサはECU60の入力側に接続されている。また、ECU60には、例えばヘッドライトや空調装置の作動状態、自動変速機の変速レンジ等が入力され、これらの車載機器の作動状態を負荷として検出するように構成されている。一方、ECU60の出力側には、スロットルモータ26、燃料噴射弁30、点火プラグ32、PCVバルブ42等を含む各種のアクチュエータが接続されている。
【0031】
そして、ECU60は、エンジンの運転情報をセンサ系統により検出しつつ、各アクチュエータを駆動し、運転制御を実行する。具体的に述べると、クランク角センサ46の出力に基いてエンジン回転数とクランク角とを検出し、エアフローセンサ22の出力に基いて吸入空気量を算出する。また、吸入空気量、エンジン回転数等に基いてエンジンの負荷(負荷率)を算出し、クランク角に基いて燃料噴射時期等を決定し、吸入空気量、負荷等に基いて燃料噴射量を算出する。そして、燃料噴射時期が到来したときに燃料噴射弁30を駆動し、その後に点火プラグ32を駆動する。これにより、筒内で混合気を燃焼させ、エンジンを運転することができる。また、ECU60は、運転状態等に応じてPCVバルブ42を駆動し、その開度に基いてPCV通路40の上流部40A及びアルコール吸着材44に作用する負圧を制御する。これにより、ECU60は、以下に述べる制御を実行するものである。
【0032】
[実施の形態1の動作]
本実施の形態では、吸着材一体型のPCVバルブ42により通常のPCV制御を実行しつつ、ブローバイガス中のアルコール蒸気をアルコール吸着材44に吸着させる。そして、エンジンの暖機が完了した状態において、筒内へのアルコール供給が必要な場合には、ブローバイガスの流れを利用して、吸着材44に吸着されたアルコールを筒内に供給する構成としている。
【0033】
(PCV制御)
エンジンの運転中には、筒内に噴射された燃料の一部が筒内壁面とピストン12との摺動部を介してクランクケース38内に侵入し、この燃料が潤滑油中に混入する現象(オイル希釈)が生じ易い。特に、筒内噴射型のエンジン10では、噴射燃料が筒内壁面に付着し易いので、オイル希釈が顕著に発生する。オイル希釈が生じると、潤滑油の劣化が進行し易くなる。このため、PCV制御では、クランクケース38内に侵入した燃料を含むブローバイガスを吸気系に還流させ、オイル希釈を抑制する。具体的には、例えばエンジンの運転状態に基いてオイル希釈の度合いが大きいと推定される場合に、PCVバルブ42を開弁し、クランクケース38側に作用する吸気負圧を制御することにより、ブローバイガスをPCV通路40から吸気通路18に吸引する。このとき、ガスの還流量は、燃焼制御に大きな影響を与えないように、PCVバルブ42の開度に基いて適切に制御される。
【0034】
PCV制御の具体例を挙げると、本実施の形態では、例えばエンジンが冷間始動されてから暖機が完了するまでの間に、PCVバルブ42の開度を規定の小開度に制限し、ブローバイガスの還流量を最低限に抑制する。冷間始動から暖機完了までの間は、エンジンが半暖機状態であり、クランクケース38内の温度が上昇するのに伴ってブローバイガスが急速に発生するので、このガスを吸気系に還流させるのが好ましい。その一方で、半暖機状態では、まだ燃焼が完全に安定していないので、ブローバイガスにより空燃比が乱れて排気エミッションが悪化するのを回避したい。このため、上述した規定の小開度は、空燃比を乱さない範囲で、半暖機時に必要な最低限の還流量を確保するように設定される。従って、上記制御によれば、始動から暖機完了までの半暖機状態において、ブローバイガスを適度に還流させつつ、始動時の空燃比制御を安定的に行うことができる。
【0035】
(アルコール供給制御)
この制御は、暖機完了後にPCV制御と並行して行われるもので、筒内での燃焼時にアルコールが必要となった場合に、アルコール吸着材44に吸着されたアルコールを筒内に供給するものである。アルコール吸着材44は、前述したように、加圧状態においてブローバイガス中のアルコール蒸気を吸着し、吸着したアルコールを減圧状態において脱離させる機能を有している。このため、アルコール供給制御では、まず、例えば筒内へのアルコール供給が不要となり、かつ、PCV制御を中断しても問題ない運転状態において、PCVバルブ42を全閉する。PCVバルブ42を全閉した状態では、暖機の完了により上昇したクランクケース38内の高い圧力がPCV通路40を介してアルコール吸着材44に作用する。この結果、アルコール吸着材44は、加圧雰囲気下でPCV通路40内のブローバイガスと接触するので、ガス中のアルコール蒸気を吸着するようになる。従って、筒内へのアルコール供給が不要な場合には、PCVバルブ42を全閉し、ブローバイガス中のアルコールを吸着材44に蓄えることができる。
【0036】
また、アルコール供給制御では、例えば筒内へのアルコール供給が必要となり、かつ、PCV制御を実行しても問題ない運転状態において、PCVバルブ42を開弁する。PCVバルブ42を開弁した状態では、PCV通路40内に吸気負圧が作用し、ブローバイガスの流れが生じる。この結果、アルコール吸着材44に蓄えられていたアルコールは、減圧雰囲気下で吸着材44から脱離し、ブローバイガス中に放出される。そして、放出されたアルコールは、ブローバイガスと共に吸気通路18に流入し、筒内に供給されて燃焼に寄与する。従って、筒内へのアルコール供給が必要な場合には、PCVバルブ42を開弁し、吸着材44からアルコールを筒内に供給することができる。そして、アルコールの供給時には、PCVバルブ42の開度に基いてアルコールの供給量(流量)を調整し、混合気のアルコール濃度を適切に制御することができる。
【0037】
次に、筒内へのアルコール供給が必要となる場合の具体的な例について説明する。本実施の形態では、例えばノッキングが発生し易い運転領域(ノック領域)での運転が行われた場合や、高負荷でのアイドル運転が行われた場合に、筒内へのアルコール供給が必要であると判定する。まず、ノック領域での運転について説明すると、ECU60には、例えばエンジン回転数と負荷とに基いてノック領域を判定するためのマップデータが予め記憶されている。ノック領域の一例を挙げれば、高負荷や高出力での運転領域である。そして、ECU60は、前記マップデータに基いてノック領域での運転を検出した場合に、筒内へのアルコール供給が必要であると判定し、PCVバルブ42を開弁する。
【0038】
ここで、筒内で混合気が燃焼するときの燃焼温度や燃焼速度は、混合気のアルコール濃度が高いほど低下する。従って、ノック領域において、アルコール吸着材44から筒内にアルコールを供給すれば、混合気のアルコール濃度を上昇させ、ノッキングの発生を効果的に抑制することができる。また、ノッキングが発生した場合でも、その強度を低下させることができる。また、ECU60は、ノック領域において、ノックセンサ50の出力に基いてノッキングの強度(ノック強度)を検出する。そして、ノック強度が大きいほど、PCVバルブ42の開度を大きくする。この制御によれば、ノック強度に応じてアルコールの供給量(混合気のアルコール濃度)を適切に制御し、必要最低限のアルコール供給量によってノッキングを的確に抑制することができる。
【0039】
なお、本実施の形態では、ノックセンサ50により検出したノック強度に基いて、PCVバルブ42の開度を制御する場合を例示した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばノックセンサ50を使用せずに、運転領域に基いてPCVバルブ42の開度を制御する構成としてもよい。そして、この場合には、運転領域とノック強度との間に相関があることを利用して、例えば運転領域に基いてPCVバルブ42の開度を決定するマップデータを使用すればよい。
【0040】
一方、アルコール供給制御では、高負荷でのアイドル運転が行われた場合に、筒内へのアルコール供給が必要であると判定し、PCVバルブ42を開弁(全開)する。高負荷でのアイドル運転とは、一例を挙げれば、ヘッドライドや空調装置を作動させたり、自動変速機の変速レンジをDレンジに切換えた状態でのアイドル運転である。このような運転状態では、エンジンの燃費が悪化し易いので、混合気のアルコール濃度が上昇させ、燃費の悪化を抑制する。これにより、車両の燃費性能を向上させることができる。
【0041】
[実施の形態1を実現するための具体的な処理]
図2は、本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、エンジンの運転中に繰返し実行されるものとする。図2に示すルーチンでは、まず、センサ系統の出力に基いてエンジンの運転情報の読込み及び算出を実行する(ステップ100)。この運転情報には、少なくともエンジン回転数、クランク角、吸入空気量、エンジン水温、負荷、ノッキングの有無及び強度等が含まれている。
【0042】
次の処理では、エンジンの暖機が完了したか否かを判定する(ステップ102)。具体的には、例えばエンジン水温が50℃程度の判定温度よりも高いか否かを判定する。この判定が不成立の場合には、半暖機状態であるから、PCVバルブ42の開度を規定の小さな開度に制御し、そのまま終了する(ステップ104)。一方、ステップ102の判定が成立した場合には、暖機が完了しているので、前述したようにエンジン回転数と負荷とに基いてマップデータを参照し、現在の運転領域がノック領域であるか否かを判定する(ステップ106)。
【0043】
そして、現在の運転領域がノック領域である場合には、PCVバルブ42を開弁しつつ、その開度をノック強度に基いて制御する(ステップ108)。これにより、PCVバルブ42の開度に応じた量のアルコールがアルコール吸着材44から吸気通路18に供給される。また、現在の運転領域が非ノック領域である場合には、PCVバルブ42を全閉する(ステップ110)。これにより、アルコール吸着材44には、ブローバイガス中のアルコールが吸着される。なお、ステップ110において、PCV制御によりPCVバルブ42の開弁要求が発生した場合には、必要に応じてPCVバルブ42を開弁してもよい。
【0044】
次の処理では、高負荷でのアイドル運転が行われているか否かを判定する(ステップ112)。そして、この判定が成立した場合には、PCVバルブ42を全開し、筒内にアルコールを供給する(ステップ114)。また、ステップ114の判定が不成立の場合には、PCVバルブ42を全閉し、アルコール吸着材44にアルコールを吸着させる(ステップ116)。この場合にも、必要に応じてPCVバルブ42を開弁してもよい。
【0045】
以上詳述した通り、本実施の形態によれば、PCV機構とアルコール吸着材44とを組合わせることにより、PCVバルブ42を用いてアルコール吸着材44に作用する負圧を制御することができる。これにより、ブローバイガス中に含まれるアルコールを所望のタイミングでアルコール吸着材44に吸着させることができる。そして、吸着されたアルコールを必要に応じて吸着材44から脱離させ、筒内に供給することができる。この結果、混合気のアルコール濃度を運転状態に応じて適切に制御し、高出力運転や経時劣化によるノッキングの発生を抑制したり、車両の燃費性能を向上させることができる。
【0046】
従って、従来技術のように、ガソリンとアルコールの噴射系統をそれぞれ個別に用意しなくても、混合気のアルコール濃度を制御することができるので、システムの構成や制御を簡略化し、信頼性を向上させることができる。特に、アルコール吸着材44をPCVバルブ42に内蔵することにより、システムの部品点数を削減し、システムをコンパクトに構成することができる。
【0047】
なお、前記実施の形態では、図2中のステップ104が請求項4における暖機前PCV抑制手段の具体例を示し、ステップ106,112がアルコール要求判定手段の具体例を示し、ステップ108,110,114,116がアルコール供給制御手段の具体例を示している。
【符号の説明】
【0048】
10 エンジン
12 ピストン
14 燃焼室
16 クランク軸
18 吸気通路
20 排気通路
22 エアフローセンサ
24 スロットルバルブ
26 スロットルモータ
28 触媒
30 燃料噴射弁
32 点火プラグ
34 吸気バルブ
36 排気バルブ
38 クランクケース
40 PCV通路
40A 上流部
40B 下流部
42 PCVバルブ
44 アルコール吸着材
46 クランク角センサ
48 水温センサ
50 ノックセンサ
60 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒内にアルコール燃料を噴射する筒内噴射弁と、
クランクケース内のガスを吸気通路に還流させるPCV通路と、
前記PCV通路に設けられた流量制御弁であって、前記PCV通路を流れるガスの量を調整するPCVバルブと、
前記PCV通路を流れるガス中のアルコールを吸着する機能と吸着したアルコールを脱離させる機能とを有する吸着材であって、周囲の圧力雰囲気に応じて機能が切換わるアルコール吸着材と、
を備えることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記PCVバルブは、前記アルコール吸着材を内蔵した吸着材一体型のバルブにより構成してなる請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記アルコール吸着材は、加圧状態において前記ガス中のアルコールを吸着し、吸着したアルコールを減圧状態において脱離させる機能を有し、かつ、前記アルコール吸着材を前記PCVバルブの閉弁時にも前記クランクケース内のガスと接触する位置に設ける構成としてなる請求項1または2に記載の内燃機関。
【請求項4】
始動してから暖機が完了するまでの間に前記PCVバルブの開度を制限し、前記ガスの還流量を最低限に抑制する暖機前PCV抑制手段と、
暖機が完了した状態において、前記アルコール吸着材に吸着されたアルコールを筒内に供給する必要があるか否かを、運転状態に基いて判定するアルコール要求判定手段と、
前記アルコール要求判定手段によりアルコールの供給が不要であると判定された場合に前記PCVバルブを閉弁し、アルコールの供給が必要であると判定された場合に前記PCVバルブを開弁するアルコール供給制御手段と、
を備えてなる請求項3に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記アルコール要求判定手段は、ノッキングが発生し易い運転領域において、アルコールの供給が必要であると判定する構成としてなる請求項4に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記アルコール供給制御手段は、前記アルコール要求判定手段によりアルコールの供給が必要であると判定された場合に、ノッキングの強度に基いて前記PCVバルブの開度を制御する構成としてなる請求項5に記載の内燃機関。
【請求項7】
前記アルコール要求判定手段は、高負荷でのアイドル運転時にアルコールの供給が必要であると判定する構成としてなる請求項4乃至6のうち何れか1項に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−226349(P2011−226349A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95782(P2010−95782)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】