説明

内燃機関

【課題】 シリンダの内部(筒内)に燃料を直接噴射する燃料噴射装置を該筒内に直接設けることなく、性能向上を図る。
【解決手段】 燃料が吸気行程中に吸気開口に到達するように燃料が噴射される第1インジェクタ10及び第2インジェクタ25から燃料を独立して噴射し、燃料の気化の促進と燃料の成層化の維持を任意に調整して両立し、吸気行程中に吸気バルブ7が開く時期の吸気開口への燃料到達の状態を的確に制御して、冷態時から暖気後の中・高速の高負荷運転時までの広い運転状態の範囲で、燃焼室6の内部に燃料を直接噴射した場合の性能を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気通路への燃料の噴射状態を的確に設定することで、シリンダの内部(筒内)に燃料を直接噴射する燃料噴射装置を該筒内に直接設けることなく、性能向上を図ることができる内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(エンジン)として、シリンダの内部(筒内)に備えられ筒内に燃料を直接噴射する直噴インジェクタと、吸気通路に燃料を噴射するポート噴射インジェクタとを備えたエンジンが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
直噴インジェクタとポート噴射インジェクタとを備えたエンジンでは、直噴インジェクタから筒内に高圧の燃料を直接噴射することで、燃料の気化潜熱を吸気の冷却に利用し、混合気の温度を下げてノッキングの発生を抑制することができる。更に、吸気の冷却により空気密度を高くできるので、全負荷時の吸入空気量を増大させて性能を向上させることができる。また、ポート噴射インジェクタから吸気通路に燃料を噴射することで、滞留時間が確保され混合気の均質化を促進することができる。
【0004】
しかし、直噴インジェクタとポート噴射インジェクタとを備えたエンジンでは、筒内に装着された直噴インジェクタの先端が、高温・高圧の燃焼ガスに曝されてしまう。このため、混合気の均質化を促進するためにポート噴射インジェクタから燃料を噴射する場合であっても、直噴インジェクタの先端を燃料噴射の冷却作用によって冷却するために、直噴インジェクタから燃料の噴射を継続する必要があり、ポート噴射インジェクタだけから燃料噴射を行うことができないのが現状であった。また、直噴インジェクタから噴射した燃料の一部は十分に気化する前に燃焼したり、燃焼室壁に衝突し、液膜となった状態で燃焼するため、粒子状物質の排出が多いという問題があった。さらに、直噴インジェクタからは高圧で燃料を噴射する必要があるため、高圧ポンプの動力損失が性能に影響を及ぼす虞があった。
【0005】
また、直噴を行うには耐温・耐圧性を有するインジェクタや高圧燃料ポンプ、専用インジェクタドライバなどが必要となり、燃料噴射系のコストが嵩んでしまう問題があった。
【0006】
また、直噴インジェクタは耐温性・耐圧性の確保が必要になり、更に、先端が燃焼ガスに曝されるため、燃焼生成物や燃料の炭化により、運転条件によってはデポジットが堆積しやすく、デポジット対策が必要になっていた。このため、直噴インジェクタを備えた内燃機関では、燃料噴射系のコストが嵩んでしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−228447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、シリンダの内部に燃料を直接噴射する直噴インジェクタをシリンダの内部に備えることなく、吸気行程中に吸気バルブが開く時期の吸気開口への燃料到達の状態を的確に制御することで、冷態時から暖気後の中・高速の高負荷運転時までの広い運転状態の範囲で、シリンダの内部に燃料を直接噴射した場合の性能を維持し、高い性能を得ることができる内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の内燃機関は、吸気通路と筒内とを連通する吸気開口と、燃料を吸気通路内に噴射する第1インジェクタと、吸気通路での噴射燃料の滞留時間が前記第1インジェクタのものより長くなるように該第1インジェクタによる燃料噴射とは独立して燃料を吸気通路内に噴射する第2インジェクタと、少なくとも吸気行程で前記第1インジェクタから燃料を噴射させて噴射された燃料が吸気行程中に前記吸気開口に到達するようにすると共に、噴射された燃料が吸気行程中に前記吸気開口に到達するように前記第2インジェクタから燃料を噴射させる燃料噴射制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項1に係る本発明では、燃料が吸気行程中に吸気開口に到達するように燃料が噴射される第1インジェクタ、及び、噴射燃料の滞留時間が第1インジェクタよりも長くなる第2インジェクタから燃料を独立して噴射することで、燃料の気化の促進と燃料の成層化の維持を任意に調整して両立することができ、吸気行程中に吸気バルブが開く時期の吸気開口への燃料到達の状態を的確に制御して、冷態時から暖気後の中・高速の高負荷運転時までの広い運転状態の範囲で、シリンダの内部に燃料を直接噴射した場合の性能を維持し、高い性能を得ることが可能になる。
【0011】
第1インジェクタは、少なくとも吸気行程で燃料が噴射され、始動時等の冷態状態では、成層燃焼のための燃料を供給することが好ましい。また、中・高速の高負荷状態では、可能な限り必要とされる燃料量のうち、全量または大部分を供給することが好ましい。第2インジェクタは、排気行程で燃料が噴射されることが好ましく、始動時等の冷態状態では、燃料の気化を促進し、中・高速の高負荷状態では、第1インジェクタから供給しきれなかった燃料を供給することが好ましい。
【0012】
そして、請求項2に係る本発明の内燃機関は、請求項1に記載の内燃機関において、機関の運転状態を判断する運転状態判断手段を備え、前記燃料噴射制御手段は、前記運転状態判断手段の判断に応じて前記第1インジェクタからの燃料の噴射、及び、前記第2インジェクタからの燃料の噴射を制御することを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る本発明では、運転状態判断手段で判断された機関の運転状態に応じて、燃料が吸気行程中に吸気開口に到達するように燃料が噴射される第2インジェクタから燃料を噴射すると共に、第1インジェクタから燃料を噴射することができる。
【0014】
また、請求項3に係る本発明の内燃機関は、請求項1又は2に記載の内燃機関において、前記燃料噴射制御手段は、吸気行程よりも前の行程で前記第2インジェクタから燃料を噴射させることを特徴とする。
【0015】
請求項2に係る本発明では、吸気行程よりも前の行程である排気行程で第2インジェクタから燃料を噴射させることができる。燃料が吸気行程中に吸気開口に到達するように燃料を噴射することができれば、吸気ポートの状況により、排気行程より前の行程で第2インジェクタから燃料を噴射させることもできる。
【0016】
また、請求項4に係る本発明の内燃機関は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の内燃機関において、前記機関の吸気バルブ及び排気バルブの開閉時期が変更され、前記排気バルブが閉じる前に前記吸気バルブが開く状態のバルブオーバーラップ期間を形成するバルブ開閉時期変更手段を備え、前記燃料噴射制御手段は、前記バルブ開閉時期変更手段により形成された前記バルブオーバーラップ期間の後に、前記第1インジェクタ及び前記第2インジェクタからの燃料が前記吸気開口に到達するように、前記第1インジェクタ及び前記第2インジェクタから燃料を噴射させることを特徴とする。
【0017】
請求項4に係る本発明では、バルブオーバーラップ期間の後に、即ち、排気バルブが閉じた後に、前記第1インジェクタ及び前記第2インジェクタからの燃料が吸気開口に到達するように燃料を噴射させるので、排気通路への燃料の吹き抜けをなくすことができる。
【0018】
また、請求項5に係る本発明の内燃機関は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関において、前記燃料噴射制御手段は、前記運転状態判断手段により前記機関が始動・暖気運転状態、もしくは、中高速・高負荷運転状態であると判断された際に、前記第1インジェクタ及び前記第2インジェクタから燃料を噴射させることを特徴とする。
【0019】
請求項5に係る本発明では、冷態時等で燃料が十分に気化できない虞があると判断された場合、燃料が吸気行程中に吸気開口に到達するように燃料が噴射される第2インジェクタから燃料を噴射すると共に、第1インジェクタから燃料を噴射することで、第2インジェクタから噴射された燃料が吸気開口に到達するまでに燃料の気化が促進されてシリンダの内部に送られ、第1インジェクタから噴射された燃料の成層燃焼が確保される。これにより、燃焼の安定性を維持した状態で、未燃HCやPM(粒子状物質)の増大を抑制することができ、また、エンジンオイルの希薄化の発生を抑制することができる。
【0020】
また、例えば、第2インジェクタから噴射された燃料が吸気開口に到達した後に第1インジェクタから燃料を噴射することで、直噴と同様に濃淡のある混合気を形成することが可能となる。その結果、濃い部分では不完全燃焼により一酸化炭素が多く発生する一方で、淡い部分では酸素が余るため、排気管に排出された一酸化炭素と酸素が排気浄化触媒で酸化反応を起こし発熱するため、触媒の早期昇温効果が得られる。
【0021】
また、請求項5に係る本発明では、中・高速の高負荷運転時であると判断された場合、燃料が吸気行程中に吸気開口に到達するように燃料が噴射される第2インジェクタから燃料を噴射すると共に、第1インジェクタから燃料を噴射することで、多くの燃料を必要とする運転状態に対応する燃料を一回の行程で噴射することができる。これにより、次行程への燃料の持ち越しが生じる虞がなくなり、燃料の吹き抜けを抑えて未燃HCの増大をなくすと共に、燃料の気化を促進してPM(粒子状物質)の増大を抑制することができる。
【0022】
また、請求項6に係る本発明の内燃機関は、請求項5に記載の内燃機関において、前記燃料噴射制御手段は、前記運転状態判断手段により、前記機関が始動・暖気運転状態であると判断された場合、前記第1インジェクタの燃料噴射量に比べ、前記第2インジェクタの燃料噴射量を多くし、前記機関が中高速・高負荷運転状態であると判断された場合、前記第2インジェクタの燃料噴射量に比べ、前記第1インジェクタの燃料噴射量を多くするように、前記第1インジェクタ及び前記第2インジェクタから燃料を噴射させることを特徴とする。
【0023】
請求項6に係る本発明では、始動時等の冷態状態では、第2インジェクタの燃料噴射量を多くして気化が促進された燃料が多く供給され、中・高速の高負荷状態では、第1インジェクタの燃料噴射量を多くして大量の燃料がシリンダ内に供給される。
【0024】
また、請求項7に係る本発明の内燃機関は、請求項5又は6に記載の内燃機関において、前記燃料噴射制御手段は、前記運転状態判断手段により、前記機関が始動・暖気運転状態であると判断された場合、前記第2インジェクタから噴射された燃料が前記吸気開口に到達した後に前記第1インジェクタから燃料を噴射するように噴射時期が設定され、前記機関が中高速・高負荷運転状態であると判断された場合、前記第2インジェクタで噴射された燃料が前記吸気開口に到達する時期と、前記第1インジェクタで噴射された燃料が前記吸気開口に到達する時期が略同時になるように噴射時期が設定されていることを特徴とする。
【0025】
請求項7にかかる本発明では、始動・暖気運転状態の時には、第2インジェクタで噴射された燃料が吸気開口に到達し、その後に第1インジェクタで噴射された燃料が吸気開口に到達するので、第2インジェクタで噴射されて気化が促進された燃料を第1インジェクタで噴射された燃料でシリンダ内に押し込むことができ、第1インジェクタで噴射された燃料を点火プラグ周りに集めて燃焼を安定させることができると共に、濃淡の混合気を形成し燃焼後に一酸化炭素と酸素を触媒へ供給することで、早期昇温効果が得られる。
【0026】
また、中・高速の高負荷状態の時には、第2インジェクタで噴射された燃料が吸気開口に到達する時期と、第1インジェクタで噴射された燃料が吸気開口に到達する時期が略同時になるので、排気通路への燃料の吹き抜けを最小限に抑制することができる。
【0027】
また、請求項8に係る本発明の内燃機関は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の内燃機関において、前記第2インジェクタは、前記第1インジェクタの上流側の吸気通路に配されていることを特徴とする。
【0028】
請求項8に係る本発明では、第1インジェクタの上流側の吸気通路に第2インジェクタを配したので、第2インジェクタから噴射された燃料の吸気通路での滞留時間が確保され、燃料の気化を十分に促進することができる。
【0029】
第1インジェクタと第2インジェクタを流れ方向で吸気通路の同じ位置に配置し、第2インジェクタの噴射口を吸気通路の上流側に向けることも可能である。この場合、第2インジェクタから吸気通路の上流側に燃料が噴射され、吸気流により吸気開口側に送られることで、燃料の吸気通路での滞留時間が確保される。
【発明の効果】
【0030】
本発明の内燃機関は、シリンダの内部に燃料を直接噴射する直噴インジェクタをシリンダの内部に備えることなく、吸気行程中に吸気バルブが開く時期の吸気開口への燃料到達の状態を的確に制御することで、冷態時から暖気後の中・高速の高負荷運転時までの広い運転状態の範囲で、シリンダの内部に燃料を直接噴射した場合の性能を維持し、高い性能を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本本発明の一実施形態例に係る内燃機関の概略構成図である。
【図2】図1中の要部構成図である。
【図3】燃料噴射制御の概略ブロック図である。
【図4】燃料噴射の制御フローチャートである。
【図5】燃料噴射時期を説明する行程説明図である。
【図6】燃料噴射時期を説明する行程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1、図2に基づいて本発明の内燃機関を説明する。
【0033】
図1には本発明の一実施例に係る内燃機関の全体の概略構成、図2(a)には吸気ポート周りの側面状態の構成、図2(b)には吸気ポート周りの平面状態の構成を示してある。
【0034】
図1に示すように、内燃機関(エンジン)であるエンジン本体(以下、エンジンと称する)1のシリンダヘッド2には気筒毎に点火プラグ3が取り付けられ、点火プラグ3には高電圧を出力する点火コイル4が接続されている。シリンダヘッド2には気筒毎に吸気ポート5(吸気通路)が形成され、各吸気ポート5の燃焼室6側の吸気開口には吸気バルブ7がそれぞれ設けられている。吸気バルブ7は、エンジン回転に応じて回転するカムシャフト(図示省略)のカムに倣って開閉作動され、各吸気ポート5と燃焼室6との連通・遮断を行なうようになっている。
【0035】
各吸気ポート5には吸気マニホールド9の一端がそれぞれ接続され、各吸気ポート5に吸気マニホールド9が連通している。吸気マニホールド9(またはシリンダヘッド2)には電磁式の第1燃料噴射弁(第1インジェクタ)10が取り付けられ、燃料タンクから燃料パイプを介して第1インジェクタ10に燃料が供給される。
【0036】
吸気マニホールド9(またはシリンダヘッド2)の第1インジェクタ10の上流側には電磁式の第2燃料噴射弁(第2インジェクタ)25が取り付けられ、燃料タンクから燃料パイプを介して第2インジェクタ25に燃料が供給される。第1インジェクタ10及び第2インジェクタ25は、吸気ポート5内に独立して個別に燃料を噴射する。
【0037】
シリンダヘッド2には気筒毎に排気ポート11が形成され、各排気ポート11の燃焼室6側には排気バルブ12がそれぞれ設けられている。排気バルブ12は、エンジン回転に応じて回転するカムシャフト(図示省略)のカムに倣って開閉作動され、各排気ポート11と燃焼室6との連通・遮断を行うようになっている。そして、各排気ポート11には排気マニホールド13の一端がそれぞれ接続され、各排気ポート11に排気マニホールド13が連通している。
【0038】
尚、このようなエンジンは公知のものであるため、構成の詳細については省略してある。
【0039】
第1インジェクタ10、第2インジェクタ25の上流側における吸気マニホールド9には吸気管14が接続され、吸気管14には電磁式のスロットルバルブ15が取り付けられ、スロットルバルブ15の弁開度を検出するスロットルポジションセンサ16が設けられている。アクセルペダル61の踏み込み状態がアクセルポジションセンサ62で検出され、アクセルポジションセンサ62の検出情報に基づいてスロットルバルブ15が動作される。また、アクセルポジションセンサ62によりアクセルペダル61の踏み込みの解除(減速・下り坂走行)が検出される。
【0040】
スロットルバルブ15の上流側には吸入空気量を計測するエアフローセンサ17が設けられている。エアフローセンサ17としては、カルマン渦流式やホットフィルム式のエアフローセンサが使用される。また、吸気マニホールド9とスロットルバルブ15との間における吸気管14にはサージタンク18が設けられている。
【0041】
排気マニホールド13の他端には排気管20が接続され、排気マニホールド13には排気ガス循環ポート(EGRポート)21が分岐している。EGRポート21にはEGR管22の一端が接続され、EGR管22の他端はサージタンク18の上流部の吸気管14に接続されている。サージタンク18に近接するEGR管22にはEGRバルブ23が設けられ、EGRバルブ23が開かれることにより排気ガスの一部がEGR管22を介してサージタンク18の上流部の吸気管14に導入される。
【0042】
EGR装置は、排気ガスの一部をエンジン1の吸気系(サージタンク18)に還流させ、エンジン1の燃焼室6内の燃焼温度を低下させ、窒素酸化物(NOx)の排出量を低減させるための装置であり、EGRバルブ23が開閉動作されることにより開度に応じて所定のEGR率で排気ガスの一部がEGRガスとして吸気系に還流される。
【0043】
EGR装置により排気ガスをエンジン1の吸気系に還流させることにより、スロットルバルブ15で規制される空気量を減らすことができ、即ち、スロットルバルブ15を開いても大量の空気が流入することがなく、スロットルバルブ15の絞り損失を減少させることができる。また、低速、低回転領域であっても、燃焼室に流入する吸気に乱れを生じさせることができる。
【0044】
サージタンク18の上流部の吸気管14には過給機51が備えられ、過給機51はエンジン1の排気ガスが、排気マニホールド13に設けられた排気タービン51aを回転させ、排気タービン51aに直結した吸気コンプレッサ51bの作動により、吸気が加圧されて体積密度が高められ、加圧されて体積密度が高められた吸気が燃焼室6に送られる(過給される)。
【0045】
排気マニホールド13に接続された排気管20には、排気浄化触媒(例えば、三元触媒)55が介装され、排気浄化触媒55により排気ガスが浄化される。例えば、排気浄化触媒55では、排気空燃比が理論空燃比(ストイキ)近傍の時に排気ガス中の炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等が浄化される。また、排気空燃比が酸化雰囲気(リーン空燃比)になった際に、HCやCOが酸化・浄化されると共に、排気空燃比が還元雰囲気(リッチ空燃比)となるまで酸素(O)がストレージされ、リッチ空燃比となった際に、NOxが還元・浄化されると共に、ストレージされたOが放出され、HCやCOが酸化・浄化される。
【0046】
エンジン1には、吸気バルブ7及び排気バルブ12のリフト量及びリフト時期(バルブ動作状態)を任意に変更する可変動弁機構63が設けられ、可変動弁機構63によりカムの位相が変更される等して、吸気バルブ7及び排気バルブ12の動作状態が任意に設定される。また、エンジン1には、クランク角を検出してエンジン回転速度(Ne)を求めるクランク角センサ32、冷却水温を検出する水温センサ33が備えられている。
【0047】
ECU(電子コントロールユニット)31は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えている。このECU31により、エンジン1の総合的な制御が行われる。
【0048】
ECU31の入力側には、上述したスロットルポジションセンサ16、エアフローセンサ17、クランク角センサ32、水温センサ33、アクセルポジションセンサ62等の各種センサ類が接続され、これらセンサ類からの検出情報が入力される。また、ECU31には、可変動弁機構63の情報が入力され、吸気バルブ7及び排気バルブ12のリフト量及びリフト時期の情報が送られる。
【0049】
一方、ECU31の出力側には、上述の点火コイル4、スロットルバルブ15、第1インジェクタ10、第2インジェクタ25の駆動装置、EGRバルブ23、可変動弁機構63等の各種出力デバイスが接続されている。これら各種出力デバイスには、各種センサ類からの検出情報に基づきECU31で演算された燃料噴射量、燃料噴射期間、燃料噴射時期、点火時期、EGRバルブ23の操作時期・操作量、吸気バルブ7及び排気バルブ12の動作状態(バルブ動作状態)等がそれぞれ出力される。
【0050】
各種センサ類からの検出情報に基づき空燃比が適正な目標空燃比に設定され、目標空燃比に応じた量の燃料が適正なタイミングでインジェクタ10から噴射され、また、スロットルバルブ15が適正な開度に調整され、点火プラグ3により適正なタイミングで火花点火が実施される。
【0051】
本実施例のエンジン1は、吸気通路に第1インジェクタ10を備えると共に、第1インジェクタ10の上流側、即ち、第1インジェクタ10よりも燃料の噴射経路が長くなるように第2インジェクタ25を備え、第1インジェクタ10及び第2インジェクタ25から燃料を噴射させるようになっている(燃料噴射制御手段)。つまり、少なくとも吸気行程で第1インジェクタ10から燃料を噴射し、吸気行程の前である排気行程で第2インジェクタ25から燃料を噴射し、吸気バルブ7が開弁している時期に、噴射した燃料が吸気バルブ7の近傍(吸気開口)に到達するように制御される。
【0052】
つまり、燃料が吸気行程中に吸気開口に到達するように、制御性良く燃料が噴射される第1インジェクタ10、及び、吸気通路での滞留時間が確保され、燃料の気化を十分に促進することができるように燃料が噴射される第2インジェクタ25から、燃料を独立して噴射することができる。
【0053】
これにより、燃料の気化の促進と燃料の成層化の維持を任意に調整して両立することができ、吸気行程中に吸気バルブ7が開く時期の吸気開口への燃料到達の状態を的確に制御して、冷態時から暖気後の中・高速の高負荷運転時までの広い運転状態の範囲で、燃焼室6の内部に燃料を直接噴射した場合の性能を維持し、高い性能を得ることが可能になる。
【0054】
吸気バルブ7が開弁している時期に、噴射した燃料が吸気バルブ7の近傍(吸気開口)に到達するように、第1インジェクタ10及び第2インジェクタ25から燃料を噴射することにより、吸気ポート5や吸気バルブ7の傘部等への燃料の付着を抑制して燃料を供給することができ、燃料の気化潜熱を吸気の冷却に利用できる。
【0055】
このため、混合気の温度を下げてノッキングの発生を抑制すると共に、空気密度を高めて全負荷時の吸入空気量を増大させ、ポート噴射であっても、吸気冷却の効果を最大限に引き出すことができる。
【0056】
そして、本実施例のエンジン1は、運転状態を判断する運転状態判断手段を備え、運転状態判断手段の判断に応じて(エンジン1の運転状態に応じて)第1インジェクタ10からの燃料の噴射、及び、第2インジェクタ25からの燃料の噴射が制御される。
【0057】
図3から図6に基づいて燃料噴射の具体的な制御を説明する。
【0058】
図3には燃料噴射制御の制御ブロックの概略構成、図4には燃料噴射の制御フローチャート、図5には始動・暖気運転時の燃料噴射時期の行程説明、図6には高負荷運転時の燃料噴射時期の行程説明を示してある。
【0059】
図3に示すように、ECU31には、クランク角センサ32の検出情報によるエンジン回転速度(Ne)、エアフローセンサ17の検出情報、アクセルポジションセンサ62の検出情報、スロットルポジションセンサ16の検出情報、可変動弁機構63の情報による位相リフト情報(バルブ位相、バルブリフト)、車速情報が入力される。
【0060】
ECU31には、エンジン1の運転状態を判断する運転状態判断手段71が備えられ、運転状態判断手段71では各種の入力情報に応じて、例えば、始動(クランキング)状態であるか、暖気運転状態であるか、中・高速の高負荷運転状態であるかが判断される。運転状態判断手段71で判断された運転状態の情報は噴射状態設定手段72に送られる。噴射状態設定手段72では、運転状態に応じて第1インジェクタ10及び第2インジェクタ25の燃料噴射量、燃料噴射時期が設定される。噴射状態設定手段72で設定された燃料噴射量及び燃料噴射時期は、第1インジェクタ噴射手段73及び第2インジェクタ噴射手段74に送られる。
【0061】
第1インジェクタ噴射手段73からは、噴射状態設定手段72で設定された燃料噴射量が、少なくとも吸気行程で噴射されるように、第1インジェクタ10に燃料噴射の指示が出力される。第2インジェクタ噴射手段74からは、噴射状態設定手段72で設定された燃料噴射量が、吸気行程の前である排気行程で噴射されるように、第2インジェクタ25に燃料噴射の指示が出力される。
【0062】
具体的な処理の状況を説明する。
【0063】
図4に示すように、処理がスタートすると、ステップS1で運転状態が読込まれ、ステップS2で燃料噴射量、燃料噴射時期が決定される。ステップS3で始動運転であるか(クランキング中であるか)否かが判断され、始動運転ではないと判断された場合、ステップS4で暖気運転であるか否かが判断される。
【0064】
ステップS3で始動運転であると判断された場合、もしくは、ステップS4で暖気運転であると判断された場合、即ち、エンジン1が始動・暖気運転状態であると判断された場合、ステップS5で始動・暖機運転の燃料噴射が実行される。
【0065】
ステップS4で暖気運転ではないと判断された場合、ステップS6で中(高)速・高負荷運転(中高速・高負荷運転)であるか否かが判断される。ステップS6で中(高)速・高負荷運転であると判断された場合、ステップS7で高負荷運転の燃料噴射が実行される。
【0066】
ステップS6で中(高)速・高負荷運転ではないと判断された場合、ステップS8で通常運転の燃料噴射が実行される。通常運転の燃料噴射は、第1インジェクタ10から、少なくとも吸気行程を含む時期に所定量の燃料が噴射される。
【0067】
図5に基づいて、始動・暖機運転の燃料噴射について説明する。
【0068】
始動・暖気運転では、冷態時等で燃料が十分に気化できないことが考えられるため、燃料が吸気行程中に吸気開口に到達するように(図5中実線で示してある)、排気行程で燃料が噴射される第2インジェクタ25から燃料を噴射すると共に(図5中点線で示してある)、吸気行程で第1インジェクタ10から燃料を噴射する(図5中点線で示してある)。
【0069】
燃料の噴射量(図5中左右方向の幅)は、第1インジェクタ10から噴射される燃料量よりも第2インジェクタ25から噴射される燃料量が多く設定されている。そして、第2インジェクタ25から噴射された燃料が吸気開口に到達した後に第1インジェクタ10から燃料を噴射するように噴射時期が設定されている(図5中点線で示してある)。
【0070】
これにより、燃料の吸気開口への到達時期は、第2インジェクタ25から噴射された燃料が、全て吸気開口に到達した後に、第1インジェクタ10から噴射された燃料が吸気開口に到達するように設定される。そして、第2インジェクタ25から噴射される燃料は、バルブオーバーラップ期間の後に吸気開口に到達するように設定されている。
【0071】
始動・暖気運転における燃料噴射では、第2インジェクタ25から噴射された燃料が吸気開口に到達するまでに燃料の気化が促進されて燃焼室6の内部に送られ、第1インジェクタ10から噴射された燃料の成層燃焼が確保される。これにより、燃焼の安定性を維持した状態で、未燃HCやPM(粒子状物質)の増大を抑制することができ、また、エンジンオイルの希薄化の発生を抑制することができる。
【0072】
また、第2インジェクタ25から噴射された燃料が吸気開口に到達した後に第1インジェクタ10から燃料を噴射することで、十分に気化した燃料を、第1インジェクタ10から噴射される燃料で燃焼室6内に押し込むことができ、第1インジェクタ10で噴射された燃料を点火プラグ周りに集めて燃焼を安定させることができ、点火時期の遅角時に燃焼を安定させることができると共に、濃淡の混合気を形成し燃焼後に一酸化炭素と酸素を触媒へ供給することで、早期昇温効果が得られる。
【0073】
図6に基づいて、中(高)速・高負荷運転の燃料噴射について説明する。
【0074】
中(高)速・高負荷運転では、多くの燃料を必要とする運転状態に対応する燃料を一回の行程で噴射するため、燃料が吸気行程中に吸気開口に到達するように排気行程で第2インジェクタ25から燃料を噴射すると共に(図6中実線で示してある)、排気行程から吸気行程にかけて第1インジェクタ10から燃料を噴射する(図6中実線で示してある)。
【0075】
燃料の噴射量(図6中左右方向の幅)は、第2インジェクタ25から噴射される燃料量よりも第1インジェクタ10から噴射される燃料量が多く設定されている。そして、第2インジェクタ25で噴射された燃料が吸気開口に到達する時期と、第1インジェクタ10で噴射された燃料が吸気開口に到達する時期が略同時になるように噴射時期が設定されている(図6中点線で示してある)。そして、第1インジェクタ10から噴射される燃料、及び、第2インジェクタ25から噴射される燃料は、バルブオーバーラップ期間の後に吸気開口に到達するように設定されている(図6中点線で示してある)。
【0076】
これにより、一回の行程で(吸気行程中に)多くの燃料を噴射することができ、次行程への燃料の持ち越しが生じる虞がなくなり、排気通路への燃料の吹き抜けを最小限に抑制して燃料の吹き抜けを抑え、未燃HCの増大をなくし、PM(粒子状物質)の増大を抑制することができる。
【0077】
上述した実施例では、第2インジェクタ25から燃料を噴射させる時期を吸気行程よりも前の行程である排気行程に設定したが、吸気経路の状況により、排気行程よりも前の行程である膨張行程で燃料を噴射させるようにすることも可能である。
【0078】
また、第1インジェクタ10の上流に第2インジェクタ25を配置した例を挙げて説明したが、第1インジェクタ10と第2インジェクタ25を流れ方向で吸気通路の同じ位置に配置し、第2インジェクタ25の噴射口を吸気通路の上流側に向けることも可能である。この場合、第2インジェクタ25から吸気通路の上流側に燃料が噴射され、吸気流により吸気開口側に送られることで、燃料の吸気通路での滞留時間が確保される。
【0079】
従って、上述したエンジン1は、燃焼室6の内部に燃料を直接噴射する直噴インジェクタをシリンダの内部に備えることなく、吸気行程中に吸気バルブ7が開く時期の吸気開口への燃料到達の状態を的確に制御することで、冷態時から暖気後の中・高速の高負荷運転時までの広い運転状態の範囲で、燃焼室6の内部に燃料を直接噴射した場合の性能を維持し、高い性能を得ることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、吸気通路への燃料の噴射状態を的確に設定することで、シリンダの内部(筒内)に燃料を直接噴射する燃料噴射装置を該筒内に直接設けることなく、性能向上を図ることができる内燃機関の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 エンジン本体(エンジン)
2 シリンダヘッド
3 点火プラグ
4 点火コイル
5 吸気ポート
6 燃焼室
7 吸気バルブ
9 吸気マニホールド
10 第1燃料噴射弁(第1インジェクタ)
11 排気ポート
12 排気バルブ
13 排気マニホールド
14 吸気管
15 スロットルバルブ
16 スロットルポジションセンサ
17 エアフローセンサ
18 サージタンク
20 排気管
21 排気ガス循環ポート(EGRポート)
22 EGR管
25 第2燃料噴射弁(第2インジェクタ)
31 ECU
32 クランク角センサ
33 水温センサ
51 過給機
55 排気浄化触媒
61 アクセルペダル
62 アクセルポジションセンサ
63 可変動弁機構
71 運転状態判断手段
72 噴射状態設定手段
73 第1インジェクタ噴射手段
74 第2インジェクタ噴射手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路と筒内とを連通する吸気開口と、
燃料を吸気通路内に噴射する第1インジェクタと、
吸気通路での噴射燃料の滞留時間が前記第1インジェクタのものより長くなるように該第1インジェクタによる燃料噴射とは独立して燃料を吸気通路内に噴射する第2インジェクタと、
少なくとも吸気行程で前記第1インジェクタから燃料を噴射させて噴射された燃料が吸気行程中に前記吸気開口に到達するようにすると共に、噴射された燃料が吸気行程中に前記吸気開口に到達するように前記第2インジェクタから燃料を噴射させる燃料噴射制御手段とを備えた
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関において、
機関の運転状態を判断する運転状態判断手段を備え、
前記燃料噴射制御手段は、
前記運転状態判断手段の判断に応じて前記第1インジェクタからの燃料の噴射、及び、前記第2インジェクタからの燃料の噴射を制御する
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内燃機関において、
前記燃料噴射制御手段は、
吸気行程よりも前の行程で前記第2インジェクタから燃料を噴射させる
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の内燃機関において、
前記機関の吸気バルブ及び排気バルブの開閉時期が変更され、前記排気バルブが閉じる前に前記吸気バルブが開く状態のバルブオーバーラップ期間を形成するバルブ開閉時期変更手段を備え、
前記燃料噴射制御手段は、
前記バルブ開閉時期変更手段により形成された前記バルブオーバーラップ期間の後に、前記第1インジェクタ及び前記第2インジェクタからの燃料が前記吸気開口に到達するように、前記第1インジェクタ及び前記第2インジェクタから燃料を噴射させる
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関において、
前記燃料噴射制御手段は、
前記運転状態判断手段により前記機関が始動・暖気運転状態、もしくは、中高速・高負荷運転状態であると判断された際に、前記第1インジェクタ及び前記第2インジェクタから燃料を噴射させる
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関において、
前記燃料噴射制御手段は、
前記運転状態判断手段により、前記機関が始動・暖気運転状態であると判断された場合、前記第1インジェクタの燃料噴射量に比べ、前記第2インジェクタの燃料噴射量を多くし、前記機関が中高速・高負荷運転状態であると判断された場合、前記第2インジェクタの燃料噴射量に比べ、前記第1インジェクタの燃料噴射量を多くするように、前記第1インジェクタ及び前記第2インジェクタから燃料を噴射させる
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の内燃機関において、
前記燃料噴射制御手段は、
前記運転状態判断手段により、前記機関が始動・暖気運転状態であると判断された場合、前記第2インジェクタから噴射された燃料が前記吸気開口に到達した後に前記第1インジェクタから燃料を噴射するように噴射時期が設定され、前記機関が中高速・高負荷運転状態であると判断された場合、前記第2インジェクタで噴射された燃料が前記吸気開口に到達する時期と、前記第1インジェクタで噴射された燃料が前記吸気開口に到達する時期が略同時になるように噴射時期が設定されている
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の内燃機関において、
前記第2インジェクタは、前記第1インジェクタの上流側の吸気通路に配されている
ことを特徴とする内燃機関。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−36348(P2013−36348A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170531(P2011−170531)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】