説明

内装材及びその製造方法

【課題】意匠性を損なうことなく、VOCや臭気成分を、急速かつ長期間にわたって取り除くことができる内装材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】内装材11は、吸着剤を担持させた発泡ウレタン層12と表皮層13とが接合されて成るものである。発泡ウレタン層12に担持された吸着剤は、表皮層13側に向かって低くなる濃度勾配を有することが好ましい。
内装材の製造方法は、発泡ウレタン材の少なくとも一方の面に撥水性コーティング剤を塗布した後、発泡ウレタン材に吸着剤を分散させた液体を含浸させて、吸着剤を固着させ、その後、発泡ウレタン材の撥水性コーティング剤が塗布された一面を溶融させ、発泡ウレタン材と表皮材を接合させて内装材を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内装材及びその製造方法に係り、更に詳細には、臭気成分などを取り除くことができ、自動車や建物の室内などに好適に用いることが可能な内装材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や建物などの室内空間には、空気中に、ホルムアルデヒド,トルエン,キシレン,酢酸エチルなどの揮発性有機化合物(VOC;volatile organic compounds)や、たばこの煙などの多数の臭気成分(臭いの元となる物質)が存在する。
これらのVOCや臭気成分を取り除くために、従来、自動車や建物などの内装材に用いられる布帛や繊維構造物に、消臭効果を付与したものが提案されている。
【0003】
消臭効果を付与した布帛や繊維構造物として、制電性繊維を混用した通気性を有する布帛の裏面に、活性炭を含む消臭剤を配合したバッキング接着剤を塗着したものが開示されている(特許文献1)。
また、ポリエステルから構成される繊維構造物に、活性炭、無機酸化物及び有機窒素系化合物が樹脂バインダーを介して固着されたものが開示されている(特許文献2)
【特許文献1】特開平6−17377号公報
【特許文献2】特開平10−292268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2に開示されているように、従来の消臭効果を付与した内装材は、内装材を構成する布帛や繊維構造物に、臭気成分を化学的に吸着する薬剤や、臭気成分を物理的に吸着する活性炭などを、バインダーによって固着させたものである。
【0005】
吸着剤として、臭気成分を化学的に吸着する薬剤を用いた場合は、薬剤と臭気成分との反応が逐次反応であるため、律速段階においては、急速、かつ大量に臭気成分を除去することが困難であるという問題がある。
また、化学吸着を行う薬剤は、この薬剤と反応性が低い臭気成分(例えばホルムアルデヒドなどの溶剤系の臭気成分)に対して、消臭効果が小さいという問題もある。
【0006】
一方、物理吸着を行う活性炭などの吸着剤の場合は、例えばホルムアルデヒドなどの溶剤系の臭気成分などに対しても高い消臭効果を有する。
しかし、特許文献1及び2に開示されているように、活性炭などの吸着剤を、布帛や繊維構造物に固着させた場合、活性炭などの吸着剤の色(例えば黒色)が表面に表れてしまい、意匠性の点で問題がある。
また、活性炭などの吸着剤をバインダーによって固着させた場合、摩擦などによって、吸着剤が剥離してしまう場合がある。
【0007】
意匠性や剥離などの問題を回避するために、例えば特許文献1のように、布帛の裏面に活性炭をバッキング接着剤などによって固着したものも従来から用いられている。
活性炭などの物理吸着を行う吸着剤の吸着性能は、吸着剤が有する微細孔の面積に依存するため、長期間にわたり吸着性能を維持させるためには、活性炭の使用量を増加するか、活性炭の比表面積を増加させるしかない。
【0008】
しかし、活性炭などの物理吸着を行う吸着剤を、バッキング接着剤などで布帛の裏面に固着させた場合は、吸着剤の吸着サイトである微細孔を、接着剤(バインダー)で埋めてしまうため、吸着剤の吸着性能が損なわれる。
また、布帛の裏面(平坦面)に、活性炭を含むバッキング接着剤を塗着しただけでは、室内空間に存在するVOCや臭気成分の量に対して、活性炭の量が十分ではない。そのため、布帛の裏面(平坦面)に、活性炭を含む網目状のバッキング接着剤を塗着しただけでは、長期間にわたり、優れた吸着性能を発揮させることは困難である。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、意匠性を損なうことなく、室内や自動車内の空気中に存在するVOCや臭気成分(臭いの元となる物質)を、急速かつ長期間にわたって取り除くことができる内装材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明の内装材は、吸着剤を担持させた発泡ウレタン層と表皮層とを接合させて成るものである。
【0011】
本発明の内装材の製造方法は、発泡ウレタン材の少なくとも一方の面に撥水性コーティング剤を塗布する工程と、上記撥水性コーティング剤が塗布された発泡ウレタン材に、吸着剤を分散させた液体を含浸させて、上記吸着剤を担持させる工程と、上記発泡ウレタン材の撥水性コーティング剤が塗布された一面を溶融させて、該発泡ウレタン剤と表皮材を接合させる工程を備える。
【0012】
また、本発明の内装材の製造方法は、第1の発泡ウレタン材に、吸着剤を分散させた液体を含浸させて、該吸着剤を担持させる工程と、第2の発泡ウレタン材の少なくとも一方の面を溶融させて、該第2の発泡ウレタン材と第1の発泡ウレタン材を接合させる工程と、上記第2の発泡ウレタン材の他方の面を溶融させて、該第2の発泡ウレタン材と表皮を接合させる工程を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、意匠性を損なうことなく、室内や自動車内の空気中に存在するVOCや臭気成分を、急速かつ長期間にわたって取り除くことができる内装材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の内装材及びその製造方法について、詳細に説明する。
図1は、本発明の内装材の実施形態の第1の例を模式的に示す分解斜視図である。
本例の内装材1は、吸着剤を担持させた発泡ウレタン層2と表皮層3とが接合されて成るものである。
本例の内装材1は、吸着剤を担持させた発泡ウレタン層2と表皮層3との間に網目状のホットメルト接着剤4を介在させて、加圧接着により、発泡ウレタン層2と表皮層3とが接合されている。
【0015】
発泡ウレタン層2は、連続的なセル(気泡)有するスラブウレタンなどの軟質発泡ウレタンを用いることが好ましい。
発泡ウレタン層は、連続的なセル(気泡)を有するため、通気性がよく、この気泡内に吸着剤を固着させることによって、吸着剤の固着量が多くなり、大量のVOCや臭気成分を急速かつ長期にわたって除去することができる。
【0016】
また、発泡ウレタン層は、厚さが1.0mm以上のものであることが好ましい。
発泡ウレタン層の厚さは、内装材を用いる空間(自動車、室内など)や用いる場所(例えば自動車の天井、ドアトリム、リヤーコーナートリムなど)によって異なるが、厚さが1.0〜10.0mmのものを用いることが好ましい。
発泡ウレタン層の厚さが1.0mm未満であると、吸着剤の固着量が少なくなり、消臭効果が低くなる。
また、発泡ウレタン層の厚さが1.0mm未満であると、発泡ウレタン層にフレーム処理を施して、表面を溶融させて発泡ウレタン層と表皮層と接合させる場合に、発泡ウレタン層が薄すぎて、発泡ウレタン層を十分に溶融させることができず、十分な接着強度を持って、発泡ウレタン層と表皮層とを接合させることが困難になる。
【0017】
吸着剤としては、VOCや臭気成分を物理的に吸着する活性炭又は焼成炭化物であることが好ましい。
活性炭又は焼成炭化物としては、ヤシ殻活性炭、石炭系活性炭、木炭系活性炭、竹炭系活性炭及び竹炭からなる群から選ばれた1種、又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
活性炭又は焼成炭化物から成る吸着剤は、種々の孔径の微細孔を有し、この微細孔がVOCや種々の臭気成分に適した吸着サイトとなって、大量のVOCや臭気成分を急速かつ長期にわたり捕捉することができる。
活性炭又は焼成炭化物は、発泡ウレタン層のセル(気泡)に担持され易いように、平均粒径が50μm以下のものであることが好ましい。
【0018】
発泡ウレタン層に担持させる吸着剤の量は、発泡ウレタン層の厚さや、内装材を用いる空間や設置場所などによって異なり、特に限定されないが、厚さ3mmの発泡ウレタン層に対して、好ましくは50〜300g/m、より好ましくは150〜250g/mである。
吸着剤の量が少ないと、VOCや臭気成分の吸着効果が小さくなり、吸着効果の持続期間も短くなり、逆に多すぎると、表皮自体が硬くなり、伸び量が低下して、成形性の低下を招く場合がある。
【0019】
発泡ウレタン層には、更に有機窒素系化合物を担持させることが好ましい。
有機窒素系化合物は、自動車や建物の室内空間に存在する低沸点のホルムアルデヒドに対して化学的に反応し、化学的な結合によりホルムアルデヒドを吸着するものであり、反応速度が速く、再放散させないという利点を有する。
【0020】
有機窒素系化合物としては、例えばヒドロキシルアミン、エチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン、ピロリジンなどのヘテロ環アミン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族ポリアミン、メラミンなどのヘテロ環ポリアミン、尿素、ジシアンジアミンドなどのアミド、キトサンなどのアミノ基を有する高分子などのアミノ化合物、ヒドラジド化合物などが挙げられる。
【0021】
有機窒素系化合物は、有機窒素系化合物を分散させた液体中に、吸着剤を含浸させて、吸着剤に添着させてもよく、吸着剤と共に有機窒素系化合物を分散させた液体中に、発泡ウレタン材を含浸させて、発泡ウレタン層に担持させてもよい。
有機窒素系化合物の量は、発泡ウレタン層に担持させる吸着剤の量100質量%に対して、好ましくは5〜10質量%である。
【0022】
表皮層3は、自動車などの室内空間の内装外観を構成する表皮として形成されたものであり、皮革、織布、編布又は不織布などを用いることができる。
本例の内装材に用いる表皮層としては、比較的高融点であり、かつ、通気性を有する、ポリエステル系繊維を使用した織布、編布又は不織布を用いることが好ましい。
なお、表皮層を構成する織布等の材料の融点は、表皮層を用いる場所や部位などによって異なるため、特に限定されない。また、通気性についても、一般的な通気性を有するものであれば特に限定されない。
【0023】
本例の内装材1の発泡ウレタン層2と表皮層3とを接合させる網目状のホットメルト接着剤としては、例えばポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系などのホットメルト樹脂を繊維状にして、網状に形成したものを用いることが好ましい。
網目状のホットメルト接着剤は、目付質量が20〜50g/mのものであることが好ましい。目付質量があまり大きいと、通気性に影響するため好ましくない。
【0024】
本例の内装材1は、網目状のホットメルト接着剤4を用いることによって、活性炭などの微細孔を埋めないようにして、通気性を維持したまま、発泡ウレタン層2と表皮層3とが接合することができる。本例の内装材1は、吸着剤の吸着サイトと通気性が維持されるため、急速かつ長期間にわたって大量のVOCや臭気成分を取り除くことができる。
【0025】
なお、図示を省略したが、内装材には、発泡ウレタン層の表皮層とは接合されていない側に、内装材の強度を向上させるために、裏基布を接合してもよい。
裏基布としては、ナイロン系繊維を網目状に編んだナイロンハーフやポリエステル系繊維の不織布などを用いることができる。
【0026】
次に、第1例の実施形態に示した内装材の製造方法の一例について説明する。
まず、発泡ウレタン層を構成する発泡ウレタン材を、吸着剤を分散させた液体に含浸させ、その後、乾燥して、発泡ウレタン材の連続気泡内に、吸着剤を固着させる。
次に、吸着剤を担持させた発泡ウレタン材と表皮材とを、網目状のホットメルト接着剤を介在させて積層し、発泡ウレタン材と表皮材とを加圧接着する。
このようにして、吸着剤を担持させた発泡ウレタン層2と表皮層3とを、網目状のホットメルト接着剤で接着した内装材1を形成することができる。
【0027】
次に、図2に基づき、本発明の内装材の実施形態の第2の例について説明する。なお、図2において、図1と同様の部材については、同一の符号を付した。
本例の内装材10は、吸着剤を担持させた第1の発泡ウレタン層2と、表皮層3とを有し、吸着剤を担持させた第1の発泡ウレタン層2と、表皮層3との間に、吸着剤を担持させていない第2の発泡ウレタン層5を介在させている。本例において、第1の発泡ウレタン層、吸着剤及び表皮層は、第1例と同様のものを用いることができる。
本例の内装材10は、第2の発泡ウレタン層5の対向する二面をフレーム処理などにより溶融させて、一方の面を第1の発泡ウレタン層2と接合させ、他方の面を表皮層3と接合させている。
【0028】
活性炭などの吸着剤が発泡ウレタン材に担持されていると、この吸着剤が発泡ウレタン材の溶融を阻害し、十分な接着強度で発泡ウレタン材と表皮材が接合されない場合がある。
本例の内装材10は、溶融されにくい吸着剤が担持された第1の発泡ウレタン層2と表皮層3との間に、第2の発泡ウレタン層5を介在させ、この第2の発泡ウレタン層5を溶融させて、第1の発泡ウレタン層2と表皮層3とを溶着させている。そのため、本例の内装材10は、十分な接着強度を持って、第1の発泡ウレタン層2と、第2の発泡ウレタン層5と、表皮層3とを接合させることができる。
また、本例の内装材10は、第2の発泡ウレタン層5を介在させることによって、第1の発泡ウレタン層2に担持させる吸着剤の量を減らす必要がないため、長期にわたって、大量のVOCや臭気成分を取り除くことができる。
本例の内装材10は、第2の発泡ウレタン層5を介在させることによって、第1の発泡ウレタン層に担持された活性炭などの吸着剤の色が表皮層側から透けて見えることなく、内装材の意匠性が損なわれない。
【0029】
第2の発泡ウレタン層5に用いる発泡ウレタン材としては、吸着剤を担持させた第1の発泡ウレタン層2と同様の発泡ウレタン材を用いることができ、第1の発泡ウレタン層に用いた発泡ウレタン材と同一のものでも、異なるものでもよい。
第2の発泡ウレタン層の厚さは、好ましくは0.5〜1.0mmである。
第2の発泡ウレタン層の厚さが0.5mm未満であると、接着強度が満足できない場合があり、1.0mmを超えると、厚さが厚すぎて、フレーム処理で全体が溶融せず、第1の発泡ウレタン層と表皮層3とを接着できない場合がある。
【0030】
次に、第2例の実施形態の内装材の製造方法の一例について説明する。
図3は、内装材の製造方法の一例を示す各工程の説明図である。
図3に示すように、先ず、第1の工程(a)として、第1の発泡ウレタン層を構成する発泡ウレタン材2’を、吸着剤を分散させた液体に含浸させ、その後、乾燥して、発泡ウレタン材2’の連続気泡内に、吸着剤を固着させる。
吸着剤を分散させる溶媒及び吸着剤の量は、第1例と同様のものを用いることができる。
【0031】
次に、第2の工程(b)として、第2の発泡ウレタン材5’の対向する二面の一方の面にフレーム処理を施し、第2の発泡ウレタン材5’の表面を溶融させる。そして、第2の発泡ウレタン材5’と、触媒を担持させた第1の発泡ウレタン材2’とを溶着させて、第1の発泡ウレタン層2と第2の発泡ウレタン層5が接合された積層体10’を得る。
ここでフレーム処理とは、第2の発泡ウレタン材5’の表面にフレームプラズマなどを照射して、この熱によって、第2の発泡ウレタン材5’の表面を溶融させる処理をいう。
【0032】
次に、第3の工程(c)として、積層体10’の第2の発泡ウレタン層5の表面をフレーム処理し、この表面を溶融させる。
その後、第4の工程(d)として、第2の発泡ウレタン層5と表皮材とを溶着することによって、第1の発泡ウレタン層2と、第2の発泡ウレタン層5と、表皮材3とがこの順番で積層され、接合された内装材10を形成することができる。
【0033】
次に、図4に基づき、本発明の内装材の実施形態の第3の例について説明する。
本例の内装材11は、吸着剤を担持させた発泡ウレタン層12と、表皮層13とを有している。本例において、発泡ウレタン層、吸着剤及び表皮層は、第1例と同様のものを用いることができる。
【0034】
本例の内装材11において、発泡ウレタン層12に担持された吸着剤は、表皮層13側に向かって低くなる濃度勾配を有している。
発泡ウレタン層12に担持された吸着剤が、表皮層13側に向かって低くなる濃度勾配を有していることにより、発泡ウレタン層12に担持された活性炭などの吸着剤が、発泡ウレタン層12の溶融を妨げず、溶融された発泡ウレタン層12と表皮層13とを十分な接着強度で溶着させることができる。
発泡ウレタン層12に担持された吸着剤の濃度は、表皮層13側に向かって連続的に小さくなってもよく、多段階的に小さくなっていてもよい。
【0035】
濃度勾配を有するように担持された吸着剤の濃度が最も小さい部位Tの厚さは、発泡ウレタン層12の表皮層13側の表面から好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.2〜0.5mmである。
発泡ウレタン層12において、担持された吸着剤の濃度が最も小さい部位Tの厚さが0.2mm以下であると、吸着剤が発泡ウレタン層の溶融を阻害し、発泡ウレタン層12と表皮層13との接着強度が低下する場合がある。
一方、吸着剤の濃度が最も小さい部位Tの厚さが0.5mmを超えると、発泡ウレタン層12に担持される吸着剤の量が少なくなるので好ましくない。
吸着剤が濃度勾配を有するように発泡ウレタン層に担持された場合、吸着剤の濃度が最も小さい部位Tは、発泡ウレタン層の全厚さ100%に対して、発泡ウレタン層の表皮側の表面から2〜20%の範囲であることが好ましい。
【0036】
濃度の最も小さい部位Tにおける吸着剤の固着量は、好ましくは20g/m以下、より好ましくは10g/m以下である。
濃度の最も小さい部位Tにおける吸着剤の固着量が、20g/mを超えると、活性炭などの吸着剤が、発泡ウレタン層の溶融を阻害し、発泡ウレタン層12と表皮層3とを強固に溶着することができないため好ましくない。
なお、発泡ウレタン層において、濃度の最も小さい部位T以外の吸着剤の固着量は、20g/mを超える量であれば、特に限定されず、内装材を用いる空間や設置場所などによって、適宜固着量を設定することができる。
【0037】
次に、第3例の実施形態の内装材の製造方法の一例について説明する。
図5は、本例の内装材の製造方法の一例を示す各工程の説明図である。
図5に示すように、先ず、第1の工程(a)として、発泡ウレタン材12’の少なくとも一方の面に撥水性コーティング剤を塗布する。図5中、楕円で囲んだ領域Aは、撥水性コーティング剤を塗布する領域である。
撥水性コーティング剤としては、例えばシリコーン、フッ素化合物などを用いることができる。
撥水性コーティング剤の塗布範囲及び塗布量は、発泡ウレタン層に、濃度勾配を有して吸着剤が担持できる量であれば特に限定されないが、例えば、発泡ウレタン材の一方の表面から少なくとも0.2mm以内の厚さの範囲に、撥水性コーティング剤が塗布されることが好ましい。
【0038】
次に、第2の工程(b)として、撥水性コーティング剤を塗布した発泡ウレタン材12’を、吸着剤を分散させた液体を含浸させ、その後、乾燥して、発泡ウレタン材の連続気泡内に、吸着剤を固着させる。吸着剤を分散させる溶媒及び吸着剤の量は、第1例と同様のものを用いることができる。
発泡ウレタン材12’は、一方の面に撥水性コーティング剤が塗布されているので、この一方の面に向かって低くなる濃度勾配を有するように吸着剤が固着される。
【0039】
次に、第3の工程(c)として、発泡ウレタン材12’の撥水性コーティング剤が塗布されている面のフレーム処理を施し、発泡ウレタン材12’の表面を溶融させる。
その後、第4の工程(d)として、発泡ウレタン材12’と表皮材とを溶着することによって、表皮層13と、この表皮層13側に向かって低くなる濃度勾配を有するように、吸着剤が担持された発泡ウレタン層12とが接合された内装材11を形成することができる。
【0040】
活性炭などの吸着剤が発泡ウレタン材に担持されていると、この吸着剤が発泡ウレタン材の溶融を阻害し、十分な強度で発泡ウレタン材と表皮材が溶着されない場合がある。
本例においては、発泡ウレタン材の一方の面に予め撥水性コーティング剤を塗布し、発泡ウレタン材に担持される吸着剤の固着量を制限している。
そのため、大量の吸着剤が発泡ウレタン材に担持されている場合であっても、吸着剤の固着量が少ない面を溶融させて、十分な接着強度で、発泡ウレタン材と表皮材とを接合することができる。
【0041】
本発明の内装材は、意匠性を損なうことなく、発泡ウレタン層の連続微細孔中に大量の吸着剤を担持させることができるので、空気中に存在するVOCや臭気成分(臭いの元となる物質)を、急速かつ長期間にわたって取り除くことができ、自動車や建物の内装材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例及び比較例おいて、次の原料を用いた。
[発泡ウレタン材]
スラブウレタンシート(イノアックコーポレーション社製)
[吸着剤]
ヤシ殻活性炭(クラレケミカル社製)
・平均粒径;20〜50μm
ヤシ殻炭化物(クラレケミカル社製)
・平均粒径;20〜50μm
[表皮材]
ポリエステル編物(セーレン社製)
・目付質量;280g/m
【0044】
(実施例1)
厚さ10mmの発泡ウレタン材を、ヤシ殻活性炭を分散させた水溶液に含浸させ、その後、乾燥して、発泡ウレタン材の連続気泡中にヤシ殻活性炭を固着させた。
発泡ウレタン材中のヤシ殻活性炭の固着量は120g/mであった。
次に、ヤシ殻活性炭を担持させた発泡ウレタン材の一方の面にフレーム処理を施し、発泡ウレタン材の表面を溶融させ、表皮材を溶着し、吸着剤を担持させた発泡ウレタン層と表皮層とが接合された内装材を作製した。
【0045】
(比較例1)
アクリル系の織物用バッキング材(目付質量80g/m)に、ヤシ殻炭化物を接着剤に混ぜて、固着させ、内装材を作製した。
ヤシ殻炭化物の固着量は8g/mであった。
【0046】
実施例及び比較例の内装材を、次のように評価した。
[VOC低減効果確認評価]
10リットル(L)のテドラーバック内に、各例の内装材(10mm)を封入した。下記表1に示す濃度の各ガスを、個別にテドラーバック内に封入し、40℃で24時間静置した。その後、各テドラーバック内のガスの残存濃度を測定した。
【0047】
【表1】

【0048】
[接着強度確認評価]
各例の内装材について、幅25mm、長さ120mmの短冊状の試験片を作製し、常温で次のように剥離強度を測定した。
試験片の一端から長さ方向に40mm表皮層を剥離し、剥離された表皮層をインストロン型引張試験機の上つかみに挟持させ、剥離された発泡ウレタン層を下つかみに挟持させた。次いで、移動速度200mm/分で、試験機を動かし、試験片の表皮層と発泡ウレタン層とを全部剥離すると同時に、試験機を停止し、その時の試験機の示す最大強さ(N/30mm、又は、N/25mm)を測定した。
【0049】
[明度評価]
各例の内装材の明度を光源:D65/10、反射光:SPEXの条件で、X−RiteSP64測定器(エックスライト社製)で測定した。
【0050】
上記実施例1及び比較例1の内装材について、図6にトルエンの低減率(%)のグラフを示し、図7にトルエンの吸着量(g/m)のグラフを示す。
図6に示すように、実施例1の内装材は、初期のトルエンの量に対して、80%を超える量のトルエンを低減できた。これに対して、比較例1の内装材は、初期のトルエンの量に対して、トルエンの低減率が約60%と少なかった。
また、図7に示すように、実施例の内装材は、約8.0g/mと、大量のトルエンを吸着できていたのに対して、比較例1の内装材は、トルエンの吸着量が2.0g/m未満と少なかった。
【0051】
図8に、実施例1及び比較例1の明度のグラフを示す。
図8に示すように、実施例1の内装材は、吸着剤を担持させていない初期の内装材の明度と殆ど変わらない明度を有し、意匠性が損なわれていないことが確認できた。これに対して、比較例1の内装材は、初期の内装材よりも10%近く明度が低下した。
【0052】
(実施例2)
厚さ10mmの発泡ウレタン材の一方の面に撥水性コーティング剤を塗布した。
次に、撥水性コーティング剤を塗布した発泡ウレタン材を、ヤシ殻活性炭を分散させた水溶液に含浸させ、その後、乾燥させて、発泡ウレタン材の連続気泡中にヤシ殻活性炭を固着させた。
発泡ウレタン材中のヤシ殻活性炭の全固着量は120g/mであった。また、発泡ウレタン材の撥水性コーティング剤を塗布した面から0.2mmの厚さにおける、ヤシ殻活性炭の固着量は、10g/mであった。
次に、ヤシ殻活性炭を担持させた発泡ウレタン材の撥水性コーティング剤を塗布した面にフレーム処理を施し、撥水性コーティング剤を除去すると共に発泡ウレタン材の表面を溶融させ、表皮材を溶着させた。
このようにして、表皮層と、この表皮層側に向かって低くなる濃度勾配を有する吸着剤を担持させた発泡ウレタン層とが接合された内装材を作製した(図4参照)。
【0053】
(実施例3)
厚さ10mmの第1の発泡ウレタン材を、ヤシ殻活性炭を分散させた水溶液に含浸させ、その後、乾燥させて、第1の発泡ウレタン材の連続気泡中にヤシ殻活性炭を固着させた。
第1の発泡ウレタン材中のヤシ殻活性炭の固着量は120g/mであった。
次に、厚さ2mmの第2の発泡ウレタン材の一方の面にフレーム処理を施し、第2の発泡ウレタン材の表面を溶融させ、第1の発泡ウレタン材と第2の発泡ウレタン材を溶着させた。
次に、第2の発泡ウレタン材の他方の面にフレーム処理を施し、第2の発泡ウレタン材の表面を溶融させ、表皮材を溶着させた。
このようにして、吸着剤を担持させた第1の発泡ウレタン層と、第2の発泡ウレタン層と、表皮層とが接合された内装材を作製した(図2参照)。
【0054】
(実施例4)
厚さ10mmの発泡ウレタン材を、水ヤシ殻活性炭と有機窒素系化合物を分散させた水溶液に含浸させ、その後、乾燥させて、発泡ウレタン材の連続気泡中にヤシ殻活性炭と有機窒素系化合物を固着させた。発泡ウレタン材中のヤシ殻活性炭の固着量は120g/mであり、有機窒素系化合物の固着量は12g/mであった。
次に、ヤシ殻活性炭を担持させた発泡ウレタン材の一方の面にフレーム処理を施し、発泡ウレタン材の表面を溶融させ、表皮材を溶着させて、吸着剤及び有機窒素系化合物を担持させた発泡ウレタン層と表皮層とが接合された内装材を作製した。
【0055】
図9に、実施例1及び実施例2の接着強度(N/30mm)のグラフを示す。
図9に示すように、実施例2の内装材は、発泡ウレタン層に担持されたヤシ殻活性炭が、表皮層側に向かって低くなる濃度勾配を有していることにより、ヤシ殻活性炭が、発泡ウレタン層の溶融を妨げず、十分な接着強度で、発泡ウレタン層と表皮層とを接合させることができた。
【0056】
表2に、上記実施例1〜4及び比較例1のVOC低減効果確認評価及び接着強度確認評価の結果を示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示すとおり、本実施例1〜4の内装材は、比較例1の内装材と比較して、VOCの低減効率が高く、空気中に存在するVOCや臭気成分を、急速かつ長期間にわたって取り除くことができた。
特に、吸着剤と共に有機窒素系化合物を発泡ウレタン層に担持させた実施例4の内装材は、アルデヒドの低減率を向上させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の内装材の実施形態の第1の例を模式的に示す分解斜視図である。
【図2】本発明の内装材の実施形態の第2の例を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明の内装材の製造方法の一例を示す各工程の説明図である。
【図4】本発明の内装材の実施形態の第3の例を模式的に示す説明図である。
【図5】本発明の内装材の製造方法の他の例を示す各工程の説明図である。
【図6】実施例及び比較例の内装材について、トルエンの低減率を示すグラフである。
【図7】実施例及び比較例の内装材について、トルエンの吸着量を示すグラフである。
【図8】実施例及び比較例の内装材について、明度を示すグラフである。
【図9】実施例の内装材について、接着強度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1 内装材
2 吸着剤を担持させた発泡ウレタン層
2’ 発泡ウレタン材
3 表皮層
4 網目状のホットメルト接着剤
5 第2の発泡ウレタン層
5’ 第2の発泡ウレタン材
10 内装材
10’ 積層体
11 内装材
12 濃度勾配を有する吸着剤を担持させた発泡ウレタン層
12’ 発泡ウレタン材
13 表皮層
A 撥水性コーティング剤を塗布する領域
T 濃度勾配を有するように担持された吸着剤の濃度が最も小さい部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着剤を担持させた発泡ウレタン層と表皮層とが接合されて成ることを特徴とする内装材。
【請求項2】
上記発泡ウレタン層に担持された吸着剤が、上記表皮層側に向かって低くなる濃度勾配を有することを特徴とする請求項1に記載の内装材。
【請求項3】
上記発泡ウレタン層に担持された吸着剤の濃度勾配が、連続的又は段階的であることを特徴とする請求項2に記載の内装材。
【請求項4】
上記吸着剤を担持させた発泡ウレタン層と、表皮層との間に、第2の発泡ウレタン層を介在させたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の内装材。
【請求項5】
上記発泡ウレタン層と表皮層とが溶着されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の内装材。
【請求項6】
上記発泡ウレタン層と表皮層とが、網目状のホットメルト接着剤で接着されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の内装材。
【請求項7】
上記吸着剤が、活性炭又は焼成炭化物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の内装材。
【請求項8】
上記活性炭又は焼成炭化物が、ヤシ殻活性炭、石炭系活性炭、木炭系活性炭、竹炭系活性炭及び竹炭から成る群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項7に記載の内装材。
【請求項9】
上記発泡ウレタン層に、更に有機窒素系化合物を担持させたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の内装材。
【請求項10】
上記内装材が自動車用である請求項1〜9のいずれか1つの項に記載の内装材。
【請求項11】
発泡ウレタン材の少なくとも一方の面に撥水性コーティング剤を塗布する工程と、
上記撥水性コーティング剤が塗布された発泡ウレタン材に、吸着剤を分散させた液体を含浸させて、上記吸着剤を担持させる工程と、
上記発泡ウレタン材の撥水性コーティング剤が塗布された一面を溶融させて、該発泡ウレタン剤と表皮材を接合させる工程を備えることを特徴とする内装材の製造方法。
【請求項12】
第1の発泡ウレタン材に、吸着剤を分散させた液体を含浸させて、該吸着剤を担持させる工程と、
第2の発泡ウレタン材の少なくとも一方の面を溶融させて、該第2の発泡ウレタン材と第1の発泡ウレタン材を接合させる工程と、
上記第2の発泡ウレタン材の他方の面を溶融させて、該第2の発泡ウレタン材と表皮を接合させる工程を備えることを特徴とする内装材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−36553(P2010−36553A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205329(P2008−205329)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】