説明

内視鏡診断装置

【課題】位置の異なる2つの照明窓から照明光を照射して撮像された画像信号に現れる配光分布の違いを正しく補正することができ、正確な狭帯域光画像を得ることができる内視鏡診断装置を提供する。
【解決手段】内視鏡診断装置は、異なる位置に配置された第1および第2の照明窓を有し、第1の照明光を第1の照明窓から照射して撮像した第1の画像の画像信号、第3の照明光を内視鏡スコープの先端部に配置された蛍光体に照射することによって、蛍光体から発せられる疑似白色光である第2の照明光を第2の照明窓から照射して撮像した第2の画像の画像信号、および、第3の照明光を第1の照明窓からもしくは第1の照明光を第2の照明窓から照射して撮像した第3の画像の画像信号を取得する内視鏡装置と、第1および第2の画像の画像信号に現れる第1および第2の照明光の配光分布の違いを、第3の画像の画像信号を用いて補正する配光分布補正手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡スコープの先端部の異なる位置に配置された2つの照明窓を有し、これら2つの照明窓から被検体に照射される照明光の配光分布の違いを補正する機能を有する内視鏡診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の医療分野では、電子内視鏡を用いた診断や治療が数多く行なわれている。電子内視鏡は、被検者の体腔内に挿入される細長の挿入部を備えており、この挿入部の先端にはCCDなどの撮像装置が内蔵されている。また、電子内視鏡は光源装置に接続されており、光源装置で発せられた光は、挿入部の先端から体腔内部に対して照射される。このように体腔内部に光が照射された状態で、体腔内の被検体組織が、挿入部の先端の撮像装置によって撮像される。撮像により得られた画像は、電子内視鏡に接続されたプロセッサ装置で各種処理が施された後、モニタに表示される。したがって、電子内視鏡を用いることによって、被検者の体腔内の画像をリアルタイムに確認することができるため、診断などを確実に行うことができる。
【0003】
光源装置には、波長が青色領域から赤色領域にわたる白色の広帯域光を発することができるキセノンランプなどの白色光光源が用いられている。体腔内の照射に白色の広帯域光を用いることで、撮像画像から被検体組織全体を把握することができる。しかしながら、広帯域光を照射したときに得られる撮像画像からは、被検体組織全体を大まかに把握することはできるものの、微細血管、深層血管、ピットパターン(腺口構造)、陥凹や隆起といった凹凸構造などの被検体組織は明瞭に観察することが難しいことがある。このような被検体組織に対しては、特定の波長範囲に制限した狭帯域光を照射することで、明瞭に観察できるようになることが知られている。また、狭帯域光を照射したときの画像データから、血管中の酸素飽和度など被検体組織に関する各種情報を取得し、その取得した情報を画像化させることが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1では、狭帯域光を用いて酸素飽和度画像を得るものとして、キセノンランプから発せられる広帯域光から、帯域制限フィルタにより、近赤外領域の3波長の狭帯域光(IR1,IR2,IR3)、または、可視光領域の3波長の狭帯域光(G1,G2,G3)を分離して、各狭帯域光の画像を面順次で取得する例が示されている。いずれの組み合わせも、血中ヘモグロビンの酸素飽和度に応じて光の吸収度(吸光度)が変化する波長範囲の2つの狭帯域光と変化しない波長範囲の1つの狭帯域光とを組み合わせたものになっている。また、特許文献1には、3波長の狭帯域光に対応する3つの信号のうち2つを選択し、その差を検出して酸素飽和度画像をモノクロあるいは疑似カラーで表示することが記載されている。
【0005】
また、所定の波長範囲の励起光(狭帯域光)を被検体の被観察領域に照射することにより、被検体から発せられる自家蛍光を撮像素子で撮像して自家蛍光画像を取得し、モニタ画面上に表示する蛍光内視鏡装置が知られている。例えば、特許文献2には、生体組織の自家蛍光を観察する電子内視鏡プロセッサであって、白色光と励起光を交互に照射し、白色光画像を参照画像として、参照画像の画像データと蛍光画像の画像データとの差分を算出して患部画像データを抽出し、参照画像の画像データと患部画像データを合成することにより、病変部における蛍光の減衰を観察しやすくする方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許2648494号公報
【特許文献2】特開2005−349007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2には、上記の内視鏡装置において、白色光と励起光の波長が異なる、つまり、両者の屈折率が異なるために、内視鏡スコープから出射されるこれらの光の配光分布が異なり、上記の蛍光画像が正しく表示されないという問題が提起されている。
【0008】
これに対し、特許文献2には、以下の方法でこの問題を解決することが提案されている。つまり、特許文献2の電子内視鏡プロセッサでは、実際の蛍光観察前に、内面に標準被写体を備えたキャップをスコープの先端部に取り付けて、標準被写体の白色光画像と励起光画像を取得し、励起光画像を白色光画像にほぼ一致させる補正値を算出し、実際の蛍光観察時に、この補正値を用いて蛍光画像を補整している。
【0009】
しかし、特許文献2に記載の補正方法では、補正データはキャップを装着した時の配光光学系とキャップ内面の標準被写体の位置関係の場合のみに対応する。ところが、実際に生体組織を観察する時には、スコープと被写体組織との位置関係は距離、角度ともに様々に変化する。そのため、特許文献2の補正方法では、白色光と励起光との間の配光分布の違いを正しく補正できない可能性があるという問題点があった。
【0010】
また、近年では、2系統もしくは4系統の照明光学系を備え、内視鏡スコープの先端部のそれぞれ異なる位置に配置された照明窓から、白色光と狭帯域光を照射する内視鏡装置が提案されている。このように、異なる位置に配置された照明窓から照射される白色光と狭帯域光についても同様に、両者の配光分布が異なるため、酸素飽和度画像や蛍光画像等の狭帯域光画像が正しく表示されない場合があるという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、位置の異なる2つの照明窓から照明光を照射して撮像された画像信号に現れる配光分布の違いを正しく補正することができ、正確な狭帯域光画像を得ることができる内視鏡診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、照明光を被検体に照射して該被検体の画像を撮像する内視鏡診断装置であって、
内視鏡スコープの先端部の異なる位置に配置された第1および第2の照明窓を有し、第1の照明光を前記第1の照明窓から照射して撮像した第1の画像の画像信号、第3の照明光を前記内視鏡スコープの先端部に配置された蛍光体に照射することによって、該蛍光体を透過した第3の照明光および該蛍光体から発せられる励起発光光を含む疑似白色光である第2の照明光を前記第2の照明窓から照射して撮像した第2の画像の画像信号、および、前記第3の照明光を前記第1の照明窓からもしくは前記第1の照明光を前記第2の照明窓から照射して撮像した第3の画像の画像信号を取得する内視鏡装置と、
前記第1および第2の画像の画像信号に現れる前記第1および第2の照明光の配光分布の違いを、前記第3の画像の画像信号を用いて補正する配光分布補正手段とを備えることを特徴とする内視鏡診断装置を提供するものである。
【0013】
ここで、前記内視鏡装置は、前記第3の照明光を前記第1の照明窓から照射して撮像した第3の画像の画像信号を取得するものであり、
前記配光分布補正手段は、前記第2および第3の画像の画像信号に基づいて補正係数を算出し、該補正係数を用いて前記第1の画像の画像信号を補正するものであることが好ましい。
【0014】
また、前記内視鏡装置は、前記第1の照明光を前記第2の照明窓から照射して撮像した第3の画像の画像信号を取得するものであり、
前記配光分布補正手段は、前記第1および第3の画像の画像信号に基づいて補正係数を算出し、該補正係数を用いて前記第2の画像の画像信号を補正するものであることが好ましい。
【0015】
さらに、照明光の正反射によって前記第1〜第3の画像上に現れる白色の輝点領域の信号を前記第1〜第3の画像の画像信号から除去する輝点領域除去手段を備え、
前記配光分布補正手段は、前記輝点領域除去手段によって前記白色の輝点領域の信号が除去された第1〜第3の画像の画像信号に基づいて、前記第1および第2の照明光の配光分布の違いを補正するものであることが好ましい。
【0016】
さらに、前記第1〜第3の画像の画像信号から低周波成分の信号を抽出する低周波成分抽出手段を備え、
前記配光分布補正手段は、前記低周波成分抽出手段によって前記第1〜第3の画像の画像信号から抽出された低周波成分の信号に基づいて、前記第1および第2の照明光の配光分布の違いを補正するものであることが好ましい。
【0017】
さらに、前記配光分布補正手段によって配光分布の違いが補正された第1および第2の画像の画像信号に基づいて、血中ヘモグロビンの酸素飽和度の情報を算出する酸素飽和度算出手段と、
前記酸素飽和度の情報に基づいて、酸素飽和度の分布を疑似カラー画像として表示する画像表示手段とを備えることが好ましい。
【0018】
また、前記内視鏡装置は、第1フレームで、前記第1の照明光として中心波長473nmの光を前記第1の照明窓から照射し、その反射光を撮像して前記第1の画像の画像信号を取得し、第2フレームで、前記第3の照明光として中心波長445nmの光を前記蛍光体に照射することによって、前記第2の照明光として該蛍光体から発せられる疑似白色光を前記第2の照明窓から照射し、その反射光を撮像して前記第2の画像の画像信号を取得し、第3フレームで、前記第3の照明光を前記第1の照明窓からもしくは前記第1の照明光を前記第2の照明窓から照射し、その反射光を撮像して前記第3の画像の画像信号を取得するものであることが好ましい。
【0019】
また、前記内視鏡装置は、第1フレームで、前記第1の照明光として中心波長405nmの光を前記第1の照明窓から照射し、被検体から発せられる自家蛍光を撮像して前記第1の画像の画像信号を取得し、第2フレームで、前記第3の照明光として中心波長445nmの光を前記蛍光体に照射することによって、前記第2の照明光として該蛍光体から発せられる疑似白色光を前記第2の照明窓から照射し、その反射光を撮像して前記第2の画像の画像信号を取得し、第3フレームで、前記第3の照明光を前記第1の照明窓からもしくは前記第1の照明光を前記第2の照明窓から照射し、その反射光を撮像して前記第3の画像の画像信号を取得するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、第1および第2の照明窓から照射される照明光の配光分布の違いを補正することにより、正確な酸素飽和度画像や蛍光画像等の狭帯域光画像を得ることができるため、医師による診断精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る内視鏡診断装置の構成を表す第1の実施形態の外観図である。
【図2】図1に示す内視鏡診断装置の内部構成を表すブロック図である。
【図3】内視鏡スコープの先端部の正面図である。
【図4】青色レーザ光源からの青色レーザ光および青色レーザ光が蛍光体により波長変換された発光スペクトルを示すグラフである。
【図5】R色、G色、B色のカラーフィルタの分光透過率を示すグラフである。
【図6】ヘモグロビンの吸光係数を示すグラフである。
【図7】信号比B/GおよびR/Gと、血液量および酸素飽和度との相関関係を表すグラフである。
【図8】本発明に係る内視鏡診断装置の構成を表す第2の実施形態の外観図である。
【図9】図8に示す内視鏡診断装置の内部構成を表すブロック図である。
【図10】励起光カットフィルタの分光透過率特性を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明に係る内視鏡診断装置を詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明に係る内視鏡診断装置の構成を表す第1の実施形態の外観図、図2は、その内部構成を表すブロック図である。これらの図に示すように、内視鏡診断装置10は、所定の波長範囲の光を発生する光源装置12と、光源装置12から発せられる光を導光して被検体の被観察領域に照明光を照射し、その反射光等を撮像する内視鏡装置14と、内視鏡装置14で撮像した画像信号を画像処理するプロセッサ装置16と、プロセッサ装置16で画像処理して得られた内視鏡画像等を表示する表示装置18と、入力操作を受け付ける入力装置20とによって構成されている。
【0024】
ここで、内視鏡診断装置10は、白色光を被検体に照射し、その反射光を撮像して白色光画像を表示(して観察)する白色光観察モードと、波長範囲の異なる3つ以上の反射光に対応する画像信号に基づいて算出された血中ヘモグロビンの酸素飽和度を疑似カラー画像として表示(して観察)する酸素飽和度観察モードとを有する。観察モードは、内視鏡装置14の切り替えスイッチ63や入力装置20から入力される指示に基づき、適宜切り替えられる。
【0025】
光源装置12は、光源制御部22と、それぞれ波長範囲の異なるレーザ光を発する2種のレーザ光源LD1,LD2と、コンバイナ24と、カプラ26とによって構成されている。
【0026】
本実施形態において、レーザ光源LD1,LD2からは、それぞれ、中心波長が473nm、445nmである、所定の波長範囲(例えば、中心波長±10nm)の狭帯域光が発せられる。レーザ光源LD1は、酸素飽和度観察用の狭帯域光画像を撮像するための光源であり、レーザ光源LD2は、励起光を照射して、後述する内視鏡スコープの先端部に配置された蛍光体から白色光(疑似白色光)を発生させるための白色光観察用の光源である。また、レーザ光源LD1,LD2は、後述する第1および第2の照明窓から照射される光の配光分布を補正するための光源でもある。
【0027】
レーザ光源LD1,LD2は、プロセッサ装置16の制御部64によって制御される光源制御部22によりそれぞれ個別にオンオフ制御および光量制御が行われ、各レーザ光源LD1,LD2の発光のタイミングや光量比は変更自在になっている。
【0028】
上記のレーザ光源LD1,LD2は、ブロードエリア型のInGaN系レーザダイオードが利用でき、また、InGaNAs系レーザダイオードやGaNAs系レーザダイオード等を用いることもできる。
【0029】
各レーザ光源LD1,LD2から発せられるレーザ光は、集光レンズ(図示略)を介してそれぞれ対応する光ファイバに入力され、合波器であるコンバイナ24により合波され、分波器であるカプラ26により4系統の光に分波されてコネクタ部32Aに伝送される。なお、これに限らず、コンバイナ24およびカプラ26を用いずに、各レーザ光源LD1,LD2からのレーザ光を直接コネクタ部32Aに送出する構成としてもよい。
【0030】
続いて、内視鏡装置14は、被検体内に挿入される内視鏡スコープの先端から4系統(4灯)の照明光を出射する照明光学系と、被観察領域を撮像する1系統の撮像光学系とを有する、電子内視鏡である。内視鏡装置14は、内視鏡スコープ28と、その先端の湾曲操作や観察のための操作を行う操作部30と、内視鏡装置14を光源装置12およびプロセッサ装置16に着脱自在に接続するコネクタ部32A,32Bとを備えている。
【0031】
内視鏡スコープ28は、可撓性を持つ軟性部34と、湾曲部36と、スコープ先端部38とから構成されている。
【0032】
湾曲部36は、軟性部34とスコープ先端部38との間に設けられ、操作部30に配置されたアングルノブ40の回動操作により湾曲自在に構成されている。この湾曲部36は、内視鏡装置14が使用される被検体の部位等に応じて、任意の方向、任意の角度に湾曲でき、スコープ先端部38を、所望の観察部位に向けることができる。
【0033】
スコープ先端部38には、図2に示すように、被観察領域へ光を照射する2つの照明窓42A,42Bと、被観察領域からの反射光等を撮像する1つの観察窓43が配置されている。
【0034】
照明窓42Aの奥には、2系統の光ファイバ44A,44Bが収納されている。光ファイバ44A,44Bは、光源装置12からコネクタ部32Aを介してスコープ先端部38まで敷設されている。光ファイバ44Aの先端部(照明窓42A側)にはレンズ46A等の光学系が取り付けられている。一方、光ファイバ44Bの先端部には蛍光体48Aが配置され、さらに蛍光体48Aの先にレンズ46B等の光学系が取り付けられている。
【0035】
同様に、照明窓42Bの奥には、先端部にレンズ46C等の光学系を有する光ファイバ44Cと、先端部に蛍光体48Bおよびレンズ46D等の光学系を有する光ファイバ44Dの、2系統の光ファイバが収納されている。
【0036】
図3は、内視鏡スコープの先端部の正面図である。照明窓42A,42Bは、観察窓43を挟んでその両脇側に配置されている。そして、照明窓42A,42B内に収納された4本の光ファイバ44A〜44Dは、蛍光体48A,48Bを備える光ファイバ44B,44D同士を結ぶ直線L1と、蛍光体を備えていない光ファイバ44A,44C同士を結ぶ直線L2とが、観察窓43の中心部Pで交差するように互い違いに配置されている。このように光ファイバ44A〜44Dを配置することによって、照明むらの発生を防止することができる。
【0037】
なお、以下の説明では、照明窓42A,42Bにおいて、蛍光体48A,48Bが設けられていない光ファイバ44A,44Cから照明光が照射される部分を仮想的にまとめて第1の照明窓、設けられている光ファイバ44B,44Dから照明光が照射される部分を仮想的にまとめて第2の照明窓と称する。第1および第2の照明窓は、図3に示す通り、内視鏡スコープ28の先端部の異なる位置に配置されている。
【0038】
蛍光体48Aは、レーザ光源LD2からの青色レーザ光の一部を吸収して緑色〜黄色に励起発光する複数種の蛍光物質(例えばYAG系蛍光物質、或いはBAM(BaMgAl1017)等の蛍光物質)を含んで構成される。白色光観察用の励起光が蛍光体48Aに照射されると、蛍光体48Aから発せられる緑色〜黄色の励起発光光(蛍光)と、蛍光体48Aにより吸収されず透過した青色レーザ光とが合わされて、白色光(疑似白色光)が生成される。
【0039】
図4は、青色レーザ光源からの青色レーザ光及び青色レーザ光が蛍光体により波長変換された発光スペクトルを示すグラフである。レーザ光源LD2から発せられる青色レーザ光は、中心波長445nmの輝線で表され、青色レーザ光による蛍光体48Aからの励起発光光は、概ね450nm〜700nmの波長範囲で発光強度が増大する分光強度分布となる。この励起発光光と青色レーザ光との合波光によって、上述した疑似白色光が形成される。蛍光体48Bも同様である。
【0040】
ここで、本発明でいう白色光とは、厳密に可視光の全ての波長成分を含むものに限らず、例えば、上述した疑似白色光を始めとして、基準色であるR(赤),G(緑),B(青)等、特定の波長帯の光を含むものであればよい。つまり、本発明のいう白色光には、例えば、緑色から赤色にかけての波長成分を含む光や、青色から緑色にかけての波長成分を含む光等も広義に含まれるものとする。
【0041】
前者(照明窓42A側)および後者(照明窓42B側)の照明光学系は同等の構成および作用のものであって、照明窓42A,42Bからは、基本的に同時に同等の照明光が照射される。
【0042】
観察窓43の奥には、被検体の被観察領域の像光を取り込むための対物レンズユニット50等の光学系が取り付けられ、さらに対物レンズユニット50の奥には、被観察領域の画像情報を取得するCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサやCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の撮像素子52が取り付けられている。
【0043】
撮像素子52は、対物レンズユニット50からの光を受光面(撮像面)で受光し、受光した光を光電変換して撮像信号(アナログ信号)を出力する。本実施形態の撮像素子52はカラーCCDイメージセンサであり、その受光面には、図5に示す分光透過率を有するR色、G色、B色のカラーフィルタ54,56,58が設けられ、R画素、G画素、B画素の3色の画素を1組として、複数組の画素がマトリクス状に配列されている。
【0044】
白色光は、その波長範囲が約470〜700nmであるため、R色、G色、B色のカラーフィルタ54,56,58は、白色光のうちそれぞれの分光透過率に応じた波長の光を透過し、R画素、G画素およびB画素の撮像信号が出力される。一方、半導体レーザLD1から発せられるレーザ光は、中心波長が473nmであるため、その反射光はB色のカラーフィルタ58のみを透過し、B画素の撮像信号のみが出力される。
【0045】
光源装置12から発せられる4系統の光は、それぞれ対応する光ファイバ44A〜44Dによってスコープ先端部38まで導光され、導光される光、もしくは、導光される光が蛍光体48A,48Bに照射され、蛍光体48A,48Bから発せられる白色光が、スコープ先端部38の照明窓42A,42Bから被検体の被観察領域に向けて照射される。そして、照明光が照射された被観察領域の様子が対物レンズユニット50等により撮像素子52の受光面上に結像され、撮像素子52で光電変換されて撮像される。
【0046】
撮像素子52からは、撮像された被検体の被観察領域の撮像信号(アナログ信号)が出力される。撮像素子52から出力される各画像の撮像信号(アナログ信号)は、スコープケーブル60を通じてA/D変換器62に入力される。A/D変換器62は、撮像素子52からの撮像信号(アナログ信号)をその電圧レベルに対応する画像信号(デジタル信号)に変換する。変換後の画像信号は、コネクタ部32Bを介してプロセッサ装置16の画像処理部66に入力される。
【0047】
なお、図示はしていないが、操作部30及び内視鏡スコープ28の内部には、組織採取用処置具等を挿入する鉗子チャンネルや、送気・送水用のチャンネル等、各種のチャンネルが設けられている。
【0048】
続いて、プロセッサ装置16は、制御部64と、画像処理部66と、記憶部68とを備えている。制御部64には、表示装置18および入力装置20が接続されている。
【0049】
制御部64は、内視鏡装置14の切り替えスイッチ63や入力装置20から入力される観察モード等の指示に基づいて、画像処理部66、光源装置12の光源制御部22、および、表示装置18の動作を制御する。
【0050】
画像処理部66は、制御部64の制御の基で、観察モードに基づき、内視鏡装置14から入力される画像信号に対して所定の画像処理を施す。画像処理部66は、白色光画像処理部72と、酸素飽和度画像処理部74とを備えている。
【0051】
白色光画像処理部72は、白色光観察モードの場合に、内視鏡装置14から入力される画像信号に対して、白色光画像に適した所定の画像処理を施し、白色光画像信号を出力する。
【0052】
酸素飽和度画像処理部74は、酸素飽和度観察モードの場合に、内視鏡装置14から入力される画像信号に対して、第1および第2の照明窓から照射される照明光の配光分布の違いを補正し、被検体の血液量および血中ヘモグロビンの酸素飽和度の情報を算出し、算出した酸素飽和度の情報に基づいて、酸素飽和度の分布を疑似カラー表示するための酸素飽和度画像信号を出力する。酸素飽和度画像処理部74は、配光分布補正部75と、信号比算出部76と、相関関係記憶部78と、血液量−酸素飽和度算出部80と、酸素飽和度画像生成部82とを備えている。
【0053】
ここで、内視鏡装置14は、酸素飽和度観察モードの場合に、第1の照明光として473nmの光を第1の照明窓から照射して被検体を撮像して第1の画像の画像信号を取得する。また、第3の照明光として445nmの光を蛍光体48A,48Bに照射することによって、第2の照明光として蛍光体48A,48Bを透過した445nmの照明光および蛍光体48A,48Bから発せられる励起発光光を含む疑似白色光を第2の照明窓から照射して撮像して第2の画像の画像信号を取得する。さらに、第3の照明光を第1の照明窓からもしくは第1の照明光を第2の照明窓から照射して撮像して第3の画像の画像信号を取得する。
【0054】
配光分布補正部75は、第1および第2の画像の画像信号に現れる照明光の配光分布の違いを、第3の画像の画像信号を用いて補正する。
【0055】
例えば、内視鏡装置14が、第3の照明光を第1の照明窓から照射して撮像して第3の画像を取得する場合、配光分布補正手段75は、第2および第3の画像の画像信号に基づいて補正係数を算出し、補正係数を用いて第1の画像の画像信号を補正する。また、内視鏡装置14が、第1の照明光を第2の照明窓から照射して撮像して第3の画像を取得する場合、配光分布補正手段75は、第1および第3の画像の画像信号に基づいて補正係数を算出し、補正係数を用いて第2の画像の画像信号を補正する。
【0056】
信号比算出部76は、血管部分の画像信号とそれ以外の部分の画像信号との差に基づいて、配光分布の違いが補正された画像信号から血管領域を特定する。そして、信号比算出部76は、血管領域内の同じ位置の画素について、血中ヘモグロビンの酸素飽和度に応じて還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンの吸光係数(吸光度)の大小関係が逆転する波長範囲の2つの狭帯域光の反射光に対応する画像信号をS1,S2とし、吸光係数が同じになる波長範囲の1つの狭帯域光の反射光に対応する画像信号をS3として、信号比S1/S3およびS2/S3を求める。
【0057】
相関関係記憶部78は、信号比S1/S3およびS2/S3と、血液量および酸素飽和度との相関関係を記憶している。この相関関係は、血管が図6に示すヘモグロビンの吸光係数を有する場合の相関関係であり、これまでの診断等で蓄積された多数の画像信号を分析することにより得られたものである。
【0058】
図6に示すように、血中ヘモグロビンは、照射する光の波長によって吸光係数μaが変化する吸光特性を持っている。吸光係数μaは、ヘモグロビンの光の吸収の大きさである吸光度を表す。また、酸素と結合していない還元ヘモグロビン70と、酸素と結合した酸化ヘモグロビン71は、異なる吸光特性を持っており、同じ吸光度(吸光係数μa)を示す等吸収点(図6における各ヘモグロビン70,71の交点)を除いて、吸光度に差が生じる。
【0059】
一般的に、図6の分布は撮像対象の部位によって非線形に変化するため、実際の生体組織の計測や光伝播シミュレーション等により予め求めておく必要がある。
【0060】
図7は、信号比B/GおよびR/Gと、血液量および酸素飽和度との相関関係を表すグラフである。このグラフの横軸はlog(R/G)、縦軸はlog(B/G)であり、信号比R/Gは信号比S1/S3に対応し、信号比B/Gは信号比S2/S3に対応するものとする。このグラフに示すように、信号比R/Gの値は、血液量に依存して変化し、血液量が大きくなるほど大きくなる。また、信号比B/Gの値は、血液量および酸素飽和度の両方に依存して変化する。つまり、信号比B/Gの値は、血液量が大きくなるほど大きくなるとともに、酸素飽和度が低くなるほど大きくなる。
【0061】
血液量−酸素飽和度算出部80は、相関関係記憶部78に記憶された相関関係に基づき、信号比算出部76で算出された信号比S1/S3およびS2/S3に対応する血液量および酸素飽和度を算出する。
【0062】
酸素飽和度画像生成部82は、酸素飽和度の大小に応じてカラー情報が割り当てられたカラーテーブルを備えている。カラーテーブルは、入力装置20から入力される指示によって切り替えが可能であり、例えば、胃、十二指腸、小腸等のように、観察する部位に合ったものが選択される。酸素飽和度画像生成部82は、カラーテーブルを用い、血液量−酸素飽和度算出部80で算出された酸素飽和度に対応するカラー情報を特定する。そして、酸素飽和度画像生成部82は、血管領域内の全ての画素についてのカラー情報を特定すると、例えば、白色光画像の画像信号に対してカラー情報を反映させることにより、血中ヘモグロビンの酸素飽和度が反映(疑似カラー表示)された酸素飽和度画像信号を生成する。
【0063】
画像処理部66で処理された画像信号は、制御部64に送られ、制御部64で各種情報と共に内視鏡観察画像にされて表示装置18に表示され、必要に応じて、メモリやストレージ装置からなる記憶部68に記憶される。
【0064】
以下、血液量および酸素飽和度の算出方法について説明する。
【0065】
被検体の粘膜組織内に光が入射すると、その一部は血管のところで吸収され、吸収されなかった光のさらに一部が反射光として戻ってくる。この時、血管の深さが深くなるほど、その上の組織からの散乱の影響を大きく受けることになる。
【0066】
ところで、470〜700nmの波長範囲の光は、粘膜組織内での散乱係数が小さく、かつ波長依存性が小さいという性質がある。このため、この波長範囲の光を照明光として用いることによって、血管の深さの影響を低減しつつ、血液量および酸素飽和度の情報を含む血液情報を得ることができる。従って、内視鏡診断装置10では、血中ヘモグロビンの酸素飽和度に応じて吸光係数が変化する2つ以上の波長範囲の反射光および変化しない1つ以上の波長範囲の反射光を含む、460〜700nmの波長範囲の異なる3つ以上の反射光に対応する画像信号を用いて、血中ヘモグロビンの酸素飽和度を算出する。
【0067】
ここで、血中ヘモグロビンの吸光係数の波長依存性から、以下の3つのことが言える。
・波長470nm近辺(例えば、中心波長470nm±10nmのBの波長範囲)では酸素飽和度の変化に応じて吸光係数が大きく変化する。
・540〜580nmのGの波長範囲で平均すると、酸素飽和度の影響を受けにくい。
・590〜700nmのRの波長範囲では、酸素飽和度によって一見吸光係数が大きく変化するように見えるが、吸光係数の値自体が非常に小さいので、結果的に酸素飽和度の影響を受けにくい。
【0068】
また、粘膜の反射スペクトルから以下の2つの性質がある。
・Rの波長範囲ではヘモグロビンの影響がほとんどないと見なせるが、Gの波長範囲では吸収が生じるので、血液量(血管の太さあるいは血管の密度に対応)が大きいほど、Gの波長範囲での反射率とRの波長範囲での反射率との差が大きくなる。
・波長470nm近辺の反射率とGの波長範囲での反射率との差は、酸素飽和度が低いほど大きくなり、同時に、血液量が大きいほど大きくなる。
【0069】
つまり、B画素の画像信号BとG画素の画像信号Gとの間の信号比B/Gは、その値が酸素飽和度および血液量の両方に依存して変化し、G画素の画像信号GとR画素の画像信号Rとの間の信号比R/Gは、その値が主に血液量だけに依存して変化する。従って、この性質を利用することによって、波長470nm近辺、GおよびRの波長範囲を含む3波長範囲の分光画像から、酸素飽和度と血液量とを分離してそれぞれの値を正確に算出することができる。これに基づいて作成したものが、信号比B/GおよびR/Gと、血液量および酸素飽和度との相関関係を表す前述の図7のグラフである。
【0070】
次に、配光分布の違いの補正方法について説明する。
【0071】
酸素飽和度は、例えば、前述の第1および第2の画像の画像信号を用いて算出することができる。しかし、第1および第2の画像の撮像時には、照明光が照射される照明窓が異なる(第1の画像の撮像時は第1の照明窓、第2の画像の撮像時は第2の照明窓)ため、被検体上の配光分布が異なる。配光分布の違いを補正せずに酸素飽和度を算出すると、不適切な値が算出される虞があるため、前述のように、第3の画像の画像信号を利用して、第1および第2の画像の画像信号に現れる配光分布の違いを補正する。
【0072】
ここで、酸素飽和度観察モードの場合に、内視鏡装置14によって撮像される第1の画像の画像信号をB1,G1,R1、第2の画像の画像信号をB2,G2,R2、第3の画像の画像信号をB3,G3,R3とする。
【0073】
撮像素子52の分光感度と蛍光体48A,48Bから発せられる白色光のスペクトルとから、画像信号B2は、中心波長445nmの励起光と、蛍光体48A,48Bから発せられる少量の励起発光光の画像信号とだけを含む信号となる。そのため、画像信号B2は、おおよそ中心波長445nm単色の照明光による画像の画像信号に近いと見なすことができる。
【0074】
従って、内視鏡装置14が、第3の照明光を第1の照明窓から照射して撮像して第3の画像を取得する場合、配光分布補正部75は、画像信号B2と画像信号B3との信号比C=B2/B3を算出して補正係数とし、この補正係数Cを第1の画像の画像信号B1,G1,R1に掛けることによって、第1の照明窓から照射される照明光の配光分布を、第2の照明窓から照射される照明光の配光分布に合わせるように補正することができる。
【0075】
一方、内視鏡装置14が、第1の照明光を第2の照明窓から照射して撮像して第3の画像を取得する場合、配光分布補正部75は、画像信号B1と画像信号B3との信号比C=B1/B3を算出して補正係数とし、この補正係数Cを画像信号B2,G2,R2に掛けることによって、第2の照明窓から照射される照明光の配光分布を、第1の照明窓から照射される照明光の配光分布に合わせるように補正することができる。
【0076】
ここで、配光分布の違いを表す補正係数Cは、本来空間的に細かい構造を持っていない。そのため、低周波成分抽出手段を用いて、補正係数Cを算出するために用いる画像信号B2およびB3から、画像を縮小する、あるいは、平均値フィルタを掛けるなどして低周波成分の信号のみを抽出し、データ量を削減しておくことが望ましい。
【0077】
また、第1および第2の画像の撮像時には、照明光が照射される照明窓の位置が異なるため、光源の正反射によって、画像上に現れる白色の輝点の位置が異なる。そのため、補正係数Cを算出するためには、この白色の輝点の影響を受けないように、輝点領域除去手段を用いて、画像信号B2およびB3から輝点領域を除去した後に低周波成分を抽出することが望ましい。白色の輝点を除去する方法としては、例えば、画像信号に閾値を設けて、ある閾値以上の画像信号を持つ領域を、周辺の画像信号値に置換する方法を例示することができる。
【0078】
次に、内視鏡診断装置10の動作を説明する。
まず、白色光観察モードの場合の動作を説明する。
【0079】
観察モード等の指示が、内視鏡装置14の切り替えスイッチ63や入力装置20からプロセッサ装置16の制御部64に入力され、白色光観察モードに設定される。
【0080】
白色光観察モードの場合、プロセッサ装置16の制御部64により光源装置12の光源制御部22の動作が制御され、レーザ光源LD1がオフ、レーザ光源LD2がオンとされ、レーザ光源LD2から2系統の白色光観察用の励起光が発せられる。
【0081】
内視鏡装置14では、光源装置12から発せられる2系統の白色光観察用の励起光が、それぞれ、光ファイバ44B,44Dによってスコープ先端部38の蛍光体48A,48Bへ導光される。これにより、蛍光体48A,48Bから白色光が発せられ、それぞれ、レンズ46B,46Dを介して照明窓42A,42Bから被検体の被観察領域に照射される。そして、被観察領域からの反射光が対物レンズユニット50により集光され、撮像素子52により光電変換されて白色光画像の撮像信号(アナログ信号)が出力される。
【0082】
白色光画像の撮像信号(アナログ信号)は、A/D変換器62により画像信号(デジタル信号)に変換され、観察モードに従って、画像処理部68の白色光画像処理部72により白色光画像に適した所定の画像処理が施され、白色光画像信号が出力される。そして、制御部64により、白色光画像信号から白色光画像が発生され、白色光画像が表示装置18上に表示される。
【0083】
次に、酸素飽和度観察モードの場合の動作を説明する。
【0084】
まず、観察モードが、通常光画像モードから酸素飽和度観察モードに切り替えられる。酸素飽和度観察モードになると、このモード切替時点での白色光画像信号が、酸素飽和度画像の生成に用いられる基準画像として記憶部68に記憶される。また、入力装置20の操作によって、胃、十二指腸、小腸など現時点での観察部位の情報が指定される。これにより、酸素飽和度画像生成部82において、その観察部位に応じたカラーテーブルが選択される。
【0085】
酸素飽和度観察モードでは、3フレームを1組として、1フレーム毎に照射パターンの異なる照明光が照射される。まず、第1フレームにおいてLD1がオン、LD2がオフとされ、光源装置12から2系統の酸素飽和度観察用のレーザ光が発せられる。
【0086】
内視鏡装置14では、光源装置12から発せられる2系統の酸素飽和度観察用のレーザ光が、それぞれ、光ファイバ44A,44Cによってスコープ先端部38まで導光され、レンズ46A,46Cを介して第1の照明窓から被検体の被観察領域に照射される。そして、被観察領域からの反射光が対物レンズユニット50により集光され、撮像素子52により光電変換されて酸素飽和度観察用の狭帯域光画像(第1の画像)の撮像信号(アナログ信号)が出力される。狭帯域光画像の撮像信号(アナログ信号)は、A/D変換器62により画像信号(デジタル信号)に変換された後、一旦、制御部64の制御により記憶部68に記憶される。
【0087】
続いて、第2フレームにおいてLD1がオフ、LD2がオンとされ、光源装置12から2系統の白色光観察用の励起光が発せられる。そして、内視鏡装置14において、励起光が蛍光体48A,48Bに照射されて白色光が発せられ、蛍光体48A,48Bから発せられる白色光が第2の照明窓から照射される。この時の内視鏡装置14の動作は、白色光観察モードの場合と同じであり、白色光画像(第2の画像)の画像信号である白色光画像信号が記憶部68に記憶される。
【0088】
第3フレームでは、第2フレームにおけるLD1がオフ、LD2がオンの状態が継続され、光源装置12から2系統の配光分布補正用のレーザ光が発せられ、第1の照明窓から照射される。この時の内視鏡装置14の動作は第1フレームの場合と同様であり、配光分布補正用の狭帯域光画像(第3の画像)の画像信号が記憶部68に記憶される。
【0089】
ここで、第1フレームで得られる第1の画像の画像信号をB1,G1,R1、第2フレームで得られる第2の画像の画像信号をB2,G2,R2、第3フレームで得られる第3の画像の画像信号をB3,G3,R3とする。B1は、中心波長473nmの単色照明の画像信号、G2は、蛍光体48A,48Bから発せられる励起発光光の主として540〜580nmの波長範囲の分光照明の画像信号、R2は、同590〜700nmの波長範囲の分光照明の画像信号である。また、B1およびR2は、血中ヘモグロビンの酸素飽和度に応じて吸光係数が変化する2つの波長範囲の反射光に対応する画像信号であり、G2は、吸光係数が変化しない1つの波長範囲の反射光に対応する画像信号である。
【0090】
配光分布補正部75は、第1〜第3の画像の画像信号が記憶部68に記憶された後、記憶部68に記憶されている第1〜第3の画像の画像信号を読み出す。そして、画像信号B2と画像信号B3との信号比C=B2/B3を算出して補正係数とし、この補正係数Cを画像信号B1,G1,R1に掛けることによって、第1の照明窓から照射される照明光の配光分布を、第2の照明窓から照射される照明光の配光分布に合わせるように補正する。補正後の第1の画像の画像信号は再度記憶部68に記憶される。
【0091】
続いて、信号比算出部76は、まず、記憶部68に記憶されている第1の画像(酸素飽和度観察用の狭帯域光画像)および第2の画像(白色光画像)から、血管を含む血管領域を特定する。続いて、信号比算出部76は、血管領域内の同じ位置の画素について、画像信号B1と画像信号G2との間の信号比B1/G2と、画像信号G2と画像信号R2との間の信号比R2/G2を算出する。
【0092】
前述のように、信号比B1/G2は、その値が酸素飽和度および血液量の両方に依存して変化し、信号比R2/G2は、その値が主に血液量だけに依存して変化する。血液量−酸素飽和度算出部80は、図7に示す、相関関係記憶部78に記憶されている、これらの信号比B1/G2およびR2/G2と、血液量および酸素飽和度との間の相関関係に基づいて、信号比B1/G2およびR2/G2に対応する、血液量および酸素飽和度の情報を算出する。
【0093】
酸素飽和度画像生成部82は、血液量および酸素飽和度が求まると、選択されたカラーテーブルに基づき、酸素飽和度に対応するカラー情報を特定する。そして、血管領域内の全ての画素について、上述した手順で、血液量および酸素飽和度を求め、酸素飽和度に対応するカラー情報を特定する。そして、血管領域内の全ての画素について酸素飽和度とそれに対応するカラー情報が得られると、酸素飽和度画像生成部82は、記憶部68から基準画像となる白色光画像信号を読み出し、この白色光画像に対してカラー情報を反映させることにより、酸素飽和度画像信号を生成する。生成された酸素飽和度画像信号は、記憶部68に記憶される。
【0094】
そして、制御部64は、記憶部68から酸素飽和度画像信号を読み出し、読み出した酸素飽和度画像信号に基づいて、酸素飽和度画像を表示装置18に疑似カラー表示する。
【0095】
上記のようにして、内視鏡診断装置10では、第1および第2の照明窓から照射される照明光の配光分布の違いを補正することにより、正確な酸素飽和度画像を得ることができるため、医師による診断精度を向上させることができる。また、内視鏡診断装置10では、血管の深さの影響を低減しつつ、血液量を考慮して酸素飽和度の情報を正確に算出し、酸素飽和度の分布を疑似カラー画像として表示することができる。
【0096】
次に、第2の実施形態について説明する。
【0097】
図8は、本発明に係る内視鏡診断装置の構成を表す第2の実施形態の外観図、図9は、その内部構成を表すブロック図である。以下、第2の実施形態の内視鏡診断装置11について、第1の実施形態の内視鏡診断装置10と異なる部分を中心に説明する。
【0098】
本実施形態の内視鏡診断装置11は、白色光観察モードと、被検体に白色光と自家蛍光観察用の励起光とを交互に照射して白色光画像と自家蛍光画像とを交互に撮像し、両者の合成画像を生成(して観察)する自家蛍光観察モードとを有する。
【0099】
光源装置12のレーザ光源LD1からは、中心波長が405nmである、所定の波長範囲(例えば、中心波長±10nm)の狭帯域光が発せられる。レーザ光源LD1は、自家蛍光観察用の励起光を発する光源である。
【0100】
内視鏡装置14の内視鏡スコープ28の先端部には、撮像素子52の受光面で受光される光のうち、光源装置12から照射される励起光を含む所定の波長範囲の光をカット(遮光)する励起光カットフィルタ59がキャップとして装着されている。
【0101】
図10は、励起光カットフィルタの分光透過率特性を表すグラフである。グラフの縦軸は光強度、横軸は光の波長である。このグラフに示すように、所定の光強度の中心波長405nmの励起光を被検体に照射すると、励起光が照射された被検体の部位から、約420〜650nmの波長帯域の自家蛍光が発せられる。自家蛍光は、励起光と比べて極めて微弱な光であるため、自家蛍光を観察するためには、励起光カットフィルタ59によって励起光をカットする必要がある。
【0102】
このグラフに示す励起光カットフィルタ59は、励起光の405nm±10nmの波長範囲を含む415nm以下の波長範囲の光をカットする。つまり、励起光カットフィルタ59を透過する光のうち、415nm以下の波長範囲の光は遮光され、撮像素子52の受光面には受光されない。なお、励起光の波長範囲の光のみをカットすればよく、これ以外の波長範囲の光はカットしない方が望ましい。
【0103】
プロセッサ装置16の画像処理部66は、白色光画像処理部72と、自家蛍光画像処理部84とを備えている。
【0104】
自家蛍光画像処理部84は、自家蛍光観察モードの場合に、内視鏡装置14から入力される画像信号に対して、第1および第2の照明窓から照射される照明光の配光分布の違いを補正し、白色光画像と自家蛍光画像との合成画像の画像信号(自家蛍光画像信号)を出力する。自家蛍光画像処理部84は、配光分布補正部75と、自家蛍光信号算出部86と、自家蛍光画像生成部88とを備えている。
【0105】
ここで、内視鏡装置14は、自家蛍光観察モードの場合に、第1の照明光として405nmの光を照射して被検体を撮像して第1の画像の画像信号を取得する。また、第3の照明光として445nmの光を蛍光体48A,48Bに照射することによって、第2の照明光として蛍光体48A,48Bから発せられる疑似白色光を照射して撮像して第2の画像の画像信号を取得する。さらに、第3の照明光を第1の照明窓からもしくは第1の照明光を第2の照明窓から照射して撮像して第3の画像の画像信号を取得する。
【0106】
第1の実施形態の場合と同様に、第1および第2の画像の撮像時には、照明光が照射される照明窓が異なる(第1の画像の撮像時は第1の照明窓、第2の画像の撮像時は第2の照明窓)ため、被検体上の配光分布が異なる。配光分布の違いを補正せずに自家蛍光画像信号を算出すると、不適切な値が算出される虞があるため、配光分布補正部75は、第1の実施形態の場合と同様にして、第3の画像の画像信号を利用して、第1および第2の画像の画像信号に現れる配光分布の違いを補正する。
【0107】
自家蛍光画像は、白色光画像と比べて輝度成分が非常に微弱であるため、両者の合成画像において自家蛍光画像を適切に観察するためには、両者の特性(γ値、輝度レベル、コントラスト等)のバランスを適切に設定する必要がある。自家蛍光信号算出部86は、配光分布の違いが補正された画像信号に基づいて、自家蛍光観察用の狭帯域光画像(第1の画像)の画像信号と、参照画像としての白色光画像(第2の画像)の画像信号とのバランスを調整するために、自家蛍光観察用の狭帯域光画像の画像信号を補正することによって自家蛍光信号を算出する。
【0108】
自家蛍光画像生成部88は、白色光画像信号と蛍光画像信号とを画素毎に合成することにより、参照画像となる白色光画像において自家蛍光の分布が反映されるように疑似カラーで表現された合成画像の画像信号(自家蛍光画像信号)を生成する。
【0109】
次に、自家蛍光観察モードの場合の動作を説明する。
【0110】
自家蛍光観察モードでは、3フレームを1組として、1フレーム毎に照射パターンの異なる照明光が照射される。内視鏡装置14において、第1〜第3フレームで第1〜第3の画像の画像信号が記憶部68に記憶され、プロセッサ装置16において、配光分布の違いが補正されるまでの動作は、レーザ光源LD1から照射される酸素飽和度観察用のレーザ光が自家蛍光観察用のレーザ光になる点を除いて、第1の実施形態の場合と同様である。
【0111】
自家蛍光信号算出部86は、第1〜第3の画像の画像信号が記憶部68に記憶された後、記憶部68に記憶されている第1〜第3の画像の画像信号を読み出す。そして、例えば、自家蛍光観察用の狭帯域光画像(第1の画像)のG画素の画像信号G1と、参照画像としての白色光画像(第2の画像)のG画素の画像信号G2との信号比G1/G2に基づいて、両者のバランスを調整するために、自家蛍光観察用の狭帯域光画像の画像信号を補正することによって自家蛍光信号を算出する。
【0112】
自家蛍光画像生成部88は、例えば、白色光画像のR画像およびB画像をそれぞれRチャンネル信号およびBチャンネル信号として割り当て、自家蛍光画像のG画像をGチャンネル信号として割り当てて、RGBの各チャンネル信号を合成することによって、自家蛍光の分布が疑似カラーで表現される合成画像の画像信号(自家蛍光画像信号)を生成する。合成画像は、例えば、正常部がG色の色調で表示され、病変部がマゼンタの色調で表示されるように合成処理される。
【0113】
そして、制御部64は、記憶部68から自家蛍光画像信号を読み出し、読み出した自家蛍光画像信号に基づいて、参照画像となる白色光画像と自家蛍光画像との合成画像を表示装置18に表示する。
【0114】
第2の実施形態の内視鏡診断装置11においても、第1および第2の照明窓から照射される照明光の配光分布の違いを補正することにより、正確な自家蛍光画像を得ることができるため、医師による診断精度を向上させることができる。
【0115】
なお、内視鏡装置は、血中ヘモグロビンの酸素飽和度に応じて吸光係数が変化する2つの波長範囲の反射光および吸光係数が変化しない1つの波長範囲の反射光を含む、460〜700nmの波長範囲の異なる3つ以上の反射光に対応する画像信号を取得することができればよく、光源の種類(レーザ光源、白色光光源、レーザ光源および蛍光体の組合せ、など)および波長、撮像素子の種別(カラーもしくはモノクロ)、照明光の照射パターン(1フレーム毎、複数フレームを1組とする、など)、照明光学系の形態(1灯、2灯、4灯、など)等の組合せは、必要に応じて適宜変更することができる。
【0116】
本発明は、基本的に以上のようなものである。
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0117】
10,11 内視鏡診断装置
12 光源装置
14 内視鏡装置
16 プロセッサ装置
18 表示装置
20 入力装置
22 光源制御部
LD1,LD2 レーザ光源
24 コンバイナ
26 カプラ
28 内視鏡スコープ
30 操作部
32A,32B コネクタ部
34 軟性部
36 湾曲部
38 スコープ先端部
40 アングルノブ
42A,42B 照明窓
43 観察窓
44A〜44D 光ファイバ
46A〜46D レンズ
48A,48B 蛍光体
50 対物レンズユニット
52 撮像素子
54,56,58 カラーフィルタ
59 励起光カットフィルタ
60 スコープケーブル
62 A/D変換器
63 切り替えスイッチ
64 制御部
66 画像処理部
68 記憶部
70 還元ヘモグロビン
71 酸化ヘモグロビン
72 白色光画像処理部
74 酸素飽和度画像処理部
75 配光分布補正部
76 信号比算出部
78 相関関係記憶部
80 血液量−酸素飽和度算出部
82 酸素飽和度画像生成部
84 自家蛍光画像処理部
86 自家蛍光信号算出部
88 自家蛍光画像生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光を被検体に照射して該被検体の画像を撮像する内視鏡診断装置であって、
内視鏡スコープの先端部の異なる位置に配置された第1および第2の照明窓を有し、第1の照明光を前記第1の照明窓から照射して撮像した第1の画像の画像信号、第3の照明光を前記内視鏡スコープの先端部に配置された蛍光体に照射することによって、該蛍光体を透過した第3の照明光および該蛍光体から発せられる励起発光光を含む疑似白色光である第2の照明光を前記第2の照明窓から照射して撮像した第2の画像の画像信号、および、前記第3の照明光を前記第1の照明窓からもしくは前記第1の照明光を前記第2の照明窓から照射して撮像した第3の画像の画像信号を取得する内視鏡装置と、
前記第1および第2の画像の画像信号に現れる前記第1および第2の照明光の配光分布の違いを、前記第3の画像の画像信号を用いて補正する配光分布補正手段とを備えることを特徴とする内視鏡診断装置。
【請求項2】
前記内視鏡装置は、前記第3の照明光を前記第1の照明窓から照射して撮像した第3の画像の画像信号を取得するものであり、
前記配光分布補正手段は、前記第2および第3の画像の画像信号に基づいて補正係数を算出し、該補正係数を用いて前記第1の画像の画像信号を補正するものである請求項1に記載の内視鏡診断装置。
【請求項3】
前記内視鏡装置は、前記第1の照明光を前記第2の照明窓から照射して撮像した第3の画像の画像信号を取得するものであり、
前記配光分布補正手段は、前記第1および第3の画像の画像信号に基づいて補正係数を算出し、該補正係数を用いて前記第2の画像の画像信号を補正するものである請求項1に記載の内視鏡診断装置。
【請求項4】
さらに、照明光の正反射によって前記第1〜第3の画像上に現れる白色の輝点領域の信号を前記第1〜第3の画像の画像信号から除去する輝点領域除去手段を備え、
前記配光分布補正手段は、前記輝点領域除去手段によって前記白色の輝点領域の信号が除去された第1〜第3の画像の画像信号に基づいて、前記第1および第2の照明光の配光分布の違いを補正するものである請求項1〜3のいずれかに記載の内視鏡診断装置。
【請求項5】
さらに、前記第1〜第3の画像の画像信号から低周波成分の信号を抽出する低周波成分抽出手段を備え、
前記配光分布補正手段は、前記低周波成分抽出手段によって前記第1〜第3の画像の画像信号から抽出された低周波成分の信号に基づいて、前記第1および第2の照明光の配光分布の違いを補正するものである請求項1〜4のいずれかに記載の内視鏡診断装置。
【請求項6】
さらに、前記配光分布補正手段によって配光分布の違いが補正された第1および第2の画像の画像信号に基づいて、血中ヘモグロビンの酸素飽和度の情報を算出する酸素飽和度算出手段と、
前記酸素飽和度の情報に基づいて、酸素飽和度の分布を疑似カラー画像として表示する画像表示手段とを備える請求項1〜5のいずれかに記載の内視鏡診断装置。
【請求項7】
前記内視鏡装置は、第1フレームで、前記第1の照明光として中心波長473nmの光を前記第1の照明窓から照射し、その反射光を撮像して前記第1の画像の画像信号を取得し、第2フレームで、前記第3の照明光として中心波長445nmの光を前記蛍光体に照射することによって、前記第2の照明光として該蛍光体から発せられる疑似白色光を前記第2の照明窓から照射し、その反射光を撮像して前記第2の画像の画像信号を取得し、第3フレームで、前記第3の照明光を前記第1の照明窓からもしくは前記第1の照明光を前記第2の照明窓から照射し、その反射光を撮像して前記第3の画像の画像信号を取得するものである請求項1〜6のいずれかに記載の内視鏡診断装置。
【請求項8】
前記内視鏡装置は、第1フレームで、前記第1の照明光として中心波長405nmの光を前記第1の照明窓から照射し、被検体から発せられる自家蛍光を撮像して前記第1の画像の画像信号を取得し、第2フレームで、前記第3の照明光として中心波長445nmの光を前記蛍光体に照射することによって、前記第2の照明光として該蛍光体から発せられる疑似白色光を前記第2の照明窓から照射し、その反射光を撮像して前記第2の画像の画像信号を取得し、第3フレームで、前記第3の照明光を前記第1の照明窓からもしくは前記第1の照明光を前記第2の照明窓から照射し、その反射光を撮像して前記第3の画像の画像信号を取得するものである請求項1〜6のいずれかに記載の内視鏡診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−100733(P2012−100733A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249469(P2010−249469)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】