説明

円筒部とハウジング部分を有する成形体

【課題】 繊維状充填材を充填したPPS樹脂製の円筒部を有する成形体の問題点、特にその円筒部にハウジング部分などを一体成形してなる成形体において、真円度が優れる円筒部を有するPPS樹脂製成形体を提供することを課題とする。
【解決手段】
(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(B)繊維状充填材10〜350重量部、(C)非繊維状充填材5〜300重量部を配合してなり、(B)繊維状充填材と(C)非繊維状充填材の合計が(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して100重量部以上である樹脂組成物を射出成形して得られる円筒部を有する成形体であって、円筒部とハウジング部分を有する成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気電子部品、光学系部品、自動車部品、一般機器、水廻り部品などの分野の中の、射出成形によって得られる円筒部を有する成形体において、円筒部の真円性が良好なポリフェニレン樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気電子部品、光学系部品、自動車部品、一般機器、水廻り部品などに代表される用途においては、複雑な形状でも大量生産可能であり、生産コストも削減されるため熱可塑性樹脂の射出成形が幅広く適用されている。熱可塑性樹脂の中でもポリフェニレンスルフィド樹脂(以下PPS樹脂と略す場合もある)は、耐熱性や寸法安定性、耐薬品性、難燃性、成形性に優れるため、耐熱性や寸法安定性への要求が厳しい高機能部品において幅広く展開されており、特に耐熱性や寸法安定性への要求が厳しい用途については、繊維状、非繊維状の無機充填材を高充填したPPS樹脂が使用されている。また強度や剛性を要求される用途に関しては、繊維状無機充填材の充填による補強が必要不可欠となる。しかし、単に繊維状充填材を高充填したPPS樹脂の場合、部品の形状によっては、繊維状充填材の配向が部位間で異なるため、発現する寸法精度に大きな影響を与える。円筒部を有する成形体の場合や、特に、その円筒部にハウジング部分やハウジング部を取り付けるための一部などを一体成形してなる成形体の場合は、円筒部円周方向の繊維状充填材配向状態が特に大きく異なるため、射出成形後に金型から取り出した後の部位間収縮の違いによって、円筒部分に歪みが生じ、円筒部分の真円度が悪くなる問題点があった。
【0003】
なお、本発明における円筒部とハウジング部を有する成形体とは、円筒部の開口部以外の円筒部側面にハウジング部分もしくはハウジング部分を取り付けるための部位を一体成形してなる成形体である。その円筒部分に、より真円度が求められる成形体としては、円筒部とその円筒部を通過する流体または気体の流量を制御する部分、またはその一部を一体成形してなり、その流路を円筒部に内在した制御弁の機構によって制御する成形体が挙げられる。
【0004】
円筒部を有するPPS樹脂組成物成形体に関しては、例えば特許文献1には、PPS樹脂に特定のオレフィン系重合体と無機フィラーを特定量配合して、円筒部分の側面に生成するウエルド強度が極めて高い、円筒部分を有する射出成形体用PPS樹脂組成物について開示されている。しかしながら、PPS樹脂100重量部に対する無機フィラーの配合量が20〜90重量部と少なく、射出成形後に金型から取り出した後の部位間収縮の違いを抑制するのにも不十分であり、また、円筒部分に生じた歪みを強制するための剛性も不足するため、円筒部分の真円度を発現させるのに不十分である。
【0005】
また、特許文献2には、PPS樹脂にガラスビーズを20重量%以上とガラスファイバーを10重量%以上配合することを特徴とするスロットルボディについて記載されており、高品質のボディを得るためにはPPS樹脂にガラスビーズを30〜50重量%とガラスファイバーを10〜30重量%配合した樹脂材料が好ましい旨開示されている。しかしながら、我々の実験結果ではガラスビーズを20重量%以上配合しても、円筒部の一部にハウジング部分を有する成形品の場合、射出成形後に金型から取り出した後の部位間収縮の違いを抑制するのには不十分であり、それによって円筒部分に生じた歪みを矯正するための剛性も不足しているため、円筒部分の真円度を十分に発現させるのにはあまり良くない。
【0006】
また、特許文献3には、PPS樹脂に繊維状充填材と非繊維状充填材を特定量配合することで円筒形状部位保有成形品の真円度が優れる旨の開示がされている。しかし、円筒部分にハウジング部を有した場合は、充填材の配合量のみでの制御は困難であり、円筒部分の真円度を発現させるのに不十分である。
【特許文献1】特開2002−3716号公報
【特許文献2】特開2005−282412号公報
【特許文献3】特開2007−137983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、繊維状充填材を充填したPPS樹脂製の円筒部を有する成形体の問題点、特にその円筒部にハウジング部分などを一体化してなる成形体において、真円度が優れる円筒部を有するPPS樹脂製成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(B)繊維状充填材10〜350重量部、(C)非繊維状充填材5〜300重量部を配合してなり、(B)繊維状充填材と(C)非繊維状充填材の合計が(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して100重量部以上である樹脂組成物を射出成形して得られる成形体であって、円筒部とハウジング部分を有する成形体、
(2)円筒部とハウジング部分が一体成形されることを特徴とする(1)に記載の円筒部とハウジング部分を有する成形体、
(3)円筒部の内径が30mmから100mmの時、内径の真円度が100μm以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の円筒部とハウジング部分を有する成形体、
(4)(C)非繊維状充填材の全て、もしくは一部が(C−1)板状充填材であることを特徴とする(1)から(3)いずれかに記載の円筒部とハウジング部分を有する成形体、
(5)(4)記載の(C−1)板状充填材がガラスフレークであることを特徴とする(1)から(4)いずれかに記載の円筒部とハウジング部分を有する成形体、
(6)(B)繊維状充填材の全て、もしくは一部が(B−1)ガラス繊維であることを特徴とする(1)から(5)いずれかに記載の円筒部とハウジング部分を有する成形体、
(7)(B)繊維状充填材の全て、もしくは一部が(B−2)ガラスミルドファイバーまたはガラスカットファイバーであることを特徴とする(1)から(6)いずれかに記載の円筒部とハウジング部分を有する成形体、
(8)樹脂組成物が、さらに(D)非晶性樹脂を(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、1〜40重量部配合してなる(1)から(7)いずれかに記載の円筒部とハウジング部分を有する成形体、
(9)円筒部に付属するハウジング部分が、非円筒状であることを特徴とする(1)から(8)いずれかに記載の円筒部とハウジング部分を有する成形体に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂組成物を射出成形して得られる成形体は、電気・電子関連機器、精密機械関連機器、事務用機器、自動車・車両関連部品、建材、包装材、家具、日用雑貨、バルブなどの水廻り部品などの円筒部を有する各種用途において、円筒部分の真円性が要求される部品に有用である。尚、真円度とは、JIS規格(B0621)によれば、「円形形体(c)を2つの同心の幾何学的円で挟んだとき、同心二円の間隔が最小となる場合の、二円の半径の差(f)で表され、真円度mm又は真円度μmと表示される」と規定されており、本願明細書でいう真円度も同義である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明において、「重量」とは「質量」を意味する。
【0012】
(1)PPS樹脂
本発明で用いられる(A)PPS樹脂は、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0013】
【化1】

【0014】
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0015】
【化2】

【0016】
かかる構造を一部有するPPS重合体は、融点が低くなるため、本発明の樹脂組成物において融点が低い場合には成形性の点で有利となる。
【0017】
本発明で用いられる(A)PPS樹脂は、ASTM−D1238に準じて測定したメルトフローレート(MFR)(315.5℃、5000g荷重)が400g/10分を越える範囲であると共に、有機系低重合成分(オリゴマー)量の指標となるクロロホルム抽出量(ポリマー10g/クロロホルム200mL、ソックスレー抽出5時間処理時の残差量から算出)が0.5〜4重量%と比較的多いことが好ましい。好ましくは、MFRが400g/10分を越え溶融粘度が5Pa・s(300℃、剪断速度1000/秒)以上、更に好ましくはMFRが400g/10分を越え1000g/10分以下特に好ましくはMFRが400を越え800g/10分以下である。またクロロホルム抽出量が1.0〜3.5重量%、特に好ましくは、クロロホルム抽出量が1.5〜3重量%であり、実用的である。
【0018】
本発明で用いるPPS樹脂は、上記範囲外のPPS樹脂をブレンドすることにより、上記範囲内となるように調整して用いてももちろん良い。
【0019】
上記の特性を有する(A)PPS樹脂は、ポリハロゲン芳香族化合物とスルフィド化剤とを極性有機溶媒中で反応させて得られるPPS樹脂を回収、後処理することで高収率で製造することができる。
【0020】
以下に、本発明に用いる(A)PPS樹脂の製造方法について説明するが、まず、製造方法において使用するポリハロゲン芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
【0021】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
本発明で用いられるポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0022】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度のPPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
【0023】
[スルフィド化剤]
本発明で用いられるスルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0024】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0025】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0026】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0027】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0028】
本発明において、仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0029】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0030】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
【0031】
[重合溶媒]
本発明では重合溶媒として有機極性溶媒を用いる。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
【0032】
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選択される。
【0033】
[分子量調節剤]
本発明においては、生成するPPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
【0034】
[重合助剤]
本発明においては、比較的高重合度のPPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られるポリアリーレンスルフィド樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩および/または水が好ましく用いられる。
【0035】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n (式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0036】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0037】
これら重合助剤を用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル〜0.7モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1〜0.6モルの範囲が好ましく、0.2〜0.5モルの範囲がより好ましい。
【0038】
また水を重合助剤として用いることは、流動性と高靭性が高度にバランスした樹脂組成物を得る上で有効な手段の一つである。その場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.5モル〜15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6〜10モルの範囲が好ましく、1〜5モルの範囲がより好ましい。
【0039】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0040】
[重合安定剤]
本発明においては、重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、本発明で使用する重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0041】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02〜0.2モル、好ましくは0.03〜0.1モル、より好ましくは0.04〜0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であったり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
【0042】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが添加が容易である点からより好ましい。
【0043】
次に、本発明に用いる(A)PPS樹脂の製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明する。
【0044】
[前工程]
本発明に用いる(A)PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。なお、この操作により水を除去し過ぎた場合には、不足分の水を添加して補充することが好ましい。
【0045】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0046】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.5〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0047】
[重合反応工程]
本発明においては、有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPPS樹脂を製造する。
【0048】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜220℃、好ましくは100〜220℃の温度範囲で、有機極性溶媒にスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を加える。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0049】
かかる混合物を通常200℃〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
【0050】
一般に、最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
【0051】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜260℃で一定時間反応させた後、270〜290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲が選択される。
【0052】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
【0053】
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(a)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)−PHA過剰量(モル)〕
(b)上記(a)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕
【0054】
[回収工程]
本発明で用いる(A)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。本発明で用いるPPS樹脂において、どのような方法で回収を行うかが重要である。
【0055】
すなわち、本発明で用いる(a)クロロホルム抽出量が0.5〜4重量%のPPS樹脂を得るためには、上記の回収を急冷条件下に行うことが好ましく、この回収方法の好ましい一つの方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm2 以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃〜250℃の範囲が選択される。
【0056】
フラッシュ法は、溶媒回収と同時に固形物を回収することができ、また回収時間も比較的短くできることから、経済性に優れた回収方法である。この回収方法では、固化過程でNaに代表されるイオン性化合物や有機系低重合度物(オリゴマー)がポリマー中に取り込まれやすい傾向がある。
【0057】
但し、本発明の回収法はフラッシュ法に限定されるものではない。本発明の要件を満たす方法であれば、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いることもやぶさかではない。しかし、経済性、性能を鑑みた場合、本発明で用いるPPS樹脂はフラッシュ法で回収されたものを用いることがより好ましい。
【0058】
[後処理工程]
本発明で用いられる(A)PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理または有機溶媒による洗浄を施されたものであってもよい。
【0059】
酸処理を行う場合は次のとおりである。本発明でPPS樹脂の酸処理に用いる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のようなPPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
【0060】
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、PH4の水溶液を80〜200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のPHは4以上例えばPH4〜8程度となっても良い。酸処理を施されたPPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
【0061】
熱水処理を行う場合は次のとおりである。本発明において使用するPPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満ではPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
【0062】
本発明の熱水洗浄によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1に対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選択される。
【0063】
また、処理の雰囲気は、末端基の分解は好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、この熱水処理操作を終えたPPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
【0064】
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。本発明でPPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい、また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0065】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。
【0066】
有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
【0067】
これら酸処理、熱水処理または有機溶媒による洗浄は、好ましい溶融粘度およびクロロホルム抽出量を有する(A)PPS樹脂が得られる範囲で行われ、これらを適宜組み合わせて行うことも可能である。
【0068】
本発明において用いる(A)PPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
【0069】
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160〜260℃が好ましく、170〜250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5〜100時間が好ましく、1〜50時間がより好ましく、2〜25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0070】
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことが可能である。その温度は130〜250℃が好ましく、160〜250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜20時間がより好ましく、1〜10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0071】
また、本発明で用いる好ましい(A)PPS樹脂としては、東レ(株)製M2588、M2888、M2088、T1881、L2120、L2480、L2840、L4230、M2100、M2900、E2080、E2180、E2280などが挙げられる。
【0072】
以上述べた製造方法により得られた(A)PPS樹脂は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気的性質並びに機械的性質に優れ、特に射出成形用途に適用することができる。
【0073】
(2)繊維状充填材(B)
本発明で用いられる繊維状充填材(B)としては、具体的には、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスカットファイバー、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などが用いられ、これらは2種類以上併用することも可能である。また、これら繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。中でもガラス繊維がより好適に用いられる。
【0074】
また、ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はないが、成形体の円筒部真円度の面から、長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランドが好適であり、特に真円度を向上させるためには、ガラス繊維の全てもしくは一部に繊維長500μm以下のミルドファイバーやカットファイバーを用いることがより好適である。
【0075】
本発明に用いられる繊維状充填材(B)の配合量としては、PPS樹脂100重量部に対して10〜350重量部であり、好ましくは20〜300重量部、更に好ましくは50〜250重量部であり、成形体の円筒部真円度の面から、非繊維状充填材(C)との合計がPPS樹脂100重量部に対して100重量部である必要がある。繊維状充填材の配合量が少なすぎると耐熱性や精密寸法性が低下し、また、多すぎると流動性と機械特性が低下し実用的ではない。繊維状充填材(B)と非繊維状充填材(C)の合計の上限は、PPS樹脂100重量部に対して355重量部が好ましい。
【0076】
(3)非繊維状充填材
本発明で用いられる非繊維状充填材としては、前記繊維状充填材ではない充填材であり、板状、粒状、球状などのものが使用できる。具体的には、フラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などが用いられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら非繊維状充填剤を2種類以上併用することも可能である。また、これら非繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。中でも炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、カオリン、クレー、タルクなどの珪酸塩、ガラスフレーク、ガラスビーズ、アルミナ、黒鉛が好ましく、成形体の円筒部真円度を向上させるためには、非繊維状充填材が板状充填材のガラスフレーク、雲母が好ましく、中でもガラスフレークがより好適である。
【0077】
本発明に用いられる非繊維状充填材の配合量としては、PPS樹脂100重量部に対して5〜300重量部であり、好ましくは20〜250量部、更に好ましくは30〜200重量部である。非繊維状充填材の配合量が少なすぎると真円度が発現せずし、また、多すぎると流動性と機械特性が低下し実用的でない。
【0078】
(4)非晶性樹脂
本発明では、真円度を向上させる目的で非晶性樹脂を添加することもできる。非晶性樹脂としては、熱可塑性樹脂の分類の中の非晶性樹脂であり、例えば、ポリスチレン樹脂、メタクリル樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが使用できるが、耐熱性の観点から、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂が好ましく用いられる。
【0079】
本発明で用いられる非晶性樹脂の配合量は、PPS樹脂100重量部に対して1〜40重量部であり、好ましくは5〜35重量部、更に好ましくは10〜30重量部である。非晶性樹脂の配合量が少なすぎると精密寸法性に効果が得られず、また、多すぎると流動性と耐薬品性が低下し実用的でない。
【0080】
(5)その他添加剤
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、耐衝撃性、耐冷熱性、難燃性、耐熱性、成形性などを改良するために、下記に示す添加剤を添加して用いても良い。
【0081】
(a)オレフィン系樹脂
本発明のPPS樹脂組成物には、耐衝撃性、耐冷熱性を付与する目的で、オレフィン系樹脂を添加することができる。より効率的に耐衝撃性と耐冷熱性を付与することができるオレフィン系樹脂としては、エポキシ基を有するオレフィン共重合体、および前記とエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを共重合して得られるエチレン・α−オレフィン系共重合体であり、エポキシ基を有するオレフィン共重合体(エポキシ基含有オレフィン共重合体)としては、オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン共重合体が挙げられる。また、主鎖中に二重結合を有するオレフィン系重合体の二重結合部分をエポキシ化した共重合体も使用することができる。
【0082】
オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入するための官能基含有成分の例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジルなどのエポキシ基を含有する単量体が挙げられる。
【0083】
これらエポキシ基含有成分を導入する方法は特に制限なく、前述の如きα−オレフィンなどとともに共重合せしめたり、オレフィン(共)重合体にラジカル開始剤を用いてグラフト導入するなどの方法を用いることができる。
【0084】
エポキシ基を含有する単量体成分の導入量はエポキシ基含有オレフィン系共重合体の原料となる単量体全体に対して0.001〜40モル%、好ましくは0.01〜35モル%の範囲内であるのが適当である。
【0085】
エポキシ基含有オレフィン共重合体としては、α−オレフィンとα、β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを共重合成分とするオレフィン系共重合体が好ましく挙げられる。上記α−オレフィンとしては、エチレンが好ましく挙げられる。また、これら共重合体にはさらに、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα,β−不飽和カルボン酸およびそのアルキルエステル、スチレン、アクリロニトリル等を共重合することも可能である。
【0086】
またかかるオレフィン共重合体はランダム、交互、ブロック、グラフトいずれの共重合様式でも良い。
【0087】
α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを必須共重合成分とするオレフィン系共重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体(”g”はグラフトを表す、以下同じ)、エチレン/ブテン−1−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体ーg―ポリスチレン、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体ーg−アクリロニトリルースチレン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体ーg−PMMA、エチレン/アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体が挙げられる。
【0088】
また、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンを共重合して得られるエチレン・α−オレフィン系共重合体は、エチレンおよび炭素数3〜20を有する少なくとも1種以上のα−オレフィンを構成成分とする共重合体である。上記の炭素数3〜20のα−オレフィンとして、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、 4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0089】
(b)酸化防止剤
本発明においては、高い耐熱性及び熱安定性を保持するために、(A)から(C)成分の合計100重量部に対して、フェノール系、リン系化合物の中から選ばれた1種以上の酸化防止剤を添加しても良い。かかる酸化防止剤の配合量は、耐熱改良効果の点からは0.01重量部以上、特に0.02重量部以上であることが好ましく、成形時に発生するガス成分の観点からは、5重量部以下、特に1重量部以下であることが好ましい。また、フェノール系及びリン系酸化防止剤を併用して使用することは、特に耐熱性及び熱安定性保持効果が大きく好ましい。
【0090】
フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物が好ましく用いられ、具体例としては、トリエチレングリコール−ビス[3−t−ブチル−(5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N、N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが挙げられる。
【0091】
中でも、エステル型高分子ヒンダードフェノールタイプが好ましく、具体的には、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが好ましく用いられる。
【0092】
次にリン系酸化防止剤としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビスフェニレンホスファイト、ジ−ステアリルペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリフェニルホスファイト、3,5−ジーブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフォネートジエチルエステルなどが挙げられる。
【0093】
中でも、PPS樹脂のコンパウンド中に酸化防止剤の揮発や分解を少なくするために、酸化防止剤の融点が高いものが好ましく、具体的にはビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイトなどが好ましく用いられる。
【0094】
(c)難燃剤
本発明において、樹脂組成物の難燃性を改良するため難燃剤を配合しても良い。難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水和金属系難燃剤 、ブロム系難燃剤 、塩素系難燃剤 、燐系難燃剤 、三酸化アンチモン等の無機系難燃剤等が挙げられるが、これらの中でも燐系難燃剤が好ましい。
【0095】
燐系難燃剤 としては、燐原子を有する化合物であれば特に制限されず、赤燐、有機燐化合物、例えば、燐酸エステル、ホスホン酸とその誘導体(塩も含む)、ホスフィン酸とその誘導体(塩も含む)、ホスフィン、ホスフィンオキサイド、ビホスフィン、ホスホニウム塩、ホスファゼン、ホスファフェナントレン誘導体、無機系燐酸塩等が挙げられる。
【0096】
かかる難燃剤成分の含有量は、樹脂組成物全体の50重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下の範囲が選択される。
【0097】
(d)耐摩耗性向上剤
本発明において、樹脂組成物の耐摩耗性を向上させる観点から、ポリテトラフルオロエテレン、エチレン−テトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、シリコーンオイル等を添加しても良い。かかる添加剤の添加量は通常樹脂組成物全体の0.1〜10重量%の範囲が選択される。
【0098】
(e)その他のオレフィン系樹脂 さらに、本発明のPPS樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、(a)成分以外のオレフィン系樹脂を添加することが可能である。例えば、少なくとも50重量%のエチレンと、1〜35重量%の酸含有不飽和モノカルボン酸と、0〜49重量%の、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、ビニルエーテル、一酸化炭素、および二酸化硫黄の少なくとも1つから選択される部分とを含み、かつさらに、共重合体において金属イオンにより酸基が0〜100%中和された重合体が挙げられる。より具体的にはかかるエチレン共重合体は、少なくとも60重量%のエチレンと、5〜15重量%のアクリル酸またはメタクリル酸と、0〜25重量%の、アクリル酸メチル、アクリル酸イソ−ブチル、およびアクリル酸n−メチルの少なくとも1つから選択される部分とを含み、かつさらに、リチウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、およびカルシウムから選択される金属イオンにより酸基が0〜70%、好ましくは30〜70%中和されたものである。
【0099】
ここで用いられる 適切な好ましいエチレン共重合体には、エチレン/アクリル酸、エチレン/メタクリル酸(E/MAA)、エチレン/アクリル酸/アクリル酸n−ブチル、エチレン/メタクリル酸/アクリル酸n−ブチル、エチレン/メタクリル酸/アクリル酸イソ−ブチル、エチレン/アクリル酸/アクリル酸イソ−ブチル、エチレン/メタクリル酸/メタクリル酸n−ブチル、エチレン/アクリル酸/メタクリル酸メチル、エチレン/アクリル酸/エチルビニルエーテル、エチレン/アクリル酸/ブチルビニルエーテル、エチレン/アクリル酸/アクリル酸メチル、エチレン/メタクリル酸/アクリル酸エチル、エチレン/メタクリル酸/メタクリル酸メチル、エチレン/アクリル酸/メタクリル酸n−ブチル、エチレン/メタクリル酸/エチルビニルエーテル、およびエチレン/アクリル酸/ブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0100】
(f)その他の添加物
さらに、本発明のPPS樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、オレフィン系樹脂以外の樹脂を添加することが可能である。例えば、柔軟性の高い熱可塑性樹脂を少量添加することにより柔軟性及び耐衝撃性を更に改良することが可能である。但し、この量が組成物全体50重量%を超えるとPPS樹脂本来の特徴が損なわれるため好ましくなく、特に30重量%以下の添加が好ましく使用される。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂などが挙げられる。また、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、その他、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物は何れも組成物全体の20重量%を越えるとPPS樹脂本来の特性が損なわれるため好ましくなく、10重量%以下、更に好ましくは1重量%以下の添加がよい。
【0101】
本発明において有機シランなどのカップリング剤を配合することは、低温と高温環境下に繰り返し曝される場合の、線膨張による繰り返し応力に対する耐性をさらに高める上で好ましい。上記有機シランの配合量はPPS樹脂100重量部に対して、0.1〜3重量部であり、好ましくは0.5〜2.5重量部である。 (7)製造方法
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、通常公知の方法で製造される。例えば、前記(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)繊維状充填材、(C)非繊維状充填材、(D)非晶性樹脂、その他必要な添加剤を予備混合して、またはせずに押出機などに供給して十分溶融混練することにより調製される。なお、(B)繊維状充填材を添加する際、繊維の折損を抑制するために好ましくは、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)非繊維状充填材、(D)非晶性樹脂、その他の必要な添加剤を押出機の元から投入し、(C)繊維状充填材はサイドフィーダーを用いて、押出機へ供給することにより調製される。またサイドフィーダーの位置としては、押出機の元から吐出口までの全体を1とした場合に、押出機の元から1/5〜4/5の位置に設置することが好ましい。
【0102】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を製造するに際し、例えば“ユニメルト”(R)タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸、三軸押出機およびニーダタイプの混練機などを用いて180〜350℃で溶融混練して組成物とすることができる。
【0103】
(8)本発明の用途
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物成形体は、射出成形、押出成形、圧縮成形、吹込成形、射出圧縮成形、トランスファー成形、真空成形など一般的に熱可塑性樹脂の公知の成形方法により成形されるが、なかでも連続生産性に優れる射出成形が好ましい。
【0104】
本発明の組成物は、「円筒部とハウジング部分を有する成形体」に適しているが、ここで言う「円筒部とハウジング部分を有する成形体」とは、ハウジング部分は円筒部の開口部以外の円筒部側面に有しており、ハウジング部分の形状は四角形状、三角形状、楕円形状などいずれの形状、またはそれぞれの複合形状であっても良く、そのハウジング部分にリブが設置されていても良い。また、円筒部とハウジング部分の間に、円筒部とハウジング部分を取り付けるための部位を有していても良く、その形状は四角形状、三角形状、楕円形状などいずれの形状、またはそれぞれの複合形状であっても良く、そのハウジング部分を取り付けるための部位にリブが設置されていても良い。
【0105】
円筒部とハウジング部分を有する成形体において、円筒部の開口部以外の円筒部側面にハウジング部分もしくはハウジング部分を取り付けるための部位を一体成形しようとすると、ハウジング部分もしくはハウジング部分を取り付けるための部位の存在により、円筒部の内径が歪みやすくなり、円筒部内径の真円度が悪くなることがあるため、円筒部の内径に真円性が求められる場合は、その歪みによって問題が生じる場合がある。特に、円筒部の内部を流体や気体が通過し、その流量を円筒部に内在した制御弁の機構によって制御する成形体などの場合、円筒部に生じた歪みによって円筒部内径の真円度が悪くなり、流体または気体の流量制御の機能を低下させる恐れがある。
【0106】
本発明の組成物を使用することで、円筒部の開口部以外の円筒部側面にハウジング部分もしくはハウジング部分を取り付けるための部位を一体成形しても、円筒部の内径の歪みを抑制することで、円筒部の内径の真円度を保つことができ、円筒部の内径が30mmから100mmの時、内径の真円度が100μm以下の円筒部とハウジング部分を有する成形体を得ることができる。
【0107】
かくして得られる成形体は、円筒部を有する成形体の中の、円筒部にハウジング部分を有する成形体において、繊維状充填材を充填したPPS樹脂の問題点である円筒部分の真円性悪化の問題点を解消し、優れた真円性を有する成形体を与えることができる。例えば、電気・電子関連機器、精密機械関連機器、事務用機器、自動車・車両関連部品、建材、包装材、家具、日用雑貨などの各種用途において、円筒部を有する成形体で、繊維状充填材による補強が必要であり、かつ、円筒部に高い真円性が要求される精密部品に有用である。具体的には、センサー、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、モーターインシュレーター、パラボナアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電気電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品;顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;水道蛇口コマ、混合水栓、バルブなどの水廻り部品;オルタネーター部品、ICレギュレータ、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系の各種パイプ、スロットルセンサーカバー、スロットルボディ、電子制御式スロットルボディ、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジショニングセンサー、クランク角センサー、エアフローメータ、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエータモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、ワイパーモーター関係部品、ディストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウインドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁弁コイル、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、車速センサー、ECUケースなどの自動車・車両関連部品、その他各種用途が例示できる。
【実施例】
【0108】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0109】
本実施例と比較例で用いた各成分は以下の通りである。
【0110】
(A)PPS樹脂:
(PPS−1の製造方法)
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.91kg(69.80モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム1.89kg(23.10モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0111】
その後200℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン10.45kg(71.07モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温した。270℃で100分反応した後、オートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0112】
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0113】
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、pHが7になるよう酢酸を添加した。オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0114】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。
【0115】
得られた(A)PPS樹脂は、溶融粘度が60Pa・s(300℃、剪断速度1000/s)であった。
【0116】
(PPS−2の製造方法)
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.91kg(69.80モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム1.89kg(23.10モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0117】
その後200℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン10.45kg(71.07モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温した。270℃で100分反応した後、オートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0118】
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0119】
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、pHが7になるよう酢酸を添加した。オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0120】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。その後、溶融粘度が105Pa・s(300℃、剪断速度1000/s)となるまで酸素気流下、200℃で熱処理し、PPS−2を得た。
【0121】
(B)繊維状充填材:
ガラス繊維−1:日本電気硝子(株)製 T717(平均径:13μm、平均繊維長3mm)
ガラス繊維−2:日本電気硝子(株)製 EPG70M−70E(平均径:9μm、平均繊維長:70μm)
ガラス繊維−3:日東紡(株)製 SS10−420(平均径:10μm、平均繊維長:300μm)
【0122】
(C)非繊維状充填材:
非繊維状充填材−1:ガラスフレーク、日本板硝子(株)製 マイクログラスフレカ REFG112
非繊維状充填材−2:炭酸カルシウム、金平鉱業(株)製 KSS−1000(平均径:2μm)
非繊維状充填材−3:ガラスビーズ、ポッターズ・バロティーニ(株)製 EGB731B2
【0123】
(D)非晶性樹脂:
非晶性樹脂−1:PPE樹脂、旭化成(株)製ザイロンS202A、ガラス転移温度145℃
非晶性樹脂−2:PES樹脂、ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製 A300NT、ガラス転移温度225℃
非晶性樹脂−3:PSU樹脂、ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製 P1700NT、ガラス転移温度190℃
非晶性樹脂−4:AS樹脂、東レ(株)製AS−3G、ガラス転移温度110℃
【0124】
なお、ガラス転移温度は、JIS K7121に従って測定した。具体的には、示差走査型熱量計(DSC)セイコー電子製RDC220により、資料10mg、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で測定した。
【0125】
実施例1〜12、比較例1〜5
上記(A)PPS樹脂、(D)非晶性樹脂、(C)非繊維状充填材及び添加剤(ポリエチレンワックス離型剤0.3部)をリボンブレンダーで表1、表2に示す量でブレンド、押出機の元から投入し、(B)繊維状充填材はサイドフィーダーを用いて押出機へ供給した。なおサイドフィーダーの位置としては、押出機の元から吐出口までの全体を1とした場合に、押出機の元から3/5の位置に設置した。押出機は3ホールストランドダイヘッド付きPCM30(2軸押出機;池貝鉄鋼社製)を用い、320℃の樹脂温度で溶融混練を行い、ペレットを得た。ついで130℃の熱風オーブンで4時間乾燥した後、射出成形機を用いて320℃の樹脂温度、130℃の金型温度で、試験片を作成した。結果を表1、表2に示す。
【0126】
実施例と比較例において、成形性、引張強度、真円度の評価は、以下の方法で行った。
【0127】
(1)成形性
射出成形機(住友SE100DU)を使用して、成形条件(シリンダ温度320℃、金型温度130℃)における引張試験片(ASTM1号タイプ、厚み3.2mm)成形の際に、流動性が悪く充填不可能なものや、あるいは充填した後の成形品突き出し時に試験片が変形したり、突き出し箇所が大きく挫屈するようなものを成形性不良として表1中「×」で示した。「×」表示のものは、その他の特性評価を実施するための試験片作成が困難であったため、その後の評価ができなかった。これらについては表1中の特性の項で「−」と示した。
【0128】
(2)引張強度
ASTM D638に準拠する方法で評価を行った。試験片は上記成形性評価で成形したASTM1号タイプ(厚み3.2mm)を用い、その成形条件はシリンダ温度320℃、金型温度130℃である。引張強度は、繊維状充填材による補強効果が非常に小さく、繊維状充填材添加があまり意味を成さない強度のものを「×」、繊維状充填材による補強効果が認められるものを「○」とした。
【0129】
(3)真円度
射出成形機(住友SE100DU)を使用して、図1に示す円筒部を有する成形品を成形した。成形条件はシリンダ温度320℃、金型温度130℃、充填時間0.4秒、保圧力40MPa、その他条件は一般的な成形条件で成形した。
【0130】
真円度は、ゲートから遠い円筒開口部の端面から10mmの部位の内径真円度を測定した。測定はミツトヨ製3次元寸法測定機を使用し、JIS B0621に準拠して行った。
【0131】
表1中には、真円度として、100μm以上のものを「×」、100μm未満のものを「○」と記載した。
【0132】
(4)溶融粘度
本発明におけるPPS樹脂の溶融粘度は、300℃、剪断速度1000/sの条件下、東洋精機社製キャピログラフを用いて測定した値である。
【0133】
【表1】

【0134】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】(a)は実施例、比較例で用いた真円度評価用成形品の平面図であり、(b)は同成形品の側面図である。また、(c)は成形品の立体図である。
【符号の説明】
【0136】
1.スプル
2.ランナー
3.ゲート
4.真円度評価用成形品(円筒部)
5.真円度評価用成形品(ハウジング部)
6.真円度測定部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(B)繊維状充填材10〜350重量部、(C)非繊維状充填材5〜300重量部を配合してなり、(B)繊維状充填材と(C)非繊維状充填材の合計が(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して100重量部以上である樹脂組成物を射出成形して得られる成形体であって、円筒部とハウジング部分を有する成形体。
【請求項2】
円筒部とハウジング部分が一体成形されることを特徴とする請求項1に記載の円筒部とハウジング部分を有する成形体。
【請求項3】
円筒部の内径が30mmから100mmの時、内径の真円度が100μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の円筒部とハウジング部分を有する成形体。
【請求項4】
(C)非繊維状充填材の全て、もしくは一部が(C−1)板状充填材であることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の円筒部を有する成形体。
【請求項5】
請求項4記載の(C−1)板状充填材がガラスフレークであることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の円筒部とハウジング部分を有する成形体。
【請求項6】
(B)繊維状充填材の全て、もしくは一部が(B−1)ガラス繊維であることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の円筒部とハウジング部分を有する成形体。
【請求項7】
(B)繊維状充填材の全て、もしくは一部が(B−2)ガラスミルドファイバーまたはガラスカットファイバーであることを特徴とする請求項1から6いずれかに記載の円筒部とハウジング部分を有する成形体。
【請求項8】
樹脂組成物が、さらに(D)非晶性樹脂を(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、1〜40重量部配合してなる請求項1から7いずれかに記載の円筒部とハウジング部分を有する成形体。
【請求項9】
ハウジング部分が、非円筒状であることを特徴とする請求項1から8いずれかに記載の円筒部とハウジング部分を有する成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−173865(P2009−173865A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248337(P2008−248337)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】