説明

再循環ポンプの電源システムおよびその制御方法

【課題】沸騰水型原子炉の原子炉冷却材再循環系において、可変電圧可変周波数電源に給電する電源の故障・保守点検時または可変電圧可変周波数電源装置内の故障・保守点検時においても、再循環ポンプを1台も停止させず、2台の再循環ポンプを速度平衡状態で継続運転できる再循環ポンプの電源システムおよびその制御方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る原子炉冷却材再循環ポンプの可変電圧可変周波数電源システム10は、2台の原子炉冷却材再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bを駆動するために必要な台数の通常運転用半導体電力変換装置と、1台の予備半導体電力変換装置11sと、電気的遮断機構12と、切替制御装置13とを備え、通常運転用半導体電力変換装置または予備半導体電力変換装置11sは、再循環ポンプ駆動電動機23aまたは23bの回転速度に応じて出力するよう制御されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉冷却材再循環ポンプを継続して運転できる再循環ポンプの電源システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、沸騰水型原子炉は、原子炉冷却材再循環系により原子炉圧力容器内の炉心冷却材の流量を変化させることで、原子炉出力を制御している。原子炉冷却材再循環系は、再循環ポンプ、再循環ポンプ駆動電源装置、再循環流量制御装置などから構成される。
【0003】
再循環ポンプは、ループ配管を介して原子炉圧力容器に接続される。この再循環ポンプの回転速度は、再循環流量制御装置により、再循環ポンプ駆動電源装置の出力を制御することで、制御できる。この結果、原子炉圧力容器内の冷却材流量を変化させ、原子炉出力を制御することができる。
【0004】
再循環ポンプ駆動電源装置として、可変電圧可変周波数電源装置を用いる場合がある。
【0005】
一般に、可変電圧可変周波数電源装置は、半導体電力変換回路と制御装置とを有する。
【0006】
半導体電力変換回路は、原子炉冷却材再循環流量制御装置により、出力電圧と出力周波数の比が一定となるよう制御される。この制御された半導体電力変換回路出力を利用して、可変電圧可変周波数電源装置は、再循環ポンプの回転速度を制御する。
【0007】
制御装置は、通常、冗長化(二重化)されている。このため、制御装置で単一故障が発生した場合または保守点検を実施する場合は、健全な制御装置に切り替えることにより、可変電圧可変周波数電源装置は継続運転可能である。
【0008】
しかし、半導体電力変換回路は、たとえば電源主回路半導体素子などの回路内の一部以外は、冗長化されていない。全てを冗長化することは経済的に合理的でないためである。
【0009】
したがって、半導体電力変換回路内の冗長化(二重化)されていない箇所が故障した場合は、半導体電力変換回路内部での故障拡大の防止および再循環ポンプ駆動電動機の保護を目的として、制御装置により、可変電圧可変周波数電源装置は停止される。この場合、再循環ポンプも停止してしまう。
【0010】
従来、この種の半導体電力変換回路故障時の再循環ポンプ停止を回避する技術に、米国特許第5625545号明細書(特許文献1)に記載されたものがある。
【0011】
この米国特許第5625545号明細書(特許文献1)に記載された半導体電力変換回路は、半導体電力変換回路内の半導体電力逆変換回路を直列冗長化した構造を有し、各半導体電力逆変換回路に対してバイパス回路が設けられている。半導体電力逆変換回路が故障した場合、この半導体逆変換回路をバイパス回路によってバイパスすることで、半導体電力変換回路の出力停止を防ぎ、再循環ポンプの停止を回避できるようになっている。
【特許文献1】米国特許第5625545号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の半導体電力変換回路故障時の再循環ポンプ停止を回避する技術は、半導体電力変換回路内の半導体素子が単一故障した場合、この故障した半導体素子を含む半導体電力逆変換回路をバイパスすることで、半導体電力変換回路の出力の停止を回避できるようになっている。
【0013】
しかし、半導体電力変換回路の故障部位の修理を行う場合は、再循環ポンプは停止となる。半導体電力変換回路に電圧を印加した状態では、故障部位を修理できないため、可変電圧可変周波数電源装置を停止する必要があるからである。
【0014】
また、半導体電力変換回路を保守点検する場合も、再循環ポンプは停止となる。半導体電力変換回路に電圧を印加した状態では保守点検を実施できないためである。
【0015】
可変電圧可変周波数電源装置は、電源である所内電源系もしくは入力変圧器の故障発生または保守点検時などの給電が停止される場合には、停止してしまう。この場合も、再循環ポンプは停止してしまう。
【0016】
また、半導体電力変換回路内の冗長化(二重化)されていない箇所が故障した場合、半導体電力変換回路内部での故障拡大の防止および再循環ポンプ駆動電動機の保護を目的として、制御装置により、可変電圧可変周波数電源装置は停止される。この場合も、再循環ポンプは停止となる。
【0017】
再循環ポンプが停止すると、次のような問題が生じる。
【0018】
原子炉冷却材再循環系は、通常、2系統が同時に運用されており、それぞれに再循環ポンプが備えられる。このため、1台の再循環ポンプが停止した場合でも、他の1台が継続運転し、原子炉圧力容器内の冷却材は循環し続ける。
【0019】
しかし、この場合、再循環ポンプが停止した側のループ配管内では冷却材の循環が止まる。このため、このループ配管内の冷却材温度が下がり、原子炉圧力容器内との温度差が大きくなる。この温度差により原子炉圧力容器とループ配管の接続部付近における熱的疲労が増加する。
【0020】
したがって、再循環ポンプの停止は、プラント寿命に影響する。
【0021】
また、1台の再循環ポンプが停止した場合、2台同時運転時に比べ、原子炉圧力容器内の冷却材流量が低減する。
【0022】
したがって、再循環ポンプの停止は、原子炉出力の低下につながる。
【0023】
さらに、1台の再循環ポンプ3が停止した場合、再循環ポンプを1台停止、1台運転という速度不平衡の状態で運転することになる。この場合、再循環ポンプにより駆動流を与えられている、原子炉圧力容器内のジェットポンプは、再循環ポンプ2台を同速で運転している時に比べ、大きな流量を扱うことになる。このため、ジェットポンプでキャビテーションが発生する可能性が大きくなる。キャビテーションが発生した場合、ジェットポンプに振動、騒音およびエロージョンが発生する。
【0024】
したがって、再循環ポンプの停止は、ジェットポンプに悪影響を与える。
【0025】
再循環ポンプの停止による弊害を防止するために、再循環ポンプを1台も停止させず、2台の再循環ポンプを速度平衡の状態で運転させることのできる技術の開発が望まれる。
【0026】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、沸騰水型原子炉の原子炉冷却材再循環系において、可変電圧可変周波数電源に給電する電源の故障もしくは保守点検時、又は可変電圧可変周波数電源装置内の故障もしくは保守点検時においても、再循環ポンプを1台も停止させず、2台の再循環ポンプを速度平衡の状態で運転させることができる再循環ポンプの電源システムおよびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明に係る再循環ポンプの電源システムは、上述した課題を解決するために、請求項1に記載したように、再循環ポンプ駆動電動機を駆動するための電力変換装置と、前記電力変換装置に対して並列冗長化した予備用電力変換装置と、前記電力変換装置および前記予備用電力変換装置の入力側および出力側にそれぞれ設けられる電気的遮断器と、前記電気的遮断器の開閉を制御し回路構成を切り替える切替制御装置とを有し、前記電力変換装置および前記予備用電力変換装置は、前記再循環ポンプ駆動電動機の回転速度に応じた出力をするように制御可能に構成したものである。
【0028】
また、本発明に係る再循環ポンプの電源システム制御方法は、上述した課題を解決するために、請求項2に記載したように、電源部から給電し再循環ポンプ駆動電動機を駆動する電力変換装置の停止と同時にこの電力変換装置を電気的に切り離し、かつ予備用電力変換装置を前記電源部および前記再循環ポンプ駆動電動機に電気的に接続する回路切替ステップと、前記再循環ポンプ駆動電動機の回転速度に応じた出力で、前記予備用電力変換装置を始動する調整出力ステップとを有する方法である。
【0029】
また、本発明に係る再循環ポンプの電源システム制御方法は、上述した課題を解決するために、請求項3に記載したように、再循環ポンプ駆動電動機を駆動する電力変換装置に給電する電源部の停電と同時にこの電源部および前記電力変換装置を電気的に切り離し、かつ予備用電力変換装置を他の電源部および前記再循環ポンプ駆動電動機に電気的に接続する回路切替ステップと、前記再循環ポンプ駆動電動機の回転速度に応じた出力で、前記予備用電力変換装置を始動する調整出力ステップとを有する方法である。
【0030】
また、本発明に係る再循環ポンプの電源システム制御方法は、上述した課題を解決するために、請求項5に記載したように、電力変換装置の停止に伴い予備用電力変換装置から再循環ポンプ駆動電動機へ給電している状態で、他の電源部、運転中の他の電力変換装置または運転中の前記予備用電力変換装置が故障した際に、回路切り替えを行うことなく、故障して停止中の前記電力変換装置内の制御装置に対して故障信号のリセットを行うステップと、前記電力変換装置を再始動するステップとを有する方法である。
【0031】
また、本発明に係る再循環ポンプの電源システム制御方法は、上述した課題を解決するために、請求項6に記載したように、電力変換装置の停止に伴い予備用電力変換装置から再循環ポンプ駆動電動機へ給電している状態で、運転中の電力変換装置またはこの電力変換装置に給電する電源部で故障が発生した場合、前記電力変換装置を停止するステップと、前記予備用電力変換装置を停止するステップと、前記電力変換装置および前記予備用電力変換装置の停止により空転している前記再循環ポンプ駆動電動機に対し前記予備用電力変換装置から給電可能なように回路を切り替える回路切替ステップと、前記空転している再循環ポンプ駆動電動機の回転速度に応じた出力で、前記予備用電力変換装置を再始動するステップとを有する方法である。
【0032】
また、本発明に係る再循環ポンプの電源システム制御方法は、上述した課題を解決するために、請求項7に記載したように、電源部または電力変換装置の停止に伴い予備用電力変換装置から再循環ポンプ駆動電動機へ給電している状態で、運転中の前記予備用電力変換装置を停止するステップと、この停止にともない空転を開始する再循環ポンプ駆動電動機に前記電力変換装置から給電可能なように回路を切り替える回路切替ステップと、前記空転している再循環ポンプ駆動電動機の回転速度に応じた出力で、前記電力変換装置を再始動するステップとを有する方法である。
【0033】
また、本発明に係る再循環ポンプの電源システム制御方法は、上述した課題を解決するために、請求項8に記載したように、電源部または電力変換装置の停止に伴い予備用電力変換装置から再循環ポンプ駆動電動機へ給電している状態で、停止している前記電力変換装置と前記予備用電力変換装置とが前記再循環ポンプ駆動電動機に並列接続されるよう回路を切り替える回路切替ステップと、前記予備用電力変換装置内で用いられている制御信号と同期した前記停止している電力変換装置内で用いられている制御信号により、出力なしの状態で前記停止している電力変換装置を始動するステップと、前記停止している電力変換装置内で用いられている制御信号を変化させることにより前記停止している電力変換装置出力を上昇させるステップと、この上昇と同時に前記予備用電力変換装置内で用いられている制御信号を変化させることにより前記予備用電力変換装置出力を下降させるステップと、前記予備用電力変換装置の出力をゼロにしてこの予備用電力変換装置を停止するステップと、前記予備用電力変換装置を前記再循環ポンプ駆動電動機から電気的に切り離すことにより、前記停止している電力変換装置のみによって前記再循環ポンプ駆動電動機が給電されるように回路を切り替える回路切替ステップとを有する方法である。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る再循環ポンプの電源システムおよびその制御方法によれば、沸騰水型原子炉の原子炉冷却材再循環系において、可変電圧可変周波数電源に給電する電源の故障もしくは保守点検時、または可変電圧可変周波数電源装置内の故障もしくは保守点検時においても、再循環ポンプを1台も停止させず、2台の再循環ポンプを速度平衡の状態で運転させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明に係る再循環ポンプの電源システムの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0036】
図1は、本発明に係る再循環ポンプの電源システムの実施形態を示す全体構成図である。
【0037】
原子炉冷却材再循環システム20は、原子炉冷却材再循環ポンプの可変電圧可変周波数電源システム10、原子炉冷却材再循環系21、電源部30aおよび30bを備える。
【0038】
原子炉冷却材再循環系21は、沸騰水型原子炉に対して広く適用されている2系統の冷却水の再循環系統であり、原子炉圧力容器22、再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23b、再循環ポンプ24aおよび24b、ループ配管25およびジェットポンプ26を備える。
【0039】
再循環ポンプ24aは再循環ポンプ駆動電動機23aによって駆動され、互いの動作は連動する。再循環ポンプ24bと再循環ポンプ駆動電動機23bの駆動関係も同様である。再循環ポンプ24aおよび24bは、ループ配管25を介して原子炉圧力容器22に接続される。
【0040】
再循環流量制御装置27は、コンピュータにプログラムが読み込まれることにより、あるいは所要の回路により構成される。再循環流量制御装置27は、可変電圧可変周波数電源システム10に対して、可変電圧可変周波数電源システム10の出力を制御するための、速度要求信号αを送信する機能を有する。
【0041】
この速度要求信号αは、可変電圧可変周波数電源システム10の出力を制御することにより、再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bの回転速度を制御するための信号である。したがって、再循環流量制御装置27は、この速度要求信号αにより、再循環ポンプ24aおよび24bの速度を制御し、炉心冷却材28およびジェットポンプ駆動流29の流量を変化させ、原子炉出力を制御することができる。
【0042】
炉心冷却材28は、再循環ポンプ24aまたは24bにより昇圧され、ループ配管25内を移動して原子炉圧力容器22に到達し、ジェットポンプ駆動流29としてジェットポンプ26を通過して炉心下部に達し、炉心を通ってループ配管25へ戻る、という循環過程を繰り返す。
【0043】
可変電圧可変周波数電源システム10は、2台の原子炉冷却材再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bを駆動するために必要な台数N台(本実施形態においては2台とする)の通常運転用半導体電力変換装置11aおよび11bと、1台の予備半導体電力変換装置11sと、電気的遮断機構12と、切替制御装置13とを備える。
【0044】
電源部30xは、三相交流電源としての所内電源系31xおよびこの三相交流を受電し変圧する変圧器32xからなる。この変圧器32xは、変圧した三相交流を、可変電圧可変周波数電源システム10に与える。ただし、この段落において添え字のxは全てaまたは全てbである。
【0045】
ここで、電源部の設置数は、通常運転用半導体電力変換装置の台数Nと同数とする。本実施形態においては設置台数が2台の場合について説明する。
【0046】
電気的遮断機構12は、電気的遮断器12ai、12bi、12sai、12sbi、12ao、12bo、12saoおよび12sboを備える。各電気的遮断器は、切替制御装置13から受信する、電気的遮断機構動作信号βに応じて開閉する。この電気的遮断機構12の各電気的遮断器として、遮断器または半導体スイッチなどの電気的遮断器を用いることができる。
【0047】
切替制御装置13は、コンピュータにプログラムが読み込まれることにより、あるいは所要の回路により構成される。切替制御装置13は、電気的遮断機構12の各電気的遮断器に対して、電気的遮断機構動作信号βを送信して開閉を制御することにより、可変電圧可変周波数電源システム10内の回路切り替えを統括する機能を有する。
【0048】
通常運転用半導体電力変換装置11xの入力側は、電気的遮断器12xiを介して電源部30xと接続される。通常運転用半導体電力変換装置11xの出力側は、電気的遮断器12xoを介して再循環ポンプ駆動電動機23xと接続される。予備半導体電力変換装置11sの入力側は、電気的遮断器12sxiを介して電源部30xと接続される。予備半導体電力変換装置11sの出力側は、電気的遮断器12sxoを介して再循環ポンプ24xと接続される。ただし、この段落において添え字のxは全てaまたは全てbである。
【0049】
なお、予備半導体電力変換装置11sの入力側は、全ての電源部から給電可能なように構成されることに注意する。電源部の設置台数が3台以上の場合においても、予備半導体電力変換装置11sは、任意の電源部から給電可能なように、各電源部に対してそれぞれ電気的遮断器を介して接続される。すなわち、予備半導体電力変換装置11sは、全ての通常運転用半導体電力変換装置11aおよび11bに対して並列冗長化可能なように接続される。
【0050】
次に、通常運転用半導体電力変換装置11aの構成について説明する。
【0051】
図2は、通常運転用半導体電力変換装置11aおよび11bならびに予備半導体電力変換装置11sの構成を示す図である。
【0052】
通常運転用半導体電力変換装置11bおよび予備半導体電力変換装置11sについては、通常運転用半導体電力変換装置11aと構成を同じくするので、説明を省略する。
【0053】
通常運転用半導体電力変換装置11aは、半導体電力変換回路14a、制御装置18aおよび故障検出装置19aを備える。
【0054】
半導体電力変換回路14aは、半導体電力順変換回路15a、半導体電力逆変換回路16aおよび平滑コンデンサ17aを備える。
【0055】
半導体電力順変換回路15aの入力側は、故障検出装置19aを介して電気的遮断器12aiと接続され、出力側は、半導体電力逆変換回路16aの入力側と接続される。この半導体電力順変換回路15aは、電源部30aから受けた、変圧された三相交流を、直流に変換する機能を有する。
【0056】
半導体電力逆変換回路16aの出力側は、故障検出装置19aを介して電気的遮断器12aoと接続される。この半導体電力逆変換回路16aは、半導体電力順変換回路15aから受けた直流を、任意の周波数および電圧を持つ交流に変換する機能を有する。
【0057】
また、半導体電力順変換回路15aと半導体電力逆変換回路16aの間には、平滑コンデンサ17aを設ける。
【0058】
制御装置18aは、コンピュータにプログラムが読み込まれることにより、あるいは所要の回路により構成される。制御装置18aは、再循環流量制御装置27から受信した速度要求信号αに応じて、半導体電力変換回路14aに対して半導体素子制御信号δaを送信する機能を有する。この制御は、出力電圧と出力周波数の比が一定となるように行う。
【0059】
また、制御装置18aは、故障検出装置19aから故障信号γaを受けた場合には、半導体電力変換回路14aに対して半導体素子制御信号δaを送り、半導体電力変換回路14aを停止させる機能を有する。
【0060】
故障検出装置19aは、半導体電力変換回路14aの入出力電流が、あらかじめ設定された入出力電流の制限値と比較して異常がある場合に、制御装置18aに対して、この異常を知らせる故障信号γaを送信する機能を有する。
【0061】
次に、可変電圧可変周波数電源システム10の作用について説明する。
【0062】
なお、本実施形態においては、手順4を除き、再循環ポンプ駆動電動機23aの給電系統の不具合に対する処理についてのみ説明する。再循環ポンプ駆動電動機23bの給電系統の不具合に対する処理については、対称性を鑑み、添え字を適宜置き換えて読むことによって同様に行うことができるため、説明を省略する。
【0063】
通常、可変電圧可変周波数電源システム10の電気的遮断機構12の各電気的遮断器は、12ai、12bi、12aoおよび12boを閉じ、12sai、12sbi、12saoおよび12sboを開いた回路構成で運転される(以下、通常運転中という)。図1に示された回路構成は、通常運転中のものである。
【0064】
通常運転中は、通常運転用半導体電力変換装置11aおよび11bが運転しており、予備半導体電力変換装置11sは停止している。
【0065】
通常運転用半導体電力変換装置11aは再循環ポンプ駆動電動機23aに、通常運転用半導体電力変換装置11bは再循環ポンプ駆動電動機23bに、それぞれ給電している。
【0066】
通常運転中に、通常運転用半導体電力変換装置11aについて、故障が発生した場合や保守点検を実施する場合、通常運転用半導体電力変換装置11aは停止する。
【0067】
この場合、次の手順(手順1)により、再循環ポンプ駆動電動機23aを停止させず、2台の再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bの回転速度をすみやかに平衡状態に復帰させることができる。
【0068】
図3は、図1に示した再循環ポンプ駆動電動機23aの、回転速度41aの低下および復帰に係る速度−時間特性図である。
【0069】
故障発生時は、故障検出装置19aは、通常運転用半導体電力変換装置11a内での故障発生を検知し、制御装置18aに対して故障信号γaを送信する。
【0070】
次に、制御装置18aは、故障信号19aを受信し、半導体素子制御信号δaを発信し、半導体電力変換回路14aを停止する(図3のA点)。
【0071】
また、保守点検時も、制御装置18aは、半導体素子制御信号δaを発信し、半導体電力変換回路14aを停止する(図3のA点)。
【0072】
このとき、再循環ポンプ駆動電動機23aは、駆動電力を失い、慣性による空転(フリーラン)状態になる。このため、再循環ポンプ駆動電動機23aの回転速度41aは、次第に下がっていく(図3のA点−B点間)。
【0073】
図4は、通常運転用半導体電力変換装置11aの故障等に起因する予備半導体電力変換装置11sの始動時における、図1に示した可変電圧可変周波数電源システム10の概略的な回路構成図である。
【0074】
通常運転用半導体電力変換装置11aの出力停止と同時に、切替制御装置13は、電気的遮断機構動作信号βを発信し、電気的遮断器12aiおよび12aoを開放し、電気的遮断器12saiおよび12saoを閉じて、図4に示す回路に切り替える。
【0075】
この図4に示す回路構成で運転することにより、予備半導体電力変換装置11sは、電源部30aから給電可能となると同時に、再循環ポンプ駆動電動機23aに対して給電可能となる。
【0076】
次に、制御装置18sは、半導体素子制御信号δsを半導体電力変換回路14sに送信する。この半導体素子制御信号δsは、半導体電力変換回路14sが、空転している再循環ポンプ駆動電動機23aの回転速度(空転速度)に応じた電圧および周波数を出力(以下、調整出力という)するように、制御する信号である。
【0077】
続いて、予備半導体電力変換装置11sは、再循環ポンプ駆動電動機23aに対して調整出力を開始する(図3のB点)。予備半導体電力変換装置11sは、再循環ポンプ駆動電動機23aの回転速度41aを、故障発生または保守点検実施前の回転速度まで復帰するよう運転する(図3のB−C間)。この結果、再循環ポンプ駆動電動機23aの回転速度41aと、再循環ポンプ駆動電動機23bの回転速度41bは、平衡状態に復帰する(図3のC点)。
【0078】
以上の手順(手順1)によって、通常運転中に、通常運転用半導体電力変換装置11aを停止させる場合において、再循環ポンプ駆動電動機23aを停止させず、2台の再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bの回転速度41aおよび41bを、すみやかに、故障発生または保守点検実施前の平衡状態に復帰させることができる。
【0079】
また、通常運転中に、電源部30aについて、故障が発生した場合や保守点検を実施する場合、通常運転用半導体電力変換装置11aは停電する。
【0080】
この場合は、次の手順(手順2)により、再循環ポンプ駆動電動機23aを停止させず、2台の再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bの回転速度をすみやかに平衡状態に復帰させることができる。
【0081】
制御装置18aは、半導体素子制御信号δaを発信し、通常運転用半導体電力変換装置11aを停止する(図3上のA点)。再循環ポンプ駆動電動機23aは空転を開始し、回転速度41aが次第に下がっていく(図3のA点−B点間)。
【0082】
図5は、電源部30aの停電に起因する予備半導体電力変換装置11sの始動時における、図1に示した可変電圧可変周波数電源システム10の概略的な回路構成図である。
【0083】
通常運転用半導体電力変換装置11aの出力停止と同時に、切替制御装置13は、電気的遮断機構動作信号βを発信し、電気的遮断器12aiおよび12aoを開放し、電気的遮断器12sbiおよび12saoを閉じて、図5に示す回路に切り替える。
【0084】
この図5に示す回路構成で運転することにより、予備半導体電力変換装置11sは、停電した電源部30aを避け健全な電源部30bから給電可能となると同時に、再循環ポンプ駆動電動機23aに対して給電可能となる。
【0085】
次に、制御装置18sは、半導体素子制御信号δsを半導体電力変換回路14sに送信する。
【0086】
続いて、予備半導体電力変換装置11sは、再循環ポンプ駆動電動機23aに対して調整出力を開始する(図3のB点)。予備半導体電力変換装置11sは、再循環ポンプ駆動電動機23aの回転速度41aを、故障発生または保守点検実施前の回転速度まで復帰するよう運転する(図3のB−C間)。この結果、再循環ポンプ24aおよび24bの回転速度41aおよび41bは、平衡状態に復帰する(図3のC点)。
【0087】
以上の手順(手順2)によって、通常運転中に、電源部30aが停電する場合において、再循環ポンプ駆動電動機23aを停止させず、2台の再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bの回転速度41aおよび41bを、すみやかに故障発生または保守点検実施前の平衡状態に復帰させることができる。
【0088】
図5に示す回路構成では、一つの電源部30bのみが、可変電圧可変周波数電源システム10に対する給電を担う。このため、入力変圧器32bの容量が十分でない場合は、回転速度41aおよび41bを、故障発生または保守点検実施前の平衡状態まで復帰させることができない。
【0089】
この場合は、次の手順(手順3)により、故障発生または保守点検実施前に比べ、低い回転速度において平衡状態を実現する。
【0090】
図6は、復帰速度を低減した場合における、図1に示した再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bの、回転速度41aおよび41bの低下および復帰に係る速度−時間特性図である。
【0091】
まず、制御装置18aは、半導体素子制御信号δaを発信し、半導体電力変換回路14aを停止する(図6上のA点)。再循環ポンプ駆動電動機23aは空転を開始し、回転速度41aが次第に下がっていく(図6のA点−B点間)。
【0092】
通常運転用半導体電力変換装置11aの停止と同時に、切替制御装置13は、電気的遮断機構動作信号βを発信し、電気的遮断器12aiおよび12aoを開放し、電気的遮断器12sbiおよび12saoを閉じて、図5に示す回路に切り替える。
【0093】
この図5に示す回路構成で運転することにより、予備半導体電力変換装置11sは、停電した電源部30aを避け健全な電源部30bから給電可能となると同時に、再循環ポンプ駆動電動機23aに対して給電可能となる。
【0094】
次に、制御装置18sは、半導体素子制御信号δsを半導体電力変換回路14sに送信する。また、制御装置18bは、半導体素子制御信号δbを半導体電力変換回路14bに送信する。
【0095】
続いて、予備半導体電力変換装置11sは再循環ポンプ駆動電動機23aに対して、通常運転用半導体電力変換装置11bは再循環ポンプ駆動電動機23bに対して、それぞれ調整出力を開始する。(図6のB点)。
【0096】
また、通常運転用半導体電力変換装置11bは、再循環ポンプ駆動電動機23bの回転速度41bを、一定量だけ低減する。
【0097】
予備半導体電力変換装置11sは、再循環ポンプ駆動電動機23aの回転速度41aを、この一定量低減後の回転速度41bまで復帰するよう運転する(図6のB−C間)。
【0098】
この結果、再循環ポンプ24aおよび24bの回転速度41aおよび41bは、平衡状態に復帰する(図6のC点)。
【0099】
以上の手順(手順3)によれば、通常運転中に、電源部30aが停電し、かつ入力変圧器32bの容量が十分でない場合において、再循環ポンプ駆動電動機23aを停止させず、2台の再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bの回転速度41aおよび41bを、すみやかに平衡状態に復帰させることができる。
【0100】
本実施形態の原子炉冷却材再循環ポンプの可変電圧可変周波数電源システム10によれば、通常運転用半導体電力変換装置11a内での故障発生もしくは保守点検時において、通常運転用半導体電力変換装置11aを電気的に切り離し、健全な予備半導体電力変換装置11sによって再循環ポンプ駆動電動機23aを運転するよう、回路を構成することができる。
【0101】
また、可変電圧可変周波数電源システム10は、所内電源系31aまたは入力変圧器32aの故障発生もしくは保守点検時において、電源部30aおよび通常運転用半導体電力変換装置11aを電気的に切り離し、健全な電源部30bおよび予備半導体電力変換装置11sによって再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bを運転するよう、回路を構成することができる。
【0102】
このため、再循環ポンプ駆動電動機23aは、空転を余儀なくされた場合でも、一時的な速度低下はあるものの、空転前の回転速度を維持でき、また入力変圧器32bの容量不足の際にも、空転前の速度より低い速度ではあるが回転速度を回復することができる。
【0103】
この結果、2台の再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bを同等の速度にて継続運転することが可能であり、再循環ポンプ24aおよび24bは継続運転可能となる。
【0104】
したがって、可変電圧可変周波数電源システム10によれば、ループ配管25内における炉心冷却材28の循環を維持することができ、ループ配管25内の炉心冷却材28の温度を維持し、ループ配管25と原子炉圧力容器22との接続部付近の熱的疲労の増加および原子炉出力の低下を短時間および最小限に抑えることが可能となる。
【0105】
また、可変電圧可変周波数電源システム10は、再循環ポンプ24aおよび24bの速度不平衡にともない発生する可能性があるジェットポンプ26内のキャビテーション発生の可能性を低下させることができる。このため、キャビテーションによるジェットポンプ26への振動、騒音およびエロージョン等の悪影響を抑えることが可能となる。
【0106】
また、可変電圧可変周波数電源システム10は、予備半導体電力変換装置11s始動の際に、空転中の再循環ポンプ駆動電動機23aまたは23bの回転速度41aまたは41bに応じた電圧および周波数を、再循環ポンプ駆動電動機23aまたは23bに印加することができる。
【0107】
したがって、可変電圧可変周波数電源システム10によれば、過度な負荷をかけることなく、再循環ポンプ駆動電動機23aまたは23bを継続運転させる事ができる。
【0108】
図7は、予備運転中における、図1に示した可変電圧可変周波数電源システム10の概略的な回路構成図である。
【0109】
予備運転中とは、通常運転用半導体電力変換装置11aの停止時において、可変電圧可変周波数電源システム10の電気的遮断器12sai、12bi、12saoおよび12boを閉じ、12ai、12sbi、12aoおよび12sboを開いた図7に示す回路構成で、可変電圧可変周波数電源システム10を運転している状態をいう。
【0110】
予備運転中において、電源部30aもしくは30b、運転中の通常運転用半導体電力変換装置11bまたは予備半導体電力変換装置11sで故障が発生する場合がある。
【0111】
しかし、この故障は一過性である場合がある。
【0112】
電源部30xまたは半導体電力変換装置11yについて、予備運転中に一過性の故障が発生した場合には、次の手順(手順4)により、速やかに故障発生前の予備運転状態に復帰する。
【0113】
なお、手順4において、添え字xとyの組み合わせ(x、y)は、(a、s)または(b、b)を表すものとする。
【0114】
制御装置18yは、故障検出装置19yが発信した故障信号γyを受けて、半導体素子制御信号δyを発信する。
【0115】
半導体電力変換回路14yは、この半導体素子制御信号δyを受けて停止する。
【0116】
この結果、再循環ポンプ駆動電動機23xは空転状態になり、徐々に失速する。
【0117】
次に、制御装置18yに対して、故障信号のリセットを行う。
【0118】
次に、制御装置18yは、調整出力をさせるべく、半導体電力変換回路14yに対して半導体素子制御信号δyを送信する。
【0119】
続いて、半導体電力変換装置11yは、この半導体素子制御信号δyを受けて再始動し、空転状態の再循環ポンプ駆動電動機23xの回転速度にあわせた調整出力を開始する。
【0120】
なお、可変電圧可変周波数電源システム10は、再循環ポンプ駆動電動機23xを復帰させる速度として、故障発生前と比べて低減した速度を選び、この低減速度にて、再循環ポンプ駆動電動機23xを平衡状態にすることもできる。
【0121】
以上の手順(手順4)により、故障が一過性だった場合は、再循環ポンプ駆動電動機23xを速やかに故障発生前の速度まで復帰して継続運転することができる。
【0122】
可変電圧可変周波数電源システム10は、予備運転中において、所内電源系31x、入力変圧器32xまたは運転中の半導体電力変換装置11yに故障が発生し、その故障が一過性であった場合には、故障発生により停止した半導体電力変換装置11yに対し故障信号のリセットを行い再起動することで、健全な半導体電力変換装置11yにて回路を構成することができる。
【0123】
したがって、可変電圧可変周波数電源システム10によれば、一時的な速度低下はあるものの速度を維持し、または速度低減して、再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bを、同等の速度にて継続運転することが可能となる。
【0124】
また、予備運転中に、電源部30bまたは通常運転用半導体電力変換装置11bが、一過性でない故障を起こす場合がある。
【0125】
この場合、次の手順(手順5)により、再循環ポンプ駆動電動機23bを停止させず、2台の再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bの回転速度をすみやかに平衡状態に復帰させることができる。
【0126】
制御装置18bは、故障検出装置19bが発信した故障信号γbを受けて、半導体素子制御信号δbを発信する。半導体電力変換回路14bは、この半導体素子制御信号δbを受けて停止する。
【0127】
また、制御装置18sは、半導体素子制御信号δsを発信し、半導体電力変換回路14sを停止する。
【0128】
この結果、再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bは、共に空転状態になる。
【0129】
図8は、予備運転中に、電源部30bまたは通常運転用半導体電力変換装置11bに故障が起きた場合における、図1に示した可変電圧可変周波数電源システム10の概略的な回路構成図である。
【0130】
予備半導体電力変換装置11sの停止と同時に、切替制御装置13は、電気的遮断機構動作信号βを発信し、電気的遮断器12biおよび12boを開放し、電気的遮断器12sboを閉じて、図8に示す回路に切り替える。
【0131】
次に、制御装置18sは、調整出力をさせるべく、半導体電力変換回路14sに対し、半導体素子制御信号δsを送信する。
【0132】
続いて、予備半導体電力変換装置11sは、この半導体素子制御信号δsを受けて再始動し、空転状態の再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bの回転速度にあわせた調整出力を開始する。
【0133】
なお、この調整出力は、必ずしも故障発生前の速度まで復帰させるための出力とは限らない。図8に示す回路構成では、一つの電源部30bおよび一つの予備半導体電力変換装置11sのみが2台の再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bに対する給電を担う。このため、入力変圧器32bおよび予備半導体電力変換装置11sの容量が十分でないと、各再循環ポンプ駆動電動機に対する給電が不足する場合がある。
【0134】
この場合は、制御装置18sは、故障発生または保守点検実施前に比べ、低い回転速度において平衡状態を実現するように、半導体電力変換回路14sに対し、半導体素子制御信号δsを送信する。
【0135】
以上の手順(手順5)により、予備運転中に、電源部30bまたは通常運転用半導体電力変換装置11bが一過性でない故障を起こした場合において、2台の再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bは、故障発生前の速度またはこの速度より低減した速度まで復帰でき、速度平衡状態で継続運転することができる。
【0136】
可変電圧可変周波数電源システム10は、予備運転中において、所内電源系31b、入力変圧器32bまたは運転中の通常運転用半導体電力変換装置11bで故障が発生した場合、故障箇所を電気的に切り離し、健全な所内電源系31a、入力変圧器32aおよび予備半導体電力変換装置11sにて回路を構成することができる。
【0137】
したがって、可変電圧可変周波数電源システム10によれば、一時的な速度低下はあるものの速度を維持し、または速度低減して、再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bを、同等の速度にて継続運転することが可能となる。
【0138】
通常運転用半導体電力変換装置11aの故障修理または保守点検時、可変電圧可変周波数電源システム10は、図4に示す回路構成により運転される。
【0139】
また、電源部30aの故障修理または保守点検時、可変電圧可変周波数電源システム10は、図5に示す回路構成により運転される。
【0140】
この故障修理または保守点検が終了した場合、可変電圧可変周波数電源システム10の回路構成を、図1に示す通常運転時の状態に復旧させることができる。
【0141】
この場合、再循環ポンプ駆動電動機23aを停止させず、2台の再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bの回転速度をすみやかに平衡状態に復帰させることができる手順として、次の二つをあげることができる。
【0142】
第一の手順(手順6−1)は、復旧時に、回転速度41aの一時的な低下をともなう手順である。
【0143】
図3のD点以降は速度低減せず予備運転している状態からの第一の手順による復旧時の、図6のD点以降は速度低減して予備運転している状態からの第一の手順による復旧時の、再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bの速度−時間特性図である。
【0144】
まず、制御装置18sは、半導体素子制御信号δsを発信し、半導体電力変換回路14sを停止する。(図3または図6のD点)。
【0145】
このとき、再循環ポンプ駆動電動機23aは、空転状態になり徐々に失速する(図3または図6のD点−E点間)。
【0146】
図4に示す回路構成の場合、予備半導体電力変換装置11sの停止と同時に、切替制御装置13は、電気的遮断機構動作信号βを発信し、電気的遮断器12saiおよび12saoを開放し、電気的遮断器12aiおよび12aoを閉じて、図1に示す通常運転用回路に切り替える。
【0147】
図5に示す回路構成の場合は、電気的遮断器12sbiおよび12saoを開放し、電気的遮断器12aiおよび12aoを閉じて、図1に示す通常運転用回路に切り替える。
【0148】
次に、制御装置18aは、調整出力をさせるべく、半導体電力変換回路14aに対し、半導体素子制御信号δaを送信する。
【0149】
続いて、通常運転用半導体電力変換装置11aは、この半導体素子制御信号δaを受けて始動し、空転状態の再循環ポンプ駆動電動機23aの回転速度41aにあわせた調整出力を開始する(図3または図6のE点)。
【0150】
なお、この調整出力は、故障発生前の速度まで復帰させるための出力とする。速度低減状態で予備運転を行っている場合には、再循環ポンプ駆動電動機23aの回転速度41aの通常運転速度への復帰に合わせ、再循環ポンプ駆動電動機23bの速度41bも通常運転速度へ復帰させる(図6のE点以降)。
【0151】
この第一の手順(手順6−1)によって、再循環ポンプ駆動電動機23aの一時的な速度低下はあるものの、予備運転状態から通常運転状態へ回路構成を復旧することができる。また、予備運転を速度低減状態で行っていた場合は、通常運転速度を回復することができる。
【0152】
第二の手順(手順6−2)は、復旧時に、回転速度41aを低下させずにすむ手順である。
【0153】
この第二の手順(手順6−2)は、半導体素子制御信号δaと34sを同期させることにより、停止状態から運転状態へ移行する通常運転用半導体電力変換装置11aの出力と、運転状態から停止状態へ移行する予備半導体電力変換装置11sの出力とを、オーバーラップさせることに特徴がある。
【0154】
図9のD点以降は速度低減せず予備運転している状態からの第二の手順による復旧時の、図10のD点以降は速度低減して予備運転している状態からの第二の手順による復旧時の、再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bの速度−時間特性図である。
【0155】
まず、図4および図5に示す回路構成において、切替制御装置13は、電気的遮断機構動作信号βを発信し、電気的遮断器12aiと12aoを閉じる。
【0156】
次に、制御装置18aは、出力をゼロにするように、半導体電力変換回路14aに対し、半導体素子制御信号δaを送信する。
【0157】
通常運転用半導体電力変換装置11aは、半導体素子制御信号δaを受け、出力ゼロの状態で始動する(図9または図10のD点)。
【0158】
続いて、制御装置18aは、半導体素子制御信号δaを送信し、通常運転用半導体電力変換装置11aの出力を徐々に上昇させる。
【0159】
同時に、制御装置18sは、半導体素子制御信号δsを送信し、予備半導体電力変換装置11sの出力を徐々に下降させる。
【0160】
この半導体素子制御信号δaおよび34sは、互いに同期している。この同期は、通常運転用半導体電力変換装置11aの出力および予備半導体電力変換装置11sの出力をあわせて(オーバーラップさせて)運転される、再循環ポンプ駆動電動機23aの回転速度を、一定に保つように行われる(図9または図10のD−E点)。
【0161】
このオーバーラップの末に、予備半導体電力変換装置11sの出力はゼロになる(図9または図10のE点)。
【0162】
予備運転を図4に示す回路構成で行っていた場合、予備半導体電力変換装置11sの出力がゼロになると同時に、切替制御装置13は、電気的遮断機構動作信号βを発信し、電気的遮断器12saiおよび12saoを開放して、図1に示す通常運転用回路に切り替える。
【0163】
また、予備運転を図5に示す回路構成で行っていた場合、切替制御装置13は、電気的遮断機構動作信号βを発信し、電気的遮断器12sbiおよび12saoを開放して、図1に示す通常運転用回路に切り替える。
【0164】
なお、速度低減状態で予備運転を行っていた場合には、続いて、再循環ポンプ駆動電動機23aの回転速度41aの通常運転速度への復帰に合わせ、再循環ポンプ駆動電動機23bの速度41bも通常運転速度へ復帰させる(図10のE点以降)。
【0165】
この第二の手順(手順6−2)によって、再循環ポンプ駆動電動機23aの速度低下なしに、予備運転状態から通常運転状態へ回路構成を復旧することができる。また、予備運転を速度低減状態で行っていた場合は、通常運転速度を回復することができる。
【0166】
従来、所内電源系12a、入力変圧器13a、または通常運転用導体電力変換装置11aの故障修理または保守点検を実施後の通常状態への回路構成復旧時には、再循環ポンプ駆動電動機23aおよび原子炉冷却材再循環ポンプ3aを停止する必要があった。
【0167】
可変電圧可変周波数電源システム10によれば、この故障修理または保守点検実施後に、予備運転状態から通常運転状態へ回路構成を復旧するにあたり、第一の手順(手順6−1)を適用することにより、一時的な速度低下はあるものの再循環ポンプ駆動電動機23aの継続運転が可能である。
【0168】
また、第二の手順(手順6−2)を適用することにより、速度低下なしに再循環ポンプ駆動電動機23aの継続運転が可能である。さらに、第二の手順(手順6−2)を適用する場合は、再循環ポンプ駆動電動機23aに印加する電圧を一定に保つことができる。
【0169】
したがって、可変電圧可変周波数電源システム10は、全く負荷をかけることなく、再循環ポンプ駆動電動機23aを継続運転させながら予備運転状態から通常運転状態へ復旧する事が可能である。
【0170】
可変電圧可変周波数電源システム10に対し手順1ないし手順6−1を適用するような場合においては、再循環ポンプ駆動電動機23aの空転がともなう(図3および図6のB点およびE点)。
【0171】
この再循環ポンプ駆動電動機23aの空転開始から、通常運転用半導体電力変換装置11aまたは予備半導体電力変換装置11sから給電を受けるまでの時間(空転時間)が長ければ、それだけ再循環ポンプ駆動電動機23aの速度低下が大きくなる。このため、空転時間を短縮することは、再循環ポンプ駆動電動機23aおよび23bのすみやかな速度平衡状態への復帰につながる。
【0172】
この空転時間を短縮するために、半導体電力変換回路14aの平滑コンデンサ17aを利用する。
【0173】
図2に示すように、半導体電力変換回路14aは、平滑コンデンサ17aを有する。
【0174】
可変電圧可変周波数電源システム10を通常運転中、すなわち通常運転用半導体電力変換装置11aから再循環ポンプ駆動電動機23aに給電している際にも、予備半導体電力変換装置11s内の平滑コンデンサ17sを充電状態で維持する。
【0175】
また、可変電圧可変周波数電源システム10を予備運転中、すなわち予備半導体電力変換装置11sから再循環ポンプ駆動電動機23aに給電しており、回路構成を通常運転状態へ切り替えて復旧する際にも、通常運転用半導体電力変換装置11a内の平滑コンデンサ17aを充電状態で維持する。
【0176】
この充電された平滑コンデンサ17aおよび17sを利用することにより、可変電圧可変周波数電源システム10は、手順1ないし手順6−1において、半導体電力変換装置11aまたは予備半導体電力変換装置11sの停止にともなう再循環ポンプ駆動電動機23aの空転開始から、半導体電力変換装置11aまたは予備半導体電力変換装置11sによる再循環ポンプ駆動電動機23aへの給電開始までの時間を短縮することができ、再循環ポンプ駆動電動機23aの速度低下を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】本発明に係る再循環ポンプの電源システムの実施形態を示す全体構成図。
【図2】図1に示された通常運転用半導体電力変換装置およびならびに予備半導体電力変換装置の構成を示す図。
【図3】図1に示された再循環ポンプ駆動電動機の、回転速度の低下および復帰に係る速度−時間特性図。
【図4】通常運転用半導体電力変換装置の故障等に起因する予備半導体電力変換装置の始動時における、図1に示した可変電圧可変周波数電源システムの概略的な回路構成図。
【図5】電源部の停電に起因する予備半導体電力変換装置の始動時における、図1に示した可変電圧可変周波数電源システムの概略的な回路構成図。
【図6】復帰速度を低減した場合における、図1に示した再循環ポンプ駆動電動機の、回転速度の低下および復帰に係る速度−時間特性図。
【図7】予備運転中における、図1に示した可変電圧可変周波数電源システムの概略的な回路構成図。
【図8】予備運転中において、電源部または通常運転用半導体電力変換装置に故障が起きた場合における、図1に示した可変電圧可変周波数電源システムの概略的な回路構成図。
【図9】図1に示された再循環ポンプ駆動電動機の、回転速度の低下および手順6−2による復帰に係る速度−時間特性図。
【図10】復帰速度を低減した場合における、図1に示した再循環ポンプ駆動電動機の、回転速度の低下および手順6−2による復帰に係る速度−時間特性図。
【符号の説明】
【0178】
10 原子炉冷却材再循環ポンプの可変電圧可変周波数電源システム
11a、11b 通常運転用半導体電力変換装置
11s 予備半導体電力変換装置
12 電気的遮断機構
12ai、12bi、12sai、12sbi、12ao、12bo、12sao、12sbo 電気的遮断器
13 切替制御装置
14a、14b、14s 半導体電力変換回路
15a、15b、15s 半導体電力順変換回路
16a、16b、16s 半導体電力逆変換回路
17a、17b、17s 平滑コンデンサ
18a、18b、18s 制御装置
19a、19b、19s 故障検出装置
20 原子炉冷却材再循環システム
21 原子炉冷却材再循環系
22 原子炉圧力容器
23a、23b 再循環ポンプ駆動電動機
24a、24b 再循環ポンプ
25 ループ配管
26 ジェットポンプ
27 再循環流量制御装置
28 炉心冷却材
29 ジェットポンプ駆動流
30a、30b 電源部
31a、31b 所内電源系
32a、32b 入力変圧器
41a 再循環ポンプ駆動電動機23a速度
41b 再循環ポンプ駆動電動機23b速度
α 速度要求信号
β 電気的遮断機構動作信号
γa、γb、γs 故障信号
δa、δb、δs 半導体素子制御信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
再循環ポンプ駆動電動機を駆動するための電力変換装置と、
前記電力変換装置に対して並列冗長化した予備用電力変換装置と、
前記電力変換装置および前記予備用電力変換装置の入力側および出力側にそれぞれ設けられる電気的遮断器と、
前記電気的遮断器の開閉を制御し回路構成を切り替える切替制御装置とを有し、
前記電力変換装置および前記予備用電力変換装置は、前記再循環ポンプ駆動電動機の回転速度に応じた出力をするように制御可能に構成したことを特徴とする再循環ポンプの電源システム。
【請求項2】
電源部から給電し再循環ポンプ駆動電動機を駆動する電力変換装置の停止と同時にこの電力変換装置を電気的に切り離し、かつ予備用電力変換装置を前記電源部および前記再循環ポンプ駆動電動機に電気的に接続する回路切替ステップと、
前記再循環ポンプ駆動電動機の回転速度に応じた出力で、前記予備用電力変換装置を始動する調整出力ステップとを有することを特徴とする再循環ポンプの電源システム制御方法。
【請求項3】
再循環ポンプ駆動電動機を駆動する電力変換装置に給電する電源部の停電と同時にこの電源部および前記電力変換装置を電気的に切り離し、かつ予備用電力変換装置を他の電源部および前記再循環ポンプ駆動電動機に電気的に接続する回路切替ステップと、
前記再循環ポンプ駆動電動機の回転速度に応じた出力で、前記予備用電力変換装置を始動する調整出力ステップとを有することを特徴とする再循環ポンプの電源システム制御方法。
【請求項4】
前記調整出力ステップは、他の再循環ポンプ駆動電動機の回転速度を低減するステップをさらに有する請求項2または請求項3記載の再循環ポンプの電源システム制御方法。
【請求項5】
電力変換装置の停止に伴い予備用電力変換装置から再循環ポンプ駆動電動機へ給電している状態で、他の電源部、運転中の他の電力変換装置または運転中の前記予備用電力変換装置が故障した際に、
回路切り替えを行うことなく、故障して停止中の前記電力変換装置内の制御装置に対して故障信号のリセットを行うステップと、
前記電力変換装置を再始動するステップとを有することを特徴とする再循環ポンプの電源システム制御方法。
【請求項6】
電力変換装置の停止に伴い予備用電力変換装置から再循環ポンプ駆動電動機へ給電している状態で、運転中の電力変換装置またはこの電力変換装置に給電する電源部で故障が発生した場合、
前記電力変換装置を停止するステップと、
前記予備用電力変換装置を停止するステップと、
前記電力変換装置および前記予備用電力変換装置の停止により空転している前記再循環ポンプ駆動電動機に対し前記予備用電力変換装置から給電可能なように回路を切り替える回路切替ステップと、
前記空転している再循環ポンプ駆動電動機の回転速度に応じた出力で、前記予備用電力変換装置を再始動するステップとを有することを特徴とする再循環ポンプの電源システム制御方法。
【請求項7】
電源部または電力変換装置の停止に伴い予備用電力変換装置から再循環ポンプ駆動電動機へ給電している状態で、
運転中の前記予備用電力変換装置を停止するステップと、
この停止にともない空転を開始する再循環ポンプ駆動電動機に前記電力変換装置から給電可能なように回路を切り替える回路切替ステップと、
前記空転している再循環ポンプ駆動電動機の回転速度に応じた出力で、前記電力変換装置を再始動するステップとを有することを特徴とする再循環ポンプの電源システム制御方法。
【請求項8】
電源部または電力変換装置の停止に伴い予備用電力変換装置から再循環ポンプ駆動電動機へ給電している状態で、
停止している前記電力変換装置と前記予備用電力変換装置とが前記再循環ポンプ駆動電動機に並列接続されるよう回路を切り替える回路切替ステップと、
前記予備用電力変換装置内で用いられている制御信号と同期した前記停止している電力変換装置内で用いられている制御信号により、出力なしの状態で前記停止している電力変換装置を始動するステップと、
前記停止している電力変換装置内で用いられている制御信号を変化させることにより前記停止している電力変換装置出力を上昇させるステップと、
この上昇と同時に前記予備用電力変換装置内で用いられている制御信号を変化させることにより前記予備用電力変換装置出力を下降させるステップと、
前記予備用電力変換装置の出力をゼロにしてこの予備用電力変換装置を停止するステップと、
前記予備用電力変換装置を前記再循環ポンプ駆動電動機から電気的に切り離すことにより、前記停止している電力変換装置のみによって前記再循環ポンプ駆動電動機が給電されるように回路を切り替える回路切替ステップとを有することを特徴とする再循環ポンプの電源システム制御方法。
【請求項9】
前記電力変換装置内の電力変換回路を常に充電した状態に維持することを特徴とする請求項2、請求項3、請求項6ないし請求項8記載のいずれか1項に記載した再循環ポンプの電源システム制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−120449(P2007−120449A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315827(P2005−315827)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】