説明

再製スパッタリングターゲット及びその製造方法

【課題】 特に再生処理された使用済みスパッタ材をリサイクルすることができる再製スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 元スパッタ面と、元非スパッタ面とを有する使用済みスパッタ材と、
前記使用済みスパッタ材の元スパッタ面に一体に形成される充填層と、
前記使用済みスパッタ材の元非スパッタ面からなる新スパッタ面とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に再生処理された使用済みスパッタ材をリサイクルすることができる再製スパッタリングターゲット及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体、光電、又は記憶装置に関する産業における薄膜蒸着工程において広く用いられている物理気相蒸着(Physical Vapor Deposition, PVD)によるスパッタリングは、主に、例えばプラズマなどの高エネルギー粒子をスパッタリングターゲットに衝突させ、そのエネルギーにより該スパッタリングターゲットの表面の原子又は原子団を表面から基材の表面まではじき飛ばし、基材の表面にスパッタリングターゲットと同様の材料からなる薄膜を蒸着させるものである。
【0003】
上述したスパッタリングターゲットは、前記工程においてよく用いられる材料構成であるが、一般のプレート状のスパッタリングターゲットの使用率は25%〜40%に過ぎず、使用済みスパッタ材(spent target)は廃棄されてしまうので、材料浪費の問題があった。また、前記使用済みスパッタ材は、例えばルテニウム(Ru)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、金(Au)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、インジウム(In)など、リサイクル価値を有する成分を大量に含有する場合、該使用済みスパッタ材から前記高価な成分を精錬し、高純度の原料を回収し、その回収した高純度の原料をもって新たなスパッタリングターゲットを製造する。
【0004】
しかしながら、前記回収及び精錬の工程は非常に複雑なものであり、前記新品のスパッタリングターゲットのコスト及び製造時間の増大に繋がるものであるので、該技術分野においては、再製スパッタリングターゲットの生産効率のさらなる向上を図る研究が行われている。
【0005】
従来の再製スパッタリングターゲットの生産手段は主に、以下の2つに分けられる。
【0006】
1つ目は、粉末が充填された使用済みスパッタ材を焼結させる工程を有するのであり、この工程は、使用済みスパッタ材のスパッタ面に粉末を充填させてから、特許文献1に記載の真空熱圧着、熱間等方圧加圧(HIP、例えば特許文献2に記載のRefurbishing spent sputtering targetsに関する技術)、レーザー又は電子ビーム溶解(例えば特許文献3に記載のRejuvenation of refractory metal productsに関する技術)など焼結手段により、間隙なく、使用済みスパッタ材のスパッタ面に充填された粉末を結合させるものである。
【0007】
もう1つは、使用済みスパッタ材の再利用を防ぐ再製スパッタリングターゲットに関するものである。例えば特許文献2に記載される、使用済みスパッタ材を再製スパッタリングターゲットの基礎材料(support material)とする技術は、使用済みスパッタ材のスパッタ面に該基礎材料と同様の又は異なるスパッタ用材料粉末を用い、高温又は高圧により再製スパッタ材を形成させ、該再製スパッタ材をスパッタリング部とするものである。また、特許文献4に示すように、使用済みスパッタ材のスパッタ面を平坦面にする切削加工(cutting)を施し、該平坦面である使用済みスパッタ材のスパッタ面とスパッタリングに好適な材料とを拡散接合させることにより、再製スパッタリングターゲットを形成させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−93859
【特許文献2】米国7,175,802号特許
【特許文献3】米国20020112955号公開公報
【特許文献4】特開昭24−35919
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来技術には、以下のような問題を有する。
従来技術は何れも、使用済みスパッタ材に新たな材料を充填させ、該使用済みスパッタ材と同様の性質を有する新たに充填された材料をスパッタ部とする新たなスパッタリングターゲットを製造するものであるので、該新品のスパッタリングターゲットを製造する時、使用済みスパッタ材を製造するための工程を施さなくてはならなかった。
【0010】
更に、上記従来技術は、スパッタリングターゲットを再製するたびに、前記使用済みスパッタ材に高温又は高圧の工程を繰り返し行うが、何度もの焼結や熱間等方圧加圧などの工程は、使用済みスパッタ材に影響を与え、その材料性質を変化させてしまうので、薄膜蒸着の品質にも悪影響を及ぼす恐れがある。即ち、従来技術によれば、使用者はスパッタリングターゲットを再製するよりも、60%〜75%の残留材料を有するものであっても、薄膜蒸着の品質に悪影響を与えてしまう使用済みスパッタ材をリサイクルせずに廃棄してしまう。
【0011】
そこで、出願されたのが本発明であって、従来技術における、使用済みスパッタ材の残留材料を十分にリサイクルすることができないといった問題を解決すべく、再生処理された使用済みスパッタ材をリサイクルすることができる再製スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1の発明は、元スパッタ面と、元非スパッタ面とを有する使用済みスパッタ材と、
前記使用済みスパッタ材の元スパッタ面に一体に形成される充填層と、
前記使用済みスパッタ材の元非スパッタ面からなる新スパッタ面とを有することを特徴とする再製スパッタリングターゲット、を提供する。
【0013】
本願の請求項2の発明は、前記充填層は前記使用済スパッタ材と同様な材料からなり、
前記元スパッタ面と前記充填層との間に材料微細構造の差異による不連続面が形成され、
前記材料微細構造は、化合物の組成、結晶粒度、多孔率、及びその組み合わせからなる群より選択されるものであることを特徴とする請求項1に記載の再製スパッタリングターゲット、を提供する。
【0014】
本願の請求項3の発明は、前記充填層は前記使用済スパッタ材と異なり、前記使用済スパッタ材の熱伝導率より高い熱伝導率を有する材料からなるものであり、
前記元スパッタ面と前記充填層との間に形成される不連続面は材料組成の差異によるものであることを特徴とする請求項1に記載の再製スパッタリングターゲット、を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る再製スパッタリングターゲット及びその製造方法は、使用済みスパッタ材の元スパッタ面に充填層を形成させることにより、使用済みスパッタ材の元非スパッタ面を新スパッタ面とする再製スパッタリングターゲットを提供するものであることから、該使用済みスパッタ材の元非スパッタ面を新たなスパッタ面として使用することができるので、該使用済みスパッタ材を十分に利用することができる。
【0016】
また、本発明の技術では、回収した使用済みスパッタ材を再製スパッタリングターゲットのスパッタ部として使用することから、該使用済みスパッタ材は、高温高圧の工程を繰り返される前に消耗してしまうので、該使用済みスパッタ材の材料性質の変化を防ぐことができ、これにより、使用済みスパッタ材を回収して使用しても、薄膜蒸着工程の品質を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る再製スパッタリングターゲットの部分側面断面図である。
【図2】本発明に係る再製スパッタリングターゲット製造方法の工程の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
図1に示すように、本発明に係る再製スパッタリングターゲットは、新しい材料からなり、使用後に初めて回収された使用済みスパッタ材1と、充填層2とを有するものである。
【0020】
前記使用済みスパッタ材1は、元スパッタ面10と、該元スパッタ面10の反対側に位置する元非スパッタ面11とを有する。尚、使用済みスパッタ材1は、厚さの最小値が前記再製スパッタリングターゲットにおける予定するエロージョンの深度より大きいことが好ましい。
【0021】
再製スパッタリングターゲットは、前記充填層2が前記使用済みスパッタ材1の元スパッタ面10に一体に形成されることにより構成され、該再製スパッタリングターゲットには、該使用済みスパッタ材の元非スパッタ面からなる新スパッタ面を有する。
【0022】
尚、前記充填層2は、前記使用済スパッタ材1と同様の材料からなるものであってもよく、或いは、使用済スパッタ材1と異なる材料からなるものであってもよい。また、前記充填層2は、前記使用済スパッタ材1と異なり、該使用済スパッタ材1の熱伝導率より高い熱伝導率を有する材料からなるものであってもよい。更に、前記元スパッタ面と前記充填層との間に形成される不連続面は、材料組成が異なるものであることが好ましいが、例えば、化合物の組成、結晶粒度、多孔率、またはその組み合わせである材料微細構造が異なるものであってもよい。
【0023】
図2に示すように、本発明に係る再製スパッタリングターゲットの製造方法は、
元スパッタ面10と、元非スパッタ面11とを有する使用済みスパッタ材1を提供するステップと、
前記使用済みスパッタ材1の元スパッタ面10に一体に充填層2を形成させるように、前記使用済みスパッタ材1の元スパッタ面10に材料を充填させることにより、再製スパッタ材を形成させるステップと、
前記再製スパッタ材の厚さが所定の寸法となるように、前記再製スパッタ材の充填層2に加工を施すことにより、該再製スパッタ材を、前記使用済みスパッタ材1の元非スパッタ面11からなる新スパッタ面を有する再製スパッタリングターゲットに形成させるステップとを有するものである。
【0024】
尚、前記使用済みスパッタ材1は、新しい材料からなり、使用後に回収されるものであり、その厚さの最小値は、前記再製スパッタリングターゲットにおける予定エロージョンの深度より大きいものであることが好ましい。
【0025】
また、前記使用済みスパッタ材1の元スパッタ面10に一体に充填層2を形成させる手段は、プラズマ溶射、電気アーク溶射、火炎溶射、またはコールドスプレーであってもよく、前記材料を該使用済みスパッタ材1の元スパッタ面10に充填させるために加熱を行う時は、加熱温度を該使用済みスパッタ材の焼結温度未満にしなければならない。
【0026】
また、前記再製スパッタ材を形成させるステップの後に、該使用済みスパッタ材1の表面の汚染物を取り除く表面処理を行うステップを追加してもかまわない。
【0027】
上述したように、本発明に係る再製スパッタリングターゲットの製造方法は、提供された使用済みスパッタ材の元非スパッタ面を、先ず背面プレートに溶接し、該背面プレートに支持される使用済みスパッタ材の元スパッタ面に、前記材料を充填させた後、前記使用済みスパッタ材と背面プレートとを分離させるといった手法で行わってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係る再製スパッタリングターゲット及びその製造方法は、新しい材料からなり、使用後に使用済みスパッタ材を回収して、該回収された使用済みスパッタ材に材料を充填し、該使用済みスパッタ材の元スパッタ面に充填層を形成させ、前記使用済みスパッタ材の元非スパッタ面からなる新スパッタ面を有し、即ち、該使用済みスパッタ材の元非スパッタ面を新スパッタ面とする再製スパッタリングターゲットを提供するので、該使用済みスパッタ材の残留材料をスパッタリング工程において十分に利用することができる。
【0029】
また、本発明は、新しい材料からなり、使用後に使用済みスパッタ材を回収し、一度材料を充填させれば、該使用済みスパッタ材を再製スパッタリングターゲットのスパッタ部とすることができることから、該使用済みスパッタ材に対して何度も高温高圧の工程を行うことにより発生する変質を防ぐことができる。即ち、本発明は、簡単な工程により、使用済みスパッタ材における材料の性質の変化を防ぐことにより、再製スパッタリングターゲットを用いる薄膜蒸着工程の品質をより向上させることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 使用済みスパッタ材
10 元スパッタ面
11 元非スパッタ面
2 充填層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
元スパッタ面と、元非スパッタ面とを有する使用済みスパッタ材と、
前記使用済みスパッタ材の元スパッタ面に一体に形成される充填層と、
前記使用済みスパッタ材の元非スパッタ面からなる新スパッタ面とを有することを特徴とする再製スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記充填層は、前記使用済スパッタ材と同様の材料からなり、
前記元スパッタ面と充填層との間に材料微細構造の異なる不連続面が形成され、
前記材料微細構造は、化合物の組成、結晶粒度、多孔率、及びその組み合わせからなる群より選択されるものであることを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載の再製スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記充填層は、前記使用済スパッタ材と異なり、該使用済スパッタ材の熱伝導率より高い熱伝導率を有する材料からなり、
前記元スパッタ面と前記充填層との間に形成される不連続面は、材料組成が異なることを特徴とする請求項1に記載の再製スパッタリングターゲット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−1971(P2013−1971A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135573(P2011−135573)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(509176178)光洋応用材料科技股▲ふん▼有限公司 (9)
【Fターム(参考)】