説明

冷凍ピンチャック

【課題】チャックプレート上のすべてのピン頭に、ウェーハやマスク基板等の被加工物を凝固固着するのに十分な量の冷凍液の液滴を均一に保持させることができ、しかも、必要とされる冷凍液の使用量を低減することが可能な冷凍ピンチャックを提供する。
【解決手段】チャックプレート上面に多数のピン2が離散配置された冷凍ピンチャックにおいて、ピン頭の表面粗さRaを0.1μm以上0.5μm以下とする、又は、ピン頭に窪みを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハやマスク基板等の薄板に平面加工等を施すために、前記薄板を固定するチャック装置であって、チャックプレート上面の多数のピン上で、被加工物の薄板とピンとの間に供給した液体を凝固させて固定する方式の冷凍ピンチャックに関する。
【背景技術】
【0002】
ウェーハやマスク基板等の薄板の研磨加工等の際に、前記薄板を固定する方法として、一般に、真空チャックや水貼り法等が用いられている。
真空チャックは、被加工物を真空吸着して固定する方法であり、吸着時に薄板の反りが平面矯正される。そして、加工終了後、真空解除されると、弾性変形していた反りが復元される。このように、真空チャックでは、反りを有する本来の形状のまま、無変形で固定保持することができず、高い平坦度の薄板を得ることが困難であった。
また、水貼り法も、水を張った軟らかいパッドに薄板を緩く固定するため、薄板の反りも緩く拘束され、無変形での固定保持は困難であった。
【0003】
これに対して、薄板の反りに対して矯正力を及ぼさずに自由状態で該薄板を固定保持する方法として、冷凍ピンチャックが提案されている(特許文献1,2参照)。
図6に、従来の冷凍ピンチャックの構造の一例を示す。この冷凍ピンチャックは、セラミックスからなるチャックプレート11上面に、円形断面をもつ多数のピン(突起)12が設けられており、ピン頭12aと被加工物の薄板14の裏面との間で冷凍液を凝固させることにより、薄板を無変形保持しようとするものである。ピン頭12a上で凝固した冷凍液13は、被加工物の薄板14とピン12によって上下方向が拘束された状態であるため、ピン間の隙間、すなわち、横方向に逃れるように膨張する。このようにして、ピン頭12aと薄板14の裏面との間にある冷凍液13のみを凝固させることにより、薄板14を無変形で固定保持することができると考えられる。
【0004】
また、特許文献1,2に記載されている冷凍ピンチャックにおいては、チャックプレート11の内部に形成された給排液管15から、チャックプレート11上面底部の多数の給排液孔16を通じて冷凍液17がチャックプレート上面に供給される。このとき、薄板14を固定保持する際に凝固する冷凍液13は、上述したように、ピン頭12aと薄板14の裏面との間にある冷凍液13のみであり、チャックプレート11上のそれ以外の部分に供給された冷凍液17は、薄板14がチャックプレート11上に固定保持されている際も、凝固せずに液体の状態のまま、又は、ピン頭12a上の冷凍液13よりも遅れて凝固する。このため、薄板14が固定保持される際にチャックプレート11上で余剰となった冷凍液17は、給排液孔16から排出され、回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−16038号公報
【特許文献2】特開2006−12941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来の冷凍ピンチャックにおいては、チャックプレート下部からピン頭が浸漬する高さまで冷凍液を供給する必要があり、チャックプレート上には、被加工物の薄板の保持固定の際に凝固しない冷凍液や、載置された薄板によって押し退けられた冷凍液も存在することになる。このため、使用される冷凍液の量は、実際に凝固する冷凍液の量よりも多く必要となる。
【0007】
これに対しては、冷凍液がピン頭と凝固固着される被加工物の薄板との間にのみ存在する状態としておけば、チャックプレート上への被加工物の凝固固着のために供給する冷凍液の量を少なくすることができる。すなわち、予め、ピン頭に冷凍液の液滴を付着させた状態としておけばよい。
【0008】
しかしながら、冷凍ピンチャックのピン径は、通常、数百μm程度であり、ピンピッチやピン高さが小さい場合、表面張力の小さい冷凍液は、ピン間とピンチャック上面底部で液滴同士が干渉してピン間で連続した液膜となったり、ピン頭に付着せずにチャックプレート上面底部にこぼれ落ちたり、ピン頭の液滴の形状にばらつきを生じたりする等、高さのある均等な液滴を形成することが困難であった。
このように、冷凍液がピン頭に均等に供給されていない場合、チャックプレートの全面において、薄板を十分かつ均等な強度で凝固固着させることができず、研磨加工等を行っている際に被加工物がチャックプレートから外れてしまう事態が生じる。
【0009】
したがって、冷凍ピンチャックにおいて、冷凍液の使用量をできるだけ少なくして、被加工物の薄板の固定保持強度を十分かつ均等にするためには、多数のピン頭のすべてに、十分な量の冷凍液を均一に保持させることが求められていた。
【0010】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、チャックプレート上のすべてのピン頭に、ウェーハやマスク基板等の被加工物を凝固固着するのに十分な量の冷凍液の液滴を均一に保持させることができ、しかも、必要とされる冷凍液の使用量を低減することが可能な冷凍ピンチャックを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る冷凍ピンチャックは、チャックプレート上面に多数のピンが離散配置された炭化ケイ素からなる冷凍ピンチャックであって、前記ピンのピン頭の表面粗さRaが0.1μm以上0.5μm以下であることを特徴とする。
ピン頭をこのように構成することにより、被加工物を凝固固着するのに十分な量の冷凍液の液滴をピン頭に均一かつ安定的に保持させることができる。
【0012】
また、本発明に係る他の態様の冷凍ピンチャックは、チャックプレート上面に多数のピンが離散配置された炭化ケイ素からなる冷凍ピンチャックであって、前記ピンのピン頭に窪みが形成されていることを特徴とする。
ピン頭をこのような形状にすることによっても、被加工物を凝固固着するのに十分な量の冷凍液の液滴をピン頭に均一かつ安定的に保持させることができる。
【0013】
前記ピン頭の窪みは、鉛直方向断面における角部の角度が45°以上87℃以下で形成されていることが好ましい。
このような形状の窪みをピン頭に形成することにより、冷凍液をより均一かつ安定的に保持させることができる。
【0014】
前記冷凍ピンチャックにおいては、ピン頭の窪みにおける表面粗さRaが0.1μm以上0.5μm以下であることが好ましい。
ピン頭の窪みをこのような構成にすることにより、液滴をピン頭により安定的に保持させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る冷凍ピンチャックを用いることにより、チャックプレート上のすべてのピン頭に、ウェーハやマスク基板等の被加工物を凝固固着するのに十分な量の冷凍液の液滴を均一かつ安定的に保持させることができる。このため、ウェーハやマスク基板等の被加工物の薄板を、無変形で、十分かつ均等な強度で固定保持することができ、研磨加工において、高平坦度の薄板を得ることが可能となる。
また、前記冷凍ピンチャックを用いれば、従来に比べて、被加工物の凝固固着に必要とされる冷凍液の使用量を低減することができ、余剰の冷凍液の回収機構も不要となるという利点も有している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る冷凍ピンチャックの一例を示す平面図である。
【図2】本発明に係る冷凍ピンチャックのピンの一例を示す鉛直方向の拡大断面図である。
【図3】本発明に係る冷凍ピンチャックのピンの他の例を示す鉛直方向の拡大断面図である。
【図4】本発明に係る冷凍ピンチャックのピンの他の例を示す鉛直方向の拡大断面図である。
【図5】本発明に係る冷凍ピンチャックのピンの他の例を示す鉛直方向の拡大断面図である。
【図6】従来の冷凍ピンチャックの一例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、図面を参照して、より詳細に説明する。
図1に、本発明に係る冷凍ピンチャックの一例を示す。図1に示すように、本発明に係る冷凍ピンチャックは、チャックプレート1の上面に、ピン2が多数設けられている。
前記ピン2は、ウェーハやマスク基板等の薄板を凝固固着により固定保持して研磨加工等する際や加工終了後に離脱させる際に、被加工物に反りや撓みを生じさせないようにするために、被加工物の大きさや厚さ、硬度等に応じて、本数やサイズ、間隔を適宜定めて離散配置される。被加工物がウェーハやマスク基板である場合、通常、ピン径は数百μm、ピン高さは数百μm、ピンピッチは数mmである。
なお、図1においては、チャックプレート1は円板状であり、また、ピン2は水平断面形状が円形であるが、これらの形状は特に限定されるものではなく、それぞれ、矩形状や楕円状等であってもよい。
【0018】
前記冷凍ピンチャックのピン2の拡大断面図の一例を図2〜5に示す。
図2に示したピン2は、ピン頭の表面粗さRaが0.1μm以上0.5μm以下に形成されたものである。
ピン頭をこのような表面粗さで形成することにより、ピン頭とその上に形成される冷凍液の液滴との接触面積が大きくなり、横方向への応力に対しても、ピン頭の液滴がこぼれ落ちるのを抑制することができる。このため、被加工物を凝固固着するのに十分な量の冷凍液の液滴をピン頭に安定的かつ均一に保持させることが可能となる。
また、ピン頭の表面積が大きくなることにより、チャックプレート下部からの冷却によりピン頭の液滴を凝固させる際、ピン頭における吸熱効果を高めることが可能となり、凝固固着に要する時間を短縮することができる。
【0019】
前記表面粗さRaが0.1μm未満では、ピン頭の液滴を安定的に保持する効果が十分に得られない。一方、前記表面粗さRaが0.5μmを超える場合、面積の小さいピン頭に均一な液滴を形成することが困難となる。
なお、前記表面粗さRaは、算術平均粗さを表しており、表面粗さ計(株式会社ミツトヨ製SURFPAK‐SV/PRO/SJ)によって測定した値に基づくものである。
【0020】
上記のような表面粗さのピン頭の加工方法は、特に限定されるものではない。例えば、チャックプレート上面の多数のピンすべてを同時にラップ加工することにより、各ピン頭を均一に所定の表面粗さにすることができる。
【0021】
図3〜5に示すピン2はいずれも、ピン頭に窪みが形成されたものであり、窪みの形状の例として、図3は円筒状、図4は逆円錐状、図5は半球面状のものである。このような形状の窪みであれば、面積の小さいピン頭であっても、比較的容易に加工することが可能である。
ピン頭にこのような窪みを形成した場合も、上記のようにピン頭を所定の表面粗さとする場合と同様に、ピン頭とその上に形成される冷凍液の液滴との接触面積が大きくなり、横方向への応力に対しても、ピン頭の液滴がこぼれ落ちるのを抑制することができる。また、ピン頭の表面積が大きくなることにより、チャックプレート下部からの冷却によりピン頭の液滴を凝固させる際、ピン頭における吸熱効果を高めることが可能となる。
さらに、ピン頭が平坦である場合よりも、ピン頭に液滴として保持することができる冷凍液の量を多くすることができ、凝固固着強度の向上も図ることができる。
このように、ピン頭の窪みによって、被加工物を凝固固着するのに十分な量の冷凍液の液滴をピン頭に安定的かつ均一に保持させることが可能となり、かつ、吸熱性の向上により液滴の凝固時間の短縮化も図ることができる。
【0022】
前記窪みの深さ、大きさ等は、被加工物の固定保持の際に欠損や破損等しない程度の強度を十分に維持することができる限り、特に限定されるものではないが、図4、図5に示すような形状、すなわち、ピン頭の窪みの深さが、外周から中心に向かって漸深するような形状の場合、前記ピン頭の窪みは、鉛直方向断面における角部の角度θが45°以上87°以下であることが好ましい。
このような形状の窪みをピン頭に形成し、さらに、該ピン頭の鉛直方向断面における角部の角度θを上記範囲内とすることは、冷凍液を均一かつ安定的に保持させる上で効果的である。
前記窪みの形成方法も、特に限定されるものではなく、予めピン頭に窪みを有するピンを成型してもよく、あるいはまた、ピン頭にブラスト加工を施すことにより形成してもよい。
【0023】
前記窪みは、その表面粗さRaが0.1μm以上0.5μm以下であることが好ましい。
ピン頭に窪みを形成し、さらに、上記範囲の表面粗さとすることは、上述したような窪み及び所定の表面粗さによる両方の効果が得られるため、液滴をピン頭により安定的に保持させる上で効果的である。
【0024】
前記冷凍ピンチャックの材質には、炭化ケイ素が好適に用いられる。
炭化ケイ素は、高硬度、高熱伝導性であり、また、耐熱性及び化学的安定性に優れており、特に、緻密体は高強度であるため、冷凍液を用いて被加工物を凝固固着するための支持部材として好適な材質である。
【0025】
前記ピン頭への冷凍液の液滴の形成方法は、特に限定されるものではなく、例えば、ピン頭に液滴を滴下する方法や、チャックプレートを裏返して、冷凍液の液浴にピン頭を着液させた後、チャックプレートを引上げる方法、冷凍液を噴霧する方法等により行うことができる。いずれの方法においても、被加工物の薄板が載置されるすべてのピン頭に均一かつ十分な量の液滴を形成することができる必要がある。上記の方法のうち、液滴形成の効率の観点からは、冷凍液を噴霧する方法が好ましい。
これらの方法によれば、使用する冷凍液は、ピン頭に液滴を形成させるための分で足りる。したがって、本発明に係る冷凍ピンチャックによれば、被加工物の凝固固着のために必要な冷凍液の使用量を従来よりも少なくすることができる。
【0026】
なお、冷凍ピンチャック上への被加工物の固定保持は、上記のようにしてピン頭に形成した冷凍液の液滴の上に、被加工物の薄板を載置した後、凍結させることにより行う。凍結方法としては、従来と同様の方法を用いることができる。例えば、チャックプレート裏面に接触して設けられた冷凍プレート内に、前記冷凍液の凝固点以下に冷却した不凍液を流す方法を用いることができる。このようにして、チャックプレートの下部から冷却することにより、被加工物の薄板裏面とピンとの間にある冷凍液を冷却凝固させて、薄板をチャックプレート上面に無変形で凝固固着させて固定保持することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
図1に示すような形態の炭化ケイ素緻密体からなるチャックプレートの上面に、炭化ケイ素緻密体からなるピンを、ピン径0.5mm、ピン高さ0.8mm、ピンピッチ2mmで多数設けた。そして、ラッピング加工により、ピン頭の表面粗さRaを0.3μmとした。
このチャックプレートを裏返して、噴霧装置で下方から水を吹き付けた。ピン頭に水滴を十分に成長させた後、チャックプレートの上下を元に戻した。
【0028】
[実施例2]
図1に示すような形態の炭化ケイ素緻密体からなるチャックプレートの上面に、炭化ケイ素緻密体からなるピンを、ピン径0.5mm、ピン高さ0.8mm、ピンピッチ2mmで多数設けた。そして、ブラスト加工により、ピン頭に直径0.4mm、深さ0.1mmの窪みを形成した。
前記チャックプレートのピン頭への水滴の形成は、実施例1と同様にして行った。
【0029】
[比較例1]
チャックプレート上面のピンの配置は上記実施例と同様であり、図6に示すような従来の形態のチャックプレートを用いて、表面粗さRaが0.2μmのピン頭に水滴を形成した。具体的には、チャックプレート内部の中心から放射状かつ環状に設けられた給排液管を通じて、チャックプレート上面底部の給排液孔からチャックプレート上面に水を供給した。ピン頭上面よりも高い位置まで水を供給した後、チャックプレート上面底部に溜まっている余剰の水を給排液孔から給排液管を通じて排出した。
【0030】
ピン頭に形成される水滴は、固定保持する被加工物の薄板の反りが100μmであると仮定すると、ピン径0.5mmの場合に必要な冷凍液の体積は約0.02mm3である。
上記比較例1(従来例)では、ピン頭に形成された水滴の体積は約0.01mm3であり、被加工物を凝固固着により固定保持するには十分な液量ではなかった。
これに対して、上記実施例1,2においては、ピン頭に形成された水滴の体積はいずれも、約0.04mm3で各ピンとも大きさがほぼ均等であり、被加工物を凝固固着により固定保持するのに十分な量の液量をピン頭に保持することができた。
また、上記実施例1,2においては、噴霧により水滴を形成することによって、水をチャックプレート下部から供給する場合(比較例)よりも、少ない量の水でピン頭に水滴を均一に形成することができた。
【符号の説明】
【0031】
1,11 チャックプレート
2,12 ピン
13 凝固した冷凍液
14 薄板
15 給排液管
16 給排液孔
17 冷凍液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャックプレート上面に多数のピンが離散配置された炭化ケイ素からなる冷凍ピンチャックであって、前記ピンのピン頭の表面粗さRaが0.1μm以上0.5μm以下であることを特徴とする冷凍ピンチャック。
【請求項2】
チャックプレート上面に多数のピンが離散配置された炭化ケイ素からなる冷凍ピンチャックであって、前記ピンのピン頭に窪みが形成されていることを特徴とする冷凍ピンチャック。
【請求項3】
前記ピン頭の窪みは、鉛直方向断面における角部の角度が45°以上87℃以下で形成されていることを特徴とする請求項2記載の冷凍ピンチャック。
【請求項4】
前記ピン頭の窪みにおける表面粗さRaが0.1μm以上0.5μm以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載の冷凍ピンチャック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−69775(P2012−69775A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213862(P2010−213862)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】