説明

冷間加工性に優れた線材の製造方法

【課題】冷間加工時に割れが発生しない冷間加工性に優れた線材の製造方法を提供する。
【解決手段】分塊圧延された鋼片を、表面自動検査と超音波探傷装置による検査とを組み合わせて検査し疵取りを行うに際し、超音波探傷装置にて超音波斜角探傷法により鋼片の皮下部に存在する介在物に起因する疵および圧着状疵を検出し、これらの疵が検出された場合は当該鋼片を廃棄するか、この圧着状疵等を除去した後に、熱間圧延して線材に加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械構造用鋼部品の製造に用いられる冷間鍛造用線材の製造方法に関し、特に冷間加工時に割れが発生しない冷間鍛造用線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械構造用部品、例えばボルトは熱間圧延された線材(圧延材)を酸洗、皮膜処理、伸線後、冷間圧造にて製造されている。圧延材に焼鈍または球状化焼鈍を施した後に冷間圧造にて製造されている場合もある。また、最近では、歯車も生産性向上の観点から冷間鍛造にて製造されている。ところが、熱間圧延後の線材(圧延材)の表面や内部に疵が存在すると冷間圧造時や冷間鍛造時に割れが発生しやすくなるため、疵のない線材(圧延材)が求められている。
【0003】
ところが、線材に加工された後はその全長が長いため線材全体を検査することは事実上不可能なため、通常、熱間圧延後の検査は線材の両端近傍での検査(端末検査)に留どめ、熱間圧延前(すなわち、線材に加工する前)の鋼片段階(素材段階)で検査を行い、この段階で発見した表面疵のみを除去し、内部疵(内部欠陥)を発見した場合は、その鋼片を廃棄することが行われている。
【0004】
表面疵については、例えば、磁粉探傷法による自動検査装置にて自動検査して比較的大きな疵を検出し、これをグラインディング等にて自動的に除去した後、再度磁粉探傷法を用いて目視にて小さな疵を発見し除去することが行われている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
一方、内部疵(内部欠陥)については、超音波探傷装置を用いて検出するのが一般的であり、鋼片の中心部および中間部に存在する内部疵に対しては垂直探傷法が用いられ、鋼片の皮下部に多く存在する介在物に起因する疵に対しては斜角探傷法が用いられている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
そして、上記複数の探傷法を組み合わせることにより、鋼片(素材)段階で表面および内部に存在する疵を効率的に、かつ、できるだけ精度良く発見し事前に除去することが行われている。
【0007】
上述したように、超音波斜角探傷法は、鋼片の皮下部に多く存在する介在物に起因する疵の検出に非常に有効な手段であり、当該方法を他の探傷法と併用することで、製品である線材の品質向上に大いに寄与してきたものであるが、近年、鋼片検査の前段階である製鋼、鋳造段階における鋼の清浄化技術が急速に進歩したことにより、鋼片中の介在物は小型化し介在物に起因する欠陥(疵)は大幅に低減されてきている。それにもかかわらず、製品である線材には、部品に冷間加工する際に割れが発生するものが一定割合で存在しており、線材品質のさらなる改善が求められていた。
【特許文献1】特開2003−136135号公報
【特許文献2】特開2005−138168号公報
【特許文献3】特開昭59−148860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的は、冷間加工時に割れが発生しない冷間加工性に優れた線材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋼片内部に存在する疵のうち、従来の超音波探傷にては十分に検出されない疵があるものと考え、先ず、鋼片の断面を目視および顕微鏡にて観察することにより鋼片内部の疵発生の状況を調査した。その結果、鋼片の皮下部に図4に示すような、介在物に起因する疵とは異なる圧着状の疵(以下、「圧着状疵」という。)が発生しているものが多数認められた。この圧着状疵は、鋳片(ブルーム)の連続鋳造時に発生した熱応力割れが分塊圧延時に圧着されて皮下部に線状に形成されたものと想定される。この圧着状疵は、鋼片の表面には開口していないため、磁粉探傷にては検出できず、また、超音波探傷にては、その発生箇所が皮下部であることからして斜角探傷法にて検出されるべきものであるが、従来は介在物に起因する疵に注目してエコー高さの閾値を設定しており、圧着状疵を検出するのには適切な閾値となっていなかったものと考えられる。
【0010】
そこで、発明者らは、超音波斜角探傷法においてエコー高さの閾値を適正に設定することで、介在物に起因する疵だけでなく圧着状疵をも感度良く検出し、介在物に起因する疵ないし圧着状疵(以下、「圧着状疵等」と総称する。)が検出された場合は、当該鋼片を廃棄するか、あるいは、可能ならば圧着状疵等を除去することにより、熱間圧延後の線材中に疵が残存することをより確実に防止しうると考え、さらに検討を進め、以下の発明を完成するに至った。
【0011】
請求項1に記載の発明は、(1)鋳片を分塊圧延して鋼片とする分塊工程と、(2)分塊圧延された鋼片を検査し疵取りを行う鋼片検査工程と、(3)疵取り後の鋼片を熱間圧延して線材に加工する線材圧延工程と、を備えた線材の製造方法であって、上記(2)の鋼片検査工程が、(2A)分塊圧延された鋼片をショットブラストにて表面の酸化スケールを除去するデスケーリング工程と、(2B)前記スケール除去後の鋼片を表面自動検査装置にて自動検査する表面自動検査工程と、(2C)引き続き、超音波探傷装置にて鋼片内部の疵を自動検査する内部自動検査工程と、(2D)上記(2B)の表面自動検査工程で検出された表面疵を自動疵取装置にて自動疵取りを行う自動疵取り工程と、(2E)引き続き、磁粉探傷装置により鋼片表面を目視検査する表面目視検査工程と、(2F)上記(2E)の表面目視検査工程で検出された表面疵を手作業にて疵取りを行う手動疵取り工程と、を有し、さらに、上記(2C)の内部自動検査工程において、超音波探傷装置にて超音波斜角探傷法により鋼片の皮下部に存在する介在物に起因する疵および圧着状疵(以下、「圧着状疵等」と総称する。)を検出し、圧着状疵等が検出された場合は当該鋼片を廃棄するか、上記(2D)の自動疵取り工程で表面疵とともに上記圧着状疵等を除去することを特徴とする冷間加工性に優れた線材の製造方法である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、上記超音波斜角探傷法において、15dB以上のエコー高さのものを上記圧着状疵等とする請求項1に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、上記(2F)の手動疵取り工程を複数回繰り返す請求項1または2に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、上記(3)の線材圧延工程後の線材の両端末を検査して端末疵の深さが0.02mm以下のもののみを製品線材とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法である。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法にて製造された線材の端末にキャップを装着した冷間加工性に優れた線材の製造方法。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法にて製造された線材をコイル状に巻き上げ、そのコイルの両端面に当て物を装着した冷間加工性に優れた線材の製造方法である。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法にて製造された線材をコイル状に巻き上げ、そのコイルを梱包した冷間加工性に優れた線材の製造方法である。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法にて製造された線材の化学成分が、質量%で、C:1.5%以下、Si:3.0%以下、Mn:0.2〜3.0%、P:0.025%以下、S:0.030%以下である冷間加工性に優れた線材の製造方法である。
【0019】
請求項9に記載の発明は、さらに、Al:0.001〜0.10%、Nb:0.001〜0.05%、Ti:0.001〜0.20%、V:0.01〜0.35%、N:0.001〜0.025%のうち1種以上を含む請求項8に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法である。
【0020】
請求項10に記載の発明は、さらに、O:0.0020%以下を含む請求項8または9に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法である。
【0021】
請求項11に記載の発明は、さらに、Cu:2.5%以下、Ni:2.5%以下、Cr:3.0%以下、Mo:1.0%以下のうち1種以上を含む請求項8〜10のいずれか1項に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法である。
【0022】
請求項12に記載の発明は、さらに、B:0.001〜0.03%を含む請求項8〜11のいずれか1項に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法である。
【0023】
請求項13に記載の発明は、さらに、Ca:0.02%以下、Mg:0.050%以下、Bi:0.10%以下、Li:0.10%以下のうち1種以上を含む請求項8〜12のいずれか1項に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の製造方法によれば、超音波斜角探傷法にて鋼片の皮下部に存在する介在物に起因する疵だけでなく圧着状疵をも感度良く検出し、事前に当該鋼片の廃棄ないし圧着状疵等の除去を行うことで、熱間加工後の線材への圧着状疵等の持ち込みがより確実に防止できるようになった。この結果、冷間加工時に線材に割れが発生することがさらに抑制され、冷間加工性に優れた線材を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
〔実施形態〕
図1は、本発明の一実施形態に係る、鋳片から鋼片を経て線材を製造するまでの工程を示すフロー図である。以下、各工程をそのフローに沿って詳細に説明する。
【0026】
〔製造工程〕
(1)分塊工程
成分調整された溶鋼から連続鋳造機または造塊鋳型にて鋳造された鋳片(ブルームまたはインゴット)を、次工程で使用できる形状まで圧延して鋼片(ビレット)を作製する。
【0027】
(2)鋼片加工工程
次いで、分塊圧延された鋼片(ビレット)を、下記の(2A)〜(2F)の工程で、検査し疵取り(手入れ)を行う。
【0028】
(2A)デスケーリング工程
先ず、表面の疵を検出しやすくするため、分塊圧延された鋼片をショットブラストにて表面の酸化スケールを除去しておく。
【0029】
(2B)表面自動検査工程
そして、スケール除去後の鋼片を表面自動検査装置にて自動検査する。具体的には、スケール除去後の鋼片を磁化し、その表面に蛍光磁粉を振り掛け、鋼片表面の磁粉模様をカメラで撮影し画像解析することで、鋳造時の粒界割れに起因して生成した開口疵、分塊圧延時に発生したヘゲ疵など、例えば深さ0.3mm以上、長さ50mm以上の表面疵を自動的に検出することができる。
【0030】
(2C)内部自動検査工程
引き続き、超音波探傷装置にて鋼片内部の疵を自動検査する。具体的には、超音波探傷装置は、垂直探傷法と斜角探傷法とを組み合わせ、前者で鋼片の中心部および中間部を、後者で鋼片の皮下部を、それぞれ検査するように構成することで、鋼片の内部全体を漏れなく検査することができる。そして、垂直探傷法においては、有害な例えば500μm以上の疵を検出できるようにエコー高さの閾値を調整しておく。一方、斜角探傷法では、圧着状疵を感度良く検出できるように、エコー高さの閾値を例えば15dBとし、15dB以上のエコーを圧着状疵等とするとよい(後記実施例、図3参照)。圧着状疵等が検出された場合は、原則当該鋼片を廃棄処分とするが、除去可能であれば、下記(2D)の自動疵取り工程で表面疵とともに圧着状疵等を除去してもよい。
【0031】
(2D)自動疵取り工程
上記(2B)の表面自動検査工程で検出された表面疵を自動疵取装置にて自動疵取りを行う。この際、除去可能であれば、上記(2C)の内部自動検査工程の斜角探傷法にて検出された圧着状疵等も一緒に疵取りしてもよい。自動疵取装置としては、フライスカッタやグラインダを用いればよい。
【0032】
(2E)表面目視検査工程
上記(2B)の表面自動検査工程の表面自動検査装置にては検出できない、浅く短い表面疵は、別の磁粉探傷装置を用いて鋼片表面を目視検査し検出を行う。具体的には、鋼片を磁化した後、その表面に蛍光磁粉を振り掛け、暗室内で磁粉模様を目視観察し、検出された表面疵にマーキングを施しておく。
【0033】
(2F)手動疵取り工程
そして、上記(2E)の表面目視検査工程で検出された表面疵を手作業、すなわち、例えばチッピング、グラインダ、ホットスカーフィング等にて疵取りを行う。
【0034】
(3)線材圧延工程
上記のようにして疵取りされた後の鋼片を熱間圧延して線材に加工する。具体的には、鋼片は加熱炉で所定温度に加熱した後、複数段の圧延機列にて順次圧下して所定径まで減面することで、目的とする線材に加工される。このようにして製造された線材は、熱間圧延前に鋼片から予め表面疵および内部疵(圧着状疵を含めて)が十分に除去されているので、冷間加工時に割れが発生することを効果的に抑止でき、高歩留にて冷間加工性に優れた線材を製造できることとなる。
【0035】
(変形例)
上記実施形態では、上記(2E)および(2F)の工程は、1回だけ行う例を示したが、表面疵をより完全に除去するため、必要に応じて複数回繰り返してもよい。なお、上記(2E)および(2F)の工程を繰り返す場合は、必要に応じてその前段にて酸化スケール除去のためにショットブラストを行うようにしてもよい。
【0036】
さらに、熱間圧延時に発生するかき疵、しわ疵、折り込み疵等による線材の冷間加工割れを防止するために、上記(3)の線材圧延工程にて熱間圧延された後の線材を端末検査し、端末疵の深さが例えば0.02mm以下のもののみを製品線材とするのが推奨される(後記実施例2参照)。
【0037】
さらに、搬送時に製品線材に生じたすり疵等による冷間加工割れを防止するために、線材の両端末にキャップを装着すること、線材コイルの両端面に当て物を装着すること、線材コイルを梱包することが有効であり、これらの手段をそれぞれ単独で、または、いずれか2手段もしくは3手段全部を組み合わせて行うのが推奨される(後記実施例3参照)。
【0038】
〔線材の成分組成〕
上記方法で製造された線材の成分組成は以下のものが推奨される。
【0039】
C:1.5%以下
Cは機械構造用部品としての硬さを確保するのに必要な元素であるが、多すぎると靭性が低下するので、1.5%以下に抑えるのが好ましい。
【0040】
Si:3.0%以下
Siは鋼の溶製時に脱酸性元素として有効に作用する他、耐磨耗性、耐チッピング性にも有効に作用するが、多すぎると冷間鍛造時の変形抵抗を高め、金型寿命を低下させるので、3.0%以下に抑えるのが好ましい。
【0041】
Mn:0.2〜3.0%
Mnは脱酸・脱硫剤および焼入れ性向上元素として働くため0.2%以上含有させるとよいが、多すぎると冷間鍛造時の変形抵抗を高め、金型寿命を低下させるので、3.0%以下に抑えるのが好ましい。
【0042】
P:0.025%以下
Pは粒界偏析や中心偏析を起こし、靭性を低下させるので、0.025%以下に抑えるのが好ましい。
【0043】
S:0.030%以下
Sは被削性を向上させる元素であり添加してもよいが、過剰な添加ではMnと反応して形成されるMnS介在物が増加して靭性が低下するので、0.030%以下に抑えるのが好ましい。
【0044】
Al:0.001〜0.10%、Nb:0.001〜0.05%、Ti:0.001〜0.20%、V:0.01〜0.35%、N:0.001〜0.025%のうち1種以上
Al、Nb、Ti、Vは微細な窒化物を形成し結晶粒を微細化する効果があるため添加してもよいが、少ない添加では効果が得られず、過剰な添加では窒化物が粗大化するので、それぞれ上下限の範囲内の添加量とするのが好ましい。
【0045】
O:0.00020%以下
OはAlと反応してAl介在物を形成し靭性を低下させるので、0.00020%以下に抑えるのが好ましい。
【0046】
Cu:2.5%以下、Ni:2.5%以下、Cr:3.0%以下、Mo:1.0%以下のうち1種以上
Cu、Ni、Cr、Moは機械構造用部品である例えばボルトでの遅れ破壊特性の向上効果や歯車での強度の向上効果があるため添加してもよいが、過剰な添加では介在物が多量に生成し靭性が低下するので、それぞれ上限以下に抑えるのが好ましい。
【0047】
B:0.001〜0.03%
Bは、上記Cu、Ni、Cr、Moと同様、機械構造用部品である例えばボルトでの遅れ破壊特性の向上効果や歯車での強度の向上効果があるため0.001%以上添加するとよいが、過剰な添加では介在物が多量に生成し靭性が低下するので、0.03%以下に抑えるのが好ましい。
【0048】
Ca:0.02%以下、Mg:0.050%以下、Bi:0.10%以下、Li:0.10%以下
Ca、Mg、Bi、Liは被削性を向上させる元素であるので添加してもよいが、過剰な添加では介在物が多量に生成し靭性が低下するので、それぞれ上限以下に抑えるのが好ましい。
【0049】
本発明の効果を確証するため、以下の実証試験を実施した。
【実施例1】
【0050】
表1に示す成分組成の鋼種A〜Fをそれぞれブルーム連続鋳造機で断面340mm×400mmの鋳片を鋳造した後、分塊圧延により断面155mm角の鋼片を各40本作製した。そして、各鋼種ごとに、上記(2)の鋼片検査工程において、超音波斜角探傷を実施する場合、実施しない場合のそれぞれについて熱間圧延を行い、7.5mm径の線材を製造した。また、超音波斜角探傷を実施する場合には、上記(2E)の表面目視検査工程+(2F)の手動疵取り工程の組み合わせの繰り返し回数を順次増加した場合についても鋼線の製造試験を行った。
【表1】

【0051】
ここで、超音波斜角探傷の条件としては、先ずG型標準試験片を用いて2mm径の欠陥のエコー高さを30dBに較正しておき、その後、各鋼片について測定を行い、エコー高さの閾値を15dBとし、15dB以上のエコー高さが発生した部位を圧着状疵等と判定し、その鋼片は原則廃却処分とし、可能な場合のみ次工程である(2D)の自動疵取り工程にて疵取りを行った。
【0052】
なお、鋼種A、B、D、Fについては熱処理せずに、鋼種C、Eについては熱処理後に、それぞれ線径7.06mmまで伸線して鋼線とした。そして、各鋼線より図2に示す加工工程で圧造してM8用フランジボルトをそれぞれ30000個製造し、フランジ部の割れの有無を調査し、割れのあるものを不良品としてカウントし、不良率(不良品数/全数×100%)を求めた。
【0053】
試験条件および調査結果を表2に示す。なお、同表においては、ショットブラストについての記載を省略したが、表面自動検査の前、ならびに2回目および3回目の表面目視検査の前にはショットブラストを行った。
【表2】

【0054】
試験No.1〜3、6〜8、11〜13、16〜18、21、23、24は、本発明(請求項1に係る発明)の要件を満足しており、圧造時の不良率はいずれも5%未満となった。また、表面目視検査工程+手動疵取り工程の繰り返し数を増加させるほど不良率は低下し、2回の繰り返しで不良率は0.5%未満、3回の繰り返しで不良率は0%に到達することが分かった(試験No.1→2→3、試験No.6→7→8、試験No.16→17→18)。
【0055】
これに対し、試験No.4、5、9、10、14、15、19、20、22、25は、超音波斜角探傷を実施していないため、圧着状疵等に起因する圧造割れが認められ、不良率はいずれも5%以上となった。
【実施例2】
【0056】
上記実施例1の鋼種D〜Fにおいて、鋼片を線材まで熱間圧延する際に、線材に圧延ガイドを故意に接触させて線材に意図的にかき疵を付け、圧延後の線材を端末検査し、端末疵(圧延疵)の深さが上限疵深さを超えるものについては廃棄処分とし、上限疵深さ以下のもののみについてフランジボルトを製造し、上記実施例1と同様にして不良率を求めた。なお、上限疵深さは、各鋼種ごとに2水準に変更して試験を実施した。
【0057】
試験条件および調査結果を表3に示す。
【表3】

【0058】
上記表3に示す結果から、端末検査における端末疵の深さが0.02mm以下のもののみを製品線材とすることで、さらに冷間圧造時の不良率を低減できることが分かった。
【実施例3】
【0059】
上記実施例1の鋼種A〜Cにおいて、熱間圧延された線材に搬送時疵対策として、端末へのキャップ装着、線材コイルの端面への当て物装着、線材コイルの梱包の3手段を種々組み合わせて施し、それぞれ5回ずつ配置換え(場所換え)を行った後、上記実施例1と同様の工程でM8用フランジボルトを製造し、その不良率を調査した。
【0060】
試験条件および調査結果を表4に示す。
【表4】

【0061】
上記表4に示す結果から、熱間圧延後の線材に搬送時疵対策として、端末へのキャップ装着、線材コイルの端面への当て物装着、線材コイルの梱包の3手段をそれぞれ単独で、またはいずれか2手段もしくは3手段全部を組み合わせて施すことで、冷間圧造時の不良率をさらに低減できることが分かった。
【0062】
ここで、上記実施例1〜3において、超音波斜角探傷によりエコー高さが30dB以上の欠陥を発見し廃棄処分とした鋼片全数について、各欠陥部位を断面観察して圧着状疵であるか、介在物に起因する疵であるかを特定し、欠陥エコー高さと各疵の発生頻度との関係を図3に示した。
【0063】
同図から明らかなように、エコー高さ31dB以上で介在物に起因する疵が1例だけ発見されたが、その他の20例はいずれも圧着状疵であり、エコー高さの閾値を15dBとし、15dB以上のものを廃棄ないし手入れすることで、圧着状疵に起因する線材の冷間加工時の割れを効果的に防止できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態に係る、鋳片から鋼片を経て線材を製造するまでの工程を示すフロー図である。
【図2】鋼線からフランジボルトを製造する加工工程を示す図である。
【図3】超音波斜角探傷における、欠陥エコー高さと疵の発生頻度との関係を示すグラフ図である。
【図4】鋼片の皮下部に存在する圧着状疵の様子を示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)鋳片を分塊圧延して鋼片とする分塊工程と、
(2)分塊圧延された鋼片を検査し疵取りを行う鋼片検査工程と、
(3)疵取り後の鋼片を熱間圧延して線材に加工する線材圧延工程と、
を備えた線材の製造方法であって、
上記(2)の鋼片検査工程が、
(2A)分塊圧延された鋼片をショットブラストにて表面の酸化スケールを除去するデスケーリング工程と、
(2B)前記スケール除去後の鋼片を表面自動検査装置にて自動検査する表面自動検査工程と、
(2C)引き続き、超音波探傷装置にて鋼片内部の疵を自動検査する内部自動検査工程と、
(2D)上記(2B)の表面自動検査工程で検出された表面疵を自動疵取装置にて自動疵取りを行う自動疵取り工程と、
(2E)引き続き、磁粉探傷装置により鋼片表面を目視検査する表面目視検査工程と、
(2F)上記(2E)の表面目視検査工程で検出された表面疵を手作業にて疵取りを行う手動疵取り工程と、
を有し、
さらに、上記(2C)の内部自動検査工程において、超音波探傷装置にて超音波斜角探傷法により鋼片の皮下部に存在する介在物に起因する疵および圧着状疵(以下、「圧着状疵等」と総称する。)を検出し、圧着状疵等が検出された場合は当該鋼片を廃棄するか、上記(2D)の自動疵取り工程で表面疵とともに上記圧着状疵等を除去することを特徴とする冷間加工性に優れた線材の製造方法。
【請求項2】
上記超音波斜角探傷法において、15dB以上のエコー高さのものを上記圧着状疵等とする請求項1に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法。
【請求項3】
上記(2F)の手動疵取り工程を複数回繰り返す請求項1または2に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法。
【請求項4】
上記(3)の線材圧延工程後の線材の両端末を検査して端末疵の深さが0.02mm以下のもののみを製品線材とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法にて製造された線材の両端末にキャップを装着した冷間加工性に優れた線材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法にて製造された線材をコイル状に巻き上げ、そのコイルの両端面に当て物を装着した冷間加工性に優れた線材の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法にて製造された線材をコイル状に巻き上げ、そのコイルを梱包した冷間加工性に優れた線材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法にて製造された線材の化学成分が、質量%で、C:1.5%以下、Si:3.0%以下、Mn:0.2〜3.0%、P:0.025%以下、S:0.030%以下である冷間加工性に優れた線材の製造方法。
【請求項9】
さらに、Al:0.001〜0.10%、Nb:0.001〜0.05%、Ti:0.001〜0.20%、V:0.01〜0.35%、N:0.001〜0.025%のうち1種以上を含む請求項8に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法。
【請求項10】
さらに、O:0.0020%以下を含む請求項8または9に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法。
【請求項11】
さらに、Cu:2.5%以下、Ni:2.5%以下、Cr:3.0%以下、Mo:1.0%以下のうち1種以上を含む請求項8〜10のいずれか1項に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法。
【請求項12】
さらに、B:0.001〜0.03%を含む請求項8〜11のいずれか1項に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法。
【請求項13】
さらに、Ca:0.02%以下、Mg:0.050%以下、Bi:0.10%以下、Li:0.10%以下のうち1種以上を含む請求項8〜12のいずれか1項に記載の冷間加工性に優れた線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−149340(P2008−149340A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338791(P2006−338791)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】