説明

処理液循環利用システム

【課題】処理液を効率よく循環利用できると共に、異物除去手段のメンテナンス性に優れ、かつ、簡素な設備で安価に構成可能な処理液循環利用システムを提供する。
【解決手段】この処理液循環利用システム1は、塗装工程の前に行われる処理工程で車体2に供給された脱脂液L2を回収すると共に、回収した脱脂液L2に含まれる異物を除去し、然る後、異物を除去した脱脂液を回収先の処理工程で再利用するためのシステムである。このシステム1は、異物を除去するために少なくとも2段階の異物除去工程を有し、第1除去工程には、平滑なろ過面11を水平方向に対して傾斜させて配置したろ過分離装置5が設けられる。第1除去工程では、異物のうち相対的に大きな異物13aを分離除去し、第2除去工程では、第1除去工程で除去されずに残った相対的に小さな異物を分離除去するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理液循環利用システムに関し、特に、車体の塗装工程の前に行われる処理工程において使用される処理液循環利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車体の塗装処理を行うに際しては、塗膜欠陥の防止の観点から、その前処理工程として、車体の表面に付着している油分のほか、塗装工程までの各作業工程で発生し車体表面に付着した鉄粉や繊維くずなどの異物を除去するための脱脂処理や洗浄処理を実施する場合が多い。
【0003】
また、上記前処理工程で用いた処理液を有効に利用するため、例えば上記処理液に含まれる異物を取り除いた後、当該処理液を前処理工程に再利用する方法が提案されている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、回収水に含まれる微粒鉄粉を効果的に分離除去する目的で、回収水の貯留タンク内に、アモルファス合金繊維よりなるストレーナ部材を磁石と相互に近接させて配置したストレーナ装置が開示されている。また、同特許文献には、上記ストレーナ部材が貯留タンクに着脱自在に取り付けられている旨が記載されている。
【0005】
また、例えば、下記特許文献2には、沈降槽において使用済み洗浄水の上昇流を形成することで、洗浄水に含まれる異物のうち比較的大きなサイズの異物を沈降除去し、続いて、沈降槽からシャワータンク内に回収した洗浄水に気泡を導入することで、回収した洗浄水に残存する異物を浮上分離する方法、および、沈降分離時の上昇流の速度と浮上分離時の気泡の大きさをそれぞれ所定の範囲に設定する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平10−118422号公報
【特許文献2】特開平10−244252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示の装置では、鉄粉等の異物を捕捉すべきストレーナ部材が貯留タンクの内部空間を隔てるように配置されている。そのため、一旦捕捉した異物をストレーナ部材から取り除くには、このストレーナ部材を貯溜タンクから一旦取り外す必要があり面倒である。また、ストレーナ部材を取り外して清掃している間は実質的に回収水(洗浄水)の循環利用が停止するため、作業効率の低下を招くおそれもある。
【0007】
また、上記特許文献2に開示の方法では、その設定すべき上昇流の速度(0.4cm/秒以下)からも分かるように、分離除去作業に多大な時間が必要となるため、大量の処理液を効率よく循環利用するとの観点からは実用的な方法とはいえない。また、所定の大きさに制御した気泡を安定的に洗浄水に供給するために高精度な制御が可能な気泡発生装置が必要となるため設備が煩雑となり、また、設備費用の増大化も避けられない。
【0008】
また、上記何れの特許文献においても洗浄水を処理対象としているが、異物の多くは油分によって車体に強固に付着しているため、洗浄工程よりも脱脂工程において脱脂液中に混入する異物の量のほうが多いのが通常である。そのため、例えば特許文献1に記載のストレーナ装置を脱脂液の洗浄に用いても短時間で目詰まりを生じる等して、実用性に足る脱脂液の循環利用を図ることは難しい。
【0009】
以上の事情に鑑み、本発明では、処理液を効率よく循環利用できると共に、異物除去手段のメンテナンス性に優れ、かつ、簡素な設備で安価に構成可能な処理液循環利用システムを提供することを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題の解決は、本発明に係る処理液循環利用システムにより達成される。すなわち、この循環利用システムは、塗装工程の前に行われる処理工程で車体に供給された処理液を回収すると共に、回収した処理液に含まれる異物を除去し、然る後、異物を除去した処理液を回収先の処理工程で再利用する処理液循環利用システムにおいて、循環利用すべき処理液に脱脂液が用いられ、異物を除去するために少なくとも2段階の異物除去工程を有し、第1除去工程には、平滑なろ過面を水平方向に対して傾斜させて配置したろ過分離装置が設けられ、第1除去工程では、異物のうち相対的に大きな異物を分離除去し、第2除去工程では、第1除去工程で除去されずに残った相対的に小さな異物を分離除去するように構成されている点をもって特徴付けられる。
【0011】
このような構成とすることで、まず、第1除去工程において、塗装前の車体に付着している比較的大きな異物、例えば粒径の比較的大きな鉄粉や繊維くずなどがろ過面により捕捉される。そして、捕捉された異物は平滑でかつ傾斜したろ過面上を自重で滑って下方へと集積される。そのため、ろ過面上に捕捉した異物が堆積し目詰まりを生じる事態を可及的に回避することができる。また、ろ過面で捕捉した異物の多くはその下方にて集積されるため、そのメンテナンスの頻度が少なくて済む。また、次の第2除去工程においては、第1除去工程で除去されずに残った比較的小さな異物、例えば微細な鉄粉等が分離除去される。そのため、第2除去工程以降にフィルタ等の分離除去手段を用いる場合であっても、その目詰まりを極力減じて、メンテナンスの頻度を低減させることができる。また、上記形態のろ過分離装置であれば、そのろ過面を大気側に開放することができるので、作業ラインの稼動中であっても、ろ過面のメンテナンス(ろ過面上に残留した異物の除去)を容易に行うことができる。作業者により手動でメンテナンスを行うこともできる。これにより、ろ過分離装置の作業効率を維持することができる。
【0012】
また、上記構成で処理液である脱脂液を清浄化できるので、分離除去に要する設備も簡易なもので済み、その設備費用も安価である。また、ろ過分離装置が上記構造を有する点、上記メンテナンス頻度が低い点、および、サイズの大きい異物から順に分離除去する点から、脱脂液の許容処理量を引き上げることができると共に、脱脂液中に含まれる異物の除去効率を高めることができる。これにより、脱脂液による脱脂作用を改善でき、ひいては電着塗装等の塗装品質の向上につながる。
【0013】
なお、上記ろ過分離装置に係る構造は、車体の脱脂等に使用される脱脂液を循環利用システムの循環媒体として使用する場合にはじめて有効に作用する。すなわち、脱脂や洗浄等の車体表面処理に使用された処理液には、車体表面に付着していた油分が混入することから、例えば車体洗浄に用いる洗浄水を本発明に係る循環利用システムの循環媒体として使用した場合、洗浄水中に含まれる油分がろ過面上に油膜を張り、これにより、通過させるべき液体成分が通過できない不具合を生じるおそれがある。本発明者らの行った実験によれば、油膜の形成を回避できる程度にまでろ過面の目(通過孔やすき間)のサイズを大きくすると、ろ過分離すべき比較的大径の鉄粉や繊維くずまで通してしまい、フィルタとしての本来的機能を奏し得ない。これに対して、脱脂液を循環媒体に使用する場合には、脱脂液に混入した油分は脱脂液により適度に分解されるため、所望の異物が捕捉できる程度にまでろ過面の目を細かくしても油膜を形成することはなく、円滑かつ効果的なろ過作用を奏し得る。以上より、ろ過分離装置を第1段階の異物除去工程に設けると共に、脱脂液を循環利用媒体とする循環利用システムを構築することで、はじめて、車体の表面に付着した異物を処理液中から効果的に分離除去することが可能となる。
【0014】
この場合、例えば第1除去工程と第2除去工程との間に中間除去工程を設け、この中間除去工程に、第1除去工程で除去されずに残った異物のうち磁性物質を磁力で吸着して脱脂液から分離する吸着分離装置を設けるようにしてもよい。これは、第1除去工程を経てなお脱脂液中には種々のサイズの鉄粉が主として多く含まれるとの事実に基づきなされたものであり、上記吸着分離装置を設けることで、第1除去工程で取り切れなかった鉄粉等を効率よく分離除去することができる。
【0015】
また、第2除去工程には、第1除去工程で除去されずに残った異物を捕捉して脱脂液から分離する捕捉分離装置が設けられていてもよい。このような構成とすることで、第1除去工程(あるいは上記の中間除去工程)では取り切れなかった微細な異物までを確実に捕捉除去することができ、脱脂液の清浄度を高めることができる。これは、当該除去工程に至るまでに所定の大きさの異物が確実に除去されており、この工程に、除去すべき異物の大きさに対応した捕捉除去手段(フィルタなど)を配置することができることによる。また、各異物除去工程ごとに異なるサイズないし種類の異物が除去されることで、各々のメンテナンス頻度を減じ、言い換えると、現実的な周期でメンテナンスを実施でき、これにより実用性に足る循環利用システムの構築が可能となる。
【0016】
また、上記構造を有する処理液循環利用システムは、ラインの稼動時と非稼動時とでその循環系統を切替えるように構成することも可能である。例えば、処理工程を実施しない場合、異物除去工程を終了した脱脂液が、回収先の処理工程に再利用されることなく第1除去工程へ循環供給されるように構成することも可能である。このように構成することで、ライン稼動時には、脱脂液による処理工程で混入した異物をこれに続く除去工程で分離除去することで、脱脂液を所定の清浄度に保つことができる。また、ラインの稼動停止時には、脱脂液の循環系統に異物が新たに混入することはないため、脱脂液をより効果的に洗浄でき、結果として、上記循環系統を構成する上記各分離装置の自動メンテナンスが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、処理液を効率よく循環利用できると共に、異物除去手段のメンテナンス性に優れ、かつ、簡素な設備で安価に構成可能な処理液循環利用システムを提供することができる。また、上記処理液を工業用廃液として排水処理する際にも、当該廃液に含まれる異物が少なくなることから、排水処理への負担も軽減され、その処理コストも低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る処理液循環利用システムの一実施形態を図面に基づき説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る処理液循環利用システム1の全体構成を概念的に示している。この実施形態では、溶接工程後でかつ電着塗装の前処理工程に該当する脱脂工程を、本発明に係る処理液循環利用システムに組み込んだ場合を例にとり説明する。
【0020】
図1に示すように、脱脂処理の対象となる車体2は、ハンガー等の適当な搬送手段により搬送ライン上を所定の搬送方向に向けて搬送されると共に、搬送中の車体2に対して所定の方向(ここでは略水平方向)から脱脂液L1を噴射供給するための脱脂液供給手段3が上記搬送ラインに沿って配設されている。そして、図1に示すように、車体2に向けて脱脂液L1を噴射供給可能な領域の鉛直下方には、車体2に噴射供給した脱脂液L1を回収するための回収槽4が配設されると共に、回収槽4の下流側に位置する第1除去工程には脱脂液L2のろ過分離装置5が配設されている。第1除去工程の後には第2除去工程が続くが、この実施形態では、第1除去工程と第2除去工程との間に中間除去工程が設けられており、この中間除去工程には、第1除去工程で異物除去処理を受けた脱脂液L3に含まれる異物を吸着して分離する吸着分離装置6が配設されている。また、この中間除去工程に続く第2除去工程には、中間除去工程で異物除去処理を受けた脱脂液L4に含まれる異物を捕捉して分離する捕捉分離装置7が配設されている。また、この実施形態では、吸着分離装置6の下流側に、吸着分離装置6により異物の除去処理を受けた脱脂液L4を貯留するためのタンク8が配設されると共に、このタンク8と捕捉分離装置7との間に、タンク8内の脱脂液L4を加圧して捕捉分離装置7へ送り込むためのポンプ9が配設されている。以下、異物の除去手段に関する事項を中心に説明する。
【0021】
ろ過分離装置5は、その上部に、回収槽4内の脱脂液L2を受入れ可能なオーバーフロー槽10を有すると共に、このオーバーフロー槽10から溢れ出た脱脂液L2をろ過可能なろ過面11とを主に有する。この実施形態では、ろ過面11は、平行に配列した複数のウェッジワイヤ12の一端面と、これらウェッジワイヤ12,12間に設けられる所定間隔の隙間とで構成されている。上記形態のろ過面11は平滑な面性状をなすと共に、その上部をオーバーフロー槽10のオーバーフロー部に隣接させ、かつ、水平方向に対して傾斜した状態で配設されている。なお、ウェッジワイヤ12,12間の隙間の大きさは、後述する目的の異物13aを捕捉分離でき、かつ、残りの脱脂液L3を通過可能な程度の大きさに設定することが好ましく、例えば100μm以上300μm以下、より好ましくは100μm以上200μm以下に設定される。
【0022】
吸着分離装置6には1又は複数のマグネットローラ14が回転自在に取り付けられており、その一部がろ過分離装置5から供給された脱脂液L3と接触可能な高さに配設されている。また、マグネットローラ14の大気接触側には、マグネットローラ14の回転に伴いその外周面に吸着された後述する異物(鉄粉等)13bを当該外周面から取り除いて、取り除いた箇所から離れた位置で異物13bを堆積させる堆積板15が傾斜して配置されている。
【0023】
捕捉分離装置7は、ここではいわゆるバグフィルタを備えるものであり、その目のサイズ(目の細かさ)は例えば50μm以上200μm以下、好ましくは50μm以上100μm以下に設定される。そして、このバグフィルタを通過して捕捉分離装置7による異物除去処理が完了した脱脂液が脱脂液供給手段3へと供給されるように、捕捉分離装置7と脱脂液供給手段3とが流路を介して接続されている。
【0024】
以下、上記構成を有する処理液循環利用システム1の使用態様の一例を説明する。
【0025】
まず、脱脂処理の対象となる車体2が、上記態様で脱脂工程領域中の所定位置まで搬送されてくると、車体2に対して脱脂液供給手段3から脱脂液L1を噴射供給する。これにより、車体2の表面に付着していた油分が取り除かれると共に、当該油分によって車体2の表面に比較的強固に付着していた大小様々の鉄粉やスパッタ、砥石から出る繊維くず等の固体状の異物が車体2から取り除かれる。これら取り除かれた油分や固体状の異物は脱脂液L1に混入し、供給領域の下方に位置する回収槽4にて回収される。
【0026】
このようにして回収槽4に回収された脱脂液L2は、その底部に設けられた排出口を通ってろ過分離装置5のオーバーフロー槽10へと送られる。そして、脱脂液L2がオーバーフロー槽10を満たしそのオーバーフロー部から溢れ出ると、オーバーフロー部と連続しているろ過面11の最上部から溢れ出た脱脂液L2が、平滑で傾斜したろ過面11上を伝って下方に流れていく。この間(ろ過面11全体のうち上側における例えば三分の一程度の領域において)、所定の大きさ以上の異物、例えば最大径500μm以上の鉄粉や繊維くず等がろ過面11に設けられた隙間を通過することなく下方に滑り落ちる一方で、上記以外の異物や脱脂液は隙間を介してろ過面11を通過し、下方に落下していく。このようにして、所定の大きさ以上の異物13aのみがろ過面11の下方に堆積していき、脱脂液L2から分離除去される(第1除去段階)。
【0027】
然る後、ろ過分離装置5の下方に位置する貯留部に溜められたろ過処理済みの脱脂液L3は次段階となる吸着分離装置6へと送られる。そして、この吸着分離装置6の貯留槽へと脱脂液L3が送られてくると、マグネットローラ14を図示しない適当な駆動手段により回転させ、回転状態のマグネットローラ14と接触した磁性物質をマグネットローラ14の表面に吸着させる。ここでは主に、第1除去工程でろ過分離できずに脱脂液L3中に残った鉄粉(500μm未満)が異物13bとして吸着され、脱脂液L3から分離される(中間除去工程)。吸着分離された異物13bは堆積板15によってその板上に掻き集められ、傾斜下方に堆積される。
【0028】
上述のようにして吸着分離処理を受けた脱脂液L4は、一旦タンク8に貯留されると共に、ポンプ9により捕捉分離装置7に向けて圧送される。そして、圧送状態の脱脂液L4が捕捉分離装置7のバグフィルタを所定の圧力下で通過することで、第1および中間除去工程では除去し切れなかった比較的小さな異物(例えば200μm未満)が当該フィルタにより捕捉される(第2除去工程)。このようにして、大半の異物が取り除かれた脱脂液は、脱脂液供給手段3へと循環供給され、再び車体2の脱脂工程に利用される(図1を参照)。
【0029】
以上、説明したように、脱脂液に含まれる異物の組成に応じた段階的な異物除去工程(ここでは中間除去工程も含め三段階)を設けることで、脱脂液L2,L3,L4からの異物除去が効率的かつ確実に実施できる。また、各除去工程ごとに分離除去すべき異物の具体的対象が定まっているので、各々の分離除去に際して目詰まり等の不具合を生じることもない。例えば、この実施形態においては、第1除去工程で、第2除去工程にて目詰まりの原因となる可能性の高い比較的大径の鉄粉(500μm以上)や繊維くずが除去され、また、中間除去工程では、同じく第2除去工程にて目詰まりの原因となる可能性の高い粒径の鉄粉等が除去される。
【0030】
また、この実施形態のように、第1除去工程にてろ過分離を実施し、中間除去工程で磁力による吸着分離を併せて実施することで、重さの異なる繊維くずと鉄粉とが絡み合うことなく各々の除去工程で分離回収される。これにより、各々の分離装置5,6のメンテナンスも容易となる。特に、この実施形態のように、ろ過面11を複数のエッジワイヤ端面で構成することで、繊維くずがろ過面11に引っかかるのを極力避けて、これを分離回収することができる。
【0031】
また、この実施形態に開示の構成であれば、実質的にバグフィルタの定期的な交換のみで済むため、非常にメンテナンスも簡易かつ容易である。もちろん、バグフィルタによる異物除去(第2除去工程)までに目詰まりの原因となり易い種類の異物(繊維くずや比較的大径の鉄粉など)は脱脂液から取り除かれているため、この点からもフィルタの交換頻度が少なくて済む。また、ろ過分離装置5は脱脂液L2の自重作用でろ過を行うため、実質的に分離除去作業にエネルギが必要となるのはマグネットローラ14の回転動作とポンプ9の圧送動作のみとなり、経済的である。
【0032】
以上、本発明に係る処理液循環利用システム、および、この循環利用システムの使用態様の一形態を例にとり説明したが、本発明は、この形態に限られることなく、当該発明の範囲内において任意の具体的形態を採り得ることはもちろんである。
【0033】
例えば、上記実施形態では、脱脂液が、車体2の脱脂工程(に係る脱脂設備)から、各段階の分離除去工程(ろ過分離装置5,吸着分離装置6,捕捉分離装置7)を経て、再び脱脂工程へと戻る循環系統を備えた処理液循環利用システム1を例示したが、これに別形態の循環系統を加えた構成とすることも可能である。その場合、上記例示の循環系統と、他の循環系統との間で脱脂液の循環利用を切替え可能とするのがよい。例えば、図2はその一例を示すもので、同図に係る処理液循環利用システム21は、図1に示す循環系統に加え、各段階の分離除去工程(ろ過分離装置5,吸着分離装置6,捕捉分離装置7)を出て直接に第1段階の分離除去工程(ろ過分離装置5)へと戻る循環系統を備えたものを示している。
【0034】
詳細には、最終段階の異物除去工程(第2除去工程)に係る捕捉分離装置7と脱脂液供給手段3との間には切替え弁16が配設されると共に、回収槽4と第1除去工程に係るろ過分離装置5との間に第2切替え弁17が配設されており、第1切替え弁16の出口側ポートが、第2切替え弁17の入口側ポートに接続されている。これら双方の切替え弁16,17は、車体2の作業ライン稼動時と非稼動時とで適宜切り替えられるように図示しない適当な制御手段により制御されている。例えば、ライン稼動時、第1切替え弁16は、捕捉分離装置(バグフィルタ)7と脱脂液供給手段3との間で脱脂液が流通可能に切替えられると共に、第2切替え弁17は、回収槽4とろ過分離装置5のオーバーフロー槽10との間で脱脂液が流通可能に切替えられる。また、ライン非稼動時、第1切替え弁16は、捕捉分離装置7と第2切替え弁17の入口側ポートとの間で脱脂液が流通可能に切替えられると共に、第2切替え弁17は、その入口側ポートとつながる第1切替え弁16の出口側ポートとオーバーフロー槽10との間で脱脂液が流通可能に切替えられる。
【0035】
このような構成とすることで、ライン稼動時には、車体2に向けて常に清浄な脱脂液L1を継続して供給することができ、脱脂作用が向上される。ひいては、この後の工程に係る電着塗装工程における塗装品質の向上にもつながる。一方、ライン非稼動時には、異物の混入がない一定量の脱脂液に対して上記一連の異物除去処理を繰り返し実施することになるため、当該除去処理に係る脱脂液を高精度に洗浄することができる。また、比較的清浄度の高い脱脂液を繰り返し循環流動させることで、結果的に上記複数の異物除去装置の自動メンテナンスにもなる。
【0036】
また、上記脱脂工程を常に含む2以上の循環系統を備えた構成とすることも可能である。すなわち、例えば、図2でいえば、第1切替え弁16と第2切替え弁17との間に、図示は省略するが、別形態の異物除去装置を設けて、例えば、ライン上を流れる車体2の種類に応じて、図1や図2に示す一連の異物除去装置(ろ過分離装置5,吸着分離装置6,捕捉分離装置7)を通る循環系統と、上記別形態の異物除去装置を通る循環系統とを切替えて使用するように構成してもよい。この場合、別形態の異物除去装置は、単数もしくは複数とを問わず、また、本発明に開示の異物除去装置(ろ過分離装置5,吸着分離装置6,捕捉分離装置7)の一部あるいは全部を有するものであってもよい。この場合、例えばろ過面11の目の細かさやマグネットローラの磁力ならびに回転速度、バグフィルタの目の細かさ等を適宜調整することで、複数種類の車体に対応することができる。
【0037】
また、上記実施形態では、異物除去装置の組合せとして、第1段階にろ過分離装置5、第2段階に捕捉分離装置7、および、第1と第2との中間段階に吸着分離装置6をそれぞれ配置した場合を例示したが、もちろん、この組合せに限る必要はない。第1段階の異物除去工程にろ過分離装置5を有し、このろ過分離装置5で脱脂液に含まれる異物のうち相対的に大きな異物を分離除去すると共に、第2除去工程以降で、第1除去工程で除去されずに残った相対的に小さな異物を分離除去できるように構成される限りにおいて、その組合せは任意である。例えば、ろ過分離装置5とバグフィルタを備えた捕捉分離装置7のみで上記循環利用システムに係る異物除去工程を実施するよう構成してもよいし、吸着分離装置6が上記相対的に小さな異物を分離除去可能であれば、ろ過分離装置5と吸着分離装置6のみで上記異物除去工程を実施するよう構成してもよい。あるいは、吸着分離装置6と捕捉分離装置7の一方または双方に代えて、他の異物除去装置を配置し、これとろ過分離装置5とで異物除去工程の実施を図るようにしてもよいことはもちろんである。
【0038】
また、上記実施形態では、処理液循環利用システムが、車体2の脱脂工程を含む循環系統を構成している場合を例示したが、溶接工程の前に行われる処理工程であって、脱脂液を処理液として使用可能な工程、例えば洗浄処理工程などであれば本発明に係るシステムを適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態に係る処理液循環利用システムの全体構成を概念的に示す図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る処理液循環利用システムの全体構成を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1,21 処理液循環利用システム
2 車体
3 脱脂液供給手段
4 回収槽
5 ろ過分離装置
6 吸着分離装置
7 捕捉分離装置
10 オーバーフロー槽
11 ろ過面
12 ウェッジワイヤ
13a,13b 異物
14 マグネットローラ
16,17 切替え弁
L1,L2,L3,L4 脱脂液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装工程の前に行われる処理工程で車体に供給された処理液を回収すると共に、該回収した前記処理液に含まれる異物を除去し、然る後、該異物を除去した前記処理液を回収先の前記処理工程で再利用する処理液循環利用システムにおいて、
前記循環利用すべき処理液に脱脂液が用いられ、
前記異物を除去するために少なくとも2段階の異物除去工程を有し、該第1除去工程には、平滑なろ過面を水平方向に対して傾斜させて配置したろ過分離装置が設けられ、
前記第1除去工程では、前記異物のうち相対的に大きな異物を分離除去し、前記第2除去工程では、前記第1除去工程で除去されずに残った相対的に小さな異物を分離除去するように構成されている処理液循環利用システム。
【請求項2】
前記第2除去工程には、前記第1除去工程で除去されずに残った異物を捕捉して前記脱脂液から分離する捕捉分離装置が設けられている請求項1に記載の処理液循環利用システム。
【請求項3】
前記処理工程を実施しない場合、前記異物除去工程を終了した前記脱脂液が、回収先の前記処理工程に再利用されることなく前記第1除去工程へ循環供給されるように構成されている請求項1又2に記載の処理液循環利用システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−242818(P2009−242818A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87519(P2008−87519)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】