説明

処理炉

【課題】セレン化または硫化用高圧炉を提供する。
【解決手段】処理炉(100)は、第一チャンバー(110)と、第一チャンバー(110)を内部に収納する第二チャンバー(120)と、第一チャンバー(110)にセレン化用ガスを供給する処理ガス供給源(130)と、第一チャンバー(110)の内部を加熱する加熱装置(140)と、第一チャンバー(110)の内圧及び第二チャンバー(120)の内圧並びに第一チャンバー(110)の内部の温度を制御する制御装置(150)と、からなり、制御装置(150)は第二チャンバー(120)の内圧を第一チャンバー(110)の内圧よりも高く維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物のセレン化または硫化に適した処理炉に関し、特に、例えば、CIGS太陽電池の一構成要素であるCIGS光吸収層のセレン化に適した処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、枯渇しつつある原油の代替エネルギー源として、無尽蔵のエネルギー源である太陽発電への期待が高まっている。太陽発電は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する装置としての太陽電池により実現され、太陽電池の開発が活発化している。
太陽電池はその構造に応じて数種類に分類されるが、Cu(In1-x,Gax)Se2(CIGS)薄膜を用いたCIGS太陽電池が薄膜太陽電池の中でも最も変換効率が高いとされている。Cu(In1-x,Gax)Se2(CIGS)はCuInSe2のInサイトをGaで置換した混晶半導体である。
【0003】
図4はCIGS太陽電池の基本構造を示す断面図である。
CIGS太陽電池1500は、ソーダライムガラスからなる基板1501(例えば、厚さ1−4mm)と、基板1501の上に形成されたMo裏面電極1502(例えば、厚さ約1.0μm)と、Mo裏面電極1502上に形成されたCIGS光吸収層1503(例えば、厚さ約2.0μm)と、CIGS光吸収層1503上に形成された溶液成長(CBD:Chemical Bath Deposition)−CdSバッファ層1504(例えば、厚さ50−100nm)と、CBD−CdSバッファ層1504上に形成されたZnO高抵抗バッファ層1505(例えば、厚さ10−100nm)と、ZnO高抵抗バッファ層1505上に形成されたZnO透明導電膜1506(例えば、厚さ約0.6μm)と、ZnO透明導電膜1506上に形成されたMgF2反射防止膜1507と、Mo裏面電極1502上に形成された陽極1508と、ZnO透明導電膜1506上に形成された陰極1509と、からなる積層構造として構成されている(非特許文献1参照)。
【0004】
CIGS太陽電池1500を構成するこれらの層のうち、CIGS光吸収層1503は、スパッタリングにより形成されたCu−In−Ga層にセレン化水素(H2Se)をアニーリング(例えば、摂氏550度で)し、Cu−In−Ga層の内部にセレン(Se)を拡散させることにより形成される。これまでにCIGS太陽電池1500のCIGS光吸収層1503をセレン化するためのセレン化炉は開示されていないが、CIS系薄膜太陽電池の光吸収層の製造方法が特開2009−135299号公報(特許文献1)に開示されている。
【0005】
図5は同公報に記載されているセレン化炉の断面図である。
図5に示したセレン化炉1600はほぼ直方体形状をなしており、上下面にはセレン化炉16100の内部を加熱するためのヒーター1610が配置されている。
セレン化炉1600の内部にはセレン化対象物1700が置かれる。セレン化対象物1700は、ガラス基板1701と、ガラス基板1701上に形成された金属裏面電極層1702と、金属裏面電極層1702上に形成された金属プリカーサ膜1703と、から構成されている。セレン化炉1600の内部にセレン源(例えば、セレン化水素(H2Se)ガス)を注入し、ヒーター1610によりセレン化炉1600の内部を加熱することにより、セレン源に含まれるセレンが金属プリカーサ膜1703の内部に拡散し、金属プリカーサ膜1703がCIS系光吸収層になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「CIGS太陽電池の基礎技術」中田時夫著、2010年9月発行、日刊工業新聞社
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−135299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記公報にはセレン化を実施する際の圧力は明記されていないが、通常は、常圧または常圧以下の減圧の下でセレン化が実施される。これは、セレン源としてはセレン化水素(H2Se)が用いられることが多いが、セレン化水素自身が極めて高い毒性をもち、さらに、酸化性の強い雰囲気中で爆発の危険性があるためである。
しかしながら、光吸収層のセレン化に際しては、常圧または減圧下でセレン化を実施する場合と比較して、高圧下でセレン化を実施する方が、雰囲気温度が均一になり、さらに、セレン化の効率を大面積で格段に大きくすることができる。
これに対して、現状では、高圧下でセレン化を実施することが可能なセレン化炉は未だに提案されていない。この点は硫化炉についても同様である。
【0009】
本発明は、このような従来のセレン化炉における問題点に鑑みてなされたものであり、高圧下における対象物のセレン化または硫化を実施することが可能な処理炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明は、少なくとも1個の第一チャンバーと、前記第一チャンバーの外側に位置し、前記第一チャンバーを内部に収納する第二チャンバーと、前記第一チャンバーの内部にセレン化または硫化用ガスを含む処理ガスを供給する処理ガス供給源と、前記第一チャンバーの内部を加熱する加熱装置と、前記第一チャンバーの内圧及び前記第二チャンバーの内圧並びに前記第一チャンバーの内部の温度を制御する制御装置と、からなり、前記第一チャンバー内に処理対象物を収納する処理炉であって、前記制御装置は前記第二チャンバーの内圧が前記第一チャンバーの内圧よりも高く維持されるように前記第一チャンバーの内圧及び前記第二チャンバーの内圧を制御するものである処理炉を提供する。
【0011】
本発明に係る処理炉においては、前記制御装置は前記第一チャンバーの内圧と前記第二チャンバーの内圧との間の差が1[kg/cm2]以下になるように前記第一チャンバーの内圧及び前記第二チャンバーの内圧を制御することが好ましい。
【0012】
本発明に係る処理炉においては、前記第一チャンバーは前記第二チャンバーの内部に浮遊した状態で配置されていることが好ましい。
本発明に係る処理炉においては、前記第一チャンバーは、例えば、石英からつくられる。
【0013】
本発明に係る処理炉においては、前記第一チャンバー及び前記第二チャンバーは縦型二重構造であり、前記処理対象物は前記第一チャンバーの内部において鉛直方向に配列されるものであることが好ましい。
【0014】
本発明に係る処理炉においては、前記第一チャンバー及び前記第二チャンバーは横型二重構造であり、前記処理対象物は前記第一チャンバーの内部において水平方向に配列されるものであることが好ましい。
【0015】
本発明に係る処理炉においては、前記第一チャンバー及び前記第二チャンバーの少なくとも前記第一チャンバーには開閉可能な扉が設けられており、前記第一チャンバー及び前記第二チャンバーのガス供給ポート及びガス排気ポートは前記扉以外の箇所に設けられていることが好ましい。
【0016】
本発明に係る処理炉においては、複数個の前記第一チャンバーが前記第二チャンバーの内部に相互に隣接して配置されており、前記第一チャンバーの各々にはその両端において開閉可能な扉が設けられており、前記第一チャンバーの各々のガス供給ポート及びガス排気ポートは前記扉以外の箇所に設けられていることが好ましい。
【0017】
本発明に係る処理炉は、前記第一チャンバーの内部の処理ガスの密度を検出する第一ガス密度センサー及び前記第二チャンバーの内部の処理ガスの密度を検出する第二ガス密度センサーをさらに備えることができる。この場合、前記制御装置は、前記第一チャンバー及び前記第二チャンバーの内部に流入する前記処理ガスの流量を調整することにより、前記第一チャンバー及び前記第二チャンバーの内部の処理ガスの密度を制御し、もって、前記第一チャンバー及び前記第二チャンバーの内部の圧力を制御する。
【0018】
本発明に係る処理炉においては、前記制御装置は、前記第一チャンバーの内部のガス密度と前記第二チャンバーの内部のガス密度との差が6.037[kg/m3]以下になるように前記第一チャンバーの内圧及び前記第二チャンバーの内圧を制御することが好ましい。
【0019】
本発明に係る処理炉は、前記第一チャンバーから排気される処理ガスが導入される液化装置をさらに備えることができる。この場合、前記液化装置は前記処理ガスに含まれるセレン化水素(H2Se)を液化する。
本発明に係る処理炉においては、前記処理対象物として、例えば、CIGS太陽電池のCIGS光吸収層を選択することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る処理炉によれば、第一チャンバーの内圧を高圧に維持することが可能になり、処理対象物のセレン化または硫化の効率を飛躍的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る処理炉の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の第二の実施形態に係る処理炉の平面図である。
【図3】本発明の第三の実施形態に係る処理炉の部分的な概略図である。
【図4】CIGS太陽電池の基本構造を示す断面図である。
【図5】従来のセレン化炉の断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第一の実施形態)
図1は、本発明の第一の実施形態に係る処理炉100の構造を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る処理炉100は、第一チャンバー110と、第二チャンバー120と、処理ガス供給源130と、加熱装置140と、制御装置150と、から構成されている。
【0023】
第一チャンバー110は円筒形状をなし、上方は半球形状をなしている。第一チャンバー110は石英でつくられている。石英は二酸化珪素(SiO2)が結晶化した鉱物である。第一チャンバー110の底面は開口しており、この開口面は底板111により覆われている。第一チャンバー110の内部にセレン化を行う処理対象物250(例えば、CIGS太陽電池のCIGS光吸収層を形成する基板)が置かれる。本実施形態に係る処理炉100においては、図1に示すように、処理対象物250は上下方向(鉛直方向)に並べて配置される。第一チャンバー110はガス供給ポート112及びガス排気ポート113を有している。
【0024】
第二チャンバー120は第一チャンバー110と相似形状をなしており、かつ、第一チャンバー110よりも大きいサイズを有している。第二チャンバー120は第一チャンバー110の外側に位置し、第一チャンバー110の全体をその内部に収納している。
第二チャンバー120は耐酸化性を有する素材でつくられる。第二チャンバー120は、例えば、鋼鉄でつくられる。第一チャンバー110と同様に、第二チャンバー120の底面は開口しており、この開口面は底板121により覆われている。第一チャンバー110と同様に、第二チャンバー120はガス供給ポート122及びガス排気ポート123を有している。
【0025】
図1に示されるように、第一チャンバー110は第二チャンバー120の中央付近に配置されている。すなわち、第一チャンバー110の底板111は第二チャンバー120の底板121よりも高い位置に維持されており、第一チャンバー110は第二チャンバー120の内部において浮遊した状態にある。
【0026】
処理ガス供給源130は、窒素(N2)を充填している第一タンク131と、セレン化水素(H2Se)を充填している第二タンク132と、硫化水素(H2S)を充填している第三タンク133と、アルゴン(Ar)を充填している第四タンク134と、から構成されている。これらのガスは第一流量調整バルブ161を経て第一チャンバー110の内部に送られ、あるいは、第二流量調整バルブ162を経て第二チャンバー120の内部に送られる。
また、第一チャンバー110の内部の処理ガスは第一排出バルブ163を介して外部に排気され、第二チャンバー120の内部の処理ガスは第二排出バルブ164を介して外部に排気される。
【0027】
加熱装置140は第一チャンバー110の外部において第一チャンバー110の周囲に配置され、第一チャンバー110(正確には、第一チャンバー110の内部に導入された処理ガス及び処理対象物250)を加熱する。第一チャンバー110の周囲はフード141で覆われており、加熱装置140はフード141の内部に配置されている。フード141は加熱装置140から発生した熱を周囲に拡散させない機能を有している。
【0028】
制御装置150は、第一チャンバー110の内圧、第二チャンバー120(正確には、第二チャンバー120の内部であって、かつ、第一チャンバー110の外部)の内圧、第一チャンバー110の内部の温度を制御する。具体的には、制御装置150は以下のようにして上記の制御を実施する。第一チャンバー110の内壁には温度センサー171が取り付けられており、温度センサー171は第一チャンバー110の内部温度を検出し、検出した内部温度を示す信号を制御装置150に送信する。
【0029】
制御装置150は、この信号を受信すると、その信号により示された第一チャンバー110の内部温度に応じて、ヒーター140の運転状況を制御する。例えば、信号により示された第一チャンバー110の内部温度が予め設定された温度よりも低ければ、制御装置150はヒーター140の温度を上昇させ、あるいは、信号により示された第一チャンバー110の内部温度が予め設定された温度よりも高ければ、制御装置150はヒーター140の温度を下降させる。
【0030】
また、第一チャンバー110の内壁には圧力センサー172が取り付けられており、圧力センサー172は第一チャンバー110の内部圧力を検出し、検出した内部圧力を示す信号を制御装置150に送信する。
【0031】
制御装置150は、この信号を受信すると、その信号により示された第一チャンバー110の内部圧力に応じて、第一流量調整バルブ161の開度を制御する。例えば、信号により示された第一チャンバー110の内部圧力が予め設定された圧力よりも低ければ、制御装置150は第一流量調整バルブ161の開度を大きくし、あるいは、信号により示された第一チャンバー110の内部圧力が予め設定された圧力よりも高ければ、制御装置150は第一流量調整バルブ161の開度を小さくする。第二チャンバー120の内壁には圧力センサー173が取り付けられており、圧力センサー173は第二チャンバー120の内部圧力を検出し、検出した内部圧力を示す信号を制御装置150に送信する。
【0032】
制御装置150は、この信号を受信すると、その信号により示された第二チャンバー120の内部圧力に応じて、第二流量調整バルブ162の開度を制御する。例えば、信号により示された第二チャンバー120の内部圧力が予め設定された圧力よりも低ければ、制御装置150は第二流量調整バルブ162の開度を大きくし、あるいは、信号により示された第二チャンバー120の内部圧力が予め設定された圧力よりも高ければ、制御装置150は第二流量調整バルブ162の開度を小さくする。
【0033】
さらに、制御装置150は第二チャンバー120(正確には、第二チャンバー120の内部であって、かつ、第一チャンバー110の外部)の内圧が第一チャンバー110の内圧よりも高く維持されるように第一チャンバー110の内圧及び第二チャンバー120の内圧を制御する。本実施形態に係る処理炉100においては、制御装置150は、第一チャンバー110の内圧と第二チャンバー120の内圧との間の差が1[kg/cm3]以下になるように制御する。
【0034】
以上のような構造を有する本実施形態に係る処理炉100は次のように作動する。
まず、処理対象物250を第一チャンバー110の内部に載置する。
次いで、第一チャンバー110及び第二チャンバー120を外気に対して密閉した後、制御装置150は第一流量調整バルブ161及び第二流量調整バルブ162を介して第一チャンバー110及び第二チャンバー120の内部にそれぞれ処理ガスの導入を開始する。具体的には、処理対象物250をセレン化する場合には、第一チャンバー110の内部には第一タンク131から窒素、第二タンク132からセレン化水素(H2Se)、第四タンク134からアルゴンが導入され、第二チャンバー120の内部には第一タンク131から窒素が導入される。
【0035】
制御装置150は、圧力センサー172、173からの信号により、第一チャンバー110及び第二チャンバー120の内圧が所定の圧力に到達したことを確認すると、ヒーター140を作動させる。ヒーター140により第一チャンバー110の内部の処理対象物250及び処理ガスが加熱されることにより、処理対象物250がセレン化水素(H2Se)によりセレン化される。
【0036】
処理対象物250がセレン化されている間において、制御装置150は第二チャンバー120の内圧が第一チャンバー110の内圧よりも高く、かつ、その差が1[kg/cm2]以下になるように制御する。これは、第一チャンバー110を構成する石英の耐圧が最大1[kg/cm2]であるためである。
【0037】
このように、両チャンバー110、120の内圧差を制御することにより、第一チャンバー110の内圧を高圧に維持することが可能になる。
すなわち、第一チャンバー110の外側の圧力の方が第一チャンバー110の内圧よりも常に高く維持される。このため、第一チャンバー110の内圧を高圧にしても、第一チャンバー110には第一チャンバー110の外側の圧力が作用し、第一チャンバー110の内圧を高圧に維持することが可能になる。
【0038】
第一チャンバー110の内圧を高圧に維持することにより、雰囲気の温度が均一になり、処理対象物250のセレン化の効率を大面積の下で飛躍的に向上させることができる。処理対象物250のセレン化が終了した後は、制御装置150は第一排出バルブ163及び第二排出バルブ164を開き、第一チャンバー110及び第二チャンバー120の内部の処理ガスを排気する。この後、第一チャンバー110からセレン化された処理対象物250を取り出すことができる。
以上により、セレン化の1サイクルが終了する。以後、同様に、セレン化のサイクルを繰り返すことができる。
【0039】
以上のように、本実施形態に係る処理炉100によれば、第一チャンバー110の内圧を高圧に維持することが可能になり、雰囲気の温度が均一になり、処理対象物250のセレン化の効率を大面積の下で飛躍的に向上させることができる。
【0040】
本実施形態に係る処理炉100は上記の構造に限定されるものではなく、種々の改変を加えることが可能である。例えば、本実施形態に係る処理炉100においては、第一チャンバー110は第二チャンバー120の内部において浮遊した状態に配置されているが、例えば、第一チャンバー110の底板111を第二チャンバー120の底板121の上に載置するようにして第一チャンバー110を配置することも可能である。ただし、本実施形態のように、第一チャンバー110を第二チャンバー120の内部において浮遊させた状態に維持することにより、第二チャンバー120の内部の圧力が第一チャンバー110の外壁全体に対して均等に作用するので、第一チャンバー110の内圧を高圧に維持するためには好ましい。
【0041】
本実施形態に係る処理炉100においては、第一チャンバー110は石英でつくられているが、石英に代えて、例えば、カーボン(C)または炭化珪素(SiC)を用いることも可能である。ただし、石英を用いることにより、第一チャンバー110の内部に、第一チャンバー110を構成する金属の金属原子が飛散することを防止することができるので好ましい。
【0042】
また、本実施形態に係る処理炉100においては、処理対象物250としては、CIGS太陽電池のCIGS光吸収層を形成する基板の他に、セレン化または硫化を必要とする任意の物を選定することができる。
【0043】
また、本実施形態に係る処理炉100は、第一チャンバー110の内部圧力を検出する圧力センサー172を備えていたが、圧力センサー172に代えて、第一チャンバー110の内部の処理ガスの密度を検出する第一ガス密度センサー及び第二チャンバー120の内部の処理ガスの密度を検出する第二ガス密度センサーを設けることも可能である。
【0044】
第一ガス密度センサーは、第一チャンバー110の内部の処理ガス(セレン化水素(H2Se)及び水素(H2))の密度[kg/m3]を検出し、検出した密度を示す信号を制御装置150に送信する。同様に、第二ガス密度センサーは、第二チャンバー120の内部の処理ガス(窒素(N2))の密度[kg/m3]を検出し、検出した密度を示す信号を制御装置150に送信する。
【0045】
制御装置150は、これらの信号に応じて、第一チャンバー110及び第二チャンバー120の内部に流入する処理ガスの流量及び第一チャンバー110及び第二チャンバー120から排気される処理ガスの排気量を調整することにより、第一チャンバー110及び第二チャンバー120の内部の処理ガスの密度を制御し、これにより、間接的に第一チャンバー110及び第二チャンバー120の内部の圧力を制御する。この場合、制御装置150は、第一チャンバー110の内部の処理ガス密度と第二チャンバー120の内部の処理ガス密度との差が6.037[kg/m3]以下(25℃換算)になるように第一チャンバー110の内圧及び第二チャンバー120の内圧を制御する。
【0046】
本実施形態に係る処理炉100においては、セレン化水素(H2Se)を希釈することなく用いているが、セレン化水素(H2Se)を水素(H2)または窒素(N2)で希釈して用いることも可能である。
【0047】
また、本実施形態に係る処理炉100は処理対象物250をセレン化するセレン化炉として構成されているが、処理ガスとしてセレン化水素(H2Se)に代えて硫化水素(H2S)を用いることにより、処理対象物250を硫化することも可能である。すなわち、本実施形態に係る処理炉100を硫化炉として用いることも可能である。処理対象物250を硫化する場合には、第二タンク132から第一チャンバー110にセレン化水素(H2Se)を導入することに代えて、第三タンク133から第一チャンバー110に硫化水素(H2S)が導入される。
【0048】
また、第一チャンバー110及び第二チャンバー120の形状は本実施形態において示した形状に限定されるものではない。第一チャンバー110が第二チャンバー120の内部に収容されるものである限りにおいて、第一チャンバー110及び第二チャンバー120は任意の形状を採用し得る。
【0049】
また、本実施形態に係る処理炉100においては、第二チャンバー120の内部には1個の第一チャンバー110が配置されているが、第二チャンバー120の内部に配置する第一チャンバー110の個数は1には限定されない。2以上の第一チャンバー110を第二チャンバー120の内部に配置することが可能である。
【0050】
(第二の実施形態)
上述の第一の実施形態に係る処理炉100においては、第一チャンバー110及び第二チャンバー120は縦型二重構造をなしているが、第一チャンバー及び第二チャンバーを横型二重構造とすることも可能である。図2は、本発明の第二の実施形態に係る処理炉200を上方から見た場合の平面図である。
【0051】
本実施形態に係る処理炉200は、第一の実施形態に係る処理炉100と比較して、第一チャンバー110及び第二チャンバー120に代えて、第一チャンバー210及び第二チャンバー220を有する点以外は第一の実施形態に係る処理炉100と同一の構造を有している。このため、第一の実施形態に係る処理炉100と同一の構成要素に対しては同一の符号を用いる。
【0052】
図2に示すように、本実施形態に係る処理炉200は横型二重構造を有している。
第一チャンバー210を横長に形成することにより、処理対象物250は第一チャンバー210の内部において水平面内において二次元的に配列される(図2においては、処理対象物250は横一列に配置されているが、縦横方向に配置することが可能である)。処理対象物250として、CIGS太陽電池のCIGS光吸収層を形成する基板を選定した場合、基板の寸法は、例えば、1250×600×1.8mmである。第一チャンバー110を構成する石英管の直径には製造限界があるため、第一チャンバー110の内部に所望の枚数の基板を載置するためには、第一チャンバー110を高くすることが必要となり、その場合には、第一チャンバー210の高さは5m以上となる。第一チャンバー110がこのように高くなると、第一チャンバー110のメインテナンス、処理対象物250の配置(上下方向における配置)作業に少なからず支障が出る。
【0053】
これに対して、図2に示すように、処理炉200を横型二重構造とすることにより、縦型二重構造におけるこれらの支障を解消することが可能である。横型二重構造では、例えば、両端及び上面の一方または双方に開閉可能の扉を設けることにより、第一チャンバー210のメインテナンス及び処理対象物250の配置を行いやすくすることが可能である。
【0054】
また、第一の実施形態の場合と同様に、複数個の第一チャンバー210を第二チャンバー220の内部に配置することが可能である。この場合、複数個の第一チャンバー210を相互に隣接して配置し、例えば、横方向に直列に接続させ、各第一チャンバー210の両端に開閉可能な扉を設けることにより、各第一チャンバー210間において処理対象物250を機械的に移動させることも可能になり、第一チャンバー210の設計の自由度あるいは処理対象物250の処理方法の自由度を向上させることができる。さらに、ガス供給ポート112、122及びガス排気ポート113、123を開閉用の扉以外の箇所に設けることにより、扉の開閉の自由度を改善することができる。
【0055】
(第三の実施形態)
図3は、本発明の第三の実施形態に係る処理炉300の部分的な概略図である。
本実施形態に係る処理炉300は、第一の実施形態に係る処理炉100と比較して、第一チャンバー110から排気される処理ガスが導入される液化装置310を追加的に備えている。この点を除いて、本実施形態に係る処理炉300は第一の実施形態に係る処理炉100と同様の構造を有している。
【0056】
液化装置310は処理ガスに含まれるセレン化水素(H2Se)のみを液化して排出する機能を有している。第一チャンバー110からは窒素(N2)、セレン化水素(H2Se)、硫化水素(H2S)及びアルゴン(Ar)が排出される。これらのガスのうち、セレン化水素(H2Se)の液化温度が最も高く、摂氏マイナス63度で液化する。このため、液化装置310は第一チャンバー110から排気された処理ガスを摂氏マイナス63度まで冷却することにより、セレン化水素(H2Se)のみを液化させることができ、ひいては、セレン化水素(H2Se)を液化した状態で回収することができる。
【0057】
このように本実施形態に係る処理炉300によれば、使用したセレン化水素(H2Se)を回収するリサイクルシステムを構築することができる。
【符号の説明】
【0058】
100 本発明の第一の実施形態に係る処理炉
110 第一チャンバー
120 第二チャンバー
130 処理ガス供給源
131 第一タンク
132 第二タンク
133 第三タンク
134 第四タンク
140 加熱装置
141 フード
150 制御装置
161 第一流量調整バルブ
162 第二流量調整バルブ
163 第一排出バルブ
164 第二排出バルブ
171 温度センサー
172 圧力センサー
173 圧力センサー
200 本発明の第二の実施形態に係る処理炉
210 第一チャンバー
220 第二チャンバー
250 処理対象物
300 本発明の第三の実施形態に係る処理炉
310 液化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個の第一チャンバーと、
前記第一チャンバーの外側に位置し、前記第一チャンバーを内部に収納する第二チャンバーと、
前記第一チャンバーの内部にセレン化または硫化用ガスを含む処理ガスを供給する処理ガス供給源と、
前記第一チャンバーの内部を加熱する加熱装置と、
前記第一チャンバーの内圧及び前記第二チャンバーの内圧並びに前記第一チャンバーの内部の温度を制御する制御装置と、
からなり、
前記第一チャンバー内に処理対象物を収納する処理炉であって、
前記制御装置は前記第二チャンバーの内圧が前記第一チャンバーの内圧よりも高く維持されるように前記第一チャンバーの内圧及び前記第二チャンバーの内圧を制御するものである処理炉。
【請求項2】
前記制御装置は前記第一チャンバーの内圧と前記第二チャンバーの内圧との間の差が1[kg/cm2]以下になるように前記第一チャンバーの内圧及び前記第二チャンバーの内圧を制御することを特徴とする請求項1に記載の処理炉。
【請求項3】
前記第一チャンバーは前記第二チャンバーの内部に浮遊した状態で配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の処理炉。
【請求項4】
前記第一チャンバーは石英からなるものであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の処理炉。
【請求項5】
前記第一チャンバー及び前記第二チャンバーは縦型二重構造であり、
前記処理対象物は前記第一チャンバーの内部において鉛直方向に配列されるものであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の処理炉。
【請求項6】
前記第一チャンバー及び前記第二チャンバーは横型二重構造であり、
前記処理対象物は前記第一チャンバーの内部において水平方向に配列されるものであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の処理炉。
【請求項7】
前記第一チャンバー及び前記第二チャンバーの少なくとも前記第一チャンバーには開閉可能な扉が設けられており、
前記第一チャンバー及び前記第二チャンバーのガス供給ポート及びガス排気ポートは前記扉以外の箇所に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の処理炉。
【請求項8】
複数個の前記第一チャンバーが前記第二チャンバーの内部に相互に隣接して配置されており、
前記第一チャンバーの各々にはその両端において開閉可能な扉が設けられており、
前記第一チャンバーの各々のガス供給ポート及びガス排気ポートは前記扉以外の箇所に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の処理炉。
【請求項9】
前記第一チャンバーの内部の処理ガスの密度を検出する第一ガス密度センサー及び前記第二チャンバーの内部の処理ガスの密度を検出する第二ガス密度センサーをさらに備えており、
前記制御装置は、前記第一チャンバー及び前記第二チャンバーの内部に流入する前記処理ガスの流量を調整することにより、前記第一チャンバー及び前記第二チャンバーの内部の処理ガスの密度を制御し、もって、前記第一チャンバー及び前記第二チャンバーの内部の圧力を制御することを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項に記載の処理炉。
【請求項10】
前記制御装置は、前記第一チャンバーの内部のガス密度と前記第二チャンバーの内部のガス密度との差が6.037[kg/m3]以下になるように前記第一チャンバーの内圧及び前記第二チャンバーの内圧を制御することを特徴とする請求項9に記載の処理炉。
【請求項11】
前記第一チャンバーから排気される処理ガスが導入される液化装置をさらに備えており、前記液化装置は前記処理ガスに含まれるセレン化水素(H2Se)を液化するものであることを特徴とする請求項1乃至10の何れか一項に記載の処理炉。
【請求項12】
前記処理対象物はCIGS太陽電池のCIGS光吸収層であることを特徴とする請求項1乃至11の何れか一項に記載の処理炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−105910(P2013−105910A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248976(P2011−248976)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(511078233)コアテクノロジー株式会社 (5)
【Fターム(参考)】