説明

出穂前に収穫されたエンバク地上部の抽出物

本発明は、穀粒を除くエンバク地上部抽出物、その製造方法およびその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、有利には出穂前に収穫されたエンバク地上部の抽出物および炎症性皮膚病を処置するためのその使用に関する。
【0002】
エンバク(Oat)、すなわち、Avena sativa L.は、1m50cmの高さになる1年生植物である。発芽すると、幼植物は芝のように生長し、その後、特定の草姿を有する数本の茎を出す。この茎または株は直径数ミリメートルの中空で、ところどころ葉が挿入されている場所で節と呼ばれる完全な隔壁で仕切られている。節と節の間の空間は茎の基部では一番狭く、だんだん長くなる。
【0003】
葉は互生し、二列生で、鈍い青緑色であり、上の節間空間のほぼ全体を覆う手前に切れ込みがある葉鞘を介して、茎の節の部分に挿入されている。葉身はそれから直角に離れている。葉身は広く、リボン状で、多くの平行葉脈で覆われており(単子葉植物(rectinerves))、通常柔毛がある。葉身の葉鞘が分離しているところでは、茎と葉身の間に、葉舌と呼ばれる、短く、末端が切り取られたような薄い膜の延長部が見られる。
【0004】
茎の先には、極めてルーズなピラミッド型の、あらゆる方向に広がった大きな枝梗を持ち、その総ての分枝の先に、総てのイネ科で不変の、小穂と呼ばれる構造を持つ。小穂は垂れ下がり、比較的大きく、2個の花だけを含む。小穂は包葉の軸にではなく、その挿入部から少し離れた部分に着生し、穎と呼ばれる対生する特定の包葉を有する。
【0005】
エンバクの穎は大きく、長さ2cmに達し、小穂を完全に包み、披針形であり、7〜9本の葉脈があり、柔毛に覆われている。これらの穎は小さく、外穎は端部にねじれがあり、頂端に挿入されているのではなく、小穂を1センチメートルより長く超える後部に挿入されている。
【0006】
穎のすぐ上で、花軸は、ほとんど見えないが、穎と細かくは実際の花、の2つの小さな部分を有し、この花は3つの雄蘂と3つの心皮に分解される。雄蘂、最初は実質的に無柄であり、その後、開花時に急に長くなって本体が見え、葯が伸出して、小穂から垂れ下がる。葯はもっぱらそれらの中央領域で本体に挿入されており、ここから中央着生(medifixed)葯および振動葯(oscillating anthers)の名がある。3つの心皮は、極めて広がった羽毛状の変形小葉に分かれる様式で単子房を形成している。これらの特徴は総て風媒受粉に対応している。子房は1つだけであり、倒生であり、子房腔の底部に直立している。
【0007】
種実は、外下皮が果皮と密着している特定のタイプの痩果である。この種実は穎果(caryopsis)と呼ばれる。これは細長く、先が細くなっており、柔毛があり、豊富なデンプン性アルブミンを有する穀粒(grain)である。胚は、茎頂部(tigella)をほぼ完全に取り囲み、それとアルブミンを隔てているよく発達した子葉を有する。胚全体はかたわらへ押しやられている。
【0008】
エンバクの種実は、その安定作用(ballast effect)のために緩下薬として、また、そのβ−グルカン含量のためにコレステロール血症または2型糖尿病の場合にも経口経路の医薬原料として認識されている。局所経路で、エンバク種実は主としてミールとして用いられ、エンバクコロイド抽出物と呼ばれるその品質については米国薬局方USP22、1990にモノグラフがある。このコロイド抽出物は保湿特性および軟化特性を有し、製粉および全粒のその他の処理から得られる粉末として定義され、従ってこの品質はオートミールに相当する。モノグラフでは、粘度標準値、微生物の制限値、乾燥損失、粒径ならびに配分、脂質および窒素含量を設定している。
【0009】
この同じエンバク部分から、美容に用いられるオイルおよびタンパク質も抽出することができる。後者は不溶性であり、そのままでは用いられないが、酵素的または化学的加水分解後であれば用いられる。多少手の込んだ加水分解物も作られ、それを用いれば、種々の分子量を有するエンバクペプチド、または加水分解力によってはアミノ酸のいずれかを得ることができる。加水分解されたエンバクタンパク質は、化粧品分野および皮膚科分野でそれらの特性が調べられている。このように、これらのペプチドが持っている毛幹にフィルムを形成する能力、キューティクルに浸透する能力および従って結果としての被覆する効果によるもの、コンディショニング効果を提供する能力など、その特性が毛髪において証明された。
【0010】
細胞培養に対してin vitroで行う研究を用い、エンバクコロイド抽出物の抗炎症活性を評価することができた。よって、この抽出物は、アラキドン酸およびエイコサノイドの皮膚代謝に対する、また、ヒトケラチノサイト系統におけるサイトゾルホスホリパーゼA2およびシクロオキシゲナーゼの発現に対する阻害活性、ならびに抗炎症性サイトカインTGFβ1の誘導活性を示した。IL、IL、IL、IL13などの免疫性細胞のサイトカインTh1およびTh2もまた同じコロイド抽出物により制御される。最後に、臨床試験で、二重盲検皮膚刺激モデルとしての皮膚刺激モデルおよび12人の健康なボランティアにおけるエンバクコロイド抽出物の利益を示す。
【0011】
穀粒の外面部分はコレステロールレベルおよび心血管リスクを軽減するための食事療法のエンバク繊維中に用いられるグルカンを提供する。
【0012】
エンバクのグルカンはまた、食品添加物としてそれらの増粘およびゲル化特性に関して検討された。
【0013】
また、エンバクから抽出されたグルカンは免疫刺激活性を有する。
【0014】
UVの有害作用に対する保護、細胞代謝の刺激、コラーゲン合成の刺激、および毛髪の引張抵抗性の改善など、化粧品分野で価値をもたらす他の活性も実証されている。
【0015】
穀粒の他、エンバクは飼料植物としても用いられる。若い時に刈り取れば、青刈飼料として用いられる。藁はそのままウマ、ウシおよびヒツジに用いられるが、ヒトの食物には用いられない。従来の医療では、エンバクの藁は、リウマチ疼痛、坐骨神経痛および肝臓障害を鎮静するための入浴剤を調製するために用いられる。
【0016】
インドでは、通常のエンバク煎じ汁がアヘン粉末からの常用離脱に用いられていた。新鮮な植物から調製されたアルコール抽出物は煙草離脱に用いられており、満足のいく有意な結果が得られている。
【0017】
エンバク藁または市販の抽出物に基づく入浴剤はリウマチ、神経痛、慢性湿疹、神経性皮膚炎、末梢血管障害の適応として用いられる。
【0018】
「草本」エンバクはEMEAモノグラフ(EMEA/HMPC/202966/2007参照)の主題であり、開花前に収穫された乾燥地上部、または開花期間中に収穫された植物の新鮮な地上部から調製された液体抽出物(1:5、45%v/vエタノール)について記載されている。
【0019】
これらの地上部の従来の使用は、軽度の精神ストレスの場合に、また睡眠誘導の促進に関して記載されている。
【0020】
参照文献から、エンバク地上部は、
フラボノイド
→アピゲニン型(ビテキシン、イソビテキシンなど)またはルテオリン(オリエンチン、イソオリエンチン、イソスコパリンなど)のC−グリコシル−フラボン、
→トリシン型のO−グリコシル化フラボン、
→フラボノリグナン(サルコリンAおよびB)
ビデスモシンステロイドサポニン:アベナコシドAおよびB(アグリコン:ヌアチゲニン)
タンパク質
その他:フェノール化合物(アベナントラミド、ヒドロキシ桂皮酸など)、ステロール、セレブロシドなど
からなる。
【0021】
アトピー性皮膚炎(またはアトピー性湿疹)は、フランスの新生児の10〜15%を侵している発生の多い皮膚疾患であり、ここ数十年間増えてきている。
【0022】
アトピー性皮膚炎はアトピーの皮膚症状であり、これは遺伝的に特定された条件に起こる慢性炎症性皮膚炎または湿疹であり、小児の15〜30%および成人の2〜10%を侵しており、その罹患率は工業化諸国で増加の一途をたどり、ここ30年で二倍またはさらには三倍になり、今や公衆衛生の主要な問題と考えられている。アトピー性皮膚炎はアレルギー性鼻炎および喘息などの他のアトピー性症状に不随している場合が多い。この障害は乳児期に最もよく見られ、数年間繰り返し突発することを特徴とする。それは発疹で発症し、自然緩解がさし挟まる。
【0023】
アトピー性皮膚炎に罹患した患者の生活の質は深刻な混乱をきたし、採用される処置としては、コルチコステロイドおよび局所的免疫調節剤、全身性薬剤(その頻繁な二次的作用が長期間の使用を制限する)、保湿剤が含まれる。現行療法は反応性、すなわち、突発の処置であるが、今では、発疹および皮膚炎症の制御に焦点を当てた初期介入が疾病の管理、そして喘息および/または鼻炎の出現の可能性という双方の点で有益であり得る(BIEBER, T. 2008, Atopic dermatitis, The New England Journal of Medicine, Vol 358 (14) 1483-1494)と判断されている(アトピー性皮膚炎はいわゆるアトピー発症の初期相と考えられている)。多くの場合、関連の局所ケアは用いる処置を補い、患者に軽減をもたらす。コルチコステロイドによる処置に代わる処置が大いに必要とされている。
【0024】
アトピー性皮膚炎は遺伝的疾病素因、アレルゲンおよび微生物などの環境因子、皮膚バリアの機能不全、免疫系の調節不全の間の複雑な相互作用の結果である(SPERGEL, JM. 2008, Immunology and treatment of atopic dermatitis, Am J Clin Dermatol, Vol 9(4) 233-244)。
【0025】
乾癬もまた慢性的に発症する皮膚の炎症性疾患であり、集団の2%が罹患している。アトピー性皮膚炎とともに、これらは最も多い皮膚の慢性炎症性疾患である。それは炎症性反応に関連する表皮細胞の異常な成長を特徴とする。この炎症現象の中枢機構は免疫系のT細胞、主として、炎症プロセスを誘発および持続させ、ケラチノサイトの過剰な増殖を刺激する(その後、このケラチノサイトは加速された不完全な分化を受ける)Th1型の細胞の作用に関連している(WILSMANN-THEIS, D. ; HAGEMANN, T. ; JORDAN, J ; BIEBER, T. ; NOVAK, N. 2008, Facing psoriasis and atopic dermatitis : are there more similarities or more differences?, Eur J Dermatol, Vol 18 (2) 172-180)。ケラチノサイトは、それらを炎症性シグナルに対して感受性とし、前炎症性メディエーターを放出する受容体を発現する。このように、乾癬性炎症はT細胞およびケラチノサイトの相互刺激により持続される。
【0026】
従って、この疾患は長期間処置しなければならない。
【0027】
よって、これらの炎症性皮膚病に対する代替治療の必要および強い要求がある。
【0028】
予期しないことに、そして驚くべきことに、本発明者らは、治療および美容/皮膚科学においてエンバク地上部の抽出物に価値を付加する新たな方法を示した。有利には、該抽出物はアトピー性皮膚炎の処置に有用な免疫調節特性および抗炎症性特性を有する。本発明による抽出物はまた、この場合にも座瘡および皮膚の老化の処置に良好な能力を示した。
【0029】
よって、本発明の目的は、2〜15%のフラボノイドと0.2〜2%のアベナコシドAおよびBとを特徴とする、穀粒を除く、エンバク地上部の抽出物である。
【0030】
エンバク地上部(aerial parts of oats)とは、本発明において、穀粒を除き、地面より上にあるエンバク植物の部分を意味する。
【0031】
好ましくは、エンバク地上部は、葉および/または茎および/または小穂および/または花を含んでなる。
【0032】
得られるエンバク抽出物は、目的とするフラボノイドおよびサポニン含量を特徴とする。後者は各化合物種に好適な2つの異なる方法による高圧液体クロマトグラフィーによって分析される。
【0033】
これらの異なる分子の含量は、抽出条件によって異なる。主要なフラボノイドは、イソビテキシン−2’’−O−アラビノピラノシドとイソオリエンチン−2’’−O−アラビノピラノシドである。アベナコシドAおよびBは主要なサポニンである。これらはビスデスモシンステロイドサポニンである。
【0034】
有利には、本発明による抽出物は、5〜10%の割合の主要フラボノイド:イソビテキシン−2’’−O−アラビノピラノシドおよびイソオリエンチン−2’’−O−アラビノピラノシドを含んでなる。
【0035】
有利には、本発明による抽出物は、有機溶媒中に得られる抽出物である。
【0036】
有利には、本発明による抽出物は、1ppm未満のタンパク質、有利には0.5ppm未満、いっそうより有利には0.3ppm未満のタンパク質を含んでなる。
【0037】
有利には、本発明による抽出物は、出穂前に収穫されたエンバク地上部の抽出物である。
【0038】
本発明において、「出穂前に収穫されたエンバク地上部」とは、発芽後(発芽後約2週間〜2か月)の、正確に出穂前(出穂期を含まない)の茎伸長期に収穫されたエンバク地上部を表す。
【0039】
本発明において、「茎伸長」とは、開花前の茎の伸長および形成中の穂の出現に相当する増殖期を表す。
【0040】
本発明の別の目的は、エンバク地上部(該地上部は穀粒を含まない)の抽出物を製造する方法であって、以下の工程:
‐エンバク地上部の乾燥および製粉、
‐ケトン、エステル、C−Cアルコール、これらの溶媒の混和可能な任意の割合の混合物からなる群から選択される有機溶媒中での抽出、および
‐遠心分離または濾過
を含んでなる。
【0041】
有利には、本発明による方法の有機溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、C−Cアルコールおよびこれらの溶媒の混和可能な任意の割合の混合物からなる群から選択される。
【0042】
有利には、地上部は、2か月後の伸長の終了時、出穂前に収穫した後、乾燥させ、製粉する。
【0043】
抽出は攪拌下または静置法で行う。
【0044】
抽出は還流下または室温で行う。
【0045】
有利には、抽出は、1/7〜1/20、好ましくは1/8〜1/12まで可変の植物/溶媒比率で行う。
有利には、抽出は、30分〜48時間、より好ましくは60〜120分間行う。
【0046】
抽出は2または3回更新する。
【0047】
この抽出工程から得られた搾りかすを、次に、抽出物から遠心分離または濾過により分離し、乾燥抽出物が得られるまで溶液を多少濃縮してもよい。
【0048】
濃縮、沈殿および濾過による脱脂を用いて、または抽出溶液に濃縮した、もしくは非濃縮の活性炭または吸収樹脂などの吸収支持体を加えることにより脱色処理を行ってもよい。
【0049】
支持体は、乾燥工程中に抽出された乾燥材料に対して比較的大きな割合(1〜75%まで可変)を加えることができる。支持体はマルトデキストリン、ラクトースなどの糖、シリカまたは他の任意の美容上許容される支持体であり得る。
【0050】
本発明の別の目的は、本発明による方法により得ることができる穀粒を除くエンバク地上部の抽出物である。
【0051】
有利には、この抽出物はアセトンまたはアセトン/水(水は20%まで)を用いた抽出により得られる。
【0052】
アセトンまたはアセトン/水(水は20%まで)型の抽出物は、目的分子であるフラボノイドおよびサポニンを含み、タンパク質混入が極めて少ない。実際、欧州薬局方に記載されている混入タンパク質に関する試験ではいずれの結果も出ず、アセトンから沈殿させた後に電気泳動によりSDS−Pageゲル上で移動させ、クーマシーブルーまたは硝酸銀を用いて可視化すると、タンパク質の存在のシグナルを示すバンドは存在しないことを示す。この同じ電気泳動に対照を添加することにより、1ngまでのタンパク質検出限界を定量することができ、従って、この抽出物のタンパク質含量は1ppm未満である(ゲルに添加した抽出物の量まで引き下げられる)。有利には、該タンパク質含量は0.5ppm未満、いっそうより有利には0.3ppmタンパク質である。
【0053】
本発明の別の目的は、本発明による抽出物とそれぞれ1以上の皮膚科上または美容上許容される賦形剤を含んでなる皮膚科用または美容用組成物に関する。
【0054】
本発明による組成物は、特に、乳化剤、増粘剤、ゲル化剤、水固定剤、分散剤、安定剤、着色剤、香料および保存剤などの添加剤および処方助剤を含有してもよい。
【0055】
本発明による美容用または皮膚科用組成物はさらに、通常の皮膚科上適合する賦形剤を含んでなる。
【0056】
好ましくは、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して0.1〜5重量%の間の量の、有効成分としてのエンバク地上部抽出物を含んでなる。
【0057】
有利には、この量の抽出物は組成物の総重量に対して0.1%〜0.5重量%の間含まれる。
【0058】
本発明による皮膚科用または美容用組成物は、油中水(W/O)型または水中油(O/W)型エマルションとして、または例えば、水中油中水(W/O/W)型もしくは油中水中油(O/W/O)型エマルション、マイクロエマルションなどの多層エマルションとして、またはさらには水分散物もしくは脂質分散物、ゲルまたはエアゾールとして調製することができる。
【0059】
皮膚科上または美容上適合する賦形剤は、ミルク、クリーム、バルム、オイル、ローション、ゲル、発泡ゲル、軟膏、スプレーなどの局所適用組成物を得るために当業者に公知のいずれの賦形剤であってもよい。
【0060】
本発明の別の目的は、薬剤として使用するための本発明による抽出物に関する。
【0061】
本発明の別の目的は、炎症性皮膚病の処置に使用するための本発明による抽出物に関する。
【0062】
本発明の別の目的は、炎症性皮膚病であるアトピー性皮膚炎、乾癬または湿疹の処置に使用するための本発明による抽出物に関する。
【0063】
本発明の別の目的は、炎症性皮膚病の処置を意図した薬剤を製造するための本発明による抽出物の使用に関する。
【0064】
本発明の別の目的は、炎症性皮膚病であるアトピー性皮膚炎、乾癬または湿疹の処置を意図した薬剤を製造するための本発明による抽出物の使用に関する。
【0065】
本発明の別の目的は、座瘡または皮膚老化の処置に使用するための本発明による抽出物に関する。
【0066】
本発明の別の目的は、座瘡または皮膚老化の処置を意図した美容用および/または皮膚科用組成物における本発明による抽出物の使用に関する。
【0067】
本発明の別の目的は、酒さの処置に使用するための本発明による抽出物に関する。
【0068】
本発明の別の目的は、酒さの処置を意図した美容用および/または皮膚科用組成物における本発明による抽出物の使用に関する。
【0069】
酒さは顔面の皮膚の炎症性の慢性疾患である。これは鼻、頬、時にはまた顎および額に慢性的な赤い斑点として現れる、不治性の最も多い良性の皮膚疾患である。
【0070】
本発明の別の目的は、敏感皮膚の処置に使用するための本発明による抽出物に関する。
【0071】
本発明の別の目的は、敏感皮膚の処置を意図した美容用および/または皮膚科用組成物における本発明による抽出物の使用に関する。
【0072】
敏感皮膚とは、本発明において、感受性が高まった皮膚を意味する。敏感皮膚または反応性皮膚は、炎症、かゆみ、そう痒、ひりひりするなどの神経的に過敏な(neurosensitive)徴候を特徴とする症候群である。皮膚科学者の臨床評価から得られる臨床徴候としては、紅斑、浮腫、乾燥/落屑、丘疹/小胞、座瘡病班が見られる(L. Misery et al., JEADV 2009, 23, 376)。敏感皮膚は、十分な耐用性のある保健衛生製品の使用を必要とする反応性亢進皮膚である。感受性者とは、攻撃に対して、他の大多数の人の皮膚よりも速く、特に反応する人である。
【0073】
以下、実施例により、その範囲を限定することなく本発明を説明する。
【0074】
実施例1:本発明による出穂前に収穫されたエンバク地上部の抽出物の製造
a.アセトン抽出による
出穂前に収穫されたエンバク地上部を乾燥させたもの400kgを製粉した後、10容量のアセトン/水混合物の入った反応槽に、室温で1時間攪拌しながら置く。
【0075】
固体/液体分離により、1回目の抽出汁を得ることができる。搾りかすに対し、攪拌下室温で1時間、10容量のアセトン/水混合物で2回目の抽出を行う。固体/液体分離により、2回目の抽出汁を得ることができ、これを1回目のものと合わせる。得られた溶液を1.33容量/kgまで水に対して濃縮した後、濾過する。これにより得られた抽出物を、マルトデキストリン支持体(qsp25%/粗抽出物)を加えた後にマイクロ波により乾燥させる。
【0076】
このようにして、フラボノイド(イソビテキシン−2’’−O−アラビノピラノシドおよびイソオリエンチン−2’’−O−アラビノピラノシド)力価6%およびアベナコシドB力価0.6%の淡褐色粉末36kgが得られ、これにより得られる抽出物のタンパク質含量は0.3ppmである。
【0077】
b.エタノール抽出による
乾燥および製粉した植物100gをエタノール/水50:50混合物で、還流しながら1時間抽出し、固体/液体分離を行い、真空下50℃で蒸発させる。これにより26gの抽出物が褐色粉末として得られ、フラボノイド(イソビテキシン−2’’−O−アラビノピラノシドおよびイソオリエンチン−2’’−O−アラビノピラノシド)力価は1.5〜3%の間である。
【0078】
実施例2:実施例1.aから得られた出穂前に収穫されたエンバク地上部抽出物の生物学的研究
エンバク地上部抽出物の薬理学的研究では、アトピー性皮膚炎の免疫炎症性成分を取り扱う。表皮バリアの変化(特に、フィラグリン遺伝子の突然変異)は、高分子量のアレルゲン(ダニ、花粉などに由来する)の浸透、樹状細胞によるそれらの捕捉およびT細胞へのそれらの提示を促進するが、この相互作用は皮膚におけるT細胞応答をもたらす(まず、炎症を維持することができる一群の前炎症性サイトカインおよびケモカイン:アトピー性皮膚炎に関連するIL−4、IL−5、IL−13の生産とIL−17とIL−31の有意な出現を伴ってTh2、そしてさらに遅れてTh1)(INCORVAIA, C ; FRATI, F. ; VERNA N ; D 'ALO, S. ; MOTOLESE, A. ; PUCCI, S. 2008, Allergy and the skin, Clin Exp Immunol, Vol 153 (1) 27-29) ; (BIEBER , T 2008, Atopic dermatitis, The New England Journal of Medecine, Vol 358 (14) 1483-1494)。Tリンパ球の活性化に続き、他の細胞種、主としてケラチノサイトおよび内皮細胞の活性化が起こり、炎症性メディエーター(サイトカイン、プロスタグランジン)の生産および炎症性細胞の動員するケモカインの生産が起こる。
【0079】
a.画分の調製:
エンバク地上部抽出物を、活性を担う分子種または分子を同定するために分画することができる。
【0080】
このために、抽出物を中圧シリカカラムに添加し、極性が漸増する溶媒、例えば、水中漸増濃度のメタノールで連続的に溶出させればよい。実際、実施例1.aに従って作製した抽出物をシリカカラムに添加し、まず25:75から50:50のメタノール/水混合物、次いで100%メタノールで溶出した後に得られる分画により、フラボノイド豊富な画分(50:50メタノール/水画分、19%フラボノイド、すなわち、イソビテキシン−2−O−アラビノピラノシドおよびビテキシン−2−アラビノースとして表されるイソオリエンチン−2−O−アラビノピラノシド)とサポニン豊富な画分(100%メタノールの画分、15%アベナコシドB)を分離することが可能であった。最初の画分から、C−18逆相シリカカラムを用いた半分取HPLCにより、質量分析および核磁気共鳴により確認された構造を含むフラボノイド、すなわち、イソビテキシン−2−O−アラビノピラノシドおよびイソオリエンチン−2−O−アラビノピラノシドが単離された。
【0081】
質量分析および核磁気共鳴により確認された構造を含むアベナコシドAおよびアベナコシドBはサポニン豊富な画分から半分取HPLCにより単離された。
【0082】
b.免疫調節活性
膨大なセットの免疫系の調節タンパク質を表すサイトカイン類は、炎症または免疫プロセス中に活性化された常在または浸潤皮膚細胞により生産される。
【0083】
リンパ球により生産されるIl、Il、IlおよびIl13を含むインターロイキンは、Ilを含むTh1型サイトカインとIl、IlおよびIl13を含むTh2型サイトカインの2つの群に分かれる。これらのインターロイキンは総て、アトピー、接触性湿疹または乾癬などの炎症性疾患の際に過剰生産される。
【0084】
それらのうち、T細胞に由来するヒトインターロイキン2(IL−2)は、活性化されたTリンパ球の増殖を持続させることができ、B細胞およびNK(ナチュラルキラー)細胞の分化および活性化のためのプロセスを誘導する。
【0085】
in vitroにおいて、ヒト単核細胞は刺激されてサイトカインを生産することができる。この試験の原理は、ミリスチン酸酢酸ホルボール/イオノマイシン二重刺激により誘導されるIL、IL、IL、IL13の生産に対する抽出物の影響を試験することである。
【0086】
結果:実施例1.aによる出穂前に収穫されたエンバク地上部のアセトン抽出物は、30μg/mlの濃度で、インターロイキン2を発現するCD4リンパ球の数を52%、そして細胞内ILレベルを21%阻害する。この同じ抽出物は30μg/mlの濃度で、リンパ球のインターロイキン4生産を51%、インターロイキン5生産を31%、そしてインターロイキン13生産を78%阻害する。
【0087】
アトピー性皮膚炎の処置に関して着目されるこの活性は、アベナコシドAおよびBを含む抽出物のサポニンに保持されている。
【0088】
c.抗炎症活性
原理:表皮において最も象徴的な細胞であるケラチノサイトは、皮膚の炎症性反応の誘導および調節において有意な役割を果たす。このモデルを用いると、アラキドン酸の代謝から生じるメディエーターの生産を調節する種々の分子の能力をin vitroで判定することができる。プロスタグランジンPGβKF1αは、刺激されたヒトケラチノサイトにより生産される主要な代謝産物プロスタサイクリンPGI2の安定な代謝産物である。出穂前に収穫されたエンバク地上部のアセトン抽出物およびその画分を、ケラチノサイトにおいてカルシウムイオノフォアA23187(アラキドン酸のカスケードを刺激する)により誘導されたこのプロスタグランジンの生産について評価した。
【0089】
結果:実施例1.aによるアセトン抽出物は有意な活性(0.1μg/mlで40%阻害)を有し、フラボノイド豊富な画分は10μg/mlで最大49%阻害という有意な活性を有する。
【0090】
この抗炎症活性は抽出物中に存在するフラボノイド、特に、イソオリエンチン−2’’−O−アラビノシル(10μg/mlで55%阻害)により保持されている。
【0091】
プロスタサイクリン放出のこの阻害の作用機序は部分的に解明されており、in vitroにおいてアセトン抽出物によるシクロオキシゲナーゼ2の直接的阻害(100μg/mlで68%阻害)が見られるが、ホスホリパーゼA2の阻害は無い。
【0092】
d.抗酸化活性
実施例1.aに従って調製されたエンバク地上部抽出物の抗ラジカル活性は、DPPH(2,2’−ジフェニル−1−ピクリルヒドラジル)試験で評価される。この適用の容易な最初の試験は、安定なフリーラジカルDPPHの捕捉能の測定に基づいている。517nmに吸収を持つフリーラジカルDPPHは、プロトン供与体と反応した際に対応するヒドラジンへと還元される。
R−OH + DPPH R−O + DPPH
【0093】
IC50は、DPPHのメタノール溶液(C=25μg/ml)の吸光度に50%の低下が生じる抽出物の濃度に相当する。
【0094】
これらの条件下、ビタミンEは6〜10μg/mlのIC50を有し、出穂前のエンバク地上部のアセトン抽出物は70μg/mlのIC50を有する。
【0095】
従って、この抽出物は抗酸化活性を有し、皮膚美容用(dermocosmetic)処方物において抗老化剤として使用することができる。
【0096】
e.抗微生物活性
実施例1.aに従って調製されたアセトン抽出物は座瘡に含まれる微生物、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)に対して選択的作用を有する(表1参照)。
【0097】
【表1】

【0098】
実施例3:本発明による組成物
アトピー皮膚用保湿クリーム
エンバク地上部抽出物(実施例1.a) 0.1〜0.5%
鉱油 10〜20%
マツヨイグサオイル 2.5%
シクロメチコン 5〜8%
ステアリン酸グリセリル/ステアリン酸PEG−100 5%
グリセリン 5%
ポリアクリルアミドおよびC13−14イソパラフィン
およびラウレス−7 3%
PEG−12 4%
EDTA 0.2%
トリエタノールアミン 0.1%
保存剤 適量
水 適量で100%とする

アトピー皮膚用保湿ミルク
エンバク地上部抽出物(実施例1.a) 0.1〜0.5%
鉱油 3%
ワセリン 6〜12%
ジメチコン 2%
マツヨイグサオイル 2.5%
ステアリン酸ソルビタン/ヤシ油脂肪酸スクロース 5%
キサンタンガム 0.4%
カルボマー 0.2%
トリエタノールアミン 0.1%
グリセリン 3%
EDTA 0.2%
ベヘンアルコール 1%
保存剤 適量
水 適量で100%とする

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2〜15%のフラボノイドと0.2〜2%のアベナコシドAおよびBとを特徴とする、穀粒を除くエンバク地上部の抽出物。
【請求項2】
5〜10%の割合のフラボノイド、イソビテキシン−2’’−O−アラビノピラノシドおよびイソオリエンチン−2’’−O−アラビノピラノシドを特徴とする、請求項1に記載の抽出物。
【請求項3】
有機溶媒中に得られる抽出物であることをを特徴とする、請求項1または2に記載の抽出物。
【請求項4】
1ppm未満のタンパク質を含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抽出物。
【請求項5】
前記地上部が、出穂前に収穫される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抽出物。
【請求項6】
エンバクの地上部(ここで、該地上部は穀粒を含まない)の抽出物を製造する方法であって、以下の工程:
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、C−Cアルコール、およびこれらの溶媒の混和可能な任意の割合の混合物からなる群から選択される有機溶媒中での抽出、および
遠心分離または濾過
を特徴とする、方法。
【請求項7】
前記地上部が、出穂前に収穫される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の方法により得ることができる、エンバク地上部の抽出物。
【請求項9】
有効成分として請求項1〜5および8のいずれか一項に記載の抽出物と1以上の皮膚科上許容される賦形剤とを含んでなる、皮膚科用組成物。
【請求項10】
組成物の総重量に対して0.1〜5重量%の請求項1〜5および8のいずれか一項に記載の抽出物を含んでなる、請求項9に記載の皮膚科用組成物。
【請求項11】
請求項1〜5および8のいずれか一項に記載の抽出物と1以上の美容上許容される賦形剤を含んでなる美容用組成物。
【請求項12】
組成物の総重量に対して0.1〜5重量%の請求項1〜5および8のいずれか一項に記載の抽出物を含んでなる、請求項11に記載の美容用組成物。
【請求項13】
薬剤として使用するための、請求項1〜5および8のいずれか一項に記載の抽出物。
【請求項14】
炎症性皮膚病の処置に使用するための、請求項1〜5および8のいずれか一項に記載の抽出物。
【請求項15】
炎症性皮膚病が、アトピー性皮膚炎、乾癬または湿疹である、請求項14に記載の抽出物。
【請求項16】
座瘡の処置に使用するための、請求項1〜5および8のいずれか一項に記載の抽出物。
【請求項17】
皮膚老化の処置に使用するための、請求項1〜5および8のいずれか一項に記載の抽出物。
【請求項18】
酒さの処置に使用するための、請求項1〜5および8のいずれか一項に記載の抽出物。
【請求項19】
反応性皮膚の処置に使用するための、請求項1〜5および8のいずれか一項に記載の抽出物。

【公表番号】特表2012−508708(P2012−508708A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535937(P2011−535937)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【国際出願番号】PCT/EP2009/061972
【国際公開番号】WO2010/054879
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(500166231)ピエール、ファブレ、デルモ‐コスメティーク (30)
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE DERMO−COSMETIQUE
【Fターム(参考)】