説明

分光光度計

【課題】ウェル中の液体試料の蛍光、リン光および吸収の検出に関する感受性(感度)および柔軟性を改善した分光光度計を提供する。
【解決手段】試料を分析するための吸収または発光測定を目的として、試料と相互作用させるためにウェルプレートのウェル3中に入れられた液体試料に実質的に単色の励起光ビームを向けるための光学系を有する分光光度計。この光学系は、2つの開口の共役像18,21の間の励起ビーム領域であるケーラー照明領域をウェル外部に確立するための2つの開口46,28を含む。次に、この励起ビーム領域は縮小され、ウェル3中で結像する10,9。本発明は、照射している励起光ビームのいずれの部分をもウェルが遮ることなく液体試料すべてが均一に照射されるように、ウェル空間の形状と一致するようなケーラー照明領域の形状を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に分析用試料が、ウェルプレートに入れられて分光光度計に供される液体試料である場合の、吸収または蛍光スペクトル測定による試料の分析および特性決定のための分光光度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
以下の本発明の背景の考察は、本発明の内容を説明するために含まれている。これは、言及されたいかなる材料も、クレームのいずれかの優先日の時点でオーストラリアにおいて公表されている、既知である、または一般的な知識となっているということを認めるものではない。
分析用試料は、試料による光の吸収の分光光度測定により、特性決定され、また分析され得る。分析用試料はまた、試料の蛍光の分光光度測定により特性決定され、また分析され得る。
【0003】
試料による光の吸収の分光光度測定を行うために、選択された波長の実質的に単色の光の光源が、分析用試料を照射する目的で備えられる。このような実質的に単色の光は、便宜にも、キセノンアークランプまたはフラッシュランプなどの連続光源、および連続光源と分析用試料との間に格子モノクロメーターなどの波長選択手段を備えることによっても得ることができる。分析用試料による光の吸収を測定するために、適切な試料容器中の分析用試料を通過した後の実質的に単色の光の検出および強度の測定手段も備えられている。
【0004】
試料の蛍光の測定を行うために、分析用試料を照射して試料を発光させるための第1の波長を有する実質的に単色の光の光源が同様に備えられている。分析用試料を照射するこの第1の波長を有する実質的に単色の光は励起光と呼ばれ、照射された分析用試料から発せられた光は発光(放射光)と呼ばれる。この発光から第2の波長を有する実質的に単色の光を選択する手段が備えられ、この光は検出および測定のために光検出装置に伝達される。このような選択手段は、例えば、分析用試料と光検出装置との間の第2の格子モノクロメーターであり得る。
【0005】
分光光度計において有用な光検出装置には、光電子増倍管、フォトダイオードおよび電荷結合素子が含まれる。このようなすべての装置は、装置に届く光の量(すなわち光子数/秒)に比例する電気信号を生じる。このような光検出装置の特徴として、装置に当たる光の量が少ない時には信号対雑音比が小さく、検出された光の量が常に十分に少なければ、検出装置は正確に作動できる。実際のところは、分光光度計のデザインは、検出された光の量が十分に少なく保たれ、検出装置が正確に作動できることを保証している。その結果、検出装置に可能な限り多くの検出可能な光が届く時に、信号対雑音比が最良となる。最良の信号対雑音比を得るためには、分析用試料が、必要とされる実質的に単色の光で均一に照射される必要があり、利用できるすべての実質的に単色の光を試料容器に入射させて試料と相互作用させながら、理想的にはそのような均一な照射を得る必要がある。試料容器に入射しない光は無駄に費やされ、測定の信号対雑音比は、そうでない場合に予想される値よりも小さい。同様に、照射された試料により透過されるかまたは発光された目的の光が効率的に集められ、光検出装置へと伝達されることも望ましい。集光されず、光検出装置へ伝達されなかった目的の光はいずれも無駄に費やされ、測定の信号対雑音比は、そうでない場合に予想されるよりも小さい。
【0006】
液体の分析用試料は有利にも「マイクロプレート」または「ウェルプレート」と呼ばれる装置を用いて分光光度計に供される。これらの用語は同意語であり、本明細書では便宜上「ウェルプレート」という語を使用する。ウェルプレートは配列状に固定して取り付けられた多数の試料容器を備えている。分光光度計中での光路に対する配列の動きは、目的の光を検出および測定できるように、各試料を順番に、適切な実質的に単色の光で照射することを可能にする。吸収測定の場合は、目的の光は試料を通過した光である。蛍光測定の場合は、目的の光は照射された試料から発せられた光である。この配列は、多数の個々の分析用試料の迅速で便利な分析を可能にする。このような方法で作動するように配置された分光光度計は、ウェルプレートリーダーまたはマイクロプレートリーダーとして知られている。一定の面積のウェルプレート中にできるだけ多数の試料容器を備えるために、このような試料容器は、幅広にするよりも深くするほうが一般的である。試料容器のこの長く幅が狭い立体構造は、その中に入っている試料の照射を困難にしている。また、この試料容器の立体構造は、検出および測定のために試料から目的の光を集めることも困難にしている。
【0007】
例えば、従来技術のウェルプレートリーダーでは、焦点を合わせる部品と焦点との間に形成された円錐形の実質的に単色の光によって試料を照射するのが一般的である。その焦点はウェル中の試料表面の下に位置する。円錐形の光の内角は、供給される光の量を最大化するためにできるだけ大きくする。限られた容量の試料しか入手できないため試料表面がウェル上端よりもかなり低くなる場合、この配置の限界は明らかになる。その焦点が試料表面よりも下に位置する場合、試料の照射のための光をウェル上端がいくらか遮ることになる。
【0008】
吸光度測定を行う際には、ウェル上端によるいくらかの光の妨害が吸光度検出器に届く光の量を必然的に減少させ、それにより吸光度測定の信号対雑音比が減少する。
蛍光測定を行う際には、蛍光発光の量が試料を照射する光の量に比例し、そのため照射光量のいくらかの減少が、試料により蛍光発光された光の量の減少と必然的に関連している。これが次には蛍光測定の信号対雑音比を減少させる。
【0009】
蛍光発光を集めるための従来技術の配置は、照射に関して記載されたものと全く同じである。このことは、試料表面がウェル上端よりもかなり低い蛍光測定に関して、さらなる欠点をもたらす。蛍光発光の集束角により定義される光路は、ウェル上端により遮られる。その結果、有効集束角は減少する。このことが、試料の照射光量の減少と同じだけ蛍光検出器に届く光の量を減少させる。この結果、蛍光測定の信号対雑音比のさらなる減少が起こる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ウェル中の液体試料の蛍光、リン光および吸収の検出に関する感受性(感度)および柔軟性を改善した分光光度計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、第一の局面において本発明は、実質的に単色光のビームをウェル中の液体試料へ向けるための光学系を有する分光光度計を提供する。
上記光学系は、第1開口および第2開口、ならびに、第1および第2開口の共役像をウェル外部に形成して、その間に単色光のビーム領域を確立するための集束手段を含み、該ビーム領域がウェルの内部形状に類似する形状となるように、第1および第2開口のサイズおよび形状が合わせられる。
【0012】
この発明の光学光度計は、ウェルにおいて該ビーム領域をウェルの内部サイズと一致するサイズに結像させるための結像手段であって、結像された該ビーム領域のいずれの部分をもウェルが遮ることなくウェル中の液体試料の実質的にすべてを照射するための単色光ビームの結像された該領域のための結像手段を有する。
類似する形状の光ビーム領域を確立するための共役像を与えるための構成は、「ケーラー照明」共役の例である。これは、最も均一かつ限定されたグレア照射を与え、系の中でのエネルギー損失は最小限である。共役像の間の類似する形状の領域はまた、フィルター、開口およびポラライザーの便利な挿入を有利に提供し、また通常、大きなものよりコスト効率のよい小さなフィルターおよびポラライザーの使用も可能にする。
【0013】
ウェルプレート中のウェルの通常の内部形状に適しているために、すなわち壁が平行で幅よりも深さが勝るウェルに適しているために、実質的に一定の横断面であるケーラー照明共役領域が確立されるのが好ましい。しかし、そのケーラー照明共役領域の三次元形状が、その領域を確立している2つの開口の像の形状およびサイズに依存する、言い換えると、第1および第2開口の形状およびサイズに依存するとすれば、それらの開口は、異なる形状のウェルに適するように適切に形成されているケーラー照明共役領域を確立するために形成され、サイズを合わせられてよいことが理解される。例えば、内部が先細の壁を有するウェルのためには、第1および第2開口を適切に形成およびサイズ合わせすることにより、円錐の形状のケーラー照明共役領域が確立され得る。
【0014】
本発明の特別な利点は(より詳細が後述されるように)、試料がウェルを満たしていないにもかかわらず、ウェル中の分析用試料の正確な測定が可能であることである。
ケーラー照明共役領域を与える集束手段は、テレセントリック鏡(すなわち、主光線が互いに平行である)であることが好ましい。
ケーラー照明共役をウェル空間へと結びつける、縮小および結像のための結像手段は軸外楕円鏡であることが好ましい。この鏡は光学系において容積縮小結像を行う。例えばウェルの壁に留まることなく384マルチウェルプレートのウェル中へ実質的に単色光のビームの三次元領域を縮小する。この容積共役結像は、2つの主な利点を提供する。第1に、容積結像がケーラー照明共役をウェル空間へと結びつけるために、ウェル中の液体試料の実質的に全部が、限定されたグレアにより均一に照射される。第2に、ウェル中のビームは実質的に円筒形または長方形の平行管状の形状(開口の形状に依存する)であり、ウェルの深さ全体にわたって試料を最小の強度変化で照射するため、焦点合わせはウェル中の試料の高さの影響を受けない。
【0015】
実質的に単色の光を与える手段は、モノクロメーターが好ましく、その場合、第1開口はモノクロメーターの入射スリットであり、第2開口はモノクロメーターの回折格子の開口である。別法として、実質的に単色の光を与える手段は光学帯域通過フィルターであってもよく、第1および第2開口はその両側の適切な開口であり、または第1および第2開口を与えるための適切な開口を備えたプリズムであってもよい。
【0016】
この分光光度計は検出系を含み、それは吸光度測定のための系、すなわち、例えば、ウェルの透明な底を通過して液体試料から出る実質的に単色の光ビームの残余光の検出のための系であってもよい。
別法として、その検出系は蛍光および/またはリン光測定のための系であってもよい。本発明の分光光度計は、吸収の検出系および蛍光/リン光測定のための検出系を含んでもよい。
【0017】
蛍光/リン光検出系は、発光の実質的に一定の断面領域を確立するために、その結像手段がウェル容積の容積縮小結像を行う光学系(以下、発光光学系)を含むのが好ましく、この領域は、光の進行方向において、ウェル中の液体試料の底面像とウェル中の液体試料の上面像との間に例えば横断面の縮小率約1:3で確立される。この領域は発光光学系への発光フィルター、ポラライザーおよび物理的最小サイズの開口の挿入を可能にする。
【0018】
この発光光学系は、該三次元発光領域を発光モノクロメーターへと伝達するための、例えばテレセントリック鏡などの集束手段を含むのが好ましい。かかる集束手段はウェル底面の像を発光モノクロメーターの射出スリットと共役させ、ウェル上面の像を発光モノクロメーターの格子開口と共役させて、再結像させる。この配置の後にケーラー照明共役例(前述)が続き、ウェル中の液体試料からの発光が、発光光路において最大限の集光度と最小限のエネルギー損失とで集光され得ることを保証する。それはまた、ウェル中の異なる位置から放出された光に関する集光度のばらつきを最小限に抑える。
【0019】
本発明の分光光度計の利点は、特定のタイプのウェルプレート(例えば、384個のウェルを有するプレートなど)のために最適化されているその光学系が、ウェルが異なる縦横比を有する異なるタイプのウェルプレート(例えば、1536個のウェルを有するプレートなど)を測定するために容易に変更できることである。単に適切な一組の開口を励起光学系の一定の横断面領域に挿入することにより、1536ウェルプレートのウェルのような、直径のより小さいウェルに適合するようなビームサイズを提供できる。この配置はまた、吸収測定にも適している。
【0020】
本発明は、発光光学系中にケーラー照明の共役領域を備え(今述べたように)、励起光学系に類似のケーラー照明の共役領域を備えているか、または備えていない分光光度計を包含する。従って第二の局面によれば本発明は、
光源と、
試料位置と、
試料位置に置かれたウェルに入れられた液体試料に光源由来の実質的に単色の光のビームを向けるための励起光学系と、
検出器、および実質的に単色の光のビームとの相互作用の後に液体試料から発光された光を検出器へと向けるための発光光学系とを含む分光光度計であって、
この発光光学系が、
(i)ウェルの底面の像およびウェル中の液体試料の上面の像を与えるための結像手段であって、ウェルの内部形状に類似する形状を有する発光の領域を、ウェルの外側で前記2つの像の間に確立する結像手段と、
(ii)類似する形状の発光の領域を、実質的に単色の光を与えるための手段の方へ向けて集束させる集束手段、および発光から実質的に単色の光を与える手段とを含み、
前記検出器が、かかる光を与えるための手段からの実質的に単色の発光を検出するように配置されている分光光度計を提供する。
【0021】
壁が平行で幅よりも深さが勝る通常の形状のウェルに関しては、類似する形状の発光領域は実質的に一定の横断面であろう。ウェルの内部空間の形状が円筒形である場合は、発光の該領域の類似する形状は円筒形であろう。
類似する形状の発光の該領域を確立するために、ウェル容積を縮小し、結像させるための結像手段は、軸外楕円鏡が好ましい。この集束手段はテレセントリック鏡が好ましく、実質的に単色の発光を与える手段はモノクロメーターが好ましいが、その代わりにプリズムまたは光学帯域通過フィルターであってもよい。
【0022】
本発明をよりよく理解するため、およびそれがどのように行われるかを示すために、添付の図を参照しながら、単に非限定的な例として、以下、その好ましい実施形態を記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
好ましい実施形態によれば、分光光度計は、
光源と、
試料位置と、
試料位置に置かれた内部形状を有するウェルに入れられた液体試料に光源由来の実質的に単色の光のビームを向けるための光学系とを含む分光光度計であって、
その光学系が、
(i)実質的に単色の光のビームを得るための、実質的に単色の光を与えるための手段に関連する第2開口が後に続く入射開口と、
(ii)入射部および第2開口の共役像を与えるための集束手段であって、共役像の形状およびサイズにより決定された特有の形状を有する実質的に単色の光のビームの領域を前記2つの共役像の間に確立する集束手段と、
(iii)ウェル中の液体試料と相互作用させるために特有の形状の光ビーム領域を縮小してウェル中に結像させるための結像手段であって、光ビームのいずれの部分をもウェルが遮ることなく液体試料の実質的にすべてが均一に照射されるように、光ビーム領域の特有の形状がウェルの内部形状と一致する結像手段とを含み、
実質的に単色の光ビームと相互作用した後の、液体試料からの光を検出するための検出系をさらに含む分光光度計である。
【0024】
[符号の説明]の欄の説明文は、図1A、図1B、図2A、図2B、および図3に適用される。
本発明の実施形態の分光光度計の光学的スループットは、モノクロメーターの2つの開口である入射スリットの開口および格子の開口、またはこの組み合わせの共役像に依存している。この系のスループットは、
Tsys=As×Ag/F2
またはTsys=Asi×Agi/L2
により計算できる。
ここで、
As:入射スリットの開口面積
Ag:格子の開口面積
F:モノクロメーターの焦点の長さ
Asi:入射スリットの開口の像の面積
Agi:格子の開口の像の面積
L:2つの像の間の距離
である。
【0025】
ウェルプレートリーダー中のウェルの上端開口および底面開口はウェル中に供給される光またはウェルから集光された光の最大スループットを制限する。このウェルの最大スループットは、
Twell=At×Ab/D2
により計算できる。
ここで、
At:ウェルの上端の開口面積
Ab:ウェルの底面の開口面積
D:ウェルの深さ
である。
【0026】
系のスループットがウェルの最大スループットと正確に一致する場合、すなわちTsys=Twellである場合、系の効率が最良となる。しかし、Tsys>Twellである場合は、系由来のスループットの一部分が浪費される。Tsys<Twellである場合は、ウェルの容積が完全に照射されない。
本発明において、系は最良の効率に達し、すなわちTsys=Twellである。
【0027】
図1Aにおいて従来技術の光学系は、励起モノクロメーターの入射スリットの第2の像2を生じ、それはウェル3の底面と実質的に同じ大きさで、ウェル3の上端に位置する。励起モノクロメーターの格子の第2の像1は、入射スリットの第2の像2からウェル3の深さの2倍の距離のところに位置する。最良の条件Tsys=Twellによれば、励起光学系の全スループットがウェル3へと伝達され、ウェル3全体からの発光は発光光学系により集光され得る。しかし図1Bにおいては、ウェル3の底面が入射スリットの第2の像2により近づき、ウェル3の上端の開口がウェル3から出る励起光学系のスループットの一部分を遮断する。図1の幾何光学系は、従ってTsys=Twellの条件下であっても効率的ではない。
【0028】
図2Aにおいては、図3に示した本発明の実施形態による分光光度計の光学系が、励起モノクロメーター29の入射スリット46の第2の像2を生じさせ、それはウェル3の底面と実質的に同じ大きさで、ウェル3の上端に位置する。励起モノクロメーター29の格子28の第2の像1は、入射スリット46の第2の像2からウェル3の深さと実質的に同じ距離のところに位置する。最良の条件Tsys=Twellによれば、励起光学系の全スループットがウェル3へと伝達され、ウェル3全体からの発光は発光光学系により集光され得る。図2Bにおいては、ウェル3の底面が入射スリット46の第2の像2により近づいた場合、ウェル3の上端の開口は系のスループットのいずれの部分をも遮断しない。従って図2Aおよび図2Bにおける幾何光学は、図1Aおよび図1Bに示された従来技術の系よりも、より効率的である。さらに、本発明の実施形態のウェルプレートリーダーは、標的ウェル3に入っている試料がごくわずかな場合であっても、効率的に機能し得る。
【0029】
図3に関しては、光源27(キセノンフラッシュランプが好ましい)からの光は、レンズ26および平面反射鏡25を備えた光源光学系により励起モノクロメーター29の入射スリット46へと焦点が合わされる。スリット46から出てくる光は平行光線鏡30に当たり、それにより実質的に平行なビームとなって回折格子の線条面28に当たる。線条面28から分散された光は集束鏡31に当たり、励起モノクロメーター29の射出スリット47において入射スリット46の実質的に単色の像を形成するよう焦点が合わされる。射出スリット47から出た実質的に単色の光は集束手段24、例えばテレセントリック鏡24に当たる。鏡24は線条面28の像21、およびケーラー照明構成中での入射スリット46の像18を形成する。入射スリット46および線条面28の開口は、本発明の第1開口および第2開口を構成する。必要に応じて、像21と像18との間の実質的に一定な細いビーム領域にフィルター20および/またはポラライザー19が配置されていると有利である。(符号18および21は絞りを表しているが、かかる絞りがそこに必要なわけではなく、この実施形態ではただそれぞれの像が符号18および21の位置に確立されることに注意)。像21と像18との間の細い光ビーム領域のサイズが小さいことにより、物理的に小さいフィルターまたはポラライザーの使用が可能となるため、相当するコストの削減が可能となる。
【0030】
像18からの光は第1のビーム・スプリッター17に当たる。この光の第1の部分は第1のビーム・スプリッター17からアテニュエーター45を通過して曲面鏡22へと反射され、光の第1の部分は吸光度対照(参照)検出器23上に焦点を結び、線条面28の像を形成する。対照検出器23からの電気信号は吸光度測定の対照として使用され、このようにして光源27の強度のばらつきを補正している。像18からの光の第2の部分は、第1のビーム・スプリッター17を通過し、第2のビーム・スプリッター12に当たる。光の第2の部分の第1の部分は、第2のビーム・スプリッター12から第1のアテニュエーター13を通過して曲面鏡14へと反射され、曲面鏡14は光の第2の部分の第1の部分を、第2のアテニュエーター15を通過させて反射し、蛍光対照検出器16へ焦点を合わさせる。光の第2の部分の第2の部分は、第2のビーム・スプリッター12を通過し、第3のビーム・スプリッター11(メイン・ビーム・スプリッター)に当たる。
【0031】
第3のまたはメインのビーム・スプリッター11から反射された光は、大きな平面反射鏡10に当たり、そこから、図2Bを参照して従前に説明されたように、標的ウェル3中に焦点を合わせる軸外楕円鏡9へと反射される。この軸外楕円鏡9は本発明の結像手段を構成する。
吸光度測定
標的ウェル3の透明な底面から出た光は、吸光度検出器光学系7により吸光度検出器8に焦点を合わせられる。吸光度検出器8からの電気信号は吸光度対照検出器23からの電気信号とともに、標的ウェル3中の試験溶液(図示せず)の吸光度測定に用いられる。
蛍光/リン光測定
もし標的ウェル3中の試験溶液が前記のように照射されたときに蛍光を発するならば、発光した試料から集光された蛍光発光は、前記のメイン・ビーム・スプリッター11から標的ウェル3へという光の進行とは逆の方向で同じ光路をたどる。蛍光発光の一部分はメイン・ビーム・スプリッター11を通過し、標的ウェル3の底面の像42を、そして標的ウェル3の上端の像39を形成する。像42と像39との間の細い発光ビーム領域は、像21と像18との間の励起光ビームに関して前記したようなケーラー照明を構成する。この場合もやはり、必要に応じて像42と像39との間の細い発光ビーム領域にフィルター40および/またはポラライザー41が配置されるのが有利である。(符号42および39は絞りを表しているが、かかる絞りがそこに必要なわけではなく、本発明のこの実施形態ではただそれぞれの像が符号42および39の位置に確立されることに注意)。細い発光ビーム領域のサイズが小さいことにより、物理的に小さいフィルターまたはポラライザーの使用が可能となるため、相当するコストの削減が可能となる。
【0032】
像39からの光は、例えばテレセントリック鏡のような集束鏡38に当たり、その集束鏡は発光モノクロメーター34の入射スリット48に焦点を合わせる。スリット48から出た光は平行光線鏡32に当たり、それにより実質的に平行なビームとなって発光モノクロメーター34の回折格子の線条面35に当たる。線条面35から分散された光は集束鏡33に当たり、発光モノクロメーター34の射出スリット49において入射スリット48の実質的に単色の像を形成するよう焦点が合わされる。射出スリット49から出た実質的に単色の光は集束鏡36に当たり、蛍光検出器37に焦点が合わせられる。蛍光検出器37からの電気信号は蛍光対照検出器16からの電気信号とともに、標的ウェル3中の試験溶液(図示せず)の蛍光測定に用いられる。
【0033】
前記のように、本発明の分光光度計の実施形態が蛍光発光測定に用いられる際には、吸光度光学系7および検出器8から鏡9への光の反射、および最終的には迷光の発生源である可能性のある発光モノクロメーター34中への光の反射を防ぐために、その試料は底面が不透明なウェルに供されるのが好ましい。しかし、底面が透明なウェルを使用し、同じ試料の吸光度および蛍光を測定することも可能である。かかる測定の実用性は、有用な吸光度シグナルを生じさせるに十分な濃度の蛍光試料が、通常、過剰の蛍光シグナルを生じるという事実により制限されている。
本発明の分光光度計の試験結果
検出限界は分析機器にとって重要な性能指数である。この検出限界は、特定の条件下において特定の信頼水準で検出され得る特定の物質の濃度として定義される。この検出限界は一般に、当該特定の物質を含まない試料の一連の測定から得られるシグナルの標準偏差の3倍に等しいシグナルを生じる濃度として定められる。検出限界は低いほどよい。
【0034】
本発明の利点は、ウェルプレート中のウェルを完全に満たしていない試料を測定する場合の検出限界が、従来技術で認められる検出限界よりも優れていることである。この理由は、すでに説明したように、かかる試料のより効率的な照射、およびかかる試料からの蛍光発光のより効率的な集光に起因する、優れた信号対雑音比のためである。
本発明の分光光度計の使用により達成された検出限界の向上の例として、第1に従来技術のウェルプレートリーダー(図1に相当)、第2に図2に相当するウェルプレートリーダーを用いた、フルオレセイン10pmol/lを含有する試験溶液の蛍光測定の結果から計算したフルオレセインの検出限界を、表1に示す。それぞれの場合において、384ウェルのウェルプレート中のウェル3中に入れられた試験溶液、50/50ビーム・スプリッター11を使用し、また測定は30フラッシュを10サイクル繰り返して行った。試験溶液の試料100μlを用いる場合には、ウェルはほぼ満杯に近く、その検出限界はそれぞれの機器に関して同じであった。試料容積を50μlに減少させた場合には、ウェル3は半分満たされていたのみであった。本発明の実施形態の分光光度計機器の検出限界は2倍に悪化したが、従来技術の機器では6倍に悪化した。このことは、限られた容積の試料溶液中の目的の低濃度物質の測定において、本発明が従来技術よりも有利であることを説明している。
【0035】
理論的考察は、もし試料が完全に照射され、蛍光発光の集光効率が変化せずにそのままであれば、照射される試料の容積を2分の1に減らせば、理想としては信号対雑音比(従って検出限界)が2倍悪化するはずであることを示す。このような検出限界の2倍の悪化は、本発明の実施形態の分光光度計機器において観察された。しかし、従来技術の機器では、その悪化はそれ以上に悪かった(2倍ではなく、6倍)。
【0036】
【表1】

【0037】
前記のモノクロメーターの対照(参照)を設ける場合、モノクロメーターは光学フィルターにより置換されてよく、または光学フィルターをモノクロメーターと同時に用いてもよいことが理解される。さらに、いずれのモノクロメーターもダブルタイプまたはシングルタイプであってもよいことが理解される。また本発明は、本発明を例示するための図3に示されている特定のタイプのモノクロメーターを用いる光学系に限定されないことが理解される。本発明はまた、他のタイプのモノクロメーターを用いる光学系にも適用可能であることも理解される。
【0038】
本明細書に記載の本発明は、特に断りのない限り、変形、変更および/または追加の余地があり、本発明はかかるすべての変形、変更および/または追加を包含し、それらは、特許請求の範囲内にあるものと理解される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1A】ウェル中の試料を照射するための、従来技術のスリットまたは格子による結像を図式的に示したものである。
【図1B】ウェル中の試料を照射するための、従来技術のスリットまたは格子による結像を図式的に示したものである。
【図2A】本発明の実施形態で試料ウェル中に生じたスリットまたは格子による結像を図式的に示したものである。
【図2B】本発明の実施形態で試料ウェル中に生じたスリットまたは格子による結像を図式的に示したものである。
【図3】本発明の両方の局面の好ましい実施形態による分光光度計を図式的に示したものである。
【符号の説明】
【0040】
1は励起回折格子28の第2の像である。
2は励起モノクロメーター29の入射スリット46の第2の像である。
3は標的ウェルである。
5は標的ウェル3に隣接するウェルである。
7は吸光度検出器8のための光学系である。
8は吸光度検出器である。
9は軸外楕円鏡である。
10は大きな平面反射(平面)鏡である。
11はメイン・ビーム・スプリッターである。
12は蛍光対照検出器16のためのビーム・スプリッターである。
13は第1アテニュエーターである。
14は蛍光対照検出器16のための曲面鏡である。
15は第2のアテニュエーターである。
16は蛍光対照検出器である。
17は吸光度対照検出器23のためのビーム・スプリッターである。
18は励起モノクロメーター29の入射スリット46の第1の像の位置を示す。
19は励起ポラライザーである。
20は励起フィルターである。
21は励起モノクロメーター29の励起回折格子の線条面28の第1の像の位置を示す。
22は吸光度対照検出器23のための曲面鏡である。
23は吸光度対照(参照)検出器である。
24は集束鏡(励起)である。
25は平面反射(平面)鏡(光源光学系)である。
26はレンズ(光源光学系)である。
27はキセノンアークフラッシュランプである。
28は励起モノクロメーター29の励起回折格子の線条面である。
29は励起モノクロメーターである。
30は励起モノクロメーター29の平行光線鏡である。
31は励起モノクロメーター29の集束鏡である。
32は発光モノクロメーター34の平行光線鏡である。
33は発光モノクロメーター34の集束鏡である。
34は発光モノクロメーターである。
35は発光モノクロメーター34の発光回折格子の線条面である。
36は発光検出器37のための曲面鏡である。
37は発光検出器である。
38は集束鏡(発光)である。
39は標的ウェル3の上端の像の位置を示す。
40は発光フィルターである。
41は発光ポラライザーである。
42は標的ウェル3の底面の像の位置を示す。
45は吸光度対照検出器23のためのアテニュエーターである。
46は励起モノクロメーター29の入射スリットである。
47は励起モノクロメーター29の射出スリットである。
48は発光モノクロメーター34の入射スリットである。
49は発光モノクロメーター34の射出スリットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に単色の光のビームをウェル中の液体試料へ向けるための光学系であって、第1開口および第2開口、ならびに、前記第1および第2開口の共役像を前記ウェルの外部に形成して、これらの共役像の間に単色の光のビーム領域を確立するための集束手段を含み、前記ビーム領域が前記ウェルの内部形状に類似する形状となるように、前記第1および第2開口のサイズおよび形状が合わせられている光学系と、
前記ウェルにおいて前記ビーム領域を前記ウェルの内部サイズと一致するサイズに結像させるための結像手段であって、結像された前記ビーム領域のいずれの部分をも前記ウェルが遮ることなく前記ウェル中の液体試料を実質的にすべて照射するための単色の光のビームの結像された前記領域のための結像手段とを含む分光光度計。
【請求項2】
前記第1および第2開口の共役像が実質的に同じサイズであり、そのために光のビームの前記領域が実質的に一定の横断面である、請求項1記載の分光光度計。
【請求項3】
前記第1および第2開口の共役像を与えるための前記集束手段がテレセントリック鏡である、請求項1または2記載の分光光度計。
【請求項4】
光のビームの前記領域を前記ウェル中に結像させるための前記結像手段が軸外楕円鏡である、請求項1ないし3のいずれかに記載の分光光度計。
【請求項5】
実質的に単色の光のビームを与えるためのモノクロメーターを含み、前記第1開口が前記モノクロメーターの入射スリットであり、かつ前記第2開口がその回折格子の開口である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の分光光度計。
【請求項6】
光源と、
試料位置と、
前記試料位置に置かれ、内部形状を有するウェルに入れられた液体試料に前記光源由来の実質的に単色の光のビームを向けるための光学系とを含む分光光度計であって、
前記光学系が、
(i)実質的に単色の光のビームを得るための入射開口であって、実質的に単色の光を与えるための手段に関連する第2開口が後に続く入射開口と、
(ii)前記入射開口および前記第2開口の共役像を与えるための集束手段であって、前記共役像の形状およびサイズにより決定された特有の形状を有する実質的に単色の光のビームの領域を前記共役像の間に確立する集束手段と、
(iii)前記ウェル中の液体試料と相互作用させるために特有の形状の前記光のビーム領域を縮小して前記ウェル中に結像させるための結像手段であって、当該光のビームのいずれの部分をも前記ウェルが遮ることなく当該液体試料が実質的にすべて均一に照射されるよう、前記光のビーム領域の前記特有の形状が前記ウェルの前記内部形状と一致する結像手段とを含み、
実質的に単色の光のビームと相互作用した後の、当該液体試料からの光を検出するための検出系をさらに含む、分光光度計。
【請求項7】
光源と、
試料位置と、
前記試料位置に置かれたウェルに入れられた液体試料に前記光源由来の実質的に単色の光のビームを向けるための励起光学系と、
検出器、および実質的に単色の光のビームとの相互作用の後に当該液体試料から発光された光を前記検出器へと向けるための発光光学系とを含む分光光度計であって、
前記発光光学系が、
(i)前記ウェルの底面の像および前記ウェル中の液体試料の上面の像を与えるための結像手段であって、前記ウェルの内部形状に類似する形状を有する前記発光の領域を、前記ウェルの外側で前記2つの像の間に確立する結像手段と、
(ii)前記類似する形状の前記発光の領域を、前記実質的に単色の光を与えるための手段の方へ向けて集束させるための集束手段、および前記発光から実質的に単色の光を与えるための手段とを含み、
前記検出器が、かかる光を与えるための前記手段からの実質的に単色の発光を検出するように配置されている分光光度計。
【請求項8】
類似する形状の前記発光の領域が実質的に一定の横断面を有する、請求項7記載の分光光度計。
【請求項9】
類似する形状の前記発光の領域を確立するための前記像を与えるための前記結像手段が軸外楕円鏡である、請求項7または8に記載分光光度計。
【請求項10】
前記集束手段がテレセントリック鏡である、請求項7ないし9のいずれかに記載の分光光度計。
【請求項11】
前記実質的に単色の発光を与えるための手段がモノクロメーターである、請求項7ないし10のいずれかに記載の分光光度計。
【請求項12】
液体試料からの蛍光発光またはリン光発光を検出するための発光光学系および検出器を含む分光光度計であって、
前記発光光学系が、
(i)前記ウェルの前記底面の像および前記ウェル中の液体試料の上面の像を与えるための結像手段であって、前記ウェルの前記内部形状に類似する形状を有する前記発光の領域を、前記ウェルの外側で前記ウェルおよび前記液体試料の前記像の間に確立する結像手段と、
(ii)前記類似する形状の発光の領域を、前記実質的に単色の光を与えるための手段の方へ向けて集束させるための集束手段、および前記発光から実質的に単色の光を与えるための手段とを含み、
前記検出器が、かかる光を与えるための前記手段からの前記実質的に単色の発光を検出するように配置されている請求項1ないし5のいずれかに記載の分光光度計。
【請求項13】
前記類似する形状の発光の領域が実質的に一定の横断面を有する、請求項12記載の分光光度計。
【請求項14】
前記類似する形状の発光の領域を確立して前記像を与えるための前記結像手段が軸外楕円鏡である、請求項12または13記載の分光光度計。
【請求項15】
前記発光のための前記集束手段がテレセントリック鏡である、請求項12ないし14のいずれかに記載の分光光度計。
【請求項16】
前記実質的に単色の発光を与えるための手段がモノクロメーターである、請求項12ないし15のいずれかに記載の分光光度計。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−519364(P2006−519364A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501381(P2006−501381)
【出願日】平成16年2月27日(2004.2.27)
【国際出願番号】PCT/AU2004/000249
【国際公開番号】WO2004/076995
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(503002042)ヴァリアン オーストラリア ピーティーワイ.エルティーディー. (5)
【Fターム(参考)】