説明

分光推定パラメーター生成装置およびその方法、分光推定装置、並びにコンピュータープログラム

【課題】少ないバンド数のマルチバンド画像からでも、高精度に分光反射率のスペクトルを推定することを可能とする。
【解決手段】複数の色票の分光分布を分光計測器により計測し(S100)、マルチバンドカメラのバンド指示用データに初期値を設定し(S120)、バンド指示用データにより定まったときのカメラの分光感度と各色票からの光の分光特性とに基づいてカメラ出力信号を算出し(S130)、色票毎の分光分布とカメラ出力信号とから分光推定パラメーターの候補値を算出し(S140)、色票毎の分光分布と、分光推定パラメーターの候補値およびカメラ出力信号から算出される分光推定値との間で定義される評価関数が目標値に近づくようにバンド指示用データを初期値から順次変化させ(S170)、目標値に達したときの分光推定パラメーターを求め(S160)記憶する(S180)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体を撮影するマルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像から、前記被写体の分光反射率のスペクトルを推定するための分光推定パラメーターを生成する技術と、前記分光推定パラメーターを用いて被写体の分光反射率のスペクトルを推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被写体を撮影するマルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像から、前記被写体の分光反射率のスペクトルを推定する方法が提案されている(特許文献1)。この種の推定方法では、マルチバンド画像の波長帯域(バンド)毎に、変換テーブルを予め作成し、被写体を撮影したマルチバンド画像から前記変換テーブルを用いて反射率に変換することによって、被写体の分光反射率のスペクトルを推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−99710号公報
【0004】
しかしながら、前記従来の技術では、バンド数が多いマルチバンド画像からしか、高精度な分光反射率のスペクトルを推定することができないという問題があった。測定する各バンドは予め決められたもので、バンドの位置がマルチバンドカメラや被写体に最適なものとなっていないためであり、多数のバンド数のマルチバンド画像からしか、高精度に推定することができなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたものであり、少ないバンド数のマルチバンド画像からでも、高精度に分光反射率のスペクトルを推定することを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1] 波長可変フィルターを駆動して複数の波長帯域のそれぞれで被写体を撮影するマルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像から、前記被写体の分光反射率のスペクトルを推定することに用いる分光推定パラメーターを生成する分光推定パラメーター生成装置であって、
前記複数の波長帯域を特定することに用いるバンド指示用データに初期値を設定する初期値設定部と、
複数の色票のそれぞれについての分光分布を計測する分光計測器と、
前記バンド指示用データによって前記複数の波長帯域が定まったときの前記マルチバンドカメラの分光感度と、前記各色票からの光の分光特性とに基づいて、前記色票毎に前記マルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像を表すカメラ出力信号を算出するカメラ出力算出部と、
前記分光計測器によって計測した前記色票毎の分光分布と、前記カメラ出力算出部によって算出されたカメラ出力信号とに基づいて、前記分光推定パラメーターの候補値を算出するパラメーター候補値算出部と、
前記分光計測器によって計測した前記色票毎の分光分布と、前記分光推定パラメーターの候補値および前記カメラ出力信号に基づいて算出される分光推定値との間で定義される評価関数が目標値に近づくように前記バンド指示用データを前記初期値から順次変化させ、前記評価関数が前記目標値に達したときの前記バンド指示用データに対応する分光推定パラメーターを求める評価関数制御部と、
前記評価関数制御部によって求められた前記分光推定パラメーターと、前記目標値に達したときの前記バンド指示用データとを記憶する記憶部と
を備える分光推定パラメーター生成装置。
【0008】
適用例1の分光推定パラメーター生成装置によれば、バンド指示用データを初期値から順次変化させることで、分光計測器により計測した前記色票毎の分光分布と、分光分布を推定により求めた分光推定値との間で定義される評価関数が目標値に近づくように制御される。分光推定値は、分光推定パラメーターの候補値およびカメラ出力信号に基づいて算出される。そして、評価関数が前記目標値に達したときの前記バンド指示用データに対応する分光推定パラメーターとその前記バンド指示用データとが記憶部に記憶される。このために、マルチバンドカメラで撮影を行う際に、記憶部に記憶されたバンド指示用データを用いて、前記バンド指示用データから定まる波長帯域(バンド)となるように波長可変フィルターを駆動し、さらに、マルチバンド画像から被写体の分光反射率のスペクトルを推定する際に、記憶部に記憶された分光推定パラメーターを用いるようにすれば、少ないバンド数のマルチバンド画像から、高精度な分光反射率のスペクトルを推定することが可能となる。したがって、適用例1の分光推定パラメーター生成装置によれば、少ないバンド数のマルチバンド画像から高精度な分光反射率のスペクトルを推定することが可能な分光推定パラメーターを生成することができるという効果を奏する。
【0009】
[適用例2] 適用例1に記載の分光推定パラメーター生成装置であって、前記評価関数制御部は、前記分光推定パラメーターの候補値を順次変化させる構成を備える、分光推定パラメーター生成装置。
【0010】
適用例2の分光推定パラメーター生成装置によれば、評価関数が非線形となった場合にも、評価関数の最適化が可能となる。このため、より高精度な分光推定を実現することのできる分光推定パラメーターの生成が可能となる。
【0011】
[適用例3] 適用例1または2に記載の分光推定パラメーター生成装置であって、前記評価関数は、等色関数を使った重み係数を含む、分光推定パラメーター生成装置。
【0012】
適用例3の分光推定パラメーター生成装置によれば、色差まで考慮にいれた分光反射率のスペクトルの推定が可能となる。
【0013】
[適用例4] 適用例1ないし3のいずれかに記載の分光推定パラメーター生成装置であって、前記評価関数は、前記色票毎の分光分布に対する前記分光推定値の誤差の二乗ノルムによって定義される、分光推定パラメーター生成装置。
【0014】
適用例4の分光推定パラメーター生成装置によれば、分光推定値を色票毎の分光分布に近づけることができる。
【0015】
[適用例5] 波長可変フィルターを駆動して複数の波長帯域のそれぞれで被写体を撮影するマルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像から、前記被写体の分光反射率のスペクトルを推定する分光推定装置であって、
前記被写体の分光反射率のスペクトルを推定することに用いる分光推定パラメーターと、前記複数の波長帯域を特定することに用いるバンド指示用データとを記憶する推定装置側記憶部と、
前記推定装置側記憶部に記憶されている前記バンド指示用データを前記マルチバンドカメラに送ることによって、前記マルチバンドカメラに撮影する複数の波長帯域を指示するバンド指示部と、
前記マルチバンドカメラから前記各波長帯域で撮影されたマルチバンド画像を取得するマルチバンド画像取得部と、
前記推定装置側記憶部に記憶されている分光推定パラメーターを用いて、前記マルチバンド画像から前記分光反射率のスペクトルを演算する分光スペクトル演算部と
を備える分光推定装置。
【0016】
適用例5の分光推定装置によれば、マルチバンドカメラに対して適正化された波長帯域を指定することができ、そうして得られたマルチバンド画像から分光反射率のスペクトルを演算するに際し、適正化された分光推定パラメーターを用いることができる。このために、前記分光推定装置では、マルチバンド画像から分光反射率のスペクトルを高精度に推定することができる。
【0017】
[適用例6] 波長可変フィルターを駆動して複数の波長帯域のそれぞれで被写体を撮影するマルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像から、前記被写体の分光反射率のスペクトルを推定することに用いる分光推定パラメーターを生成する方法であって、
前記複数の波長帯域を特定することに用いるバンド指示用データに初期値を設定し、
複数の色票のそれぞれについての分光分布を分光計測器によって計測し、
前記バンド指示用データによって前記複数の波長帯域が定まったときの前記マルチバンドカメラの分光感度と、前記各色票からの光の分光特性とに基づいて、前記色票毎に前記マルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像を表すカメラ出力信号を算出し、
前記分光計測器によって計測した前記色票毎の分光分布と、前記カメラ出力信号とに基ついて、前記分光推定パラメーターの候補値を算出し、
前記分光計測器によって計測した前記色票毎の分光分布と、前記分光推定パラメーターの候補値および前記カメラ出力信号に基づいて算出される分光推定値との間で定義される評価関数が目標値に近づくように前記バンド指示用データを前記初期値から順次変化させ、前記評価関数が前記目標値に達したときの前記バンド指示用データに対応する分光推定パラメーターを求め、
前記求められた前記分光推定パラメーターと、前記目標値に達したときの前記バンド指示用データとを記憶部に記憶する、分光推定パラメーター生成方法。
【0018】
[適用例7] 波長可変フィルターを駆動して複数の波長帯域のそれぞれで被写体を撮影するマルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像から、前記被写体の分光反射率のスペクトルを推定することに用いる分光推定パラメーターを生成するためのコンピュータープログラムであって、
前記複数の波長帯域を特定することに用いるバンド指示用データに初期値を設定する機能と、
複数の色票のそれぞれについての分光分布を分光計測器によって計測する機能と、
前記バンド指示用データによって前記複数の波長帯域が定まったときの前記マルチバンドカメラの分光感度と、前記各色票からの光の分光特性とに基づいて、前記色票毎に前記マルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像を表すカメラ出力信号を算出する機能と、
前記分光計測器によって計測した前記色票毎の分光分布と、前記カメラ出力信号とに基ついて、前記分光推定パラメーターの候補値を算出する機能と、
前記分光計測器によって計測した前記色票毎の分光分布と、前記分光推定パラメーターの候補値および前記カメラ出力信号に基づいて算出される分光推定値との間で定義される評価関数が目標値に近づくように前記バンド指示用データを前記初期値から順次変化させ、前記評価関数が前記目標値に達したときの前記バンド指示用データに対応する分光推定パラメーターを求める機能と、
前記求められた前記分光推定パラメーターと、前記目標値に達したときの前記バンド指示用データとを記憶部に記憶する機能と
をコンピューターに実現させるコンピュータープログラム。
【0019】
適用例6の分光推定パラメーター生成方法および適用例7のコンピュータープログラムは、適用例1の分光推定パラメーター生成装置と同様に、少ないバンド数のマルチバンド画像から高精度な分光反射率のスペクトルを推定することが可能な分光推定パラメーターを生成することができるという効果を奏する。
【0020】
さらに、本発明は、前記適用例1ないし7以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、適用例1ないし4に記載の分光推定パラメーター生成装置をマルチバンドカメラと共に備えた鮮度判定システムの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施例としての分光推定パラメーター生成装置100の構成を概略的に示す説明図である。
【図2】分光推定パラメーター生成処理を示すフローチャートである。
【図3】マルチバンドカメラ400の内部構成を概略的に示す説明図である。
【図4】分光推定パラメーター生成処理のステップS130で実行されるカメラ出力信号Dの算出処理を示すフローチャートである。
【図5】カメラ出力信号Dの算出処理の前半を図式化して示す説明図である。
【図6】カメラ出力信号Dの算出処理の後半を図式化して示す説明図である。
【図7】分光画像処理装置500とその周辺を概略的に示す説明図である。
【図8】重み係数wと波長λとの関係を示すグラフである。
【図9】第2実施例における分光推定パラメーター生成処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0023】
A.第1実施例:
A−1.分光推定パラメーター生成装置:
図1は、本発明の第1実施例としての分光推定パラメーター生成装置100の構成を概略的に示す説明図である。図示するように、分光推定パラメーター生成装置100は、分光計測器200と電気的に接続されている。
【0024】
分光推定パラメーター生成装置100は、コンピュータープログラムを実行することにより種々の処理や制御を行うCPU10と、コンピュータープログラムやデータ・情報を格納するROM(メモリー、記憶部)30と、一時的なデータの退避場所であるRAM40と、入力インタフェース(I/F)50と、出力インタフェース(I/F)60とを備えている。分光推定パラメーター生成装置100は、分光計測器200で計測した分光分布のデータを入力インタフェース(I/F)50を介して取得する。
【0025】
ROM30は、各種のコンピュータープログラムや各種のデータを記憶する読み出し専用のメモリーである。コンピュータープログラムとしては、分光推定パラメーター生成処理用のプログラムが予め記憶されている。各種のデータとしては、図示するように、分光推定パラメーターの生成に用いられるフィルター分光感度ET、フォトダイオード分光感度PD、およびモニター表示色分光特性Cの各データが予め格納されている。これらET,PS,Cについては、後ほど詳述する。RAM40は、読み書き可能なメモリーである。
【0026】
CPU10は、ROM30に格納された分光推定パラメーター生成処理用プログラムを実行することで、初期値設定部12、カメラ出力算出部14、パラメーター候補値算出部16、および評価関数制御部18を機能的に実現する。各部12〜18が順に実現されることで、CPU10は、分光計測器200から得られた分光分布データに基づいて分光推定パラメーターMを生成し、その生成された分光推定パラメーターMを、中心波長データBD(後述する)とともにRAM40に保存する。
【0027】
分光計測器200は、被計測体からの光を分光器に通し、分光器から出力されるスペクトルを撮像素子の撮像面で受けることにより、前記被計測体の波長に対する特性を示す分光分布を計測する周知の機器であり、ここでは、被計測体をモニター300の画面としている。
【0028】
モニター300は、複数の色票を一画面に同時に表示する。各色票は、所定の波長範囲(例えば可視光線380nm〜780nm)内の異なる波長帯域の光を出射する色見本で、例えば100個とか、200個用意されている。分光計測器200は、モニター300に表示された色票毎の分光分布を計測する。なお、モニター300は、一または複数(使用する複数の色票のうちの幾つか)を画面に表示してもよい。この場合は、順に異なる色票を表示することを繰り返し、使用する色票全てを表示する。
【0029】
なお、本実施例では、複数の色票は、モニター300のカラー表示の形で提供されているが、これに換えて、各色を有するカラーチャートを用意し、このカラーチャートを光源で照射することで、複数の色票を提供する構成としてもよい。すなわち、本実施例では、分光計測器200は、モニター300が発する色光を色票として計測しているのに対して、カラーチャートを用いた場合は、カラーチャートからの反射光を色票として計測する。
【0030】
A−2.分光推定パラメーター生成処理:
前述したように、ROM30に格納された分光推定パラメーター生成処理用プログラムをCPU10が実行することで、分光推定パラメーター生成処理が実現される。
【0031】
図2は、分光推定パラメーター生成処理を示すフローチャートである。図示するように、処理が開始されると、CPU10は、分光計測器200を駆動して、分光計測器200により計測された分光分布のデータIを取得する(ステップS110)。分光計測器200を用いた計測は、モニター300に表示された各色票を分光計測器200で撮影することにより行なわれる。
【0032】
ステップS110の実行後、CPU10は、マルチバンドカメラで撮影を行う波長帯域を特定しうる中心波長データBDに初期値を設定する処理を行う(ステップS120)。「マルチバンドカメラ」、「中心波長データ」を説明するために、マルチバンドカメラの構造について、次に説明する。
【0033】
図3は、マルチバンドカメラ400の内部構成を概略的に示す説明図である。図示するように、マルチバンドカメラ400は、レンズユニット410、波長可変フィルター420、CCD430、CCDAFE(Analog Front End)440、および光源ユニット450等を備える。
【0034】
レンズユニット410は、被写体T(被計測体)にフォーカスを合わせるオートフォーカス機構を備えないものであるが、オートフォーカス機構を備えるものとすることもできる。波長可変フィルター420は、透過波長域を変更可能な液晶エタロン型(ファブリペロー型)のフィルターが用いられている。CCD430は、波長可変フィルター420を透過した光を光電変換して被写体像を表す電気信号を得る撮像デバイスである。CCDAFE440は、CCD430の検出信号をデジタル化するためのものである。光源ユニット450は、被写体Tを照射するためのものである。
【0035】
上記構成のマルチバンドカメラ400では外部から、撮影を行う波長帯域の指示を波長可変フィルター420で順に受けることで、波長可変フィルター420の透過波長域が順に変更される。こうして、マルチバンドカメラ400は、複数の波長帯域(マルチバンド)の感度で被写体Tを撮影することができる。
【0036】
図2に戻って、ステップS120で初期値を設定する中心波長データBDは、マルチバンドカメラ400の波長可変フィルター420に指示するためのデータであり、マルチバンドカメラ400で撮影を行う複数の波長帯域(以下、「バンド」と呼ぶ)を特定するためのものである。本実施例では、中心波長で各バンドを特定するものとした。初期値としては、380nm、385nm、……、780nm、すなわち、380nmから5nm間隔で780nmまでの81個のデータを用意し、この初期値を中心波長データBDに設定する。
【0037】
なお、中心波長データBDの初期値は、上記81個のデータに限る必要はなく、10nm間隔の41個のデータとしてもよく、複数であればいくつであってもよい。また、等間隔のデータである必要もない。さらに、範囲も可視光の範囲に限る必要はなく、380nm〜1100nmといった赤外光を含む範囲内のデータとしてもよい。さらに、各バンドを中心波長により特定する構成に換えて、各バンドの開始点の波長により特定される構成としてもよいし、各バンドの終了点の波長により特定される構成としてもよい。中心波長データBDは、適用例1に記載した「バンド指示用データ」に相当する。
【0038】
次いで、CPU10は、中心波長データBDに応じたカメラ出力信号Dを算出する処理を実行する(ステップS130)。カメラ出力信号Dは、マルチバンドカメラ400を用いて、中心波長データBDから定まる各バンドで被写体Tを撮影したときに得られるマルチバンド画像の信号値であり、次のようにして求める。
【0039】
図4は、ステップS130で実行されるカメラ出力信号Dの算出処理を詳しく説明するためのフローチャートである。図示するように、この算出処理に処理が移行すると、CPU10は、中心波長データBDに応じたフィルター分光感度ETをROM30から読み出す処理を行う(ステップS132)。
【0040】
ROM30には、詳しくは、380nmから780nmまでの任意の波長(例えば、1nm毎の波長)を中心波長とするバンド毎のエタロンの感度が記憶されている。ステップS132では、これら多数のエタロンの感度の中から、中心波長データBDの各値に対応する各エタロンの感度を選択し、それらの集合をフィルター分光感度ETとしてROM30から読み出す。なお、ROM30に予め記憶されるエタロンの各感度は、マルチバンドカメラ400の機種に依存するデータであり、マルチバンドカメラ400の当該機種用のものである。
【0041】
図5および図6は、ステップS130におけるカメラ出力信号Dの算出処理を図式化して示す説明図である。ステップS132でROM30から読み出されるフィルター分光感度ETは、図5(a)のグラフで示される。この図に示すように、フィルター分光感度ETは、バンド1からバンドmまでの各波長帯域の感度を示すものである。mは、ステップS120で設定した初期値に含まれるデータの数、すなわち81である。バンド1は、380nmを中心とする所定幅の波長帯域であり、バンド2は385nmを中心とする所定幅の波長帯域であり、……、バンドmは780nmを中心とする所定幅の波長帯域である。
【0042】
図4のステップS132の実行後、CPU10は、フォトダイオード分光感度PDをROM30から読み出す処理を行う(ステップS134)。フォトダイオード分光感度PDは、マルチバンドカメラ400に備えられるCCD230を構成する素子(フォトダイオード)の感度であり、図5(b)に示すように波長が大きくなるに従って増大する。なお、ROM30に記憶されるフォトダイオード分光感度PDは、マルチバンドカメラ400の機種に依存するデータであり、マルチバンドカメラ400の当該機種用のものである。
【0043】
続いて、CPU10は、ステップS132で読み出したフィルター分光感度ETに、ステップS134で読み出したフォトダイオード分光感度PDを掛け合わせることで、マルチバンドカメラ400の分光感度(以下、「カメラ分光感度」と呼ぶ)Sを求める(ステップS136)。なお、カメラ分光感度Sも、マルチバンドカメラ400の機種に依存するものとなる。
【0044】
こうして得られるカメラ分光感度Sは、図5(a)と図5(b)とを掛け合わせたものであることから、図5(c)に示す特性となる。かかるカメラ分光感度Sは、次式(1)に示すようにm×nの行列を転置した行列として表すことができ、また、次式(2)に示すように表すことができる。ここで、mは既述したようにバンド数であり、nはモニター300に表示される色票の数である。
【0045】
【数1】

【0046】
図4のステップS136の実行後、CPU10は、モニター表示色分光特性CをROM30から読み出す処理を行う(ステップS138)。モニター表示色分光特性Cは、前述したモニター300に表示した各色票の分光分布を示すデータであり、各色票を測色計で測定して得られる。測色計としては、例えば、PHOTO RESEARCH社製、「PR−650」を用いた。
【0047】
図6(d)に、モニター表示色分光特性Cを示した。 図6(d)の上段が一の色票についての分光分布を示すグラフであり、図6(d)の下段がROM30から読み出したモニター表示色分光特性Cを示す行列である。図6(d)のグラフに示すように、一の色票についての分光分布は、波長毎の光の強度として示される。こうした分光分布をモニター300に表示されたすべての色票について示したのがモニター表示色分光特性Cである。
【0048】
モニター表示色分光特性Cは、図6(d)の下段に示したn×mの行列にて表すことができる。nは色票の数であり、mはマルチバンドカメラ400におけるバンド数である。この行列により、色票毎における各バンドの光の強度が示される。この行列の値は、測色計で測定した正しい値(精度の高い値)である。
【0049】
図4のステップS138の実行後、CPU10は、ステップS138で読み出したモニター表示色分光特性Cに、ステップS136で算出されたカメラ分光感度Sを掛け合わせることで、マルチバンドカメラ400から得られるマルチバンド画像の信号値であるカメラ出力信号Dを算出する(ステップS139)。
【0050】
図6(f)に、カメラ出力信号Dを示した。図6(f)の上段が一の色票についてのカメラ出力信号を示すグラフであり、図6(f)の下段がステップS139の算出結果であるカメラ出力信号Dを示す行列である。図6(f)のグラフに示すように、一の色票についてのカメラ出力信号は、バンド毎の信号値として示される。こうした信号値分布をモニター300に表示されたすべての色票について示したのがカメラ出力信号Dである。
【0051】
カメラ出力信号Dは、図6(f)の下段に示したn×mの行列にて表すことができる。nは色票の数であり、mはマルチバンドカメラ400におけるバンド数である。この行列により、色票毎における各バンドの出力信号値が示される。図4のステップS139の実行後、「リターン」に抜けて、このカメラ出力信号Dの算出処理を終了する。
【0052】
なお、このカメラ出力信号Dの算出処理では、ステップS136で、カメラ分光感度Sを一旦求めた後に、ステップS139でこのカメラ分光感度Sを用いてカメラ出力信号Dを求める構成としたが、これに換えて、ステップS136の処理を削除し、ステップS139で、フィルター分光感度ET、フォトダイオード分光感度PD、およびモニター表示色分光特性Cの三者からカメラ出力信号Dを求める構成としてもよい。
【0053】
カメラ出力信号Dの算出処理を終了すると、CPU10は、図2のステップS140に処理を進める。ステップS140では、CPU10は、ステップS110で取得した分光分布のデータIと、ステップSステップS130で算出したカメラ出力信号Dとに基づいて、分光推定パラメーターMを算出する処理を行う。
【0054】
分光推定パラメーターMは、被写体Tを撮影するマルチバンドカメラ400から出力されるマルチバンド画像と、被写体Tの分光反射率のスペクトル(分光分布)との関係を表したものである。被写体Tの分光分布は、ステップS110で取得した、分光計測器200による分光分布のデータ(以下、単に「分光分布」と呼ぶ)Iに相当する。このため、分光分布Iは、次式(3)で表すことができる。
【0055】
【数2】

【0056】
ここで、χは近似誤差を表す。式(3)から、近似誤差χの二乗ノルムは次式(4)から得ることができる。
【0057】
【数3】

【0058】
式(4)の両辺をMで偏微分すると、次式(5)を得ることができる。
【0059】
【数4】

【0060】
式(5)の左辺が0のとき、Δ2は最小となるので、次式(6)が成立し、次式(7)を得ることができる。
【0061】
【数5】

【0062】
式(7)を変形して、次式(8)を得ることができる。
【0063】
【数6】

【0064】
ステップS140では、ステップS110で取得した分光分布Iと、ステップS130で算出したカメラ出力信号Dとを、式(8)に代入することで、分光推定パラメーターMを算出する。
【0065】
なお、式(8)が成立するのは、カメラ出力信号Dが正則である場合に限り、Dが正則でない場合には、Moore−penroseの一般化逆行列(pseudo-inverse)を用いて、次式(9)で表すことができる。
【0066】
【数7】

【0067】
したがって、Dが正則でない場合には、ステップS140では、ステップS110で取得した分光分布Iと、ステップSステップS130で算出したカメラ出力信号Dとを、式(9)に代入することで、分光推定パラメーターMを算出する。
【0068】
前述したように、ステップS120で中心波長データBDに初期値を設定する処理を行っているが、この中心波長データBDが初期値となった状態は、マルチバンドカメラ400において波長可変フィルター420が初期特性となる状態と言うことができる。この状態を、以下「初期フィルター特性」と呼ぶ。したがって、ステップS140の最初の実行時においては、初期フィルター特性に対する分光推定パラメーターMが求められることになる。
【0069】
なお、ステップS140における算出処理は、これまでに説明した演算方法に換えて、Winer推定やMatrixRを用いた演算方法によるものとすることができる。
【0070】
ステップS140の実行後、CPU10は、ステップS110で取得した分光分布Iと、ステップS130で算出したカメラ出力信号Dと、ステップS140で算出した分光推定パラメーターMとに基づいて、評価関数F(S)を算出する処理を行う(ステップS150)。
【0071】
評価関数F(S)は、前述したカメラ分光感度Sの関数であり、前述した分光分布I、カメラ出力信号D、および分光推定パラメーターMを用いて、次式(10)に従って求めることができる。なお、カメラ出力信号D、分光分布I、およびカメラ分光感度Sの間には、次式(11)に示す関係が成り立つ。
【0072】
【数8】

【0073】
すなわち、評価関数F(S)は、式(10)に示すように、分光計測器200により計測された分光分布Iに対する、分光推定パラメーターMとカメラ出力信号Dの積である分光推定値の誤差の二乗ノルムによって定義される。
【0074】
ステップS150の実行後、CPU10は、ステップS150で算出された評価関数F(S)が所定の閾値以下であるか否かを判定する(ステップS160)。ここで、所定の閾値以下でないと判定された場合、すなわち評価関数F(S)が所定の閾値よりも大きい(ステップS160:NO)には、CPU10は、中心波長データBDを構成する各値を微少量だけインクリメントする処理を行う(ステップS170)。微少量は、例えば0.1nmである。すなわち、ステップS170では、最初の実行時には、初期値である380nm、385nm、……、780nmから380.1nm、385.1nm、……、780.1nmに変更し、その後、ステップS170を実行する毎に各値を0.1nmずつ増大する。
【0075】
なお、上記微少量は、0.1nmに限る必要はなく、他の大きさとすることもできる。また、本実施例では、微少量をインクリメントする構成としたが、これに換えて、微少量だけデクリメントする構成としてもよい。要は、中心波長データBDを一方向に順にずらすことができれば、増大する方向、減少する方向のいずれであってもよい。また、ステップS150の処理は、非線形最適化処理によって行っても良い。
【0076】
ステップS170の実行後、CPU10は、ステップS130に処理を戻して、ステップS130ないしS160の処理を繰り返し実行する。すなわち、ステップS170でインクリメントされた中心波長データBDに応じたステップS130ないしS160の処理が実行されることになる。この処理の繰り返しにより、ステップS150で算出された評価関数F(S)は所定の閾値に近づくように制御される。本実施例では、評価関数F(S)が所定の閾値以下となった場合(ステップS160:YES)に、評価関数F(S)は最小となったとみなして、便宜的に、評価関数F(S)が最適化されたとする。ステップS130ないしS170の繰り返しの処理は、具体的には、公知の最適化法、たとえば、BFGS法などの準ニュートン法や、共役勾配法などを用いて実現される。
【0077】
上記最適化がなされたとき、すなわち、評価関数F(S)が所定の閾値以下となったときには、ステップS160で肯定判定されて、CPU10は、ステップS180に処理を進める。ステップS180では、CPU10は、この最適化がなされたときの中心波長データBDと分光推定パラメーターMを、RAM40に保存する。なお、RAM40に保存した中心波長データBDと分光推定パラメーターMは、必要に応じて、出力インタフェース60から外部に送信する構成とすることができる。
【0078】
ステップS130ないしS170の繰り返しの処理は、次式(12)に示す演算処理を実行することに相当する。
【0079】
【数9】

【0080】
すなわち、式(12)によれば、評価関数F(S)が最小となったときのSの値が求められることになる。ステップS180の処理は、この求められたSの値に対応する中心波長データBDと分光推定パラメーターMを保存するものである。
【0081】
なお、ステップS130でカメラ出力信号Dを算出する際に、ステップS132において、微少量だけインクリメントした各中心波長データに対するフィルター分光感度ETが必要になるが、これらフィルター分光感度ETは、ROM30に予め用意された波長毎のエタロンの感度から補間処理を行って、所望の中心波長に対するフィルター分光感度ETを計算で生成するようにすればよい。
【0082】
また、図2のフローチャートでは、評価関数F(S)が最適化しない場合のエラー処理については記載してないが、必要に応じて設ける構成とすればよい。例えば、ステップS170によるインクリメントの総量が所定量を経過しても、ステップS160で肯定判定されないような場合に、分光推定パラメーターの生成が不可であるとして、この分光推定パラメーター生成処理を一旦終了する。前記所定量(所定値)は、例えば、ステップS120で設定した中心波長データBDの初期値の間隔(本実施例では5nm)とする。
【0083】
以上のように構成された分光推定パラメーター生成装処理によれば、分光計測器200により計測された正解値である分光分布Iに分光推定値(=M・D)が近づくように、分光推定パラメーターMを定めることができ、こうした分光推定パラメーターMを、分光推定パラメーターMに適した中心波長データBDとともに、RAM40に保存しておくことができる。換言すれば、前記分光推定パラメーター生成装処理によれば、分光推定パラメーターMの最適化と、中心波長データBDにより定まるマルチバンドカメラのバンドの最適化とが共になされていると言え、両最適化によって得られた最適な分光推定パラメーターMと最適な中心波長データBDとが保存されることになる。なお、ここで言う「最適化」および「最適」とは、先に説明したように、評価関数が最小値となったときのものではなく、評価関数が所定の閾値以下となったときのものであり、厳密に言えば「最適」と言えず「適正」を意味する。
【0084】
なお、本実施例では、前述したように、評価関数が所定の閾値以下となるときを「最適化された」とみなしていたが、これに替えて、評価関数が最小となったときを「最適化」したとしてステップS180に抜ける構成としてもよい。すなわち、適用例1に記載した「目標値」とは、本実施例のように所定の閾値であってもよいし、評価関数がとりうる値の最小値であってもよい。
【0085】
なお、CPU10で実行されるステップS120の処理が初期値設定部12(図1)に、ステップS130の処理がカメラ出力算出部14に、ステップS140の処理がパラメーター候補値算出部16に、ステップS130ないしS170の繰り返しが評価関数制御部18にそれぞれ相当する。
【0086】
A−3.分光画像処理装置:
分光推定パラメーター生成装置100により生成された分光推定パラメーターMと中心波長データBDとを利用する分光画像処理装置500について、次に説明する。
【0087】
図7は、分光画像処理装置500とその周辺を概略的に示す説明図である。図示するように、分光画像処理装置500にマルチバンドカメラ600と表示装置700とが電気的に接続されている。
【0088】
分光画像処理装置500は、被写体Tをマルチバンドカメラ600で撮影して得られたマルチバンド画像から前記被写体Tの分光反射率のスペクトルを推定し、その推定結果から被写体Tの特定成分に関する特徴量を検量し、被写体Tを診断する装置である。本実施例では、被写体Tを緑色野菜とし、被写体Tの特定成分をクロロフィルとすることで、分光画像処理装置500は、緑色野菜のクロロフィル量を検量し、そのクロロフィル量から緑色野菜の鮮度を診断する。
【0089】
分光画像処理装置500は、コンピュータープログラムを実行することにより種々の処理や制御を行うCPU510と、コンピュータープログラムやデータ・情報を格納するメモリー530(推定装置側記憶部)と、マルチバンドカメラ600から画像データを受け取るとともに、表示装置700に鮮度診断の結果を送る入出力インタフェース(I/F)550と、を備えている。
【0090】
メモリー530には、先に説明した分光推定パラメーター生成装置100により生成された分光推定パラメーターMと中心波長データBDが予め記憶されている。また、メモリー530には、鮮度判定用プログラム(図示せず)が予め記憶されている。なお、分光推定パラメーターMと中心波長データBDは、予め記憶された構成に替えて、必要に応じて、インターネット等のネットワークを介して外部から取得し、メモリー530に記憶する構成としてもよい。
【0091】
CPU510は、メモリー530に記憶された鮮度判定用プログラムを実行することで、測定帯域指示部512、分光推定部514、検量・診断部516を機能的に実現する。測定帯域指示部512は、メモリー530から中心波長データBDを読み出して、中心波長データBDに含まれる各要素をマルチバンドカメラ600に送信する。
【0092】
マルチバンドカメラ600は、前述したマルチバンドカメラ400(図3)と同一、もしくは同一の機種のものである。すなわち、マルチバンドカメラ600は、分光推定パラメーター生成装置100のROM32に記憶されているフィルター分光感度ETとフォトダイオード分光感度PDに合致した機種のものである。マルチバンドカメラ600は、測定帯域指示部512により指示された中心波長データBDの各要素に基づいて波長可変フィルター420(図3)の透過波長域を順に変更して、複数のバンドのそれぞれで被写体Tを撮影し、その撮影結果であるマルチバンド画像を分光画像処理装置500に送る。分光画像処理装置500の入出力インタフェース550はそのマルチバンド画像を取得する。入出力インタフェース550は、適用例5における「マルチバンド画像取得部」に対応している。
【0093】
分光画像処理装置500の分光推定部514は、マルチバンドカメラ600から送られてくるマルチバンド画像から被写体Tの分光反射率のスペクトルを推定する。分光推定部514は、この推定を、メモリー530に記憶されている分光推定パラメーターMを用いて行う。詳しくは、次式(13)に従う演算処理を行う。
【0094】
【数10】

【0095】
式(13)において、xはマルチバンド画像の所定位置の値(画素値)を示す行列であり、pはその所定位置に対応した部分における分光スペクトルを示す行列である。「マルチバンド画像の所定位置の画素値」とはマルチバンド画像を構成する各バンド画像の所定位置の画素値のことであり、「その所定位置に対応した部分」とはその所定位置に対応した被写体上の位置のことである。この結果、被写体Tの所定位置の分光反射率のスペクトルを推定することができる。分光推定部514は、適用例5における「分光スペクトル演算部」に対応している。
【0096】
検量・診断部516は、分光推定部514により求められた分光反射率のスペクトルに基づいて、クロロフィル量を検量し、その検量結果に応じて被写体Tである緑色野菜の鮮度を診断する。新鮮な野菜は、約700nm辺りでクロロフィルによる光の吸収が起こることから、クロロフィルによる光の吸収が起こる波長(約700nm)周辺の分光反射率が小さいものほどクロロフィル量が多いとすることができる。そしてそのクロロフィル量が多いほど、鮮度が高いと診断する。例えば、クロロフィル量が所定値a以上であるときは鮮度が「優」であるとし、クロロフィル量が所定値aを下回り且つ所定値b(<a)以上であるときは鮮度が「良」であるとし、クロロフィル量が所定値bを下回るときは鮮度が「不良」であるとする。検量・診断部516は、その診断結果を、入出力インタフェース550を介して表示装置700に表示する。
【0097】
前記構成の分光画像処理装置500によれば、分光推定パラメーター生成装置100により生成された分光推定パラメーターMを利用することで、被写体Tの分光反射率のスペクトルを高精度に推定することができ、その結果、被写体Tである緑色野菜の鮮度を高精度に診断することができる。さらに、マルチバンドカメラ600で撮影を行う際に、分光推定パラメーターMと対となった中心波長データBDに基づいて波長可変フィルターを駆動することで、分光推定パラメーターMに合致したバンドでの撮影を可能としている。したがって、本実施例における分光画像処理装置500によれば、少ないバンド数のマルチバンド画像から高精度な分光反射率のスペクトルを推定することができる。具体的には、例えば3〜10程度のバンド数でも高精度の推定が可能となる。なお、測定するバンド数が少なくて済むということは、撮影時間が少なくて済むという副次的な効果を奏する。
【0098】
一方、本実施例における分光推定パラメーター生成装置100からみれば、少ないバンド数のマルチバンド画像から高精度な分光反射率のスペクトルを推定することが可能な分光推定パラメーターを生成することができるという効果を奏する、と言える。
【0099】
なお、本実施例における分光画像処理装置500では、検量する特定成分をクロロフィルとして緑色野菜の鮮度を判定する構成としたが、これに替えて、検量する特定成分をオレイン酸として肉の美味しさ判定する構成、検量する特定成分をコラーゲンとして人肌のハリを判定する構成等とすることができる。こうした場合、検量・診断部における処理のためのパラメーターを、検量しようとする特定成分に応じたものに変更する必要があるが、メモリー530に保存した分光推定パラメーターMと中心波長データBDは変更する必要がない。すなわち、検量する特定成分の種類にかかわらず、分光推定パラメーターMと中心波長データBDは共通して用いることができる。本実施例の分光推定パラメーター生成装置100で生成された分光推定パラメーターMと中心波長データBDは、検量する特定成分に関わらないように、広い波長範囲に対応しているためである。
【0100】
従来技術の手法でも、分光推定パラメーターを、検量する特定成分に関わらないよう、広い波長範囲に対応可能とすることはできるが、その場合、マルチバンドカメラからのマルチバンド画像のバンド数を、例えば50〜100というように多くする必要がある。これに対して、本実施例における分光推定パラメーター生成装置100は、先に説明したように、測定するバンド数が少なくて済む。すなわち、本実施例の分光推定パラメーター生成装置100は、広い波長範囲にわたって分光分布を推定可能でありながら、測定するバインド数が少なくて済む分光推定パラメーターを作成することができるという効果を奏する。
【0101】
A−4.変形例:
前述した第1実施例の変形例について、次に説明する。この変形例は、第1実施例と比較して、ステップS150で算出する評価関数F(S)が相違し、その他の構成については同一である。この変形例における評価関数F(S)は、次式(14)に示すものである。
【0102】
【数11】

【0103】
式(14)において、λは波長を示し、w(λ)は重み係数である。このため、式(14)に示す評価関数F(S)によれば、波長毎に重み係数w(λ)を考慮した最適化が可能となる。重み係数w(λ)は、例えば、次式(15)で示すものとすることができる。
【0104】
【数12】

【0105】
式(15)において、z(λ)は等色関数であり、diagは行列の対角成分を取り出すことを示す。
【0106】
図8は、重み係数wと波長λとの関係を示すグラフである。図示するように、重み係数w(λ)は等色関数のグラフに似通ったものとなる。
【0107】
この変形例によれば、F(S)を最小とするように推定した中心波長により駆動したフィルターを通して得られるカメラ出力信号Dから推定されるスペクトルは、視覚に独特な性質である色差を基準に最適化した場合と等価となる。したがって、この変形例によれば、色差まで考慮にいれた分光反射率のスペクトルの推定が可能となる。
【0108】
なお、前記変形例では、推定されるスペクトルは、計測スペクトルとの単純な二乗誤差をとると大きな誤差を含むものとする。したがって、第1実施例のおける式(10)に示す評価関数F(S)を使うか、変形例における式(13)に示す評価関数F(S)を使うかは、分光分布の推定精度を重視するか、色差まで考慮にいれるか等、目的に応じて使い分けるのが好ましい。
【0109】
なお、評価関数については、第1実施例で説明したもの、あるいは変形例で説明したものに限る必要はなく、例えば、二乗誤差と最大誤差の重み付けの和による評価関数等、種々のものとすることができる。すなわち、評価関数は、分光計測器により計測した前記色票毎の分光分布と、分光推定値との間で定義されるものであれば、その他の要因を含むものとすることができる。
【0110】
B.第2実施例:
本発明の第2実施例について、次に説明する。第2実施例の分光推定パラメーター生成装置は、前述した第1実施例の分光推定パラメーター生成装置100と同一のハードウェア構成を備え、ソフトウェアの構成、すなわち、CPU10で実行される分光推定パラメーター生成処理の内容だけが相違する。なお、第1実施例と同じ構成については、第1実施例と同じ符号を用いて、以下の説明を行う。
【0111】
図9は、第2実施例における分光推定パラメーター生成処理を示すフローチャートである。図中のステップS110ないしS140は第1実施例と同じ処理で、第1実施例と同じ番号を付けた。ステップS140の実行後、CPU10は、ステップS110で取得した分光分布Iと、ステップS130で算出したカメラ出力信号Dと、ステップS140で算出した分光推定パラメーターMとに基づいて、評価関数F(M,S)を算出する処理を行う(ステップS250)。
【0112】
第1実施例では、評価関数Fはカメラ分光感度Sの関数としたが、本実施例では、評価関数Fはカメラ分光感度Sと分光推定パラメーターMとの関数とした。評価関数Fが線形の場合、第1実施例のように評価関数FはSの関数とすればよいが、これに対して、モニター表示色分光特性や被写体の色の階調変化等に起因して、評価関数Fが非線形となった場合、カメラ分光感度Sだけで評価関数Fは決まらない。そこで、この第2実施例では、評価関数FはSとMの関数とした。
【0113】
評価関数F(M,S)は、次式(16)に従って求めることができる。なお、カメラ出力信号D、分光分布I、およびカメラ分光感度Sの間には、次式(17)に示す関係が成り立つ。
【0114】
【数13】

【0115】
ステップS250の実行後、CPU10は、ステップS250で算出された評価関数F(M,S)が所定の閾値以下であるか否かを判定する(ステップS260)。ここで、所定の閾値以下でないと判定された場合、すなわち評価関数F(M,S)が所定の閾値よりも大きい(ステップS260:NO)場合には、CPU10は、分光推定パラメーターMの各要素を微少量だけインクリメントする処理を行う(ステップS270)。その後、CPU10は、ステップS270によるインクリメントの総量が所定値を上回ったか否かを判定する(ステップS280)。所定値は、後ほど中心波長データBDの各値を微少量だけインクリメントした際に分光指定パラメーターMが最大変化する量を想定して予め決めた量である。
【0116】
ステップS280で、インクリメントの総量が所定値以下である(ステップS280:NO)と判定された場合には、ステップS250に処理を戻して、ステップS250ないしS270の処理を繰り返し実行する。すなわち、カメラ分光感度Sは固定した状態で、ステップS250ないしS270を繰り返すことで分光推定パラメーターMの各要素の値をずらしながら、評価関数F(M,S)が所定の閾値以下となるか否かを判定する。
【0117】
評価関数F(M,S)が所定の閾値以下となることなく、ステップS280で、インクリメントの総量が所定値を上回ったと判定される(ステップS280:YES)と、CPU10は、中心波長データBDを構成する各値を微少量だけインクリメントする処理を行う(ステップS290)。この処理は、第1実施例におけるステップS170の処理と同一であり、微少量は、例えば0.1nmである。なお、このステップS290の実行時には、ステップS270におけるインクリメントの総量は一旦ゼロにリセットする。
【0118】
ステップS290の実行後、CPU10は、ステップS130に処理を戻して、ステップS130ないしS290の処理を繰り返し実行する。すなわち、ステップS290でインクリメントされた中心波長データBDに応じたステップS130ないしS160の処理が実行されることになる。この処理の繰り返しにより、中心波長データBDを構成する各値を微少量ずつ順にインクリメントし、各インクリメントされた時々の中心波長で(すなわち、カメラ分光感度Sは固定した状態で)、分光推定パラメーターMの各要素の値をずらしながら、評価関数F(M,S)が所定の閾値以下となるか否かを判定する。
【0119】
ステップS260で、評価関数F(M,S)が所定の閾値以下であると判定されたとき(ステップS260:YES)、すなわち、評価関数F(M,S)が最適化されたとみなされた場合には、CPU10は、この最適化がなされた(第1実施例と同様に最適化されたとみなす)ときの中心波長データBDと分光推定パラメーターMを保存する(ステップS300)。この処理は、第1実施例におけるステップS180の処理と同一である。ステップS300の実行後、この分光推定パラメーター生成処理を終了する。
【0120】
ステップS130ないしS290の繰り返しの処理は、次式(18)に示す演算処理を実行することに相当する。
【0121】
【数14】

【0122】
すなわち、式(18)によれば、評価関数F(M,S)が最小となったときのM,Sの値が求められることになる。
【0123】
以上のように構成された第2実施例の分光推定パラメーター生成装置は、第1実施例の分光推定パラメーター生成装置100と同様に、少ないバンド数のマルチバンド画像から高精度な分光反射率のスペクトルを推定することができる。特に本実施例では、評価関数Fが非線形となった場合にも、評価関数Fを目標値に適正化することができる。このため、より高精度な分光推定を実現することのできる分光推定パラメーターの生成が可能となる。
【0124】
なお、前述した第2実施例の変形例として、第1実施例に対する変形例と同じ構成を採用することもできる。すなわち、評価関数F(M,S)を、波長に応じた重み係数w(λ)を考慮したものとすることができる。この構成によれば、第1実施例の変形例と同様に、色差まで考慮にいれた分光反射率のスペクトルの推定が可能となる。
【0125】
C.他の実施形態:
この発明は第1および第2実施例やそれらの変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような実施形態も可能である。
【0126】
・実施形態1:
前記各実施例および各変形例では、分光推定パラメーターを生成する分光推定パラメーター生成装置100と、その分光推定パラメーターの利用を図る分光画像処理装置500とは別々の装置であったが、これに替えて、両者を一体とすることもできる。例えば、汎用のパーソナルコンピューターを用意し、分光推定パラメーター生成装置100の機能と分光画像処理装置500の機能とをパーソナルコンピューターに持たせる構成としてもよい。
【0127】
・実施形態2:
前記各実施例および各変形例において、ソフトウェアによって実現した機能は、ハードウェアによって実現するものとしてもよい。
【0128】
なお、前述した各実施例および各変形例における構成要素の中の、独立請求項で記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0129】
10…CPU
12…初期値設定部
14…カメラ出力算出部
16…パラメーター候補値算出部
18…評価関数制御部
30…ROM
40…RAM
60…出力インタフェース
100…分光推定パラメーター生成装置
200…分光計測器
300…モニター
400…マルチバンドカメラ
410…レンズユニット
420…波長可変フィルター
450…光源ユニット
500…分光画像処理装置
510…CPU
512…測定帯域指示部
514…分光推定部
516…検量・診断部
530…メモリー
550…入出力インタフェース
600…マルチバンドカメラ
700…表示装置
C…モニター表示色分光特性
ET…フィルター分光感度
PD…フォトダイオード分光感度
M…分光推定パラメーター
D…カメラ出力信号
S…カメラ分光感度
I…分光分布
F…評価関数
T…被写体
BD…中心波長データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長可変フィルターを駆動して複数の波長帯域のそれぞれで被写体を撮影するマルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像から、前記被写体の分光反射率のスペクトルを推定することに用いる分光推定パラメーターを生成する分光推定パラメーター生成装置であって、
前記複数の波長帯域を特定することに用いるバンド指示用データに初期値を設定する初期値設定部と、
複数の色票のそれぞれについての分光分布を計測する分光計測器と、
前記バンド指示用データによって前記複数の波長帯域が定まったときの前記マルチバンドカメラの分光感度と、前記各色票からの光の分光特性とに基づいて、前記色票毎に前記マルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像を表すカメラ出力信号を算出するカメラ出力算出部と、
前記分光計測器によって計測した前記色票毎の分光分布と、前記カメラ出力算出部によって算出されたカメラ出力信号とに基づいて、前記分光推定パラメーターの候補値を算出するパラメーター候補値算出部と、
前記分光計測器によって計測した前記色票毎の分光分布と、前記分光推定パラメーターの候補値および前記カメラ出力信号に基づいて算出される分光推定値との間で定義される評価関数が目標値に近づくように前記バンド指示用データを前記初期値から順次変化させ、前記評価関数が前記目標値に達したときの前記バンド指示用データに対応する分光推定パラメーターを求める評価関数制御部と、
前記評価関数制御部によって求められた前記分光推定パラメーターと、前記目標値に達したときの前記バンド指示用データとを記憶する記憶部と
を備える分光推定パラメーター生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の分光推定パラメーター生成装置であって、
前記評価関数制御部は、
前記分光推定パラメーターの候補値を順次変化させる構成を備える、分光推定パラメーター生成装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の分光推定パラメーター生成装置であって、
前記評価関数は、等色関数を使った重み係数を含む、分光推定パラメーター生成装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の分光推定パラメーター生成装置であって、
前記評価関数は、前記色票毎の分光分布に対する前記分光推定値の誤差の二乗ノルムによって定義される、分光推定パラメーター生成装置。
【請求項5】
波長可変フィルターを駆動して複数の波長帯域のそれぞれで被写体を撮影するマルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像から、前記被写体の分光反射率のスペクトルを推定する分光推定装置であって、
前記被写体の分光反射率のスペクトルを推定することに用いる分光推定パラメーターと、前記複数の波長帯域を特定することに用いるバンド指示用データとを記憶する推定装置側記憶部と、
前記推定装置側記憶部に記憶されている前記バンド指示用データを前記マルチバンドカメラに送ることによって、前記マルチバンドカメラに撮影する複数の波長帯域を指示するバンド指示部と、
前記マルチバンドカメラから前記各波長帯域で撮影されたマルチバンド画像を取得するマルチバンド画像取得部と、
前記推定装置側記憶部に記憶されている分光推定パラメーターを用いて、前記マルチバンド画像から前記分光反射率のスペクトルを演算する分光スペクトル演算部と
を備える分光推定装置。
【請求項6】
波長可変フィルターを駆動して複数の波長帯域のそれぞれで被写体を撮影するマルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像から、前記被写体の分光反射率のスペクトルを推定することに用いる分光推定パラメーターを生成する方法であって、
前記複数の波長帯域を特定することに用いるバンド指示用データに初期値を設定し、
複数の色票のそれぞれについての分光分布を分光計測器によって計測し、
前記バンド指示用データによって前記複数の波長帯域が定まったときの前記マルチバンドカメラの分光感度と、前記各色票からの光の分光特性とに基づいて、前記色票毎に前記マルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像を表すカメラ出力信号を算出し、
前記分光計測器によって計測した前記色票毎の分光分布と、前記カメラ出力信号とに基ついて、前記分光推定パラメーターの候補値を算出し、
前記分光計測器によって計測した前記色票毎の分光分布と、前記分光推定パラメーターの候補値および前記カメラ出力信号に基づいて算出される分光推定値との間で定義される評価関数が目標値に近づくように前記バンド指示用データを前記初期値から順次変化させ、前記評価関数が前記目標値に達したときの前記バンド指示用データに対応する分光推定パラメーターを求め、
前記求められた前記分光推定パラメーターと、前記目標値に達したときの前記バンド指示用データとを記憶部に記憶する、分光推定パラメーター生成方法。
【請求項7】
波長可変フィルターを駆動して複数の波長帯域のそれぞれで被写体を撮影するマルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像から、前記被写体の分光反射率のスペクトルを推定することに用いる分光推定パラメーターを生成するためのコンピュータープログラムであって、
前記複数の波長帯域を特定することに用いるバンド指示用データに初期値を設定する機能と、
複数の色票のそれぞれについての分光分布を分光計測器によって計測する機能と、
前記バンド指示用データによって前記複数の波長帯域が定まったときの前記マルチバンドカメラの分光感度と、前記各色票からの光の分光特性とに基づいて、前記色票毎に前記マルチバンドカメラから出力されるマルチバンド画像を表すカメラ出力信号を算出する機能と、
前記分光計測器によって計測した前記色票毎の分光分布と、前記カメラ出力信号とに基ついて、前記分光推定パラメーターの候補値を算出する機能と、
前記分光計測器によって計測した前記色票毎の分光分布と、前記分光推定パラメーターの候補値および前記カメラ出力信号に基づいて算出される分光推定値との間で定義される評価関数が目標値に近づくように前記バンド指示用データを前記初期値から順次変化させ、前記評価関数が前記目標値に達したときの前記バンド指示用データに対応する分光推定パラメーターを求める機能と、
前記求められた前記分光推定パラメーターと、前記目標値に達したときの前記バンド指示用データとを記憶部に記憶する機能と
をコンピューターに実現させるコンピュータープログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−242271(P2012−242271A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113484(P2011−113484)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】