説明

分光装置、検出装置及び分光装置の製造方法

【課題】波長分解能と回折効率をともに向上し、しかも反射損失を低減できる透過型回折格子を用いた分光装置、検出装置及び分光装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】入射光を透過する透過型回折格子を含む分光装置であって、透過型回折格子は、基材100より第1方向Xに沿って周期的に突出する複数の突起110を有し、複数の突起が傾斜面140を有し、傾斜面は、基材に垂直な基準線に対して傾斜し、透過型回折格子への入射光の入射角度を基準線に対して角度αとし、回折光の回折角度を基準線に対して角度βとする場合に、入射角度αは、傾斜面に対するブラッグ角度θよりも小さい角度であり、回折角度βは、ブラッグ角度θよりも大きい角度であり、複数の突起の各々は、傾斜面からの第1方向での距離が異なるに従い、複数の突起の各々と空気との界面に至る基材からの突出高さが異なる第1反射防止構造150(160)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光装置、検出装置及び分光装置の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラマン分光器等の分光装置に用いられている回折格子の多くは反射型である。反射型の回折格子として、例えば断面が鋸歯状に形成されたブレーズ化格子がある(例えば、特許文献1に記載の回折格子)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−354176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、反射型の回折格子には、波長分解能を向上させることと、高回折効率が得られる波長帯域を広げることの両立が困難であるという課題がある。例えば、ブレーズ化回折格子では、断面形状がブレーズ化されていることで、回折効率が向上する。しかしながら、ブレーズ化回折格子では、波長分解能を向上するために格子周期を短くすると、高回折効率が得られる波長帯域がきわめて狭くなってしまう。
【0005】
本発明の幾つかの態様によれば、波長分解能と回折効率をともに向上し、しかも反射損失を低減できる透過型回折格子を用いた分光装置、検出装置及び分光装置の製造方法等を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様は、
入射光を透過する透過型回折格子を含む分光装置であって、
前記透過型回折格子は、基材より第1方向に沿って周期的に突出する複数の突起を有し、前記複数の突起の各々が傾斜面を有し、前記傾斜面は、前記基材に垂直な基準線に対して傾斜し、
前記透過型回折格子への入射光の入射角度を前記基準線に対して角度αとし、回折光の回折角度を前記基準線に対して角度βとする場合に、
前記入射角度αは、前記傾斜面に対するブラッグ角度θよりも小さい角度であり、
前記回折角度βは、前記ブラッグ角度θよりも大きい角度であり、
前記複数の突起の各々は、前記傾斜面からの前記第1方向での距離が異なるに従い、前記複数の突起の各々と空気との界面に至る前記基材からの突出高さが異なる第1反射防止構造を有する分光装置に関する。
【0007】
本発明の一態様によれば、突起の傾斜面が、基準線に対して傾斜され、配列される。そして、透過型回折格子に対する入射光が、ブラッグ角度θよりも小さい角度αで入射され、透過型回折格子による回折光が、ブラッグ角度θよりも大きい角度βで出射される。これにより、波長分解能を向上し、高回折効率を得られる波長帯域を広げること等が可能になる。
【0008】
さらに本発明の一態様によれば、第1方向では、突起と空気との界面での屈折率の変化が滑らかとなり、急激な屈折率差が生じない。このため、突起に入射される光はほとんど反射されることなく突起に到達し、反射損失が低減される。
【0009】
(2)本発明の一態様では、前記第1反射防止構造は、前記突起の自由端部に形成することができる。突起の自由端部をフラットにするものと比較して、突起の自由端部での反射損失を低減できる。
【0010】
(3)本発明の一態様では、前記第1反射防止構造は、前記突起の基端部にも形成することができる。突起の基端部(突起間の底部)をフラットにするものと比較して、突起の自由端部での反射損失を低減できる。
【0011】
(4)本発明の一態様では、前記複数の突起の各々は、前記第1方向と直交する第2方向に沿って、一側面から他側面に向けて延在形成され、
前記複数の突起の各々は、前記一側面からの前記第2方向での距離が異なるに従い、前記複数の突起の各々と空気との界面に至る前記基材からの突出高さが異なる第2反射防止構造をさらに有することができる。
【0012】
こうすると、第2方向でも、突起と空気との界面での屈折率の変化が滑らかとなり、急激な屈折率差が生じない。このため、反射損失がさらに低減される。
【0013】
(5)本発明の一態様では、前記基準線に対する前記傾斜面の傾斜角度をφとする場合に、前記傾斜面は、前記第1方向に周期P/cosφで配列され、前記入射光は、前記基準線に垂直な平面に平行で、前記傾斜面の配列方向に垂直な直線偏光とすることができる。
【0014】
このようにすれば、傾斜面を基準線に対して角度φで傾斜させて配列し、その傾斜面に平行で基準線に垂直な直線偏光を透過型回折格子に対して入射し、その回折光を得ることができる。
【0015】
(6)本発明の他の態様は、
上述した分光装置と、
標的物からの散乱光または反射光を、前記ブラッグ角度θよりも小さい前記入射角度αで前記分光装置に入射させる光学系と、
前記分光装置からの回折光を検出する検出器と、
を含む検出装置に関する。
【0016】
このような検出装置によれば、回折格子での反射損失が低減されるので、回折光の光量を増大させて検出器での信号レベルを大きくすることができる。
【0017】
(7)本発明のさらに他の態様は、
基材に塗布されたレジストに対して第1のレーザー光と第2のレーザー光を入射して、前記レジストを干渉露光し、
前記干渉露光されたレジストを現像し、
前記基材の平面に向かう垂線に対して傾斜角度φで傾斜し、かつ、前記基材を露出することなくレジストパターンを形成する分光装置の製造方法に関する。この製法により、第1反射構造を有する回折格子を製造することができる。
【0018】
(8)本発明のさらに他の態様は、
前記基材に塗布されたレジストをレーザー干渉露光し、
前記基材を90度回転してレーザー干渉露光し、
前記干渉露光されたレジストを現像し、
前記基材の平面に向かう垂線に対して傾斜角度φで傾斜し、かつ、前記基材を露出することなくレジストパターンを形成する分光装置の製造方法に関する。この製法により、第2反射構造を有する回折格子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の比較例であるブレーズ化回折格子を示す図である。
【図2】比較例における回折角度に対する波長分解能の特性図である。
【図3】図3(A)は、本実施形態の傾斜構造の回折格子の構成例の断面図であり、図3(B)は、傾斜面の周期構造によるブラッグ反射の説明図である。
【図4】本実施形態における回折角度に対する波長分解能の特性図である。
【図5】図5(A)は、傾斜角度0°とした場合の入射角度に対する回折効率の特性図であり、図5(B)は、本実施形態における入射角度に対する回折効率の特性図である。
【図6】図6(A)は、傾斜角度0°とした場合の波長λに対する回折効率の特性図であり、図6(B)は、本実施形態における波長λに対する回折効率の特性図である。
【図7】図7(A)、図7(B)は、基材の平面に反射防止膜を形成した回折格子の説明図である。
【図8】図8(A)、図8(B)は、第1,第2反射防止構造を有する回折格子の説明図である。
【図9】図9(A)〜図9(D)は、回折格子の製造方法についての説明図。
【図10】図10(A)、図10(B)は、検出装置の第1の構成例を示す図である。
【図11】図11(A)、図11(B)は、検出装置の第2の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0021】
1.比較例
上述のように、ブレーズ化回折格子では、波長分解能と回折効率の両立が困難であるという課題がある。この点について、図1、図2を用いて説明する。
【0022】
図1に、本実施形態の比較例として、ブレーズ化回折格子の例を示す。図1に示すように、ブレーズ化回折格子の格子周期をPaとし、入射光の波長をλaとし、入射光の入射角度をαaとし、回折光の回折角度をβaとする。
【0023】
まず、波長分解能について考える。回折格子の波長分解能Δβ/Δλは下式(1)で表される。下式(1)より、波長分解能Δβ/Δλを高めるためには、格子周期Paを小さくし、回折角度βaを大きくすればよいことがわかる。
【0024】
Δβ/Δλ=1/(Pa・cosβa) (1)
図2は、上式(1)において波長λa=633nm、格子周期Pa=333nmとした
場合の、回折角度βaに対する波長分解能Δβ/Δλの特性例である。この例では、波長と格子周期の比はλa/Pa=1.9である。このとき、図2に示すように、回折角度βaを70°とすると、波長分解能Δβ/Δλはおよそ0.009まで向上する。
【0025】
次に、回折効率について考える。反射型回折格子の場合には、その断面形状をブレーズ化することで回折効率を高めることが可能である。しかしながら、波長分解能Δβ/Δλを向上するために格子周期Paを小さくすると、断面形状をブレーズ化しても高い回折効率を得ることは難しい(最新 回折光学素子 技術全集,技術情報協,p.107-p.120(2004))。このように、ブレーズ化回折格子等の反射型回折格子では、高い波長分解能と高い
回折効率を同時に実現することは困難となってしまう。
【0026】
例えば、ラマン分光器等の分光装置では、高い波長分解能と高い回折効率を広い波長域で同時に満足する回折格子が求められている。ラマン分光では、試料からの散乱光は、主にレイリー散乱光とラマン散乱光である(以下では、レイリー散乱波長λrayに対してラマン散乱波長λray+Δλとなるストークス成分に注目する)。このラマン分光では、実用上課題となることがいくつかある。まず、ラマン散乱光の強度は、レイリー散乱光の強度と比べて極めて微弱である。次に、ラマン分光により物質を特定する場合、試料から散乱されるラマン散乱光を0.5nm程度の波長分解能で分光する必要がある。さらに、レイリー散乱光とラマン散乱光の波長差は100nm程度である。これらの点を考慮すると、ラマン分光に使用される回折格子では、可視から近赤外(波長400nm〜1100nm)において0.5nm程度の高い波長分解能を得られることが要求される。加えて、100nm程度の広い波長帯域において高い回折効率が得られることが要求される。
【0027】
2.広波長帯域にて高い回折効率を得る回折格子の傾斜構造
本実施形態では、ブラッグ反射を生じる周期構造を傾斜させて、回折角度を大きくするとともに格子周期をより大きく取れるようにすることで、波長分解能の向上と回折効率の広帯域化を行う。図3(A)〜図6(B)を用いて、この本実施形態の透過型回折格子に(以下回折格子と省略する)ついて説明する。なお、以下では、各構成要素を図面上で認識し得る程度の大きさとするため、各構成要素の寸法や比率を実際のものとは適宜に異ならせてある。
【0028】
ここで、以下では、回折格子を表面増強ラマン散乱分光に用いる場合について説明するが、本実施形態ではこの場合に限定されず、回折格子を種々の分光手法に利用することが可能である。
【0029】
図3(A)に、本実施形態の透過型回折格子の構成例の断面図を示す。この回折格子は、表面凹凸型の回折格子である。誘電体から成る基材100(基板)は、第1方向Xに沿って周期的に突出する複数の突起110を有し、複数の突起110の各々が傾斜面140(または傾斜面141)を有し、傾斜面140(または傾斜面141)は、基材100に垂直な基準線130に対して傾斜している。複数の突起110は、第1方向Aと直交する第2方向Y(紙面と直交する方向)に延びている。なお、図3(A)は、基材100の平面に垂直で複数の突起110の配列方向に平行な面での断面図である。
【0030】
基材100は、入射光を透過する石英ガラス基板等の誘電体により形成され、四角形平板状や円板状に形成される。入射光を透過するとは、入射光の波長(使用波長)に対して透明な場合だけでなく、入射光量の一部を透過する半透明な場合を含むものとする。
【0031】
複数の突起110は、誘電体(例えば基材100と同じ誘電体)により形成され、基材100の平面に平行な第1方向Xに沿って周期P/cosφ(格子間隔)で配列される。基材100の平面とは、例えば複数の突起110が形成される側の基材100の表面101(第1面)に平行な面である。複数の突起110は、基準線130に対して角度φ(φ>0°)だけ傾斜して形成される。より具体的には、複数の突起110には、基準線130に対して角度φで傾斜する傾斜面140(または傾斜面141)が形成される。基準線130とは、傾斜角度φや入射角度α、回折角度βの基準となる線であり、例えば基材100の平面に対する垂線(法線)である。傾斜面140は、傾斜面140に垂直な方向での周期がPであり、回折光(ブラッグ反射光)は、この周期Pの周期構造により生じる。なお、使用波長λと格子周期Pが1.0<λ/P<2.0を満たすことが望ましい。また、格子周期Pが200〜1100nmであり、複数の突起110の高さが500〜3000nmであることが望ましい。また、傾斜角度がφ<45°であることが望ましい。
【0032】
図3(A)に示すように、回折格子には波長λの入射光が角度αで入射し、回折光が角度βで基材100の裏面102(第2面)側に透過する。ここで、基材100の裏面102とは、複数の突起110が形成されない側の面である。このとき、傾斜角度φで傾斜する回折格子の波長分解能Δβ/Δλは、下式(2)で表される。なお、下式(2)でφ=0とすると上式(1)が得られ、傾斜がない場合の波長分解能を表す式となる。
【0033】
Δβ/Δλ=cosφ/(P・cosβ) (2)
次に、本実施形態による波長分解能と回折効率を向上させる手法について説明する。図3(B)に示すように、本実施形態では傾斜面140(または傾斜面141)の周期構造によるブラッグ反射を利用している。図3(B)では、便宜的に傾斜角度φ=0°の場合について考える。ブラッグ反射を生じる入射光の入射角度をブラッグ角度θとすると、ブラッグ条件は下式(3)で表される。ブラッグ角度θは、傾斜面140に対する角度である。また、nは空気(広義には媒質)の屈折率である。
【0034】
2nPsinθ=λ (3)
比較例で説明したように、波長分解能Δβ/Δλを大きくするためにはブラッグ角度θ(回折角度)を大きくする必要がある。上式(3)より、ブラッグ角度θを大きくすると、Pを小さくしなければならないことが分かる。しかしながら、比較例で説明したように、Pを小さくすると回折効率の高い波長帯域が狭くなってしまう。そこで、本実施形態では、図3(A)に示すように複数の突起110を傾斜させることで、回折角度βを大きくしている。このとき、入射角度αは近似的にα=θ−φであり、回折角度βは近似的にβ=θ+φである。このように、複数の突起110を傾斜させることで回折角度βよりもブラッグ角度θを小さくできるため、回折角度βにより波長分解能Δβ/Δλを大きくするとともに、φ=0°の場合に比べて周期Pをより大きな値にできる。
【0035】
このようにして、回折角度βを大きくして波長分解能を向上することと、必要な波長分解能が得られる範囲で周期Pをできるだけ大きくして回折効率を広帯域化することを同時に実現できる。なお、後述するように、厳密には入射角度α=θ−φ、回折角度β=θ+φであるとは限らない。
【0036】
図4に、回折角度βに対する波長分解能Δβ/Δλの特性例を示す。図4は、波長λ=633nm、格子周期P=366nm、傾斜角度φ=10°の場合の例であり、1次透過回折光のブラッグ角度はθ=59.9°である。格子周期P=366nmは、上述の比較例での格子周期Pa=333nmに比べて10%大きい値である。また、上式(2)より、この回折格子の波長分解能は、周期がP/cosφ=366/cos(10°)=372nmである傾斜がない回折格子の波長分解能と同じである。
【0037】
突起の傾斜がないφ=0°の場合には、回折角度がブラッグ角度θ=59.9°の近傍で、1次回折光の回折効率は最大となる。このとき、図4に示すように、波長分解能はΔβ/Δλ=0.005にとどまる。一方、突起をφ=10°傾斜させた場合には、回折角度はβ=73°まで広がるため、波長分解能はφ=0°の場合から約1.8倍向上してΔβ/Δλ=0.009以上となる。これは、上述の比較例と同等の波長分解能である。このように、回折格子を角度φ=10°で傾斜させることで、回折角度β=73°の近傍において高い回折効率を実現している。
【0038】
図5(A)、図5(B)に、入射角度αに対する回折効率の特性例を示す。この例は、波長λ=633nm、格子周期P=366nm、突起の高さが745nmである場合の特性例である。また、突起の基材(及び突起群)は石英ガラスであり、その屈折率を1.46とする。入射光は直線偏光であり、その偏光方向(偏光方位)は突起の溝と平行である。
【0039】
図5(A)のA1に示すように、回折格子の傾斜がないφ=0°の場合には、入射角度αがブラッグ角度59.9°の近傍であるときに高い回折効率が得られる。入射角度αが59.9°のとき、回折角度βも59.9°である。一方、図5(B)のB1に示すように、回折格子の傾斜がφ=10°の場合は、入射角度αが43°の近傍となるときに高い回折効率が得られる。この特性から、例えば入射角度αを46°とすると、回折角度βは73°となる。このとき、図4で上述のように、波長分解能Δβ/Δλは1.8倍向上しておよそ0.009となる。
【0040】
このように、回折格子を10°傾斜させることにより、比較例と比べて格子周期が10%大きい条件においても、波長分解能Δβ/Δλを比較例同等の0.009に高めることが可能となる。これは、回折格子を傾斜させブラッグ角度をシフトさせることで、回折角度βを十分に大きくとることができるためである。
【0041】
図6(A)、図6(B)に、波長λに対する回折効率の特性例を示す。この例は、波長λ=633nm、格子周期P=333nm(図6(A))、P=366nm(図6(B))の場合の特性例である。また、入射光は直線偏光であり、その偏光方向は格子の溝と平行である。
【0042】
比較例で上述のように、格子周期Pが比較的小さい条件であれば、突起を傾斜させなくても高い波長分解能Δβ/Δλを期待できる。しかしながら、格子周期Pを小さくすると高い回折効率が得られる波長帯域が狭くなってしまう。具体的には、図6(A)に示すように、格子周期Pが333nmの条件では、例えば0.8以上の高い回折効率が得られる波長帯域が560nm〜640nmと狭く、ラマン分光に求められる波長帯域100nmを確保できない。これは、高い回折効率が得られる波長帯域の長波長端が回折領域(例えばλ/P≦2)と非回折領域(λ/P>2)の境界に近接しているためである。
【0043】
一方、図6(B)に示すように、格子周期Pが366nmの条件では、高い回折効率が得られる波長帯域の長波長端が回折領域と非回折領域の境界から離れる。そのため、0.8以上の高い回折効率が得られる波長帯域が長波長側に広がって565nm〜675nmとなり、ラマン分光に求められる波長帯域100nmを確保できる。
【0044】
さて、ブレーズ化格子等の反射型回折格子では、波長分解能を向上するために回折角度βと周期Pを小さくする必要があるため、波長分解能と回折効率の帯域幅を共に向上することが困難であるという課題があった。
【0045】
この点、本実施形態は、入射光を透過する透過型回折格子(広義には分光装置)である。図3(A)に示すように、透過型回折格子は、第1の誘電体により形成される傾斜面140(または傾斜面141)を有する。この傾斜面140は、基準線130に対して角度φで傾斜し、傾斜面140に垂直な方向での周期がPとなるように配列される。透過型回折格子への入射光の入射角度は基準線130に対して角度αであり、回折光の回折角度は基準線130に対して角度βである。この場合、入射光は、傾斜面140の周期Pで決まるブラッグ角度θよりも小さい入射角度α(α<θ)で入射される。回折光は、ブラッグ角度θよりも大きい回折角度β(β>θ)で回折される。
【0046】
これにより、波長分解能を向上し、高回折効率の帯域を広げることが可能になる。具体的には、傾斜面140が周期Pで配列されることで、回折格子に1次元の周期的誘電率分布が形成される。そして、図5(B)に示すように、この誘電率分布を格子表面に対して例えばφ=10°傾斜させることで、傾斜がない場合のブラッグ角度θ=59.9°よりも入射角度α=43°を浅くし、傾斜がない場合のブラッグ角度θ=59.9°よりも透過回折角度β=73°を深くできる。すなわち、誘電率分布を傾斜させることにより、最大回折効率が得られる光入射角度αをブラッグ角度θから浅い角度へシフトさせている。これにより、回折格子の周期Pが比較的大きい条件でも、その波長分解能Δβ/Δλを十分に高めることができる。このようにして、本実施形態では高い波長分解能(例えば図4)と高い回折効率を広い波長帯域で(例えば図6(B))同時に満足させている。例えば、本実施形態をラマン分光へ応用した場合、広い波長帯域を有する微弱なラマン散乱光を高効率に光検出器へ導くことが可能となる。
【0047】
また、信号光と迷光を分離する点においても、従来必須とされていた高価なバンドパスフィルターが不要になるという効果も期待できる。すなわち、高い波長分解能が得られるため、ラマン散乱光とレイリー散乱光が十分分離され、遮断特性が急峻なフィルターを用いる必要がなくなる。また、本実施形態の回折格子は透過型であるため、レンズや鏡等の光学要素の配置の自由度を高くでき、分光装置を小型化することができる。
【0048】
なお、図3(A)に示す断面において、入射光の入射角度αは、例えば基準線130に対して例えば反時計回り(正の方向)の角度である。この場合、傾斜面140の傾斜角度φは、基準線130に対して時計回り(負の方向)の角度である。
【0049】
また、本実施形態では、透過型回折格子に対する入射光は、傾斜面140に平行で基準線130に垂直な直線偏光である。
【0050】
このようにすれば、格子の溝(周期的誘電率分布)に平行な直線偏光を入射光として入射できる。これにより、上述のような回折効率特性(例えば図5(B)のB1に示す特性)を実現できる。なお、本実施形態ではこの場合に限定されず、入射光が、傾斜面140に平行で基準線130に垂直な偏光成分を含んでいればよい。
【0051】
また、本実施形態では、図3(A)に示すように、透過型回折格子は、基準線130に垂直な平面(例えば表面101)を有する基材100に、第1の誘電体により形成される複数の突起110が、基材100の平面に平行な方向に沿って周期P/cosφで配列されることで形成される。そして、複数の突起110には、基準線130に対して角度φで傾斜する傾斜面140が形成される。
【0052】
このようにすれば、複数の突起110が周期的に配列されることで、傾斜面140に垂直な方向での周期がPである傾斜面140を実現できる。これにより、傾斜した凹凸型の透過型回折格子を実現できる。
【0053】
また、本実施形態では、傾斜角度φは、基材100の平面に垂直に投影した平面視において、複数の突起110の隣り合う突起が重ならないように設定される。
【0054】
このようにすれば、突起がオーバーラップしない傾斜角度φに設定されることで複数の突起110の高さが抑制され、複数の突起110の製造を容易化できる。また、回折効率等のシミュレーションを高精度に行うことができるため、信頼性の高い設計が可能になる。
【0055】
図7(A)、図7(B)を用いて、反射防止膜付の回折格子340について説明する。図7(A)に示す配置例では、回折格子340の凹凸面側(複数の格子110が配列された表面101側)から入射光が入射される。一方、図7(B)の配置例では、回折格子340の裏面102側から入射光が入射される。いずれの配置例でも、基材100の裏面102側には反射防止膜190が形成されている。この反射防止膜190により、回折光または入射光の反射が抑制されるため、理論値に近い高い回折効率を実現できる。なお、回折効率の波長依存性や角度依存性は光の入射方向により多少異なるため、上記配置例のうち特性がより優れた配置で回折格子を使用することが望ましい。
【0056】
特に図7(A)にすれば、回折角度βの大きい回折光が基材100の裏面102で反射されて、裏面102側への透過回折光が減少してしまうことを抑制できる。これにより、効率よく透過回折光を取り出せるため、高感度なセンシングが可能になる。また、入射光が基材100を通過せずに傾斜面140に入射されるため、高効率な回折光を得ることができる。
【0057】
3.さらに反射防止構造を有する回折格子
本実施形態では、図8(A)(B)に示すように、図3(A)に示す格子周期構造を傾斜させた透過型回折格子に、図7(A)(B)の反射防止膜とは異なる反射防止構造をさらに付加している。
【0058】
図8(A)は、傾斜面140からの第1方向Xでの距離が異なるに従い、突起110と空気との界面までの突出高さが異なる第1反射防止構造150,160を示している。一方の第1反射防止構造150は、突起110の自由端部に形成され、突起110の自由端部が例えばテーパー状(先細り状)に形成されることで、突起110と空気との界面までの突出高さがX方向にて徐々に変化している。他方の第1反射防止構造160は、突起110の基端部(突起110間の溝115の底部)に形成され、例えば溝115の底部が丸みを帯びることで、突起110と空気との界面までの突出高さ(溝115の深さ)がX方向にて徐々に変化している。
【0059】
このようにすると、高さ方向Zに対して、突起110の自由端部及び基端部にてX−Y平面の横断面積が徐々に変化し、それにより第1方向Xでは、突起110と空気との界面での屈折率の変化が滑らかとなり、急激な屈折率差が生じない。このため、突起110に入射される光はほとんど反射されることなく突起110に到達する。
【0060】
図8(B)では、複数の突起110の各々が、第1方向Xと直交する第2方向Yに沿って、一側面111から他側面(図示せず)に向けて延在形成され、一側面111からの第2方向Yでの距離が異なるに従い、突起110と空気との界面までの突出高さが異なる第2反射防止構造170,180を示している。
【0061】
一方の第2反射防止構造170は、突起110の自由端部に形成され、突起110の頂部が波形に形成されることで、突起110と空気との界面までの突出高さがY方向にて徐々に変化している。他方の第2反射防止構造180は、突起110の基端部(突起110間の溝115の底部)に形成され、例えば溝115の最深部が波形に形成されることで、突起110と空気との界面までの突出高さ(溝115の深さ)がY方向にて徐々に変化している。
【0062】
このようにすると、第1反射防止構造150,160にさらに加えて、高さ方向Zに対して、突起110の自由端部及び基端部にてX−Y平面の横断面積が徐々に変化し、それにより第2方向Yでも、突起110と空気との界面での屈折率の変化が滑らかとなり、急激な屈折率差が生じない。このため、突起110に入射される光の反射はさらに低減される。
【0063】
なお、本実施形態では、一方の第1反射構造150を有するものであれば、他方の第1反射構造160、さらには第2反射構造170または180を任意的に付加するものであってもよい。また、第1,第2方向X,Yにて突起110と空気との界面までの突出高さ(溝115の深さ)が徐々に変化するものであれば、第1,第2反射防止構造150〜180の形状についてもランダム構造等の種々の変形実施が可能である。
【0064】
4.製造方法
図9(A)〜図9(D)を用いて、傾斜した突起100及び反射防止構造150(160,170,180)を有する透過型回折格子の製造方法について説明する。
【0065】
まず、図8(A)のレジストパターン潜像形成について説明する。図9(A)に示すように、石英ガラス基板200上にレジスト210を、通常よりも厚く例えば約1.2μmの厚さで塗布する。そして、入射角度θ1のレーザー光LS1と入射角度θ2のレーザー光LS2を照射し、レジスト210をレーザー干渉露光する。このとき、レジストパターンが基板200に底付しないように感光する露光量、例えば30秒で露光する。この露光量30秒は、レジスト210の膜厚0.8μm時に基板200に底付きする露光量であり、膜厚を1.2μmと厚くすることで、基板200まで底付せず、溝115の底部が丸みを帯び、第1反射防止構造160の潜像が形成される。さらにバイアス露光(干渉させない露光)を例えば5秒行うことで、突起110の自由端部がテーパー状(先細り状)に形成され、第1反射防止構造150の潜像が形成される。以上の露光を連続して実施し、レジスト210中に図8(A)に示すレジストパターンの潜像を形成する。露光の順番は問わない。なお、バイアス露光を実施するには、例えば図9(A)の片側の経路だけで干渉させずに露光することで実施可能である。
【0066】
次に、図8(B)のレジストパターン潜像形成について説明する。図8(A)と同じく、図9(A)に示すように、石英ガラス基板200上にレジスト210を、通常よりも厚く例えば約1.2μmの厚さで塗布する。そして、入射角度θ1のレーザー光LS1と入射角度θ2のレーザー光LS2を照射し、レジスト210をレーザー干渉露光する。このとき、レジストパターンが基板200に底付しないように感光する露光量、例えば30秒で露光する。この露光量30秒は、レジスト210の膜厚0.8μm時に基板200に底付きする露光量であり、膜厚を1.2μmと厚くすることで、基板200まで底付せず、溝115の底部が丸みを帯び、第1反射防止構造160の潜像が形成される。次に、基板200を90度回転させ、例えば5秒干渉露光すると、突起110の自由端部がテーパー状(先細り状)に形成され、第2反射防止構造170の潜像が形成される。この第2反射防止構造170は突起110と空気との界面までの突出高さがY方向にて徐々に変化している。次に、石英基板200の表裏を逆にして配置し、裏面側より例えば5秒間干渉露光すると、突起110の基端部(突起110間の溝115の底部)に第2反射防止構造180の潜像が形成される。第2反射防止構造180は、突起110と空気との界面までの突出高さ(溝115の深さ)がY方向にて徐々に変化している。以上の露光を連続して実施し、レジスト210中に図8(B)に示すレジストパターンの潜像を形成する。露光の順番は問わない。
【0067】
干渉露光による干渉縞の間隔Dは、下式(4)で表される。λsは、レーザー光LS1、LS2の波長である。また、レジスト中の干渉縞の傾斜角度φは下式(5)で表される。nは、露光波長λsに対するレジスト210の屈折率である。また、θ2>θ1とする。
【0068】
D=λs/(sin(θ1)+sin(θ2)) (4)
φ=(sin−1(sin(θ2)/n)−sin−1(sin(θ1)))/2
(5)
例えば、干渉露光用のレーザー光源は、連続発振のHe−Cdレーザー(波長λs=325nm)であり、レジスト210はポジ型レジストであり、レジスト膜厚は1.2μmである。また、例えば、レーザー光の入射角度はθ1=9.1°、θ2=45.7°であり、レジストの屈折率はn=1.60である。このとき、上式(4)より、基板200の平面に平行な方向での干渉縞の間隔はD=372nmである。また、上式(5)より、干渉縞の傾斜φは約10°(φ=10.4°)である。傾斜に垂直な方向での干渉縞の周期は、D・cosφ=366nmである。このようにして、基板200の法線に対する干渉角度を左右(θ1とθ2)で非対称にして、傾斜した干渉縞の潜像をレジスト210中に形成する。
【0069】
次に、図9(B)に示すように、露光されたレジスト210を現像し、10°傾斜した1次元のレジストパターン220を得る。ここで、レジストパターン220の下層にレジスト210が残存しており、レジストパターン220の自由端部と基端部とには、図8(A)に示す突起110の第1反射防止構造150,160と同様な構造が形成される。
【0070】
次に、図9(C)に示すように、レジストパターン220をマスクとして、斜め10°の方向から石英ガラス基板を異方性ドライエチングする。エッチングガスには、例えばCFやCHFやCを用いる。図9(C)はエッチング途中であり、図9(D)に示すように、レジストパターンがなくなるまで、オーバーエッチングを行う。エッチングガスの流量やガス構成等の条件を変えることで選択比を制御することができる。基板200とレジスト210に対する選択比を1:1とすると、レジストパターン220と同じ形状の複数の突起240を形成することができる。また、選択比を適宜変えることで、レジストパターン深さを自在に変えることもできる。さらに、エッチング条件を途中で変えてもよい。突起110の自由端部及び基端部のエッチング処理だけ、エッチング圧力やエッチングガスの構成を変化させると、反射防止構造150、160、170、180の傾斜を制御することができる。このようにして、10°傾斜し、第1反射構造250,260を有する複数の突起240が、基材230の表面に配列された1次元の透過型回折格子が形成される。
【0071】
なお、上記では基材100と同じ石英ガラスにより複数の突起240を形成する例を説明したが、本実施形態はこれに限定されない。例えば、図9(B)に示すレジストパターン220に樹脂(ポリマー)を充填し、その樹脂を硬化させ、レジストパターン220を剥離することで、基材100とは異なる素材で複数の突起240を形成してもよい。また、レジストパターン220から金型を作製することができ、同様に樹脂の転写によって、複数の突起240を量産することもできる。
【0072】
さらに、図8(A)第1反射防止構造150、160および図8(B)に示す第2反射防止構造170、180は、周期構造を説明したが、ランダム構造であってもよい。
【0073】
以下、ランダム構造の作製方法を示す。上記干渉露光で形成したレジストパターンにAgを蒸着すると、突起110の自由端部及び基端部に直径数nmから数十nmのAgアイランドが形成される。次にAgアイランド付きレジストパターンをマスクとして、CF等のガスを用い、ドライエッチングを行う。すると、突起110の自由端部に第1反射防止構造150、160がランダムに形成される。(図示せず)このとき望ましくはAgの膜厚は5〜10nmがよい。5nm前後にすると、ドライエッチング処理で、マスクとして機能したAgアイランドが適度に後退し、突起110の自由端部に第1反射防止構造150、160がランダムに形成できる。エッチング条件を変化させると様々な形状が可能である。
【0074】
5.検出装置
図10(A)、図10(B)に、本実施形態の回折格子が適用される検出装置の第1の構成例を示す。この検出装置は、ラマンセンサー300(センサーチップ、光デバイス)、第1の凹面鏡310、バンドパスフィルター320、偏光板330、回折格子340、第2の凹面鏡350、アレイ光検出器360(検出器)、光源370、エッジフィルター380を含む。この検出装置は、1つの回折格子340と2つの凹面鏡310、350が所定の位置関係に配置されたシングル分光装置である。なお、以下では、ラマン分光測定を行うための検出装置について説明するが、本実施形態の回折格子は、他の分光手法を用いた検出装置にも適用できる。
【0075】
図10(B)に示すように、光源370からのレーザー光は、エッジフィルター380により反射され、ラマンセンサー300上の試料390(標的物)に照射される。例えば、光源370は、連続発振のHe−Neレーザー(波長633nm、出力20mW)である。レーザー光が照射された試料390は、ラマンセンサー300による表面増強ラマン散乱により、レイリー散乱光とラマン散乱光を発生させる。これらの散乱光は、エッジフィルター380に入射される。このエッジフィルター380は、レーザー光の波長(633nm)の光を反射し、それより長波長の光を透過する。すなわち、エッジフィルター380によりレイリー散乱光は反射され、ラマン散乱光は透過される。透過したラマン散乱光は凹面鏡310に入射され、凹面鏡310により平行光にされる。
【0076】
次に、図10(A)に示すように、凹面鏡310からの反射光は、バンドパスフィルター320と偏光板330を通過し、回折格子340に所定の入射角度αで入射される。バンドパスフィルター320は、さらにレイリー散乱光を遮断し、ラマン散乱光のみを透過する。偏光板330は、回折格子340への入射光を直線偏光にし、その偏光方位を回折格子340の溝と平行にする。回折格子340への入射光は、回折角度βで透過回折され、分光される。分光されたラマン散乱光は、波長毎に僅かに異なる回折角度であり、各波長では平行光である。この分光されたラマン散乱光は、凹面鏡350へ入射され、凹面鏡350によりアレイ光検出器360上に集光され、スペクトル分布を形成する。そして、アレイ光検出器360によりラマン散乱光のスペクトル分布が検出される。
【0077】
次に、この検出装置の波長分解能について具体的に説明する。アレイ光検出器360上でのレイリー散乱光の位置をX(λ)とし、ラマン散乱光(ストークス光)の位置をX(λ+Δλ)とすると、これらの位置間の距離は下式(6)で表される。ここで、fは凹面鏡350の集光距離(焦点距離)、Δβ/Δλは回折格子の波長分解能である。
【0078】
X(λ+Δλ)−X(λ)=f・Δλ・(Δβ/Δλ) (6)
上式(6)より、波長分解能Δβ/Δλが十分に大きい場合には、凹面鏡の集光距離fが短くても、ラマン散乱光とレイリー散乱光の間を広く分光できることがわかる。そのため、本実施形態の高分解能な回折格子を用いることで、凹面鏡350の集光距離fを短くし、各構成要素をコンパクトに配置して分光器を小型化できる。
【0079】
例えば、図3(A)等で説明した回折格子では、回折格子の周期は366nm(2700本/mm)であり、傾斜角度は10°であり、波長分解能は0.009rad/nmである。この場合、焦点距離f=10mmの凹面鏡を用いて、波長差Δλ=0.5nmの2つの散乱光成分をアレイ光検出器360の上で45μm離すことができる。この距離は、一般的なアレイ光検出器を用いて十分に解像できる距離である。このように、本実施形態の回折格子を用いることで、集光距離の短い凹面鏡でも十分な分解能を実現できる。また、レイリー散乱光からラマン散乱光までの距離は、45μm×100/0.5=9mm程度となる。この距離は、レイリー散乱光とラマン散乱光を十分に分離できる距離である。そのため、レイリー散乱光を遮断するためのバンドパスフィルター320の特性に対する負荷は大きく軽減される。検出精度が比較的低くてもよい分光用途では、バンドパスフィルター320の省略が可能である。
【0080】
図11(A)、図11(B)に、本実施形態の回折格子が適用される検出装置の第2の構成例を示す。この検出装置は、ラマンセンサー300、バンドパスフィルター320、偏光板330、回折格子340、凹面鏡350、アレイ光検出器360、光源370、エッジフィルター380、レンズ400を含む。この検出装置は、1つの回折格子340と1つの凹面鏡350が所定の位置関係に配置されたシングル分光装置である。なお、図10(A)、図10(B)で説明した構成要素と同一の要素には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0081】
図11(B)に示すように、光源370からのレーザー光は、エッジフィルター380により反射され、ラマンセンサー300上の試料390(標的物)に照射される。試料390からの散乱光は、エッジフィルター380に入射され、ラマン散乱光が透過される。透過したラマン散乱光はレンズ400に入射され、レンズ400により平行光にされる。
【0082】
次に、図11(A)に示すように、レンズ400からの平行光は、バンドパスフィルター320と偏光板330を通過し、回折格子340に所定の入射角度αで入射される。レンズ400は、試料390からの散乱光をもれなく平行度の高い平行光線にして回折格子340に入射させため、回折格子340は、その波長分解能を十分に発揮するとともに極微弱光を分光できる。回折格子340への入射光は、回折角度βで透過回折され、分光される。分光されたラマン散乱光は、凹面鏡350へ入射され、凹面鏡350によりアレイ光検出器360上に集光され、アレイ光検出器360によりスペクトル分布が検出される。
【0083】
この第2の構成例によれば、上記第1の構成例と同様に、短い集光距離(例えばf=10mm)の凹面鏡350で十分な分解能(例えば45μm/0.5nm)を得たり、バンドパスフィルター320の負荷を軽減することができる。また、検出装置の構成が空間に占める体積を第1の構成例よりもさらに小さくし、検出装置をコンパクトにできる。また、第2の構成例では平行な散乱光をエッジフィルター380へ入射させるため、エッジフィルター380の波長選択作用をより効果的に利用できる。
【0084】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語(回折格子、センサーチップ、検出器等)と共に記載された用語(透過型回折格子、ラマンセンサー、アレイ光検出器等)は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また回折格子、分光装置、検出装置等の構成、動作も本実施形態で説明したものに限定に限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0085】
100 基材、101 基材の表面、102 基材の裏面、110 複数の突起、
130 基準線、140,141 傾斜面、150,160 第1反射構造、
170,180 第2反射構造、190 反射防止膜、200 石英ガラス基板、
210 レジスト、220 レジストパターン、230 基材、240 複数の突起、
300 ラマンセンサー、310 凹面鏡、320 バンドパスフィルター、
330 偏光板、340 回折格子、350 凹面鏡、360 アレイ光検出器、
370 光源、380 エッジフィルター、390 試料、400 レンズ、
P 周期、φ 傾斜角度、α 入射角度、β 回折角度、θ ブラッグ角度、
λ 波長、Δβ/Δλ 波長分解能、LS1 第1のレーザー光、
LS2 第2のレーザー光、θ1 第1のレーザー光の入射角度、
θ2 第2のレーザー光の入射角度、λs 露光波長、f 集光距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を透過する透過型回折格子を含む分光装置であって、
前記透過型回折格子は、基材より第1方向に沿って周期的に突出する複数の突起を有し、前記複数の突起の各々が傾斜面を有し、前記傾斜面は、前記基材に垂直な基準線に対して傾斜し、
前記透過型回折格子への入射光の入射角度を前記基準線に対して角度αとし、回折光の回折角度を前記基準線に対して角度βとする場合に、
前記入射角度αは、前記傾斜面に対するブラッグ角度θよりも小さい角度であり、
前記回折角度βは、前記ブラッグ角度θよりも大きい角度であり、
前記複数の突起の各々は、前記傾斜面からの前記第1方向での距離が異なるに従い、前記複数の突起の各々と空気との界面に至る前記基材からの突出高さが異なる第1反射防止構造を有することを特徴とする分光装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1反射防止構造は、前記突起の自由端部に形成されていることを特徴とする分光装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記第1反射防止構造は、前記突起の基端部にも形成されていることを特徴とする分光装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記複数の突起の各々は、前記第1方向と直交する第2方向に沿って、一側面から他側面に向けて延在形成され、
前記複数の突起の各々は、前記一側面からの前記第2方向での距離が異なるに従い、前記複数の突起の各々と空気との界面に至る前記基材からの突出高さが異なる第2反射防止構造をさらに有することを特徴とする分光装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記基準線に対する前記傾斜面の傾斜角度をφとする場合に、
前記傾斜面は、前記第1方向に周期P/cosφで配列され、
前記入射光は、前記基準線に垂直な平面に平行で、前記傾斜面の配列方向に垂直な直線偏光であることを特徴とする分光装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の分光装置と、
標的物からの散乱光または反射光を、前記ブラッグ角度θよりも小さい前記入射角度αで前記分光装置に入射させる光学系と、
前記分光装置からの回折光を検出する検出器と、
を含むことを特徴とする検出装置。
【請求項7】
基材に塗布されたレジストに対して第1のレーザー光と第2のレーザー光を入射して、前記レジストを干渉露光し、
前記干渉露光されたレジストを現像し、
前記基材の平面に向かう垂線に対して傾斜角度φで傾斜し、かつ、前記基材を露出することなくレジストパターンを形成する請求項1乃至5のいずれかに記載の分光装置の製造方法。
【請求項8】
前記基材に塗布されたレジストをレーザー干渉露光し、
前記基材を90度回転してレーザー干渉露光し、
前記干渉露光されたレジストを現像し、
前記基材の平面に向かう垂線に対して傾斜角度φで傾斜し、かつ、前記基材を露出することなくレジストパターンを形成する請求項4記載の分光装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−24625(P2013−24625A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157590(P2011−157590)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】