分散液の製造方法および分散液製造用モジュール
【課題】 分散相の粒径が小さく、粒度分布の幅が狭い分散液を簡単に製造する方法および装置を提供する。安価で小型であり、消費エネルギーも少ない分散液製造装置を提供する。界面活性剤を全く使用せず或は少量使用するだけでも、安定した分散液とできる。
【解決手段】 流体の通路10が1枚または複数枚のシート2により上流側と下流側に仕切られており、仕切りシート2には1個以上のスリットエレメント3が形成されており、スリットエレメント3はスリット31とその周囲のシート部分32とからなり、前記周囲のシート部分は通過する流体により可動であり、分散液を構成する2種以上の物質を前記通路に流して、前記2種以上の物質を一緒に前記スリットエレメントを通過させることにより分散液とする。
【解決手段】 流体の通路10が1枚または複数枚のシート2により上流側と下流側に仕切られており、仕切りシート2には1個以上のスリットエレメント3が形成されており、スリットエレメント3はスリット31とその周囲のシート部分32とからなり、前記周囲のシート部分は通過する流体により可動であり、分散液を構成する2種以上の物質を前記通路に流して、前記2種以上の物質を一緒に前記スリットエレメントを通過させることにより分散液とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分散液の製造方法および分散液製造用モジュールに関するものである。本発明における分散液とは、液体中に微細化された他の物質が散在している状態のものを言い、液体中に微細化された液体が分散しているもの(エマルション)、液体中に微細化された固体が分散しているもの(懸濁液)および、液体中に微細化された気体が分散しているものを含む。
【0002】
また、本発明は、分散媒(すなわち連続相)が水相であるO/W分散液、油脂類が分散媒であるW/O分散液、W/O分散液を水相に再分散したW/O/W分散液、あるいはO/W分散液を油相に再分散したO/W/O分散液などの形態の分散液を製造できる方法に関する。
【0003】
本発明は、接着剤、塗料、電子部品、セメント添加剤などに用いられる樹脂分散液;クリームなどの化粧品分散液;注射液、湿布薬、経皮吸収薬品などに用いられる医療用分散液;牛乳、ヨーグルト、クリーム、チーズ等の乳製品や豆乳、マヨネーズ、ドレッシングなどの連続相が水相であるO/W可食分散液;油脂を主成分とするスプレッドなどの油脂類が連続相であるW/O可食分散液;W/O/W可食分散液あるいはO/W/O可食分散液;軽油、ガソリン、重油などに水を分散したW/O分散液燃料などの種々の用途に適応可能な分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0004】
従来、分散液を製造するには、高速回転撹拌式のホモミキサー等や、高速剪断式のホモジナイザー、送液パイプライン中にねじれ羽根を多数枚設けて送液しながら剪断するインラインミキサー、超音波乳化機等が多用されている。
【0005】
しかしながら、従来の撹拌式や剪断式の装置および超音波乳化機等は大型であり、消費エネルギーも多大である。
【0006】
分散液は分散相の粒子径によってその特性が大きく変わることが知られている。例えば、塗料等の樹脂分散液では平均粒径が一桁異なる二種類の粒度分布から成る複合粒度分布を持つ分散液によって塗料皮膜の密度を向上できること、易剥離接着剤では塗布する樹脂分散液の接着剤の粒子径によって接着力が変化することなどが知られている。また、分散液においては粒度分布も重要なファクターである。例えば、液晶表示装置において使用される液晶スペーサーは分散液から分離した樹脂製粒子であるが、液晶スペーサーは粒度の均一化が要求される。医薬品、農薬、化粧品等の用途の分散液においても分散相の粒度分布によって薬効が変わることがある。
【0007】
一般に、分散相の粒子径が小さいほど分散相の分離に対する安定性が高い。そして、分散相の粒子径が1μm以下で分布することが求められている技術分野も多い。従来使用されているターボミキサー、コロイドミル、ホモジナイザー等により分散液を製造する場合、分散相の粒径が1μm以上であれば剪断力を調整することによって分散相の粒径分布をある程度は調整できる。しかし、粒径が1μm以下の場合は狭い粒度分布にすることはかなり困難である。
【0008】
分散相の粒子径を均一にする(粒度分布を小さくする)ために、分散相を多孔質ガラスやポーラスパイプなどで濾過することが知られているが、このような方法では分散相が固体の場合や液体が析出性であったり、汚濁液体であったりする場合は、細孔が目詰まりするという問題が生じる。
【0009】
一般に、分散液の分散性は界面活性剤の添加量が多いほど良く、分散液に加えられる剪断力の強いほど良くなる傾向がある。しかし、分散液における界面活性剤の含有量が多くなると、分散液の性質が変化したりする(例えば、界面活性剤のために樹脂の性能に吸湿性が生じたりする)ために、界面活性剤の添加量をできるだけ少なくすることが求められている。
【0010】
各種技術分野における背景技術を以下に例示する。
【0011】
(1)樹脂分散液関係の背景技術
樹脂分散液は分散相の組成によりその用途等が種々である。また、分散液の製造に関して、分散液中で重合反応させる場合、経済的または技術的観点から見て何等問題なく製造できる場合もあるが、問題がある場合もある。
【0012】
例えば、エチレン−酢ビ共重合体を含む分散液は接着剤、塗料、セメント混和剤などと各種用途がある。エチレン−酢ビ共重合体のように共重合を構成する一方の単量体(モノマー)が気体である場合、連続相を形成する水相を介して酢ビモノマーと共重合反応をする。このため、エチレンの水に対する溶解速度が律速となる。一方、樹脂分散液を塗布した時の樹脂皮膜の接着性を増加させるには、エチレンの共重合割合を増加させることが必要である。前述したように重合反応はエチレンの水に対する溶解速度が律速となるので、分散液において共重合割合を増加させるためには、連続相に接するエチレンの圧力を増加させたり、エチレン溶解速度にあわせて反応時間を長くしたりする必要があった。
【0013】
反応圧力の増加は重合設備費の増大をもたらし、反応時間を長くすることは稼働率の低下をもたらすため、このような製品は経済的に生産ができないと言う問題がある。
【0014】
更に、これらの共重合体は粘度の増大によって反応熱を除去できなくなるため、粘度をコントロールし、分散相の樹脂の粒度分布を小さくする必要がある。しかし、そのために界面活性剤を多量に用いると、樹脂皮膜の耐水性が落ちるという逆作用があり、解決方法が求められている。
【0015】
(2)乳製品関係の背景技術
乳製品、特に脂肪含有量が50%以上の牛乳やクリーム類などにおいて、脂肪類の分離を防止するためには、分散している脂肪分などの粒子径を1μm以下で均質化する必要があることが知られている。
【0016】
均質化のために種々の技術が提案されている。例えば、特開平10−201386号公報(特許文献1)では、脂肪性の液体からなる乳製品を10〜100バール(約10〜100kgf/cm2 )、好ましくは20〜80バールの圧力で多段ノズル分散装置を10〜200m/秒の速度で通過させることによって、4μmを越える粒子が存在しないで、最高90%の容積関連粒径が0.1〜1μmの脂肪の粒子径に均質化する方法が開示されている。
【0017】
しかし、特許文献1の方法では水力学的直径が0.1〜1mmの細孔を多数設けてあるノズル分散装置を使用しているが、これら多数の細孔は直径が小さいために目詰まりが生じ易く、特に20バールより低い圧力とした場合は目詰まりが生じ易いと言う問題がある。また、カルシウムの摂取量を高めるために乳製品に炭酸カルシウムを添加することが多いが、水力学的直径が0.1〜1mmの細孔を液体が高速で通過するために、液中に炭酸カルシウムのような研磨物質がある場合はノズルの細孔の磨耗が激しいと言う問題が発生する。更に、特許文献1の方法では1〜4μmの粒子が少なくとも10%以上存在すること、および実施例の平均粒径からすると粒径分布がかなり広いことが分る。
【0018】
特開2003−180243号公報(特許文献2)には牛乳と乳化剤を含む混合物を25MPa(約250kgf/cm2 )以上の圧力で1μm以下に均質化する方法が開示されている。特許文献2の方法では高エネルギーによる牛乳の温度上昇は避けられず、牛乳の風味を損なうと言う問題がある。また、使用圧力が高く、処理量が少量である牛乳などでは多段の往復動ポンプを使用する必要があるため、設備費が高くなり、複雑な構造でメンテナンスも煩雑であるという問題がある。
【0019】
特開2004−249289号公報(特許文献3)には200MPa(約2000kgf/cm2 )の圧力で牛乳や水などと共に油やカルシウムなどを小孔におよび細長孔に通過させて微粒状に分散させる微粒化装置が開示されている。しかし特許文献3の装置ではノズル(小孔)の開口面積は一定であり、従ってノズルにかかる圧力(差圧)はノズル通過流量のほぼ二乗に比例するため流体をノズルに高速で通過させるためには極めて大きな圧力が必要である。このためノズル自体も2000kgf/cm2 の耐圧が必要なため大型で堅固な構造となる。更に、圧力を高圧ポンプによって一定にする場合、ノズルの数によって流量が限定されるため運転条件は、「高圧で且つ流量は一定」という極めて狭い範囲に限定される。
【0020】
更に、特許文献1および特許文献2の何れの方法おいても、運転圧力と流量の変動巾が著しく限定されると言う欠点を有している。
【0021】
一方、牛乳などの可食分散液では酸化による芳香や食味の変化を防止することも消費者から求められている。日本農芸化学会誌Vol.77,No.9,2003.P46(非特許文献1)によれば、例えば牛乳の場合は原乳中の10PPM程度の溶存酸素によって殺菌時の温度上昇や均質化設備での温度上昇による酸化反応によって風味、食味が阻害される。これを防止するためには原乳中に通常10PPM程存在する溶存酸素を2.5PPM程度に低下させる必要があると記載されている。更に、その対策として、原乳にスタティックミキサーで窒素ガスを混合し、牛乳中の溶存酸素を窒素ガス中に移行させた後に、脱泡タンクで窒素ガスを分離すると言う方法が記載されている。
【0022】
しかし、一般にスタティックミキサーは気体の混合効率が落ちるため多量の窒素ガスを必要とし、その結果、過剰の窒素ガスに起因する多量の泡が発生するため、脱泡タンクも大きくなり、建設費もかかり、経済的な脱酸素を前記方法で達成することは困難である。
【0023】
気体を液体に吸収させる場合、前述のスタティックミキサーやディスパーミキサーを使用する方法では吸収効率が悪くガスの無駄が多い。また多孔質ガラスなどの細孔からガスを微粒にして噴出す方法は吸収効率が優れているが、多孔質ガラスの細孔が詰まりやすいために、懸濁液や汚濁液体には使用できないと言う欠点がある。
【0024】
特許第3091752号公報(特許文献4)には、窒素ガスと置換することによって牛乳中の溶存酸素を減少させる方法において、窒素ガスを直接混合分散する手段と、窒素ガスを混入していない牛乳を窒素ガス雰囲気下に貯留されたタンクの上方からノズルで噴霧する手段を併用する方法が開示されている。特許文献4では、牛乳に対して容積基準で40〜50%の窒素ガスをスタティックミキサーで混合すると発泡が生じ、全体の約1/3が泡となるため泡消しのためのタンクが膨大になるが、泡消しのためタンクの上方からノズルで牛乳噴霧を併用することでタンクを小さくできたと記載されている。
【0025】
(3)W/O/WまたはO/W/O関係の背景技術
W/O分散液を水相に再分散したW/O/W分散液形態では、W/O分散液中の水系分散物はW/O/W分散液に分散させるW/O分散液の粒径よりも一桁小さい粒径とする必要がある。また、O/W分散液を油相に再分散したO/W/O分散液においても同様のことが言える。このため分散液全体の粒度分布構成は極めて重要である。
【0026】
W/O/WまたはO/W/Oの分散液は、例えば植物性ステロールなど健康に有益な物質を含む食品や、味の悪い医薬品などを食品の味覚に関係なく添加できるという利点がある。しかし、相転換が起こりやすいため、界面活性物質の選択や原料組成に制約が多く、自由度が大幅に制限されていた。このため、相転換の起こり難い分散方法が望まれている。
【0027】
(4)燃料油関係の背景技術
自動車、船舶、発電用、のエンジンやボイラーに用いられるガソリン、軽油、重油などの燃料をエンジン中に噴射する際、あるいはボイラーのバーナーで燃焼する際に、燃料に20%程度の水を1μm以下の微粒子で添加すると、排ガス中のNOxが減少し、燃料効率も20%前後向上することは知られている。この場合、1μm以上の粒子が存在すると水粒子の蒸発速度が遅くなるため燃焼効率は大幅に低下するため、分散相の粒子径は重要な要素である。しかし、水を1μm以下で且つ狭い粒径分布で分散させる装置は高価で重量が大きく且つ運転条件の制約が厳しいので、工場で集中生産する必要がある。水懸濁燃料の安定性のために界面活性剤を使用する必要がある。
【0028】
このため、燃料油の原料となる原油や燃料油の精製方法によってそれぞれに適した界面活性剤の選択が必要である。また、寒冷地ではエマルジョン燃料の安定性に問題があったり、界面活性剤の燃焼性によってはエンジンに不具合を起こしたり、界面活性剤のコストによって経済性に問題が生ずる等の問題点があるため、水を分散させた分散液燃料は実際にはほとんど使用されていない。
【特許文献1】特開平10−201386号公報
【特許文献2】特開2003−180243号公報
【特許文献3】特開2004−249289号公報
【特許文献4】特許第3091752号公報
【非特許文献1】日本農芸化学会誌Vol.77,No.9,2003.P46
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明は前述した従来の問題を解決し、分散相の粒径が小さく、粒度分布の幅が狭い分散液を簡単に製造する方法および装置を提供することを目的とする。また、本発明は安価で小型であり、消費エネルギーも少ない分散液製造装置を提供することを目的とする。
【0030】
本発明は、界面活性剤を全く使用せず或は少量使用するだけでも、安定した分散液とできるような分散液製造方法および装置を提供することを目的とする。また、液中に分散相として気体、液体および固体の何れも微粒子状に均一に分散させることができ、広い技術分野に適応可能な分散液製造方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明は、流体の通路が1枚または複数枚のシートにより上流側と下流側に仕切られており、該仕切りシートには1個以上のスリットエレメントが形成されており、該スリットエレメントはスリットとその周囲のシート部分とからなり、前記周囲のシート部分は通過する流体により可動であり、分散液を構成する2種以上の物質を前記通路に流して、前記2種以上の物質を一緒に前記スリットエレメントを通過させることにより分散液とすることを特徴とする分散液の製造方法により前記目的を達成する。
【0032】
この場合、前記仕切りシートの上流側と下流側との圧力差が3MPa以下であることが好ましく、1MPa以下であることがより好ましい。
【0033】
前記分散液を構成する2種以上の物質を前記通路に流す際に、各物質を予め混合せずに同時に流し込んでも良いが、予め前記分散液を構成する2種以上の物質を混合した後に、前記通路に流して、前記スリットエレメントを通過させることが好ましい。
【0034】
分散液を構成する物質が液体と気体であり、液体を分散媒とし、気体を分散相としてもよい。この場合、分散媒となる液体が一種類以上の気体を溶存する液体であり、分散相となる気体が前記液体中に溶存する少なくとも一種類の気体に対して不活性な気体であってもよい。
【0035】
本発明の方法は、分散液を構成する2種以上の物質は主となる物質が乳製品または豆乳であり、その他の物質が該主となる物質と成分を異にする1種類以上の物質であるものに適用できる。その他の物質としては、主となる乳製品または豆乳とは異なった成分の乳製品、豆乳、植物油、カルシウム化合物、果汁、ココア、乳化剤等である。
【0036】
また、本発明の方法は、分散液における分散媒となる物質が燃料油であり、分散相となる物質の主成分が水であるものにも適用できる。
【0037】
本発明の方法は、分散液を構成する物質が少なくとも水と重合性単量体であり、該物質をスリットエレメントを通過させて分散液とし、該分散液において前記重合性単量体を重合し、重合した合成樹脂を分散相とする場合に適用できる。
【0038】
更に、本発明の方法は、分散液を構成する物質が重合性単量体を含む液体と重合性単量体の気体混合物であり、前記両物質をスリットエレメントを通過させて分散液とし、該分散液において前記重合性単量体と前記重合性気体混合物とを重合し、重合した合成樹脂を分散相とする場合にも適用できる。この場合、気体混合物である単量体をエチレンを含む混合物とし、液体である単量体を酢酸ビニルを含む混合物とすると、エチレン−酢ビ共重合体を含む分散液を製造することができる。
【0039】
本発明は、分散液を構成する2種以上の物質が一緒に流れる通路に配置されて、該通路を上流側と下流側とに仕切るモジュールであり、該モジュールは1個以上のスリットエレメントが形成されたシートを具備しており、各スリットエレメントはスリットとそのスリット周囲のシート部分からなり、前記周囲のシート部分は通過する流体により可動であることを特徴とする分散液製造用モジュールにより前記目的を達成する。
【0040】
前記スリットエレメントのスリットが中心から放射状に複数の方向に延びていることが好ましい。
【0041】
また、1枚のシートに複数個のスリットエレメントが形成されていることが好ましい。
【0042】
スリットエレメントを有する1枚のシートは流体が流れる通路を仕切るように平らに配置されていてもよいが、スリットエレメントを有する1枚のシートが円筒形または円錐形とされており、前記円筒形または円錐形の内側と外側の間に流体が流れるように構成されていてもよい。
【0043】
スリットエレメントを有する複数枚のシートが平らな状態または円筒形または円錐形で間隔を開けて配置されていることが好ましい。
【0044】
また、スリットエレメントを有する1枚のシートが螺旋状に巻かれており、螺旋の各層の間が間隔を開けているようにしてもよい。
【0045】
本発明のスリットエレメントを有するシートは金属製、プラスチック製またはゴム製である。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、分散液を構成する2種以上の物質を金属またはプラスチックのシートに設けたスリットエレメントを一緒に通過させるだけで、分散相の粒径が小さく、粒度分布の幅が狭い分散液を簡単に製造できる。
【0047】
また、本発明のスリットエレメントはプラスチック、ゴムまたは金属のシートに形成したスリットとそのスリット周囲のシート部分からなるものである。そのスリット周囲のシート部分は、スリットをその一辺または二辺とする小面積のシート部分であり、通過する流体によりスリットからなる辺を自由端部として可動であるような剛性を有する。従って、シートの厚みや材質に適合した適宜形状のスリットを設けるだけで、本発明のスリットエレメントを形成することができる。
【0048】
本発明によれば、スリットエレメントは流体が通過していない状態では実質的に隙間がなく、スリットが閉じた状態であり、流体が通過する際に流体の圧力によりスリット周囲のシート部分が撓んで僅かな隙間を生じ、スリットが開いた状態となる。スリット周囲のシート部分の剛性が異なる複数枚のシートを用意しておくことにより、所望の粒径の分散液を簡単に製造することができる。この場合、剛性が高い方が分散相を微粒子化できる。
【0049】
従来のノズルは開口面積が一定であり、ノズルにかかる圧力(差圧)はノズル通過流量のほぼ二乗に比例するため流体をノズルに高速で通過させるためには極めて大きな圧力が必要であった。これにたいして、本発明によれば、運転中のスリットエレメントは流速に応じて変形し且つスリット周囲のシート部分が振動するため、その面にかかる圧力(差圧)は流量の1〜0.6乗に比例して増加するだけである。しかも同一スリットであれば流量変動によって粒径分布はほとんど変わらない。すなわち、圧力と流量の範囲が限定されないため、本発明では処理流量など運転条件の変動に対しても自動的に対応でき、経済的である。しかも、高圧ポンプは必要ではなく、小容量、低揚程の小型ポンプで対応でき、エネルギーコストも建設コストも従来の方法にくらべて著しく優れている。
【0050】
本発明によれば、スリット周囲のシート部分はスリットが微細な間隔にもかかわらず振動するため閉塞を起こすことがなく、仮に閉塞しても自己洗浄の機能を持っている。
【0051】
本発明の分散液製造モジュールは、このようなスリットエレメントを有するシートからなり、このシートにより分散液を構成する2種以上の物質が一緒に流れる通路を上流側と下流側とに仕切るだけであるので、極めて簡単な構造であり、安価で小型である。しかも、仕切りシートの上流側と下流側との圧力差が3MPa以下の低圧であり、消費エネルギーも少ない。
【0052】
本発明によれば、分散相を1μm以下の微粒子にもすることができるので、界面活性剤を全く使用せず或は少量使用するだけでも、安定した分散液とすることができる。また、液中に分散相として気体、液体および固体の何れもを微粒子状に均一に分散させることができ、広い技術分野に適応可能である。
【0053】
本発明によれば、気体を分散相とした場合、分散相を1μm以下の微粒子状にして液体中に気体を分散させて、その気体を液体に吸収させることができる。従って、エチレン−酢ビ共重合体のように共重合を構成する一方の単量体が気体である場合でも、気体である単量体の共重合割合を増加させることが容易であり、このような気体の共重合割合を増加させた樹脂分散液を経済的に生産することができる。
【0054】
また、気体を溶存する液体と不活性気体とを本発明のスリットエレメントを通過させることにより、液体に不活性気体を分散状態にすることができる。そして、液体中の溶存気体を分散状態の不活性気体中に移行させた後、脱泡することにより液体から溶存気体を除去することができる。本発明を牛乳に適用した場合、細かい気泡で分散するため必要な窒素ガス(不活性気体)も容積基準で13%程度と少量であり、且つ発泡は全体の約1/20程度である。従って、設備も小さく窒素ガスも少量で、牛乳中の溶存酸素を容易に且つ経済的に分離できる。このように、本発明によれば、牛乳中の溶存酸素を簡単に除去でき、牛乳の風味、食味をよくすることができる。
【0055】
更に、分散液である原料を本発明のスリットエレメントを通過させることによって、原料の分散相の粒径分布を変更することができる。例えば、脂肪含有量が50%以上の牛乳やクリーム類など脂肪類の分離を防止するために分散している脂肪分などの粒子径を1μm以下で均質化することができる。
【0056】
乳製品または豆乳と前記成分以外の成分(例えば、乳製品、豆乳、バター、植物油、カルシウム化合物、乳化剤の少なくとも一種類)との混合物を本発明のスリットエレメントを通過させることにより、乳製品あるいは豆乳以外の成分を含む乳製品または豆乳とすることができる。
【0057】
燃料油(ガソリン、軽油、重油、灯油、など)を分散媒として、水を主成分とする液体を分散相とするには、従来はかなりの分量の界面活性剤を使用しなければならなかったが、本発明によれば、界面活性剤をほとんど使用しなくとも、燃料油に水を主成分とする液体を微粒子として分散させることができ、従って、水を含んだ分散液燃料を製造できる。しかも、分散装置を極めて小型にできるので、車載またはオンサイトで分散液燃料を製造することができる。
【0058】
重合性単量体混合物を本発明のスリットエレメントを通過させて重合性単量体の分散液を生成した後に、この分散液を重合することにより固体微粒子からなる合成樹脂の分散液を製造することができる。この場合、本発明によれば合成樹脂の粒径を1μm以下とすることも容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下図面に示した実施例に基いて本発明を詳細に説明する。図1は本発明の分散液製造用モジュールの一実施例を設けた流体の通路を示す流れ方向に沿った断面図である。図2は図1のII−IIに沿った断面図である。
【0060】
図1において、パイプ1内の通路10を矢印A方向に分散液を構成する2種以上の物質が一緒に流される。この通路10に分散液製造用モジュールMが配置され、モジュールMにより通路10が上流側と下流側に仕切られている。この実施例では、モジュールMは金属製、プラスチック製またはゴム製のシート2であり、図2に示すように、シート2の中心に1個のスリットエレメント3が形成されている。図1の実施例ではパイプ11とパイプ12との間に流通路10を塞いでシート2が配置され、パイプ11とパイプ12のフランジ部13に直接またはリング状のシール14を介して液漏れしないように、ボルト15およびナット16により取付けられている。
【0061】
シート2は材質に関しては特に限定されないが、例えば次のようなものが適している。
【0062】
金属シートとしては、ステンレス鋼、バネ鋼のような鉄合金類、燐青銅、真鍮のような銅合金類、アルミ合金、ニッケル合金、チタン合金などからなり、適度の弾性があるものが好ましい。
【0063】
プラスチックシートとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンのような汎用樹脂、ポリ塩化ビニルのような塩ビ系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(登録商標はテフロン)のようなフッ素系樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、PET、ポリスルフォン等のエンジニヤリング樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂のような熱硬化性樹脂、前述したこれらの樹脂を混合したり、張り合わせたり、或は炭素繊維、ガラス繊維、ナノ物質などの充填材を充填したりした複合材料、金属とプラスチックの複合材料などからなるシートであり、弾性と耐磨耗性、耐薬品性があるものが好ましい。
【0064】
ゴム製シートとしては、ポリブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム等のゴム類で、弾性と耐磨耗性、耐薬品性があるものが好ましい。
【0065】
また、これらの金属やプラスチックの表面状態を例えば鍍金などの表面処理をして、分散液となる液体との界面張力を調整してもよい。
【0066】
本発明におけるスリットエレメント3は、プラスチック製シート、金属製シートまたはゴム製シートに形成したスリット31とそのスリット周囲のシート部分32からなるものである。スリット周囲のシート部分32は、スリット31をその一辺または二辺とする小面積のシート部分であり、通過する流体によりスリット31からなる辺を自由端部として可動であるような剛性を有する。
【0067】
本発明のスリットエレメント3は流体が通過していない状態では実質的に隙間がなく、スリット31が閉じた状態であり、流体が通過する際に流体の圧力がその面に掛かるとスリット周囲のシート部分32が撓んで僅かな隙間を生じ、スリット31が開いた状態となり、流体が通過できる。
【0068】
図2に示した実施例におけるスリットエレメント3は中心から3方向に延びている3本のスリット31と3つのシート部分32からなる。各シート部分32は2本のスリット31に囲まれた部分であり、2本のスリット31の2つの外端31aの間の箇所はシート2の本体に連続している。従って、この実施例では、通過する流体により可動であるシート部分32は略三角形または略扇形である。
【0069】
図3はシート2に形成するスリット31の種々の実施例を示す正面図である。スリット31は直線からなるものでも、曲線からなるものでもよい。スリット31は図3の(b)、(c)、(d)、(g)、(h)および(i)のように中心から複数の方向に延びているものが好ましい。また、図3の(f)、(g)、(h)、(i)および(j)のように各スリット31の端部に別方向に延びる短いスリット31aを設けた形状としてもよい。なお、本発明のスリット31は図3に示した実施例に限定されるものではない。また、スリット31の本数によりシート部分32の個数が変わり、例えば図3(b)のシート部分32は3つであり、(c)のシート部分32は4つである。
【0070】
図4はシート2の別の実施例を示す正面図である。この実施例では1枚のシート2に3個のスリットエレメント3が形成されている。また、シート2には取付け穴21が設けられており、パイプ1に取付けた際に通路10に対応する箇所を仮想線(2点鎖線)で示した。このシート2を図1に示すように、通路10を仕切るように配置すると、通路10を流れる流体は3箇所のスリットエレメント3を通って上流側から下流側へと流れる。
【0071】
図5は本発明のモジュールMの別の実施例を示す流れ方向断面図である。図5において、パイプ11および12内の通路10を矢印A方向に分散液を構成する2種以上の物質が一緒に流れる。この通路10に分散液製造用モジュールMが配置され、モジュールMにより通路10が上流側と下流側に仕切られる。この実施例のモジュールMではシート2とこれを担持する支持体41の組合せが3組設けられている。各シート2には1個または複数個のスリットエレメント3が形成されており、対応する支持体41には各スリットエレメント3と対応する箇所にそのスリットエレメント3よりも大きな穴42が形成されている。
【0072】
図5に示すように、シート2を支持した支持体41は2つの端リング体43、45と2つの中間リング体44、44により外周部が挟持されている。端リング体43または45と中間リング体44および中間リング体44と中間リング体44とは螺合連結され、液漏れしないようにして一体化されている。端リング体43または45はそれぞれフランジ部43a、45aを有しており、それぞれパイプ11またはパイプ12のフランジ部13に直接またはリング状のシール14を介して液漏れしないように取付けられる。通路10に矢印A方向に流体が流されると、各支持体41の穴42そしてシート2のスリットエレメント3を順次通っていく。
【0073】
この実施例ではシート2を支持体41に支持しているので、シート2の面積が広く厚みが薄い場合でも、シート2が弛んだりしない。また、この実施例では支持体41がシート2の片側にだけ設けられているが、支持体41の厚みを薄くし、穴42を充分大きして、スリットエレメント3のシート部分32の動きに悪影響を及ぼさないようにすれば、支持体41をシート2の両側に設けて、2つの支持体41でシート2を挟持するようにしてもよい。
【0074】
更に、図5の実施例のモジュールMではシート2が3枚であるが、この枚数に限定されず、2枚でもよいし、中間リング体44を増やすことにより簡単に4枚以上とすることもできる。
【0075】
図6(a)は本発明のモジュールMの更に別の実施例を示す流れ方向の断面図であり、(b)は図6(a)示したモジュールMの斜視図である。この実施例において、図6(b)に示すように、シート2は円筒形をしており、その周面に複数個のスリットエレメント3が形成されている。円筒形の一方の端部はリング体51に取着され、円筒形の他方の端部は円板52により塞がれている。図6(a)に示すように、リング体51がパイプ11およびパイプ12に液漏れしないようにして取着される。
【0076】
この実施例において、流体が矢印Aの方向に流されると、流体はパイプ11から円筒形シート2の内部に入り、そして円筒形シート2の周面に設けられたスリットエレメント3を通ってパイプ12へと流れる。このように、この実施例でもシート2により通路10が仕切られている。
【0077】
なお、図6の実施例では円筒形シート2の内部から外部に流体が流れるようにしたが、逆に円筒形シート2の外部から周面に設けたスリットエレメント3を通って内部へと流れるようにしてもよい。
【0078】
図7は本発明のモジュールMの別の実施例を示す流れ方向の断面図である。
この実施例において、シート2は円錐形をしており、その周面に複数個のスリットエレメント3(図示せず)が形成されている。円錐形の一方の端部はリング体51に取着され、リング体51はパイプ11に液漏れしないようにして取着される。この実施例において、流体が矢印Aの方向に流されると、流体はパイプ11から円錐形シート2の内部に入り、そして円錐形シート2の周面に設けられたスリットエレメントを通ってパイプ12へと流れる。なお、流体の流れ方向は逆でもよい。
【0079】
図8は本発明のモジュールMの別の実施例の斜視図である。この実施例では同心円状に間隔を開けて複数個の円筒形シート2が配置される。各シート2には複数個のスリットエレメント3が設けられている。このモジュールMは図6に示した実施例と同様に一方の端部をリング体に支持し、他端を円板で塞いで、流通路中に配置し、流体が各円筒形の周面に形成されたスリットエレメント3を通って、円筒形の内部から外部へ、或は逆に外部から内部へと流通するようにすればよい。
【0080】
図9は本発明のモジュールMの更に別の実施例の正面図である。この実施例では、複数個のスリットエレメントを有する長方形のシート2が螺旋状に巻かれ、螺旋の各層の間にはスペーサ55が設けられて、螺旋の各層が間隔を開けているように構成されている。このモジュールMは、図6の実施例と同様にして流体が流れる通路10に配置され、流体が螺旋の周面に形成されたスリットエレメントを通って、螺旋形の内部から外部へ、或は逆に外部から内部へと流通する。
【0081】
以上の実施例に示したように、本発明において、シート2は図2や図4に示したような円形に限られず、通路10の形状や取付け箇所の形状に合わせた形状とすればよい。また、シート2は通路10を上流側と下流側に仕切る機能を有するものであれば、その形状は平坦な形状に限られず、図6に示した円筒形や図7に示した円錐形状などとしてもよい。更に、図5や図8に示したようにスリットエレメント3を有する複数枚のシート2を間隔を開けて配置してもよいし、図9に示すように1枚の螺旋状に巻いたシート2を間隔を開けて配置してもよい。
【0082】
本発明において、1枚のシート2に形成されるスリットエレメント3は1つでも或は複数個(数は特に限定されない)でもよく、複数個の場合は全てのスリットエレメント3が同じ形状でもよいし、或は異なった形状のスリットエレメント3の組合わせでもよい。
【0083】
前述したように本発明のスリットエレメント3は、流体が通過する際に流体の圧力がその面に掛かるとスリット周囲のシート部分32が撓んで僅かな隙間を生じ、スリット31が開いた状態となり、流体が通過できる構造であるが、その隙間は一定ではない。すなわち、面に掛かる圧力が上がるとスリット31が開く方向にシート部分32が撓み、圧力が下がるとスリット31が閉じる方向にシート部分32が動く。スリットエレメント3の面に掛る圧力は上流側の圧力と下流側の圧力との差(差圧)であるが、撓んだシート部分32の間を通って流体が流れるとき、下流側に生じる乱流やキャビテーションなどにより差圧に変動が生じ、一旦開いた方向に撓んでいたシート部分32が閉じる方向に戻ると、流れて来る流体の圧力により再び開く方向に撓むと言うことが繰り返され、シート部分32が振動する。
【0084】
スリットエレメント3のシート部分32の剛性が高いほど、その面に掛かる圧力(差圧)は高くなり、振動数も高くなり、逆に、シート部分32の剛性が低いほど、その面に掛かる圧力(差圧)と振動数は低くなる。
【0085】
スリットエレメント3のシート部分32の剛性は、シート2の材質および厚み、スリット31の大きさおよび形状によって異なる。スリットエレメント3のシート部分32の剛性は、シート2の材質の剛性が高いほど高く、同じ材質でも厚みが大きいほど高くなる。また、材質および厚みが同一のシート2においてはスリット31のサイズが小さい方が剛性が高くなり、スリット31の形状に関しては、例えば、図3(b)のシート部分32の方が図3(d)のシート部分32よりも剛性が高くなる。従って、シートの厚みや材質に適合した適宜形状のスリットを設けるだけで、本発明のスリットエレメント3を形成することができる。
【0086】
本発明ではシートの厚みは材質により異なるが、0.1mm〜10mm程度が好ましい。また、各スリットエレメントの大きさ(全部のスリットが含まれるような広さ)は直径で約4mm〜50mmであることが好ましい。
【0087】
本発明により微細な粒子が生成するメカニズムは明確ではないが、シート部分32の振動も寄与していると思われる。実験結果からすると、シート部分32の剛性が高い方が分散相の粒径が小さく、粒径分布も小さい分散液が得られ、剛性が低い方が分散相の粒径が大きく、粒径分布も大きい分散液が得られる。シート部分32の剛性が異なる複数枚のシート2を用意しておき、シート2を交換することにより、所望の粒径の分散液を簡単に得られる。
【0088】
また、スリットエレメント3への流体の通過量が多くなれば、スリット31が開くが、流体の通過量が多くなり過ぎると、シート部分32を構成する金属、プラスチックまたはゴムが塑性変形してしまい、スリット31が閉じなくなる。従って、本発明においてはシート部分32が塑性変形を起こさない範囲、すなわち、シート部分32の弾性限界内に収まる範囲で流体を流す必要があり、それにより最高流量が決まる。また、スリットエレメント3を通過する最低流量はスリットの隙間の設定によって決まり、スリットエレメント3のシート部分32を撓めてスリット31の隙間を広くするような最小の分量である。
【0089】
本発明においては、モジュールM(シート2)により上流側と下流側に仕切られるが、スリットエレメント3のシート部分32が撓んでスリット31の隙間が広がって流体を通過させるので、流量に応じて隙間が広がり、上流側と下流側との圧力差を低い状態とすることができる。本発明では、モジュールM(シート2)の上流側と下流側との圧力差が3MPa以下である状態で使用することが好ましく、1MPa以下であることがより好ましい。
【0090】
本発明において、同一のスリットを用いて通過流量を変動させると、スリットの差圧は、流量の1〜0.6乗に比例して増加するだけで、スリットを通過する流量が変動しても粒径分布はほとんど変わらない。これはスリットエレメント3のシート部分32が流量や流速に応じて可動であるためである。これに対して、従来のノズルタイプの装置ではノズルの開口面積は一定であり、従ってノズルにかかる圧力(差圧)はノズル通過流量のほぼ二乗に比例するため流体をノズルに高速で通過させるためには極めて大きな圧力が必要であった。
【0091】
また、図5に示すように、スリットエレメント3有するシート2を流れ方向に複数枚通過させても粒径分布は変わらないか再衝突によってむしろ粒径が増加する場合もある。しかし、図4の実施例のように多数のスリットエレメント3が1枚のシート2に設けられている場合は、これらのスリットエレメント3の一部が何らかの原因で破損したり、変形したりした場合を考慮すると、シート2を流れ方向に配列することは、モジュールM全体の信頼性を高めるためると言う効果がある。
【0092】
本発明の方法および装置は種々の技術分野に適用できる。その一例として、液体に気体を吸収させる場合に適用し、気体自体を細粒化できるため最小の〈気/液〉比率で安定した気体吸収ができる。本発明のスリットエレメント3のシート部分32は振動によって閉塞を自己洗浄する機能を有するため、液体が析出性であったり、汚濁液体であったり、分散液であったりしても工業的に使用できる。更に、実施例8に例示したような簡単な装置で過飽和酸素水ができるため、汚水の水中酸化などには最適で、工業的にも極めて優れた経済特性を持っている。
【0093】
本発明は乳製品または豆乳に他の成分を混合する場合に適用できる。すなわち、乳製品または豆乳に前記成分以外の成分を混合して、本発明のモジュールMのスリットエレメントを通過させることで他成分を含む改質された可食分散液を製造できる。
【0094】
ここで乳製品または豆乳に混合するこれ以外の成分とは、乳製品、豆乳、バター、オリーブ油、とうもろこし油、紅花油、落花生油、ひまわり油、グレープシード油、キャノーラ油、綿実油、大豆油、小麦胚芽油、菜種油、オート麦油、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム類、クエン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、コーヒー、ココア、緑茶、果汁、ラノリン酸、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ペクチン、寒天、でんぷん、ショ糖、塩、並びにこれらを少なくとも一種以上含む混合物である。
【0095】
また、本発明は燃料油の改質に適用できる。自動車、船舶、発電用、のエンジンやボイラーに用いられるガソリン、軽油、重油などの燃料油と水とを本発明のモジュールMのスリットエレメントに通過させることにより、分散相として水が1μm以下で且つ狭い粒径分布した分散液燃料を製造できる。本発明のモジュールMは小型であるので、車載やオンサイトで分散液燃料を容易に生産できる。
【0096】
一般に分散相の粒子径が1μm以下に分散していると分離し難いため、本発明によれば、界面活性剤を添加しなくても分散液を数分間は安定状態を保つことができる。本発明のモジュールMは差圧が低くても使用できるので、エンジンの噴射燃料ポンプのごとき小容量、低揚程の小形ポンプを使用する場合であっても適用でき、しかも燃料消費量の変動が激しい場合であっても、1μm以下の粒子径で水が分散した分散液燃料を安定的に生産できる。
【0097】
このため、車載またはオンサイトで分散液燃料を生産しながらエンジンなどに使用する場合は、分散液の不安定性は無視でき、更に、界面活性剤のコストも無視できるため、大幅な燃料費のコストダウンが期待できると共にNOxの大幅な削減が可能となる。
【0098】
また、本発明のスリットエレメント3のシート部分32は流体が通過することにより振動するので、自己洗浄の機能を有しており、重油等のように付着性物質が燃料中に存在しても安定した運転が期待できる。
【0099】
本発明により積載状態で製造された分散液燃料をディーゼルエンジンやガソリンエンジンの燃料として使用する場合は、水の氷結を防止するためにアルコール類やグリコール類などを水に添加するとよい、これらは界面活性効果もあるため分散液は安定性を増す。
【0100】
連続相に燃焼可能な界面活性物質を添加したり、分散相には水以外に燃焼可能な界面活性物質を添加したりすると、粒子径がより小さくなったり、粒径分布の巾が狭くなったりするため分散液の安定化時間が長くなる利点がある。しかし、コストアップとなるので、添加量はできる限り少量にする方が好ましい。
【0101】
また、本発明により積載状態で分散液燃料を製造する場合、起動時には分散液燃料を使用せずに通常燃料でエンジンを起動し、起動後にエンジンが安定し且つ使用する水の温度も適温となった時点で分散液燃料に切り替え、停止時には再び通常燃料を使用するといったサイクル運転も、例えば、分散相である水のポンプをON−OFFすること等によって容易に実施できる。積載状態で分散液燃料を製造する装置は、車に積載可能な程度にコンパクトで且つ低揚程、小容量のポンプで構成され、本発明の分散液製造用モジュールMをそのシステムの一部として使用した装置を意味し、積載対象は自動車に限定されず、例えば漁船や貨物船などの船舶、エンジン発電機、加熱機、小形ボイラー、建設機械、エンジンポンプ、農機具などに積載あるいはオンサイトで使用されるものも含まれる。
【0102】
本発明のモジュールMはW/O/W分散液やO/W/O分散液の製造にも適用できる。W/O分散液を水相に再分散したW/O/W分散液形態では、W/O分散液中の水系分散物は、W/O/W分散液に分散させるW/O分散液の粒径よりも小さい粒径とする必要がある。このため、スリットエレメント3のシート部分32の剛性が大きく且つ表面が親油性のシート2を用いて小さい粒径のW/O分散液を作成する。そして、このW/O分散液と連続相を形成する水を粒径が大きくなるように、スリットエレメント3のシート部分32の剛性が小さく且つ表面が親水性であるシート2を用いると、W/O/W分散液を制約が少ない条件で生産できる。
【0103】
また、O/W分散液を油相に再分散したO/W/O分散液形態では、シート部分32の剛性が大きく且つ表面が親水性のシート2を用いてO/W分散液を作成し、このO/W分散液と油を、表面が親油性のシート2に形成された剛性の小さいシート部分32を有するスリットエレメント3を通過させることにより、制約が少ない条件でO/W/O分散液を生産できる。
【0104】
本発明は粒子径を一定の粒度分布にした合成樹脂の分散液を製造する場合に適用できる。重合反応をする前の単量体、重合開始剤、界面活性剤等から成る重合性単量体混合物を本発明のシート2に設けたスリットエレメント3を通過させて一定の粒度分布を有する重合性単量体分散液を予め生成した後に、この重合性単量体分散液を重合して一定の粒度分布を有する合成樹脂分散液とする。更に、その分散液から合成樹脂を分離すれば、粒子径を一定の粒径範囲にした合成樹脂粉末も得られる。
【0105】
前記方法において、2種類以上の剛性の異なるスリットエレメント3を用意して、それぞれのスリットエレメント3に重合性単量体混合物を通過させて、分散相の粒度分布がそれぞれ異なる2種類以上の重合性単量体分散液を作成する。そして、これらの重合性単量体分散液を所望の割合で混合することにより、分散相が2種類以上の粒度分布を持つ重合性単量体分散液が得られる。これを重合することによって、分散相が2種類以上の粒度分布を持つ合成樹脂分散液が得られる。
【0106】
なお、上記方法では2種類以上の重合性単量体分散液を混合した状態で重合したが、重合前に混合せずにそれぞれの重合性単量体分散液をそれぞれ重合させて、粒度分布が異なる複数の合成樹脂分散液を製造し、その後これらの合成樹脂分散液を所望割合で混合することにより、分散相が2種類以上の粒度分布を持つ合成樹脂分散液としてもよい。
【0107】
本発明は、エチレン−酢ビ共重合体のように共重合を構成する一方の単量体が気体であるような樹脂分散液を製造するのに適用できる。分散相の組成が例えばエチレン−酢ビ共重合体のような共重合体である場合は、共重合を構成する一方の気体である単量体と、共重合反応をする他方の単量体、重合開始剤、界面活性剤等から成る重合性単量体混合物とを、本発明のシート2に設けたスリットエレメント3を通過させて、一方の気体である単量体を懸濁状態で吸収させる共に、重合後の粘性をコントロールできる一定の粒度分布を有する重合性単量体分散液とする。この重合性単量体分散液を重合して一定の粒度分布を有する合成樹脂分散液とする。なお、前記共重合反応をする他方の単量体、重合開始剤、界面活性剤等を予め本発明のスリットエレメント3を通過させて、重合性単量体混合物(分散液)としておき、この重合性単量体混合物と共重合を構成する気体である単量体とを本発明のスリットエレメント3を通過させて、所望の重合性単量体分散液としてもよい。
【0108】
この重合性単量体分散液の粒度分布を小さく保てれば、重合反応中の粘度上昇を抑えて、熱収支を維持できるために経済的な製造が可能である。
【0109】
共重合体の一方の成分比率を増加させるためには、一方の気体である単量体を他方の重合性単量体分散液に吸収させる際に、一方の気体である単量体が他方の重合性単量体分散液中に少なくとも飽和溶解状態にあること、特に過飽和溶解状態を維持することが好ましい。
【実施例1】
【0110】
材質がテフロン(登録商標)で厚みが0.5mmのシートに図3(b)の形状であって、各スリットの一辺の長さが2.5mmで各辺が120度の角度を持つスリットエレメント1個を設けた。このシート1枚を通路を仕切るように配設した。そして、水を80部、大豆油を20部、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム)0.8部を攪拌機で1000rpmで1分間攪拌して得た予備混合液を、8cm3 /分で前記通路に流してシートのスリットエレメントを通過させた。このときの差圧は2kgf/cm2 (約0.2MPa)であった。通過前と通過後の粒径個数分布を測定した結果は下記の如くであった。粒径分布が1μm以下になっていることが分った。
【0111】
平均粒径(μm) 標準偏差
通過前(予備混合液) 23.106 0.238
通過後 0.804 0.212
【実施例2】
【0112】
材質がテフロン(登録商標)で厚みが0.9mmのシートに実施例1と同一形状のスリットエレメントを1個形成し、このシートを実施例1と同様に配設した。そして、実施例1と同一の予備混合液を8cm3 /分でスリットエレメントを通過させた。このときの差圧は2.2kgf/cm2 あった。通過前と通過後の粒径個数分布を測定した結果は下記の如くであった。実施例1と比較すると、シートの厚みを厚くして、スリットエレメントの剛性を上げると、細かい粒度分布になることが分った。
【0113】
平均粒径(μm) 標準偏差
通過前(予備混合液) 23.106 0.238
通過後 0.636 0.194
実施例1 0.804 0.212
【実施例3】
【0114】
材質がテフロン(登録商標)厚みが0.9mmのシートに実施例1と同一形状のスリットを形成して、このシート1枚を実施例1と同様に通路に配設した。そして、実施例1と同一の予備混合液を48cm3 /分でスリットエレメントを通過させた。このときの差圧は6kgf/cm2 であった。通過前と通過後の粒径個数分布を測定した結果は下記の如くであった。
【0115】
平均粒径(μm) 標準偏差
通過前(予備混合液) 23.106 0.238
通過後 0.820 0.217
実施例2 0.636 0.194
実施例3は、実施例2と比較すると流量が6倍になっているが、流量が6倍になっても、粒径分布はやや増加傾向であるものの、ほとんど変化しない。このため、本発明のスリットエレメントが流量の変化に追従できる構造であることが分った。
【0116】
また、流量が6倍になっても差圧は2.7倍しか上昇しなかった。これは従来の固定スリットの場合に予想される差圧79kgf/cm2 (通常のオリフィスのように差圧が流速の二乗に比例すると仮定すると、2.2×62 =79になる)に比べて8%程度であった。本発明のスリットエレメントは低揚程、小容量のポンプで対応できると判断できた。
【実施例4】
【0117】
材質がテフロン(登録商標)で厚みが0.9mmのシートに実施例1と同一形状のスリットエレメントを1個形成した。このようなシート3枚を各シートが通路に仕切るようにして間隔を開けて配置した。実施例1と同一の予備混合液を実施例2と同一の条件でそれぞれのシートに設けたスリットエレメントを通過させた。結果は下記の如くであった。このときの差圧は6.5kgf/cm2 であった。
【0118】
実施例4を実施例2と比較すると、粒径分布はやや増加傾向であった。微粒子の再衝突で凝集したためではないかと考えられる。
【0119】
平均粒径(μm) 標準偏差
通過前(予備混合液) 23.106 0.238
通過後 0.857 0.208
実施例2 0.636 0.194
【実施例5】
【0120】
材質がテフロン(登録商標)で厚みが0.9mmのシートに実施例1と同一形状のスリットエレメントを1個形成した。このシート1枚を通路を仕切るように配設した。そして、水20部、軽油80部、界面活性剤〔ソルビタンモノオレエート(span80)〕3部を攪拌機で500rpmで1分間攪拌して得た予備混合液を、差圧が2kg/cm2 となるような流量として前記通路に流してシートのスリットエレメントを通過させた。通過前と通過後の粒径個数分布を測定した結果は下記の如くであった。
【0121】
平均粒径(μm) 標準偏差
通過前(予備混合液) 11.503 0.307
通過後 0.793 0.224
この結果から、分散相が水である燃料油分散液で、水の粒径が1μm以内である燃料油分散液を簡単に製造できることが分った。
【実施例6】
【0122】
材質がテフロン(登録商標)で厚みが0.9mmのシートに実施例1と同一形状のスリットエレメントを1個形成した。このシート1枚を通路を仕切るように配設した。そして、水20部、軽油80部を攪拌機により500rpmで1分間攪拌して得た予備混合液を、差圧が2kg/cm2 となるような流量として前記通路に流してシートのスリットエレメントを通過させ、分散液とした。界面活性剤を使用しておらず、粒径が不安定のため測定結果が信頼できないので、粒径分布測定を行わずに写真撮影して観測したところ、乳化直後(分散液とした直後)に1μm近傍の水粒子の遊泳が観察された。その後、静置して2時間後に再度観察した結果、外観上は懸濁状態を維持しており、軽油や水の清澄層は全く観測できなかった。このことから、界面活性剤を使用しなくとも、1μm程度の水粒子が軽油中に分散した分散液ではかなりの時間、安定を維持できると考えられる。
【実施例7】
【0123】
図10は牛乳から溶存酸素を除去するための系統図である。図10に示す系統図で、M1、M2は実施例3と同一のスリットエレメントを有するシート(モジュールM)である。溶存酸素を8.6mg/L含有する牛乳(原乳)は流量計F1で50cm3 /分に、窒素ガスは流量計F2で3.5cm3 /分にコントロールされて、それぞれモジュールM1に送り込まれる。モジュールM1を通過した微細な気泡を含む牛乳は気液分離器V1で窒素ガスを分離される。分離後の牛乳は逆止弁C1を通過後に、流量計F3で3.0cm3 /分にコントロールした窒素ガスと共にモジュールM2を通過させ、モジュールM2を通過した微細な気泡を含む牛乳は気液分離器V2で窒素ガスを分離し、容器V3に溜める。
【0124】
気液分離機V1、V2における気泡の割合は5〜6%程度であり、容易に気液分離できた。また、気液分離機V1の出口における溶存酸素は2.5mg/Lであった。容器V3に溜めた牛乳の溶存酸素は0.8mg/Lであった。使用した窒素ガスに関しては(窒素ガス/牛乳)体積比は0.13であった。
【0125】
本発明のスリットエレメントによって既存脱酸素方法に比べて、より少ない窒素ガスで経済的に牛乳を脱酸素でき、且つ発泡率も大幅に減少する。このため、装置も小形で経済的に実用化できると考えられる。
【実施例8】
【0126】
図11は液体中に気体を溶存させるための系統図である。図11に示す系統図において、符号F1、F2はそれぞれ水と酸素の流量計、Pは送液ポンプを示す。M1は本発明のモジュールであり、材質がテフロン(登録商標)で厚みが0.9mmのシートを丸めて外径35mm、長さ250mmの円筒体とした。この円筒体の周面には、長さ方向に14列、各列30個で、図3(b)に示す形状のスリットエレメントを420個設けた。M2はテフロン(登録商標)シートからなるM1と同様のモジュールであり、外径25mm、長さ250mmの円筒体である。円筒体の周面には、長さ方向に10列、各列30個で、図3(b)に示す形状のスリットエレメントを300個設けた。
【0127】
溶存酸素量が17.8mg/Lである蒸留水を4000cc/分で、酸素ガスを100cc/分で、それぞれ流量計F1、F2でコントロールして、送液ポンプPに吸入させ、ポンプPの吐出側に直列に設けたモジュールM1とモジュールM2を通過させたところ、モジュールM2出口における溶存酸素は53mg/Lとなっており、安定した状態で流出した。
【0128】
この溶存酸素量から見ると混合した酸素が略100%水中に吸収されている。混合時の水温11℃における飽和溶存酸素量は約10mg/Lであるから、過飽和の溶存酸素水が簡単に且つ容易に製造することができた。
【0129】
このことから、本装置のように簡単な設備で工業的に容易に気体を液中に過飽和状態で溶存させることができると考えられる。
【実施例9】
【0130】
蒸留水450部(重量部、以下同様)、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩〈レベノールWZ:花王株式会社製品〉8部、メチルメタクリレート100部、ラウロイルパーオキサイド0.5部、ラウリルアルコール3部から成る重合性単量体組成物を攪拌機により1000rpmで1分間攪拌して得た予備混合液を、実施例1と同一の本発明のスリットエレメントに差圧が1.5kg/cm2 なる状態で通過させた。その結果、平均粒径0.718μm、標準偏差0.210μmの重合性単量体分散液を得た。
【0131】
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下漏斗を備えた反応器に前記重合性単量体分散液560部を入れて、窒素ガスを吹き込みながら容器内温度を70±2℃に保って8時間かけて重合反応をして合成樹脂分散液を得た。得られた合成樹脂分散液の合成樹脂の粒度は平均粒径0.872μm、標準偏差0.217μmであった。
【0132】
本発明のスリットエレメントによって粒径のバラツキの少ない(すなわち粒径分布の幅が小さい)の合成樹脂分散液が得られることが分った。
[比較例1]
実施例9と同一方法で作成した重合性単量体組成物をホモチナイザーによって5000rpmで10分間攪拌して重合性単量体分散液を得た。この重合性単量体分散液を実施例9と同一の装置で同一の条件で重合反応をおこなって合成樹脂懸濁液を得た。得られた合成樹脂分散液の合成樹脂の粒度は平均粒径7.2μm、標準偏差14.21μmであった。
【0133】
このことから、通常のホモチナイザーでは粒径分布の小さい合成樹脂分散液は得られないと考えられる。
【実施例10】
【0134】
内容積60Lのいかり型攪拌機をそなえた溶解槽に、水7361g、50%酢酸28g、部分鹸化ポリビニルアルコール(重合度1750、鹸化度88モル%)54g、部分鹸化ポリビニルアルコール(重合度350、鹸化度88モル%)214g、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB16.2)321gを仕込み、30℃で攪拌し均一な溶液を得た。この水溶液に硫酸第一鉄0.300g、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート14重量%水溶液140g、酢酸ビニル7981gを添加して攪拌した単量体混合液を、実施例2と同一のスリットエレメントにスリットの差圧2kg/cm2 で通過させて単量体混合分散液を得た。この分散液の平均粒径は0.645μm、標準偏差は0.196μmであった。
【0135】
上記の単量体混合分散液を、いかり型攪拌機を備えた300Lオートクレーブに入れ、窒素置換、エチレン置換に続いて単量体混合分散液を60℃に昇温すると共にエチレン圧を45kg/cm2 に維持しながら、0.5重量%過酸化水素水1040g、を6時間かけて均一に添加した。続いて3.2重量%の過酸化水素水溶液494gを2時間かけて均一に添加すると共に、7重量%のナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート水溶液を7時間かけて均一に添加した。この間、酢酸ビニルを実施例2と同一のスリットエレメントにスリットの差圧2kg/cm2 でエチレンガスと共に通過させながら、酢酸ビニル7891gを6時間かけて均一に供給することによって重合しエチレン酢ビ共重合体中分散液を得た。この結果得たエチレン酢ビ共重合体中のエチレン重量%は21%、エチレン酢ビ共重合体中分散液の粘度は1430CPSであった。
【0136】
このように本発明により、低粘度でエチレン比率の多いエチレン酢ビ共重合体中分散液が得られた。
[比較例2]
実施例10と同一組成の単量体混合物をさらに攪拌して単量体混合物分散液を得た。この混合物の平均粒径は2.63μm、標準偏差は0.283μmであった。
【0137】
上記の単量体混合分散液を、いかり型攪拌機を備えた300Lオートクレーブに入れ、窒素置換、エチレン置換に続いて単量体混合分散液を60℃に昇温すると共にエチレン圧を45kg/cm2 に維持しながら、0.5重量%過酸化水素水1040g、を6時間かけて均一に添加した。続いて3.2重量%の過酸化水素水溶液494gを2時間かけて均一に添加すると共に、7重量%のナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート水溶液を7時間かけて均一に添加した。この間、酢酸ビニル7891gを6時間かけて均一に供給することによって重合しエチレン酢ビ共重合体中分散液を得た。この結果得たエチレン酢ビ共重合体中のエチレン重量%は14.3%、エチレン酢ビ共重合体中分散液の粘度は10,000CPS以上であった。
【0138】
従って、エチレンの共重合割合も低く、粘度も高いため工業的な生産には適合しないと考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の分散液製造用モジュールの一実施例を設けた流体の通路を示す流れ方向に沿った断面図である。
【図2】図1のII−IIに沿った断面図である。
【図3】シートに形成するスリットの種々の実施例を示す正面図である。
【図4】シートの別の実施例を示す正面図である。
【図5】本発明のモジュールMの別の実施例を示す流れ方向断面図である。
【図6】(a)は本発明のモジュールMの更に別の実施例を示す流れ方向の断面図であり、(b)は(a)示したモジュールMの斜視図である。
【図7】本発明のモジュールMの別の実施例を示す流れ方向の断面図である。
【図8】本発明のモジュールMの別の実施例の斜視図である。
【図9】本発明のモジュールMの更に別の実施例の正面図である。
【図10】牛乳から溶存酸素を除去するための系統図である。
【図11】液体中に気体を溶存させるための系統図である。
【符号の説明】
【0140】
1 パイプ
2 シート
3 スリットエレメント
31 スリット
32 シート部分
10 通路
A 流れ方向
M モジュール
【技術分野】
【0001】
本発明は分散液の製造方法および分散液製造用モジュールに関するものである。本発明における分散液とは、液体中に微細化された他の物質が散在している状態のものを言い、液体中に微細化された液体が分散しているもの(エマルション)、液体中に微細化された固体が分散しているもの(懸濁液)および、液体中に微細化された気体が分散しているものを含む。
【0002】
また、本発明は、分散媒(すなわち連続相)が水相であるO/W分散液、油脂類が分散媒であるW/O分散液、W/O分散液を水相に再分散したW/O/W分散液、あるいはO/W分散液を油相に再分散したO/W/O分散液などの形態の分散液を製造できる方法に関する。
【0003】
本発明は、接着剤、塗料、電子部品、セメント添加剤などに用いられる樹脂分散液;クリームなどの化粧品分散液;注射液、湿布薬、経皮吸収薬品などに用いられる医療用分散液;牛乳、ヨーグルト、クリーム、チーズ等の乳製品や豆乳、マヨネーズ、ドレッシングなどの連続相が水相であるO/W可食分散液;油脂を主成分とするスプレッドなどの油脂類が連続相であるW/O可食分散液;W/O/W可食分散液あるいはO/W/O可食分散液;軽油、ガソリン、重油などに水を分散したW/O分散液燃料などの種々の用途に適応可能な分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0004】
従来、分散液を製造するには、高速回転撹拌式のホモミキサー等や、高速剪断式のホモジナイザー、送液パイプライン中にねじれ羽根を多数枚設けて送液しながら剪断するインラインミキサー、超音波乳化機等が多用されている。
【0005】
しかしながら、従来の撹拌式や剪断式の装置および超音波乳化機等は大型であり、消費エネルギーも多大である。
【0006】
分散液は分散相の粒子径によってその特性が大きく変わることが知られている。例えば、塗料等の樹脂分散液では平均粒径が一桁異なる二種類の粒度分布から成る複合粒度分布を持つ分散液によって塗料皮膜の密度を向上できること、易剥離接着剤では塗布する樹脂分散液の接着剤の粒子径によって接着力が変化することなどが知られている。また、分散液においては粒度分布も重要なファクターである。例えば、液晶表示装置において使用される液晶スペーサーは分散液から分離した樹脂製粒子であるが、液晶スペーサーは粒度の均一化が要求される。医薬品、農薬、化粧品等の用途の分散液においても分散相の粒度分布によって薬効が変わることがある。
【0007】
一般に、分散相の粒子径が小さいほど分散相の分離に対する安定性が高い。そして、分散相の粒子径が1μm以下で分布することが求められている技術分野も多い。従来使用されているターボミキサー、コロイドミル、ホモジナイザー等により分散液を製造する場合、分散相の粒径が1μm以上であれば剪断力を調整することによって分散相の粒径分布をある程度は調整できる。しかし、粒径が1μm以下の場合は狭い粒度分布にすることはかなり困難である。
【0008】
分散相の粒子径を均一にする(粒度分布を小さくする)ために、分散相を多孔質ガラスやポーラスパイプなどで濾過することが知られているが、このような方法では分散相が固体の場合や液体が析出性であったり、汚濁液体であったりする場合は、細孔が目詰まりするという問題が生じる。
【0009】
一般に、分散液の分散性は界面活性剤の添加量が多いほど良く、分散液に加えられる剪断力の強いほど良くなる傾向がある。しかし、分散液における界面活性剤の含有量が多くなると、分散液の性質が変化したりする(例えば、界面活性剤のために樹脂の性能に吸湿性が生じたりする)ために、界面活性剤の添加量をできるだけ少なくすることが求められている。
【0010】
各種技術分野における背景技術を以下に例示する。
【0011】
(1)樹脂分散液関係の背景技術
樹脂分散液は分散相の組成によりその用途等が種々である。また、分散液の製造に関して、分散液中で重合反応させる場合、経済的または技術的観点から見て何等問題なく製造できる場合もあるが、問題がある場合もある。
【0012】
例えば、エチレン−酢ビ共重合体を含む分散液は接着剤、塗料、セメント混和剤などと各種用途がある。エチレン−酢ビ共重合体のように共重合を構成する一方の単量体(モノマー)が気体である場合、連続相を形成する水相を介して酢ビモノマーと共重合反応をする。このため、エチレンの水に対する溶解速度が律速となる。一方、樹脂分散液を塗布した時の樹脂皮膜の接着性を増加させるには、エチレンの共重合割合を増加させることが必要である。前述したように重合反応はエチレンの水に対する溶解速度が律速となるので、分散液において共重合割合を増加させるためには、連続相に接するエチレンの圧力を増加させたり、エチレン溶解速度にあわせて反応時間を長くしたりする必要があった。
【0013】
反応圧力の増加は重合設備費の増大をもたらし、反応時間を長くすることは稼働率の低下をもたらすため、このような製品は経済的に生産ができないと言う問題がある。
【0014】
更に、これらの共重合体は粘度の増大によって反応熱を除去できなくなるため、粘度をコントロールし、分散相の樹脂の粒度分布を小さくする必要がある。しかし、そのために界面活性剤を多量に用いると、樹脂皮膜の耐水性が落ちるという逆作用があり、解決方法が求められている。
【0015】
(2)乳製品関係の背景技術
乳製品、特に脂肪含有量が50%以上の牛乳やクリーム類などにおいて、脂肪類の分離を防止するためには、分散している脂肪分などの粒子径を1μm以下で均質化する必要があることが知られている。
【0016】
均質化のために種々の技術が提案されている。例えば、特開平10−201386号公報(特許文献1)では、脂肪性の液体からなる乳製品を10〜100バール(約10〜100kgf/cm2 )、好ましくは20〜80バールの圧力で多段ノズル分散装置を10〜200m/秒の速度で通過させることによって、4μmを越える粒子が存在しないで、最高90%の容積関連粒径が0.1〜1μmの脂肪の粒子径に均質化する方法が開示されている。
【0017】
しかし、特許文献1の方法では水力学的直径が0.1〜1mmの細孔を多数設けてあるノズル分散装置を使用しているが、これら多数の細孔は直径が小さいために目詰まりが生じ易く、特に20バールより低い圧力とした場合は目詰まりが生じ易いと言う問題がある。また、カルシウムの摂取量を高めるために乳製品に炭酸カルシウムを添加することが多いが、水力学的直径が0.1〜1mmの細孔を液体が高速で通過するために、液中に炭酸カルシウムのような研磨物質がある場合はノズルの細孔の磨耗が激しいと言う問題が発生する。更に、特許文献1の方法では1〜4μmの粒子が少なくとも10%以上存在すること、および実施例の平均粒径からすると粒径分布がかなり広いことが分る。
【0018】
特開2003−180243号公報(特許文献2)には牛乳と乳化剤を含む混合物を25MPa(約250kgf/cm2 )以上の圧力で1μm以下に均質化する方法が開示されている。特許文献2の方法では高エネルギーによる牛乳の温度上昇は避けられず、牛乳の風味を損なうと言う問題がある。また、使用圧力が高く、処理量が少量である牛乳などでは多段の往復動ポンプを使用する必要があるため、設備費が高くなり、複雑な構造でメンテナンスも煩雑であるという問題がある。
【0019】
特開2004−249289号公報(特許文献3)には200MPa(約2000kgf/cm2 )の圧力で牛乳や水などと共に油やカルシウムなどを小孔におよび細長孔に通過させて微粒状に分散させる微粒化装置が開示されている。しかし特許文献3の装置ではノズル(小孔)の開口面積は一定であり、従ってノズルにかかる圧力(差圧)はノズル通過流量のほぼ二乗に比例するため流体をノズルに高速で通過させるためには極めて大きな圧力が必要である。このためノズル自体も2000kgf/cm2 の耐圧が必要なため大型で堅固な構造となる。更に、圧力を高圧ポンプによって一定にする場合、ノズルの数によって流量が限定されるため運転条件は、「高圧で且つ流量は一定」という極めて狭い範囲に限定される。
【0020】
更に、特許文献1および特許文献2の何れの方法おいても、運転圧力と流量の変動巾が著しく限定されると言う欠点を有している。
【0021】
一方、牛乳などの可食分散液では酸化による芳香や食味の変化を防止することも消費者から求められている。日本農芸化学会誌Vol.77,No.9,2003.P46(非特許文献1)によれば、例えば牛乳の場合は原乳中の10PPM程度の溶存酸素によって殺菌時の温度上昇や均質化設備での温度上昇による酸化反応によって風味、食味が阻害される。これを防止するためには原乳中に通常10PPM程存在する溶存酸素を2.5PPM程度に低下させる必要があると記載されている。更に、その対策として、原乳にスタティックミキサーで窒素ガスを混合し、牛乳中の溶存酸素を窒素ガス中に移行させた後に、脱泡タンクで窒素ガスを分離すると言う方法が記載されている。
【0022】
しかし、一般にスタティックミキサーは気体の混合効率が落ちるため多量の窒素ガスを必要とし、その結果、過剰の窒素ガスに起因する多量の泡が発生するため、脱泡タンクも大きくなり、建設費もかかり、経済的な脱酸素を前記方法で達成することは困難である。
【0023】
気体を液体に吸収させる場合、前述のスタティックミキサーやディスパーミキサーを使用する方法では吸収効率が悪くガスの無駄が多い。また多孔質ガラスなどの細孔からガスを微粒にして噴出す方法は吸収効率が優れているが、多孔質ガラスの細孔が詰まりやすいために、懸濁液や汚濁液体には使用できないと言う欠点がある。
【0024】
特許第3091752号公報(特許文献4)には、窒素ガスと置換することによって牛乳中の溶存酸素を減少させる方法において、窒素ガスを直接混合分散する手段と、窒素ガスを混入していない牛乳を窒素ガス雰囲気下に貯留されたタンクの上方からノズルで噴霧する手段を併用する方法が開示されている。特許文献4では、牛乳に対して容積基準で40〜50%の窒素ガスをスタティックミキサーで混合すると発泡が生じ、全体の約1/3が泡となるため泡消しのためのタンクが膨大になるが、泡消しのためタンクの上方からノズルで牛乳噴霧を併用することでタンクを小さくできたと記載されている。
【0025】
(3)W/O/WまたはO/W/O関係の背景技術
W/O分散液を水相に再分散したW/O/W分散液形態では、W/O分散液中の水系分散物はW/O/W分散液に分散させるW/O分散液の粒径よりも一桁小さい粒径とする必要がある。また、O/W分散液を油相に再分散したO/W/O分散液においても同様のことが言える。このため分散液全体の粒度分布構成は極めて重要である。
【0026】
W/O/WまたはO/W/Oの分散液は、例えば植物性ステロールなど健康に有益な物質を含む食品や、味の悪い医薬品などを食品の味覚に関係なく添加できるという利点がある。しかし、相転換が起こりやすいため、界面活性物質の選択や原料組成に制約が多く、自由度が大幅に制限されていた。このため、相転換の起こり難い分散方法が望まれている。
【0027】
(4)燃料油関係の背景技術
自動車、船舶、発電用、のエンジンやボイラーに用いられるガソリン、軽油、重油などの燃料をエンジン中に噴射する際、あるいはボイラーのバーナーで燃焼する際に、燃料に20%程度の水を1μm以下の微粒子で添加すると、排ガス中のNOxが減少し、燃料効率も20%前後向上することは知られている。この場合、1μm以上の粒子が存在すると水粒子の蒸発速度が遅くなるため燃焼効率は大幅に低下するため、分散相の粒子径は重要な要素である。しかし、水を1μm以下で且つ狭い粒径分布で分散させる装置は高価で重量が大きく且つ運転条件の制約が厳しいので、工場で集中生産する必要がある。水懸濁燃料の安定性のために界面活性剤を使用する必要がある。
【0028】
このため、燃料油の原料となる原油や燃料油の精製方法によってそれぞれに適した界面活性剤の選択が必要である。また、寒冷地ではエマルジョン燃料の安定性に問題があったり、界面活性剤の燃焼性によってはエンジンに不具合を起こしたり、界面活性剤のコストによって経済性に問題が生ずる等の問題点があるため、水を分散させた分散液燃料は実際にはほとんど使用されていない。
【特許文献1】特開平10−201386号公報
【特許文献2】特開2003−180243号公報
【特許文献3】特開2004−249289号公報
【特許文献4】特許第3091752号公報
【非特許文献1】日本農芸化学会誌Vol.77,No.9,2003.P46
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明は前述した従来の問題を解決し、分散相の粒径が小さく、粒度分布の幅が狭い分散液を簡単に製造する方法および装置を提供することを目的とする。また、本発明は安価で小型であり、消費エネルギーも少ない分散液製造装置を提供することを目的とする。
【0030】
本発明は、界面活性剤を全く使用せず或は少量使用するだけでも、安定した分散液とできるような分散液製造方法および装置を提供することを目的とする。また、液中に分散相として気体、液体および固体の何れも微粒子状に均一に分散させることができ、広い技術分野に適応可能な分散液製造方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明は、流体の通路が1枚または複数枚のシートにより上流側と下流側に仕切られており、該仕切りシートには1個以上のスリットエレメントが形成されており、該スリットエレメントはスリットとその周囲のシート部分とからなり、前記周囲のシート部分は通過する流体により可動であり、分散液を構成する2種以上の物質を前記通路に流して、前記2種以上の物質を一緒に前記スリットエレメントを通過させることにより分散液とすることを特徴とする分散液の製造方法により前記目的を達成する。
【0032】
この場合、前記仕切りシートの上流側と下流側との圧力差が3MPa以下であることが好ましく、1MPa以下であることがより好ましい。
【0033】
前記分散液を構成する2種以上の物質を前記通路に流す際に、各物質を予め混合せずに同時に流し込んでも良いが、予め前記分散液を構成する2種以上の物質を混合した後に、前記通路に流して、前記スリットエレメントを通過させることが好ましい。
【0034】
分散液を構成する物質が液体と気体であり、液体を分散媒とし、気体を分散相としてもよい。この場合、分散媒となる液体が一種類以上の気体を溶存する液体であり、分散相となる気体が前記液体中に溶存する少なくとも一種類の気体に対して不活性な気体であってもよい。
【0035】
本発明の方法は、分散液を構成する2種以上の物質は主となる物質が乳製品または豆乳であり、その他の物質が該主となる物質と成分を異にする1種類以上の物質であるものに適用できる。その他の物質としては、主となる乳製品または豆乳とは異なった成分の乳製品、豆乳、植物油、カルシウム化合物、果汁、ココア、乳化剤等である。
【0036】
また、本発明の方法は、分散液における分散媒となる物質が燃料油であり、分散相となる物質の主成分が水であるものにも適用できる。
【0037】
本発明の方法は、分散液を構成する物質が少なくとも水と重合性単量体であり、該物質をスリットエレメントを通過させて分散液とし、該分散液において前記重合性単量体を重合し、重合した合成樹脂を分散相とする場合に適用できる。
【0038】
更に、本発明の方法は、分散液を構成する物質が重合性単量体を含む液体と重合性単量体の気体混合物であり、前記両物質をスリットエレメントを通過させて分散液とし、該分散液において前記重合性単量体と前記重合性気体混合物とを重合し、重合した合成樹脂を分散相とする場合にも適用できる。この場合、気体混合物である単量体をエチレンを含む混合物とし、液体である単量体を酢酸ビニルを含む混合物とすると、エチレン−酢ビ共重合体を含む分散液を製造することができる。
【0039】
本発明は、分散液を構成する2種以上の物質が一緒に流れる通路に配置されて、該通路を上流側と下流側とに仕切るモジュールであり、該モジュールは1個以上のスリットエレメントが形成されたシートを具備しており、各スリットエレメントはスリットとそのスリット周囲のシート部分からなり、前記周囲のシート部分は通過する流体により可動であることを特徴とする分散液製造用モジュールにより前記目的を達成する。
【0040】
前記スリットエレメントのスリットが中心から放射状に複数の方向に延びていることが好ましい。
【0041】
また、1枚のシートに複数個のスリットエレメントが形成されていることが好ましい。
【0042】
スリットエレメントを有する1枚のシートは流体が流れる通路を仕切るように平らに配置されていてもよいが、スリットエレメントを有する1枚のシートが円筒形または円錐形とされており、前記円筒形または円錐形の内側と外側の間に流体が流れるように構成されていてもよい。
【0043】
スリットエレメントを有する複数枚のシートが平らな状態または円筒形または円錐形で間隔を開けて配置されていることが好ましい。
【0044】
また、スリットエレメントを有する1枚のシートが螺旋状に巻かれており、螺旋の各層の間が間隔を開けているようにしてもよい。
【0045】
本発明のスリットエレメントを有するシートは金属製、プラスチック製またはゴム製である。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、分散液を構成する2種以上の物質を金属またはプラスチックのシートに設けたスリットエレメントを一緒に通過させるだけで、分散相の粒径が小さく、粒度分布の幅が狭い分散液を簡単に製造できる。
【0047】
また、本発明のスリットエレメントはプラスチック、ゴムまたは金属のシートに形成したスリットとそのスリット周囲のシート部分からなるものである。そのスリット周囲のシート部分は、スリットをその一辺または二辺とする小面積のシート部分であり、通過する流体によりスリットからなる辺を自由端部として可動であるような剛性を有する。従って、シートの厚みや材質に適合した適宜形状のスリットを設けるだけで、本発明のスリットエレメントを形成することができる。
【0048】
本発明によれば、スリットエレメントは流体が通過していない状態では実質的に隙間がなく、スリットが閉じた状態であり、流体が通過する際に流体の圧力によりスリット周囲のシート部分が撓んで僅かな隙間を生じ、スリットが開いた状態となる。スリット周囲のシート部分の剛性が異なる複数枚のシートを用意しておくことにより、所望の粒径の分散液を簡単に製造することができる。この場合、剛性が高い方が分散相を微粒子化できる。
【0049】
従来のノズルは開口面積が一定であり、ノズルにかかる圧力(差圧)はノズル通過流量のほぼ二乗に比例するため流体をノズルに高速で通過させるためには極めて大きな圧力が必要であった。これにたいして、本発明によれば、運転中のスリットエレメントは流速に応じて変形し且つスリット周囲のシート部分が振動するため、その面にかかる圧力(差圧)は流量の1〜0.6乗に比例して増加するだけである。しかも同一スリットであれば流量変動によって粒径分布はほとんど変わらない。すなわち、圧力と流量の範囲が限定されないため、本発明では処理流量など運転条件の変動に対しても自動的に対応でき、経済的である。しかも、高圧ポンプは必要ではなく、小容量、低揚程の小型ポンプで対応でき、エネルギーコストも建設コストも従来の方法にくらべて著しく優れている。
【0050】
本発明によれば、スリット周囲のシート部分はスリットが微細な間隔にもかかわらず振動するため閉塞を起こすことがなく、仮に閉塞しても自己洗浄の機能を持っている。
【0051】
本発明の分散液製造モジュールは、このようなスリットエレメントを有するシートからなり、このシートにより分散液を構成する2種以上の物質が一緒に流れる通路を上流側と下流側とに仕切るだけであるので、極めて簡単な構造であり、安価で小型である。しかも、仕切りシートの上流側と下流側との圧力差が3MPa以下の低圧であり、消費エネルギーも少ない。
【0052】
本発明によれば、分散相を1μm以下の微粒子にもすることができるので、界面活性剤を全く使用せず或は少量使用するだけでも、安定した分散液とすることができる。また、液中に分散相として気体、液体および固体の何れもを微粒子状に均一に分散させることができ、広い技術分野に適応可能である。
【0053】
本発明によれば、気体を分散相とした場合、分散相を1μm以下の微粒子状にして液体中に気体を分散させて、その気体を液体に吸収させることができる。従って、エチレン−酢ビ共重合体のように共重合を構成する一方の単量体が気体である場合でも、気体である単量体の共重合割合を増加させることが容易であり、このような気体の共重合割合を増加させた樹脂分散液を経済的に生産することができる。
【0054】
また、気体を溶存する液体と不活性気体とを本発明のスリットエレメントを通過させることにより、液体に不活性気体を分散状態にすることができる。そして、液体中の溶存気体を分散状態の不活性気体中に移行させた後、脱泡することにより液体から溶存気体を除去することができる。本発明を牛乳に適用した場合、細かい気泡で分散するため必要な窒素ガス(不活性気体)も容積基準で13%程度と少量であり、且つ発泡は全体の約1/20程度である。従って、設備も小さく窒素ガスも少量で、牛乳中の溶存酸素を容易に且つ経済的に分離できる。このように、本発明によれば、牛乳中の溶存酸素を簡単に除去でき、牛乳の風味、食味をよくすることができる。
【0055】
更に、分散液である原料を本発明のスリットエレメントを通過させることによって、原料の分散相の粒径分布を変更することができる。例えば、脂肪含有量が50%以上の牛乳やクリーム類など脂肪類の分離を防止するために分散している脂肪分などの粒子径を1μm以下で均質化することができる。
【0056】
乳製品または豆乳と前記成分以外の成分(例えば、乳製品、豆乳、バター、植物油、カルシウム化合物、乳化剤の少なくとも一種類)との混合物を本発明のスリットエレメントを通過させることにより、乳製品あるいは豆乳以外の成分を含む乳製品または豆乳とすることができる。
【0057】
燃料油(ガソリン、軽油、重油、灯油、など)を分散媒として、水を主成分とする液体を分散相とするには、従来はかなりの分量の界面活性剤を使用しなければならなかったが、本発明によれば、界面活性剤をほとんど使用しなくとも、燃料油に水を主成分とする液体を微粒子として分散させることができ、従って、水を含んだ分散液燃料を製造できる。しかも、分散装置を極めて小型にできるので、車載またはオンサイトで分散液燃料を製造することができる。
【0058】
重合性単量体混合物を本発明のスリットエレメントを通過させて重合性単量体の分散液を生成した後に、この分散液を重合することにより固体微粒子からなる合成樹脂の分散液を製造することができる。この場合、本発明によれば合成樹脂の粒径を1μm以下とすることも容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下図面に示した実施例に基いて本発明を詳細に説明する。図1は本発明の分散液製造用モジュールの一実施例を設けた流体の通路を示す流れ方向に沿った断面図である。図2は図1のII−IIに沿った断面図である。
【0060】
図1において、パイプ1内の通路10を矢印A方向に分散液を構成する2種以上の物質が一緒に流される。この通路10に分散液製造用モジュールMが配置され、モジュールMにより通路10が上流側と下流側に仕切られている。この実施例では、モジュールMは金属製、プラスチック製またはゴム製のシート2であり、図2に示すように、シート2の中心に1個のスリットエレメント3が形成されている。図1の実施例ではパイプ11とパイプ12との間に流通路10を塞いでシート2が配置され、パイプ11とパイプ12のフランジ部13に直接またはリング状のシール14を介して液漏れしないように、ボルト15およびナット16により取付けられている。
【0061】
シート2は材質に関しては特に限定されないが、例えば次のようなものが適している。
【0062】
金属シートとしては、ステンレス鋼、バネ鋼のような鉄合金類、燐青銅、真鍮のような銅合金類、アルミ合金、ニッケル合金、チタン合金などからなり、適度の弾性があるものが好ましい。
【0063】
プラスチックシートとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンのような汎用樹脂、ポリ塩化ビニルのような塩ビ系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(登録商標はテフロン)のようなフッ素系樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、PET、ポリスルフォン等のエンジニヤリング樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂のような熱硬化性樹脂、前述したこれらの樹脂を混合したり、張り合わせたり、或は炭素繊維、ガラス繊維、ナノ物質などの充填材を充填したりした複合材料、金属とプラスチックの複合材料などからなるシートであり、弾性と耐磨耗性、耐薬品性があるものが好ましい。
【0064】
ゴム製シートとしては、ポリブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム等のゴム類で、弾性と耐磨耗性、耐薬品性があるものが好ましい。
【0065】
また、これらの金属やプラスチックの表面状態を例えば鍍金などの表面処理をして、分散液となる液体との界面張力を調整してもよい。
【0066】
本発明におけるスリットエレメント3は、プラスチック製シート、金属製シートまたはゴム製シートに形成したスリット31とそのスリット周囲のシート部分32からなるものである。スリット周囲のシート部分32は、スリット31をその一辺または二辺とする小面積のシート部分であり、通過する流体によりスリット31からなる辺を自由端部として可動であるような剛性を有する。
【0067】
本発明のスリットエレメント3は流体が通過していない状態では実質的に隙間がなく、スリット31が閉じた状態であり、流体が通過する際に流体の圧力がその面に掛かるとスリット周囲のシート部分32が撓んで僅かな隙間を生じ、スリット31が開いた状態となり、流体が通過できる。
【0068】
図2に示した実施例におけるスリットエレメント3は中心から3方向に延びている3本のスリット31と3つのシート部分32からなる。各シート部分32は2本のスリット31に囲まれた部分であり、2本のスリット31の2つの外端31aの間の箇所はシート2の本体に連続している。従って、この実施例では、通過する流体により可動であるシート部分32は略三角形または略扇形である。
【0069】
図3はシート2に形成するスリット31の種々の実施例を示す正面図である。スリット31は直線からなるものでも、曲線からなるものでもよい。スリット31は図3の(b)、(c)、(d)、(g)、(h)および(i)のように中心から複数の方向に延びているものが好ましい。また、図3の(f)、(g)、(h)、(i)および(j)のように各スリット31の端部に別方向に延びる短いスリット31aを設けた形状としてもよい。なお、本発明のスリット31は図3に示した実施例に限定されるものではない。また、スリット31の本数によりシート部分32の個数が変わり、例えば図3(b)のシート部分32は3つであり、(c)のシート部分32は4つである。
【0070】
図4はシート2の別の実施例を示す正面図である。この実施例では1枚のシート2に3個のスリットエレメント3が形成されている。また、シート2には取付け穴21が設けられており、パイプ1に取付けた際に通路10に対応する箇所を仮想線(2点鎖線)で示した。このシート2を図1に示すように、通路10を仕切るように配置すると、通路10を流れる流体は3箇所のスリットエレメント3を通って上流側から下流側へと流れる。
【0071】
図5は本発明のモジュールMの別の実施例を示す流れ方向断面図である。図5において、パイプ11および12内の通路10を矢印A方向に分散液を構成する2種以上の物質が一緒に流れる。この通路10に分散液製造用モジュールMが配置され、モジュールMにより通路10が上流側と下流側に仕切られる。この実施例のモジュールMではシート2とこれを担持する支持体41の組合せが3組設けられている。各シート2には1個または複数個のスリットエレメント3が形成されており、対応する支持体41には各スリットエレメント3と対応する箇所にそのスリットエレメント3よりも大きな穴42が形成されている。
【0072】
図5に示すように、シート2を支持した支持体41は2つの端リング体43、45と2つの中間リング体44、44により外周部が挟持されている。端リング体43または45と中間リング体44および中間リング体44と中間リング体44とは螺合連結され、液漏れしないようにして一体化されている。端リング体43または45はそれぞれフランジ部43a、45aを有しており、それぞれパイプ11またはパイプ12のフランジ部13に直接またはリング状のシール14を介して液漏れしないように取付けられる。通路10に矢印A方向に流体が流されると、各支持体41の穴42そしてシート2のスリットエレメント3を順次通っていく。
【0073】
この実施例ではシート2を支持体41に支持しているので、シート2の面積が広く厚みが薄い場合でも、シート2が弛んだりしない。また、この実施例では支持体41がシート2の片側にだけ設けられているが、支持体41の厚みを薄くし、穴42を充分大きして、スリットエレメント3のシート部分32の動きに悪影響を及ぼさないようにすれば、支持体41をシート2の両側に設けて、2つの支持体41でシート2を挟持するようにしてもよい。
【0074】
更に、図5の実施例のモジュールMではシート2が3枚であるが、この枚数に限定されず、2枚でもよいし、中間リング体44を増やすことにより簡単に4枚以上とすることもできる。
【0075】
図6(a)は本発明のモジュールMの更に別の実施例を示す流れ方向の断面図であり、(b)は図6(a)示したモジュールMの斜視図である。この実施例において、図6(b)に示すように、シート2は円筒形をしており、その周面に複数個のスリットエレメント3が形成されている。円筒形の一方の端部はリング体51に取着され、円筒形の他方の端部は円板52により塞がれている。図6(a)に示すように、リング体51がパイプ11およびパイプ12に液漏れしないようにして取着される。
【0076】
この実施例において、流体が矢印Aの方向に流されると、流体はパイプ11から円筒形シート2の内部に入り、そして円筒形シート2の周面に設けられたスリットエレメント3を通ってパイプ12へと流れる。このように、この実施例でもシート2により通路10が仕切られている。
【0077】
なお、図6の実施例では円筒形シート2の内部から外部に流体が流れるようにしたが、逆に円筒形シート2の外部から周面に設けたスリットエレメント3を通って内部へと流れるようにしてもよい。
【0078】
図7は本発明のモジュールMの別の実施例を示す流れ方向の断面図である。
この実施例において、シート2は円錐形をしており、その周面に複数個のスリットエレメント3(図示せず)が形成されている。円錐形の一方の端部はリング体51に取着され、リング体51はパイプ11に液漏れしないようにして取着される。この実施例において、流体が矢印Aの方向に流されると、流体はパイプ11から円錐形シート2の内部に入り、そして円錐形シート2の周面に設けられたスリットエレメントを通ってパイプ12へと流れる。なお、流体の流れ方向は逆でもよい。
【0079】
図8は本発明のモジュールMの別の実施例の斜視図である。この実施例では同心円状に間隔を開けて複数個の円筒形シート2が配置される。各シート2には複数個のスリットエレメント3が設けられている。このモジュールMは図6に示した実施例と同様に一方の端部をリング体に支持し、他端を円板で塞いで、流通路中に配置し、流体が各円筒形の周面に形成されたスリットエレメント3を通って、円筒形の内部から外部へ、或は逆に外部から内部へと流通するようにすればよい。
【0080】
図9は本発明のモジュールMの更に別の実施例の正面図である。この実施例では、複数個のスリットエレメントを有する長方形のシート2が螺旋状に巻かれ、螺旋の各層の間にはスペーサ55が設けられて、螺旋の各層が間隔を開けているように構成されている。このモジュールMは、図6の実施例と同様にして流体が流れる通路10に配置され、流体が螺旋の周面に形成されたスリットエレメントを通って、螺旋形の内部から外部へ、或は逆に外部から内部へと流通する。
【0081】
以上の実施例に示したように、本発明において、シート2は図2や図4に示したような円形に限られず、通路10の形状や取付け箇所の形状に合わせた形状とすればよい。また、シート2は通路10を上流側と下流側に仕切る機能を有するものであれば、その形状は平坦な形状に限られず、図6に示した円筒形や図7に示した円錐形状などとしてもよい。更に、図5や図8に示したようにスリットエレメント3を有する複数枚のシート2を間隔を開けて配置してもよいし、図9に示すように1枚の螺旋状に巻いたシート2を間隔を開けて配置してもよい。
【0082】
本発明において、1枚のシート2に形成されるスリットエレメント3は1つでも或は複数個(数は特に限定されない)でもよく、複数個の場合は全てのスリットエレメント3が同じ形状でもよいし、或は異なった形状のスリットエレメント3の組合わせでもよい。
【0083】
前述したように本発明のスリットエレメント3は、流体が通過する際に流体の圧力がその面に掛かるとスリット周囲のシート部分32が撓んで僅かな隙間を生じ、スリット31が開いた状態となり、流体が通過できる構造であるが、その隙間は一定ではない。すなわち、面に掛かる圧力が上がるとスリット31が開く方向にシート部分32が撓み、圧力が下がるとスリット31が閉じる方向にシート部分32が動く。スリットエレメント3の面に掛る圧力は上流側の圧力と下流側の圧力との差(差圧)であるが、撓んだシート部分32の間を通って流体が流れるとき、下流側に生じる乱流やキャビテーションなどにより差圧に変動が生じ、一旦開いた方向に撓んでいたシート部分32が閉じる方向に戻ると、流れて来る流体の圧力により再び開く方向に撓むと言うことが繰り返され、シート部分32が振動する。
【0084】
スリットエレメント3のシート部分32の剛性が高いほど、その面に掛かる圧力(差圧)は高くなり、振動数も高くなり、逆に、シート部分32の剛性が低いほど、その面に掛かる圧力(差圧)と振動数は低くなる。
【0085】
スリットエレメント3のシート部分32の剛性は、シート2の材質および厚み、スリット31の大きさおよび形状によって異なる。スリットエレメント3のシート部分32の剛性は、シート2の材質の剛性が高いほど高く、同じ材質でも厚みが大きいほど高くなる。また、材質および厚みが同一のシート2においてはスリット31のサイズが小さい方が剛性が高くなり、スリット31の形状に関しては、例えば、図3(b)のシート部分32の方が図3(d)のシート部分32よりも剛性が高くなる。従って、シートの厚みや材質に適合した適宜形状のスリットを設けるだけで、本発明のスリットエレメント3を形成することができる。
【0086】
本発明ではシートの厚みは材質により異なるが、0.1mm〜10mm程度が好ましい。また、各スリットエレメントの大きさ(全部のスリットが含まれるような広さ)は直径で約4mm〜50mmであることが好ましい。
【0087】
本発明により微細な粒子が生成するメカニズムは明確ではないが、シート部分32の振動も寄与していると思われる。実験結果からすると、シート部分32の剛性が高い方が分散相の粒径が小さく、粒径分布も小さい分散液が得られ、剛性が低い方が分散相の粒径が大きく、粒径分布も大きい分散液が得られる。シート部分32の剛性が異なる複数枚のシート2を用意しておき、シート2を交換することにより、所望の粒径の分散液を簡単に得られる。
【0088】
また、スリットエレメント3への流体の通過量が多くなれば、スリット31が開くが、流体の通過量が多くなり過ぎると、シート部分32を構成する金属、プラスチックまたはゴムが塑性変形してしまい、スリット31が閉じなくなる。従って、本発明においてはシート部分32が塑性変形を起こさない範囲、すなわち、シート部分32の弾性限界内に収まる範囲で流体を流す必要があり、それにより最高流量が決まる。また、スリットエレメント3を通過する最低流量はスリットの隙間の設定によって決まり、スリットエレメント3のシート部分32を撓めてスリット31の隙間を広くするような最小の分量である。
【0089】
本発明においては、モジュールM(シート2)により上流側と下流側に仕切られるが、スリットエレメント3のシート部分32が撓んでスリット31の隙間が広がって流体を通過させるので、流量に応じて隙間が広がり、上流側と下流側との圧力差を低い状態とすることができる。本発明では、モジュールM(シート2)の上流側と下流側との圧力差が3MPa以下である状態で使用することが好ましく、1MPa以下であることがより好ましい。
【0090】
本発明において、同一のスリットを用いて通過流量を変動させると、スリットの差圧は、流量の1〜0.6乗に比例して増加するだけで、スリットを通過する流量が変動しても粒径分布はほとんど変わらない。これはスリットエレメント3のシート部分32が流量や流速に応じて可動であるためである。これに対して、従来のノズルタイプの装置ではノズルの開口面積は一定であり、従ってノズルにかかる圧力(差圧)はノズル通過流量のほぼ二乗に比例するため流体をノズルに高速で通過させるためには極めて大きな圧力が必要であった。
【0091】
また、図5に示すように、スリットエレメント3有するシート2を流れ方向に複数枚通過させても粒径分布は変わらないか再衝突によってむしろ粒径が増加する場合もある。しかし、図4の実施例のように多数のスリットエレメント3が1枚のシート2に設けられている場合は、これらのスリットエレメント3の一部が何らかの原因で破損したり、変形したりした場合を考慮すると、シート2を流れ方向に配列することは、モジュールM全体の信頼性を高めるためると言う効果がある。
【0092】
本発明の方法および装置は種々の技術分野に適用できる。その一例として、液体に気体を吸収させる場合に適用し、気体自体を細粒化できるため最小の〈気/液〉比率で安定した気体吸収ができる。本発明のスリットエレメント3のシート部分32は振動によって閉塞を自己洗浄する機能を有するため、液体が析出性であったり、汚濁液体であったり、分散液であったりしても工業的に使用できる。更に、実施例8に例示したような簡単な装置で過飽和酸素水ができるため、汚水の水中酸化などには最適で、工業的にも極めて優れた経済特性を持っている。
【0093】
本発明は乳製品または豆乳に他の成分を混合する場合に適用できる。すなわち、乳製品または豆乳に前記成分以外の成分を混合して、本発明のモジュールMのスリットエレメントを通過させることで他成分を含む改質された可食分散液を製造できる。
【0094】
ここで乳製品または豆乳に混合するこれ以外の成分とは、乳製品、豆乳、バター、オリーブ油、とうもろこし油、紅花油、落花生油、ひまわり油、グレープシード油、キャノーラ油、綿実油、大豆油、小麦胚芽油、菜種油、オート麦油、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム類、クエン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、コーヒー、ココア、緑茶、果汁、ラノリン酸、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ペクチン、寒天、でんぷん、ショ糖、塩、並びにこれらを少なくとも一種以上含む混合物である。
【0095】
また、本発明は燃料油の改質に適用できる。自動車、船舶、発電用、のエンジンやボイラーに用いられるガソリン、軽油、重油などの燃料油と水とを本発明のモジュールMのスリットエレメントに通過させることにより、分散相として水が1μm以下で且つ狭い粒径分布した分散液燃料を製造できる。本発明のモジュールMは小型であるので、車載やオンサイトで分散液燃料を容易に生産できる。
【0096】
一般に分散相の粒子径が1μm以下に分散していると分離し難いため、本発明によれば、界面活性剤を添加しなくても分散液を数分間は安定状態を保つことができる。本発明のモジュールMは差圧が低くても使用できるので、エンジンの噴射燃料ポンプのごとき小容量、低揚程の小形ポンプを使用する場合であっても適用でき、しかも燃料消費量の変動が激しい場合であっても、1μm以下の粒子径で水が分散した分散液燃料を安定的に生産できる。
【0097】
このため、車載またはオンサイトで分散液燃料を生産しながらエンジンなどに使用する場合は、分散液の不安定性は無視でき、更に、界面活性剤のコストも無視できるため、大幅な燃料費のコストダウンが期待できると共にNOxの大幅な削減が可能となる。
【0098】
また、本発明のスリットエレメント3のシート部分32は流体が通過することにより振動するので、自己洗浄の機能を有しており、重油等のように付着性物質が燃料中に存在しても安定した運転が期待できる。
【0099】
本発明により積載状態で製造された分散液燃料をディーゼルエンジンやガソリンエンジンの燃料として使用する場合は、水の氷結を防止するためにアルコール類やグリコール類などを水に添加するとよい、これらは界面活性効果もあるため分散液は安定性を増す。
【0100】
連続相に燃焼可能な界面活性物質を添加したり、分散相には水以外に燃焼可能な界面活性物質を添加したりすると、粒子径がより小さくなったり、粒径分布の巾が狭くなったりするため分散液の安定化時間が長くなる利点がある。しかし、コストアップとなるので、添加量はできる限り少量にする方が好ましい。
【0101】
また、本発明により積載状態で分散液燃料を製造する場合、起動時には分散液燃料を使用せずに通常燃料でエンジンを起動し、起動後にエンジンが安定し且つ使用する水の温度も適温となった時点で分散液燃料に切り替え、停止時には再び通常燃料を使用するといったサイクル運転も、例えば、分散相である水のポンプをON−OFFすること等によって容易に実施できる。積載状態で分散液燃料を製造する装置は、車に積載可能な程度にコンパクトで且つ低揚程、小容量のポンプで構成され、本発明の分散液製造用モジュールMをそのシステムの一部として使用した装置を意味し、積載対象は自動車に限定されず、例えば漁船や貨物船などの船舶、エンジン発電機、加熱機、小形ボイラー、建設機械、エンジンポンプ、農機具などに積載あるいはオンサイトで使用されるものも含まれる。
【0102】
本発明のモジュールMはW/O/W分散液やO/W/O分散液の製造にも適用できる。W/O分散液を水相に再分散したW/O/W分散液形態では、W/O分散液中の水系分散物は、W/O/W分散液に分散させるW/O分散液の粒径よりも小さい粒径とする必要がある。このため、スリットエレメント3のシート部分32の剛性が大きく且つ表面が親油性のシート2を用いて小さい粒径のW/O分散液を作成する。そして、このW/O分散液と連続相を形成する水を粒径が大きくなるように、スリットエレメント3のシート部分32の剛性が小さく且つ表面が親水性であるシート2を用いると、W/O/W分散液を制約が少ない条件で生産できる。
【0103】
また、O/W分散液を油相に再分散したO/W/O分散液形態では、シート部分32の剛性が大きく且つ表面が親水性のシート2を用いてO/W分散液を作成し、このO/W分散液と油を、表面が親油性のシート2に形成された剛性の小さいシート部分32を有するスリットエレメント3を通過させることにより、制約が少ない条件でO/W/O分散液を生産できる。
【0104】
本発明は粒子径を一定の粒度分布にした合成樹脂の分散液を製造する場合に適用できる。重合反応をする前の単量体、重合開始剤、界面活性剤等から成る重合性単量体混合物を本発明のシート2に設けたスリットエレメント3を通過させて一定の粒度分布を有する重合性単量体分散液を予め生成した後に、この重合性単量体分散液を重合して一定の粒度分布を有する合成樹脂分散液とする。更に、その分散液から合成樹脂を分離すれば、粒子径を一定の粒径範囲にした合成樹脂粉末も得られる。
【0105】
前記方法において、2種類以上の剛性の異なるスリットエレメント3を用意して、それぞれのスリットエレメント3に重合性単量体混合物を通過させて、分散相の粒度分布がそれぞれ異なる2種類以上の重合性単量体分散液を作成する。そして、これらの重合性単量体分散液を所望の割合で混合することにより、分散相が2種類以上の粒度分布を持つ重合性単量体分散液が得られる。これを重合することによって、分散相が2種類以上の粒度分布を持つ合成樹脂分散液が得られる。
【0106】
なお、上記方法では2種類以上の重合性単量体分散液を混合した状態で重合したが、重合前に混合せずにそれぞれの重合性単量体分散液をそれぞれ重合させて、粒度分布が異なる複数の合成樹脂分散液を製造し、その後これらの合成樹脂分散液を所望割合で混合することにより、分散相が2種類以上の粒度分布を持つ合成樹脂分散液としてもよい。
【0107】
本発明は、エチレン−酢ビ共重合体のように共重合を構成する一方の単量体が気体であるような樹脂分散液を製造するのに適用できる。分散相の組成が例えばエチレン−酢ビ共重合体のような共重合体である場合は、共重合を構成する一方の気体である単量体と、共重合反応をする他方の単量体、重合開始剤、界面活性剤等から成る重合性単量体混合物とを、本発明のシート2に設けたスリットエレメント3を通過させて、一方の気体である単量体を懸濁状態で吸収させる共に、重合後の粘性をコントロールできる一定の粒度分布を有する重合性単量体分散液とする。この重合性単量体分散液を重合して一定の粒度分布を有する合成樹脂分散液とする。なお、前記共重合反応をする他方の単量体、重合開始剤、界面活性剤等を予め本発明のスリットエレメント3を通過させて、重合性単量体混合物(分散液)としておき、この重合性単量体混合物と共重合を構成する気体である単量体とを本発明のスリットエレメント3を通過させて、所望の重合性単量体分散液としてもよい。
【0108】
この重合性単量体分散液の粒度分布を小さく保てれば、重合反応中の粘度上昇を抑えて、熱収支を維持できるために経済的な製造が可能である。
【0109】
共重合体の一方の成分比率を増加させるためには、一方の気体である単量体を他方の重合性単量体分散液に吸収させる際に、一方の気体である単量体が他方の重合性単量体分散液中に少なくとも飽和溶解状態にあること、特に過飽和溶解状態を維持することが好ましい。
【実施例1】
【0110】
材質がテフロン(登録商標)で厚みが0.5mmのシートに図3(b)の形状であって、各スリットの一辺の長さが2.5mmで各辺が120度の角度を持つスリットエレメント1個を設けた。このシート1枚を通路を仕切るように配設した。そして、水を80部、大豆油を20部、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム)0.8部を攪拌機で1000rpmで1分間攪拌して得た予備混合液を、8cm3 /分で前記通路に流してシートのスリットエレメントを通過させた。このときの差圧は2kgf/cm2 (約0.2MPa)であった。通過前と通過後の粒径個数分布を測定した結果は下記の如くであった。粒径分布が1μm以下になっていることが分った。
【0111】
平均粒径(μm) 標準偏差
通過前(予備混合液) 23.106 0.238
通過後 0.804 0.212
【実施例2】
【0112】
材質がテフロン(登録商標)で厚みが0.9mmのシートに実施例1と同一形状のスリットエレメントを1個形成し、このシートを実施例1と同様に配設した。そして、実施例1と同一の予備混合液を8cm3 /分でスリットエレメントを通過させた。このときの差圧は2.2kgf/cm2 あった。通過前と通過後の粒径個数分布を測定した結果は下記の如くであった。実施例1と比較すると、シートの厚みを厚くして、スリットエレメントの剛性を上げると、細かい粒度分布になることが分った。
【0113】
平均粒径(μm) 標準偏差
通過前(予備混合液) 23.106 0.238
通過後 0.636 0.194
実施例1 0.804 0.212
【実施例3】
【0114】
材質がテフロン(登録商標)厚みが0.9mmのシートに実施例1と同一形状のスリットを形成して、このシート1枚を実施例1と同様に通路に配設した。そして、実施例1と同一の予備混合液を48cm3 /分でスリットエレメントを通過させた。このときの差圧は6kgf/cm2 であった。通過前と通過後の粒径個数分布を測定した結果は下記の如くであった。
【0115】
平均粒径(μm) 標準偏差
通過前(予備混合液) 23.106 0.238
通過後 0.820 0.217
実施例2 0.636 0.194
実施例3は、実施例2と比較すると流量が6倍になっているが、流量が6倍になっても、粒径分布はやや増加傾向であるものの、ほとんど変化しない。このため、本発明のスリットエレメントが流量の変化に追従できる構造であることが分った。
【0116】
また、流量が6倍になっても差圧は2.7倍しか上昇しなかった。これは従来の固定スリットの場合に予想される差圧79kgf/cm2 (通常のオリフィスのように差圧が流速の二乗に比例すると仮定すると、2.2×62 =79になる)に比べて8%程度であった。本発明のスリットエレメントは低揚程、小容量のポンプで対応できると判断できた。
【実施例4】
【0117】
材質がテフロン(登録商標)で厚みが0.9mmのシートに実施例1と同一形状のスリットエレメントを1個形成した。このようなシート3枚を各シートが通路に仕切るようにして間隔を開けて配置した。実施例1と同一の予備混合液を実施例2と同一の条件でそれぞれのシートに設けたスリットエレメントを通過させた。結果は下記の如くであった。このときの差圧は6.5kgf/cm2 であった。
【0118】
実施例4を実施例2と比較すると、粒径分布はやや増加傾向であった。微粒子の再衝突で凝集したためではないかと考えられる。
【0119】
平均粒径(μm) 標準偏差
通過前(予備混合液) 23.106 0.238
通過後 0.857 0.208
実施例2 0.636 0.194
【実施例5】
【0120】
材質がテフロン(登録商標)で厚みが0.9mmのシートに実施例1と同一形状のスリットエレメントを1個形成した。このシート1枚を通路を仕切るように配設した。そして、水20部、軽油80部、界面活性剤〔ソルビタンモノオレエート(span80)〕3部を攪拌機で500rpmで1分間攪拌して得た予備混合液を、差圧が2kg/cm2 となるような流量として前記通路に流してシートのスリットエレメントを通過させた。通過前と通過後の粒径個数分布を測定した結果は下記の如くであった。
【0121】
平均粒径(μm) 標準偏差
通過前(予備混合液) 11.503 0.307
通過後 0.793 0.224
この結果から、分散相が水である燃料油分散液で、水の粒径が1μm以内である燃料油分散液を簡単に製造できることが分った。
【実施例6】
【0122】
材質がテフロン(登録商標)で厚みが0.9mmのシートに実施例1と同一形状のスリットエレメントを1個形成した。このシート1枚を通路を仕切るように配設した。そして、水20部、軽油80部を攪拌機により500rpmで1分間攪拌して得た予備混合液を、差圧が2kg/cm2 となるような流量として前記通路に流してシートのスリットエレメントを通過させ、分散液とした。界面活性剤を使用しておらず、粒径が不安定のため測定結果が信頼できないので、粒径分布測定を行わずに写真撮影して観測したところ、乳化直後(分散液とした直後)に1μm近傍の水粒子の遊泳が観察された。その後、静置して2時間後に再度観察した結果、外観上は懸濁状態を維持しており、軽油や水の清澄層は全く観測できなかった。このことから、界面活性剤を使用しなくとも、1μm程度の水粒子が軽油中に分散した分散液ではかなりの時間、安定を維持できると考えられる。
【実施例7】
【0123】
図10は牛乳から溶存酸素を除去するための系統図である。図10に示す系統図で、M1、M2は実施例3と同一のスリットエレメントを有するシート(モジュールM)である。溶存酸素を8.6mg/L含有する牛乳(原乳)は流量計F1で50cm3 /分に、窒素ガスは流量計F2で3.5cm3 /分にコントロールされて、それぞれモジュールM1に送り込まれる。モジュールM1を通過した微細な気泡を含む牛乳は気液分離器V1で窒素ガスを分離される。分離後の牛乳は逆止弁C1を通過後に、流量計F3で3.0cm3 /分にコントロールした窒素ガスと共にモジュールM2を通過させ、モジュールM2を通過した微細な気泡を含む牛乳は気液分離器V2で窒素ガスを分離し、容器V3に溜める。
【0124】
気液分離機V1、V2における気泡の割合は5〜6%程度であり、容易に気液分離できた。また、気液分離機V1の出口における溶存酸素は2.5mg/Lであった。容器V3に溜めた牛乳の溶存酸素は0.8mg/Lであった。使用した窒素ガスに関しては(窒素ガス/牛乳)体積比は0.13であった。
【0125】
本発明のスリットエレメントによって既存脱酸素方法に比べて、より少ない窒素ガスで経済的に牛乳を脱酸素でき、且つ発泡率も大幅に減少する。このため、装置も小形で経済的に実用化できると考えられる。
【実施例8】
【0126】
図11は液体中に気体を溶存させるための系統図である。図11に示す系統図において、符号F1、F2はそれぞれ水と酸素の流量計、Pは送液ポンプを示す。M1は本発明のモジュールであり、材質がテフロン(登録商標)で厚みが0.9mmのシートを丸めて外径35mm、長さ250mmの円筒体とした。この円筒体の周面には、長さ方向に14列、各列30個で、図3(b)に示す形状のスリットエレメントを420個設けた。M2はテフロン(登録商標)シートからなるM1と同様のモジュールであり、外径25mm、長さ250mmの円筒体である。円筒体の周面には、長さ方向に10列、各列30個で、図3(b)に示す形状のスリットエレメントを300個設けた。
【0127】
溶存酸素量が17.8mg/Lである蒸留水を4000cc/分で、酸素ガスを100cc/分で、それぞれ流量計F1、F2でコントロールして、送液ポンプPに吸入させ、ポンプPの吐出側に直列に設けたモジュールM1とモジュールM2を通過させたところ、モジュールM2出口における溶存酸素は53mg/Lとなっており、安定した状態で流出した。
【0128】
この溶存酸素量から見ると混合した酸素が略100%水中に吸収されている。混合時の水温11℃における飽和溶存酸素量は約10mg/Lであるから、過飽和の溶存酸素水が簡単に且つ容易に製造することができた。
【0129】
このことから、本装置のように簡単な設備で工業的に容易に気体を液中に過飽和状態で溶存させることができると考えられる。
【実施例9】
【0130】
蒸留水450部(重量部、以下同様)、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩〈レベノールWZ:花王株式会社製品〉8部、メチルメタクリレート100部、ラウロイルパーオキサイド0.5部、ラウリルアルコール3部から成る重合性単量体組成物を攪拌機により1000rpmで1分間攪拌して得た予備混合液を、実施例1と同一の本発明のスリットエレメントに差圧が1.5kg/cm2 なる状態で通過させた。その結果、平均粒径0.718μm、標準偏差0.210μmの重合性単量体分散液を得た。
【0131】
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下漏斗を備えた反応器に前記重合性単量体分散液560部を入れて、窒素ガスを吹き込みながら容器内温度を70±2℃に保って8時間かけて重合反応をして合成樹脂分散液を得た。得られた合成樹脂分散液の合成樹脂の粒度は平均粒径0.872μm、標準偏差0.217μmであった。
【0132】
本発明のスリットエレメントによって粒径のバラツキの少ない(すなわち粒径分布の幅が小さい)の合成樹脂分散液が得られることが分った。
[比較例1]
実施例9と同一方法で作成した重合性単量体組成物をホモチナイザーによって5000rpmで10分間攪拌して重合性単量体分散液を得た。この重合性単量体分散液を実施例9と同一の装置で同一の条件で重合反応をおこなって合成樹脂懸濁液を得た。得られた合成樹脂分散液の合成樹脂の粒度は平均粒径7.2μm、標準偏差14.21μmであった。
【0133】
このことから、通常のホモチナイザーでは粒径分布の小さい合成樹脂分散液は得られないと考えられる。
【実施例10】
【0134】
内容積60Lのいかり型攪拌機をそなえた溶解槽に、水7361g、50%酢酸28g、部分鹸化ポリビニルアルコール(重合度1750、鹸化度88モル%)54g、部分鹸化ポリビニルアルコール(重合度350、鹸化度88モル%)214g、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB16.2)321gを仕込み、30℃で攪拌し均一な溶液を得た。この水溶液に硫酸第一鉄0.300g、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート14重量%水溶液140g、酢酸ビニル7981gを添加して攪拌した単量体混合液を、実施例2と同一のスリットエレメントにスリットの差圧2kg/cm2 で通過させて単量体混合分散液を得た。この分散液の平均粒径は0.645μm、標準偏差は0.196μmであった。
【0135】
上記の単量体混合分散液を、いかり型攪拌機を備えた300Lオートクレーブに入れ、窒素置換、エチレン置換に続いて単量体混合分散液を60℃に昇温すると共にエチレン圧を45kg/cm2 に維持しながら、0.5重量%過酸化水素水1040g、を6時間かけて均一に添加した。続いて3.2重量%の過酸化水素水溶液494gを2時間かけて均一に添加すると共に、7重量%のナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート水溶液を7時間かけて均一に添加した。この間、酢酸ビニルを実施例2と同一のスリットエレメントにスリットの差圧2kg/cm2 でエチレンガスと共に通過させながら、酢酸ビニル7891gを6時間かけて均一に供給することによって重合しエチレン酢ビ共重合体中分散液を得た。この結果得たエチレン酢ビ共重合体中のエチレン重量%は21%、エチレン酢ビ共重合体中分散液の粘度は1430CPSであった。
【0136】
このように本発明により、低粘度でエチレン比率の多いエチレン酢ビ共重合体中分散液が得られた。
[比較例2]
実施例10と同一組成の単量体混合物をさらに攪拌して単量体混合物分散液を得た。この混合物の平均粒径は2.63μm、標準偏差は0.283μmであった。
【0137】
上記の単量体混合分散液を、いかり型攪拌機を備えた300Lオートクレーブに入れ、窒素置換、エチレン置換に続いて単量体混合分散液を60℃に昇温すると共にエチレン圧を45kg/cm2 に維持しながら、0.5重量%過酸化水素水1040g、を6時間かけて均一に添加した。続いて3.2重量%の過酸化水素水溶液494gを2時間かけて均一に添加すると共に、7重量%のナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート水溶液を7時間かけて均一に添加した。この間、酢酸ビニル7891gを6時間かけて均一に供給することによって重合しエチレン酢ビ共重合体中分散液を得た。この結果得たエチレン酢ビ共重合体中のエチレン重量%は14.3%、エチレン酢ビ共重合体中分散液の粘度は10,000CPS以上であった。
【0138】
従って、エチレンの共重合割合も低く、粘度も高いため工業的な生産には適合しないと考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の分散液製造用モジュールの一実施例を設けた流体の通路を示す流れ方向に沿った断面図である。
【図2】図1のII−IIに沿った断面図である。
【図3】シートに形成するスリットの種々の実施例を示す正面図である。
【図4】シートの別の実施例を示す正面図である。
【図5】本発明のモジュールMの別の実施例を示す流れ方向断面図である。
【図6】(a)は本発明のモジュールMの更に別の実施例を示す流れ方向の断面図であり、(b)は(a)示したモジュールMの斜視図である。
【図7】本発明のモジュールMの別の実施例を示す流れ方向の断面図である。
【図8】本発明のモジュールMの別の実施例の斜視図である。
【図9】本発明のモジュールMの更に別の実施例の正面図である。
【図10】牛乳から溶存酸素を除去するための系統図である。
【図11】液体中に気体を溶存させるための系統図である。
【符号の説明】
【0140】
1 パイプ
2 シート
3 スリットエレメント
31 スリット
32 シート部分
10 通路
A 流れ方向
M モジュール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の通路が1枚または複数枚のシートにより上流側と下流側に仕切られており、該仕切りシートには1個以上のスリットエレメントが形成されており、該スリットエレメントはスリットとその周囲のシート部分とからなり、前記周囲のシート部分は通過する流体により可動であり、分散液を構成する2種以上の物質を前記通路に流して、前記2種以上の物質を一緒に前記スリットエレメントを通過させることにより分散液とすることを特徴とする分散液の製造方法。
【請求項2】
前記仕切りシートの上流側と下流側との圧力差が3MPa以下であることを特徴とする請求項1記載の分散液の製造方法。
【請求項3】
前記分散液を構成する2種以上の物質を混合した後に、前記スリットエレメントを通過させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の分散液の製造方法。
【請求項4】
前記分散液を構成する2種以上の物質が液体と気体であり、液体を分散媒とし、気体を分散相とすることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項5】
前記分散媒となる液体が一種類以上の気体を溶存する液体であり、前記分散相となる気体が前記液体中に溶存する少なくとも一種類の気体に対して不活性な気体であることを特徴とする請求項4記載の分散液の製造方法。
【請求項6】
前記分散液を構成する2種以上の物質は主となる物質が乳製品または豆乳であり、その他の物質が該主となる物質と成分を異にする1種類以上の物質であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項7】
前記分散液を構成する物質が分散媒となる物質と分散相となる物質であり、前記分散媒が燃料油であり、前記分散相の主成分が水であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項8】
前記分散液を構成する物質が少なくとも水と重合性単量体であり、該物質を前記スリットエレメントを通過させて分散液とし、該分散液において前記重合性単量体を重合し、重合した合成樹脂を分散相とすることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項9】
前記分散液を構成する物質が重合性単量体を含む液体と重合性単量体の気体混合物であり、前記両物質を前記スリットエレメントを通過させて分散液とし、該分散液において前記重合性単量体と前記重合性気体混合物とを重合し、重合した合成樹脂を分散相とすることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項10】
前記気体混合物である単量体がエチレンを含む混合物であり、液体である単量体が酢酸ビニルを含む混合物であることを特徴とする請求項9記載の分散液の製造方法。
【請求項11】
分散液を構成する2種以上の物質が一緒に流れる通路に配置されて、該通路を上流側と下流側とに仕切るモジュールであり、該モジュールは1個以上のスリットエレメントが形成されたシートを具備しており、各スリットエレメントはスリットとそのスリット周囲のシート部分からなり、前記周囲のシート部分は通過する流体により可動であることを特徴とする分散液製造用モジュール。
【請求項12】
前記スリットエレメントのスリットが中心から複数の方向に延びていることを特徴とする請求項11記載の分散液製造用モジュール。
【請求項13】
1枚のシートに複数個のスリットエレメントが形成されていることを特徴とする請求項11または請求項12に記載の分散液製造用モジュール。
【請求項14】
スリットエレメントを有する1枚のシートが円筒形または円錐形とされており、前記円筒形または円錐形の内側と外側の間に流体が流れるように構成されていることを特徴とする請求項11〜請求項13の何れか1項に記載の分散液製造用モジュール。
【請求項15】
スリットエレメントを有する複数枚のシートが間隔を開けて配置されていることを特徴とする請求項11〜請求項14の何れか1項に記載の分散液製造用モジュール。
【請求項16】
スリットエレメントを有する1枚のシートが螺旋状に巻かれており、螺旋の各層の間が間隔を開けていることを特徴とする請求項11〜請求項13の何れか1項に記載の分散液製造用モジュール。
【請求項17】
スリットエレメントを有するシートが金属製、プラスチック製またはゴム製であることを特徴とする請求項11〜請求項13の何れか1項に記載の分散液製造用モジュール。
【請求項1】
流体の通路が1枚または複数枚のシートにより上流側と下流側に仕切られており、該仕切りシートには1個以上のスリットエレメントが形成されており、該スリットエレメントはスリットとその周囲のシート部分とからなり、前記周囲のシート部分は通過する流体により可動であり、分散液を構成する2種以上の物質を前記通路に流して、前記2種以上の物質を一緒に前記スリットエレメントを通過させることにより分散液とすることを特徴とする分散液の製造方法。
【請求項2】
前記仕切りシートの上流側と下流側との圧力差が3MPa以下であることを特徴とする請求項1記載の分散液の製造方法。
【請求項3】
前記分散液を構成する2種以上の物質を混合した後に、前記スリットエレメントを通過させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の分散液の製造方法。
【請求項4】
前記分散液を構成する2種以上の物質が液体と気体であり、液体を分散媒とし、気体を分散相とすることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項5】
前記分散媒となる液体が一種類以上の気体を溶存する液体であり、前記分散相となる気体が前記液体中に溶存する少なくとも一種類の気体に対して不活性な気体であることを特徴とする請求項4記載の分散液の製造方法。
【請求項6】
前記分散液を構成する2種以上の物質は主となる物質が乳製品または豆乳であり、その他の物質が該主となる物質と成分を異にする1種類以上の物質であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項7】
前記分散液を構成する物質が分散媒となる物質と分散相となる物質であり、前記分散媒が燃料油であり、前記分散相の主成分が水であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項8】
前記分散液を構成する物質が少なくとも水と重合性単量体であり、該物質を前記スリットエレメントを通過させて分散液とし、該分散液において前記重合性単量体を重合し、重合した合成樹脂を分散相とすることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項9】
前記分散液を構成する物質が重合性単量体を含む液体と重合性単量体の気体混合物であり、前記両物質を前記スリットエレメントを通過させて分散液とし、該分散液において前記重合性単量体と前記重合性気体混合物とを重合し、重合した合成樹脂を分散相とすることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項10】
前記気体混合物である単量体がエチレンを含む混合物であり、液体である単量体が酢酸ビニルを含む混合物であることを特徴とする請求項9記載の分散液の製造方法。
【請求項11】
分散液を構成する2種以上の物質が一緒に流れる通路に配置されて、該通路を上流側と下流側とに仕切るモジュールであり、該モジュールは1個以上のスリットエレメントが形成されたシートを具備しており、各スリットエレメントはスリットとそのスリット周囲のシート部分からなり、前記周囲のシート部分は通過する流体により可動であることを特徴とする分散液製造用モジュール。
【請求項12】
前記スリットエレメントのスリットが中心から複数の方向に延びていることを特徴とする請求項11記載の分散液製造用モジュール。
【請求項13】
1枚のシートに複数個のスリットエレメントが形成されていることを特徴とする請求項11または請求項12に記載の分散液製造用モジュール。
【請求項14】
スリットエレメントを有する1枚のシートが円筒形または円錐形とされており、前記円筒形または円錐形の内側と外側の間に流体が流れるように構成されていることを特徴とする請求項11〜請求項13の何れか1項に記載の分散液製造用モジュール。
【請求項15】
スリットエレメントを有する複数枚のシートが間隔を開けて配置されていることを特徴とする請求項11〜請求項14の何れか1項に記載の分散液製造用モジュール。
【請求項16】
スリットエレメントを有する1枚のシートが螺旋状に巻かれており、螺旋の各層の間が間隔を開けていることを特徴とする請求項11〜請求項13の何れか1項に記載の分散液製造用モジュール。
【請求項17】
スリットエレメントを有するシートが金属製、プラスチック製またはゴム製であることを特徴とする請求項11〜請求項13の何れか1項に記載の分散液製造用モジュール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−93597(P2008−93597A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279974(P2006−279974)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(597011566)エス・ピー・ジーテクノ株式会社 (13)
【出願人】(000219222)東タイ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(597011566)エス・ピー・ジーテクノ株式会社 (13)
【出願人】(000219222)東タイ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
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