説明

分析装置、分析用具、および光学検知システム

【課題】小型化および分析に要する時間短縮が可能である光学検知システム、分析用具、分析装置を提供すること。
【解決手段】微細流路と、上記微細流路に繋がる開放空間、および上記開放空間を遮蔽し、かつ外部からエネルギーを付与されることにより開孔可能とされた隔離膜によって構成されており、上記隔離膜に開孔が形成された状態において、外部から入射した光が上記開孔を通して、外部に出射可能とされている1以上の被検知部と、を有するマイクロデバイスA1が装填される分析装置B1であって、上記被検知部を透過する光を出射可能な発光モジュール5Aと、上記被検知部を透過してマイクロデバイスA1から出射した光を受光可能な受光モジュール6Aと、マイクロデバイスA1と受光モジュール6Aとの間に拡散板7を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光手段と受光手段とによって被検知部の状態を検知する光学検知システムに関し、さらに、この光学検知システムを構成することにより血液などの試料を分析するための分析器具、分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、たとえば試料と試薬を反応させたときの反応液を、光学的手法により分析する方法が行われている。このような方法により試料の分析を行う場合には、反応場を提供する分析用具が利用されている。そして、微量な試料を分析する場合には、分析用具としては、微細な流路を形成した、いわゆるマイクロデバイスが利用されている。図17および図18は、従来のマイクロデバイスおよび分析装置を示している。これらの図に示されたマイクロデバイスXは、ともに透明樹脂からなるベース91とカバー92とが張り合わされた構造とされている。分析装置Yは、発光手段としての発光モジュール94A,94Bを備えており、図外の支持台によってマイクロデバイスXを支持可能とされている。
【0003】
ベース91には、導入室91a、分析室91b、開放室91d、および流路91e,91fが形成されている。なお、図18は、理解の便宜上、マイクロデバイスXのうち、導入室91a、分析室91b、開放室91d、および流路91e,91fを示している。導入室91a、分析室91b、および開放室91dは、断面円形状であり、互いに直列に並べられている。流路91e,91fは、導入室91a、分析室91b、および開放室91dを連結している。分析室91bには、試薬91cが塗布されている。
【0004】
カバー92は、ベース91のうち導入室91a、分析室91b、開放室91d、および流路91e,91fが形成された側を覆っており、導入孔92aおよび開孔92bが形成されている。導入孔92aは、導入室91aと重なっており、開孔92bは、開放室91dと重なっている。開孔92bは、樹脂製の隔離膜93によって塞がれている。
【0005】
発光モジュール94Aは、レーザチップを内蔵した光源装置であり、発光モジュール94Bは、ダイオードチップを内蔵した光源装置である。発光モジュール94A,94Bは、ともに所定の光を照射可能に構成されている。発光モジュール94Aは、隔離膜93の直上に配置されており、発光モジュール94Bは、分析室91bの直上に配置されている。
【0006】
マイクロデバイスXおよび分析装置Yを用いた分析は、たとえば以下のようにして行う。まず、図19に示すように、導入孔92aを通して導入室91aに検体Sを導入する。検体Sは、たとえば微量な血液、または所定の濃度に希釈された希釈血液である。次に、発光モジュール94Aから隔離膜93に向けてレーザ光を照射する。レーザ光が隔離膜93に吸収されると、隔離膜93の一部の温度が急激に上昇する。これにより、隔離膜93の一部が溶融し、レーザ孔93aが形成される。レーザ孔93aおよび開口92bを通して開放室91dが大気開放される。すると、図20に示すように、毛細管現象によって導入部91aの検体Sが流路91e、分析室91b、流路91fの順に流れ、開放室91dに到達する。分析室91bにおいては、乾燥状態であった試薬91cが検体Sによって溶解される。このとき、検体Sの特定成分の量などに応じて呈色反応が生じる。そして、図21に示すように発光モジュール94Bから分析室91bに向けて光を照射する。この光の透過光あるいは反射光を図外の受光手段によって受光する。これにより、検体Sに含まれる特定成分の分析を行うことができる。
【0007】
しかしながら、分析装置Yにおいては、レーザ孔93aが適切に形成されたか否かを判断する手段が用意されていない。レーザ孔93aが形成されていないのに発光モジュール94Bを発光させても、適切な分析は行えない。マイクロデバイスXは、コスト削減や使用者の利便性向上などのためにますます小型化が図られる。このようなマイクロデバイスXの隔離膜93にレーザ孔93aが形成されたか否かを確実に判断しうる手段を、分析装置Yに新たに設けることは、とくにスペース確保の観点から極めて困難であった。
【0008】
また、レーザ孔93aを適切に形成させた後であっても、検体Sが分析室91bに到達するまでは、やはり適切な分析が行えない。たとえば、発光モジュール4Aによってレーザ光を照射した後に、レーザ孔93aが形成され、かつ検体Sが分析室91bに到達するのに十分な時間が経過するまで、上記分析を待っておく必要があった。
【0009】
【特許文献1】再表2003−93836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、小型化および分析に要する時間短縮が可能である光学検知システム、分析用具、分析装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の側面によって提供される分析装置は、分析対象である流体が送液される微細流路と、上記微細流路に繋がる開放空間、および上記開放空間を遮蔽し、かつ外部からエネルギーを付与されることにより開孔可能とされた隔離膜によって構成されており、上記隔離膜に開孔が形成された状態において、外部から入射した光が上記開孔を通して、外部に出射可能とされている1以上の被検知部と、を有する分析用具が装填される分析装置であって、上記被検知部を透過する光を出射可能な1以上の発光手段と、上記被検知部を透過して上記分析用具から出射した光を受光可能な1以上の受光手段と、上記発光手段と上記分析用具との間、または上記分析用具と上記受光手段との間、の少なくともいずれかに、上記被検知部において光が透過する透過方向、およびこの透過方向と交差する方向、に光を進行させうる光路変更手段を備える
【0012】
このような構成によれば、上記分析装置における上記受光手段または上記発光手段の少なくともいずれかの配置を上記被検知部に対して上記透過方向と交差する方向にシフトさせることが可能である。これは、上記分析装置の小型化を目的として、上記分析装置の構成要素を効率よく配置するのに適している。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記光路変更手段は、上記透過方向交差する方向に延びる、透光性を有する拡散板である。このような構成によれば、上記分析装置の小型化に有利である。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記発光手段が、上記隔離壁に対してエネルギーを付与するエネルギー付与手段を兼ねている。このような構成によれば、上記開孔が形成されたことを上記受光手段によってほぼ同時に検知することができる。また、上記分析装置の小型化をさらに進めることができる。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、1つの上記受光手段により、複数の上記被検知部からの光を受光する構成とされている。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態においては、1つの上記発光手段により、複数の上記被検知部に対して光を照射する構成とされている。このような構成によれば、上記分析装置の小型化に好適である。
【0017】
本発明の第2の側面によって提供される分析用具は、分析対象である流体が送液される微細流路が形成された分析用具であって、光を透過しうる状態を有する1以上の被検知部を有しており、上記被検知部を透過する、または透過した光を、上記被検知部において光が透過する透過方向、およびこの透過方向と交差する方向、に進行させうる光路変更手段を備えていることを特徴としている。
【0018】
このような構成によれば、上記被検知部を透過する光を、上記被検知部に対して上記透過方向と交差する方向にシフトした位置に入射させ、あるいは上記交差する方向にシフトした位置から出射させることが可能である。これは、この光を発する発光手段またはこの光を受ける受光手段を、たとえば分析装置の小型化に適した配置とするのに適している。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記被検知部は、上記微細流路に繋がる開放空間と、上記開放空間を遮蔽し、かつ外部からエネルギーを付与されることにより開孔可能とされた隔離膜とによって構成されており、上記隔離膜に開孔が形成された状態において、外部から入射した光が上記開孔を通して、外部に出射可能とされている。このような構成によれば、上記開孔が形成されたことにより、たとえば毛細管現象によって送液が開始されたことを、光学的な手段によって瞬時に検知することができる。
【0020】
本発明の第3の側面によって提供される分析装置は、本発明の第2の側面によって提供される分析用具が装填される分析装置であって、上記被検知部を透過する光を出射可能な1以上の発光手段と、上記被検知部を透過して上記分析用具から出射した光を受光可能な1以上の受光手段と、を備えることを特徴としている。
【0021】
このような構成によれば、上記発光手段および受光手段を、たとえば上記分析装置の小型化に適した配置とすることができる。
【0022】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記分析用具の上記被検知部は、上記微細流路に繋がる開放空間と、上記開放空間を遮蔽し、かつ外部からエネルギーを付与されることにより開孔可能とされた隔離膜とによって構成されており、上記発光手段が、上記隔離壁に対してエネルギーを付与するエネルギー付与手段を兼ねている。このような構成によれば、上記開孔が形成されたことにより、たとえば毛細管現象によって送液が開始されたことを、光学的な手段によって瞬時に検知することができる。
【0023】
本発明の好ましい実施の形態においては、1つの上記受光手段により、複数の上記被検知部からの光を受光する構成とされている。
【0024】
本発明の好ましい実施の形態においては、1つの上記発光手段により、複数の上記被検知部に対して光を照射する構成とされている。このような構成によれば、上記分析装置の小型化に好適である。
【0025】
本発明の第4の側面によって提供される光学検知システムは、1以上の発光手段と、上記発光手段から発せられた光を透過しうる状態を有する1以上の被検知部と、上記被検知部を透過した光を受光する1以上の受光手段と、を備える、光学検知システムであって、上記発光手段と上記被検知部との間、または上記被検知部と上記受光手段との間、の少なくともいずれかに、上記被検知部において光が透過する透過方向、およびこの透過方向と交差する方向、に光を進行させうる光路変更手段を備えることを特徴としている。
【0026】
このような構成によれば、上記受光手段または上記発光手段のいずれかを、上記被検知部に対して上記透過方向と交差する方向にシフトさせることが可能である。これにより、上記光学検知システムの構成要素の配置を容易とすることができる。たとえば、上記被検知部と上記受光手段との間に上記光路変更手段を設ければ、上記受光手段を上記被検知部の正面からシフトした位置に配置することができる。これにより、上記被検知部にたとえば電気基板を接近させ、この電気基板とシフトされた上記受光手段とを並列させることが可能である。これは、上記光学検知システムの薄型化に有利である。
【0027】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記光路変更手段は、上記透過方向と交差する方向に延びる、透光性を有する拡散板である。このような構成によれば、上記光路変更手段を設けるにもかかわらず、上記光学検知システムを比較的小型とすることができる。
【0028】
本発明の好ましい実施の形態においては、1つの上記受光手段により、複数の上記被検知部からの光を受光する構成とされている。
【0029】
本発明の好ましい実施の形態においては、1つの上記発光手段により、複数の上記被検知部に対して光を照射する構成とされている。このような構成によれば、上記検知システムの小型化に有利である。
【0030】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0032】
図1〜図6は、本発明に係る分析用具および分析装置の第1実施形態を示している。本実施形態のマイクロデバイスA1および分析装置B1は、たとえば血液などの検体Sを対象として、光学的手法により特定成分に関する分析を行うためのものである。マイクロデバイスA1は、本発明で言う分析用具の一例であり、分析装置B1は、マイクロデバイスA1を装填可能に構成されている。なお、図4においては、理解の便宜上、後述するマイクロデバイスA1のカバー2、隔離膜3、および分離膜4を省略している。
【0033】
マイクロデバイスA1は、全体が略円板状とされており、図2に示すように、ベース1A,1B、カバー2、隔離膜3、および分離膜4を備えている。ベース1Aは、たとえばポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、あるいはポリジメチルシロキサン(PDMS)といった透明な樹脂材料からなり、円板状とされている。図2および図4に示すように、ベース1Aには、導入室11、複数の分析室12、複数の開放室13A,14A、複数の流路15,16,17、および複数の凹部18(図5参照)が形成されている。
【0034】
導入室11は、ベース1Aの中央に設けられており、断面円形状とされている。複数の分析室12は、ベース1Aの周方向において等ピッチで設けられており、それぞれが断面円形状とされている。複数の開放室13Aは、複数の分析室12よりもベース1Aの中央寄りの領域に、ベース1Aの周方向において等ピッチで設けられており、それぞれが分析室12よりも若干小径である断面円形状とされている。複数の開放室14Aは、複数の分析室12よりもベース1Aの外縁寄りの領域に、ベース1Aの周方向において等ピッチで設けられており、それぞれが開放室13Aと同程度のサイズの断面円形状とされている。分析室12と開放室14Aとは、ベース1Aの周方向位置がほぼ一致している。一方、開放室13Aは、分析室12および開放室14Aに対して、ベース1Aの周方向位置が若干ずれた関係となっている。
【0035】
各分析室12には、試薬12aが塗布されている。試薬12aは、検体が供給されたときに溶解する乾燥固体状とされており、検体中の特定成分と反応して発色するものである。本実施形態では、マイクロデバイスA1において複数の項目を測定できるように、たとえば成分または組成の異なる複数種類の試薬12aが準備されている。ただし、試薬12aは、必ずしも全ての分析室12に設ける必要はなく、たとえば検体の色味による影響を補正するために利用される分析室12については試薬12aが省略される。
【0036】
複数の流路15は、導入室11から放射線状に延びており、導入室11と複数の分析室12とを繋いでいる。流路16は、流路15から直角に分岐しており、開放室13Aに繋がっている。流路17は、分析室12と開放室14Aとを繋いでいる。流路15,16,17は、たとえば矩形断面とされており、幅および深さが10〜500μmおよび5〜500μm、幅/深さが0.5以上とされている。
【0037】
後述する毛細管現象を利用した検体の送液を適切に行うには、流路15,16,17の内面に親水処理を施しておくことが好ましい。親水処理方法としては、公知の種々の方法を採用することができるが、たとえば各内面に親水性ポリマーコート処理を施すことが好ましい。または、各内面に界面活性剤を塗布することにより行うこともできる。このほかには、フッ素ガスおよび酸素ガスを含む混合ガスを、各内面に接触させた後に、水または水蒸気を各内面に接触させることにより行ってもよい。この方法では、ガスや水などを用いて親水処理が行われるため、公知の親水処理方法である紫外線照射では困難な起立面(流路などの側面)に対しても、親水処理を確実に行うことができる。各内面の親水処理は、たとえば純水に対する接触角が0〜80度となるように行われる。
【0038】
図5に示すように、複数の凹部18は、複数の分析室12の厚さ方向反対側に設けられている。凹部18は、ベース1Aの厚さを部分的に薄くすることにより、分析室12に照射されるレーザ光が減衰したり、色味が変わったりすることを極力避けるために設けられている。
【0039】
ベース1Bは、たとえばポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、あるいはポリジメチルシロキサン(PDMS)といった透明な樹脂材料からなり、円板状とされている。ベース1Bは、たとえば接着剤(図示略)によってベース1Aに貼り付けられている。図2および図5に示すように、ベース1Bには、導入孔11Bおよび複数の開放室13B,14Bが形成されている。導入孔11Bは、導入室11と重なる断面円形状の貫通孔である。複数の開放室13Bは、複数の開放室13Aと重なる位置に設けられており、それぞれ断面円形状とされている。複数の開放室14Bは、複数の開放室14Aと重なる位置に設けられており、それぞれが断面円形状とされている。
【0040】
カバー2は、図2に示すように、隔離膜3および分離膜4を介してベース1Bに貼り付けられており、たとえばポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、あるいはポリジメチルシロキサン(PDMS)といった透明な樹脂材料からなる円板状とされている。図2および図3に示すように、カバー2には、導入孔21、複数の凹部22、および複数の開孔23,24が形成されている。
【0041】
導入孔21は、カバー2の中央に設けられており、導入室11および導入孔11Bと重なる配置とされている。導入孔21は、断面円形状の貫通孔である。複数の凹部22は、カバー2の周方向において等ピッチで設けられており、それぞれが分析室12と重なる配置とされている。凹部22は、断面円形状であり、カバー2の厚さを部分的に薄くすることにより、分析室12に照射されるレーザ光が減衰したり、色味が変わったりすることを極力避けるために設けられている。複数の開孔23は、カバー2の周方向において等ピッチで設けられており、それぞれが開放室13A,13Bと重なる配置とされている。開孔23は、断面円形状の貫通孔である。複数の開孔24は、カバー2の周方向において等ピッチで設けられており、それぞれが開放室14A,14Bと重なる配置とされている。開孔24は、断面円形状の貫通孔である。
【0042】
隔離膜3は、図2、図5、および図6に示すように、ベース1Bとカバー2との間に介在しており、たとえば接着剤(図示略)によってこれらと接合されている。隔離膜3は、2つのリング状部31,32からなり、たとえば熱可塑性樹脂と、照射される光に対する吸収性を高めるための添加剤と、を含有した材料により形成されている。これにより、たとえば所定以上の出力を有するレーザ光が照射されると、隔離膜3はその照射された部分が瞬時に溶解し孔が形成される性質を備える。
【0043】
リング状部31は、複数の開放室13A,13Bを覆うように設けられている。リング状部32は、複数の開放室14A,14Bを覆うように設けられている。さらに、リング状部31,32は、いずれも複数の分析室12とは重ならないサイズおよび配置とされている。リング状部31は、開放室13Aと開孔23とを隔離している。リング状部32は、開放室14Aと開孔24とを隔離している。
【0044】
熱可塑性樹脂としては、隔離膜3に照射すべき光エネルギ量を低減する観点からは、融点が100℃以下であるものを使用するのが好ましく、さらに好ましくは、融点が85℃以下のものが使用される。実用的には、熱可塑性樹脂として、融点が50〜85℃のものを使用するのが好ましい。熱可塑性樹脂の融点が不当に小さい場合には、保存時などに隔離膜3が軟化し、あるいは溶けてしまう一方、融点が不当に大きい場合には、上述のように照射すべき光エネルギ量が大きくなり、ランニングコストが増大するからである。また、使用するレーザのエネルギ量が小さいほど、分析装置B1に施すべき漏光対策が軽減される。これは、分析装置B1のコストダウンに有利である。
【0045】
本発明で使用できる熱可塑性樹脂は、目的を達成できる範囲において選択すればよく、単一のモノマを重合させたホモポリマ(ストレートポリマ)に限らず、共重合体(コポリマ)あるいはポリマアロイを使用することができる。共重合体あるいはポリマアロイでは、その組み合わせおよび配合比率を選択することにより、目的とする融点を有する熱可塑性樹脂を形成することができる。
【0046】
ホモポリマとしては、たとえば低融点(ナイロン系)ポリアミド樹脂を使用することができる。共重合体としては、エチレン系のものが好ましく使用され、たとえばエチレン−酢酸ビニル共重合体やエチレン系アイオノマーを使用することができる。エチレン−酢酸ビニル共重合体では、酢酸ビニルの含量を大きくするほど融点を低くすることができ、たとえば酢酸ビニルの含量を6%とすれば融点を100℃程度、酢酸ビニルの含量を28%とすれば融点を58℃程度とすることができる。エチレン−酢酸ビニル共重合体としては、典型的には、酢酸ビニルの含量が5〜35%のものが使用される。エチレン系アイオノマーは、エチレンと不飽和カルボン酸の共重合体の金属塩であり、金属塩の種類やモノマの比率を選択することにより融点を80〜100℃の範囲とすることができる。金属塩としては、ZnやNaを例示することができる。
【0047】
さらに、上記添加剤としては、光吸収粒子として、フタロシアニン系顔料、カーボン系顔料、およびアンソラキノン系顔料などを用いることができる。この光吸収粒子の平均粒径は、0.1〜30μm程度が好ましく、1〜30重量部程度の割合で混入することが好ましい。
【0048】
分離膜4は、検体中の固体成分、たとえば血液中の血球成分を分離するためのものである。分離膜4は、略円形状であり、図2および図5に示すように、ベース1Bの導入孔11Bを覆うサイズとされている。分離膜4は、導入孔21と導入孔11Bとの間に介在する格好となっている。分離膜4としては、たとえば多孔質物質を使用することができる。分離膜4として使用できる多孔質物質としては、たとえば紙状物、フォーム(発泡体)、織布状物、不織布状物、編物状物、メンブレンフィルター、ガラスフィルター、あるいはゲル状物質が挙げられる。検体として血液を用い、分離膜4において血液中の血球成分を分離する場合には、分離膜4として、その細孔径(ポアサイズ)が0.1〜10μmのものを使用するのが好ましい。
【0049】
図1に示すように、分析装置B1は、発光モジュール5A,5B、受光モジュール6A,6B、拡散板7、支持台81、および回転軸82を備えており、分析用具としてのマイクロデバイスA1を装填可能に構成されている。
【0050】
支持台81は、略円板状であり、マイクロデバイスA1をはめ込み可能な凹部が形成されている。回転軸82は、支持台81に連結されており、図外の駆動源としてのたとえばモータの駆動力によって支持台81とともにマイクロデバイスA1を所定角度ずつ回転させるためのものである。
【0051】
発光モジュール5A,5Bは、分析装置B1の発光手段であり、支持台81にマイクロデバイスA1が装填されたときに、マイクロデバイスA1の下方に位置するように設けられている。2つの発光モジュール5Aは、開放室13A,14Aの下方に配置されており、隔離膜3に孔を設けるために用いられ、レーザ素子を内蔵することにより所定の波長のレーザ光を照射可能な光源装置として構成されている。発光モジュール5Aに用いられるレーザ素子としては、赤色、緑色、青色の光、あるいは赤外光や紫外光を出射可能な単色光源を用いるのが好ましいが、白色などの複合光を出射可能なものを使用してもよい。レーザ光のスポット径、出力、および照射時間は、隔離膜3の膜厚や光吸収率にもよるが、それぞれ、たとえば50〜300μm、5〜50mW、および0.1〜10秒とされる。
【0052】
発光モジュール5Bは、マイクロデバイスA1の分析室12に対して光を照射するためのものであり、マイクロデバイスA1が装填されたときに分析室12の下方に位置するように設けられている。発光モジュール5Bは、たとえば白色光を発光可能なレーザダイオードを内蔵している。発光モジュール5Bの出射方向正面には、たとえばフィルタ(図示略)が設けられている。発光モジュール5Bからの光は、このフィルタを透過した後に照射される。これは、フィルタにおいて、検体中の分析対象成分の光吸収特性に則した波長の光を選択するためである。
【0053】
受光モジュール6A,6Bは、たとえばシリコンフォトダイオードを内蔵しており、所定の波長の光を受光することにより、起電力を生じる機能を有する。さらに、ICチップを内蔵することにより、上記起電力に基づく受光信号を出力することが可能である。受光モジュール6Aは、発光モジュール5Aから発せられたレーザ光を受光可能とされている。受光モジュール6Bは、発光モジュール5Bから発せられた光を受光可能とされており、マイクロデバイスA1が装填されたときに、分析室12の直上に位置するように設けられている。
【0054】
拡散板7は、入射した光をその全体に向けて拡散し、かつこれらの光を略全表面から出射することが可能とされた板状部材であり、図1、図3、図4に示すように本実施形態においては略コの字状とされている。このような拡散板7の形状は、1組の開放室13A,14Aを覆うとともに、これらの開放室13A,14Aに挟まれた分析室12とは重ならないことが意図されたものである。本実施形態においては、拡散板7のうちマイクロデバイスA1の外縁寄り部分の直上に、受光モジュール6Aが配置されている。拡散板7としては、たとえばアクリサンデー株式会社製アクリサンデー板(乳白色)を、適宜裁断することにより形成することができる。
【0055】
次に、マイクロデバイスA1および分析装置B1を用いた分析方法の一例について説明する。この分析方法においては、本発明に係る光学検知システムが構成されている。
【0056】
まず、図7に示すように、検体Sを導入室11に導入する。検体Sは、たとえば人体から採取された血液から、分離膜4によって血球成分が除去されたものである。導入室11に導入された検体Sは、複数の分析室12において、それぞれに塗布された試薬12aに応じた分析がなされる。これらの分析は、マイクロデバイスA1を回転軸82によって所定角度回転させることを繰り返すことにより順次行われる。以降の説明においては、発光モジュール5A,5Bと受光モジュール6A,6Bに挟まれた位置に置かれた分析室12における分析について述べる。
【0057】
導入室11に繋がる流路15,16,17、分析室12、および開放室13A,13B,14A,14Bは、いずれも閉空間とされている。このため、検体Sは、導入室11に滞留したままとなっている。次いで、図8に示すように、開放室13Aの下方に位置する発光モジュール5Aからレーザ光を照射する。このレーザ光は、ベース1Aを透過し、開放室13A,13Bを通して、隔離膜3のリング状部31のうち開放室13A,13Bを覆う部分に照射される。上述したように、隔離膜3は、レーザ光を吸収しやすい材質によって形成されている。レーザ光吸収によって生じる熱によりリング状部31の一部が溶融すると、リング状部31にレーザ孔33が形成される。
【0058】
発光モジュール5Aからのレーザ光は、レーザ孔33および開口23を通して、拡散板7に入射することとなる。本実施形態においては、拡散板7の全体が乳白色に混濁した半透明の樹脂によって形成されている。このため、拡散板7に入射した光は、ただちに拡散板7の全体に拡散する。そして、拡散板7のほぼ全表面からあらゆる方向に向かって出射される。すなわち、拡散板7全体が発光モジュール5Aからのレーザ光に応じた色に輝く状態となる。受光モジュール6Aは、開放室13A,13Bの直上には設けられていないが、拡散板7の一部に正対している。このため、拡散板7からの光が受光モジュール6Aに入射する。受光モジュール6Aが受光したことを知らせる受光信号が出力されることにより、リング状部31にレーザ孔33が形成されたことを認識できる。
【0059】
レーザ孔33が形成されることにより、開放室13A,13Bが開孔23と挿通状態となる。開孔23は、マイクロデバイスA1外の大気に通じている。これにより、検体Sに毛細管現象が生じる。この結果、図9に示すように、検体Sは、流路15、流路16を経て、開放室13Aへと送液される。一方、流路15のうち流路16が連結された部分より下流側部分は、いまだ閉空間状態とされている。このため、検体Sは、流路15のさらに下流側には送液されず、流路15と流路16との連結部分付近にとどまる。
【0060】
受光モジュール6Bからの受光信号によりレーザ孔33が形成されたことを認識すると、検体Sが送液されるのに適した時間を経過させた後に、図10に示すように開放室14Aの下方に位置する発光モジュール5Aからレーザ光を照射する。このレーザ光は、ベース1A、開放室14A,14Bを通して、隔離膜3のリング状部32のうち開放室14A,14Bを覆う部分に照射される。これにより、リング状部32にレーザ孔34が形成される。すると、発光モジュール5Aからのレーザ光は、レーザ孔34、および開孔24を通して拡散板7に入射する。これにより、拡散板7全体が乳白色に輝く状態となり、その光が受光モジュール6Aによって受光される。受光モジュール6Aからの受光信号により、リング状部32にレーザ孔34が形成されたことを認識できる。
【0061】
レーザ孔34が形成されることにより、開放室14A,14Bが開孔24と挿通状態となる。開孔24は、マイクロデバイスA1外の大気に通じている。これにより、検体Sに新たに毛細管現象が生じる。この結果、図11に示すように、検体Sは、流路15、分析室12、および流路17を経て、開放室14Aへと送液される。開放室14A,14Bは、開孔24と挿通しているが、比較的小径であるレーザ孔34を有する隔離壁3によって覆われている。このため、開放室14A,14Bに到達した検体Sがさらに開孔24へと流出するおそれはない。
【0062】
分析室12に導入された検体Sは、試薬12aを溶融させる。これにより、試薬12aの種類に応じた、検体Sの特定成分との呈色反応が生じる。上述した受光モジュール6Aが受光したことを認識してから、分析室12が検体Sによって満たされ、かつ検体Sと試薬12aとの呈色反応が完了するのに十分な時間を経過させた後に、図12に示すように、発光モジュール5Bから光を照射する。この光は、凹部18からベース1Aを透して分析室12に到達する。試薬12aと検体Sとの呈色反応により、光は、分析室12を透過する間に所定の色に選択されることとなる。この選択された色の光が、ベース1Bおよびカバー2を透して、凹部22から受光モジュール6Bに入射する。拡散板7は、凹部22を露出させる略コの字状とされているため、分析室12を透過した光が、拡散板7に入射することはない。受光モジュール6Bにおいては、受けた光の光量に基づいて受光信号を生じる。この受光信号に基づいて、分析室12における呈色反応の度合いが判定可能となり、試薬12aに応じた検体Sに含まれる特定成分の濃度などを分析することができる。
【0063】
この後は、回転軸82によってマイクロデバイスA1を所定角度回転させることにより、分析が終了した分析室12と隣り合う分析室12を発光モジュール5Bと受光モジュール6Bとの間に位置させる。そして、上述した毛細管現象を利用した検体Sの送液、および光学的手法による分析を行う。これらを繰り返すことにより、複数の分析室12に塗布された試薬12aの種類に応じた、様々な分析を行うことができる。
【0064】
次に、マイクロデバイスA1、分析装置B1、およびこれらを用いた分析方法、さらにはこれに含まれる光学検知システムの作用について説明する。
【0065】
本実施形態によれば、発光モジュール5Aからのレーザ光によってレーザ孔33,34が形成されたことを、受光モジュール6Aによって瞬時に認識することができる。このため、検体Sが毛細管現象によって送液される時間だけ待てば次の分析処理などを行うことができる。この待ち時間には、レーザ孔33,34を確実に形成するために発光モジュール5Aからの照射時間を一律に延長するなどの余分な時間は含まれない。したがって、検体Sの特定成分についての分析時間を短縮することが可能である。特に、マイクロデバイスA1を用いた分析においては、多数の分析室12に対して分析処理が繰り返される。上述した理由により、1回あたりの分析時間が短縮されるため、これが積算されるマイクロデバイスA1全体の総分析時間を大幅に短縮することができる。
【0066】
発光モジュール5Aからレーザ光を照射したにもかかわらず、レーザ孔33,34が万が一形成されなかったとしても、受光モジュール6Aによって受光しないことをもって、レーザ孔33,34の形成不良を認識することが可能である。これにより、たとえば検体Sが分析室12に適切に送液されていない状態で、誤って光学的分析を行ってしまうことを防止することができる。また、レーザ孔34が形成されたことを検知してから検体Sが分析室12に送液されるのに十分な時間を経過させることにより、たとえば試薬12aが十分に溶解していない状態、すなわち呈色反応が完全に完了していない状態で分析を行ってしまうおそれが少ない。
【0067】
開孔23,24を通過した光を入射させることにより全体が発光モジュール5Aからのレーザ光に応じた色に輝く状態となった拡散板7は、開孔23,24の直上の位置以外に置かれた受光モジュール6Aに光を受光させる。このため、受光モジュール6Aを開孔23,24の直上以外の、たとえばマイクロデバイスA1の外縁寄り部分に配置することが可能である。特に、内周側に位置する開孔23の直上には、たとえば検体Sを導入するための機構など、分析装置B1を構成する図外の部品などが配置される場合が多い。開孔23,24の位置にとらわれず、受光モジュール6Aを配置可能であることは、小型化が図られたマイクロデバイスA1に適合したサイズの分析装置B1を構成するのに有利である。
【0068】
光路変更手段としての拡散板7は、非常に薄肉の部材である。このため、マイクロデバイスA1に重なる位置に配置したとしても、分析装置B1が不当に大型化することを回避することができる。また、拡散板7は、開孔23,24を覆いつつ、分析室12を露出させるような形状に仕上げることが容易である。これは、開孔23,24および分析室12が密に配置されるほど、分析装置B1の設計を容易とする利点となる。
【0069】
さらに、本実施形態においては、2つの開孔23,24を通過してきた光を、1つの受光モジュール6Aによって受光する構成とされている。これにより、本発明で言う受光手段を設置するためのスペースを大幅に縮小することが可能である。拡散板7は、入射してきた光を広い領域に拡散させることが可能であり、マイクロデバイスA1の複数個所から出射される光を1つの受光モジュール6Aによって受光させるのに好適である。
【0070】
図13〜図16は、本発明の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0071】
図13は、本発明に係る分析装置の第2実施形態を示している。本実施形態の分析装置B2は、受光モジュール6Aの配置が、上述した実施形態と異なっている。本実施形態においては、受光モジュール6Aは、拡散板7に対してマイクロデバイスA1の径方向外方に設けられており、拡散板7の側面に正対している。発光モジュール5Aのいずれかからレーザ光が拡散板7に入射すると、拡散板7全体がこのレーザ光に応じた色に輝く。このため、拡散板7の側面から出射された光が、受光モジュール6Aによって受光される。
【0072】
このような実施形態によっても、たとえば血液などに含まれる特定成分の分析に要する時間の短縮化や、分析装置B2の小型化を図ることができる。特に、受光モジュール6Aを上述した配置とすることにより、マイクロデバイスA1の上方には、受光モジュール6Aのためのスペースを確保する必要がない。これにより、分析装置B2のその他の構成部品を、マイクロデバイスA1の直上に位置するように設けることが容易となっている。
【0073】
図14は、本発明に係る分析装置の第3実施形態を示している。本実施形態の分析装置B3は、拡散板7の形状、および受光モジュール6Aの配置が、上述したいずれの実施形態とも異なっている。本実施形態においては、拡散板7は、マイクロデバイスA1からマイクロデバイスA1の径方向外方にオーバーハングしている。たとえば、上述した第1および第2実施形態で示した拡散板7に、上記径方向外方に延びた部分が追加された形状とされている。そして、受光モジュール6Aは、拡散板7のうちマイクロデバイスA1からオーバーハングした部分の直下において、上向きに配置されている。
【0074】
このような実施形態によっても、たとえば血液などに含まれる特定成分の分析に要する時間の短縮化や、分析装置B3の小型化を図ることができる。特に、本実施形態においては、受光ジュール6Aを発光モジュール5A,5Bとともに、同一の回路基板(図示略)に搭載することも可能である。このように、光路変換手段としての拡散板7を備えることにより、本発明に係る分析装置は、受光モジュール6Aの配置が拘束されにくいという利点を有する。
【0075】
図15は、本発明に係る分析用具の第2実施形態、および本発明に係る分析装置の第4実施形態を示している。本実施形態においては、本発明で言う光路変換手段が、分析装置B4ではなく、マイクロデバイスA2に備えられている点が、上述したいずれの実施形態とも異なっている。マイクロデバイスA2は、ベース1A,1B、カバー2’、隔離膜3、分離膜4を備えている。カバー2’は、入射した光をその全体に導くとともに、その略全表面から出射可能となる材質によって形成されており、本発明で言う光路変換手段を兼ねている。カバー2’の具体例としては、上述したアクリサンデー株式会社製アクリサンデー板(乳白色)が挙げられる。
【0076】
カバー2’には、開孔22’、開放室25,26および通気溝27,28が形成されている。開放室25,26は、カバー2’の下面に開口する凹部であり、隔離膜3によって塞がれている。カバー2’には、複数の開放室25,26が、第1実施形態における複数の開孔23,24に対応する位置に設けられている。通気溝27は、開放室25と開放室26とを繋ぐための溝である。通気溝28は、開放室26を大気と通じさせるための溝である。このような構成により、開放室25,26は、第1実施形態で述べた開孔23,24と同様に、毛細管現象を利用した送液を実現する機能を果たす。
【0077】
開孔22’は、分析室12の直上に設けられており、第1実施形態における凹部22に対応する。光学的分析を行うための発光モジュール5Bからの光は、分析室12から開孔22’を通して受光モジュール6Bによって受光される。このため、乳白色とされたカバー2’によって分析に供される光が吸収されたり拡散されたりすることはない。
【0078】
カバー2’の上面は、透明膜29によって覆われている。透明膜29は、ほとんど全ての波長の光に対して透光性を有する膜であり、開孔22’を通して分析室12が大気に不当に暴露されることを防ぐため設けられている。カバー2’から受光モジュール6Aに入射すべき光は、透明膜29によって吸収されること無く受光モジュール6Aに受光される。
【0079】
このような実施形態によれば、分析装置B4には、本発明で言う光路変換手段を設ける必要がない。このため、分析装置B4の小型化をさらに促進することができる。マイクロデバイスA2としては、カバー2’に本発明で言う光路変換手段の機能を付与したにも関わらず、サイズが大きくなることがない。したがって、マイクロデバイスA2および分析装置B4の双方の小型化を図りつつ、本発明に係る光学検知システムを実現し、確実な分析および分析時間の短縮化が達成される。
【0080】
図16は、本発明に係る光学検知システムの他の例を示している。本実施形態の光学検知システムCは、1つの発光モジュール5B、複数の受光モジュール6B、ベース1C、および拡散板7を備えている。そして、本実施形態においては、発光モジュール5Bとベース1Cとの間に、拡散板7が配置されている。ベース1Cは、複数の液貯め部19を有している。ベース1Cは、液貯め部19のそれぞれにたとえば検体Sが貯められることに用いられる。
【0081】
発光モジュール5Bからの光は、拡散板7に入射した後に、すべての液貯め部19に照射される。検体Sは、発光モジュール5Bからの光を吸収するものである。このため、液貯め部19に適切に検体Sが貯められていると、その液貯め部19の直下にある受光モジュール6Bは受光しない。一方、誤って検体Sが貯められていない液貯め部19があると、この液貯め部19の直下にある受光モジュール6Bは発光モジュール5Bからの光を受光することとなる。これにより、液貯め部19に誤って検体Sが貯められていないことを検知することができる。
【0082】
このような実施形態によれは、複数の液貯め部19(被検知部)よりも少ない数の発光モジュール5Bによって、複数の検知処理を一括して行うことができる。このように、本発明は、発光手段および受光手段の双方の数を、被検知部の数よりも顕著に少ないものとすることが可能である。
【0083】
本発明に係る光学検知システム、分析用具、分析装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る光学検知システム、分析用具、分析装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0084】
本発明で言う光学検知システムは、分析用具と分析装置とが組み合わされることにより構成されるものに限定されず、発光手段からの光が透過されたことを受光手段によって受光することにより検出するあらゆる系に採用することができる。
【0085】
上述したベース1Bを省略し、ベース1Aの略全面を覆う隔離膜3を備える構成としてもよい。この場合、隔離膜3には、導入室11および複数の分析室12を露出させる複数の開孔を設けておく。また、分離膜4は、隔離膜3に設けられた開孔に嵌め込むように配置すればよい。
【0086】
本発明で言う被検知部は、光を透過する状態および全く透過しない状態のみを有するものに限定されない。たとえば、光に対する透過率が連続的に変化しうる被検知部であってもよい。この場合、この被検知部を透過する光の光量は、非検知部の状態に応じて連続的に変化することとなる。光路変更手段として、このような光量の変化を十分に伝達可能なものを用いれば、受光手段によって光量の変化を検知できる。このような構成によれば、非検知部の状態をある程度定量的に把握することができる。
【0087】
本発明で言う光路変更手段は、上述した乳白色の拡散板に限定されず、たとえば、所定の形状に仕立てられたグラスウールを用いてもよい。グラスウールによれば、あらゆる方向に光を拡散させることが可能であり、さらに複雑な形状に仕上げやすいという利点がある。また、たとえば透明な材質からなる、屈折と反射とを利用したいわゆるプリズムタイプのものを用いてもよい。さらに、入射した光をあらゆる方向に拡散させる光路変更手段として、コロイド溶液、紙、布、半透明ガラス、高輝度光散乱ポリマ導光体を用いてもよい。
【0088】
本発明で言う発光手段としては、レーザダイオードを内蔵するものの他に、発光ダイオード、ハロゲンランプ、キセノンランプ、あるいはタングステンランプなどを使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明に係る分析用具および分析装置の第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す分析用具の分解斜視図である。
【図3】図1に示す分析用具の平面図である。
【図4】図1に示す分析用具のベースを示す平面図である。
【図5】図3のV−V線に沿う要部断面図である。
【図6】図5のVI−VI線に沿う要部断面図である。
【図7】図1に示す分析用具および分析装置を用いた分析方法において、導入室に検体を導入した状態を示す要部平面図である。
【図8】図1に示す分析用具および分析装置を用いた分析方法において、レーザ孔を形成する工程を示す要部断面図である。
【図9】図1に示す分析用具および分析装置を用いた分析方法において、検体の送液を示す要部平面図である。
【図10】図1に示す分析用具および分析装置を用いた分析方法において、レーザ孔を形成する工程を示す要部断面図である。
【図11】図1に示す分析用具および分析装置を用いた分析方法において、検体の送液を示す要部平面図である。
【図12】図1に示す分析用具および分析装置を用いた分析方法において、光学的手段による分析工程を示す要部断面図である。
【図13】本発明に係る分析装置の第2実施形態を示す要部断面図である。
【図14】本発明に係る分析装置の第3実施形態を示す要部断面図である。
【図15】本発明に係る分析用具の第2実施形態および分析装置の第4実施形態を示す要部断面図である。
【図16】本発明に係る光学検知システムの他の例を示す断面図である。
【図17】従来の分析用具の一例を示す要部平面図である。
【図18】図17のXVII−XVII線に沿う要部断面図である。
【図19】従来の分析方法の一例において、レーザ孔を形成する工程を示す要部断面図である。
【図20】従来の分析方法の一例において、検体の送液を示す要部平面図である。
【図21】従来の分析方法の一例において、光学的手段による分析工程を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0090】
A1,A2 分析器具
B1,B2,B3,B4 分析装置
C 光学検知システム
1A,1B,1C ベース
2 カバー
2’ カバー(光路変更手段)
3 隔離膜
4 分離膜
5A,5B 発光モジュール(発光手段)
6A,6B 受光モジュール(受光手段)
7 拡散板(光路変更手段)
11 導入室
11B 導入孔
12 分析室
13A,13B,14A,14B 開放室
15,16,17 流路
14a 試薬
18 凹部
19 液貯め部
21 導入孔
22 凹部
23,24 開孔
25,26 開放室
27,28 通気溝
29 透明膜
33,34 レーザ孔
81 支持台
82 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象である流体が送液される微細流路と、上記微細流路に繋がる開放空間、および上記開放空間を遮蔽し、かつ外部からエネルギーを付与されることにより開孔可能とされた隔離膜によって構成されており、上記隔離膜に開孔が形成された状態において、外部から入射した光が上記開孔を通して、外部に出射可能とされている1以上の被検知部と、を有する分析用具が装填される分析装置であって、
上記被検知部を透過する光を出射可能な1以上の発光手段と、
上記被検知部を透過して上記分析用具から出射した光を受光可能な1以上の受光手段と、
上記発光手段と上記分析用具との間、または上記分析用具と上記受光手段との間、の少なくともいずれかに、上記被検知部において光が透過する透過方向、およびこの透過方向と交差する方向、に光を進行させうる光路変更手段を備えることを特徴とする、分析装置。
【請求項2】
上記光路変更手段は、上記透過方向と交差する方向に延びる、透光性を有する拡散板である、請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
上記発光手段が、上記隔離壁に対してエネルギーを付与するエネルギー付与手段を兼ねている、請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項4】
1つの上記受光手段により、複数の上記被検知部からの光を受光する構成とされている、請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項5】
1つの上記発光手段により、複数の上記被検知部に対して光を照射する構成とされている、請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項6】
分析対象である流体が送液される微細流路が形成された分析用具であって、
光を透過しうる状態を有する1以上の被検知部を有しており、
上記被検知部を透過する、または透過した光を、上記被検知部において光が透過する透過方向、およびこの透過方向と交差する方向、に進行させうる光路変更手段を備えていることを特徴とする、分析用具。
【請求項7】
上記被検知部は、上記微細流路に繋がる開放空間と、上記開放空間を遮蔽し、かつ外部からエネルギーを付与されることにより開孔可能とされた隔離膜とによって構成されており、
上記隔離膜に開孔が形成された状態において、外部から入射した光が上記開孔を通して、外部に出射可能とされている、請求項6に記載の分析用具。
【請求項8】
請求項6または7に記載の分析用具が装填される分析装置であって、
上記被検知部を透過する光を出射可能な1以上の発光手段と、
上記被検知部を透過して上記分析用具から出射した光を受光可能な1以上の受光手段と、
を備えることを特徴とする、分析装置。
【請求項9】
上記分析用具の上記被検知部は、上記微細流路に繋がる開放空間と、上記開放空間を遮蔽し、かつ外部からエネルギーを付与されることにより開孔可能とされた隔離膜とによって構成されており、
上記発光手段が、上記隔離壁に対してエネルギーを付与するエネルギー付与手段を兼ねている、請求項8に記載の分析装置。
【請求項10】
1つの上記受光手段により、複数の上記被検知部からの光を受光する構成とされている、請求項8に記載の分析装置。
【請求項11】
1つの上記発光手段により、複数の上記被検知部に対して光を照射する構成とされている、請求項8に記載の分析装置。
【請求項12】
1以上の発光手段と、
上記発光手段から発せられた光を透過しうる状態を有する1以上の被検知部と、
上記被検知部を透過した光を受光する1以上の受光手段と、
を備える、光学検知システムであって、
上記発光手段と上記被検知部との間、または上記被検知部と上記受光手段との間、の少なくともいずれかに、上記被検知部において光が透過する透過方向、およびこの透過方向と交差する方向、に光を進行させうる光路変更手段を備えることを特徴とする、光学検知システム。
【請求項13】
上記光路変更手段は、上記透過方向と交差する方向に延びる、透光性を有する拡散板である、請求項12に記載の光学検知システム。
【請求項14】
1つの上記受光手段により、複数の上記被検知部からの光を受光する構成とされている、請求項12または13に記載の光学検知システム。
【請求項15】
1つの上記発光手段により、複数の上記被検知部に対して光を照射する構成とされている、請求項12または13に記載の光学検知システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2009−41984(P2009−41984A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205352(P2007−205352)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】