説明

列車制御システム

【課題】加減速性能と省エネ性能を両立するハイブリッド鉄道車両の列車制御システムを提供する。
【解決手段】エネルギー供給源101とエネルギー蓄積装置102に対する出力指令を行う列車制御装置111を備えた列車制御システムにおいて、現在時刻と車両の現在速度及び現在位置で定まる車両状態とデータベース112に含まれるデータとエネルギー蓄積装置102の状態を入力とし、エネルギー供給源101に対する出力指令とエネルギー蓄積装置102に対する充放電指令と駆動装置103に指令する目標減速度とを出力して、ダイヤの余力と走行状態により変化する必要な加減速性能に応じて充放電管理条件を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド鉄道車両の列車制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道車両においてモーターを発電機として利用する回生ブレーキの導入が盛んである。回生ブレーキにより回収された回生エネルギーを加速力に変換して利用することができるので、従来の摩擦ブレーキよりも省エネ性能が向上する。一般に架線敷設路線において、回生エネルギーは減速中の車両から加速中の車両へと架線を通じて伝達して使用することができる。架線未敷設の路線においては、車両に蓄電装置を搭載することで、減速時の回生エネルギーを蓄電装置へ一時的に保存し加速時に使用することができる。このように蓄電装置を搭載した車両は、通常蓄電装置とは別のエネルギー供給源も搭載しており、複数のエネルギー供給源を持つことからハイブリッド車両と呼ばれている。
【0003】
一方、蓄電装置には充電量の限界があることから、蓄電装置の管理方法には工夫を要する。特許文献1では、速度と蓄電状態を指標にした制御マップによる制御が提案されており、速度と充電量を座標にとった、2次元制御マップ上に蓄電装置の使用方法の領域分割し、車両の速度・充電量と制御マップを参照することで、蓄電装置の使用方法を決定する方法が記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−282859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献では、平坦な地形をある加減速により走行することを前提として充放電量の過不足を判断し、充電量の調整を行っている為に、前提条件と異なる実際の走行では充電量に過不足が生じる。
【0006】
本発明の課題は、要求される加減速性能の大小に応じた電池管理制御を導入し、走行状態によって変動する加減速性能の余力を省エネ性能に充てることで、加減速性能と省エネ性能との両立を実現するハイブリッド車両の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の列車制御システムは、エネルギーの供給のみを行えるエネルギー供給源と、エネルギーの供給と蓄積を行えるエネルギー蓄積装置と、前記エネルギー供給源からの第1の出力エネルギーと前記エネルギー蓄積装置からの第2の出力エネルギーを車輪部での力に変換する駆動装置と、前記第1の出力エネルギーと前記第2の出力エネルギーを制御する列車制御装置とを備え、前記列車制御装置は、現在時刻と車両の現在速度及び現在位置で定まる車両状態とデータベースに含まれるデータと前記エネルギー蓄積装置の状態を入力とし、前記エネルギー供給源に対する出力指令と前記エネルギー蓄積装置に対する充放電指令と前記駆動装置に指令する目標減速度とを出力することを特徴とする。
【0008】
好ましくは、前記データベースに含まれるデータは、走行状態を表す走行フェーズを位置に対して割り当てた走行フェーズ区分データと、位置と時刻に対して走行性能レベルを割り当てた走行性能レベル区分マップと、走行性能レベルに対応する加速放電量、目標加速度、減速充電量、目標減速度を示した走行性能テーブルとする。
【0009】
また、好ましくは、前記列車制御装置は、前記現在時刻と前記車両状態と前記データベースに含まれるデータのうち前記走行性能レベル区分マップと前記走行性能テーブルから目標減速度と走行性能レベルを決定する走行性能決定装置と、前記車両状態と前記データベースに含まれるデータのうち前記走行フェーズ区分データから走行フェーズを出力する走行フェーズ判定装置と、前記走行性能レベルと前記走行フェーズと前記データベースに含まれるデータのうち前記走行性能テーブルから充放電条件を規定した充電量制御マップを作成する充電量制御マップ作成装置と、前記車両状態と前記エネルギー蓄積装置の状態と前記充放電量制御マップから前記出力指令と前記充放電指令を出力する出力指令装置とを備える。
【0010】
また、好ましくは、前記走行性能決定装置は、前記車両状態と前記現在時刻と前記データベースに含まれるデータのうち前記走行性能レベル区分マップから前記走行性能レベルを出力する走行性能レベル決定装置と、前記走行性能レベルと前記データベースに含まれるデータのうち前記走行性能テーブルから前記目標減速度を決定する目標減速度決定装置とを備え、前記走行性能レベル決定装置は前記現在時刻と前記車両状態に含まれる現在位置に対し前記走行性能レベル区分マップを参照することで前記走行性能レベルを決定し、前記目標減速度決定装置は前記走行性能レベルに対し前記走行性能テーブルを参照することで目標減速度を決定する。
【0011】
また、好ましくは、前記充電量制御マップ作成装置は、横軸を速度、縦軸を前記エネルギー蓄積装置の充電量とする二次元平面上を惰行時充電目標曲線と放電目標曲線により領域分割し、領域毎に領域指標を割り当てる機能を有し、前記惰行時充電目標曲線は、前記走行フェーズと前記走行性能レベルと前記データベースに含まれるデータのうち前記走行性能テーブルから決定し、前記放電目標曲線は、前記走行フェーズと前記走行性能レベルと前記データベースに含まれるデータのうち前記走行性能テーブルから決定する。
【0012】
また、好ましくは、前記出力指令装置は、前記車両状態に含まれる現在速度と前記エネルギー蓄積装置の状態に含まれる充電量に対し、前記充電量制御マップを参照して前記領域指標を決定し、前記領域指標に対して惰行時出力の有無を前記出力指令、力行時放電の有無と惰行時充電の有無を前記充放電指令として出力する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以上の制御方法を実現することにより、加速性能と省エネ性能を最適に選択し、安定して加速性能を確保しつつ、省エネ効果の向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明のハイブリッド車両の構成図である。
【図2】図2は、本発明の走行フェーズ区分データである。
【図3】図3は、本発明の走行性能レベル区分マップである。
【図4】図4は、本発明の走行性能テーブルである。
【図5】図5は、本発明の列車制御装置の構成図である。
【図6】図6は、本発明の走行性能決定装置の構成図である。
【図7】図7は、本発明の充電量制御マップの例である。
【図8】図8は、本発明の充電量制御マップ作成装置により作成される充電量制御マップの例である。
【図9】図9は、本発明の出力指令装置の指令決定テーブルである。
【図10】図10は、本発明の動作例である。
【図11】図11は、従来制御の動作例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面により説明する。
【実施例】
【0016】
図1に本発明のハイブリッド車両の構成を示す。ハイブリッド車両100はエネルギー供給源101と、エネルギー蓄積装置102と、エネルギー供給源101からのエネルギーとエネルギー蓄積装置102からのエネルギーを車輪部での力に変換し必要な加減速度を発生する駆動装置103と、現在時刻104とデータベース112に含まれる全てのデータ105と速度及び位置を含む現在の車両状態106とエネルギー蓄積装置102の状態107とを入力とし、エネルギー供給源101に対する出力指令108とエネルギー蓄積装置102に対する充放電指令109と駆動装置103へ指示する目標減速度110を出力する列車制御装置111により構成される。
【0017】
エネルギー供給源101の具体例としては、エンジンなどの内燃機関またはパンタグラフ等の外部から電力を取り入れる媒体が挙げられる。エネルギー蓄積装置102の具体例としては、二次電池やキャパシタ、フライホイール等が挙げられる。
【0018】
データベース112には図2に示す走行フェーズ区分データ21と図3に示す走行性能レベル区分マップ31と図4に示す走行性能テーブル41を含むものとする。
【0019】
走行フェーズ区分データ21について図2を用いて説明する。走行フェーズ区分データ21は走行する路線を、予め設定したダイヤに基づく走行パターン(基準パターン)により分割し、分割されたエリア毎に走行状態を示す走行フェーズを割り当てたデータである。
【0020】
走行性能レベル区分マップ31について図3を用いて説明する。走行性能レベル区分マップ31は位置と時刻に対して走行性能レベルを割り当てた2次元マップであり、前記基準パターンで走行した場合の軌跡32に対する余力に応じて走行性能レベルを割り当てる。
【0021】
走行性能テーブル41について図4を用いて説明する。走行性能テーブル41は前記走行性能レベル区分マップ31上の走行性能レベルに対応する加速時放電量、目標加速度、目標減速度、減速時充電量、最高速度到達時間、減速時間を与えたテーブルである。
【0022】
次に、列車制御装置111について図5を用いて説明する。列車制御装置111は、現在時刻104とデータ105及び現在の車両状態106から、使用する加減速度の目安となる走行性能レベル501と目標減速度110を出力する走行性能決定装置502と、現在の車両状態106に含まれる現在位置に対しデータ105に含まれる走行フェーズ区分データ21を参照することで走行フェーズ503を決定し出力する走行フェーズ判定装置504と、走行性能レベル501とデータ105と走行フェーズ503から充電量制御マップ505を出力する充電量制御マップ作成装置506と、エネルギー蓄積装置の状態107と現在の車両状態106と充電量制御マップ505から出力指令108と充放電指令109を出力する出力指令装置507から構成される。
【0023】
走行性能決定装置502について図6を用いて説明する。走行性能決定装置502は、現在時刻104とデータ105と現在の車両状態106から走行性能レベル501を出力する走行性能レベル決定装置601と、走行性能レベル501から目標減速度110を出力する目標減速度決定装置602から構成される。
【0024】
走行性能レベル決定装置601では、現在時刻104と現在の車両状態106に含まれる現在位置に対し、データ105に含まれる走行性能レベル区分マップ31を参照することで走行性能レベル501を決定する。
【0025】
次に、充電量制御マップ作成装置506について図7及び図8を用いて説明する。
【0026】
図7は基本となる充電量制御マップの例である。充電量制御マップは横軸に速度、縦軸にエネルギー蓄積装置102の充電量をとり、放電目標曲線:f(v)と惰行時充電目標曲線:g(v)により三つの領域に区分したマップである。
【0027】
エネルギー蓄積装置102の充電量が放電目標曲線:f(v)で定まる充電量を下回った場合には放電を停止し、エネルギー蓄積装置102の充電量が惰行時充電目標曲線:g(v)で定まる充電量を上回った場合には惰行時及び停車時にエネルギー供給源101の駆動によるエネルギー蓄積装置102の充電を停止する。
【0028】
放電目標曲線:f(v)と惰行時充電目標曲線:g(v)は、図7−(a)に示すようにg(v)>f(v)となる場合と、図7−(b)に示すようにg(v)<f(v)となる場合の二通りが存在する。図7−(c)のマップ区分表に従って、区分された3つの領域に対して指標を与える。
【0029】
図8は走行性能レベルの区分を1〜3の3段階とし、走行フェーズをA〜Dの4状態の分類を仮定した場合の充電量制御マップ作成の例である。
【0030】
走行フェーズA〜Dは
走行フェーズA:加速前の惰行再力行状態、加速前の定速走行状態、停止状態
走行フェーズB:加速状態
走行フェーズC:減速前の惰行再力行状態、減速前の定速走行状態
走行フェーズD:減速状態
とする。
【0031】
以下に、各走行性能レベル、走行フェーズ毎の充電量制御マップ作成の例を示す。
走行フェーズA
<走行フェーズAかつ走行性能レベル1>
図8のA‐1は走行フェーズAかつ走行性能レベル1における充電量制御マップの例である。走行フェーズAかつ走行性能レベル1においては、回生の機会を損なわないようにする事と、次の加速区間で最高速度まで放電を維持して加速を行う事とを目標とする。その為に、放電目標曲線:f(v)は、速度0において充電上限値となる減速時充電量の軌跡とする。
【0032】
また、惰行時充電目標曲線:g(v)は最高速度において充電下限値となる加速時充電量の軌跡とする。充電上限値及び充電下限値はエネルギー蓄積装置102で使用可能な充電量の上限値と下限値である。以後充電上限値及び充電下限値は同様の意味で用いる。
【0033】
<走行フェーズAかつ走行性能レベル2>
図8のA‐2は走行フェーズAかつ走行性能レベル2における充電量制御マップの例である。
【0034】
走行フェーズAかつ走行性能レベル2においては、回生の機会を損なわないようにする事と、次の加速区間で最高速度まで放電を維持して加速を行う事とを目標とする。その為に、放電目標曲線:f(v)は、速度0において充電上限値となる減速時充電量の軌跡とする。また、惰行時充電目標曲線:g(v)は最高速度において充電下限値となる加速時充電量の軌跡とする。
【0035】
<走行フェーズAかつ走行性能レベル3>
図8のA‐3は走行フェーズAかつ走行性能レベル3における充電量制御マップの例である。走行フェーズAかつ走行性能レベル3においては、回生の機会を損なわないようにする事と、惰行時及び停車時の充電を最大限回避する事を目標とする。その為に、放電目標曲線:f(v)は、速度0において充電上限値となる減速時充電量の軌跡とする。また、惰行時充電目標曲線:g(v)は充電下限値で一定とする。
【0036】
走行フェーズB
<走行フェーズBかつ走行性能レベル1>
図8のB‐1は走行フェーズBかつ走行性能レベル1における充電量制御マップの例である。走行フェーズBかつ走行性能レベル1においては、加速中の放電を可能な限り継続する事と、最高速度まで放電を維持して加速を行う事とを目標とする。その為に、放電目標曲線:f(v)は、充電下限値とする。また、惰行時充電目標曲線:g(v)は最高速度において充電下限値で一定となる加速時充電量の軌跡とする。
【0037】
<走行フェーズBかつ走行性能レベル2>
図8のB‐2は走行フェーズBかつ走行性能レベル2における充電量制御マップの例である。走行フェーズBかつ走行性能レベル2においては、加速中の放電を可能な限り継続する事と、惰行時及び停車時の充電を最大限回避する事とを目標とする。その為に、放電目標曲線:f(v)は、充電下限値で一定とする。また、惰行時充電目標曲線:g(v)は充電下限値とする。
【0038】
<走行フェーズBかつ走行性能レベル3>
図8のB‐3は走行フェーズBかつ走行性能レベル3における充電量制御マップの例である。走行フェーズBかつ走行性能レベル3においては、回生の機会を損なわないようにする事と、惰行時及び停車時の充電を最大限回避する事とを目標とする。その為に、放電目標曲線:f(v)は、速度0において充電上限値となる減速時充電量の軌跡とする。また、惰行時充電目標曲線:g(v)は充電下限値で一定とする。
【0039】
走行フェーズC
<走行フェーズCかつ走行性能レベル1>
図8のC‐1は走行フェーズCかつ走行性能レベル1における充電量制御マップの例である。走行フェーズCかつ走行性能レベル1においては、回生の機会を損なわないようにする事と、次の加速区間で最高速度まで放電を維持して加速を行う事とを目標とする。その為に、放電目標曲線:f(v)は、速度0において充電上限値となる減速時充電量の軌跡とする。また、惰行時充電目標曲線:g(v)は最高速度において充電下限値となる加速時充電量の軌跡とする。
【0040】
<走行フェーズCかつ走行性能レベル2>
図8のC‐2は走行フェーズCかつ走行性能レベル2における充電量制御マップの例である。走行フェーズCかつ走行性能レベル1においては、回生の機会を損なわないようにする事と、惰行時及び停車時の充電を最大限回避する事とを目標とする。その為に、放電目標曲線:f(v)は、速度0において充電上限値となる減速時充電量の軌跡とする。また、惰行時充電目標曲線:g(v)は充電下限値で一定とする。
【0041】
<走行フェーズCかつ走行性能レベル3>
図8のC‐3は走行フェーズCかつ走行性能レベル3における充電量制御マップの例である。走行フェーズCかつ走行性能レベル3においては、回生の機会を損なわないようにする事と、惰行時及び停車時の充電を最大限回避する事とを目標とする。その為に、放電目標曲線:f(v)は、速度0において充電上限値となる減速時充電量の軌跡とする。また、惰行時充電目標曲線:g(v)は充電下限値で一定とする。
【0042】
走行フェーズD
<走行フェーズDかつ走行性能レベル1>
図8のD‐1は走行フェーズDかつ走行性能レベル1における充電量制御マップの例である。走行フェーズDかつ走行性能レベル1においては、回生の機会を損なわないようにする事と、次の加速区間で最高速度まで放電を維持して加速を行う事とを目標とする。その為に、放電目標曲線:f(v)は、速度0において充電上限値となる減速時充電量の軌跡とする。また、惰行時充電目標曲線:g(v)は最高速度において充電下限値となる加速時充電量の軌跡とする。
【0043】
<走行フェーズDかつ走行性能レベル2>
図8のD‐2は走行フェーズDかつ走行性能レベル2における充電量制御マップの例である。走行フェーズDかつ走行性能レベル2においては、回生の機会を損なわないようにする事と、惰行時及び停車時の充電を最大限回避する事とを目標とする。その為に、放電目標曲線:f(v)は、速度0において充電上限値となる減速時充電量の軌跡とする。また、惰行時充電目標曲線:g(v)は充電下限値で一定とする。
【0044】
<走行フェーズDかつ走行性能レベル3>
図8のD‐3は走行フェーズDかつ走行性能レベル3における充電量制御マップの例である。走行フェーズDかつ走行性能レベル3においては、回生の機会を損なわないようにする事と、惰行時及び停車時の充電を最大限回避する事とを目標とする。その為に、放電目標曲線:f(v)は、速度0において充電上限値となる減速時充電量の軌跡とする。また、惰行時充電目標曲線:g(v)は充電下限値で一定とする。なお、走行性能レベルは必要に応じてレベルの数を増減させてもよい。
【0045】
以上の処理により、放電目標曲線f(v)と惰行時充電目標曲線:g(v)による充電量制御マップ505が作成される。
【0046】
次に、出力指令装置507について図7を用いて説明する。
充電量制御マップ505と図7に示した制御マップ領域に対応する指標から、惰行時の出力の有無を出力指令108として出力する。また、力行時放電の有無、及び惰行時充電の有無を充放電指令109として出力する。
【0047】
次に、本制御を搭載した車両の動作について、図10、図11を用いて説明する。
図10に本発明の制御により走行した場合の位置−速度パターン、位置−時刻パターン、位置−充電量パターン、位置−燃料パターン、位置に対する走行フェーズ、走行性能レベル、充電量制御マップを示す。
【0048】
なお、位置p0において、充電量が充電上限で停車状態から走行を開始するものとする。
駅停車中は前述したように走行フェーズAである。ダイヤどおりに出発するので、停車中はダイヤに余力があると見なすことはできない。従って、走行性能レベル1である。従って、充電量制御マップはA−1となる。充電量が放電目標曲線:f(v)を上回っており、惰行時充電目標曲線:g(v)を上回っていることから、惰行時及び停車時の充電は行わず、停車中に充電量の変動はない。
【0049】
出発時刻になると、加速状態の走行フェーズBとなる。ダイヤどおりに出発すると基準パターンに対するダイヤの余力が少ないので、走行性能レベル1である。従って、充電量制御マップはB−1となる。充電量は放電目標曲線:f(v)を上回っているので加速時に蓄電装置は放電し、充電量は低下する。
【0050】
次に、位置p1に達すると、基準パターンと実際の走行パターンとのずれから基準ダイヤと実際の時刻との差が大きくなり、位置−時刻パターン上に示すように走行性能レベルが2となる。従って、充電量制御マップはB−2となる。位置p1から位置p2までは充電量が放電目標曲線:f(v)を上回っているので加速時に蓄電装置は放電し、充電量は低下する。
【0051】
なお、基準パターンと実際の走行パターンとのずれの原因としては、エンジン出力・変速機性能・乗車率・車輪などの車両性能や風や運転士のノッチ扱いのタイミングなどが基準パターン作成時に前提とした条件と厳密に一致しない為である。
【0052】
次に、位置p2に達すると、充電量が放電目標曲線:f(v)に達するため、放電を停止する。このため、充電量が維持される。この状態のまま位置p3まで走行する。
次に、位置p3に達すると加速状態のエリアから惰行再力行状態のエリアになり、次のエリアにおける走行状態が減速であることから、走行フェーズCとなる。
【0053】
この状態は位置p7に達するまで持続する。位置−時刻から走行性能レベル2を維持している。従って、充電量制御マップはC−2である。充電量が放電目標曲線:f(v)を下回っており、惰行時充電目標曲線:g(v)を上回っていることから、放電を行わず、惰行時の充電も行わない。従って、位置p3から位置p7まで充電量は変動しないことになる。また、燃料消費量は加速中の位置p4からp5、および位置p6からp7のみ増加し、惰行期間中は増加しない。
【0054】
次に、位置p7に達すると運転士はダイヤの余力を考慮して、早めに減速を開始する。但し、基準パターンによる路線データ上では惰行再力行のエリアであるので、走行フェーズCは維持される。また、位置−時刻から走行性能レベル2で、充電量制御マップはC−2である。この時、図4より目標減速度b2を用い、回生ブレーキの使用により充電量は上昇する。
【0055】
次に、位置p8に達すると減速エリアとなり、走行フェーズDとなる。位置−時刻パターンから走行性能レベル2が維持されている。従って、位置p8から位置p9までは充電量制御マップはD−2である。この時、図4より目標減速度b2を用い、回生ブレーキの使用により、充電量は上昇する。
【0056】
次に、位置p9に達すると、位置p7において早めにブレーキを開始したため、基準パターンに対するダイヤの余力が減少し、走行性能レベル1となる。従って、位置p9から位置p10まで充電量制御マップはD−1である。この時、図4より目標減速度b1を用い、回生ブレーキの使用により、充電量は上昇し、位置p10において充電量が充電上限となる。
【0057】
次に、位置p10において停止し、走行フェーズAとなる。ダイヤどおり停車したので走行性能レベル1である。従って、充電量制御マップはA−1である。
【0058】
一方、図11に従来制御を搭載したハイブリッド車両が走行した場合の位置−速度パターン、位置−時刻パターン、位置−充電量パターン、位置−燃料パターンを示す。
位置p0’において、充電量が充電上限で停車状態から走行を開始するものとする。
【0059】
駅停車中は充電量が放電目標曲線:f(v)を上回っており、惰行時充電目標曲線:g(v)を上回っていることから、惰行時の充電は行わず、停車中に充電量の変動はない。
出発時刻になると、加速を開始する。位置p0’から位置p1’までは限界f(v)を上回っているので蓄電装置は放電しながら加速し、充電量は低下する。
【0060】
位置p1’に達すると、充電量が放電目標曲線:f(v)に達し、位置p1’から位置p2’まで加速時の放電を停止する。
【0061】
位置p2’に達すると加速状態のエリアから惰行再力行状態のエリアになる。惰行時の放電目標曲線:f(v)を上回っており、惰行時充電目標曲線:g(v)を下回っていることから、加速時は放電を行い、惰行時の充電は行う。従って、位置p2’から位置p9’まで充電量が上下する。
【0062】
位置p9’に達すると減速エリアを開始する。最大減速による開始を開始する。位置p9’から位置p10’までは回生により充電量が上昇する。位置p10’になると充電量が充電上限となり、回生が停止し、空制のみによる減速となる。位置p11’で停車する。
【0063】
図11の位置−燃料パターンには従来制御のハイブリッド車両による走行時の燃料と、本発明のハイブリッド車両による走行時の燃料を示している。
【0064】
本発明の制御により従来の制御に比べて、エンジンの燃料消費量が少なく、省エネ性能を向上していると言える。
【0065】
また、図10に示すように、基準パターンと同等の時間で走行可能であることから、走行性能も十分であると言える。
【0066】
このことから、本発明による制御により、省エネ性能と加減速性能を両立したハイブリッド車両が可能となる。
【符号の説明】
【0067】
21 走行フェーズ区分データ
31 走行性能レベル区分マップ
32 軌跡
41 走行性能テーブル
100 ハイブリッド車両
101 エネルギー供給源
102 エネルギー蓄積装置
103 駆動装置
104 現在時刻
105 データ
106 車両状態
107 エネルギー蓄積装置の状態
108 出力指令
109 充放電指令
110 目標減速度
111 列車制御装置
112 データベース
501 走行性能レベル
502 走行性能決定装置
503 走行フェーズ
504 走行フェーズ判定装置
505 充電量制御マップ
506 充電量制御マップ作成装置
507 出力指令装置
601 走行性能レベル決定装置
602 目標減速度決定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギーの供給のみを行えるエネルギー供給源と、
エネルギーの供給と蓄積を行えるエネルギー蓄積装置と、
前記エネルギー供給源からの第1の出力エネルギーと前記エネルギー蓄積装置からの第2の出力エネルギーを車輪部での力に変換する駆動装置と、
前記第1の出力エネルギーと前記第2の出力エネルギーを制御する列車制御装置とを備え、
前記列車制御装置は、現在時刻と車両の現在速度及び現在位置で定まる車両状態とデータベースに含まれるデータと前記エネルギー蓄積装置の状態を入力とし、前記エネルギー供給源に対する出力指令と前記エネルギー蓄積装置に対する充放電指令と前記駆動装置に指令する目標減速度とを出力することを特徴とする列車制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の列車制御システムにおいて、
前記データベースに含まれるデータは、走行状態を表す走行フェーズを位置に対して割り当てた走行フェーズ区分データと、位置と時刻に対して走行性能レベルを割り当てた走行性能レベル区分マップと、走行性能レベルに対応する加速放電量、目標加速度、減速充電量、目標減速度を示した走行性能テーブルであることを特徴とする列車制御システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の列車制御システムにおいて、
前記列車制御装置は、
前記現在時刻と前記車両状態と前記データベースに含まれるデータのうち前記走行性能レベル区分マップと前記走行性能テーブルから目標減速度と走行性能レベルを決定する走行性能決定装置と、
前記車両状態と前記データベースに含まれるデータのうち前記走行フェーズ区分マップから走行フェーズを出力する走行フェーズ判定装置と、
前記走行性能レベルと前記走行フェーズと前記データベースに含まれるデータのうち前記走行性能テーブルから充放電条件を規定した充電量制御マップを作成する充電量制御マップ作成装置と、
前記車両状態と前記エネルギー蓄積装置の状態と前記充放電量制御マップから前記出力指令と前記充放電指令を出力する出力指令装置とを備えることを特徴とする列車制御システム。
【請求項4】
請求項3に記載の列車制御システムにおいて、
前記走行性能決定装置は、
前記車両状態と現在時刻前記データベースに含まれるデータのうち前記走行性能レベル区分マップから前記走行性能レベルを出力する走行性能レベル決定装置と、
前記走行性能レベルと前記データベースに含まれるデータのうち前記走行性能テーブルから前記目標減速度を決定する目標減速度決定装置とを備え、
前記走行性能レベル決定装置は、
前記現在時刻と前記車両状態に含まれる現在位置に対し前記データベースに含まれるデータのうち前記走行性能レベル区分マップを参照することで前記走行性能レベルを決定し、
前記目標速度決定装置は、
前記走行性能レベルに対し前記データベースに含まれるデータのうち前記走行性能テーブルを参照することで目標減速度を決定することを特徴とする列車制御システム。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の列車制御システムにおいて、
前記充電量制御マップ作成装置は、
横軸を速度、縦軸を前記エネルギー蓄積装置の充電量とする二次元平面上を惰行時充電目標曲線と放電目標曲線により領域分割し、領域毎に領域指標を割り当てる機能を有し、
前記惰行時充電目標曲線は、と前記走行フェーズと前記走行性能レベルと前記データベースに含まれるデータのうち前記走行性能テーブルから決定し、
前記放電目標曲線は、前記走行フェーズと前記走行性能レベルと前記データベースに含まれるデータのうち前記走行性能テーブルから決定することを特徴とする列車制御システム。
【請求項6】
請求項5に記載の列車制御システムにおいて、
前記出力指令装置は、前記車両状態に含まれる現在速度と前記エネルギー蓄積装置の状態に含まれる充電量に対し、前記充電量制御マップを参照して前記領域指標を決定し、前記領域指標に対して惰行時出力の有無を前記出力指令、力行時放電の有無と惰行時充電の有無を前記充放電指令として出力することを特徴とする列車制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−147245(P2011−147245A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5103(P2010−5103)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】