説明

列車制御用信号検出装置および列車制御用信号検出方法

【課題】 地上子と車上子との距離などの状態にかかわらず、安定して信号を検知することのできる列車制御用信号検出装置および列車制御用信号検出方法を提供する。
【解決手段】 列車1に搭載される車上子2を介して入力された検知波形信号のピークレベルを算出するレベル算出部7と、車上子2を介して入力された検知波形信号のうちリミッタ8により一定のリミッタレベル以上の検知波形信号をリミッタレベル以下の検知波形信号に変換するリミッタレベル算出部11と、レベル算出部7から出力される検知波形信号に基づいてピーク周波数を検出してQ値を算出するとともに、リミッタレベル算出部11から出力される検知波形信号およびレベル算出部7から出力される検知波形信号をそれぞれ入力して、所定のしきい値と比較することにより、検知波形信号のレベル判定を行い、Q値およびレベル判定結果から信号の検出を行う信号検出部12と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は列車制御用信号検出装置および列車制御用信号検出方法に係り、特に、ATSやATC等の列車制御装置に用いられる列車制御用信号検出装置および列車制御用信号検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ATSやATC等の列車制御装置においては、列車に搭載された車上子と、軌道に沿って配置された地上子とを電磁結合させることにより、車上側から地上側に信号を送信し、地上側において所定の制御を行うとともに、地上側から車上側に信号を送信し車上側で所定の制御を行うことが行われている。
【0003】
この場合に、従来から、例えば、入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して所定の周波数分析を行うFFT周波数分析手段と、周波数分析された各周波数の信号レベルを算出するレベル算出手段と、算出された各周波数の信号レベルを所定の信号の周波数を中心にして所定の信号比較範囲毎に区分する区分手段と、区分された所定の信号比較範囲内で、かつ、前記所定の信号の周波数を中心にして所定の信号変動範囲を設定する信号変動範囲設定手段と、区分された信号比較範囲内の各信号レベルを所定のしきい値を用いて分別する分別手段と、分別された信号レベルの中から最大の信号レベルを選択する選択手段と、選択された信号レベルが前記所定の信号変動範囲内のときに、その選択されたレベルの周波数を検出信号として検出する信号検出手段とから構成され、送信側の信号周波数が変動しても信号レベル検出と信号検出を確実に行うことができ、しかも各種列車制御方式に適用することができる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−028877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の技術においては、車上子により受信した検知波形信号のレベルが最小動作レベルを超えて、ピークが検出された場合に信号検知となる。この場合に、信号を安定に検知するためにローパスフィルタを使用しているが、信号の検知時間が現波形信号に対して長くなってしまうという問題を有している。これは、地上子と車上子との距離が変化して信号のレベルが変化した場合でも、同様である。このように検知時間が長くなってしまうと、例えば、図5に示すように、信号の立下りでカウントを開始する車上タイマ方式により速度照査を行った場合に、車上装置の車上タイマにより、検知波形信号を入力してから、次の検知波形信号を入力するまでの時間をカウントしたときに、現波形信号に基づくカウント開始タイミングに対して、検知波形信号に基づくカウント開始タイミングが遅れてしまうことから、車上タイマによるカウント中に次の検知波形信号が入力されてしまい、その結果、速度超過であると判定してしまうことがあり、速度照査を適正に行うことができないという問題を有している。
【0006】
本発明は前記した点に鑑みてなされたものであり、地上子と車上子との距離などの状態にかかわらず、安定して信号を検知することのできる列車制御用信号検出装置および列車制御用信号検出方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前記目的を達成するために、請求項1の発明に係る列車制御用信号検出装置は、列車に搭載される車上子を介して入力された検知波形信号のピークレベルを算出するレベル算出部と、
前記車上子を介して入力された検知波形信号のうちリミッタにより一定のリミッタレベル以上の検知波形信号をリミッタレベル以下の検知波形信号に変換するリミッタレベル算出部と、
前記レベル算出部から出力される検知波形信号に基づいてピーク周波数を検出してQ値を算出するとともに、前記リミッタレベル算出部から出力される検知波形信号および前記レベル算出部から出力される検知波形信号をそれぞれ入力して、所定のしきい値と比較することにより、前記検知波形信号のレベル判定を行い、前記Q値およびレベル判定結果から信号の検出を行う信号検出部と、
を備えていることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明に係る列車制御用信号検出方法は、列車に搭載される車上子を介して入力された検知波形信号のピークレベルを算出するレベル算出処理と、
前記車上子を介して入力された検知波形信号のうちリミッタにより一定のリミッタレベル以上の検知波形信号をリミッタレベル以下の検知波形信号に変換するリミッタレベル算出処理と、
前記レベル算出部から出力される検知波形信号に基づいてピーク周波数を検出してQ値を算出する処理と、
前記リミッタレベル算出処理による検知波形信号および前記レベル算出処理による検知波形信号をそれぞれ入力して、所定のしきい値と比較することにより、前記検知波形信号のレベル判定を行う処理と、
前記Q値およびレベル判定結果から信号の検出を行う信号検出処理と、
を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、レベル算出部から出力される検知波形信号に基づいてピーク周波数を検出してQ値を算出するとともに、リミッタレベル算出部から出力される検知波形信号に基づいて信号の検出を行うようにしているので、検知波形信号の検知時間を現波形信号の検知時間とほぼ同じにすることができ、その結果、車上タイマ方式により速度照査を行った場合に、現波形信号に基づくカウント時間と検知波形信号に基づくカウント時間とがほぼ等しくなり、その結果、速度照査を適正に行うことができる。
【0010】
請求項2に係る発明によれば、レベル算出処理による検知波形信号に基づいてピーク周波数を検出してQ値を算出するとともに、リミッタレベル算出処理による検知波形信号に基づいて信号の検出を行うようにしているので、検知波形信号の検知時間を現波形信号の検知時間とほぼ同じにすることができ、その結果、車上タイマ方式により速度照査を行った場合に、現波形信号に基づくカウント時間と検知波形信号に基づくカウント時間とがほぼ等しくなり、その結果、速度照査を適正に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る列車制御用信号検出装置を適用した列車の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係る列車制御用信号検出装置による信号検知の処理を示す説明図である。
【図3】本発明に係る列車制御用信号検出装置による車上子と地上子との距離に対する検知波形信号の例を示す説明図である。
【図4】本発明に係る列車制御用信号検出装置による速度照査の処理を示す説明図である。
【図5】従来の列車制御用信号検出装置による速度照査の処理を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る列車制御用信号検出装置を適用した列車の実施形態を示す概略構成図であり、列車1には、図示しない地上子と電磁結合して所定の信号を入力するための車上子2が搭載されており、列車1には、車上装置3が搭載されている。車上装置3には、車上子2を介して入力された波形信号の周波数を変換するFFT演算処理回路4が設けられている。
【0014】
また、車上装置3には、FFT演算処理回路4により周波数変換された検知波形信号をローパスフィルタ5およびdB変換回路6により処理することにより、図2示すように、検知波形信号のピークレベルを算出するレベル算出部7が設けられている。また、車上装置3には、FFT演算処理回路4により周波数変換された検知波形信号をリミッタ8、ローパスフィルタ9およびdB変換回路10により処理することにより検知波形信号の移動平均をとって一定のリミッタレベル以上の検知波形信号をリミッタレベル以下の検知波形信号に変換するリミッタレベル算出部11が設けられている。
【0015】
また、車上装置3には、信号検出部12が設けられており、信号検出部12は、レベル算出部7から出力される検知波形信号に基づいてピーク周波数を検出するピーク検出部13およびピーク検出部13によるピーク周波数に基づいてQ値を算出するQ値算出部14を備えている。また、信号検出部12は、リミッタレベル算出部11から出力される検知波形信号およびレベル算出部7から出力される検知波形信号をそれぞれ入力して、所定のしきい値と比較することにより、所定のレベル判定を行うレベル判定部15を備えている。すなわち、レベル判定部15は、検知波形信号があらかじめ定められた最小動作レベルを超えている場合には、検知すべきレベルの検知波形信号であると判定するものである。さらに、信号検出部12は、Q値算出部14から出力されるQ値信号およびレベル判定部15からの出力信号に基づいて信号の検出を行う信号判定部16を備えている。
【0016】
本実施形態においては、レベル算出部7により算出された検知波形信号に基づいてピークレベルを判定してQ値を算出するとともに、リミッタレベル算出部11により算出され一定のレベルを超えている検知波形信号に基づいて信号の検出を行うように構成されている。すなわち、レベル算出部7から出力される検知波形信号のピークを検出するとともに、リミッタレベル算出部11から出力される検知波形信号のレベルが最小動作レベルを超えた信号であると判定した場合に、信号を検知したと判断するものである。
【0017】
そして、例えば、車上タイマ方式により、列車1の速度照査を行う場合には、車上装置3の車上タイマにより、検知波形信号を入力してから、一定時間のカウントを行い、検知波形信号に基づくカウント時間経過後に次の検知波形信号が入力された場合には、列車1が制限速度内で走行しているものと判断し、カウント時間経過前に次の検知波形信号が入力された場合には、列車1の速度が制限速度を超過しているものと判断するように構成されている。
【0018】
次に、前記列車制御用信号検出装置を用いた列車制御用信号検出方法について、説明する。
【0019】
まず、本実施形態においては、車上子2を介して波形信号が入力されると、FFT演算処理回路4により、波形信号の周波数を変換してレベル算出部7およびリミッタレベル算出部11にそれぞれ出力される。そして、レベル算出部7により、FFT演算処理回路4により周波数変換された検知波形信号をローパスフィルタ5およびdB変換回路6により処理することにより、検知波形信号のピークレベルを算出する。また、リミッタレベル算出部11により、FFT演算処理回路4により周波数変換された検知波形信号をリミッタ8、ローパスフィルタ9およびdB変換回路10により処理することにより検知波形信号の移動平均をとって一定のリミッタレベル以上の検知波形信号をリミッタレベル以下の検知波形信号に変換する。
【0020】
続いて、信号検出部12のピーク検出部13により、レベル算出部7から出力される検知波形信号に基づいてピーク周波数を検出するとともに、Q値算出部14により、ピーク検出部13によるピーク周波数に基づいてQ値を算出する。一方、レベル判定部15により、リミッタレベル算出部11から出力される検知波形信号およびレベル算出部7から出力される検知波形信号があらかじめ定められた最小動作レベルを超えているか否かを判定する。そして、信号判定部16により、Q値算出部14から出力されるQ値信号およびレベル判定部15からの出力信号に基づいて信号の検出を行う。
【0021】
すなわち、本実施形態においては、リミッタ8を用いないレベル算出部7から出力される検知波形信号に基づいてピーク周波数を検出してQ値を算出するとともに、リミッタレベル算出部11から出力される検知波形信号のレベルが最小動作レベルを超えてから最大復旧レベルに下がるまでの信号を検出する。
【0022】
このとき、現波形信号のレベルが最小動作レベルを超えてから最大復旧レベルに下がるまでの検出時間をtとした場合に、本実施形態におけるリミッタレベル算出部11から出力される検知波形信号のレベルが最小動作レベルを超えてから最大復旧レベルに下がるまでの検出時間を、検出時間tとほぼ等しくすることができる。この検出時間は、図3に示すように、車上子2と地上子との距離が標準である210mmの場合における検出時間t1、210mmより短い場合における検出時間t2、210mmより長い場合における検出時間t3を現波形信号に対する検出時間tと比較すると、いずれの場合においても、現波形信号に対する検出時間tとほぼ等しくなることがわかる。
【0023】
このように検出時間を等しくすることができることから、図4に示すように、車上タイマ方式により速度照査を行った場合に、車上装置3の車上タイマにより、検知波形信号を入力してから、次の検知波形信号を入力するまでの時間をカウントしたときに、現波形信号に基づくカウント時間と検知波形信号に基づくカウント時間とがほぼ等しくなり、その結果、速度照査を適正に行うことが可能となる。
【0024】
以上述べたように、本実施形態においては、レベル算出部7から出力される検知波形信号に基づいてピーク周波数を検出してQ値を算出するとともに、リミッタレベル算出部11から出力される検知波形信号に基づいて信号の検出を行うようにしているので、検知波形信号の検知時間を現波形信号の検知時間とほぼ同じにすることができ、その結果、車上タイマ方式により速度照査を行った場合に、現波形信号に基づくカウント時間と検知波形信号に基づくカウント時間とがほぼ等しくなり、その結果、速度照査を適正に行うことができる。
【0025】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 列車
2 車上子
3 車上装置
4 FFT演算処理回路
5,9 ローパスフィルタ
6,10 dB変換回路
7 レベル算出部
8 リミッタ
11 リミッタレベル算出部
12 信号検出部
13 ピーク検出部
14 Q値算出部
15 レベル判定部
16 信号判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車に搭載される車上子を介して入力された検知波形信号のピークレベルを算出するレベル算出部と、
前記車上子を介して入力された検知波形信号のうちリミッタにより一定のリミッタレベル以上の検知波形信号をリミッタレベル以下の検知波形信号に変換するリミッタレベル算出部と、
前記レベル算出部から出力される検知波形信号に基づいてピーク周波数を検出してQ値を算出するとともに、前記リミッタレベル算出部から出力される検知波形信号および前記レベル算出部から出力される検知波形信号をそれぞれ入力して、所定のしきい値と比較することにより、前記検知波形信号のレベル判定を行い、前記Q値およびレベル判定結果から信号の検出を行う信号検出部と、
を備えていることを特徴とする列車制御用信号検出装置。
【請求項2】
列車に搭載される車上子を介して入力された検知波形信号のピークレベルを算出するレベル算出処理と、
前記車上子を介して入力された検知波形信号のうちリミッタにより一定のリミッタレベル以上の検知波形信号をリミッタレベル以下の検知波形信号に変換するリミッタレベル算出処理と、
前記レベル算出部から出力される検知波形信号に基づいてピーク周波数を検出してQ値を算出する処理と、
前記リミッタレベル算出処理による検知波形信号および前記レベル算出処理による検知波形信号をそれぞれ入力して、所定のしきい値と比較することにより、前記検知波形信号のレベル判定を行う処理と、
前記Q値およびレベル判定結果から信号の検出を行う信号検出処理と、
を備えていることを特徴とする列車制御用信号検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−55128(P2012−55128A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197506(P2010−197506)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】