説明

制御弁および燃料噴射弁

【課題】弁体39が第1、第2弁部材58、60に分割された制御弁1において、第2弁部材60が第1弁部材58に対し相対的に下降することから生じる不具合を抑制する。
【解決手段】制御弁1によれば、第2弁部材60の下側の下面68にカラー67が着座して配され、第2弁部材60が第1弁部材58に対して相対的に下降すると、第2弁部材60の上端面62が嵌合穴59の上底面61から離脱し、第2弁部材60の下端面69がカラー67の上面70に当接する。これにより、第2シート部53が第2弁座55に着座するまでに要する第2弁部材60の変位量は、カラー67を配さない場合よりもカラー67の厚さだけ短縮される。この結果、第2弁部材60が変位途中で上昇を停止する虞が低減されるので、制御弁1において、第2弁部材60が第1弁部材58に対し相対的に下降することから生じる不具合を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体流路を切り替える制御弁、およびこの制御弁を備える燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンに燃料を噴射供給する燃料噴射弁は、弁体により噴孔を開閉して燃料を噴射するノズルと、ノズルの弁体を駆動するための駆動力を発生する電磁アクチュエータとを備える。そして、例えば、ディーゼルエンジン用の燃料噴射弁のように高圧の燃料を噴射供給する燃料噴射弁では、ノズルと電磁アクチュエータとの間に制御弁が配されているものが公知となっている。
【0003】
この制御弁100は、例えば図8に示すように、燃料の流出入により圧力制御される制御室(図示せず)に通じる制御流路101、コモンレールのような燃料供給源(図示せず)に通じる供給流路102、および燃料タンクのような燃料戻り先(図示せず)に通じる戻り流路103の連通状態を切り替えるように配される。
【0004】
すなわち、制御弁100の弁体104は、第1弁座105に離着して制御流路101と戻り流路103との間を開閉する第1シート部106、第2弁座107に離着して制御流路101と供給流路102との間を開閉する第2シート部108を有し、上部に燃料圧が制御される制御弁背圧室109を形成する。また、制御弁背圧室109は、電磁アクチュエータ(図示せず)の動作に応じて燃料圧が増減される。そして、制御弁背圧室109の燃料圧の増減に応じて弁体104が上下に変位することで、制御流路101、供給流路102および戻り流路103の連通状態が切り替えられる。
【0005】
つまり、電磁アクチュエータが作動して制御弁背圧室109の燃料圧が低下すると、図8(a)に示すように、弁体104は上側に変位して第1シート部106が第1弁座105から離座するとともに第2シート部108が第2弁座107に着座する。この結果、制御流路101と戻り流路103とが連通するとともに制御流路101と供給流路102とが連通しなくなり、制御室から燃料戻り先に燃料が流出して制御室の燃料圧が低下する。そして、制御室の燃料圧が低下することでノズルが作動して燃料が噴射される。
【0006】
また、電磁アクチュエータが作動を停止して制御弁背圧室109の燃料圧が上昇すると、弁体104は下側に変位して第1シート部106が第1弁座105に着座するとともに第2シート部108が第2弁座107から離座する。この結果、制御流路101と戻り流路103とが連通しなくなるとともに制御流路101と供給流路102とが連通し、燃料供給源から制御室に燃料が流入して制御室の燃料圧が上昇する。そして、制御室の燃料圧が上昇することでノズルが作動を停止して燃料の噴射が停止される。
【0007】
ところで、従来の制御弁100には、第1、第2シート部106、108の加工を容易にするために、弁体104が、第1シート部106を有する第1弁部材111と、第2シート部108を有する第2弁部材112とに分けて設けられるものがある(例えば、特許文献1参照)。このような制御弁100によれば、第1弁部材111に下方に開口する嵌合穴113が設けられ、第2弁部材112は、嵌合穴113に下側から嵌挿されて第1弁部材111に保持される。
【0008】
このため、エンジンが停止して燃料供給源の燃料圧が低下すると、第2弁部材112が自重により第1弁部材111に対し相対的に下降し、第2弁部材112の上端面115が嵌合穴113の上底面116から離脱するとともに第2弁部材112の下端面117が下側の弁ボディに当接する。この結果、第2シート部108が第2弁座107に到達するまでの第2弁部材112の変位量が大幅に長くなってしまい、このような状態でエンジンが始動して電磁アクチュエータが作動しても、第2弁部材112は、変位途中で上昇できなくなる虞がある。
【0009】
そして、図8(b)に示すように、第2弁部材112が変位途中で上昇を停止すると、制御流路101と戻り流路103との間のみを連通させて制御室の燃料圧を低下させたい場合でも、制御流路101と供給流路102との間も連通して制御室に燃料が流入し制御室の燃料圧が低下しなくなる。この結果、図9に示すように、制御室から流出する燃料の圧力(燃料の戻り圧)が無用に高くなるとともに、燃料の噴射が全く行われなくなってしまう。
【特許文献1】特開2006−161568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、弁体が2つの弁部材に分割され一方の弁部材に他方の弁部材が下側から嵌挿されてなる制御弁において、他方の弁部材が一方の弁部材に対し相対的に下降することから生じる不具合を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
〔請求項1の手段〕
請求項1に記載の制御弁は、流体の流出入により圧力制御される制御室に通じる制御流路、流体の戻り先に通じる第1流路、および流体の供給源に通じる第2流路の連通状態を切り替えるものである。そして、この制御弁は、第1弁座から離座して制御流路と第1流路との間を開放し、第1弁座に着座して制御流路と第1流路との間を閉鎖する第1弁部材と、第1弁部材に下側から嵌挿されて第1弁部材に保持され、第1弁部材が第1弁座から離座したときに第2弁座に着座して制御流路と第2流路との間を閉鎖し、第1弁部材が第1弁座に着座したときに第2弁座から離座して制御流路と第2流路との間を開放する第2弁部材と、第2弁部材の下側の空間に配されるカラーとを備える。
【0012】
これにより、第2弁部材は、第1弁部材に対し相対的に下降すると、下側の弁ボディよりも上側にあるカラーに当接して下降を停止する。このため、第2弁部材が下降を停止した状態から上昇して第2弁座に着座するまでに要する変位量が、カラーを配さない場合よりも短くなる(以下、第2弁部材が第1弁部材に対する相対的な下降を停止した状態から上昇して第2弁座に着座するまでに要する変位量を「始動時必要変位量」と呼ぶ)。この結果、第2弁部材が変位途中で上昇を停止する虞が低減されるので、制御弁において、第2弁部材が第1弁部材に対し相対的に下降することから生じる不具合を抑制することができる。
【0013】
なお、始動時必要変位量を短縮する方法として、第2弁部材の下端と第2弁部材下側の弁ボディ面との間の隙間を、カラーを配さずに直接的に短縮する方法も考えられる(以下、第2弁部材の下端と第2弁部材下側の弁ボディ面との間の隙間を「初期隙間」と呼ぶ)。しかし、初期隙間を調整することは極めて困難であるため、始動時必要変位量を所定の目標値に調整することを考慮すると、初期隙間を直接的に短縮して始動時必要変位量を短縮する方法はコストが高くなる。
【0014】
これに対し、上記のようにカラーを配する方法によれば、厚さの異なる複数種のカラーを準備しておけば、初期隙間に応じてカラーの品種を変えることで始動時必要変位量を短縮できるとともに調整もできる。また、カラーの製作もプレス等を用いることで極めて簡便に実施できる。このため、カラーを配する方法を採用すれば、低コストで始動時必要変位量を短縮するとともに調整することができる。
【0015】
〔請求項2の手段〕
請求項2に記載の制御弁によれば、第1弁部材が第1弁座に着座するとともに第2弁部材が第2弁座から離座しているときに、第2弁部材とカラーとの間に隙間が形成される。
これにより、第1弁部材が第1弁座に確実に着座することができる。
【0016】
〔請求項3の手段〕
請求項3に記載の制御弁によれば、カラーは、隙間が所定の目標値に略一致するように、厚さの異なる複数種の中から選択されて第2弁部材の下側の空間に配される。
これにより、初期隙間が各々の制御弁で異なっても、確実に隙間を目標値に略一致させることができる。
【0017】
〔請求項4の手段〕
請求項4に記載の制御弁によれば、カラーは、第2弁部材と対向する上面に溝を有する。
これにより、第2弁部材が第1弁部材に対し相対的に下降してカラーに当接した状態でも、溝を介して制御流路と供給流路との連通を維持することができる。このため、制御室に流体を確実に流入させて制御室の圧力を上昇させることができる。
【0018】
〔請求項5の手段〕
請求項5に記載の燃料噴射弁は、請求項1ないし請求項3の内のいずれか1つに記載の制御弁を備え、制御弁の動作により流体としての燃料の噴射を開始または停止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
最良の形態1の制御弁は、流体の流出入により圧力制御される制御室に通じる制御流路、流体の戻り先に通じる第1流路、および流体の供給源に通じる第2流路の連通状態を切り替えるものである。そして、この制御弁は、第1弁座から離座して制御流路と第1流路との間を開放し、第1弁座に着座して制御流路と第1流路との間を閉鎖する第1弁部材と、第1弁部材に下側から嵌挿されて第1弁部材に保持され、第1弁部材が第1弁座から離座したときに第2弁座に着座して制御流路と第2流路との間を閉鎖し、第1弁部材が第1弁座に着座したときに第2弁座から離座して制御流路と第2流路との間を開放する第2弁部材と、第2弁部材の下側の空間に配されるカラーとを備える。
【0020】
また、この制御弁によれば、第1弁部材が第1弁座に着座するとともに第2弁部材が第2弁座から離座しているときに、第2弁部材とカラーとの間に隙間が形成される。また、カラーは、隙間が所定の目標値に略一致するように、厚さの異なる複数種の中から選択されて第2弁部材の下側の空間に配される。さらに、カラーは、第2弁部材と対向する上面に溝を有する。
そして、燃料噴射弁は、この制御弁を備え、制御弁の動作により流体としての燃料の噴射を開始または停止する。
【実施例1】
【0021】
〔実施例1の構成〕
実施例1の制御弁1の構成を、図面に基づいて説明する。
なお、制御弁1は、図1に示すように、ディーゼルエンジンのような直噴型のエンジン(図示せず)に高圧の燃料を噴射供給する燃料噴射弁2を構成するものである。そして、この燃料噴射弁2は、例えば、燃料タンク3の燃料を高圧化して吐出する燃料供給ポンプ4、燃料供給ポンプ4から吐出された高圧の燃料を高圧状態で蓄圧するとともに燃料噴射弁2に分配するコモンレール5等とともに、蓄圧式の燃料噴射装置6を構成する。
【0022】
また、燃料噴射弁2は、例えば、燃料を噴射するノズル9と、コモンレール5から受け入れた高圧の燃料をさらに増圧してノズル9に供給する増圧機構10と、ノズル9および増圧機構10を作動させるための駆動力を発生する電磁アクチュエータとしての電磁2方弁11とを備える。そして、制御弁1は、電磁2方弁11の動作に応じて駆動されるサーボ弁として機能し、電磁2方弁11が駆動力を発生することで作動し、ノズル9および増圧機構10は、制御弁1が作動することで、各々、燃料を噴射したり燃料を増圧したりする。
【0023】
ノズル9は、噴孔13を開閉するニードル状の弁体14を有する。また、ノズル9は、弁体14に対し閉弁方向に圧力を及ぼす燃料が流出入する背圧室(ノズル背圧室15とする)、開弁方向に圧力を及ぼす燃料が流出入するノズル室16を形成する。また、ノズル9は、弁体14を閉弁方向に付勢する復元バネ17をノズル背圧室15に収容する。つまり、弁体14は、ノズル背圧室15の燃料圧および復元バネ17により閉弁方向に付勢されるとともに、ノズル室16の燃料圧により開弁方向に付勢されている。
【0024】
また、ノズル室16は、燃料流路20により後記する被増圧室21と連通し、ノズル背圧室15は、燃料流路22により後記する制御弁室23と連通する。なお、被増圧室21は、増圧機構10において燃料圧が増圧される燃料室であり、制御弁室23は、制御弁1の弁部が収容される燃料室である。そして、燃料流路22には、ノズル背圧室15への燃料の流出入流量を規制する絞り24が設けられている。
【0025】
以上により、ノズル9では、増圧機構10により増圧された燃料が燃料流路20を通じてノズル室16に流入するとともに燃料流路22を通じてノズル背圧室15から制御弁室23に燃料が流出し、弁体14が上昇して噴孔13が開放されノズル室16の燃料が噴射される。また、増圧機構10からノズル室16に増圧された燃料が流入しなくなるとともに燃料流路22を通じて制御弁室23からノズル背圧室15に燃料が流入し、弁体14が下降して噴孔13が閉鎖され燃料の噴射が停止される。
【0026】
増圧機構10は、例えば、増圧媒体となる燃料が圧力を及ぼす増圧面27と、増圧される燃料に圧力を及ぼす被増圧面28とを有する増圧ピストン29を具備し、増圧面27と被増圧面28との面積比に応じて燃料を増圧するものである。
【0027】
すなわち、増圧ピストン29は、増圧媒体となる燃料が流出入する増圧室30を増圧面27により形成し、増圧される燃料が流出入する被増圧室21を被増圧面28により形成する。また、増圧機構10には、増圧ピストン29に対し被増圧室21の燃料圧を減圧する方向(つまり、後端側)に圧力を及ぼす燃料が流出入する増圧制御室31が形成され、さらに、増圧制御室31には、被増圧室21の燃料圧を減圧する方向に増圧ピストン29を付勢する復元バネ32が収容されている。
【0028】
また、増圧室30は、燃料流路35によりコモンレール5と連通し、燃料流路36により制御弁室23に連通するとともに、燃料流路37により後記する制御弁背圧室38に連通する。なお、制御弁背圧室38は、制御弁1の弁体39に背圧を及ぼす燃料が流出入する燃料室である。そして、燃料流路37には、制御弁背圧室38への燃料の流入を規制する絞り40が設けられている。
【0029】
また、被増圧室21は、燃料流路43により増圧制御室31と連通し、増圧制御室31は、燃料流路44により制御弁室23と連通する。そして、燃料流路43には、被増圧室21で増圧された燃料が増圧制御室31の方に逆流するのを阻止する逆止弁45が配されている。
【0030】
以上により、増圧機構10では、燃料流路44を通じて増圧制御室31から燃料が流出すると、増圧制御室31の圧力が低下して増圧ピストン29が先端側に変位するとともに、燃料流路35を通じてコモンレール5から増圧室30に燃料が流入する。これにより、被増圧室21の燃料が増圧され、増圧された燃料が燃料流路20を通じてノズル室16に流入するとともに、ノズル9の弁体14が開弁方向に変位して燃料の噴射が始まる。
【0031】
また、燃料流路44を通じて制御弁室23から増圧制御室31に燃料が流入すると、増圧制御室31の圧力が上昇して増圧ピストン29が後端側に変位するとともに、燃料流路36を通じて増圧室30の燃料が制御弁室23に流出する。これにより、被増圧室21の燃料が増圧されなくなり、ノズル室16には増圧された燃料が流入しなくなるとともに、ノズル9の弁体14が閉弁方向に変位して燃料の噴射が止まる。
【0032】
電磁2方弁11は、ソレノイドコイル(図示せず)への通電によりアーマチャ(図示せず)を駆動して流路を開放する周知構造を有する。そして、電磁2方弁11は、制御弁室23から燃料タンク3に燃料を戻す戻り流路47と制御弁背圧室38とを接続する燃料流路48に配されて、燃料流路48を開閉する。なお、燃料流路48には、制御弁背圧室38からの燃料の流出を規制する絞り49が設けられ、絞り49は、通過する燃料の流量が絞り40を通過する燃料の流量よりも多くなるように設けられている。
【0033】
そして、電磁2方弁11が作動して燃料流路48が開放されると、燃料流路48を通過する燃料の流量が燃料流路37を通過する燃料の流量よりも大きくなるので、制御弁背圧室38から戻り流路47に燃料が流出する。この結果、制御弁背圧室38の燃料圧が低下して制御弁1の弁体39が上側に変位する。また、電磁2方弁11が作動を停止して燃料流路48が閉鎖されると、制御弁背圧室38において、燃料流路48を通過する燃料の流出が停止され燃料流路37を通過する燃料の流入のみが続く。この結果、制御弁背圧室38の燃料圧が上昇して制御弁1の弁体39が下側に変位する。
【0034】
制御弁1は、燃料の流出入により圧力制御されるノズル背圧室15および増圧制御室31に通じる制御流路としての燃料流路22、44(以下、燃料流路22、44を制御流路22、44とする)、増圧室30および燃料流路35を介して燃料の供給源としてのコモンレール5に通じる燃料流路36(以下、燃料流路36を供給流路36とする)、および燃料の戻り先としての燃料タンク3に通じる戻り流路47の連通状態を切り替える。
【0035】
ここで、制御弁1の弁体39は、弁ボディに摺動自在に支持される摺動軸部51と、流路間の連通状態を切り替える弁部とを有し、摺動軸部51により制御弁室23と制御弁背圧室38とが区画される。また、弁部には、上下に2つのシート部が設けられている(上側、下側のシート部を、各々、第1、第2シート部52、53とする)。
【0036】
制御弁室23には、上から下に向かい順次に戻り流路47、制御流路22、44、供給流路36が接続して開口する。また、戻り流路47の開口部と制御流路22、44の開口部との間に第1シート部52が離着する第1弁座54が設けられ、制御流路22、44の開口部と供給流路36の開口部との間に第2シート部53が離着する第2弁座55が設けられている。そして、第1シート部52は、第2シート部53が第2弁座55から下方に離座しているときに第1弁座54に着座し、第2シート部53は、第1シート部52が第1弁座54から上方に離座しているときに第2弁座55に着座する。
【0037】
以上により、制御弁1では、電磁2方弁11が開弁し戻り流路47に制御弁背圧室38から燃料が流出すると、制御弁背圧室38の燃料圧が低下するので弁体39が上方に変位する。これにより、第1シート部52が第1弁座54から離座して制御流路22、44と戻り流路47とが連通し、第2シート部53が第2弁座55に着座して制御流路22、44と供給流路36とが連通しなくなる。
【0038】
この結果、増圧制御室31の燃料圧が低下して増圧ピストン29が先端側に変位し、被増圧室21の燃料が増圧されてノズル室16に供給される。同時に、ノズル背圧室15の燃料圧が低下してノズル9の弁体14が開弁方向に変位し、噴孔13が開放されて増圧された燃料が噴射される。
【0039】
また、電磁2方弁11が閉弁し戻り流路47に制御弁背圧室38から燃料が流出しなくなると、制御弁背圧室38の燃料圧が上昇するので弁体39が下方に変位する。これにより、第1シート部52が第1弁座54に着座して制御流路22、44と戻り流路47とが連通しなくなり、第2シート部53が第2弁座55から離座して制御流路22、44と供給流路36とが連通する。
【0040】
この結果、増圧制御室31の燃料圧が上昇して増圧ピストン29が後端側に変位し、被増圧室21の燃料が増圧されなくなる。同時に、ノズル背圧室15の燃料圧が上昇して弁体14が閉弁方向に変位し、噴孔13が閉鎖されて燃料の噴射が停止される。
【0041】
また、制御弁1の弁体39は、図2に示すように、主に上側を占める第1弁部材58と、第1弁部材58に設けられた嵌合穴59に下側から嵌挿される第2弁部材60とから構成される。
第1弁部材58は、第1シート部52および摺動軸部51を含むように設けられ、嵌合穴59は下方に開口するように設けられる。また、嵌合穴59の上底面61は、第2弁部材60の上端面62が当接するように設けられる。
【0042】
第2弁部材60は、第2シート部53を含むように設けられ、第2シート部53の上部は、嵌合穴59に嵌挿される嵌挿軸部65をなす。そして、第2弁部材60は、上端面62が上底面61に当接した状態で第1弁部材58に保持され、第1弁部材58と一体化している。
【0043】
そして、第1、第2弁部材58、60は、上端面62が上底面61に当接した状態で基本変位量だけ上下に変位することで、制御流路22、44と戻り流路47とが連通し制御流路22、44と供給流路36とが非連通である状態と、制御流路22、44と供給流路36とが連通し制御流路22、44と戻り流路47とが非連通である状態とを切り替える。
【0044】
また、第2弁部材60の下側の制御弁室23にはカラー67が配されている。カラー67は、円環板状に設けられ、供給流路36が開口する制御弁室23の下面68に着座するように配されて供給流路36の開口部を制御弁室23に対して開放する。そして、カラー67が下面68に着座することで、第2弁部材60の下端面69と下面68との間に形成される初期隙間とは別に、下端面69とカラー67の上面70との間に初期隙間よりも短い隙間が形成される(以下、下端面69と上面70との間に形成される隙間を「最終隙間」と呼ぶ)。
【0045】
なお、初期隙間および最終隙間は、第2弁部材60の上端面62が嵌合穴59の上底面61に当接し、かつ第1シート部52が第1弁座54に着座している状態で定義される。そして、初期隙間と最終隙間との差分は、カラー67の上下方向における厚さに相当する。また、カラー67は、厚さの異なる複数種のものが制御弁1の製造時に準備される。そして、最終隙間が所定の目標値に略一致するように、厚さの異なる複数種のカラー67の中から1または複数のカラー67が選択されて第2弁部材60の下側の空間に配される。
【0046】
また、カラー67の上面70には、図3に示すように、周方向に所定の幅を有してカラー67の内周側と外周側とに開放される溝72が180°間隔で設けられている。この溝72は、第2弁部材60の上端面62が嵌合穴59の上底面61から離脱して第2弁部材60の下端面69が上面70に当接したときでも(図4参照)、溝72を通過する燃料の流量が正規流量に略一致するように設けられる。
【0047】
ここで、正規流量とは、上端面62が上底面61に当接し、かつ第1シート部52が第1弁座54に着座している状態で(図2参照)、第2シート部53と第2弁座55との間を通過する燃料の流量である。また、上端面62の上底面61からの離脱は、例えば、エンジンが停止して供給流路36から制御弁室23に流入する燃料の圧力が低下し、第2弁部材60が自重により第1弁部材58に対して相対的に下降することで生じる。
【0048】
〔実施例1の効果〕
実施例1の制御弁1によれば、弁体39は、第1シート部52を有する第1弁部材58と第2シート部53を有する第2弁部材60とに分けて設けられ、第2弁部材60は、第1弁部材58の嵌合穴59に下側から嵌挿されて第1弁部材58に保持される。また、第2弁部材60の下側の下面68にはカラー67が着座して配され、第2弁部材60が自重により第1弁部材58に対して相対的に下降すると、第2弁部材60の上端面62が嵌合穴59の上底面61から離脱し、第2弁部材60の下端面69がカラー67の上面70に当接する。
【0049】
これにより、次回のエンジン始動時に第2シート部53が第2弁座55に着座するまでに要する第2弁部材60の変位量(以下、「始動時必要変位量」と呼ぶ)は、基本変位量+最終隙間となる(図4参照)。ここで、カラー67を配さない場合の始動時必要変位量は、基本変位量+初期隙間であり、カラー67を配する場合の始動時必要変位量(基本変位量+最終隙間)は、カラー67を配さない場合の始動時必要変位量よりも初期隙間と最終隙間との差分だけ(つまり、カラー67の厚さだけ)短縮される。
【0050】
この結果、次回のエンジン始動時に第2弁部材60が変位途中で上昇を停止する虞が低減されるので、制御弁1において、第2弁部材60が第1弁部材58に対し相対的に下降することから生じる不具合を抑制することができる。なお、始動時必要変位量を短縮する方法として、カラー67を配さずに初期隙間を直接的に短縮する方法も考えられる。しかし、初期隙間を調整することは極めて困難であるため、始動時必要変位量を所定の目標値に調整することを考慮すると、初期隙間を直接的に短縮して始動時必要変位量を短縮する方法はコストが高くなる。
【0051】
これに対し、上記のようにカラー67を配する方法によれば、厚さの異なる複数種のカラー67を準備しておけば、初期隙間に応じてカラー67の品種を変えることで始動時必要変位量を短縮することができるとともに調整することもできる。また、カラー67の製作もプレス等を用いることで極めて簡便に実施できる。このため、カラー67を配する方法を採用すれば、低コストで始動時必要変位量を短縮することができるとともに調整することができる。
【0052】
また、最終隙間が正の数値として形成されるように第1、第2弁部材58、60が設けられてカラー67が配されるので、第1弁部材58は、確実に第1弁座54に着座することができる。
【0053】
また、カラー67は厚さの異なる複数種のものが制御弁1の製造時に準備され、最終隙間が所定の目標値に略一致するように、厚さの異なる複数種のカラー67の中から1または複数のカラー67が選択されて第2弁部材60の下側の空間に配される。
これにより、初期隙間が各々の制御弁1で異なっても、確実に最終隙間を目標値に略一致させることができる。
【0054】
また、カラー67の上面70には、カラー67の内周側と外周側とに開放される溝72が設けられている。
これにより、第2弁部材60の下端面69が上面70に当接した状態でも、燃料は、溝72を介して供給流路36から制御弁室23に流入し、さらに制御弁室23から制御流路22、44に流入することができる。このため、ノズル背圧室15および増圧制御室31に燃料を確実に流入させてノズル背圧室15および増圧制御室31の燃料圧を上昇させることができる。
【0055】
〔変形例〕
実施例1の制御弁1が組み込まれる燃料噴射弁2は、増圧機構10を備えてコモンレール5から受け入れた高圧の燃料をさらに増圧して噴射するものであったが、増圧機構10を備えずコモンレール5における燃料圧と同等の圧力で燃料を噴射する燃料噴射弁に制御弁1を組み込んでもよい。
【0056】
また、実施例1の制御弁1によれば、カラー67の溝72は、180°間隔で設けられていたが(図3参照)、図5に示すように90°間隔で溝72を設けてもよく、図6に示すように90°間隔で隆起部74を設けて隆起部74以外の角度方向を全て溝72としてもよく、さらに、図7に示すように隆起部74の径方向長さを短縮してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】燃料噴射装置の構成および燃料噴射弁の構成を示す構成図である(実施例1)。
【図2】エンジン作動時の制御弁の要部を示す説明図である(実施例1)。
【図3】(a)はカラーの平面図であり、(b)は(a)のA−A断面図である(実施例1)。
【図4】エンジン停止時の制御弁の要部を示す説明図である(実施例1)。
【図5】(a)はカラーの平面図であり、(b)は(a)のB−B断面図である(変形例)。
【図6】(a)はカラーの平面図であり、(b)は(a)のC−C断面図である(変形例)。
【図7】(a)はカラーの平面図であり、(b)は(a)のD−D断面図である(変形例)。
【図8】(a)は第2弁部材が正常に第2弁座に着座している正常時の制御弁を示す説明図であり、(b)は第2弁部材が正常に第2弁座に着座していない異常時の制御弁を示す説明図である(従来例)。
【図9】(a)は燃料噴射弁の動作に関する主要なパラメータの正常時の推移を示すタイムチャートであり、(b)は燃料噴射弁の動作に関する主要なパラメータの異常時の推移を示すタイムチャートである(従来例)。
【符号の説明】
【0058】
1 制御弁
2 燃料噴射弁
3 燃料タンク(戻り先)
5 コモンレール(供給源)
15 ノズル背圧室(制御室)
22 燃料流路、制御流路
31 増圧制御室(制御室)
36 燃料流路、供給流路(第2流路)
44 燃料流路、制御流路
47 戻り流路(第1流路)
54 第1弁座
55 第2弁座
58 第1弁部材
60 第2弁部材
67 カラー
70 上面
72 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流出入により圧力制御される制御室に通じる制御流路、流体の戻り先に通じる第1流路、および流体の供給源に通じる第2流路の連通状態を切り替える制御弁において、
第1弁座から離座して前記制御流路と前記第1流路との間を開放し、前記第1弁座に着座して前記制御流路と前記第1流路との間を閉鎖する第1弁部材と、
この第1弁部材に下側から嵌挿されて前記第1弁部材に保持され、前記第1弁部材が前記第1弁座から離座したときに第2弁座に着座して前記制御流路と前記第2流路との間を閉鎖し、前記第1弁部材が前記第1弁座に着座したときに前記第2弁座から離座して前記制御流路と前記第2流路との間を開放する第2弁部材と、
この第2弁部材の下側の空間に配されるカラーとを備える制御弁。
【請求項2】
請求項1に記載の制御弁において、
前記第1弁部材が前記第1弁座に着座するとともに前記第2弁部材が前記第2弁座から離座しているときに、前記第2弁部材と前記カラーとの間に隙間が形成されることを特徴とする制御弁。
【請求項3】
請求項2に記載の制御弁において、
前記カラーは、前記隙間が所定の目標値に略一致するように、厚さの異なる複数種の中から選択されて前記第2弁部材の下側の空間に配されることを特徴とする制御弁。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の内のいずれか1つに記載の制御弁において、
前記カラーは、前記第2弁部材と対向する上面に溝を有することを特徴とする制御弁。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の内のいずれか1つに記載の制御弁を備え、
前記制御弁の動作により流体としての燃料の噴射を開始または停止する燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−286018(P2008−286018A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129473(P2007−129473)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】