説明

制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造方法

【課題】 製造が容易であり、電槽隔壁4と溶接用突起16との隙間から希硫酸電解液の這い上がりを防止できる制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造方法を提供する。
【解決手段】 希硫酸22にシリカ微粉末25を添加し、プラネタリ式攪拌機27を用いて攪拌してゲル電解液20を製造する。このゲル電解液20を秤量した後に、ローラ式のポンプ29bを用い、安全弁筒27にチューブ31を差し込んで鉛蓄電池21の極板群12の上部に充填する。ここで、鉛蓄電池21の安全弁筒27には、切り欠き部19を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
制御弁式モノブロック型鉛蓄電池は、複数の極板群が直列に接続された構造をしている。そして、通常12V又は24Vの高い電圧を得ることができるという特徴を有するために、自動車用バッテリをはじめとして、電気自動車や無停電電源装置などの用途においても幅広く採用されている。
【0003】
従来のモノブロック式の鉛蓄電池は、図3〜図5に示すようにして製造されていた。すなわち、ペースト式の正極板1及び負極板2を用い、セパレータ3を介して積層をした後に、それら電極板の耳部を溶接して、溶接用突起16を有する正極ストラップ9、負極ストラップ6等を形成した極板群12を作製する。そして、電槽13に極板群12を挿入した後に、隣接する溶接用突起16どうしを抵抗溶接によって直列接続をし、図示されていない中蓋や上蓋を付けて密封するものである。
【0004】
なお、上記したように抵抗溶接による方式は、電槽隔壁4の上部に貫通孔10を設けておき、該貫通孔10を挟んで溶接用突起16を近接させて加圧し、抵抗溶接にて抵抗溶接部14(図5)を形成してセル間を接続する方法であるために、いわゆるオーバーブリッジ接続方式に比べて製造コストが安価であり、かつ製造タクトを短くできることや、鉛蓄電池の内部抵抗も小さくできるという利点がある。
【0005】
しかしながら、上述した抵抗溶接方式を用いると、電槽隔壁4と溶接用突起16との隙間から希硫酸電解液が這い上がり、時間の経過とともに抵抗溶接部14の付近で腐食し、最終的には、この部分で切断される場合も認められている。なお、抵抗溶接部14の正極側では酸化により、負極側では硫酸鉛化による腐食が認められている。
【0006】
そこで、溶接用突起16にあらかじめ樹脂封口用の溝を掘っておき、該樹脂封口用の溝に耐酸性の樹脂を埋めてシールして、希硫酸電解液の這い上がりを防止する方式の検討がされている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
また、負極ストラップ6の部分は、硫酸鉛化による腐食を生じることが知られている。そこで、負極ストラップ6の部分を希硫酸にシリカ微粉末を添加してゲル化したゲル電解液で被覆する検討がされている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
【特許文献1】特開2001−266833号公報
【特許文献2】特開2001−273882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されているような方法では、溶接条件等によって溶接用突起16と電槽隔壁4と隙間にバラツキが生じる。その結果、硬化する前の一部の耐酸性樹脂が、溶接用突起16の樹脂封口用の溝から染み出して、下方の極板群12に付着するという問題点が認められている。一方、使用する耐酸性樹脂の粘度を高くすると、流れにくくなるために、溶接用突起16の樹脂封口用の溝に充填しにくくなるという問題点も認められている。
【0010】
また、上述した特許文献2に記載されているような方法では、正極ストラップ9の腐食を防止できないという問題点や、時間の経過とともに、一旦はゲル化したゲル電解液が流動化して下方に流れ出し、その効果が失われるという問題点が認められている。加えて、希硫酸にシリカ微粉末を添加してゲル化したゲル電解液は、チキソ性が高いために、ゲル電解液の製造が困難であるという問題点や、ゲル電解液の鉛蓄電池21への充填が難しいという製造上の問題点が認められている。
【0011】
本発明の目的は、前記した課題を解決するものであり、製造が容易であるとともに、電槽隔壁4と溶接用突起16との隙間から希硫酸電解液が這い上がりを防止することができる制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するために、本発明では、制御弁式モノブロック型鉛蓄電池に電解液を注液して電槽化成をした後に、ゲル電解液を極板群の上部に充填して製造することを特徴とするものである。
【0013】
すなわち、請求項1の発明は、電槽に極板群を挿入し、該極板群の溶接用突起を抵抗溶接し、安全弁筒から電解液を注液し、電槽化成をし、ゲル電解液を充填して製造する制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造方法において、
前記ゲル電解液は、攪拌して製造し、秤量後、ポンプを用いて、前記安全弁筒から前記極板群の上部に充填することを特徴とするものである。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ゲル電解液は、希硫酸にシリカ微粉末を添加し、プラネタリ式攪拌機を用いて攪拌して製造することを特徴とするものである。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記ポンプは、ローラ式ポンプであることを特徴とするものである。
【0016】
請求項4の発明は、請求項1、請求項2又は請求項3に記載の発明において、前記安全弁筒には、切り欠き部を設けることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明を用いると、希硫酸電解液の這い上がりを防止することができるために、長寿命で信頼性の高い制御弁式モノブロック型鉛蓄電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下において、本発明の実施をするための最良の形態について、図1〜図5を用いて詳細に説明する。
1.制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造及び電槽化成
まず図3に示すように、最初にペースト式の正極板1と負極板2をセパレータ3を介して積層をした後に、それぞれの耳部をバーナ溶接して正極ストラップ9、負極ストラップ6、溶接用突起16等を有する極板群12を製造する。
【0019】
ポリフェニルエチレン樹脂を成形して5枚の電槽隔壁4を有する電槽13を製造し、電槽隔壁4の上部にはあらかじめパンチングによって貫通孔10をあけておく(図3)。次に、上述した極板群12を電槽13に挿入し、電槽隔壁4を介して隣接する極板群12のストラップに形成した溶接用突起16の抵抗溶接面17を対向させる(図4)。
【0020】
そして、対向する抵抗溶接面17どうしを加圧し、接触させた状態で、この部分に大電流を流して抵抗加熱して溶接し、抵抗溶接部14を形成して極板群12を電気的に直列に接続する(図5)。なお、正極ストラップ9、負極ストラップ6、溶接用突起16は、それぞれ鉛合金製である。
【0021】
その後、電槽13の上部に中蓋32を接着して固定し、安全弁筒17から希硫酸電解液を注液し、従来からの手法で充電をして電槽化成をする。
2.ゲル電解液の製造及び制御弁式モノブロック型鉛蓄電池への充填
ゲル電解液20の製造及び鉛蓄電池21への充填方法について、図1及び図2を用いて説明する。本発明に係わる制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造方法では、図1に示すように、ゲル電解液を攪拌して製造するための(a)ゲル電解液製造部、製造したゲル電解液を秤量するための(b)秤量部、秤量したゲル電解液をモノブロック式の鉛蓄電池に充填するための(c)充填部の3つの製造工程で構成されている。
(a)ゲル電解液製造部
ステンレス製の容器35に、あらかじめ比重が1.30の希硫酸22を入れておき、プラネタリ式攪拌機27で攪拌をしながら、少しずつシリカ微粉末25(商品名:アエロジル、日本アエロジル社製)を加えていく。本実施例では、希硫酸22の質量に対して、シリカ微粉末25を6質量%加えてゲル電解液20を製造した(図1(a))。
【0022】
ここで、プラネタリ式攪拌機27は、図示しているように攪拌羽根28が自転と公転とをしながらゲル電解液20を攪拌することができるために、攪拌されない領域(いわゆる、デッド・ゾーン。)をきわめて少なくすることができる。したがって、プロペラ式攪拌機(図なし。)に比べて攪拌力が高く、シリカ部粉末25の含有量(質量%)を多くすることができ、その結果、粘度の高いゲル電解液20でも、安定した状態で製造することができる(図1(a))。
(b)秤量部
ゲル電解液製造装置34で製造したゲル電解液20は、ポンプ29aで秤量部に送られて充填する鉛蓄電池21の公称容量や使用の目的等に応じて秤量をする(図1(b))。このように鉛蓄電池21ごとに、充填するゲル電解液20の質量を正確に秤量しているために、信頼性が高く、バラツキの少ない鉛蓄電池21を製造することができる。
【0023】
なお、ゲル電解液20を搬送するポンプ29aとして、回転するローラによってチューブ31を圧縮する方式のローラ式ポンプ(7518−10型、コール・パーマー社製)を用いた。なお、ローラ式ポンプを用いると、インペラ方式のポンプに比べて、粘度の高いゲル電解液20でも安定した量の搬送が短時間で可能になることや、搬送中にチューブ31内でゲル電解液20が固化しにくく、その内部に詰まりにくいという特徴がある。
(c)充填部
秤量されたゲル電解液20は、上述したローラ式ポンプ(7518−10型、コール・パーマー社製)を用いて、鉛蓄電池21の安全弁筒17の部分から、極板群12の上部に充填するようにした(図1(c)、図2)。ここで、安全弁筒17には、あらかじめ中央に穴を有する冶具36を被せておき、その穴の部分にチューブ31を差し込むようにしてゲル電解液20を充填するようにした。
【0024】
ここで、冶具36を用いることによって、チューブ31が安全弁筒17から簡単に外れるようなこともない。なお、安全弁筒17の上部には、切り欠き部19を設けることにより(図2)、ゲル電解液20の充填に伴って、鉛蓄電池21の内部の空気37との置換が容易に進むようにした。
【0025】
ゲル電解液20を充填した後に、安全弁筒17から冶具36及びチューブ31を抜き(図1)、安全弁筒17に上方からキャップ形の安全弁18を被せ、中蓋32の上部に上蓋33を挿入して本発明に係わる制御弁式モノブロック型鉛蓄電池が完成する(図2)。
【0026】
本発明に係わる制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造方法を用いると、粘度の高いゲル電解液20を製造することができるとともに、短時間で安定して鉛蓄電池21の内部に一定の質量を充填することができる。したがって、作業性に優れた制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造方法を提供することができる。
【0027】
加えて、粘度の高いゲル電解液20を鉛蓄電池21の内部に充填しているために、充填後は、しっかりと極板群12の上部に固定される。目視による観察ではあるが、電槽隔壁4と溶接用突起16との隙間からの希硫酸電解液の這い上がりを防止することができた。したがって、抵抗溶接部14の付近の腐食を防止することができるために、長寿命で信頼性の高い制御弁式モノブロック型鉛蓄電池を提供することができる。また、大電流で放電されて、発熱するような場合でも、ゲル電解液20が充填されているために熱容量を大きくすることができ、電池温度の上昇を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造方法に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明品に係わる制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造方法の概略図である。
【図2】本発明品に係わる制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の断面概略図である。
【図3】極板群の挿入工程の概略図である。
【図4】抵抗溶接方式を用いる制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の要部概略図である。
【図5】抵抗溶接部の断面概略図である。
【符号の説明】
【0030】
1:正極板、2:負極板、3:セパレータ、4:電槽隔壁、5:負極耳部、
6:負極ストラップ、8:正極耳部、9:正極ストラップ、10:貫通孔、
11:負極端子用極柱、12:極板群、13:電槽、14:抵抗溶接部、
16:溶接用突起、17:安全弁筒、18:安全弁、19:切り欠き部、
20:ゲル電解液、21:鉛蓄電池、22:希硫酸、23:希硫酸タンク、24:バルブ、
25:シリカ微粉末、26a,b:モータ、27:プラネタリ式攪拌機、28:攪拌羽根、
29a,b:ポンプ、30:質量計、31:チューブ、32:中蓋、33:上蓋、
34:ゲル電解液製造装置、35:容器、36:冶具、37:空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電槽に極板群を挿入し、該極板群の溶接用突起を抵抗溶接し、安全弁筒から電解液を注液し、電槽化成をし、ゲル電解液を充填して製造する制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造方法において、
前記ゲル電解液は、攪拌して製造し、秤量後、ポンプを用いて、前記安全弁筒から前記極板群の上部に充填することを特徴とする制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造方法。
【請求項2】
前記ゲル電解液は、希硫酸にシリカ微粉末を添加し、プラネタリ式攪拌機を用いて攪拌して製造することを特徴とする請求項1記載の制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造方法。
【請求項3】
前記ポンプは、ローラ式ポンプであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造方法。
【請求項4】
前記安全弁筒には、切り欠き部を設けることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の制御弁式モノブロック型鉛蓄電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−123351(P2010−123351A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294865(P2008−294865)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】