説明

制振ガスケット

【課題】コイル形状部を有する制振構造部材とゴムなどのエラストマーが充填されて形成されるエラストマー充填部とを有する制振ガスケットであって、エラストマー充填部の塑性変形に起因してもたらされるシール性能及び制振性能の低下がなく、且つ、複数の別個のコイルスプリングを配置したときに得られるような制振性能を、より確実にもたらすことを可能とする制振ガスケットを提供すること。
【解決手段】本発明の燃料インジェクタ用制振ガスケットは、中心軸線が異なる複数のコイル形状部を有する制振構造部材と、制振構造部材を囲む所定の空間内にエラストマーが充填されて形成されるエラストマー充填部とを具備し、複数のコイル形状部は、燃料インジェクタによる燃料噴射の際に制振ガスケットに付される荷重を、エラストマー充填部を介することなく直接的に受けるように形成され、且つ、複数のコイル形状部は一続きに一体的に形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振ガスケットすなわち制振機能を有するガスケットに関し、特に、コイル形状部を有する制振構造部材とゴムなどのエラストマーが充填されて形成されるエラストマー充填部とを有する制振ガスケットであって内燃機関の燃料インジェクタ用制振ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃料インジェクタは、内燃機関の燃焼室あるいは吸気ポートに配設され、高圧の燃料を燃焼室内あるいは吸気ポート内に噴射するものである。このような燃料インジェクタに使用されるガスケットについては、高い燃料噴射圧に抗してシール性を確保できることを前提として、高い制振性能が要求される。
【0003】
すなわち、燃料インジェクタによる燃料噴射は高圧噴射のための高速作動によって不可避的な衝撃振動を生じ、これが運転者および周囲の環境にとって騒音となる場合がある。この騒音発生を防止するために、高いシール性能ともに制振性能を有する制振ガスケットの要望がある。
【0004】
このような要望を満たしうる制振ガスケットの一実施形態として、コイルスプリングなどのバネ構造部材とゴムなどのエラストマーからなるエラストマー部とにより構成されるガスケットが知られている。例えば、特許文献1においては、金属コイルスプリングを内層材として有し、該金属コイルスプリングの周囲にエラストマー部を外層材として配設する複合Oリングが開示されている。
【0005】
【特許文献1】実開昭63−119965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような複合Oリングにおいては、該複合Oリングに圧縮荷重が付されると、まず外層材となるエラストマー部に圧縮荷重が作用しエラストマー部の弾性変形が始まり、これに追従して金属コイルスプリングの弾性変形がもたされることなる。従って、繰り返し行われる燃料噴射に起因してもたらされる繰り返し荷重を受けることになる燃料インジェクタ用ガスケットに上記のような複合Oリングを適用した場合、外層材となるエラストマー部が上記繰り返し荷重を直接的に受けることになるが故に、エラストマー部が塑性域に達する変形すなわち塑性変形をおこしてしまう可能性がある。
【0007】
そして、エラストマー部が塑性変形すると、該エラストマー部は元の状態に復元することができず、結果的にシール機能が低下する。また、塑性変形がもたらされたエラストマー部は硬化してしまい、該エラストマー部によるシール効果や制振効果が十分に得られなくなるという問題がある。
【0008】
このような問題を解決する制振ガスケットの一実施形態として、使用の際に制振ガスケットに付される荷重方向と直角をなす横断方向の径が異なり且つ荷重方向となる縦断方向の高さが等しい複数の別個の環状のコイルスプリングが上記横断方向に並置され、該環状のコイルスプリングの上記縦断方向における頂面と底面との間の空間にエラストマーが充填されて形成される制振ガスケットが考えられる。
【0009】
このような制振ガスケットによれば、繰り返し行われる燃料噴射に起因してもたらされる繰り返し荷重を受けることになる燃料インジェクタ用ガスケットとして適用された場合においても、上記繰り返し荷重は環状のコイルスプリングに直接的に作用することになり、エラストマーが塑性変形をおこしてしまう可能性を低減することができる。更に、複数の環状のコイルスプリングにより荷重を受けることができ、環状のコイルスプリングが一つのみで構成されるガスケットを比較して、制振性能の向上を図ることが可能となる。
【0010】
しかしながら、複数の別個の環状のコイルスプリングを上記横断方向に並置する場合、各環状のコイルスプリングは上記横断方向においてそれぞれが独立して自由に動けるが故に、荷重を受けた際に各環状のコイルスプリングの相対的な配置にズレが生じ、このことに起因して所望の制振機能を発揮させることができない場合がありうる。
【0011】
このような問題を防止する一手段として、上記横断方向において最も外側に配設される環状のコイルスプリングに当接するあるいは隣接する外周壁部と、上記横断方向において最も内側に配設される環状のコイルスプリングに当接するあるいは隣接する内周壁部とを配設することにより、荷重を受けた際における各環状のコイルスプリングの自由な独立した動きを拘束し、各環状のコイルスプリングの相対的な配置のズレを防止することが考えられる。しかしながら、このような手段においては、上記外周壁部及び上記内周壁部が、荷重を受けた際の環状のコイルスプリングの弾性変形を阻害し、所望の制振機能を発揮させることができない場合がありうる。
【0012】
上記課題に鑑み本発明においては、コイル形状部を有する制振構造部材とゴムなどのエラストマーが充填されて形成されるエラストマー充填部とを有する制振ガスケットであって、エラストマー充填部の塑性変形に起因してもたらされるシール性能及び制振性能の低下がなく、且つ、複数の別個のコイルスプリングを配置したときに得られるような制振性能を、より確実にもたらすことを可能とする制振ガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、内燃機関の燃料インジェクタ用制振ガスケットにおいて、中心軸線が異なる複数のコイル形状部を有する制振構造部材と、前記制振構造部材を囲む所定の空間内にエラストマーが充填されて形成されるエラストマー充填部とを具備し、前記複数のコイル形状部は、前記燃料インジェクタによる燃料噴射の際に前記制振ガスケットに付される荷重を、前記エラストマー充填部を介することなく直接的に受けるように形成され、且つ、前記複数のコイル形状部は一続きに一体的に形成される、ことを特徴とする制振ガスケットが提供される。
【0014】
すなわち請求項1の発明においては、制振構造部材が、中心軸線の異なる複数のコイル形状部であって、燃料インジェクタによる燃料噴射の際に制振ガスケットに付される荷重をエラストマー充填部を介さずに直接的に受ける複数のコイル形状部を有する。これにより、燃料インジェクタによる燃料噴射の際に制振ガスケットに付される荷重を、エラストマー充填部を介さずに複数のコイル形状部に直接的に作用させることができ、エラストマー充填部の塑性変形に起因してもたらされるシール性能及び制振性能の低下を抑制することが可能となる。
【0015】
また、制振構造部材の複数のコイル形状部は一続きに一体的に形成されるため、荷重を受けた際に各コイル形状部はそれぞれが独立して自由に動くことはなく、すなわち各コイル形状部の相対的な配置のズレは生じることはなく、また、各コイル形状部は相互に依存して変形する。これにより、各コイル形状部の相対的な配置のズレを防止する特別な手段を必要とすることなく、各コイル形状部は所定の相対的な配置にて荷重を受けることができ、また、各コイル形状部を相互に依存させて変形させることができ、より確実に所望の制振性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、中心軸線の異なる前記複数のコイル形状部は、単一の線状材を交互に反転させて巻く加工により形成される、ことを特徴とする請求項1に記載の制振ガスケットが提供される。
【0017】
すなわち請求項2に記載の発明においては、複数のコイル形状部を、単一の線状材を交互に反転させて巻く加工により形成することで、制振構造部材の製造容易性の向上を図ることを可能とする。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、前記制振構造部材は、前記線状材を1.5巻きすることにより形成される前記コイル形状部を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の制振ガスケットが提供される。
【0019】
すなわち請求項3に記載の発明においては、制振構造部材は、線状材を1.5巻きすることにより形成されるコイル形状部を有する。線状材を1.5巻きすることによりコイル形状部が形成される場合、各コイル形状部の連結部を荷重方向に対して直角をなすように形成することができ、荷重方向と直角をなす横断方向における各コイル形状部の強い連結力をもたらすことが可能となる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、前記制振構造部材は、前記線状材の巻き数が異なる前記コイル形状部を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の制振ガスケットが提供される。
【0021】
すなわち請求項4に記載の発明においては、制振構造部材は、異なる線状の巻き数で形成されるコイル形状部を有する。例えば、制振構造部材を環状に形成する場合、外側のコイル形状部を、内側のコイル形状部よりも多い巻き数で形成することにより、すべてのコイル形状部が同じ巻き数で形成される場合と比較して、制振構造部材が荷重を受ける際に、より多くのコイル形状部で荷重を受けることができるため、制振性能の向上を図ることが可能となる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、前記制振ガスケットは、複数の前記制振構造部材を有し、前記各制振構造部材は、一つの制振構造部材のコイル形状部がない空間を別の制振構造部材のコイル形状部が埋めるように配設される、ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の制振ガスケットが提供される。
【0023】
すなわち請求項5に記載の発明においては、制振ガスケットは複数の制振構造部材を有し、各制振構造部材は、一つの制振構造部材のコイル形状部がない空間を別の制振構造部材のコイル形状部が埋めるように配設されるため、制振構造部材が荷重を受ける際に、より多くのコイル形状部で荷重を受けることができるため、制振性能の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
各請求項に記載の発明によれば、コイル形状部を有する制振構造部材とゴムなどのエラストマーが充填されて形成されるエラストマー充填部とを有する制振ガスケットにおいて、エラストマー充填部の塑性変形に起因してもたらされるシール性能及び制振性能の低下がなく、且つ、複数の別個のコイルスプリングを配置したときに得られるような制振性能を、より確実にもたらすことが可能となる、共通の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の制振ガスケットの幾つかの実施形態について図面を参照して説明する。
本発明の燃料インジェクタ用制振ガスケットは、中心軸線が異なる複数のコイル形状部を有する制振構造部材と、該制振構造部材を囲む所定の空間内にエラストマーが充填されて形成されるエラストマー充填部とを具備し、複数のコイル形状部は、燃料インジェクタによる燃料噴射の際に制振ガスケットに付される荷重を、エラストマー充填部を介さずに直接的に受けるように形成され、且つ、複数のコイル形状部は一続きに一体的に形成される制振ガスケットである。
【0026】
図1は、本発明の制振ガスケットにおける、特に、制振構造部材の第一の実施形態の概略斜視図である。図1において、1は第一の制振構造部材、2は第一のコイル形状部、3は第二のコイル形状部、4は第一の中心軸線、5は第二の中心軸線、6は第一の中心軸線4と第二の中心軸線5との間の距離、をそれぞれ示す。
【0027】
図1から理解されるごとく、制振構造部材1は、単一の線状材を交互に反転させて巻く加工により形成され、第一の中心軸線4を有する第一のコイル形状部2と、第二の中心軸線5を有する第二のコイル形状部3とを有する。また、図1に示される制振構造部材1は、環状に形成される。尚、制振構造部材1の形態は、これらに限定されることはなく、例えば、制振構造部材1が、更にもう一つの別の中心軸線を有するコイル形状部を有するように形成されてもよく、また、多角形状に形成されてもよい。
【0028】
このような第一の制振構造部材1においては、第一の中心軸線4と第二の中心軸線5との間の距離6を変更することにより、第一のコイル形状部2と第二のコイル形状部3と連結する部分の線状材の荷重方向に対する角度を調整することができ、これにより制振構造部材1に付される荷重に対する制振構造部材1の反力を調整することを可能とする。よって、第一の中心軸線4と第二の中心軸線5との間の距離6は設計仕様に基づいて適当に決定される。
【0029】
図2は、本発明の制振ガスケットにおける、特に、制振構造部材の第二の実施形態の上面図及び側面図である。図2において、11は第二の制振構造部材、12は第三のコイル形状部、13は第四のコイル形状部、14は第三の中心軸線、15は第四の中心軸線、16は第三のコイル形状部12と第四のコイル形状13との連結部、をそれぞれ示す。
【0030】
図2から理解されるごとく、制振構造部材11は、単一の線状材を交互に反転させて巻く加工により形成され、第三の中心軸線14を有する第三のコイル形状部12と、第四の中心軸線15を有する第四のコイル形状部13とを有する。そして、第三のコイル形状部12及び第四のコイル形状部13のそれぞれは、線状材を1.5(すなわち、1回転半)巻きすることにより形成される。また、図2に示される制振構造部材11は、環状に形成される。尚、制振構造部材11の形態は、これらに限定されることはなく、例えば、制振構造部材1が、多角形状に形成されてもよい。
【0031】
このような第二の制振構造部材11においては、第三のコイル形状部12と第四のコイル形状13との連結部16は、荷重方向に対して直角をなして形成される。そのため、第三のコイル形状部12と第四のコイル形状13との、荷重方向と直角をなす横断方向における強い連結力をもたらすことが可能となる。
【0032】
図3は、本発明の制振ガスケットにおける、特に、制振構造部材の第三の実施形態の上面図である。図3において、21は第三の制振構造部材、22は第五のコイル形状部、23は第六のコイル形状部、24は第五の中心軸線、25は第六の中心軸線、をそれぞれ示す。
【0033】
図3から理解されるごとく、第三の制振構造部材21は、単一の線状材を交互に反転させて巻く加工により形成され、第五の中心軸線24を有する第五のコイル形状部22と、第六の中心軸線25を有する第六のコイル形状部23とを有する。そして、第五のコイル形状部22は、線状材を2.5(すなわち、2回転半)巻きすることにより形成され、第六のコイル形状部23は、線状材を1.5(すなわち、1回転半)巻きすることにより形成されている。すなわち、図3に示される第三の制振構造部材21は、線状材の巻き数が異なるコイル形状を有して形成される。また、第三の制振構造部材21は、図2に示された第二の制振構造部材11と同様に、第五のコイル形状部22と第六のコイル形状23との連結部は、荷重方向に対して直角をなして形成される。そのため、第五のコイル形状部22と第六のコイル形状23との、荷重方向と直角をなす横断方向における強い連結力をもたらすことが可能となる。
【0034】
図4は、本発明の制振ガスケットにおける、特に、制振構造部材の第四の実施形態の上面図であって該制振構造部材の構成を説明するための図である。図4において、31は第四の制振構造部材、32は第五の制振構造部材、33は第七のコイル形状部、34は第八のコイル形状部、35は第七の中心軸線、36は第八の中心軸線、をそれぞれ示す。
【0035】
図4から理解されるごとく、図4に示される制振構造部材は、単一の線状材を交互に反転させて巻く加工により形成される第四の制振構造部材31及び第五の制振構造部材32の2つの制振構造部材が組み合わされて形成される。そして、各制振構造部材は、一つの制振構造部材のコイル形状部がない空間を別の制振構造部材のコイル形状部が埋めるように配設される。具体的には、第四の制振構造部材31のコイル形状部がない空間を第五制振構造部材32のコイル形状部が埋めるごとく配設される。また、図4に示される各制振構造部材は、環状に形成される。尚、該制振構造部材の形態は、これらに限定されることはなく、例えば、三つの制振構造部材から形成されてもよく、また、多角形状に形成されてもよい。
【0036】
このような複数の制振構造部材が組み合わされることにより形成される制振構造部材によれば、制振構造部材が荷重を受ける際に、より多くのコイル形状部で荷重を受けることができ、制振性能の向上を図ることが可能となる。尚、図4に示される第四の制振構造部材31及び第五の制振構造部材32のそれぞれは、図3に示す制振構造部材21と同様の構造を有するものである。
【0037】
図5は、本発明の制振ガスケットの第一の実施形態の全体構成を示す図である。図5において、41は制振ガスケット、42は制振構造部材、43はエラストマー充填部、44は板体、45は板体44の突出部、46はシール面、47は制振構造部材42の荷重方向における頂面、48は制振構造部材42の荷重方向における底面、をそれぞれ示す。
【0038】
図5に示される制振ガスケット41は、制振構造部材42、エラストマー充填部43及び板体44を有して構成される。制振構造部材42は、図1に示された制振構造部材1と同様の構造を有して形成される制振構造部材である。エラストマー充填部43は、制振構造部材42を囲む所定の空間、具体的には制振構造部材42の荷重方向における頂面47と底面48との間の空間にゴムなどのエラストマーを充填することにより形成される。板体44は、制振構造部材42の荷重方向における底面48と、制振ガスケット41によりシールされるべき面となるシール面46との間に配設され、シール面46をシールする役割を果すものである。具体的には、板体44は、制振構造部材42と当接する平坦な上面部と、シール面46と当接する突出部であって制振構造部材の底面48からシール面46に向かい幅が狭まるような台形状の突出部45が配設された下面部とを有して構成される。
【0039】
以下に、制振構造部材42の荷重方向における頂面47と直角をなす方向の荷重が制振ガスケット41に付された際の、該制振ガスケット41の作用について説明する。
エラストマー充填部43は、制振構造部材42の荷重方向における頂面47と底面48との間の空間にゴムなどのエラストマーを充填することにより形成されているため、制振構造部材42の頂面47と直角をなす方向の荷重が付されると、該荷重を、制振構造部材42の各コイル形状がエラストマー充填部43を介することなく直接的に受け、制振構造部材42とエラストマー充填部43とが協働作用して制振ガスケット41の振動を減衰する。
【0040】
このように、制振ガスケット41に付された荷重を、制振構造部材42に直接的に作用させることができ、エラストマー充填部43が塑性変形をおこしてしまう可能性を低減することが可能となる。更に、制振構造部材42の各コイル形状部により荷重を受けることができ、中心軸線が同一のコイル形状部のみで構成される制振ガスケットと比較して、制振性能の向上を図ることが可能となる。
【0041】
また、制振構造部材42の各コイル形状部は一続きに一体的に形成されるため、荷重を受けた際に各コイル形状部はそれぞれが独立して自由に動くことはなく、すなわち各コイル形状部の相対的な配置のズレは生じることはなく、また、各コイル形状部は相互に依存して変形する。これにより、各コイル形状部の相対的な配置のズレを防止する特別な手段を必要とすることなく、各コイル形状部は所定の相対的な配置にて荷重を受けることができ、また、各コイル形状部を相互に依存させて変形させることができ、より確実に所望の制振性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0042】
制振ガスケット41に付された荷重は制振構造部材42及びエラストマー充填部43を介して板体44に伝達されて、板体44の下面部がシール面46に押圧されることになる。本実施形態における板体44は、該板体44の下面部に、シール面46と当接する突出部であって制振構造部材の底面48からシール面46に向かい幅が狭まるような台形状の突出部45を有しており、これにより、板体44に伝達された荷重をシール面46に向かい集中させて該突出部45をシール面46に押圧させることができ、より良好なシール面圧と、より確実なシール面の連続性とを確保することを可能とする。尚、本実施形態においては、板体44によりシール面46をシールするように構成されているが、これに限られることはなく、エラストマー充填部43をシール面46に直接当接させることができるように形成することにより、エラストマー充填部43によりシール面46をシールするように構成されてもよい。この場合においては、板体44を構成要素から排除することができる。
【0043】
図6は、本発明の制振ガスケットの第二の実施形態の全体構成を示す図である。図6において、51は制振ガスケット、52は制振構造部材、53はエラストマー充填部、54は板体、55は板体54の突出部、56はシール面、57は制振構造部材52の荷重方向における頂面、58は制振構造部材52の荷重方向における底面、をそれぞれ示す。
【0044】
図6に示される制振ガスケット51は、制振構造部材52、エラストマー充填部53及び板体54を有して構成される。制振構造部材52は、図2に示された制振構造部材11と同様の構造を有して形成される制振構造部材である。エラストマー充填部53は、制振構造部材52を囲む所定の空間、具体的には制振構造部材52の荷重方向における頂面57と底面58との間の空間にゴムなどのエラストマーを充填することにより形成される。板体54は、制振構造部材52の荷重方向における底面58と、制振ガスケット51によりシールされるべき面となるシール面56との間に配設され、シール面56をシールする役割を果すものである。具体的には、板体54は、制振構造部材52と当接する平坦な上面部と、シール面56と当接する突出部であって制振構造部材の底面58からシール面56に向かい幅が狭まるような円弧状の突出部55が配設された下面部とを有して構成される。
【0045】
尚、図6に示す板体54の下面部は円弧状の突出部に形成されているがこれに限られることなく、図5に示す板体44のように台形状の突出部を有して形成されてもよい。いずれにしても、板体に伝達された荷重をシール面に向かい集中させて該突出部をシール面に押圧させることができ、より良好なシール面圧と、より確実なシール面の連続性とを確保することを可能とする。
【0046】
以下に、制振構造部材52の荷重方向における頂面57と直角をなす方向の荷重が制振ガスケット51に付された際の、該制振ガスケット51の作用について説明する。
エラストマー充填部53は、制振構造部材52の荷重方向における頂面57と底面58との間の空間にゴムなどのエラストマーを充填することにより形成されているため、制振構造部材52の頂面57と直角をなす方向の荷重が付されると、該荷重を、制振構造部材52の各コイル形状がエラストマー充填部53を介することなく直接的に受け、制振構造部材52とエラストマー充填部53とが協働作用して制振ガスケット51の振動を減衰する。
【0047】
このように、制振ガスケット51に付された荷重を、制振構造部材52に直接的に作用させることができ、エラストマー充填部53が塑性変形をおこしてしまう可能性を低減することが可能となる。更に、制振構造部材52の各コイル形状部により荷重を受けることができ、中心軸線が同一なコイル形状部のみで構成される制振ガスケットと比較して、制振性能の向上を図ることが可能となる。
【0048】
また、制振構造部材52の各コイル形状部は一続きに一体的に形成されるため、荷重を受けた際に各コイル形状部はそれぞれが独立して自由に動くことはなく、すなわち各コイル形状部の相対的な配置のズレは生じることはなく、また、各コイル形状部は相互に依存して変形する。これにより、各コイル形状部の相対的な配置のズレを防止する特別な手段を必要とすることなく、各コイル形状部は所定の相対的な配置にて荷重を受けることができ、また、各コイル形状部を相互に依存させて変形させることができ、より確実に所望の制振性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0049】
制振ガスケット51に付された荷重は制振構造部材52及びエラストマー充填部53を介して板体54に伝達されて、板体54の下面部がシール面56に押圧されることになる。本実施形態における板体54は、シール面56と当接する突出部であって制振構造部材の底面58からシール面56に向かい幅が狭まるような円弧状の突出部55を有しており、これにより、板体54に伝達された荷重を集中させて該突出部55をシール面56に押圧させることができ、より良好なシール面圧と、より確実なシール面の連続性とを確保することを可能とする。尚、本実施形態においては、板体54によりシール面56をシールするように構成されているが、これに限られることはなく、エラストマー充填部53をシール面56に直接当接させることができるように形成することにより、エラストマー充填部53によりシール面56をシールするように構成されてもよい。この場合においては、板体54を構成要素から排除することができる。
【0050】
図7は、本発明の制振ガスケットの第三の実施形態の全体構成を示す図である。図7において、61は制振ガスケット、62は制振構造部材、63はエラストマー充填部、64は上側板体、65は上側板体64の内側突出部、66は下側板体、67は下側板体66の内側突出部、68は下側板体66の外側突出部、69はシール面、をそれぞれ示す。
【0051】
図7に示される制振ガスケット61は、制振構造部材62、エラストマー充填部63、上側板体64及び下側板体66を有して構成される。上側板体64は、制振構造部材62の荷重方向上側に配設されるものであり、その内側面には制振構造部材62の各コイル形状部と当接する内側突出部65を有する。下側板体66は、制振構造部材62と、制振ガスケット61によりシールされるべき面となるシール面69との間に配設され、シール面69をシールする役割を果すものであり、その内側面には制振構造部材62の各コイル形状部と当接する内側突出部67を有し、その外側面にはシール面69と当接する外側突出部であってシール面69に向かい幅が狭まるような台形状の外側突出部68を有する。
【0052】
制振構造部材62は、図1に示された制振構造部材1と同様の構造を有して形成される制振構造部材であり、上側板体64と下側板体66との間に配設される。具体的には、上側板体64の内側突出部65及び下側板体66の内側突出部67が、制振構造部材62の各コイル形状部間に割り込んで、各コイル形状部の円弧部分と、上側板体64の内側突出部65及び下側板体66の内側突出部67の斜面部とが当接した状態で、制振構造部材62は、上側板体64と下側板体66との間に配設される。
【0053】
エラストマー充填部63は、制振構造部材62を囲む所定の空間、具体的には上側板体64と下側板体66との間の空間にゴムなどのエラストマーを充填することにより形成される。
【0054】
以下に、制振構造部材62の荷重方向における頂面70と直角をなす方向の荷重が制振ガスケット61に付された際の、該制振ガスケット61の作用について説明する。
制振構造部材62の荷重方向上側には上側板体64が配設されているため、制振構造部材62の頂面70と直角をなす方向の荷重が付されると、該荷重は、エラストマー充填部63を介することなく、上側板体64の内側面に配設され制振構造部材62の各コイル形状部と当接する内側突出部65を介して直接的に制振構造部材62に伝達される。また、該荷重の一部は、上側板体64を介してエラストマー充填部63にも伝達される。そして、制振構造部材62とエラストマー充填部63とが協働作用して制振ガスケット61の振動を減衰する。
【0055】
このように、制振ガスケット61に付された荷重を、エラストマー充填部63を介することなく制振構造部材62に直接的に作用させることができ、エラストマー充填部63が塑性変形をおこしてしまう可能性を低減することを可能とする。更に、制振構造部材62の各コイル形状部により荷重を受けることができ、中心軸線が同一のコイル形状部のみで構成される制振ゲスケットと比較して、制振性能の向上を図ることが可能となる。
【0056】
また、制振構造部材62の各コイル形状部は一続きに一体的に形成されるため、荷重を受けた際に各コイル形状部はそれぞれが独立して自由に動くことはなく、すなわち各コイル形状部の相対的な配置のズレは生じることはなく、また、各コイル形状部は相互に依存して変形する。これにより、各コイル形状部の相対的な配置のズレを防止する特別な手段を必要とすることなく、各コイル形状部は所定の相対的な配置にて荷重を受けることができ、また、各コイル形状部を相互に依存させて変形させることができ、より確実に所望の制振性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0057】
制振ガスケット61に付された荷重は、制振構造部材62に及びエラストマー充填部63を介して下側板体66に伝達されて、該下側板体66の下面部がシール面69に押圧されることになる。本実施形態における下側板体66は、シール面69と当接する外側突出部であってシール面69に向かい幅が狭まるような台形状の外側突出部68を有しており、これにより、下側板体66に伝達された荷重を集中させて該外側突出部68をシール面69に押圧させることができ、より良好なシール面圧と、より確実なシール面の連続性とを確保することを可能とする。
【0058】
また、上側板体64の内側突出部65及び下側板体66の内側突出部67が、制振構造部材62の各コイル形状部間に割り込んで、各コイル形状部の円弧部分と、上側板体64の内側突出部65及び下側板体66の内側突出部67の斜面部とが当接した状態で、制振構造部材62は上側板体64と下側板体66との間に配設されるため、制振構造部材62の各所要寸法に製作精度に起因するバラツキが生じている場合においても、そのバラツキを吸収することができ、すなわち、制振構造部材62の各コイル形状部を上側板体64の内側突出部65及び下側板体66の内側突出部67の斜面部に当接させことができ、制振ガスケット61に付された荷重を制振構造部材62の各コイル形状部に確実に伝達させることができ、より安定的で高い制振効果を制振ガスケット61にもたらすことが可能となる。
【0059】
図8は、図7に示した制振ガスケット61の下側板体66の内側突出部67の構造を説明するための図である。図8から理解されるごとく、制振ガスケット61の下側板体66の内側突出部67は、円弧状に分割された複数の分割部分71から形成される。これにより、例えば、荷重方向と垂直をなす方向となる制振構造部材62の径方向において寸法のバラツキがある場合においても、各分割部分71の間に形成される間隙部分72においてそのバラツキを吸収することができ、制振ガスケット61に付された荷重を制振構造部材62の各コイル形状部に確実に伝達させることができ、より安定的で高い制振効果を制振ガスケットにもたらすことが可能となる。尚、このような構造は、上側板体64の内側突出部65に適用されてもよい。また、制振ガスケット61に付された荷重を制振構造部材62の各コイル形状部に確実に伝達させることができれば、上記のように制振ガスケット61の下側板体66の内側突出部67や上側板体64の内側突出部65は、円弧状に分割された複数の分割部分71から形成される必要はなく、一続きに一体的に形成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の制振ガスケットにおける、特に、制振構造部材の第一の実施形態の概略斜視図である。
【図2】本発明の制振ガスケットにおける、特に、制振構造部材の第二の実施形態の上面図及び側面図である。
【図3】本発明の制振ガスケットにおける、特に、制振構造部材の第三の実施形態の上面図である。
【図4】本発明の制振ガスケットにおける、特に、制振構造部材の第四の実施形態の上面図であって該制振構造部材の構成を説明するための図である。
【図5】本発明の制振ガスケットの第一の実施形態の全体構成を示す図である。
【図6】本発明の制振ガスケットの第二の実施形態の全体構成を示す図である。
【図7】本発明の制振ガスケットの第三の実施形態の全体構成を示す図である。
【図8】図7に示した制振ガスケット61の下側板体66の内側突出部67の構造を説明するための図である。
【符号の説明】
【0061】
1 制振構造部材
2 第一のコイル形状部
3 第二のコイル形状部
4 第一の中心軸線
5 第二の中心軸線
41 制振ガスケット
42 制振構造部材
43 エラストマー充填部
44 板体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃料インジェクタ用制振ガスケットにおいて、
中心軸線が異なる複数のコイル形状部を有する制振構造部材と、
前記制振構造部材を囲む所定の空間内にエラストマーが充填されて形成されるエラストマー充填部とを具備し、
前記複数のコイル形状部は、前記燃料インジェクタによる燃料噴射の際に前記制振ガスケットに付される荷重を、前記エラストマー充填部を介することなく直接的に受けるように形成され、且つ、前記複数のコイル形状部は一続きに一体的に形成される、
ことを特徴とする制振ガスケット。
【請求項2】
中心軸線の異なる前記複数のコイル形状部は、単一の線状材を交互に反転させて巻く加工により形成される、ことを特徴とする請求項1に記載の制振ガスケット。
【請求項3】
前記制振構造部材は、前記線状材を1.5巻きすることにより形成される前記コイル形状部を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の制振ガスケット。
【請求項4】
前記制振構造部材は、前記線状材の巻き数が異なる前記コイル形状部を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の制振ガスケット。
【請求項5】
前記制振ガスケットは、複数の前記制振構造部材を有し、
前記各制振構造部材は、一つの制振構造部材のコイル形状部がない空間を別の制振構造部材のコイル形状部が埋めるように配設される、ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の制振ガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−2309(P2009−2309A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166502(P2007−166502)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】