説明

制振機構

【課題】制振用の錘の製作コストが高くなるおそれや軸部の強度が低下するおそれを少なくしながら、振動エネルギーの吸収量を大きくすることができる制振機構を提供する。
【解決手段】軸部1の内部に形成された円筒状の中空部6に、中空部の軸芯の周りの周方向で複数に分割された錘部材14が収容され、隣り合う錘部材の分割面15どうしが面接触するように軸芯に向けて付勢する付勢部材16を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具ホルダ等の軸部の内部に形成された円筒状の中空部に、制振用の錘が前記中空部の軸芯と同芯状に収容されている制振機構に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の切削加工においては、切削用の刃部を先端側に固定してある工具ホルダが工作機械に片持ち状態で取り付けられるので、工具ホルダを回転させて金属を切削する切削加工中に、工具ホルダが所謂びびり振動を起こすと加工精度が低下する問題がある。
上記制振機構は、切削加工中に発生するびびり振動に応答して、中空部に収容されている制振用の錘をびびり振動を打ち消すように振動させると同時にびびり振動のエネルギーを吸収することにより、そのびびり振動を抑制して、加工精度の向上を図ることができるようにしたものである。
従来の制振機構は、中空部に収容した制振用の一つの錘の中空部内面との摩擦や衝突によってびびり振動のエネルギーを吸収できるように構成してある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−521381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、振動エネルギーの吸収量は制振用の錘の重量に応じた量になり、振動エネルギーの吸収量を大きくするためには、重量が大きい錘を中空部に収容する必要がある。
重量が大きい制振用の錘を中空部に収容するにあたって、比重が大きいが高価な超硬合金製やヘビーメタル製の錘を収容すると、制振用の錘の製作コストが高くなるおそれがあり、比重が小さいが安価な金属製の錘を収容すると、中空部が大型化して工具ホルダの強度が低下するおそれがある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、制振用の錘の製作コストが高くなるおそれや軸部の強度が低下するおそれを少なくしながら、振動エネルギーの吸収量を大きくすることができる制振機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による制振機構の第1特徴構成は、軸部の内部に形成された円筒状の中空部に、前記中空部の軸芯の周りの周方向で複数に分割された錘部材が収容され、隣り合う錘部材の分割面どうしが面接触するように前記軸芯に向けて付勢する付勢部材を備えている点にある。
【0006】
本構成の制振機構は、軸部の内部に形成された円筒状の中空部に、複数に分割された錘部材が収容されている。
このため、軸部のびびり振動に伴って、隣り合う錘部材の分割面どうしを互いに摺動させることができるので、振動エネルギーを分割面どうしの摩擦エネルギーや衝撃エネルギーとして吸収することができる。
また、中空部の軸芯の周りの周方向で複数に分割された錘部材が中空部に収容されているので、錘部材の分割面どうしを軸部径方向に互いに摺動させて、軸部径方向に生じるびびり振動を効果的に軽減することができる。
さらに、隣り合う錘部材の分割面どうしが面接触するように中空部の軸芯に向けて付勢する付勢部材を備えているので、分割面どうしの摺動に対して積極的に抵抗を与えて、分割面どうしの摩擦エネルギーを増大させることができ、振動エネルギーの吸収量を一層大きくすることができる。
したがって、本構成の制振機構であれば、制振用の錘の製作コストが高くなるおそれや軸部の強度が低下するおそれを少なくしながら、振動エネルギーの吸収量を大きくすることができる。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記付勢部材が、前記複数の錘部材の外周面と前記中空部の内周面との間に挟み込み配置した環状の弾性部材である点にある。
【0008】
本構成であれば、複数の錘部材を一律にまた簡単に軸芯の側に移動するように付勢することができる。
【0009】
本発明の第3特徴構成は、前記複数の錘部材の前記軸芯から離れる側への変位量を規制する規制部材が装着されている点にある。
【0010】
本構成であれば、複数の錘部材の軸芯から離れる側への変位量を規制するので、軸部の振動に伴って軸芯から離れる側へ変位した錘部材を軸芯に近づく側に迅速に復帰変位させ易く、軸部の回転を安定させることができると共に、分割面どうしの摺動による振動エネルギーの吸収効果も高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】制振機構を設けてある工具ホルダの縦断面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】制振機構の斜視図である。
【図4】第2実施形態の制振機構を示す縦断面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1,図2は、本発明による制振機構2を設けてある工具ホルダ(軸部の一例)1を示す。
制振機構2は、横断面形状が円形で回転軸芯Xと同芯の外周部を備えた鋼製の工具ホルダ1の内部に装着してある。
【0013】
工具ホルダ1は、工具装着用の軸部本体1aと、工作機械の回転軸(図示せず)に対する連結用のテーパ部1bとを同芯状に一体に有し、テーパ部1bに連結した回転軸で駆動回転される。
【0014】
軸部本体1aの先端部分に工具ヘッド3の取り付け孔4が形成され、図1中の仮想線で示すように、切削用刃部を備えたスローアウェイチップ5を固定してある工具ヘッド3が取り付け孔4に抜け止め状態で固定される。
【0015】
軸部本体1aの内部に工具ホルダ1の回転軸芯Xと同芯の横断面形状が円形の中空部6が形成され、この中空部6に制振機構2が装着されている。
中空部6は、軸部本体1aの先端側に開口する横断面形状が円形の軸孔7を、軸孔7の内周面に螺合した栓部材8で区画して、栓部材8よりもテーパ部1bの側に形成されている。
軸孔7の栓部材8よりも先端側が取り付け孔4を形成している。
【0016】
工具ホルダ1には、切削油などのクーラントを、取り付け孔4を経由して工具ヘッド3に供給するためのクーラント供給路9が、軸部本体1aとテーパ部1bとに亘って回転軸芯Xと同芯で形成されている。
【0017】
クーラント供給路9には、回転軸芯Xと同芯で中空部6を貫通するクーラントパイプ10が接続されている。クーラントパイプ10は、栓部材8に形成した貫通孔8aに接続して取り付け孔4に連通させてある。
【0018】
制振機構2は、WC(タングステンカーバイド)などを焼結した超硬合金製の制振用の錘11を、クーラントパイプ10の外周面及び中空部6の内周面に対して隙間12a,12bを隔てて、回転軸芯Xと同芯状に収容して構成されている。
【0019】
クーラントパイプ10のクーラント供給路9との接続部、及び、栓部材8の貫通孔8aとの接続部の夫々には弾性Oリング13を装着してあるので、クーラントなどの液体が制振用の錘11とクーラントパイプ10の外周面及び中空部6の内周面との隙間12a,12bに入り込むおそれがなく、制振効果の低下を防止することができる。
【0020】
制振用の錘11は、図2,図3に示すように、回転軸芯Xの周りの周方向で、横断面形状が扇形の複数の錘部材14に等間隔で分割してあり、これらの錘部材14をクーラントパイプ10の周りに円筒状に並べて中空部6に収容してある。
尚、栓部材8を制振用の錘11の側に強くねじ込んで、各錘部材14に回転軸芯Xに沿う方向の圧縮力を付与してある。
【0021】
工具ホルダ1のびびり振動に伴って隣り合う錘部材14の分割面15どうしを互いに強く摺動させることができるように、複数の錘部材14を円筒状に並べて中空部6に収容した状態で、隣り合う錘部材14の分割面15どうしが面接触するように付勢する付勢部材16を、回転軸芯Xの方向の両端部に備えている。
【0022】
付勢部材16は、複数の錘部材14の外周面と中空部6の内周面との間に挟み込み配置した環状の弾性部材としての弾性Oリングで構成してある。
【0023】
〔第2実施形態〕
図4,図5は、本発明による制振機構の別実施形態を示す。
本実施形態の制振機構は、複数の錘部材14に分割された制振用の錘11の回転軸芯Xの方向の中央位置に、複数の錘部材14の回転軸芯Xから離れる側への変位量を規制する規制部材17が装着されている。
【0024】
規制部材17は、中空部6の内径よりも小さい内径と中空部6の内径よりも大きい外径とを備えた金属製のリングで構成され、その外周側を中空部6の内周面に形成した周溝18に入り込ませて、錘部材14の側に脱落しないように装着してある。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0025】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による制振機構は、中空部の軸芯の周りの周方向で等間隔で複数に分割された錘部材が、中空部の軸芯の方向でもさらに複数に分割されていてもよい。
この場合、軸部のびびり振動に伴って、中空部の軸芯の方向で隣り合う錘部材の分割面どうしを互いに摺動させることができるので、振動エネルギーを分割面どうしの摩擦エネルギーや衝撃エネルギーとして吸収することができる。
また、各錘部材の外周面と中空部の内周面との間に環状の弾性部材を挟み込み配置してあれば、各錘部材を中空部の軸芯の側に移動するように付勢することができるから、軸部の慣性モーメントを小さくして軸部を滑らかに回転させることができ、制振効果の低下を防止することができる。
2.本発明による制振機構は、中空部の軸芯の周りの周方向で等間隔で複数に分割された錘部材が中空部に収容されたものに限定されず、非等間隔で複数に分割された錘部材が中空部に収容されたものであってもよい。
3.本発明による制振機構は、中空部の軸芯の周りの周方向で複数に分割された錘部材に加えて、中空部の軸芯の方向で複数に分割された錘部材が、中空部の例えば軸芯方向の両端部側或いは一端部側に収容されていてもよい。
4.本発明による制振機構は、工具ホルダ以外の軸部に形成された中空部に、その中空部の軸芯の周りの周方向で複数に分割された錘部材が収容されたものであってもよい。
5.本発明による制振機構は、軸部が回転体でなくてもよく、中空部の芯と軸部の芯とが一致していなくてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 軸部(工具ホルダ)
6 中空部
11 制振用の錘
14 錘部材
15 分割面
16 付勢部材(環状の弾性部材)
17 規制部材
X 軸芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部の内部に形成された円筒状の中空部に、前記中空部の軸芯の周りの周方向で複数に分割された錘部材が収容され、
隣り合う錘部材の分割面どうしが面接触するように前記軸芯に向けて付勢する付勢部材を備えている制振機構。
【請求項2】
前記付勢部材が、前記複数の錘部材の外周面と前記中空部の内周面との間に挟み込み配置した環状の弾性部材である請求項1記載の制振機構。
【請求項3】
前記複数の錘部材の前記軸芯から離れる側への変位量を規制する規制部材が装着されている請求項1又は2記載の制振機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−57752(P2012−57752A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202936(P2010−202936)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000205834)大昭和精機株式会社 (41)
【Fターム(参考)】