説明

剥離シート巻回体および粘着体

【課題】長尺状の剥離シートをロール状に巻回された剥離シート巻回体において、巻き圧が変化しても剥離力の安定性を確保することができる剥離シート巻回体、およびその剥離シートを用いた粘着体を提供すること。
【解決手段】長尺状の剥離シートをロール状に巻回させてなる剥離シート巻回体であって、前記剥離シートが剥離シート基材の少なくとも一方の面に剥離剤層を有するものであり、前記剥離剤層が、アルケニル基含有量が1.0〜5.0質量%であり、25℃における粘度が50〜300mPa・sであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む付加反応型無溶剤タイプの剥離剤組成物の硬化皮膜からなることを特徴とする剥離シート巻回体、および前記剥離シートを用いた粘着体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離シート巻回体および粘着体に関するものであり、さらに詳しくは、巻き圧の変化による剥離力の安定性に優れた剥離シートの巻回体、およびその剥離シートを用いた粘着体に関するものである。本発明の剥離シート巻回体は長尺状の剥離シートをロール状に巻回して用いる場合に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
粘着ラベル等の粘着体は、例えば、剥離シート基材の一方の面に剥離剤層が設けられた剥離シートに、粘着シート基材の一方の面に粘着剤層が設けられた粘着体を、剥離剤層に粘着剤層が接するように、貼着されて構成される。
近年、粘着体は、環境への負荷低減が要求されつつあり、剥離剤に無溶剤タイプのシリコーン系剥離剤が使用されつつあり、粘着剤にはエマルションタイプ粘着剤の使用が検討されつつある。
無溶剤タイプのシリコーン系剥離剤およびエマルションタイプ粘着剤は、有機溶剤を使用しないため、環境への負荷低減が期待できるとともに、溶剤タイプに比べて高速塗工が可能となるため、生産性の向上が期待できる。
無溶剤タイプのシリコーン系剥離剤およびエマルションタイプ粘着剤の高速塗工を長時間行うためには、まず、長尺状の剥離シート基材に剥離剤を高速塗工するとともに、得られた長尺状の剥離シートがロール状に巻回された剥離シート巻回体を得る必要がある。
剥離シートをロール状に巻き取る際、巻き芯部における巻き圧は巻き取られる長さが長くなるのに伴って高くなっていく傾向があるが、これは基本的には避けることができない。
一般的に、粘着体を製造した場合に、得られる粘着体の製造ロット内および製造ロット間における剥離力の安定性に優れていることが求められているが、巻き芯部における巻き圧が上昇した剥離シート巻回体を用いて粘着体を製造した場合に、巻きの位置によって剥離力が安定しないという問題が発生している。
また、得られた粘着体が粘着ラベル等に加工される際に、粘着体から粘着シートの一部が耳部としてカス取りされるため、高速で粘着シートを剥離させると粘着シートが切れやすくなり、高速でカス取りが行えないという問題があり、低速剥離時の剥離力を所定のレベルに保ち、かつ高速剥離時の剥離力を抑えることができる、すなわち、剥離速度依存性が低いことが求められている。
さらに、粘着体が乾式電子写真方式用のプリンターラベル等の用途に使用される場合、プリンターにおける走行性を良好にし、紙詰まりを防止するために、剥離シートに高い滑り性が要求される。
このような状況下、不飽和基を含有するシリコーン化合物系剥離剤を使用した剥離シートの剥離力の剥離速度依存性と剥離剤層の滑り性について検討した報告がいくつかなされている。
例えば、分子鎖末端にケイ素原子に結合するアルケニル基を1.3〜1.9個有するジオルガノポリシロキサンを主成分とする付加反応型無溶剤タイプの硬化性シリコーン剥離剤組成物が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この場合、剥離シートの滑り性は改善されるものの、高速剥離時の剥離力が大きく設定されているので、高速で粘着シートを剥離させると粘着シートが切れやすくなり、高速でカス取りが行えないという問題がある。
また、分子鎖両末端のみにビニル基を有するオルガノポリシロキサンの粘度を規定し滑り剤を添加することで、目的の剥離力と滑り性を付与する方法(特許文献2)が提案されているが、分子鎖両末端のみにビニル基を有するオルガノポリシロキサンの粘度が低いため剥離シートを巻き取る際、巻き圧により剥離が重くなり、剥離力の安定性という点で問題がある。
さらにまた、アルケニル基の含有量が1.4質量%程度(一般式でとり得る最大の場合)のオルガノポリシロキサンとアルケニル基を含有していないオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを付加反応させたものが提案されている(特許文献3)。しかしながら、この場合もアルケニル基の含有量が低いため高速剥離での剥離抵抗が大きい、すなわち、剥離力の剥離速度依存性が高いという点で問題がある。
加えて、1分子中に少なくとも5個のアルケニル基を有し、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を全有機基に対して0.5〜5モル%含有のジオルガノポリシロキサン(特許文献4)を有機溶媒に希釈して用いることが提案されている。しかしながら、この場合、有機溶媒を使用しており環境負荷が大きいという点で問題がある。
アルケニル基を有する分岐状オルガノポリシロキサンの粘度を規定し滑り剤を添加することで、目的の剥離力と滑り性を付与する方法(特許文献5)が提案されているが、アルケニル基の含有量が低いため高速剥離での剥離抵抗が大きい、すなわち、剥離力の剥離速度依存性が高いという点で問題がある。上記のように、剥離力の剥離速度依存性という点ではいずれの提案も充分ではない。また、前記特許文献はいずれも巻き圧の変化による剥離力の安定性に着目して検討したものではない。
【0003】
【特許文献1】特開2002−356667号公報
【特許文献2】特開2003−128925号公報
【特許文献3】特開2004−17288号公報
【特許文献4】特開2005−314510号公報
【特許文献5】特開2006−152265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、特に、長尺状の剥離シートをロール状に巻回された剥離シート巻回体において、巻き圧が変化しても剥離力の安定性を確保することができる剥離シート巻回体を提供することにある。
さらに、本発明の課題は、低速剥離時の剥離力を所定のレベルに保ち、かつ高速剥離時の剥離力を抑えることができる無溶剤タイプのシリコーン系剥離剤を用いた剥離シート巻回体、およびその剥離シートを用いた粘着体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、種々研究を重ねた結果、従来から用いられてきたオルガノポリシロキサン中のアルケニル基の含有量と粘度を一定の範囲内にコントロールすることにより、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記
(1)長尺状の剥離シートをロール状に巻回させてなる剥離シート巻回体であって、前記剥離シートが剥離シート基材の少なくとも一方の面に剥離剤層を有するものであり、前記剥離剤層が、アルケニル基含有量が1.0〜5.0質量%であり、25℃における粘度が50〜300mPa・sであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む付加反応型無溶剤タイプの剥離剤組成物の硬化皮膜からなることを特徴とする剥離シート巻回体、
(2)前記剥離剤組成物が、さらに重合度1000〜10000の直鎖状または分岐状の、分子鎖末端にアルケニル基を有しまたはアルケニル基を有さないオルガノポリシロキサンを含む上記(1)に記載の剥離シート巻回体、
(3)アルケニル基含有量が1.0〜5.0質量%であり、25℃における粘度が50〜300mPa・sであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む付加反応型無溶剤タイプの剥離剤組成物の硬化皮膜からなる剥離剤層を剥離シート基材の少なくとも一方の面に有する剥離シートと粘着剤層を少なくとも有し、前記剥離シートの剥離剤層と粘着剤層とが接するように貼着された構成を有する粘着体、および
(4)前記剥離剤組成物が、さらに重合度1000〜10000の直鎖状または分岐状の、分子鎖末端にアルケニル基を有しまたはアルケニル基を有さないオルガノポリシロキサンを含む上記(3)に記載の粘着体を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、巻き圧の変化による剥離力の安定性に優れた剥離シートの巻回体、及びその剥離シートを用いた粘着体が提供される。この剥離シートの巻回体は、長尺状の剥離シートをロール状に巻回して用いる場合に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の剥離シート巻回体において使用される付加反応型剥離剤であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンにおいて、アルケニル基含有量は1.0〜5.0質量%であり、25℃における粘度が50〜300mPa・sである。
アルケニル基の含有量は好ましくは1.5〜4.5質量%であり、さらに好ましくは2.0〜4.0質量%である。アルケニル基含有量を上記範囲内とすることにより、硬化皮膜における適度な架橋密度を確保し、目的とする剥離剤層と粘着剤層との間の剥離力を得るとともに剥離力の剥離速度依存性を確保する。
ここで、アルケニル基としては炭素数2〜10のアルケニル基であり、具体的にはビニル基、プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基等が例示され、入手の容易さ、すなわち、コストの観点から好ましいアルケニル基はビニル基である。
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンにおいて、アルケニル基以外のオルガノ基としては、脂肪族不飽和結合を有しない一価炭化水素基が挙げられ、脂肪族不飽和結合を有しない一価炭化水素基としては炭素数1〜16のもの特に炭素数1〜8のものが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基などが挙げられ、またこれらの水素原子の一部または全部をハロゲン原子などで置換したクロロプロピル基、トリフルオロプロピル基等のハロアルキル基が挙げられるが、硬化性、剥離性向上の点から80モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0009】
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンにおいて、25℃における粘度は50〜300mPa・s、好ましくは55〜250mPa・sであり、さらに好ましくは60〜200mPa・sである。50mPa・s以上とすることにより、巻き圧の変化によって剥離安定性が低下するという不具合を防止し、300mPa・s以下とすることにより、高速塗工時に塗工性が低下するのを防止する。
なお、本明細書において粘度とは、JIS K7117−1の4.1(ブルックフィールド形回転粘度計)に準拠し、25℃において測定されたものである。
【0010】
このアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、例えば、下記一般式で示されるものが好ましい。
122SiO(R2SiO)m(RR1SiO)nSiR221
ここで、Rは脂肪族不飽和結合を有しない同一又は異種の一価炭化水素基、R1は同一又は異種のアルケニル基、R2はR又はR1であり、m及びnは正の整数を表し、12≦(m+n)≦270である。
【0011】
本発明の剥離シート巻回体において、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、通常、ヒドロシリル基(SiH基)含有の架橋剤、ならびに、必要に応じて使用される硬化触媒を含む付加反応型剥離剤組成物として使用される。
【0012】
ヒドロシリル基(SiH基)含有の架橋剤としては、例えば1分子中に少なくとも2個のSiH基を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン、具体的にはジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン−メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン−メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ポリ(メチルハイドロジェンシロキサン)、ポリ(ハイドロジェンシルセスキオキサン)等が挙げられる。
【0013】
このようなヒドロシリル基を含む架橋剤を使用することにより、アルケニル基とヒドロシリル基との付加反応によって硬化が進行し剥離剤層が形成される。
架橋剤は前記アルケニル基含有オルガノポリシロキサン中のアルケニル基1個に対して、通常ケイ素原子に結合した水素原子0.8〜5個、好ましくは、1〜2.5個になるように配合する。0.8個以上とすることにより、アルケニル基とヒドロシリル基との反応が十分には進行せずに硬化不良となるのを防止する。5個以下とすることにより、架橋剤が未反応で残存して剥離性能が悪化するのを防止する。
【0014】
硬化触媒としては、白金系の触媒、すなわち、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコール溶液との反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサン化合物との反応物、白金−オレフィン錯体、白金-ビニル基含有シロキサン錯体、白金−リン錯体等が挙げられるが、白金錯体が好ましく使用される。
硬化触媒の配合量は白金分として、シロキサン化合物の合計量に対して、質量基準で通常、5〜2000ppm、好ましくは、10〜500ppmである。5ppm以上とすることにより、硬化性が低下して架橋密度が低下するのを防ぎ、2000ppm以下とすることにより、コストアップを防ぐとともに剥離剤層の安定性を確保することができ、かつ、過剰に使用された硬化触媒が剥離剤層に悪影響を与えるのを防止する。
【0015】
なお、本発明における剥離剤組成物は、他の樹脂成分や、滑り性付与剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
滑り性付与剤としては、重合度1000〜10000程度、好ましくは重合度1300〜8000の直鎖状または分岐状の、分子鎖末端にアルケニル基を有しまたはアルケニル基を有さないオルガノポリシロキサンが好ましく用いられる。重合度が1000以上であれば、適度な滑り性が得られ、10000以下であれば、組成物としての粘度が上昇して塗工性が悪くなるのを防止することができる。
【0016】
このオルガノポリシロキサンは、例えば、下記一般式で示されるものが好ましい。
33SiO(R2SiO)pSiR33
ここで、Rは脂肪族不飽和結合を有しない同一又は異種の一価炭化水素基、R3は同一又は異種のアルケニル基、水酸基又はRであり、pは正の整数を表し、1000≦p≦10000である。
【0017】
滑り性付与剤を添加することにより、本発明における剥離シート巻回体において、剥離剤層のJIS−P8147に準じて測定したポリエチレンテレフタレートフィルムに対する動摩擦係数は0.1〜0.6となる。
本発明の剥離シート巻回体を使用した粘着体が乾式電子写真方式用のプリンターラベル等の用途に使用される場合、剥離剤層の動摩擦係数が上記上限値を超えると、粘着体の走行性が悪くなり、プリンター内部における紙詰まり等が発生しやすくなる。この理由は、乾式電子写真方式用のプリンターラベル等に使用される粘着体は、剥離シートに粘着シートが貼着されて構成され、粘着シートの一部が耳部としてカス取りされ、残った粘着シートの基材が、印刷が施されるためのラベル部として使用される。このような用途で使用される粘着体は、プリンターにおける走行性を良好にし、紙詰まりを防止するために、剥離シートに高い滑り性が要求されるためである。また、動摩擦係数が上記下限値より低くなると、例えば剥離シート巻回体の生産工程において、剥離シートがロールに巻き取られる際、巻きずれが起こる虞がある。
【0018】
本発明の剥離シート巻回体は、後で述べる長尺状の剥離シート基材上に前記剥離剤組成物を高速で連続塗工して剥離剤層を形成させて、得られた長尺状の剥離シートを、紙、合成樹脂、金属等からなる円筒状のコア材にロール状に巻回することにより作製することができる。ここで、長尺とは、通常5000m以上、特には8000m以上のことをいう。上限は特に限定されないが、20000m以下が好ましい。
剥離剤層の厚さは、特に限定されないが、0.05〜5.0μmであるのが好ましく、0.1〜3.0μmであるのがより好ましい。
【0019】
環境問題や作業環境対策の観点から剥離剤層を形成させるための本発明における剥離剤組成物は溶剤を使用することなく用いるのが好ましい。本発明における剥離剤組成物は溶剤を使用しなくても25℃における硬化前の粘度が50〜1500mPa・s程度であり、容易に剥離剤層の厚さを0.05〜5.0μmとすることが可能である。
【0020】
本発明の剥離シート巻回体における剥離シート基材としては、特に制限はなく、従来剥離シートの基材として知られている公知の基材の中から、適宜選択して用いることができる。そのような基材としては、例えばグラシン紙、コート紙、キャストコート紙、無塵紙などの紙、これらの紙基材にポリエチレンなどの熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙、あるいはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリプロピレンやポリメチルペンテンなどのポリオレフィンフィルム、ポリカーボネートフィルム、酢酸セルロース系フィルムなどのプラスチックフィルムや、これらを含む積層シートなどが挙げられる。剥離シート基材の厚さとしては特に制限はないが、通常10〜150μmが望ましい。剥離シート基材としてプラスチックフィルムを用いる場合には、プラスチックフィルムと剥離剤層との密着性を向上させるなどの目的で、所望により、該プラスチックフィルムの剥離剤層が設けられる側の面に、酸化法や凹凸化法などの物理的又は化学的表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は、剥離シート基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が、効果及び操作性などの面から、好ましく用いられる。また、プライマー処理を施すこともできる。
剥離シート基材の厚さは、使用目的等に応じて適宜決定されるが、通常は6〜300μmの範囲であり、好ましくは12〜250μmの範囲である。また前記剥離シート基材が紙類の場合、その厚さは通常、秤量として20〜450g/m2、好ましくは40〜220g/m2の範囲である。
【0021】
剥離剤組成物を剥離シート基材上に塗工して剥離剤層を形成させる方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法等の既存の方法が使用できる。
剥離剤組成物を塗工後硬化させる方法としては、例えば、加熱オーブン、通風オーブン等の装置を用いて加熱する方法等が挙げられる。
【0022】
次に、粘着シートについて説明する。
粘着シートは、粘着シート基材上に粘着剤層が形成されており、粘着シート基材は、粘着剤層を支持する機能を有しており、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリカーボネートフィルム等のプラスチックフィルム、アルミニウム、ステンレス等の金属箔、無塵紙、合成紙等の紙等の単体もしくは複合物で構成されている。
粘着シート基材の厚さは、特に限定されないが、5〜300μmであるのが好ましく、10〜200μmであるのがより好ましい。粘着シート基材は、その表面(粘着剤層面と反対側の面)に印刷や印字が施されていてもよい。また、印刷や印字の密着をよくする等の目的で、粘着シート基材は、その表面に、表面処理が施されていてもよい。
表面処理法としては、前記剥離シート基材の説明において例示した方法などを用いることができる。
【0023】
粘着剤層は、粘着剤を主剤とした粘着剤組成物から形成される。
粘着剤としては、例えば、アクリル系エマルション粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤等が挙げられる。本発明においては、アクリル系エマルション粘着剤を使用するのが好ましい。
アクリル系エマルション粘着剤の場合、粘着性を与える主モノマー成分、接着性や凝集力を与えるコモノマー成分、架橋点や接着性改良のための官能基含有モノマー成分を主とする重合体または共重合体から構成することができる。主モノマー成分としては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸メトキシエチル等のアクリル酸アルキルエステルや、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。
コモノマー成分としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル等が挙げられる。
官能基含有モノマー成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有モノマーや、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミド等のヒドロキシル基含有モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
これらの各成分を含むことにより、粘着剤組成物の粘着力、凝集力が向上する。また、このようなアクリル系エマルション粘着剤は、通常、分子中に不飽和結合を有しないため、光や酸素に対する安定性の向上を図ることができる。さらに、モノマーの種類や分子量を適宜選択することにより、用途に応じた品質、特性を備える粘着剤組成物を得ることができる。
【0024】
このような粘着剤組成物には、架橋処理を施す架橋型および架橋処理を施さない非架橋型のいずれのものを用いてもよいが、架橋型のものがより好ましい。架橋型のものを用いる場合、凝集力のより優れた粘着剤層を形成させることができる。
架橋型粘着剤組成物に用いる架橋剤としては、エポキシ系化合物、イソシアナート化合物、金属キレート化合物、金属アルコキシド、金属塩、アミン化合物、ヒドラジン化合物、アルデヒド化合物等が挙げられる。
また、本発明に用いられる粘着剤組成物中には、必要に応じて、可塑剤、粘着付与剤、安定剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
粘着剤層の厚さは、特に限定されないが、5〜200μmであるのが好ましく、10〜100μmであるのがより好ましい。
【0025】
前記粘着シートは、前述した剥離シートの剥離剤層上に粘着剤組成物を塗工して粘着剤層を形成した後、その粘着剤層に粘着シート基材を貼合することにより作製され、剥離シートの剥離剤層と粘着シートの粘着剤層が接するように貼り合わせられた粘着体を得ることができる。なお、粘着シート基材上に、粘着剤を塗工して粘着剤層を粘着シート基材上に形成し、次いで、その粘着シートに、粘着剤層が剥離剤層に接するように、別途作製した剥離シートを貼り合わせて粘着体を作製してもよい。
粘着剤組成物を塗工する方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法等の既存の方法が使用できる。
【0026】
上記のようにして作製された本発明の粘着体は温度23℃、湿度50%の環境下、剥離方向180°、剥離速度0.3m/分の条件で測定される前記剥離剤層と粘着剤層との間の剥離力(以下、低速剥離力という)は、100〜1500mN/50mmである。また、同じ条件で測定される剥離速度50m/分における同剥離力(以下、高速剥離力という)は、100〜3000mN/50mmである。高速剥離力は、低速剥離力の1〜3倍であることが好ましい。すなわち、本発明の粘着体における剥離剤層と粘着剤層との間の剥離力は剥離速度依存性が低いことが特徴である。
低速剥離力が100mN/50mm以上であれば、本発明の粘着体を、例えば、ビジネスフォームラベル用途等に使用する場合、ラベルくりだし時に剥離シートからラベルがめくれるようなトラブルが発生するのを防止することができる。また、1500mN/50mm以下であれば、剥離がスムーズに行なわれる。
高速剥離力が100mN/50mm以上であれば、粘着シートの端部を「カスあげ」する際、「とも上り」が発生するようなトラブルを防止することができる。3000mN/50mm以下であれば、「カス切れ」が起こるのを防止することができる。
【0027】
上記のようにして得られた本発明の粘着体は剥離力の安定性試験において、剥離安定率が1.0〜2.0という優れた特性を示す。なお、本発明における剥離力の安定性試験については下記の実施例で詳細に説明されている。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
<試験方法および評価基準>
(1)剥離力
各例に記載の剥離シート巻回体から、外周部(巻きの最外端部から100m付近)に該当する部分のサンプルを採取し、この剥離シートの剥離剤層表面にアクリル酸エステル系共重合体(モノマー組成:アクリル酸−2−エチルヘキシル49質量%、アクリル酸ブチル50質量%、アクリル酸1質量%)を含むアクリル系エマルション粘着剤(固形分濃度60質量%)を塗工量30g/m2になるように塗工し、100℃で1分間加熱処理して粘着剤層を形成させた。次にこの粘着剤層に上質紙(日本製紙製、NPiフォーム、坪量64g/m2)を貼り合せて粘着体を作製し、温度23℃、湿度50%R.H.の条件下に1日放置後、低速剥離力(A1)および高速剥離力(B1)を測定した。
測定は、万能引っ張り試験機を用いて、温度23℃、湿度50%R.H.の条件下で180°方向に、低速剥離力(A1)の場合は0.3m/分、高速剥離力(B1)の場合は50m/分の速度で剥離させることで行った。
(2)剥離力の安定性試験
各例に記載の剥離シート巻回体から、巻芯部(巻始めの端部から100m付近)に該当する部分のサンプルを採取し、この剥離シートの剥離剤層に前記のアクリルエマルション系粘着剤を塗工量30g/cm2になるように塗工し、100℃で1分間加熱処理して粘着剤層を形成させ、粘着剤層に上質紙(日本製紙製:NPiフォーム、坪量64g/m2)を貼り合せて粘着体を作製し、温度23℃、湿度50%R.H.の条件下、1日放置後、低速剥離力(A2)および高速剥離力(B2)を測定した。
低速剥離力および高速剥離力の剥離安定率は下記式で算出した。
低速剥離力の剥離安定率=(A2)/(A1)
高速剥離力の剥離安定率=(B2)/(B1)
それぞれ剥離安定率が1.0〜1.3であれば良好「○」、1.4〜1.9であれば使用可「△」、2.0以上であれば使用不可「×」と判定した。
(3)滑り性試験
6cm×10cm×2cmの金属片(1,000g)の下にPETフィルム(三菱ポリエステルフィルム社製、T100、厚さ50μm)を貼り付けた。これを各例で作製された剥離シートの剥離剤層面に載せて水平方向に1.0m/分の速度で引張り試験機を用いて安定状態になった時の力F(N)を測定し、下記の計算式で動摩擦係数を算出した。
動摩擦係数=F/(1000×9.8×10-3)
動摩擦係数が0.60未満であれば滑り性良好「○」、0.60以上0.65未満であれば滑り性有り「△」、0.65以上であれば滑り性に劣る「×」と判定した。
【0029】
<実施例1>
25℃における粘度が170mPa・sであり、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された、分子中のビニル基含有量が3.6質量%であるジメチルシロキサン−メチルビニルシロキサン共重合体100質量部、分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖された25℃における粘度が20mPa・sであるメチルハイドロジェンポリシロキサン17.2質量部、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され、重合度2500とした直鎖状ジメチルポリシロキサン3.6質量部、白金(Pt)錯体を白金換算で上記の合計に対して200ppmになるように添加、混合し、25℃における粘度が300mPa・sであるシリコーン系剥離剤組成物を調製した。次に、剥離シート基材である坪量80g/m2の前記のグラシン紙に前記剥離剤組成物を、塗布量1.0g/m2になるように均一に塗布し、120℃で加熱処理して硬化させて剥離剤層を有する剥離シートを、加工速度200m/分の条件で連続的に形成し、得られた幅1m、長さ10,000mの剥離シートを張力1500N/mでロール状に巻回した剥離シート巻回体を作製した。
なお、本実施例で用いた25℃における粘度が300mPa・sであるシリコーン系剥離剤組成物組成物の塗工性は良好であった。
この剥離シート巻回体について、剥離力、剥離力の安定性、滑り性を測定した。
実施例1および以下の各実施例および各比較例で使用された各材料や剥離剤組成物の物性や配合量等を表1に、測定結果を表2に示す。
【0030】
<実施例2>
25℃における粘度が60mPa・sであり、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された、分子中のビニル基含有量が1.6質量%であるジメチルポリシロキサン100質量部、分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖された25℃における粘度が60mPa・sである実施例1と同様のメチルハイドロジェンポリシロキサン5.2質量部、実施例1と同様の分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され、重合度2500とした直鎖状ジメチルポリシロキサン5.0質量部、実施例1と同様の白金錯体を白金換算で上記の合計に対して200ppmになるように添加、混合し、25℃における粘度が290mPa・sであるシリコーン組成物を調製した以外は実施例1と同様に剥離シート巻回体を作製し、同様の試験を行った。
なお、本実施例で用いた25℃における粘度が290mPa・sであるシリコーン系剥離剤組成物組成物の塗工性は良好であった。
【0031】
<実施例3>
25℃における粘度が170mPa・sであり、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された、分子中のビニル基含有量が3.6質量%であるジメチルシロキサン−メチルビニルシロキサン共重合体100質量部、分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖された粘度が25℃における20mPa・sである実施例1と同様のメチルハイドロジェンポリシロキサン17.2質量部、実施例1と同様の白金錯体を白金換算で上記の合計に対して200ppmになるように添加、混合し、25℃における粘度が100mPa・sであるシリコーン組成物を調製した以外は実施例1と同様に剥離シート巻回体を作製し、同様の試験を行った。
なお、本実施例で用いた25℃における粘度が100mPa・sであるシリコーン系剥離剤組成物組成物の塗工性は良好であった。
【0032】
<比較例1>
25℃における粘度が10mPa・sであり、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された、分子中のビニル基含有量が5.3質量%であるジメチルポリシロキサン100質量部、分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖された25℃における粘度が20mPa・sである実施例1と同様のメチルハイドロジェンポリシロキサン26.2質量部、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され、重合度2500とした実施例1と同様の直鎖状ジメチルポリシロキサン15.2質量部、実施例1と同様の白金錯体を白金換算で上記の合計に対して200ppmになるように添加、混合し、25℃における粘度が270mPa・sであるシリコーン組成物を調製した以外は実施例1と同様に剥離シート巻回体を作製し、同様の試験を行った。
なお、本比較例で用いた25℃における粘度が270mPa・sであるシリコーン系剥離剤組成物組成物の塗工性は良好であった。
【0033】
<比較例2>
25℃における粘度が270mPa・sであり、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された、分子中のビニル基含有量が0.7質量%であるジメチルポリシロキサン100質量部、分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖された25℃における粘度が20mPa・sであるメチルハイドロジェンポリシロキサン2.4質量部、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され、重合度2500とした実施例1と同様の直鎖状ジメチルポリシロキサン1.5質量部、実施例1と同様の白金錯体を白金換算で上記の合計に対して200ppmになるように添加、混合し、25℃における粘度が400mPa・sであるシリコーン組成物を調製した以外は実施例1と同様に剥離シート巻回体を作製し、同様の試験を行った。
なお、本比較例で用いた25℃における粘度が400mPa・sであるシリコーン系剥離剤組成物組成物の塗工性は良好であった。
【0034】
<比較例3>
25℃における粘度が750mPa・sであり、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された、分子中のビニル基含有量が1.2質量%であるジメチルシロキサン−メチルビニルシロキサン共重合体100質量部、分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖された25℃における粘度が20mPa・sであるメチルハイドロジェンポリシロキサン4.9質量部、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され、重合度2500とした実施例1と同様の直鎖状ジメチルポリシロキサン9.1質量部、実施例1と同様の白金錯体を白金換算で200ppmになるように添加、混合し、25℃における粘度が2100mPa・sであるシリコーン組成物を調製した以外は実施例1と同様に剥離シート巻回体を作製しようとしたが、シリコーン系剥離剤組成物組成物の粘度が高く塗工が不可能であった。したがって、すべての項目について測定されなかった。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の剥離シートをロール状に巻回させてなる剥離シート巻回体であって、
前記剥離シートが剥離シート基材の少なくとも一方の面に剥離剤層を有するものであり、
前記剥離剤層が、アルケニル基含有量が1.0〜5.0質量%であり、25℃における粘度が50〜300mPa・sであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む付加反応型無溶剤タイプの剥離剤組成物の硬化皮膜からなることを特徴とする剥離シート巻回体。
【請求項2】
前記剥離剤組成物が、さらに重合度1000〜10000の直鎖状または分岐状の、分子鎖末端にアルケニル基を有しまたはアルケニル基を有さないオルガノポリシロキサンを含む請求項1に記載の剥離シート巻回体。
【請求項3】
アルケニル基含有量が1.0〜5.0質量%であり、25℃における粘度が50〜300mPa・sであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む付加反応型無溶剤タイプの剥離剤組成物の硬化皮膜からなる剥離剤層を剥離シート基材の少なくとも一方の面に有する剥離シートと粘着剤層を少なくとも有し、前記剥離シートの剥離剤層と粘着剤層とが接するように貼着された構成を有する粘着体。
【請求項4】
前記剥離剤組成物が、さらに重合度1000〜10000の直鎖状または分岐状の、分子鎖末端にアルケニル基を有しまたはアルケニル基を有さないオルガノポリシロキサンを含む請求項3に記載の粘着体。

【公開番号】特開2008−248455(P2008−248455A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94170(P2007−94170)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】