説明

加熱処理方法および装置

【課題】プラズマディスプレイパネル等の加熱処理を行う際に、被加熱物の乾燥ムラを防止できる加熱処理方法および加熱処理装置を提供する。
【解決手段】加熱処理装置1には搬入口6から搬入される被加熱物2を加熱室を貫通して搬出口7まで搬送する搬送ローラ9と上下から加熱する複数のヒータ10を備える。複数の加熱室R1〜R6はそれぞれ下部に給気口13を、上部に排気口14を備える。加熱室毎に温風を給排気し、各加熱室の温風の給気量と排気量の比を、被加熱物の温度が上昇する方向に向かって気流が生成されるように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加熱処理方法および装置に関し、とくに、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)の製造工程において適用される加熱処理方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PDPの製造に際しては、ガラス基板上に表示電極を形成し、この表示電極を覆うように誘電体層及び保護層を形成して前面基板を作製し、他のガラス基板上にアドレス電極を形成し、このアドレス電極上に誘電体層、隔壁及び蛍光体層を形成して背面基板を作製し、この前面基板と背面基板とを表示電極とアドレス電極が交差するようにを張り合わせるようにしている。そして、厚膜の表示電極やアドレス走査電極、誘電体層、隔壁並びに蛍光体層を形成する各工程においては、基板上にペースト層を形成した後、このペースト層を加熱して乾燥および焼成を行っている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図8は、従来の連続式の加熱炉を示す模式図、及び横軸にこの加熱炉における位置をとり縦軸に基板温度をとって炉温の分布を示すチャート図である。
【0004】
図8に示すように、従来の連続式の加熱炉101は、昇温部102、均熱部103及び降温部104から構成されており、各部は炉室105から構成されている。加熱炉101内においては、被加熱物としての基板(ガラス基板)111が矢印112の方向に移動し、昇温部102、均熱部103及び降温部104を通過する。昇温部102は基板111を室温から温度Tまで昇温させる部分であり、均熱部103は基板111を温度Tに保持する部分であり、降温部104は基板111を温度Tから冷却する部分である。
【特許文献1】特開平11−25854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、基板表面に一様な厚さで塗布したペースト状の隔壁(リブ)形成用材料層を乾燥炉で乾燥させる場合、基板が大きくなると一様に乾燥させることが難しく、乾燥ムラが生じる。従って、サンドブラスト処理によって隔壁(リブ)を形成すると、その乾燥ムラが隔壁(リブ)の幅のバラツキとして顕在化し、PDPの製造工程における歩留りを低下させるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、それぞれにヒータを備えた複数の加熱室を直列接続し、前記複数の加熱室を貫通して上流から下流へ被加熱物を搬送し、加熱室毎に温風を給排気し、各加熱室の温風の給気量と排気量の比を、被加熱物の温度が上昇する方向に向かって気流が生成されるように設定する加熱処理方法を提供するものである。
各加熱室に対する給気量の和と排気量の和は等しく、一定であってもよい。
【0007】
また、この発明は、別の観点から、それぞれにヒータを備えて直列接続された複数の加熱室と、前記複数の加熱室を貫通して上流から下流へ被加熱物を搬送する搬送部と、各加熱室に温風を給気する給気部と、各加熱室から温風を排気する排気部とを備え、各加熱室の温風の給気量と排気量の比は、被加熱物の温度が上昇する方向に向かって気流が生成されるように設定される加熱処理装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、最上流の加熱室から最下流の加熱室に向かって温風の気流が生成され、ヒータによって生じる被加熱物の温度分布がその温風気流の熱エネルギーと運動エネルギーの作用によって均一化されるので、例えばペースト層の乾燥工程に適用した場合乾燥ムラの発生が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面に示す実施形態を用いてこの発明を詳述する。これによってこの発明が限定されるものではない。
この発明が適用されるPDPは、対向する2枚の基板間に表示用の放電セルをマトリクス配列したものである。具体的には図1に示すような一対の基板アッセンブリつまり、背面基板アッセンブリ50と前面基板アッセンブリ50aから構成される。なお、図は画素(RGBの3セル)を示している。
【0010】
前面基板アッセンブリ50aにおいては、ガラス基板11の内面に、基板面に沿った面放電を生じさせるための横方向に延びる電極X,Yが、表示行を定める表示電極対Sとして配列される。電極X,Yは、それぞれがITO薄膜からなる幅の広い帯状の透明電極41と、金属薄膜からなる幅の狭い帯状のバス電極42から構成される。
バス電極42は、適正な導電性を確保するための補助電極である。電極X,Yを被覆するように誘電体層17が設けられる。誘電体層17の表面には保護膜18が被覆される。誘電体層17及び保護膜18はともに透光性を有している。
【0011】
次に、背面基板アッセンブリ50においては、背面側のガラス基板21の内面に、電極X,Yと直交する縦方向にアドレス電極Aが配列され、アドレス電極Aを被覆するように誘電体層25が設けられる。誘電体層25上の各アドレス電極Aの間に、直線状(又は格子状)のリブ(隔壁)29が1つずつ設けられる。
背面基板アッセンブリ50では、これらのリブ29によって放電空間(放電セル)30がサブピクセル(単位発光領域)EU毎に区画され、且つ放電空間30の間隙寸法が規定される。
【0012】
そして、誘電体層25の上部及びリブ29の側面を含めて背面側の壁面を被覆するように、カラー表示のためのR,G,Bの3色の蛍光体層28が設けられる。
リブ29は低融点ガラスからなり、紫外線に対して不透明である。なお、リブ29の形成方法としては、後述するように、ベタ膜状の低融点ガラス層の上にフォトリソグラフィによってエッチングマスクを設け、サンドブラストでパターニングする工程が用いられる。
【0013】
マトリクス表示における1行には表示電極Sが対応し、1列には1本のアドレス電極Aが対応する。そして、3列が1ピクセル(画素)EGに対応する。つまり、1ピクセルEGはライン方向に並ぶR,G,Bの3つのサブピクセルEUから構成される。
アドレス電極Aと電極Yとの間の対向放電(アドレス放電)によって、表示すべきセルを選択するための誘電体層17における壁電荷の形成が行われる。電極X,Yに交互にパルスを印加すると、前記アドレス放電による壁電荷の形成されたサブピクセルEUで表示用の面放電(主放電)が生じる。
【0014】
蛍光体層28は、面放電で生じた紫外線によって局部的に励起されて所定色の可視光を放つ。この可視光の内、ガラス基板11を透過する光が表示光となる。リブ29の配置パターンがいわゆるストライプパターンであることから、放電空間30の内の各列に対応した部分は、全てのラインに跨って列方向に連続している。各列内のサブピクセルEUの発光色は同一である。
【0015】
次に、このようなPDPにおける隔壁(リブ)29の形成工程について説明する。
(1)まず、図2に示すようにアドレス電極Aとそれを被覆する誘電体層25が形成されたガラス基板21上に隔壁形成用ペーストを塗布して乾燥させることにより隔壁形成材料層31を形成する。
(2)次に、隔壁形成材料層31上に耐サンドブラスト性を有する感光性レジスト層を設けた後、フォトマスクを介して活性光線を選択的に照射し、続けて現像することにより隔壁対応の開口パターンを有するサンドブラスト用のマスク32を形成する。
【0016】
(3)その後、隔壁形成材料層31とサンドブラスト用マスク32が設けられた被加工基板33に対してサンドブラスト処理を施す。サンドブラスト処理の研削作用により隔壁形成材料層31はマスク32の下をのぞいて除去される。
(4)次に、マスク32を除去して隔壁対応の材料層を露出させ焼成する。
上記工程(1)〜(4)により、隔壁(リブ)29が形成される。
【0017】
次に、上記工程(1)における隔壁形成用ペーストの乾燥処理について図3〜図7を用いて説明する。
図3は本発明による加熱処理装置の原理的な構造を示したものである。図4は図3の要部拡大図である。図5は図3の装置に温風を導入する状態を示したものである。図6は炉内で発生した気流の流れの状態を示したものである。
図3に示すように、加熱処理装置1は、それぞれにヒータを備えた複数の加熱室R1〜R6を備え、加熱室R1〜R6を貫通して上流から下流へ、つまり矢印3の方向へ被加熱物2を搬送しながら加熱処理するようになっている。
【0018】
図4に示すように、加熱処理装置1には、搬入口6から搬入される被加熱物2を加熱室R1〜R6を矢印3の方向に貫通して搬出口7まで搬送する搬送部としての複数の搬送ローラ9と、搬送される被加熱物2を上下から加熱する加熱部としての複数のヒータ10が設けられている。
加熱室R1〜R6は、それぞれ下部に給気口13を備え、上部に排気口14を備える。各給気口13はダンパー15を介して図示しない温風供給源に接続され、各排気口14はダンパー16を介して図示しない排気装置に接続される。
加熱室R1〜R6の各々は、0.1〜10m3の容積を有し、上下合わせて50〜3000kWの出力の赤外線ヒータを有する。
【0019】
ここで、被加熱物2としては、例えば図2に示すようにアドレス電極Aとそれを被覆する誘電体層25が形成された100〜3000mm×100〜2000mm×0.3〜40mmtのガラス基板21上に、隔壁形成用ペーストとして、例えばガラスフリット粉末77重量%,溶剤(ブチルカルビトールとブチルカルビトールアセテートの混合物)21重量%,バインダ(エチルセルロース)2重量%の混合物を、10〜500μmの厚さに塗布したものである。
【0020】
加熱処理装置1では、上記溶剤を揮発させることにより乾燥を行う。そこで、加熱処理装置1では、図5に示すように、加熱室R1〜R6へ、それぞれ流量P1〜P6の温風が供給されると共に、加熱室R1〜R6からそれぞれ流量Q1〜Q6の温風が排出される。
なお、流量P1〜P6とQ1〜Q6は、それぞれダンパー15,16によって制御されるようになっている。通常は、P1=P2=P3=P4=P5=P6=A,Q1=Q2=Q3=Q4=Q5=Q6=Aに設定される。
ここで、例えばA=1〜10m3/分である。
【0021】
この発明においては、上流の加熱室において、供給流量を大きく排出流量を小さく、また、下流の加熱室においては、供給流量を小さく排出流量を大きく設定する。
例えば、加熱室R1,R2への供給流量P1,P2を、P1=P2=1.2Aに設定し、加熱室R3〜R6への供給流量P3〜P6を、P3=P4=P5=P6=0.9Aに設定する。
そして、加熱室R1,R2からの排出流量Q1,Q2を、Q1=Q2=0.6Aに設定し、加熱室R3〜R6からの排出流量Q3〜Q6を、Q3=Q4=Q5=Q6=1.2Aに設定する。
なお、P1+P2+P3+P4+P5+P6=Q1+Q2+Q3+Q4+Q5+Q6=6Aで一定である。
【0022】
それによって、図6に示すように加熱室R1から加熱室R2〜R5を貫通して加熱室R6へ向かう温風気流Sが生成される。そこで、温風供給源における温風温度を適度(例えば100℃)に設定すると、温風気流Sの熱エネルギーと運動エネルギーの作用により、被加熱物(隔壁形成用ペースト層)2の搬送方向に対しての後端側の溶剤の揮発が促進される。その結果、被加熱物2の前端側と後端側の溶剤の揮発速度が同程度になり、被加熱物2の乾燥ムラが防止される。
【0023】
図7は、図2に示す被加熱物2を加熱室R1〜R6まで等速で水平に搬送したときの被加熱物2の中央における温度プロファイルの一例である。
図7に示すように、常温で加熱室R1へ搬入された被加熱物2の温度は、ほぼ一定の温度勾配で上昇し、60分後には加熱室R6において180℃に達する。このことから、図6に示す温風気流Sは、被加熱物2の温度勾配の方向つまり、被加熱物2の温度が上昇して行く方向に生成されることが分かる。
また、被加熱物2の隔壁形成用ペーストに含まれる溶剤は、ほぼ100〜140℃の温度範囲で揮発する。従って、図7の温度プロファイルは、加熱室R3とR4において、溶剤が揮発することを示している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明に適用するPDPの要部分解斜視図である。
【図2】PDPの隔壁形成工程を示す説明図である。
【図3】この発明の加熱処理装置の構造図である。
【図4】図3の要部拡大図である。
【図5】図3に示す装置に温風を導入する状態を示す説明図である。
【図6】図3に示す装置で発生した気流の流れを示す説明図である。
【図7】被加熱物の温度プロファイルの一例である。
【図8】従来の加熱炉と炉温分布の説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 加熱処理装置
2 被加熱物
6 搬入口
7 搬出口
9 搬送ローラ
10 ヒータ
13 給気口
14 排気口
15 ダンパー
16 ダンパー
21 ガラス基板
25 誘電体層
29 隔壁
31 隔壁形成材料層
32 マスク
33 被加工基板
R1〜R6 加熱室
S 気流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれにヒータを備えた複数の加熱室を直列接続し、前記複数の加熱室を貫通して上流から下流へ被加熱物を搬送し、加熱室毎に温風を給排気し、各加熱室の温風の給気量と排気量の比を、被加熱物の温度が上昇する方向に向かって気流が生成されるように設定する加熱処理方法。
【請求項2】
各加熱室に対する温風の給気量の和と排気量の和は等しく、一定である請求項1記載の加熱処理方法。
【請求項3】
それぞれにヒータを備えて直列接続された複数の加熱室と、前記複数の加熱室を貫通して上流から下流へ被加熱物を搬送する搬送部と、各加熱室に温風を給気する給気部と、各加熱室から温風を排気する排気部とを備え、各加熱室の温風の給気量と排気量の比は、被加熱物の温度が上昇する方向に向かって気流が生成されるように設定される加熱処理装置。
【請求項4】
各加熱室に対する温風の給気量の和と排気量の和は等しく、一定である請求項3記載の加熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−20112(P2008−20112A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191717(P2006−191717)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(599132708)富士通日立プラズマディスプレイ株式会社 (328)
【Fターム(参考)】