説明

加熱要素及びこの加熱要素を持つ加熱可能なガラス板

【課題】 平面を均一に加熱することを可能としそして同時に堅牢で、容易に取り付けできそして安価である加熱要素の提供。
【解決手段】 この課題は、電流を実質的に電流導体に導くことができそしてオーム抵抗のところでの電圧低下によって電流を熱に変換できる、電流導体を持つ加熱要素において、加熱要素が平面構造物又はテープ状構造物として形成されておりそして少なくとも1つの支持体層及び接着層を有し、電流導体が追加的な層(電流伝達層)として形成されており、電流伝達層が支持体層と接着層との間に配置されておりそして
支持体層、電流伝達層及び接着層が透明であることを特徴とする、上記加熱要素によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電流導体を有する加熱要素並びにこの種類の加熱要素を持つ加熱可能なガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱用途において熱を発生させるためには一般に電流を電流導体に通す。この場合にΩ抵抗の所での電圧低下によって電気エネルギーから熱エネルギーへの変換がもたらされる。この様な加熱要素は多方面の用途で使用される。加熱可能なガラス板の場合に加熱要素を使用するには、細い線をガラス中に引きそしてその線を、ガラス板を加熱するために電流導体として使用することが知られている。この場合には、比較的に高い製造コストの他に視認妨害並びにガラス板の不均一な加熱が引き起こされる。
【0003】
この場合ガラス板には、鉱物ガラス板並びに合成樹脂ガラスよりなるガラス板も包含される。加熱要素を備えたこの種類のガラス板は自動車及び航空機において特に興味がもたれている。さらに、可能な用途分野は防御用ヘルメットの加熱可能頬当て、例えばオートバイ用ヘルメット、又は測定装置の鏡又はディスプレー、例えば極致で使用されるものがある。
【0004】
加熱要素として上述の導電性フィルムを使用することも公知である。しかしながらこの使用分野は、そこを流れる電流に限界がありそして十分な透明度がないので制限されている。流れる電流量が多い場合には、導電性フィルムの場合、機能に悪影響を及ぼす損傷をしばしばフィルムにもたらす。さらに、この種類のフィルムの場合に使用される内因的に導電性のポリマーは僅かな寿命の安定性しか有していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、平面を均一に加熱することを可能としそして同時に堅牢で、容易に取り付けできそして安価である加熱要素の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は請求項1の上位概念の構成要件を持つ加熱要素において、請求項1の特徴的構成要件によって解決される。特に有利な実施態様は従属型式の請求項の対象である。
【0007】
本発明によれば、透明な平面構造物又はテープ状構造物(以下において平面構造物とのみ称する)を加熱要素として使用するのが有利であることがわかった。平面構造物はそれぞれに異なる機能を持つ少なくとも3枚の層、すなわち支持体層、電流伝達層及び接着層で構成されている。これらの層は全て透明であり、加熱要素自体も同様に透明でありそしてガラス板との複合状態でも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】は平面構造物として本発明に従って説明された加熱要素の概略図を図示している。
【図2】は平面構造物として本発明に従って形成された別の加熱要素を概略図で図示する。
【図3】は平面構造物として本発明に従って形成された更に別の加熱要素を概略図で図示する。
【図4】は加熱要素を有する本発明の加熱可能なガラス板を図示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
異なる機能を持つ複数の層を用いることによって機能性を意図的に切り離し、それによって全ての層をそれぞれの要求に個々に適合させることが可能である。これによって種々の用途のための加熱要素に関する要求が簡単に且つ価格的に有利に実現できる。支持体層は二つの異なる層の支持体として役立つ。該支持体は、構造が全体として十分な柔軟性がありそして良好に使用できるようにするべきである。電流伝達層は本来の加熱機能を満足する役割がある。従ってこのものは十分な電流量を流すことができるべきである。さらに電流が他の層を流れるのは十分に減らすべきである。接着剤は任意の基体の上に平面構造を貼り付けるために再び役立つ。基体及び用途分野次第で、高い接着力、温度安定性及び耐候性塔の特別な要求を満足する。この層構造は、支持体層と接着層との間に電流伝達層を配置することに別の長所がある。この要求は、電流伝達層が外部からのマイナスの影響、例えば引っ掻き及び天候の影響に対して保護するという長所を有している。
【0010】
本発明において透明とは照射された強度の少なくとも50%の光線透過率を意味する。透過率は例えばDIN 5036、第3部又はASTM D 1003−00に従って測定することができる。特に有利な実施態様においては少なくとも70%の光透過率が達成される。
【0011】
特に有利な実施態様においては、電流伝達層が、実質的に均一な加熱を平面構造によって可能とするように形成されている。平面構造の平面での温度差は、従って例えば接着領域の辺縁領域から離れて、平面構造物の平面で達成される最大の温度値の20%より多くあるべきでない。
【0012】
しかしながら別の方法としては加熱力を高める、要するに加熱要素の構造によって加熱力に関して温度傾斜を与える領域を意図的に形成することも可能である。これは例えば電流伝達層の層厚を局所的に増すことによって行うことができる。このような態様によってガラス板中で一般に生じる温度傾斜は乱気流のために局所的な速やかな冷却の結果として補正され得る。このような効果はしかしながら速度によるので、意図する速度と異なる速度では相応する領域に加熱力が増加することを許容しなければならない。
【0013】
電流伝達層は、加熱要素にて室温から空気中で少なくとも1℃/分の加熱速度を達成するのに十分な加熱機能を満足するのが有利である。この加熱力は上記の条件のもとで少なくとも3℃の温度上昇、好ましくは少なくとも5℃の温度上昇に十分である。
【0014】
請求項2によれば、電流伝達層は、加熱要素を通る電流の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも98%が電流伝達層を流れるように設計されている。これは例えば電流伝達層中のカーボンナノチューブの相応する厚さ及び/又は相応する選択された濃度によって実現される。このような有利な態様は他の層のより低い導電性によって事故の危険性を避けるという長所を有している。
【0015】
請求項3によれば、電流伝達層がカーボンナノチューブ(CNT)を含有している。この材料は相当の程度で導電性であり、更にその繊維状構造のために容易に導電性ネット構造を形成し、熱の発生にとって十分である導電性が、電流伝達層中にその材料が非常に僅かな割合しかない場合でも達成される。これは電流伝達層の所望の透明度を達成することを特に簡単に可能とする。十分な導電性を達成するためには。充填剤としてのカーボンナノチューブが少なくとも0.01重量%の量で使用するべきである。
【0016】
さらに、加熱要素の特定の用途分野のためには、色々な加熱力を持つ領域を有している場合には、すなわち例えば縁部領域において加熱要素の中心部におけるよりもより高い加熱力を達成するか又はその逆が望ましいくもあり得る。 加熱要素のこのような色々な加熱力は高い加熱力を達成すべき電流伝達性層の局部的に色々な厚さ及び/又は電流伝達性層の、カーボンナノチューブの局所的に色々な濃度によって実現される。
【0017】
別の特に有利な一つの実施態様においては、電流伝達層が他の添加物、例えばバインダーなしで実質的にカーボンナノチューブ自体よりなる。次いで支持体材料への層の繋留を実質的にファンデルワールス力によって実現されそしてそれの上の接着層によってサポートされている。
【0018】
請求項5に従う別の有利な一つの実施態様は、カーボンナノチューブが透明なマトリックス中に埋め込まれている。カーボンナノチューブは層中に永続的に固定されていてもよくそして外部の影響から遮蔽され、それによって高い長期間安定性が達成できる。さらに、マトリックスの高い透明度で加熱要素全体の透明度が高められる。
【0019】
マトリックス材料として、1種類以上の有機溶剤又は水中の溶液又は分散物から電流伝達層に転化されるポリマーバインダーを使用するのが有利である。これは例えば溶液又は分散物を支持体上に塗布しそして次に溶剤又は分散剤を蒸発させて行うことができる。ここでは溶液又は分散物から100%の系よりなるものより、要するに溶剤、分散剤を含まない系、例えば放射線硬化性塗料より非常に薄く、かつ、それ故に透明な層を製造するのが有利である。さらに、有機溶剤及び水中カーボンナノチューブ分散物が既に市販されている(例えばEikos社、ボストン、商品名: InvisiconTM; Zyvex, Richardson(テキサス州、米国)、商品名: NanoSolve(R) 、製造元: FutureCarbon GmbH、Bayreuth)。これらは分散剤系に容易に分散させることができる。
【0020】
請求項7によれば、マトリックス材料を製造するために役立つモノマーを得られるポリマーが室温又はそれより高い温度において感圧接着剤として使用できるように、特に得られるポリマーが“Handbook of Pressure Sensitive Adhesive Technology”、Donatas Satas (van Nostrand, New York 1989)に従う粘着性を有するように選択する。この材料の場合には室温以下にあるガラス転移温度及び相応して低い弾性モジュールを持つ低い架橋密度によってカーボンナノチューブは高い移動性を達成する。これがネットワーク形成を補強する。これによってカーボンナノチューブの使用量を減らすことができ、このことが透明度を高めそしてコストを下げる。
【0021】
感圧接着剤にとってポリマーの特に有利な、示差走査熱量測定によって測定されるガラス転移温度Tg≦25℃を達成するために、ポリマーの所望の値のガラス転移温度Tgが、Foxによって表された式(G1)(T. G. Fox, Bull. Am. Phys. Soc. 1 (1956) 123参照)に従ってポリマーについて所望のTgが得られるように、モノマーを探し出しそしてモノマー混合物の量組成を選択する。
【0022】
【数1】

【0023】
式中、nは使用するモノマーについての順番の番号であり、Wはそれぞれのモノマーの質量割合(重量%)でありそしてTG,nはそれぞれのモノマーnよりなるホモポリマーのそれぞれのガラス転移温度(K)である。
【0024】
感圧接着剤として例えばラジカル重合によって有利に得られそして少なくとも部分的に一般式(I)の少なくとも1種類のアクリルモノマーをベースとする特別なアクリレート感圧接着剤が適している。
【0025】
【化1】

【0026】
[式中、Rは H 又は CH3 でありそして Rが H又は CH3 であるか又は炭素原子数1〜30の飽和の直鎖状の又は分岐した置換又は非置換のアルキル基の群から選択される。]
【0027】
少なくとも1種類のアクリルモノマーは感圧接着剤中に少なくとも50%の質量割合で有するべきである。アクリレート感圧接着剤の長所はその高い透明性並びにその良好な耐熱性及び耐老化性である。
【0028】
有利な一つの実施態様においては、加熱要素中に少なくとも2つの平面領域があり、そこを通って電流を電流伝達層に導入することができる。これらの平面領域は接着層の平面にあり、この領域には接着層が存在せずそして異なる種類の、電流伝達層と異なる導電層が配置されている。この異なる種類の層は、電流伝達層の電気的接触のためにのみを意図するものでありそして加熱要素の縁部領域にのみ配置されるので必ずしも透明である必要がない。この層の導電性は電流伝達層の導電率の少なくとも10倍高い。これは、実質的に電流を伝達する層が加熱要素の外部にある電流源と、加熱要素の端面を介してよりも接続できるという長所を有している。
【0029】
電流源との接続は別の有利な実施態様においては、電流伝達層の上側及び下側に配置されそして同様に電導性である2つの別の透明な層によって達成される。この場合、これらの層は電流伝達層に比較して少なくとも10倍の導電性を有している。これらの層は例えば蒸着された、スパッタリング加工された又は粒状の金属又は金属酸化物層、例えばインジウム−錫酸化物(ITO)、又は内因的に導電性ノポリマー、例えばH.C.Starck 社(Leverkusen)の商品名Baytronで入手される様なものよりなる。相応する構造は図2に図示してある。
【0030】
カーボンナノチューブは炭素よりなる顕微鏡的に見ると小チューブ状構造物(分子ナノチューブ)である。その壁はフラーレンのそれの様に又はグラファイトの平面の様に炭素だけで構成されており、炭素原子は六角形のハニカム構造及びそれぞれ三つの結合パターンを採るsp−混成によって決定される)。チューブの直径は0.4nm〜100nmの範囲内にあり、個々のチューブについて0.5μm〜数ミリメータの長さ及びチューブの束については20cmまでが達成される。
【0031】
単壁と多数枚壁との間、開放孔のチューブと密閉孔のチューブ(蓋付き;フラーレン構造よりなる部分を有する)との間及び空のチューブと充填されたチューブとの間に相違がある。
【0032】
構造の詳細次第でチューブ内の導電性は金属的又は半導体的である。低温で超伝導であるカーボンチューブも公知である。
【0033】
雑誌“Science”からも、“Carbon Nanotubes - the Route Toward Appllications”のタイトルの論文が発行されている(Ray H. Baughman, Anvar A. Zakhidov, Walt A. de Heer, Science 297, 787(2002))。さらに、“Transparent, Conductive Carbon Nanotube Films”のタイトルの論文も発行されている(Z. Wu, Z. Chen, X. Du, J.M. Logan, J. Sippel, M. Nikolou, K. Kamaras, J.R. Reynolds, D. B. Tanner, A.F. Hebard, A.G. Rinzler, Science 305, 1273 (2004))。これらの論文には、運搬手段、例えば自動車、列車又は飛行機において天候に無関係にガラスを透明にすることを課題とするものはない。
【0034】
カーボンナノチューブは2〜約30までのグラファイト様層で構成されていてもよく、その際に2つの層は二重壁のカーボンナノチューブ(DWNTs)としばしば称される。単一壁のカーボンナノチューブ(SWNTs)の壁及び多重壁のカーボンナノチューブ(MWNTs)の壁も“正常な”構造、アームチェア構造、ジグザグ構造又は捩れの程度に相違のあるキラル構造を有している。CNTの直径は数nm〜100nmの間にあり、該チューブは1ミリメータまでの長さを有していてもよい(“Polymers and carbon nanotubes - dimensionality, interactions and nanotechnology”、I. Szleifer、R. Yerushalmi-Rozen、Polymer 46 (2005)、7803)。
【0035】
本発明の加熱要素にとって、長ければ長い程、十分な導電性のためには僅かのカーボンナノチューブが使用されそして加熱要素の透明性が増加するので、10μmより長い平均長さを持つカーボンナノチューブを使用するのが有利である。
【0036】
さらに本発明の加熱要素にとって40nmよりも細い平均外径を持つカーボンナノチューブを使用するのが有利である。カーボンナノチューブの場合、外径の低下に比例して移動性が増加し、それによってネットワークが容易に形成できそしてそれ故に十分な電導性のために僅かなナノチューブを使用すれば足りる。カーボンナノチューブの使用量を減らすことによって加熱要素の透明性が高められる。さらに、外径の減少と共にカーボンナノチューブ自体による光散乱が減少し、それによって透明性が十分に高められる。
【0037】
カーボンナノチューブが長さと外径との少なくとも250の平均比を有する場合が特に有利である。何故ならば、この場合には長さ及び直径に関する前述の長所の組合せが特に高い透明度を十分な電導性と共に達成できるからである。
【0038】
ある実施態様においては、カーボンナノチューブの表面を化学的に官能化するか又はさもなければ化学的に変性することも有利である。化学的な変性はカーボンナノチューブの個別化を簡単化するので、ポリマーマトリックスとの混合物及び/又はそれの分散処理を簡単化する。ある実施態様においては化学的に変性されたCNTがポリマーマトリックスと立体的に相互作用しそして別の実施態様においては化学的相互作用がポリマーマトリックスへのCNT又はCNT誘導体の共有結合を包含する。このことは架橋及び層の有利な高い機械的安定性をもたらす。変性されたカーボンナノチューブは例えばFutureCarbon社(Bayreuth, und Zyvex, Richardson (Texas, USA))からNanoSolve(R)の登録商標で入手できる。
【0039】
加熱要素の特に有利な実施態様は、カーボンナノチューブが端面に単一炭素層を有しそし単一壁カーボンナノチューブと称されている。単一壁カーボンナノチューブは多数枚壁カーボンナノチューブよりも光の散乱が少なく、比較的に高い透明度を達成することができる。
【0040】
加熱要素の他の有利な一つの実施態様、カーボンナノチューブが端面から見て複数の炭素層を有し、要するに二重又は多重壁のカーボンナノチューブを示す複数枚壁のカーボンナノチューブを使用することを特徴としている。このものは単一壁のカーボンナノチューブに比較して僅かなコストしか必要としない。
【0041】
カーボンナノチューブが電流伝達層内部で優先方向に配向されている場合も有利である。この配向は接触電極の位置によって決められる電流の方向で行われるのが有利である。この配向の結果として電流の流れる方向に伸びるカーボンナノチューブのネットワークが達成され、それは等方ネットワークで必要とされるよりも少ない濃度のカーボンナノチューブで既に十分な導電性を保証する。低下された濃度にて透明度も改善されそして費用も低減される。
【0042】
この配向は例えば実質的に電流伝達性層を液状相から被覆するときにレオロジー効果(流れの剪断又は伸長)によって達成される。塗布後の未だ流動する層に電圧を印加するか又は外部電磁場を利用することも可能である。さらに、例えば結晶子境界での配向は、例えば好ましくは結晶温度より下で延伸される部分結晶質のポリマーの様に又は多相マトリックス径の相境界において、例えば好ましくは円筒状又は積層形態を持つブロックコポリマーにおいて可能である。液晶ポリマー(LCP)の分野で知られる様な、支持体相又は接着相中に存在する構造でもカーボンナノチューブの配向が可能である。
【0043】
カーボンナノチューブは殆どの導電性充填剤の中にあるにもかかわらず、電気伝達性層に導電性成分を添加するのも有利である。何故ならばそれによってコストを下げるか又は導電性及び/又は透明度を高めることができるからである。適する添加物にはナノスケールの金属酸化物、特にインジュウム−亜鉛酸化物又は他の微量混入物含有の酸化亜鉛がある。内因的導電性ポリマーの添加も本発明においては有利である(“Synthesis and Characterization of Conducting Polythiophene/Carbon Nanotubes Composites”、M. S. Lee 等、J. Pol. Sci. A、 44 (2006) 5283)。
【0044】
別の有利な一つの実施態様においては加熱要素は、接着層が粘着層(感圧接着剤)として形成されていることを特徴とする。粘着剤は室温で永久的な接着作用をし、十分に低い粘度及び高い初期粘着性を有し、それぞれの被接着基体の表面を既に僅かな圧で湿潤する。この形式はホットメルト接着剤又は液状接着剤に比較して容易に行うことができ、適用時に加熱もその他のエネルギー供給も必要なく、一般に適用後に化学反応もない。
【0045】
本発明の目的のためのアクリレートベースの接着剤としては、他の任意の成分の他に、接着特性を決めるベース接着剤又はベースの骨格をアクリルモノマーが示すポリマーによって少なくとも実質的に共同決定する接着剤を含有するあらゆる接着剤がある。
【0046】
粘着層としては、少なくとも一部分が少なくとも1種類のアクリレート系モノマーをベースとするアクリレート感圧接着剤であるのが特に適している。アクリレート感圧接着剤の長所はその高い透明性並びにその良好な熱安定性及び耐老化性である。
【0047】
アクリレートの種類のモノマーの群は、非置換の又は置換されたアクリル酸又はメタクリル酸の構造から又はこれらの化合物の一般式CH2=C(R1)(COOR2)で表されるエステルから誘導される構造を有するあらゆる化合物よりなる。ただし、残基R は水素原子又はメチル基でありそして残基Rが水素原子であるか又は炭素原子数1〜30の直鎖状の又は分岐した置換又は非置換のアルキル基よりなる群から選択される。アクリレートベースの接着剤のベース接着剤のポリマーは好ましくは50重量%以上のアクリレート系モノマー含有量を有している。
【0048】
アクリレート系モノマーとしては原則としてはこれらの化合物の上記の群を全体としては使用することができ、その際にそれらの具体的選択おそれらの量比は意図する用途分野のそれぞれの要求に従って決められる。
【0049】
ベースポリマーとしては特に、ラジカル重合によって得られるアクリレートベースのポリマーが特に適する。
【0050】
別の有利な一つの実施態様においては加熱要素は、粘着剤がスチレンブロックコポリマーであることを特徴としている。これは、非極性の基体の上に良好に接着しそしてその他に非常に良好な透明性並びに水素化ポリマーの種類の場合には非常に良好な耐老化防止性を有するという長所を有している。
【0051】
粘着剤はベース接着剤の他に、勿論、他の添加物、充填剤、特に光を散乱せずそして透明性を維持するナノスケール充填剤、流動助剤、接着性改善用添加物、可塑剤、樹脂、エラストマー、老化防止剤(酸化防止剤)、光安定剤、紫外線吸収剤並びにその他の助剤お添加物、例えば流動助剤及び流動調製剤又は湿潤剤、例えば界面活性剤又は触媒を含有し得る。
【0052】
さらに加熱要素は、粘着剤が70%より高い、好ましくは80%より高い、特に好ましくは90%より高い透明度を有していることに特徴がある。これは例えば30μmの層厚のときに実現できる。高い透明度は、加熱要素全体が高められた透明度を有するという長所を有している。ポリマー及び添加物を適切に選択する他に、このような高い透明度は接着剤自体中のゲルの割合(光を散乱する部分的に高い架橋度の領域)が少ないことによって並びに粘着剤をその被覆後に覆っていてもよい非常に滑らかなライナー材料の使用によって達成される。最後の手段では、光を余り散乱せずそして反射の少ない非常に滑らかな表面の粘着剤層が達成される。従って粗面度R2はDIN EN ISO 4287によれば0.5μmより少なく、好ましくは0.3μmより少ない。
【0053】
本発明によれば加熱要素は特に鉱物ガラス又は合成樹脂ガラス、例えばプレキシグラスよりなる加熱可能なガラス板、例えば特に室外のバックミラーを含めた自動車用のもの又は飛行機用のものに使用される。この種類のガラス板の他の使用分野は例えばヘルメットのヒサシ又は眼鏡類、スキーのゴーグルがある。これらの及び他の多くの用途分野において、眩しさを防止する手段として同時に作用させることができるので、加熱要素の透明性を制限するのも有利であり得る。
【0054】
それ故に更に特に有利な一つの実施態様においては、加熱要素が最高80%の透明性を有している。これは例えば支持体材料及び/又は接着層を着色することによって達成することができる。特に実質的に電流を通す層中で使用されるカーボンナノチューブを、該層中の透明度が同時に十分な加熱機能とともに調整されるように選択するのが有利である。これは、透明性を調整するために支持体材料及び接着層中での他の手段が必要でないという長所を有している。
【0055】
第1図は平面構造物として本発明に従って説明された加熱要素の概略図を図示している。平面構造は支持体層(1)、電流伝導層(2)及び接着層(3)を有している。伝導伝達層(2)は支持体層(1)と接着層(3)との間に配置されており、天候の影響に対して十分に保護されている。
【0056】
更に図1においては電流伝達層(2)のための電気的接点(4)がある。この目的のために、加熱要素の好ましくは縁部の所に配置されている2つの平面領域には接着層(3)がない。その代わりに電気伝導層(2)を、比較的に大きい導電体(4)を持つ他の種類の導電層で覆う。他の種類のこの導電層を通して電流伝達層(2)に電流を供給する。
【0057】
図2は平面構造物として本発明に従って形成された別の加熱要素を概略図で図示する。じび平面構造物は支持体層(1)、電気伝達層(2)及び接着層(3)を有している。電気伝達層(2)は支持体層(1)と接着層(3)との間に配置されている。
【0058】
更に図2には電流伝達層(2)のための電気接触を見ることができる。この目的のために、同様に電気を伝達できる2つの別の透明さな層(5)が電流伝達層(2)の上側及び下側に配置されており、これらの層は電流伝達層(2)に比較して少なくとも10倍高い導電性を有している。これらの異なる種類の電気伝導性層(5)によって電気伝導性層(2)への電流供給が可能となる。
【0059】
図3には図2における如き本発明の構造が図示されており、この場合には別の層(6)が比較的に高い電導性の層(5)と電気伝達性層(2)との間に配置しており、この層は層(5)での破砕を避けるために及びそれ故に長持ちする接触を保証するためにより高い導電性層(5)を安定化する。
【0060】
図4は図1に記載したような構造の、加熱要素を有する本発明の加熱可能なガラス板(7)を図示している。
【0061】
以下に本発明の加熱要素の構造を実施例によって更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0062】
カーボンナノチューブの水性分散物を製造した。この場合にはYerushalmi-Rozen等の方法を使用した(R. Shvartzman-Cohen、Y. Levi-Kalisman、E. Nativ-Roth、R. Yerushalmi-Rozen、 Langmuir 20(2004)、6085-6088)。安定剤としてトリブロックコポリマー (PEO-b-PPO-b-PEO) を使用した。中間のブロックは末端のブロックよりもCNTsに対して高い親和性を有しており、該ブロックは大きな水力学的半径であるのでカーボンナノチューブ相互間での立体相互作用をもたらす。安定剤の水力学的半径はファンデアワールス力が有効に作用する範囲より大きい。
【0063】
カーボンナノチューブとして以下のものを使用した:ATI-MWNT-001(重ね合わせたCNT、unbundled as grown、95%の状態、3〜5層、平均直径35nm、平均長さ100μm、Ahwahnee社、 San Jose、USA)。
【0064】
安定剤として次のものを使用した:14,600g/Molの分子量Mを有する PEO-b-PPO-b-PEO-ブロックコポリマー(PEG=80%(G/G)、Aldrich Nr. 542342)。この安定剤は脱鉱物水中に1重量%の濃度で溶解されている。
【0065】
次いでこの溶液に1重量%のカーボンナノチューブを分散した分散液を製造する。この場合、超音波浴を分散補助手段として使用した。超音波で4時間処理した後に約70%のCNTsを分散させた(視覚的に評価する)。この分散物は数日間にわたって後加工するまで安定していた。分散しなかったナノチューブは濾過によって除いた。
【0066】
この分散物を23μmの厚さのPETフィルムにナイフで塗布しそして乾燥した。約0.1μmの乾燥層厚が得られた。
【0067】
次いで約20μmの厚さのアクリレート感圧接着層(BASF社のacResin 258、36mJ/cmで架橋させた)導電層の上に積層し、その際に辺縁部の所でストライプを開けておいた。この幅を次いで導電性の銀含有塗料のストライプを刷毛塗りする。この加熱要素の概略図を図1に示す。接触ストライプとこの加熱要素相互の間隔は5cmであり、加熱要素の長さは10cmである。
【0068】
加熱要素は12.8Vの印加電圧のもとで約10℃/分の加熱速度を示し、39℃の平衡温度に達した。これは接着剤の所で測定した。
【0069】
DIN 5036−3に従う加熱要素の透過率は63%の透過率τであった。
【実施例2】
【0070】
Eikos社、 Franklin, MA, USAから入手できる(バインダー成分を基準として)約0.05重量%の単一壁カーボンナノチューブを充填した水性バインダー分散物を23μmの厚さのPETフィルムにナイフ塗装し、乾燥し、約0.5μmの乾燥層厚を得る。
【0071】
次いでアクリレート感圧接着剤(BASF社のacResin 258;36mJ/cmで架橋)を導電性層の上に積層し、そのときに端部のストライプを開けておいた。この領域に次いで導電性の銀含有塗料のストライプを刷毛塗りする。この加熱要素の概略図を図1に図示する。接触ストライプ間の距離は5cmであり、加熱要素の長さは10cmである。
加熱要素を12.8Vの印加電圧において約15℃/分の加熱速度を示しそして室温から出発して接着剤の所で測定して28℃の平衡温度を達成した。
【0072】
DIN 5036−3に従う加熱要素の透過率測定では72℃の透過率τであった。
【実施例3】
【0073】
20重量%のアクリレート感圧接着剤(BASF社のacResin 258、Ludwigshafen)を含有するトルエン溶液にZyvex社からの1重量%の単一壁カーボンナノチューブのトルエン中分散物と5:1の比で混合し、アクリレート感圧接着剤を基準として約0.01重量%のカーボンナノチューブの割合にする。
【0074】
この分散物を23μmの厚さのPETフィルムにナイフ塗装し、乾燥し、約2μmの乾燥層厚を得る。この層を、中圧水銀ランプを用いて36mJ/cmの紫外線投与量で架橋させる。
【0075】
次いでアクリレート感圧接着剤(BASF社のacResin 258;36mJ/cmで架橋)の約20μmの厚さの層を導電性層の上に積層し、そのときに端部のストライプを開けておいた。この領域に次いで導電性の銀含有塗料のストライプを刷毛塗りする。この加熱要素の概略図を図1に図示する。接触ストライプ間の距離は5cmであり、加熱要素の長さは10cmである。
【0076】
加熱要素を12.8Vの印加電圧において約15℃/分の加熱速度を示しそして室温から出発して接着剤の所で測定して45℃の平衡温度を達成した。
【0077】
DIN 5036−3に従う加熱要素の透過率測定では59℃の透過率τであった。
【符号の説明】
【0078】
1・・・支持体層
2・・・電流伝導層
3・・・接着層
4・・・電気的接点
5・・・電気伝導性層
6・・・別の層
7・・・加熱可能なガラス板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流を実質的に電流導体に導くことができそしてオーム抵抗のところでの電圧低下によって電流を熱に変換できる、電流導体を持つ加熱要素において、
加熱要素が平面構造物又はテープ状構造物として形成されておりそして少なくとも1つの支持体層及び接着層を有し、
電流導体が追加的な層(電流伝達層)として形成されており、
電流伝達層が支持体層と接着層との間に配置されておりそして
支持体層、電流伝達層及び接着層が透明であることを特徴とする、上記加熱要素。
【請求項2】
電流伝達層が、加熱要素を通る電流の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも98%が電流伝達層を流れるように形成されている、請求項1に記載の加熱要素。
【請求項3】
電流伝達層がカーボンナノチューブを含有している、請求項1又は2に記載の加熱要素。
【請求項4】
加熱要素が色々な熱効率の領域を有しており、好ましくは電流伝達層がカーボンナノチューブを異なる濃度で及び/又は異なる厚さを有している、請求項1〜3のいずれか一つに記載の加熱要素。
【請求項5】
カーボンナノチューブが透明なマトリックス中に埋め込まれている、請求項3又は4に記載の加熱要素。
【請求項6】
透明なマトリックスがポリマーバインダーを有しており、その際に好ましくはポリマーバインダーが1種類以上の有機溶剤又は水中の溶液又は分散物から電流伝達層に転化される、請求項5に記載の加熱要素。
【請求項7】
マトリックス材料を製造するのに役立つモノマーを、得られるポリマーが室温で又は高温のもとで感圧接着剤として使用することができるように選択する、請求項6に記載の加熱要素。
【請求項8】
マトリックス材料がアクリレート感圧接着剤である、請求項5〜7のいずれか一つに記載の加熱要素。
【請求項9】
電流伝達層中に電流を導くために形成されている二つの表面領域を備えておりそして
該平面領域には、接着層が電流伝達層の上に配置されてなくそして/又は他の種類の導電層が配置されており、その際にこの層が電流伝達層に比較して少なくとも10倍導電性を有する、請求項1〜8のいずれか一つに記載の加熱要素。
【請求項10】
二つの透明な別の層が同様に導電性である電流伝達層の上側及び下側に配置されており、これらの層が電流伝達層に比べて少なくとも10倍高い導電性を持つ、請求項1〜9のいずれか一つに記載の加熱要素。
【請求項11】
カーボンナノチューブが少なくとも10μmの平均長さを持つ、請求項1〜10のいずれか一つに記載の加熱要素。
【請求項12】
カーボンナノチューブが40nmより細い平均外径を有する、請求項1〜11のいずれか一つに記載の加熱要素。
【請求項13】
カーボンナノチューブが長さと外径との平均比が少なくとも250である、請求項1〜12のいずれか一つに記載の加熱要素。
【請求項14】
カーボンナノチューブの表面積が化学的に変性されている、請求項1〜13のいずれか一つに記載の加熱要素。
【請求項15】
カーボンナノチューブが1枚壁のカーボンナノチューブである、請求項1〜14のいずれか一つに記載の加熱要素。
【請求項16】
カーボンナノチューブが複数枚壁のカーボンナノチューブである、請求項1〜14のいずれか一つに記載の加熱要素。
【請求項17】
電流伝達層内のカーボンナノチューブが少なくとも一部、好ましくは大部分が優先方向に配向している、請求項1〜16のいずれか一つに記載の加熱要素。
【請求項18】
電流伝達層がカーボンナノチューブの他に別の導電性成分、好ましくは内因的に導電性のポリマーを含有している、請求項1〜17のいずれか一つに記載の加熱要素。
【請求項19】
接着層が粘着層として形成されている、請求項1〜18のいずれか一つに記載の加熱要素。
【請求項20】
粘着剤がアクリレート接着剤である、請求項19に記載の加熱要素。
【請求項21】
粘着剤がスチレンブロックコポリマーである、請求項19に記載の加熱要素。
【請求項22】
粘着剤が70%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上の透明性を有している、請求項19〜21のいずれか一つに記載の加熱要素。
【請求項23】
実質的に電流を伝達する層が最大80%の透明度を有している、請求項1〜22のいずれか一つに記載の加熱要素。
【請求項24】
加熱要素が請求項1〜23のいずれか一つに記載に従って形成されていることを特徴とする、加熱要素を持つ特に自動車又は飛行機用の加熱可能なガラス板。
【請求項25】
鉱物ガラス又は合成樹脂ガラス、特にプラキシグラスよりなる、請求項24に記載の加熱可能なガラス板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−517231(P2010−517231A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546709(P2009−546709)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050248
【国際公開番号】WO2008/090031
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(509120403)テーザ・ソシエタス・ヨーロピア (118)
【Fターム(参考)】