説明

加速器用ゴムシール材

【課題】 アウトガスの発生を格段に抑えた加速器用ゴムシールを提供する。
【解決手段】 重量平均分子量が10000以下の低分子量成分の割合が1.5質量%以下であるエチレン−プロピレンゴム100重量部と、カーボンブラック50〜100重量部と、チタネート系カップリング剤0.5〜3.0重量部と、架橋剤とを含むゴム組成物を所定形状に架橋成形し、かつ、超純水で洗浄してなることを特徴とする加速器用ゴムシール材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子や中間子、ニュートリノ等の2次粒子を発生させる加速器の配管等に使用される加速器用ゴムシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
物質科学や生命科学の研究等では、しばしば中性子や中間子、ニュートリノ等の二次粒子が利用されている。2次粒子を発生させるには加速陽子が必要であり、加速器はこの加速陽子を得るための装置である。陽子を十分に加速させるためには、加速器内は真空に保たれる必要があり、配管の継手部分等にはゴム製のシール材が使用されている。例えば、ビーム輸送ラインの接続には、ゴム製のOリングを用いて高真空を保持することが行なわれている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−337200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の加速器用ゴムシール材では、水分や低分子量成分、加工助剤等を多く含んでいることから、ビーム輸送ライン等の真空系に使用されると、これらの物質がアウトガスとなって放出され、真空系の圧力が高くなるおそれがある。また、加速器内ではビームロスによって放射線が発生することが判っており、この放射線によって加速器用ゴムシール材が劣化してアウトガスとなって放出され、同様の問題が起こるおそれがある。
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、アウトガスの発生を格段に抑えた加速器用ゴムシール材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決するために検討を重ねたところ、低分子量成分を極力排し、更に超純水で洗浄することにより、アウトガスの発生が抑えられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は以下に示す加速器用ゴムシール材を提供する。
(1)重量平均分子量が10000以下の低分子量成分の割合が1.5質量%以下であるエチレン−プロピレンゴム100重量部と、カーボンブラック50〜100重量部と、チタネート系カップリング剤0.5〜3.0重量部と、架橋剤とを含むゴム組成物を所定形状に架橋成形し、かつ、超純水で洗浄してなることを特徴とする加速器用ゴムシール材。
(2)エチレン−プロピレンゴムにおけるエチレン含有量が50〜70重量%であることを特徴とする上記(1)記載の加速器用ゴムシール材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の加速器用ゴムシール材は、アウトガス源となる低分子量成分が少なく、また放射線による劣化も少ないため、加速器の真空系に使用したときに系内を高真空に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に関して参照して詳細に説明する。
【0010】
本発明の加速器用ゴムシール材(以下、単に「シール材」ともいう)は、エチレン−プロピレンゴムをベースとする。このエチレン−プロピレンゴムは、放射線による劣化が少なく、ビームロスに由来する放射線に曝されてもアウトガスの発生が少ない。また、本発明で使用するエチレン−プロピレンゴムは、アウトガスとなって放出されやすい重量平均分子量10000以下の低分子量成分が、ゴム全量の1.5質量%以下に抑えられている。この低分子量成分の含有量は、少ないほど好ましい。更に、優れたシール性能を確保するという理由から、エチレン−プロピレンゴムにおけるエチレン含有量は、50〜70重量%であることが好ましい。このようなエチレン−プロピレンゴムは市販品でもよく、例えば、出光DSM製EPDMゴム「Keltan 6640B」等を市場から入手することができる。
【0011】
上記エチレン−プロピレンゴムには、得られるシール材の機械的特性を高めるためにカーボンブラックが配合される。カーボンブラックは、MAF、FEF、SRFタイプ等の通常のゴム補強材として用いられるカーボンブラックを使用することができるが、引張強さや伸び、圧縮永久歪等を良好な値にするためにHAF以上の粒径の細かいものを使用することが好ましい。また、カーボンブラックの配合量は、エチレン−プロピレンゴム100重量部に対して50〜100重量部であり、好ましくは60〜80重量部である。配合量が50重量部未満では機械的強度が低下し、これに対し100重量部を越えると、得られるシール材が硬くなり過ぎてシール性が保てなくなる可能性がある。
【0012】
また、上記エチレン−プロピレンゴムには、架橋剤が配合される。架橋剤は過酸化物が好ましく、従来からエチレン−プロピレンゴムの架橋に使用されている各種過酸化物を使用することができる。架橋剤の配合量は、上記エチレン−プロピレンゴムを架橋できる量であれば制限がないが、得られるシール材のシール性等を考慮すると、エチレン−プロピレンゴム100重量部に対し1〜4重量部が適当である。また、共架橋剤を併用してもよく、エチレン−プロピレンゴム100重量部に対して1〜3重量部配合する。
【0013】
更に、上記エチレン−プロピレンゴムには、チタネート系カップリング剤が配合される。チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート等が好適に挙げられる。これらチタネート系カップリング剤はそれぞれ単独でも、適宜組み合わせて使用してもよい。また、チタネート系カップリング剤の配合量は、エチレン−プロピレンゴム100重量部に対して0.5〜3重量部、好ましくは2〜3重量部配合される。チタネート系カップリング剤は、低分子量成分とカーボンブラックとの結合を高める作用があり、低分子量成分が溶出し、アウトガスとなって放出されるのを抑える効果が得られる。そのため、チタネート系カップリング剤の配合量が0.5重量部未満では、このような効果が十分に発現しない。但し、チタネート系カップリング剤の配合量が3重量部を越えると、余剰分が溶出物あるいはアウトガスとなって放出されるようになり、好ましくない。
【0014】
上記のエチレン−プロピレンゴムには、得られるシール材の各種性能を高めるために、他の添加剤を配合することができる。例えば、加工性を向上させるための可塑剤や、熱劣化を抑えるための老化防止剤等を配合することができる。しかし、過剰の配合は溶出物あるいはアウトガスの発生につながるため、その配合量は最小限に抑える必要がある。
【0015】
本発明の加速器用ゴムシール材は、上記配合のゴム組成物を所定形状、例えばOリング等の形状に架橋成形し、更に得られた成形体を超純水で洗浄して得られる。尚、架橋成形後に2次架橋を施してもよい。超純水は不純物が極力排除されており、洗浄用媒体としては好ましい。ここで、超純水とは、工業的に使用されている一般的な超純水であり、厳密な定義では無いが、例えば電気抵抗で17MΩ・cm以上の水である。
【0016】
洗浄方法としては、洗浄能力の点から超音波洗浄が最も好ましい。重量平均分子量が10000〜30000程度の中分子量成分は、通常の真空環境ではアウトガスになり難いが、ビームロスに由来する放射線に曝されると低分子化が進み、アウトガスとなって放出されるようになる。このような中分子量成分は、超純水に浸漬しただけでは除去するのが難しく、超音波による物理的作用を併用して洗浄する必要がある。
【実施例】
【0017】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明する。
(実施例1、比較例1〜3)
表1に示す配合の各成分をオープンロールで10分間混練し、得られたゴム組成物を表記の条件にて架橋成形及び2次架橋してJIS P−50 Oリングを作製した。次いで、Oリングを超純水を用いて超音波洗浄し、実施例1、比較例1〜2のサンプルを得た。また、比較のために、超音波洗浄しないものを比較例3とした。そして、各サンプルについて、下記の方法により硬度及びアウトガス量を測定した。結果を表1、並びに図1〜4に示す。
【0018】
(硬度測定)
定圧・定速荷重器(Asker CL-150)及びASTM D2240(タイプA)のデュロメータにより測定した。その際、サンプルの異なる4箇所にて押針接触15秒後に測定した。サンプル数は各2個であり、その平均値を硬度とした。
(アウトガス量測定)
SUS304製の円筒形の容器(外径250mm、全長290mm)にサンプルを収容し、直径10mmのオリフィスを介して真空引きし、容器内部の圧力を測定した。そして、サンプルを収容せずに真空引きしたときの容器内部の圧力との差を求め、コンダクタンスとの積からアウトガス量を求めた。尚、真空計は、10-3Pa〜10-5Paの圧力範囲ではスピニングローターゲージを用い、それ以下の圧力範囲ではB−Aゲージを用いた。また、測定温度は24℃で一定とした。
【0019】
上記の硬度及びアウトガス量は、サンプルにγ線を照射した後についても行なった。γ線照射はCo−60照射設備を用いて行い、線量率5.2〜6.3kGy/hとし、線量1MGyとした。また、γ線照射後のサンプルの表面を目視及び触感にて評価し、照射前の状態との差を調べた。
【0020】
【表1】

【0021】
表1に示すように、重量平均分子量10000以下の低分子量成分が1.5質量%以下であるEPDMゴムを用いた実施例1のサンプルは、常態(γ線暴露前)でのアウトガスの発生が少なく、γ線暴露後もアウトガス量及び硬度が殆ど変化しないことがわかる。
【0022】
これに対し、低分子量成分が1.5質量%を越えるEPDMゴムを用いた比較例1のサンプルは、γ線暴露による特性変化は殆ど見られないものの、粘着物質の溶出が見られ、更には常態でのアウトガス量が多くなっている。また、比較例2のサンプルでは、常態でのアウトガスの発生は少ないものの、γ線暴露による特性変化が大きく、粘着物質の溶出も見られる。また、比較例3のサンプルは、実施例1と同一の組成及び製造条件でありながら、洗浄処理されていないためアウトガス量が多くなっている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1のサンプルのγ線照射時間とガス放出速度との関係を示すグラフである。
【図2】比較例1のサンプルのγ線照射時間とガス放出速度との関係を示すグラフである。
【図3】比較例2のサンプルのγ線照射時間とガス放出速度との関係を示すグラフである。
【図4】比較例3のサンプルのγ線照射時間とガス放出速度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が10000以下の低分子量成分の割合が1.5質量%以下であるエチレン−プロピレンゴム100重量部と、カーボンブラック50〜100重量部と、チタネート系カップリング剤0.5〜3.0重量部と、架橋剤とを含むゴム組成物を所定形状に架橋成形し、かつ、超純水で洗浄してなることを特徴とする加速器用ゴムシール材。
【請求項2】
エチレン−プロピレンゴムにおけるエチレン含有量が50〜70重量%であることを特徴とする請求項1記載の加速器用ゴムシール材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−233076(P2006−233076A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51080(P2005−51080)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】