説明

加飾シート及びそれを用いた積層体

【課題】 ポリオレフィン系基材に対する接着性に優れた加飾シート及びこれを用いた積層体を提供する。
【解決手段】 基材フィルム、絵柄層、及び変性ポリオレフィンを含む接着層からなる加飾シートであって、該接着層が変性ポリオレフィンの水分散体又は非水分散体を塗布し乾燥させることにより形成されてなる加飾シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系成形体表面に意匠性付与又は表面保護の目的で貼り付けられる加飾シート及びこれを用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形品は機械的物性、耐熱性、耐薬品性、耐水性の点で優れるため、家庭電化製品、建築部材や自動車をはじめとする工業材料分野等で幅広く使用されている。なかでも汎用樹脂として塩化ビニル、ナイロン、PET、ポリカーボネート、ABS、ポリオレフィン等様々な樹脂が普及しているが、有害物質排出の抑制やリサイクル性といった面でポリオレフィンの使用範囲がより広がると考えられる。しかしながら一般にポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンは、分子中に極性基を持たないため低極性であり、塗装や接着が困難であるという課題がある。
【0003】
一方で、近年これらの工業材料において意匠性を高めるために木目調、布目調、金属調などさまざまに加飾した外観が求められることが多くなっており、加飾シートや、加飾シートをプラスチック成形体に積層した積層体の要求が高まっている。
例えば、特許文献1には加飾シートとして(メタ)アクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸ブチル共重合体を基材とし、アクリル樹脂/塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体の混合物からなる接着層とした加飾シートが提案されている。しかしその対象はABS樹脂成形体のような易接着性の樹脂に限られており、ポリオレフィン系成形体のような接着性の低い成形体への接着は実現していない。
【0004】
また特許文献2には接着層として末端のみを変性させたポリオレフィン化合物を用いた加飾転写シートが提案されている。具体的には該化合物をキシレンに溶解した溶液を塗布し乾燥することにより接着層を形成している。しかし、キシレン等芳香族系の溶媒は乾燥時の溶媒の揮発による環境への負荷が大きくこのような溶媒を使用せずに接着層を形成することが課題となっている。また溶液による塗布の場合、溶解できるポリオレフィンの分子量が比較的小さいものに限られるので、ポリオレフィン系成形体との接着性を高めにくい課題がある。更に溶液粘度が高くなりやすいため溶解濃度を低く抑えなければならない制限があり、大量の溶媒を使用しなくてはならない他、希薄溶液で塗布せざるを得ないため膜厚の厚い接着層を形成しにくい課題がある。また、基材との接着性や物性の改良のためにポリウレタンやポリエステルなど極性樹脂を併用したい場合にも、ポリオレフィン化合物のような疎水性の強いものの溶液に極性樹脂を混合するとうまく混合せず溶液が分離してしまいやすく、併用が困難である課題があった。
【特許文献1】特開平8−276544号公報
【特許文献2】特開2001−262084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記課題に鑑み、本発明はポリオレフィン系成形体に対する接着性に優れた加飾シート及びこれを用いた積層体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
即ち本発明は、基材フィルム、絵柄層、及び変性ポリオレフィンを含む接着層からなる加飾シートであって、該接着層が変性ポリオレフィンの水分散体又は非水分散体を塗布し乾燥させることにより形成されてなることを特徴とする加飾シートに関する。
また本発明は、前記変性ポリオレフィンが、ポリオレフィンと極性高分子とのブロック及び/又はグラフト共重合体であり、界面活性剤含有量が変性ポリオレフィン100質量部に対し15質量部以下である加飾シートに関する。
【0007】
また本発明は、前記基材フィルムが放射線硬化樹脂からなる加飾シートに関する。
更に本発明は、ポリオレフィン系成形体上に前記加飾シートが積層されてなることを特徴とする積層体に関する。
更に本発明は、基材フィルム、絵柄層、及び変性ポリオレフィンを含む接着層からなる加飾シートの製造方法であって、基材フィルム上に絵柄層を形成した後、変性ポリオレフィンの水分散体又は非水分散体を塗布し乾燥させることにより接着層を形成することを特徴とする加飾シートの製造方法に関する。
【0008】
更に本発明は、基材フィルム、絵柄層、及び変性ポリオレフィンを含む接着層からなる加飾シートの製造方法であって、他の基材上に変性ポリオレフィンの水分散体又は非水分散体を塗布し乾燥させて接着層を形成したのち、絵柄層を形成し、放射線硬化性樹脂を塗布し硬化させて基材フィルムとした後、前記他の基材を剥離することを特徴とする加飾シートの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加飾シートの接着層を変性ポリオレフィンの水分散体又は非水分散体を塗布し乾燥させることによって形成するので、溶液の場合に比べて分子量の大きい変性ポリオレフィンを用いることができポリオレフィン系成形体との接着性を高めやすい利点がある。また分散体とすることで変性ポリオレフィンを多く分散させても粘度を低く抑えることができるので、変性ポリオレフィン濃度の高い分散体を使用でき、膜厚の厚い接着層を形成しやすい。また、分散体とすることで、変性ポリオレフィンと極性樹脂を併用しても分離することがなく、基材との接着性や物性の改良が行い易い利点がある。更にキシレン等芳香族系の溶媒を用いる必要が無く溶媒の揮発によるVOC(揮発性有機化学物質)排出が低減でき環境への負荷が小さく、安全衛生面でも好ましい。水分散体を用いれば更に環境への負荷は小さい。
【0010】
また本発明に係わる変性ポリオレフィンは極性溶媒及び水への分散性に非常に優れるので、分散粒子径が細かく、なおかつ粒径分布を狭くでき、安定に分散できる利点がある。また界面活性剤をごく少量か又は実質的に添加することなく分散できるので、界面活性剤によるブリードアウトが抑制できる利点があり、ひいては優れた外観の塗布品が得られる。しかも実質的に塩素を含まないで優れた性質の分散体を得ることができ、ダイオキシン等や毒性等の問題が無く、環境面で非常に好ましい。
【0011】
さらに、本発明に係わる接着層は基材フィルムとポリオレフィン系成形体の両方に密着性が高く、ポリオレフィン等を含有する成形体に対して良好な密着性を示し、通常接着が困難な未処理ポリプロピレンのような難接着性の成形体にも接着しうる。また耐水性、耐湿性、耐油性(耐GH性)、耐薬品性に優れる。
またこの加飾シートをポリオレフィン系成形体に積層した積層体は密着性に優れており剥離が起こりにくく幅広い工業製品に適用可能である。従って従来ポリオレフィン系成形体の適用が困難であった分野にも、有害物質排出の抑制やリサイクル性に優れたポリオレフィン系成形体を用いることができる。
【0012】
なお本発明においては必ずしもすべての効果を発現することを必須とするものではなく、上記した1以上の効果があればよいものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の加飾シートは、基材フィルム、絵柄層、及び変性ポリオレフィンを含む接着層からなる加飾シートであって、該接着層が変性ポリオレフィンの水分散体又は非水分散体を塗布し乾燥させることにより形成されてなる。
本発明の変性ポリオレフィン(II)は、実質的に塩素を含まない非塩素化ポリオレフィンであって、ポリオレフィン(IIA)に、極性高分子(IIB)が結合してなるか又は酸性基が結合してなる重合体(IIC)である。即ち非塩素化ポリオレフィンに極性高分子を所定割合で結合させるか酸性基を結合させた重合体である。このような重合体は水や極性溶媒への分散性に非常に優れるので、界面活性剤を全く用いないかごく少量用いることで、分散粒子径が細かく、かつ粒径分布が狭く、粒子が安定的に分散した水分散体や非水分散体を得ることができる。
【0014】
変性ポリオレフィンを水に分散させたものを水分散体、変性ポリオレフィンを水以外の溶媒、通常極性溶媒に分散させたものを非水分散体と称する。
なお本発明において分散とは、分散粒子が極めて小さく単分子で分散している状態、実質的には溶解と言えるような状態を含む概念である。
以下、より詳細に説明する。
【0015】
[1]ポリオレフィン(IIA)
ポリオレフィン(IIA)としては、公知の各種ポリオレフィンを用いることができ、特に限定されないが、例えば、エチレン又はプロピレンの単独重合体、エチレン及びプロピレンの共重合体、エチレン又は/及びプロピレンとその他のコモノマー、例えばブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、シクロペンテン、シクロヘキセン、及びノルボルネンなどの炭素数2以上のα−オレフィンコモノマーとの共重合体、もしくはこれらコモノマーの2種類以上の共重合体を用いることができる。
【0016】
α−オレフィンコモノマーとして好ましくは炭素数2〜6のα−オレフィンコモノマーである。またα−オレフィンモノマーと酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどのコモノマーとの共重合体、芳香族ビニルモノマーなどのコモノマーとの共重合体又はその水素添加体、共役ジエンブロック共重合体の水素添加体、なども用いることができる。なお単に共重合体という場合はランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0017】
ポリオレフィン(IIA)として具体的には、例えば、プロピレン重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック体の水素添加物(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック体の水素添加物(SEPS)などである。好ましくはプロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体であり、更に好ましくはプロピレン−ブテン共重合体である。
【0018】
ポリオレフィン(IIA)は、GPC(Gel Permeation Chromatography)で測定し各々のポリオレフィンの検量線で換算した重量平均分子量Mwが1,000〜500,000であることが好ましい。下限値のより好ましい値は10,000、さらに好ましくは30,000、特に好ましくは50,000である。上限値のより好ましい値は300,000、さらに好ましくは250,000、特に好ましくは200,000である。Mwが下限値より高いほどべたつき度合いが小さくなり基材への密着性が増す傾向があり、また上限値より低いほど粘度が低くなり樹脂分散体の調製が容易になる傾向がある。なおGPC測定は、オルトジクロロベンゼンなどを溶媒として、市販の装置を用いて従来公知の方法で行われる。
【0019】
ポリオレフィン(IIA)の、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比で表される分子量分布Mw/Mnは、10以下が好ましく、さらに好ましくは5以下であり、さらに好ましくは3以下である。これは分子量分布が狭く、共重合体の分子量が均一に揃っていることを意味するが、このような共重合体(IIA)を用いることで、水への分散時の粒径制御がしやすくなり、分散粒径が小さく、粒径分布が狭く、かつ安定に分散した樹脂分散体が得られる利点がある。好ましくはMw/Mnが3.0以下である。但し通常、1.0以上である。
【0020】
ポリオレフィン(IIA)は融点Tmが120℃以下であることが好ましい。より好ましくは110℃以下であり、更に好ましくは100℃以下である。融点Tmが120℃より低いほど、結晶性が低く溶媒への溶解性が向上し、乳化・分散作業が低温で行いやすくなるため好ましい。但し、ポリオレフィン(IIA)の融点Tmは通常、25℃以上であり、好ましくは35℃以上である。高耐熱性、高硬度、べたつきのなさなどの点で遊離である。
【0021】
好ましくはポリオレフィン(IIA)のプロピレンの含有率が50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上である。通常、プロピレンの含量が高いほどポリプロピレン基材への密着性が増す傾向がある。
ポリオレフィン(IIA)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
ポリオレフィン(IIA)の製法については、本発明の要件を満たす重合体を製造できれば特に限定されず、いかなる製法であってもよい。例えばラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合などが挙げられ、それぞれリビング重合的であってもよい。
また配位重合の場合は、例えばチーグラー・ナッタ触媒により重合する方法又はシングルサイト触媒又はカミンスキー触媒により重合する方法が挙げられる。好ましい製法としては、シングルサイト触媒による製造方法を挙げることができる。この理由としては、一般にシングルサイト触媒はリガンドのデザインにより反応を精密に制御しやすく、分子量分布や立体規則性分布がシャープな重合体が得られ、チーグラー・ナッタ触媒による重合体に比べて融点が低いので、この重合体を用いた樹脂分散体は塗装後の焼き付け温度を下げることができるためである。シングルサイト触媒としては、例えばメタロセン触媒、ブルックハート型触媒を用いうる。メタロセン触媒ではC対称型、C対称型、C2V対称型、C対称型など、重合するポリオレフィンの立体規則性に合わせて好ましい触媒を選択すればよい。好ましくはC対称型、C対称型のメタロセン触媒を用いることができる。
【0023】
また重合は溶液重合、スラリー重合、バルク重合、気相重合などいずれの重合形態でもよい。溶液重合やスラリー重合の場合、溶媒としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ヘキサン、オクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式脂肪族系炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒類などが挙げられる。なかでも芳香族系炭化水素、脂肪族系炭化水素、及び脂環族系炭化水素が好ましく、より好ましくはトルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、及びシクロヘキサンである。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
[2]ポリオレフィン(IIA)に酸性基が結合してなる重合体(IIC1)
本発明における酸性基とは電子対受容性の基を指し、特に限定されないが例えば、カルボン酸基(−COOH)、スルホ基(−SOH)、スルフィノ基(−SOH)、ホスホノ基(−POH)などが挙げられる。中でもカルボキシル基が好ましい。カルボン酸基は、水に分散される前はジカルボン酸無水物基(−CO−O−OC−)の状態でもよい。カルボン酸基としては、例えば、(メタ)アクリル酸基、フマル酸基、マレイン酸基又はその無水物基、イタコン酸基又はその無水物基、クロトン酸基などが挙げられる。
【0025】
酸性基の結合量は、ポリオレフィン(IIA)1g当たり0.4〜5mmol、即ち0.4〜5mmol/gの範囲にある事が好ましい。より好ましい下限値は0.6mmol/gであり、更に好ましい下限値は0.8mmol/gである。より好ましい上限値は3mmol/gであり、更に好ましい上限値は1.6mmol/gである。下限値より高いほど重合体(IIC1)の極性が増し親水性が増すため分散粒子径が小さくなる傾向にあり、上限値より低いほど基材である結晶性のポリオレフィンに対する密着性が増す傾向にある。なお、ジカルボン酸無水物基は基中にカルボン酸基を2つ含むとみなせるので、ジカルボン酸無水物基1モルは反応性基2モルと数える。
【0026】
ポリオレフィン重合体(IIC1)の製法については、[3−1]で後述する、ポリオレフィン(IIA)に反応性基が結合してなる共重合体(IIA2)の製造方法と同様の方法を用いうる。
【0027】
[3]ポリオレフィン(IIA)に極性高分子(IIB)が結合してなる重合体(IIC2)
ポリオレフィン(IIA)と極性高分子(IIB)の比率は通常、(IIA):(IIB)=100:5〜100:500重量部である。この範囲より極性高分子(IIB)の比率が小さいと、重合体(IIC2)が水中で良好に分散せず、分散粒子径が非常に大きく凝集するか分離してしまう。逆にこの範囲より極性高分子(IIB)の比率が大きいと、ポリオレフィン系成形体との密着性が悪くなってしまう。
【0028】
ポリオレフィン(IIA)と極性高分子(IIB)を結合させ重合体(IIC2)を製造する方法としては、通常、ポリオレフィン(IIA)存在下で極性モノマーを重合してポリオレフィン(IIA)に結合した極性高分子(IIB)を形成する方法(R1)、又は予め重合した極性高分子(IIB)をポリオレフィン(IIA)に結合させる方法(R2)が挙げられ、ポリオレフィン(IIA)や極性高分子(IIB)の種類及び組合せ、目的とする重合体(IIC2)の特性等に応じて適宜選択すればよい。またポリオレフィン(IIA)に直接極性高分子(IIB)を結合させてもよいし、以下に述べるポリオレフィン(IIA)に反応性基が結合してなる重合体(IIA2)を用い、これに極性高分子(IIB)を結合させてもよい。
【0029】
[3−1]ポリオレフィン(IIA)に反応性基が結合してなる共重合体(IIA2)
反応性基を有するポリオレフィン(IIA2)としては、例えば、重合時に反応性基を有しない不飽和化合物と反応性基を有する不飽和化合物とを共重合した共重合体(IIA2a)、又は、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をポリオレフィン(IIA)にグラフト重合した重合体(IIA2b)、不飽和末端基を持つポリオレフィン共重合体を13族〜17族の元素基等に変換した重合体(IIA2c)を用いることができる。
【0030】
共重合体(IIA2a)は、反応性基を有しない不飽和化合物と、反応性基を有する不飽和化合物とを共重合して得られ、反応性基を有する不飽和化合物が主鎖に挿入された共重合体である。例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等のα−オレフィンと、アクリル酸、無水マレイン酸等のα、β−不飽和カルボン酸又は無水物とを共重合体して得られる。共重合体(IIA2a)として具体的には、例えばプロピレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体などが使用できる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。製造方法は[1]で述べた方法を同様に用いることができる。
【0031】
重合体(IIA2b)は、予め重合したポリオレフィン(IIA)に、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をグラフト重合して得られ、反応性基を有する不飽和化合物は主鎖にグラフトされている。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンに(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸又はその無水物、イタコン酸又はその無水物、クロトン酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルや(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸(ジメチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸(2−イソシアナト)エチル等をグラフトした重合体である。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお(メタ)アクリル酸とはアクリル酸とメタクリル酸の総称であり、他もこれに準ずる。
【0032】
本反応のポリオレフィン(IIA)としては、上述の共重合体(IIA2a)を使用することができる。
重合体(IIA2b)として具体的には、例えば無水マレイン酸変性ポリプロピレン及びその塩素化物、無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体及びその塩素化物、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体、アクリル酸変性プロピレン−エチレン共重合体及びその塩素化物、アクリル酸変性プロピレン−ブテン共重合体などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
グラフト重合に用いるラジカル重合開始剤としては、通常のラジカル開始剤から適宜選択して使用することができ、例えば有機過酸化物、アゾニトリル等を挙げることができる。有機過酸化物としては、ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどのパーオキシケタール類、クメンヒドロパーオキシドなどのハイドロパーオキシド類、ジ(t−ブチル)パーオキシドなどのジアルキルパーオキサイド類、ベンゾイルパーオキシドなどのジアシルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナートなどのパーオキシエステル類が使用できる。アゾニトリルとしてはアゾビスブチロニトリル、アゾビスイソプロピルニトリル等が挙げられる。なかでもベンゾイルパーオキシド及びt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナートが特に好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ラジカル重合開始剤とグラフト共重合単位の使用割合は、通常、ラジカル重合開始剤:グラフト共重合単位=1:100〜2:1(モル比)の範囲である。好ましくは1:20〜1:1の範囲である。
反応温度は、通常50℃以上であり、好ましくは80〜200℃の範囲が好適である。反応時間は、通常2〜20時間程度である。
【0035】
重合体(IIA2b)の製法については、本発明の要件を満たす重合体を製造できれば特に限定されず、いかなる製法であってもよい。例えば、溶液中で加熱攪拌して反応する方法、無溶媒で溶融加熱攪拌して反応する方法、押し出し機で加熱混練して反応する方法等が挙げられる。溶液中で製造する場合の溶媒としては、[1]で挙げた溶媒を同様に用いることができる。
【0036】
重合体(IIA2c)としては、例えば、特開2001−288372号に記載されているように末端二重結合を有するポリオレフィン(IIA)の二重結合部をホウ素基、アルミニウム基のような13族元素基に変換したポリオレフィン(IIA2c1)や、特開2005−48172号に記載されているように末端二重結合を有するポリオレフィンの二重結合部をハロゲン元素に変換したポリオレフィン(IIA2c2)や、特開2001−98140号に記載されているように末端二重結合を有するプロピレン系重合体の二重結合部をメルカプト基に変換したポリオレフィン(IIA2c3)を用いることができる。
【0037】
二重結合を持つポリオレフィン(IIA)の製造方法は、例えば、オレフィン重合時にα−水素脱離を起こす方法や、プロピレン系重合体を高温で熱分解させる方法などが挙げられる。
二重結合部をホウ素基やアルミニウム基に変換する方法としては、例えば、二重結合に有機ホウ素化合物や有機アルミニウム化合物を溶媒中で反応させる方法が挙げられる。
【0038】
二重結合部をハロゲン元素に変換する方法としては、例えば、上記有機ホウ素基を持つポリオレフィン(IIA2c1)に塩基と過酸化水素水を反応させることにより水酸基を持つプロピレン系重合体に変換した後、ハロゲン基含有酸ハロゲン化物を反応させて、ハロゲン基含有エステル基に変換する方法などがある。
二重結合部をメルカプト基に変換する方法としては、例えば、チオ酢酸をラジカル開始剤存在下反応させた後、塩基で処理する方法などがある。
【0039】
重合体(IIA2c)の製法については、本発明の要件を満たす重合体を製造できれば特に限定されず、いかなる製法であってもよいが、溶液中で加熱攪拌して反応させる方法が好ましく用いられる。溶液中で製造する場合の溶媒としては、[1]で挙げた溶媒を同様に用いることができる。
反応性基を結合してなる共重合体(IIA2a)及び(IIA2b)中の反応性基の含有量は、ポリオレフィン1g当たり0.01〜5mmol、即ち0.01〜5mmol/gの範囲にあることが好ましい。より好ましい下限値は0.05mmol/gであり、さらに好ましくは0.1mmol/gであり、特に好ましくは0.15mmol/gである。より好ましい上限値は1mmol/gであり、更に好ましくは0.8mmol/gであり、特に好ましくは0.5mmol/gである。
【0040】
反応性基を結合してなる共重合体(IIA2c)中の反応性基の含有量は、その製法から通常ポリマー1分子当たり1反応性基以下となり、1/数平均分子量Mn(mol/g)以下であり、共重合体(IIA2a)及び(IIA2b)に比して低くなる傾向がある。従ってポリオレフィン1g当たり0.004〜2mmol/gの範囲にあることが好ましい。より好ましい下限値は0.005mmol/gである。より好ましい上限値は0.2mmol/gである。
【0041】
下限値より高いほど極性高分子(IIB)の結合量が増し重合体(IIC)の親水性が増すため分散粒子径が小さくなる傾向にあり、上限値より低いほど、基材である結晶性のポリオレフィンに対する密着性が増す傾向にある。なお、ジカルボン酸無水物基は基中にカルボン酸基を2つ含むとみなせるので、ジカルボン酸無水物基1モルは反応性基2モルと数える。
【0042】
なお共重合体(IIA2)は直鎖状であっても分岐状であってもよい。共重合体(IIA2)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、ポリオレフィン(IIA)そのものと反応性基を結合してなる共重合体(IIA2)の双方を、極性高分子(IIB)との組合せや目的とする重合体(IIC)の特性等に応じて適宜用いうる。但し少なくとも、反応性基を結合してなる共重合体(IIA2)を含むことが好ましい。極性高分子(IIB)の結合量の制御がしやすく、また結合に用いうる反応が多様であるなどの利点がある。反応性基を結合してなる共重合体(IIA2)のみを使用してもよい。
【0043】
反応性基としては、例えばカルボン酸基、ジカルボン酸無水物基、及びジカルボン酸無水物モノエステル基、水酸基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、メルカプト基、ハロゲン基などが挙げられる。より好ましくはカルボン酸基、ジカルボン酸無水物基、及びジカルボン酸無水物モノエステル基からなる群より選ばれる少なくとも1種である。これらカルボン酸基等は反応性が高く極性高分子と結合が容易なだけでなく、これらの基を有する不飽和化合物も多くポリオレフィンへ共重合もしくはグラフト反応させることも容易である。
また重合体(IIA2a)、(IIA2b)、(IIA2c)のいずれも用いうるが、通常、好ましいのは重合体(IIA2b)である。極性高分子(IIB)の結合量の制御がしやすいなどの利点がある。
【0044】
[3−2]極性高分子(IIB)
以下においては、説明の簡略化のため共重合体(IIA)のみについて説明するが共重合体(IIA2)についても全く同様である。
本発明において極性高分子とは、高分子を構成する繰り返しユニット中に炭素原子、水素原子以外に酸素原子、窒素原子を有する高分子であり、かつ溶解度パラメーターSP値が9(cal/cm1/2以上の高分子とする。
溶解度パラメーターの計算方法はR.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.,14,147(1974)の記載の方法にて計算することができる。
【0045】
具体的には下記に上げる高分子を指す。ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂が使用される。
本発明に用いるポリ(メタ)アクリル樹脂は、通常、不飽和カルボン酸若しくはそのエステル又は無水物を、ラジカル重合、アニオン重合、又はカチオン重合により重合することで得られる。ポリオレフィン(IIA)との結合方法は限定されないが、例えば、ポリオレフィンの存在下でラジカル重合する方法、水酸基、アミノ基、グリシジル基、(無水)カルボン酸基等の反応性基を有するポリ(メタ)アクリル樹脂を、反応性基を有するポリオレフィン重合体と反応させる方法、等が挙げられる。
【0046】
ポリ(メタ)アクリル樹脂を形成するモノマーとしては、例えば炭素原子数1〜12のアルキル基、アリール基又はアリールアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーや、炭素原子数1〜12の炭化水素基を有する重合性ビニルモノマー、炭素原子数1〜12の親水性モノマーなどが挙げられる。
炭素原子数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシルが挙げられる。
【0047】
炭素原子数1〜12のアリール基又はアリールアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
炭素原子数1〜12の炭化水素基を有する重合性ビニルモノマーとしては酢酸ビニルやスチレンモノマー等が挙げられる。
【0048】
炭素原子数1〜12の親水性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル四級化物、(メタ)アクリルアミドが挙げられる。好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、酢酸ビニルが挙げられる。
【0049】
又は、ラジカル重合性不飽和化合物をラジカル重合開始剤の存在下で重合して高分子を形成するとともにポリオレフィン(IIA)に結合させ、次いで極性高分子(IIB)と変性することもできる。例えば(メタ)アクリル酸t−ブチルを重合後、酸性下で加水分解しポリ(メタ)アクリル酸に変性する方法、酢酸ビニルを重合後、ケン化してポリビニルアルコールに変性する方法などが挙げられる。この場合ポリオレフィン(IIA)としては反応性基を結合してなるポリオレフィン(IIA2)も用いうるが、通常は反応性基を有しないポリオレフィン(IIA)を用いる。
【0050】
ポリビニルアルコール樹脂は、通常、酢酸ビニルを重合させポリ酢酸ビニルを得た後、ケン化することで得られる。ケン化度は完全ケン化でも部分ケン化でもよい。
ポリビニルピロリドン樹脂は、通常、ビニルピロリドンを重合させることで得られる。
ポリエステル樹脂は、通常、ジオールとジカルボン酸の縮合重合、もしくはラクトンの開環重合で得ることができる。変性オレフィン系重合体は、反応性基を有するオレフィン系重合体存在下縮合重合でラクトンを開環重合する方法、もしくは多価アルコールと多塩基酸を縮合重合させる方法、反応性基を有するポリエステル樹脂と高分子反応させる方法で得ることが出来る。
【0051】
ポリウレタン樹脂は、一般に、有機ジイソシアネートとポリオール及び鎖延長剤とで縮合重合で得られる。変性オレフィン系重合体は、反応性基を有するオレフィン系重合体存在下、有機ジイソシアネートとポリオール及び鎖延長剤とで縮合重合する方法、反応性基を有するポリウレタン樹脂と高分子反応させる方法で得ることができる。
ポリアミド樹脂は、例えば、ラクタムの開環重合もしくはジアミンとジカルボン酸で得ることが出来る。変性オレフィン系重合体は、反応性基を有するオレフィン系重合体中でラクタムを開環重合する方法、もしくはジアミンとジカルボン酸を縮合重合する方法、反応性基を有するポリアミドと反応性基を有するオレフィン系重合体とを反応する方法等で製造することができる。
【0052】
ポリカーボネート樹脂は、通常、ビスフェノールとジアルキル又はジアリールエステルのエステル交換反応で得ることができる。変性オレフィン系重合体は、反応性基を有するオレフィン系重合体存在下でビスフェノールとジアルキル又はジアリールエステルを反応させる方法、反応性基を有するポリカーボネート樹脂と反応性基を有するオレフィン系重合体とを反応する方法等で製造することができる。
【0053】
エポキシ樹脂は、一般に、塩基存在下、フェノール誘導体とエピクロルヒドリンとの反応により得ることが出来る。変性オレフィン系重合体は、反応性基を有するオレフィン系重合体存在下、フェノール誘導体とエピクロルヒドリンを反応させる方法、エポキシ樹脂と反応性基を有するオレフィン系重合体とを反応する方法等で製造することができる。
メラミン樹脂は、例えば、メラミンとホルムアルデヒドとの反応により得ることが出来る。変性オレフィン系重合体は、反応性基を有するオレフィン系重合体存在下でメラミンとホルムアルデヒドを反応させる方法、反応性基を有するメラミン樹脂と反応性基を有するオレフィン系重合体とを反応する方法等で製造することができる。
【0054】
アルキッド樹脂は、一般に、多価アルコールと多塩基酸との反応により得ることが出来る。変性オレフィン系重合体は、反応性基を有するオレフィン系重合体存在下、多価アルコールと多塩基酸を反応させる方法、反応性基を有するアルキッド樹脂と反応性基を有するオレフィン系重合体とを反応する方法等で製造することができる。
ポリエーテル樹脂は、通常、環状アルキレンオキサイド又は環状アルキレンイミンを開環重合することで得られる。ポリオレフィン(IIA)との結合方法は限定はされないが、例えば、反応性基を有する共重合体(IIA2)中で環状アルキレンオキサイドを開環重合する方法、開環重合等により得られたポリエーテルポリオールやポリエーテルアミンなどの反応性基を有する極性高分子を、反応性基を有する共重合体(IIA2)と反応する方法、等が挙げられる。
【0055】
ポリエーテルアミンは、ポリエーテル骨格を有する樹脂の片末端又は両末端に、反応性基としての1級アミノ基を有する化合物である。ポリエーテルポリオールはポリエーテル骨格を有する樹脂の両末端に、反応性基としての水酸基を有する化合物である。
親水性を示すポリアルキレンオキサイドやポリアルキレンイミンとして好ましくは、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミンが挙げられる。
【0056】
又はポリエーテルアミンとしては、ハンツマン社製ジェファーミンMシリーズ、Dシリーズ、EDシリーズなどを使用してもよい。
本発明に用いる極性高分子(IIB)はポリオレフィン(IIA)との結合前に、これと反応しうる反応性基を1以上有しているのが好ましい。反応性基としては、例えばカルボン酸基、ジカルボン酸無水物基、及びジカルボン酸無水物モノエステル基、水酸基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基などが挙げられるが、好ましくは少なくともアミノ基を有する。アミノ基はカルボン酸基、無水カルボン酸基、グリシジル基、イソシアネート基など多種の反応性基と反応性が高いのでポリオレフィンと極性高分子を結合させることが容易である。アミノ基は1級、2級、3級のいずれでもよいが、より好ましくは1級アミノ基である。
【0057】
反応性基は1以上あればよいが、より好ましくは反応性基を1つのみ有する。反応性基が2以上あると、ポリオレフィン(IIA)と結合させる際に3次元網目構造となりゲル化してしまう可能性がある。
ただし反応性基を複数有していても、他より反応性の高い反応性基が1つのみであればよい。例えば複数の水酸基と、それより反応性の高い1つのアミノ基を有する極性高分子は好ましい例である。ここで反応性とはポリオレフィン(IIA)の有する反応基との反応性である。
【0058】
本発明における極性高分子(IIB)は、重合体(IIC)に十分な極性を付与するためには高分子である必要があり、GPCで測定しポリスチレンの検量線で換算した重量平均分子量Mwが200以上のものとする。下限値は好ましくは300、より好ましくは500である。但し重量平均分子量Mwが200,000以下であることが好ましい。上限値のより好ましい値は100,000であり、さらに好ましくは10,000である。Mwが下限値より高いほど重合体(IIC)の極性が増し分散粒子径が小さくなり安定に分散する傾向にあり、また上限値より低いほど粘度が低く樹脂分散体を調製しやすい傾向にある。なおGPC測定は、THFなどを溶媒として、市販の装置を用いて従来公知の方法で行われる。
【0059】
ポリオレフィン(IIA)に結合している極性高分子(IIB)の量は、ポリオレフィン(IIA)1g当たり0.01〜5mmol、即ち0.01〜5mmol/gの範囲にあることが好ましい。より好ましい下限値は0.05mmol/gであり、さらに好ましくは0.1mmol/gであり、特に好ましくは0.15mmol/gである。より好ましい上限値は1mmol/gであり、更に好ましくは0.8mmol/gであり、特に好ましくは0.5mmol/gであり、最も好ましくは0.3mmol/gである。下限値より高いほど重合体(IIC)の極性が増し分散粒子径が小さくなり安定に分散する傾向にあり、上限値より低いほど、基材である結晶性のポリオレフィンに対する密着性が増す傾向にある。
【0060】
ポリオレフィン(IIA)と極性高分子(IIB)とは、ポリオレフィン(IIA)に極性高分子(IIB)がグラフト結合したグラフト共重合体、ポリオレフィン(IIA)の片末端又は両末端に極性高分子(IIB)が結合した状態を含むポリオレフィン(IIA)と極性高分子(IIB)とのブロック共重合体、とがあり得るが、好ましくはグラフト共重合体である。極性高分子(IIB)の含有量が制御しやすく、またブロック共重合体に比べて極性高分子(IIB)の含有量を上げやすい利点がある。
【0061】
極性高分子(IIB)はポリオレフィン(IIA)に対して、種々の反応形態により結合させることができる。その形態は特に限定されないが、例えば、ラジカルグラフト反応や反応性基を利用した反応である。
ラジカルグラフト反応によれば、炭素−炭素共有結合による結合が形成される。
反応性基を利用した反応は、ポリオレフィン(IIA)と極性高分子(IIB)の双方に反応性基を有していてそれらを反応させて結合させるものであり、共有結合又はイオン結合が形成される。この反応としては、例えばカルボン酸基とヒドロキシル基のエステル化反応、カルボン酸基とエポキシ基との開環反応、1級又は2級アミノ基とエポキシ基との開環反応、カルボン酸基と1級又は2級アミノ基のアミド化反応、カルボン酸基と3級アミノ基の4級アンモニウム化反応、カルボン酸基とイソシアナート基のウレタン化反応、1級又は2級アミノ基とイソシアナート基のウレタン化反応等が挙げられる。各反応の反応率は1〜100%の間で任意に選べばよく、好ましくは50〜100%、さらに好ましくは70〜100%である。カルボン酸基が二塩基酸もしくはその無水物である場合は、二塩基酸もしくはその無水物一当量に対し、一当量反応させても二当量反応させてもよい。
【0062】
[3−3]重合体(IIC2)の製造方法
ポリオレフィン(IIA)と極性高分子(IIB)を結合させ重合体(IIC)を製造する方法としては、通常、ポリオレフィンの存在下で親水性ラジカル重合性不飽和化合物を重合してポリオレフィンに結合した極性高分子(IIB)を形成する方法(R1)、又は予め重合した極性高分子(IIB)をポリオレフィンに結合させる方法(R2)がある。
【0063】
[3−3−1]重合体(IIC2)の製造方法(R1)
本方法では、ポリオレフィン存在下で、極性ラジカル重合性不飽和化合物(極性モノマー)を重合することでポリオレフィンに結合した極性高分子(IIB)を得る。極性ラジカル重合性不飽和化合物の重合方法は、例えば付加重合、縮合重合、開環重合などを用いうる。このとき重合後に極性高分子を形成しうる範囲であれば疎水性ラジカル重合性不飽和化合物を共重合させてもよい。いずれもポリオレフィンとしては、反応性基を有しないポリオレフィン(IIA)、又は反応性基を結合してなるポリオレフィン(IIA2)、ともに用いうる。
【0064】
具体的には、例えばポリオレフィン(IIA)とパーオキサイドやアゾ化合物などラジカル重合開始剤の存在下、親水性ラジカル重合性不飽和化合物をグラフト重合しポリオレフィンとポリアクリルのグラフト共重合体とする方法がある。また特開2001−288372号に記載されているように、ホウ素基、アルミニウム基のような13族元素基を末端に有するポリオレフィン(IIA2c1)と酸素の存在下、親水性ラジカル重合性不飽和化合物を重合しポリオレフィンとポリアクリルのブロック共重合体とする方法がある。更に特開2004−131620号や特開2005−48172号に記載されているように、ハロゲン原子を末端に有するポリオレフィン(IIA2c2)とハロゲン化銅、ハロゲン化ルテニウム等を用い、原子移動リビングラジカル法でプロピレン系重合体とポリアクリルのブロック共重合体とする方法がある。また特開2001−98140号に記載されているように、末端にメルカプト基を有するポリオレフィンの存在下、ラジカル開始剤と親水性ラジカル重合性不飽和化合物を重合しポリオレフィンとポリアクリルのブロック共重合体とする方法、などがある。
【0065】
極性ラジカル重合性不飽和化合物としては、特に限定されないが、上記ポリ(メタ)アクリル樹脂を形成するモノマーとして挙げたモノマーを使用することができる。
反応性界面活性剤や反応性乳化剤も、水性ラジカル重合性不飽和化合物として用いることができる。例えば、特開平4−53802号公報、特開平4−50204号公報に示されるアルキルプロペニルフェノールポリエチレンオキシド付加体、アルキルジプロペニルフェノールポリエチレンオキシド付加体及びそれらの硫酸エステルの塩が挙げられる。その中でもアルキルプロペニルフェノールエチレンオキシド20モル付加体、同30モル付加体、同50モル付加体(第一工業製薬製、アクアロンRN−20,RN−30,RN−50)及びアルキルプロペニルフェノールポリエチレンオキシド10モル付加体の硫酸エステルアンモニウム塩、同20モル付加体の硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬製、アクアロンHS−10,HS−20)が用いられる。
【0066】
又は、ラジカル重合性不飽和化合物をラジカル重合開始剤の存在下で重合して高分子を形成するとともにポリオレフィン(IIA)に結合させ、次いで極性高分子(IIB)を変性することもできる。
或いは、反応性基を有するポリオレフィン(IIA2)を用い、この反応性基を開始末端として、極性開環重合モノマー等を重合して極性高分子(IIB)を得る方法がある。
【0067】
極性開環重合モノマーとしてはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エチレンイミン、トリメチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンなどが挙げられる。
これらはいずれも、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
反応方法については、本発明の要件を満たす重合体を製造できれば特に限定されず、いかなる方法であってもよい。例えば、溶液中で加熱攪拌して反応する方法、無溶媒で溶融加熱攪拌して反応する方法、押し出し機で加熱混練して反応する方法等が挙げられる。反応温度は、通常0〜200℃の範囲であり、好ましくは30〜150℃の範囲である。溶液中で製造する場合の溶媒としては、[3−1]で挙げた溶媒を同様に用いることができる。
【0069】
[3−3−2]重合体(IIC2)の製造方法(R2)
本方法では、予め重合した極性高分子(IIB)をポリオレフィン(IIA)に結合させる。この場合極性高分子(IIB)としては[3−2]で挙げたものを用いうる。
具体的には、例えば、まず極性モノマーを重合して極性高分子とする際に分子内に不飽和二重結合を残しておき、次いでラジカル重合性開始剤を用いてポリオレフィンにグラフト重合させる方法がある。この場合ポリオレフィンとしては反応性基を有するポリオレフィン(IIA2)も用いうるが、通常は反応性基を有しないポリオレフィン(IIA)を用いる。
【0070】
また、まず末端に反応性基を有する極性高分子を重合し、次いでこれを反応性基を結合してなるポリオレフィン(IIA2)に結合させる方法がある。末端に反応性基を有する極性高分子は、開始剤や連鎖移動剤として反応性基を有する化合物を用いて親水性モノマーを重合することで得られる。もしくはエポキシ化合物等の親水性開環重合モノマーを開環重合することによっても得られる。
【0071】
このとき用いうる極性モノマーとしては、[3−3−1]で挙げた各種極性モノマーを同様に用いうる。
これらはいずれも、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
反応方法については、本発明の要件を満たす重合体を製造できれば特に限定されず、いかなる方法であってもよい。例えば、溶液中で加熱攪拌して反応する方法、無溶媒で溶融加熱攪拌して反応する方法、押し出し機で加熱混練して反応する方法等が挙げられる。反応温度は、通常0〜200℃の範囲であり、好ましくは30〜150℃の範囲である。溶液中で製造する場合の溶媒としては、[3−1]で挙げた溶媒を同様に用いることができる。
【0072】
[4]重合体(IIC)の水分散体及び非水分散体の製造方法
[4−1]水分散体の製造方法
本発明に係わる重合体(IIC)を含む水分散体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、重合体(IIC)、水、及び水以外の溶媒の混合物を調製したのち、該混合物から該溶媒を除去することにより水性分散体とする方法、重合体(IIC)が溶融する温度以上で溶融させた後に水を添加して分散体とする方法、などが挙げられる。好ましくは前者である。前者の方法によれば粒径の細かい水分散体が得られやすい。
【0073】
混合物を調製する際は必要に応じ加熱してもよい。温度は、通常30〜150℃である。水分散体における水以外の溶媒の比率は、最終的には通常50%以下とする。好ましくは20%以下とし、さらに好ましくは10%以下とし、特に好ましくは1%以下とする。
なかでも、重合体(IIC)に水以外の溶媒を加え、必要に応じ加熱して溶解させた後に水を添加する方法ではより粒径の細かい水分散体が作りやすく、更に好ましい。溶媒への溶解時、又は水の添加時の温度は、通常30〜150℃である。また水以外の溶媒に一旦溶解する場合は、水を添加した後に溶媒を留去してもよい。樹脂分散体における水以外の溶媒の比率は上述の通りである。
【0074】
或いは、重合体(IIC)を溶媒に溶解させた溶液に水と水以外の他の溶媒を加え、必要に応じ加熱して溶解させた後に、溶媒を留去することによっても粒径の細かい水分散体が作りやすい。水の添加時の温度は、通常30〜150℃である。樹脂分散体における水以外の溶媒の比率は上述の通りである。
本方法に用いられる水以外の溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ヘキサン、オクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式脂肪族系炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のアルコール類、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−メトキシプロパノール、2−エトキシプロパノール、ジアセトンアルコール等の2以上の官能基を持つ有機溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒類などが挙げられる。
【0075】
なかでも水に1質量%以上溶解する溶媒が好ましく、さらに好ましくは5質量%以上溶解するものであり、例えば、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、シクロヘキサノン、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノール、テトラヒドロフラン、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−メトキシプロパノール、2−エトキシプロパノール、ジアセトンアルコールが好ましい。
【0076】
溶媒溶解状態及び溶融状態にしたのち、水を添加し樹脂分散体を製造する装置としては、特に限定されないが、例えば、撹拌装置付き反応釜、一軸又は二軸の混練機などが使用できる。その際の攪拌速度は装置の選択に伴い多少異なるが、通常、10〜1000rpmの範囲である。
【0077】
[4−2]非水分散体の製造方法
本発明に係わる重合体(IIC)を含む非水分散体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、重合体(IIC)を、通常、分子内にヘテロ原子を1つ以上含む極性溶媒に一旦溶解した後に析出させ分散させる方法、芳香族溶媒など極性溶媒以外の良溶媒に溶解した後に分子内にヘテロ原子を1つ以上含む極性溶媒を添加し析出させ分散させ必要に応じ良溶媒を留去する方法などが挙げられる。
【0078】
極性溶媒又は良溶媒への溶解時、又は分子内にヘテロ原子を1つ以上含む極性溶媒の添加時の温度は、通常30〜150℃である。また極性溶媒を添加した後に良溶媒を留去してもよい。
本方法に用いられる極性溶媒としては分子内にヘテロ原子を1つ以上含むものが挙げられ、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のアルコール類、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−メトキシプロパノール、2−エトキシプロパノール、ジアセトンアルコール等の2以上の官能基を持つ有機溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の溶媒類などが挙げられる。
本方法に用いられる極性溶媒以外の良溶媒としては例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ヘキサン、オクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式脂肪族系炭化水素が挙げられる。
【0079】
[5]水分散体及び非水分散体
水分散体及び非水分散体における重合体(樹脂)の分散粒子径は、体積換算として粒径が細かい方から累積で50%の粒子径(50%粒子径、又は50%平均粒子径と称する。)を求めた場合、通常50%粒子径で10μm以下であり、好ましくは1μm以下である。本発明によれば、50%粒子径が0.5μm以下とすることができ、より好ましくは0.3μm以下、更に好ましくは0.2μm以下、最も好ましくは0.1μm以下とすることができる。同じく90%粒子径を求めた場合、更に好ましくは90%粒子径を1μm以下とすることができ、特に好ましくは0.5μm以下とすることができる。分散粒子径を小さくすることで、分散安定性を向上させ、凝集が起きにくく、より安定に分散できる。また90%粒子径と50%粒子径の比が小さくなることは、粒度分布が狭くなることを意味し結果として分散安定性が向上する。
【0080】
なお、本発明において分散とは、分散粒子が極めて小さく単分子で分散している状態、実質的には溶解と言えるような状態を含む概念である。従って、分散粒子径の下限値については特に制限はない。
本発明の樹脂分散体は、全体に対して固形分は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。また好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下であり、更に好ましくは50質量%以下であり、特に好ましくは40質量%以下である。固形分の量が少ないほど粘度が低く種々の塗布方法に適用でき使用しやすく、また分散体としての安定性も高い傾向にある。ただし、例えばプライマーや接着剤として使用する際に、塗布後の水の乾燥にあまり多量のエネルギーと時間をかけないためには固形分が多い方が好ましい。
【0081】
本発明の樹脂分散体には、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、必要に応じて水溶性樹脂又は水や極性溶媒に分散しうる樹脂を混合し使用することができる。例えば基材フィルムとの接着性や各種物性の改良、具体的には塗装外観の向上(光沢の付与、或いはツヤ消し)やタック性の低減、塗膜の強度、耐水性、耐候性、耐擦性、耐溶剤性などの改良が可能となる。例えば極性高分子(IIB)として挙げたような樹脂が使用できる。
【0082】
水や極性溶媒に分散しうる樹脂としては例えば、アクリル樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂等が挙げられる。これら樹脂と重合体(IIC)を含む樹脂分散体の形態は特に限定されない。例えば、これら樹脂と重合体(IIC)とをそれぞれ乳化して混合する方法がある。この方法では、これら樹脂からなる粒子と重合体(IIC)からなる粒子とがそれぞれ別々に形成され分散された樹脂分散体が得られる。
【0083】
樹脂の含有量は、ポリオレフィン(IIA)と上記他の樹脂との質量比が90:10〜10:90の範囲が好ましい。即ちポリオレフィン(IIA)と他の樹脂との合計量を100質量部として、ポリオレフィン(IIA)の量が10質量部以上が好ましく、90質量部以下が好ましい。ポリオレフィン(IIA)の量が10質量部未満では、ポリオレフィン系成形体に対する密着性が不十分となりやすい。より好ましくは15質量部以上とし、更に好ましくは20質量部以上とする。ポリオレフィン(IIA)の量が90質量部より大きいと、このような複合水性樹脂分散体から得られる塗膜の物性、具体的には塗膜の強度、耐水性、耐候性、耐擦性、耐溶剤性などが不十分となりやすい。より好ましくは85質量部以下とし、更に好ましくは80質量部以下とする。
【0084】
上記他の樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1以上の樹脂が好ましい。例えば[3−2]で挙げたものなどである。
また本発明の樹脂分散体は、通常、界面活性剤含有量が重合体(IIC)100質量部に対し15質量部以下である。即ち樹脂の分散粒子径が非常に小さく、かつ界面活性剤をごく少量か又は実質的に含まない。従来、特に水分散体においては界面活性剤を多量に用いないと分散粒径が細かく安定した分散体が得られない問題があったが、本発明の重合体(IIC)は上述の通り分散性が非常に高いので界面活性剤を多量に用いる必要がない。これにより、本樹脂分散体を塗料として用いたときに、ブリードアウトを抑制でき外観に優れた塗装品が得られる利点があり、本樹脂分散体を塗装の最表面の塗料として用いることができる。また、塗装の耐水性や耐油性(耐GH性)を向上させることができ、得られる樹脂分散体は密着性、耐水性、耐湿性、耐油性(耐GH性)、耐薬品性のいずれにも優れたものとなる。
【0085】
界面活性剤量は少ない方が好ましく、樹脂分散体の界面活性剤含有量が、重合体(IIC)100質量部に対し10質量部以下であることが好ましい。より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。界面活性剤を実質的に含まないこともできる。実質的に界面活性剤を含まないとは重合体(IIC)100質量部に対して1質量部未満であることを言う。
【0086】
界面活性剤としては、例えばカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、反応性界面活性剤などを使用することができる。界面活性剤としては、通常、炭素数4以上のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基又はアルケニルアリール基を疎水基として有するものを用いる。好ましくは炭素数8以上であり、より好ましくは炭素数12以上である。ただし通常、炭素数30以下である。
【0087】
ノニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンセチルエ−テル、ポリオキシエチレンステアリエ−テル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエ−テル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリル硫酸エーテルナトリウムなどが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、例えばラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどが挙げられる。
【0088】
また、上記の界面活性剤がラジカル重合性官能基を有する、いわゆる反応性界面活性剤なども使用できる。反応性界面活性剤を用いた場合はこの樹脂分散体を用いて形成した皮膜の耐水性を向上できる。代表的な市販反応性界面活性剤としては、エレミノールJS−2(三洋化成工業製)、ラテムルS−180(花王製)が挙げられる。
なおノニオン性界面活性剤は他の界面活性剤に比べて耐水性を低下させにくいのでノニオン性界面活性剤は多少多めに含んでもよい。例えば重合体(IIC)100質量部に対してノニオン性界面活性剤以外の界面活性剤は5質量部以下とすべき場合、ノニオン性界面活性剤は10質量部以下としてもよい。
【0089】
また本発明によれば、塩素化ポリオレフィンを用いる必要がなく環境負荷を低減できる利点もある。
本発明の樹脂分散体には、必要に応じて酸性物質や塩基性物質を添加することができる。酸性物質としては例えば塩酸、硫酸などの無機酸、酢酸などの有機酸が挙げられる。塩基性物質として例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジエチルエタノールアミン、2−メチル−2−アミノ−プロパノールなどが挙げられる。
【0090】
本発明の樹脂分散体には、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、必要に応じて種々の添加剤を含有させることができる。例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐候安定剤、耐熱防止剤等の各種安定剤;酸化チタン、有機顔料等の着色剤;顔料、カーボンブラック、フェライト等の導電性付与剤、染料、顔料分散剤、レべリング剤、消泡剤、増粘剤、防腐剤、防かび剤、防錆剤、濡れ剤等の各種添加剤を配合使用してもよい。
【0091】
消泡剤としては例えばエアープロダクト社製のサーフィノール104PA及びサーフィノール440等が挙げられる。
また耐水性、耐溶媒性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために。架橋剤を分散体中の樹脂100重量部に対して0.01〜100重量部添加することができる。架橋剤としては自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数固有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができ、このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。またこれらの架橋剤を組み合わせて使用してもよい。
【0092】
[5]加飾シート(III)
本発明に係わる加飾シート(III)は、その基本構成として基材フィルム(III−1)、意匠性を施すための絵柄層(III−2)、及び接着層から構成される。
[5−1]基材フィルム(III−1)
基材フィルム(III−1)の素材としては、絵柄層と接着層が密着し保持できれば特に限定されないが、例えばアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂や、ポリウレタン系樹脂等の熱硬化性樹脂の硬化物、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート等の放射線硬化性樹脂の硬化物などを用いることができる。
【0093】
なかでも耐薬品性、耐汚染性等の表面特性に優れることから放射線硬化樹脂(放射線硬化性樹脂の硬化物)が好ましい。特に、成形時の追従性を求められる用途においては、架橋構造を有し、柔軟な塗膜物性を有するウレタンアクリレート系放射線硬化樹脂からなる基材フィルムが好ましい。
ウレタンアクリレートからなる基材フィルムは、通常、(a−1)有機ジイソシアネート、(a−2)ポリエーテルグリコール、ポリエステルグリコール、及びポリカーボネートグリコールから選ばれる少なくとも1種の高分子グリコール、(a−3)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、及び必要に応じて(a−4)炭素数2〜12の短鎖グリコール、を反応させることによって得られる。
【0094】
(a−1)有機ジイソシアネート
(a−1)有機ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(H12MDI)、ω,ω’−ジイソシアネートジメチルシクロヘキサン等の脂環族ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等及びこれらの2種類以上の混合物が挙げられる。なかでも、耐候性を要求される用途ではIPDI、H12MDIが好ましく、機械的強度が求められる用途ではTDI、MDIが好ましい。
【0095】
(a−2)高分子グリコール
(a−2)高分子グリコールとしては、例えば、ポリエーテルグリコール、ポリエステルグリコール、ポリエーテルエステルグリコール、ポリカーボネートグリコール等が挙げられる。ポリエーテルグリコールとしては環状エーテルを開環重合して得られるもの、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0096】
ポリエステルグリコールとしてはジカルボン酸(コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸等)又はその無水物と低分子量ジオール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ポリテトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,3−ヘキサングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等)との重縮合によって得られるもの、例えばポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリブチレンセバケート等、低分子量ジオールへのラクトンの開環重合によって得られるもの、例えばポリカプロラクトン、ポリメチルバレロラクトン等が挙げられる。
【0097】
ポリエーテルエステルグリコールとしてはポリエステルグリコールに環状エーテルを開環重合したもの、ポリエーテルグリコールとジカルボン酸とを重縮合したもの、例えばポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペート等が挙げられる。
ポリカーボネートグリコールとしては低分子量ジオールとアルキレンカーボネート又はジアルキルカーボネートとから脱グリコール又は脱アルコールによって得られるポリブチレンカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン)カーボネート等及びこれらの共重合体が挙げられる。
【0098】
なかでも、耐候性が要求される用途で好ましいのはポリカーボネートグリコールである。
更に、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲内で上記高分子グリコールと併用して、ポリオレフィンポリオール、シリコンポリオール等を用いることもできる。ポリオレフィンポリオールとしてはポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等が挙げられる。シリコンポリオールとしてはポリジメチルシロキサンポリオール等が挙げられる。高分子グリコールの分子量は下限値が通常200以上、好ましくは500以上であり、上限値が通常10000以下、好ましくは4000以下、更に好ましくは2000以下である。分子量が小さすぎると得られる活性エネルギー線硬化樹脂シートの柔軟性に乏しく、大きすぎるとウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの粘度が著しく増加し作業性が低下する傾向がある。
【0099】
(a−3)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート
(a−3)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、その分子末端に(a−1)有機ジイソシアネートに由来するイソシアネート基が反応することによって、ラジカル反応性を付与する作用を有する。その具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとカプロラクトンの付加物、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートとカプロラクトンの付加物が挙げられ、これらは、1種単独又は2種以上を併用して用いることができる。なかでも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0100】
(a−4)炭素数2〜12の短鎖グリコール
(a−4)炭素数2〜12の短鎖グリコールは必須ではなく必要に応じて用いられる。その具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ポリテトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,3−ヘキサングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチルテレフタレート、ビスフェノール−A等の芳香族ジオール、N−メチルジエタノールアミン等のジアルカノールアミンなど、及びこれらの2種類以上の混合物が挙げられる。また、トリメチロールプロパン、グリセリン等のポリオール類も本発明の効果を妨げない範囲内で一部併用することができる。
【0101】
ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの製造方法としては、(1)有機ジイソシアネート(a−1)と高分子グリコール(a−2)、及び必要に応じて短鎖グリコール(a−4)とをNCO過剰の条件下で反応させたイソシアネート末端ウレタンプレポリマーと、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a−3)とを反応させるプレポリマー法、(2)全ての構成成分を同時に一括添加して反応するワンショット法、(3)有機ジイソシアネート(a−1)とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a−3)とを先に反応させ、分子中に(メタ)アクリロイル基とイソシアネート基とを同時に有するウレタン(メタ)アクリレートプレポリマーを合成した後、高分子グリコール(a−2)、及び必要に応じて短鎖グリコールと反応させる方法、等が挙げられる。
【0102】
基材フィルムは予め形成しておきその上に絵柄層と接着層を形成してもよいし、他の基材であるキャリアフィルム上に接着層、絵柄層、基材フィルムを順に形成しキャリアフィルムを剥離してもよい。
【0103】
[5−2]絵柄層(III−2)
絵柄層(III−2)は、公知の各種インキを用いて形成することができ、特に限定されるものではない。例えばアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂を使用した印刷インキ等を用いて、基材フィルム(III−1)上にグラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、ドライオフセット印刷、パッド印刷等の印刷方法により印刷し形成することができる。積層順序も特に制限されるものではなく、上述のように基材フィルム上に印刷することもできるし、他の基材であるキャリアフィルム上に先に絵柄層を積層し、その後基材フィルム用樹脂をグラビア印刷法、ロールコート法、コンマコート法等の公知の印刷方法又は塗工方法を用いて積層し乾燥・硬化させて基材フィルムを形成してもよい。或いは、基材フィルムが熱可塑性樹脂の場合には押出しラミネート、共押出しラミネート等のラミネート法等により積層することもできる。
【0104】
[5−3]加飾シートの製造方法
本発明の加飾シートの製造方法は特に制限されるものではなく、公知の加飾シート製造法が適用できる。
好ましい例としては、基材フィルム上に絵柄層を形成した後、変性ポリオレフィンの水分散体又は非水分散体を塗布し乾燥させることにより接着層を形成する。塗布方法としてはグラビア印刷法、ロールコート法、コンマコート法等の公知の印刷又は塗工法が用いうる。
他の好ましい例としては、他の基材上に変性ポリオレフィンの水分散体又は非水分散体を塗布し乾燥させて接着層を形成したのち、絵柄層を形成し、放射線硬化性樹脂を塗布し硬化させて基材フィルムとした後、他の基材を剥離する。この場合の塗布方法も上述のものが用いられる。
【0105】
変性ポリオレフィン(II)からなる接着層の膜厚は、乾燥後で2μm以上であるのが好ましく、より好ましくは5μm以上である。ポリオレフィン系成形体との十分な密着性を得るためである。ただし50μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以下である。塗工が容易でプロセスが簡略化できるためである。
本発明の効果をより高めるために、加飾シートをポリオレフィン系成形体に接着させる前に、別途、変性ポリオレフィン(II)を成形体表面に塗布してもよい。その適用方法としては、スプレーで塗布する方法、ローラーで塗布する方法、刷毛で塗布する方法など、従来公知の方法が使用できる。成形体への塗布は常温で行うのが好ましく、塗料を塗布した後、電熱線、赤外線、高周波等によって加熱する通常の方法に従って塗膜を硬化させて、所望の塗膜を表面に有する成形体を得ることが出来る。塗膜を硬化させる方法は、成形体の材質、形状、使用する塗料の性状等によって適宜選ばれる。良好な密着性を得るためには、塗布後に加熱させることが好ましい。加熱温度に特に制限はないが、実用性を考慮して50〜150℃、さらには60〜130℃とするのが好ましい。
【0106】
[6]積層体
[6−1]ポリオレフィン系成形体(I)
本発明に用いられるポリオレフィン系成形体(I)は、結晶性ポリオレフィンの成形体であり、エチレンもしくはプロピレンの単独重合体、又はエチレンもしくはプロピレンとその他のコモノマー例えばブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、シクロペンテン、シクロヘキセン、ノルボルネンなどの炭素数2以上、好ましくは2−6のα−オレフィンコモノマーとのランダム共重合体又はブロック共重合体又はこれらコモノマーの2種類以上の共重合体、もしくは酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステルなどのコモノマーとの共重合体、もしくは芳香族ビニルモノマー・共役ジエンブロック共重合体又はその水素添加物が使用される。これらは用途に合わせて、単独でも混合物としても使用できる。
【0107】
ポリオレフィンとしてより好ましくは結晶性ポリプロピレンである。結晶性ポリプロピレンとは、プロピレン単独重合体及び/又はプロピレン・エチレン共重合体である。ここでプロピレン・エチレン共重合体とは、プロピレン・エチレンランダム共重合体及び/又はプロピレン・エチレンブロック共重合体であり、好ましくはプロピレン・エチレンブロック共重合体である。
【0108】
ポリオレフィンは、好ましくはメルトフローレート(MFR)が2g/10分以上であり、より好ましくは10g/10分以上、特に好ましくは25g/10分である。ただし好ましくは300g/10分以下、より好ましくは200g/10分以下である。MFRが下限値より高いとポリオレフィンの流れ性が高まる傾向にある。逆にMFRが上限値より低いと機械物性が高まる傾向にある。ポリオレフィンのMFRは、重合時に調整したものであってもよく、或いは重合後にジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド等の有機過酸化物で調整したものであってもよい。
【0109】
<無機フィラー成分>
本発明に用いられるポリオレフィン系成形体(I)は無機フィラー成分を含有することができる。
特に、結晶性ポリオレフィンに無機フィラー成分を配合することにより成形体の曲げ弾性率、剛性などの機械的性質を向上させることができる。
具体的には、タルク、マイカ、モンモリロナイト等の板状フィラー;短繊維ガラス繊維、長繊維ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、ゾノライト等の繊維状フィラー;チタン酸カリウム、マグネシウムオキシサルフェート、窒化珪素、ホウ酸アルミニウム、塩基性硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、ワラストナイト、炭酸カルシウム、炭化珪素等の針状(ウイスカー)フィラー;沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の粒状フィラー;ガラスバルーンのようなバルン状フィラー、等である。亜鉛華、チタン白、硫酸マグネシウム等の無機充填剤や顔料も使用できる。なかでも物性とコストのバランスからタルク、マイカ、ガラス繊維、ウイスカーが好ましく、より好ましくはタルク、マイカ、ガラス繊維である。
【0110】
無機フィラー成分は、界面活性剤、カップリング剤等で表面処理を施されていてもよい。表面処理したフィラーは成形品の強度や耐熱剛性をさらに向上させる効果を有する。
無機フィラー成分の使用量は、成形品の目的や用途によって広い範囲から選択されるが、結晶性ポリオレフィン100質量部に対し、好ましくは1〜80質量部、より好ましくは2〜75質量部、更に好ましくは5〜60質量部である。
【0111】
無機フィラー成分を含有させることにより、結晶性ポリオレフィンの曲げ弾性率は、好ましくは1000MPa以上、より好ましくは1500〜10000MPa、更に好ましくは2000〜8000MPaに改善することができる。またIZOD衝撃強度は、好ましくは1kJ/m2以上、より好ましくは2〜80kJ/m2、更に好ましくは4〜60kJ/m2に改善できる。
無機フィラー成分は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0112】
<エラストマー成分>
本発明に用いられるポリオレフィン系成形体(I)が結晶性ポリオレフィン成形体である場合、更に、エラストマー成分を含有させることができる。これにより成形体の耐衝撃強度を向上させることができる。
エラストマー成分としては、エチレン−α−オレフィンランダム共重合ゴム、エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体ゴム、スチレン含有熱可塑性エラストマー等が挙げられる。具体例としては、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−1−ブテン共重合体ゴム、エチレン−1−ヘキセン共重合体ゴム、エチレン−1−オクテン共重合体ゴム等のエチレン−α−オレフィン共重合体ゴム;エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体ゴム(EPDM)等のエチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体ゴム;スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック体の水素添加物(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック体の水素添加物(SEPS)等のスチレン含有熱可塑性エラストマーが例示できる。
【0113】
これらのエラストマーは下記のように製造することができる。
これらエラストマー成分のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、本発明の主要用途の一つである自動車外装材を考慮した場合、好ましくは0.5〜150g/10分、より好ましくは0.7〜100g/10分、更に好ましくは0.7〜80g/10分である。
エラストマー成分は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0114】
<その他の成分>
またポリオレフィン系成形体(I)は、上記以外に、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、任意の添加剤や配合成分を含有することができる。具体的には、着色するための顔料、フェノール系、イオウ系、リン系などの酸化防止剤、帯電防止剤、ヒンダードアミン等光安定剤、紫外線吸収剤、有機アルミ・タルク等の各種核剤、分散剤、中和剤、発泡剤、銅害防止剤、滑剤、難燃剤、ポリエチレンの樹脂、などを挙げることができる。
【0115】
[6−2]ポリオレフィン系成形体(I)の製造方法
ポリオレフィン系成形体(I)の製造にあたっては、以上述べた樹脂に、必要に応じて各種成分を配合し、混合及び溶融混練する。混練方法は特に限定されず、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダー等の通常の混練機を用いて混練・造粒することによって、本発明のポリオレフィン系成形体(I)を構成するポリオレフィン組成物が得られる。各成分の分散を良好にするためには、好ましくは二軸押出機を用いる。
【0116】
この混練・造粒の際には、上記各成分を同時に混練してもよく、また性能向上をはかるべく各成分を分割して混練する方法を採用することもできる。
次いで熱可塑性樹脂組成物を成形しポリオレフィン系成形体(I)を得るが、成形方法は公知の各種方法を用いることができる。
例えば射出成形(ガス射出成形も含む)、圧縮成形、射出圧縮成形(プレスインジェクション)、押出成形、中空成形、回転成形、カレンダー成形、インフレーション成形、一軸延伸フィルム成形、二軸延伸フィルム成形等が挙げられる。好ましくは射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形を用いるのが好ましく、生産性等を考慮すると射出成形が特に好ましい。
【0117】
[6−3]積層体の製造方法
これらポリオレフィン系成形体(I)に加飾シートを積層して本発明の積層体を得る方法は特に制限されるものではなく、上述の方法によってポリオレフィン系成形体を得た後に真空成形法、圧空成形法、真空・圧空成形法により加飾する方法や、加飾シートを真空成形及び/又は圧空成形によりプレフォームを形成した後、インサート成形によって加飾する方法、転写法又は同時一体成型法による加飾方法等、種々の手法が挙げられる。
【0118】
具体的には、例えば、特公昭56−45768号、特公昭60−58014、特公昭50−19132、特開平11−91041等の成形手法が例示される。
本発明の積層体(加飾成形体)は、各種工業部品分野、特に薄肉化、高機能化、大型化された各種成形品、例えばバンパー、インストルメントパネル、トリム、ガーニッシュなどの自動車部品、テレビケース、洗濯機槽、冷蔵庫部品、エアコン部品、掃除機部品などの家電機器部品、便座、便座蓋、水タンクなどのトイレタリー周りの部品、浴槽、浴室の壁、天井などの部品、排水パンなどの浴室周りの部品などの各種工業部品用成形材料として、実用に十分な性能を有している。
【実施例】
【0119】
次に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に制限されるものでは無い。
<物性測定>
(1)立体規則性
ポリプロピレンの立体規則性[mmmm]は、NMR装置(日本電子(株)製、400MHz)にて13C−NMRスペクトル測定法により測定した。試料350〜500mgを、10mmφのNMR用サンプル管中で、約2.2mlのオルトジクロロベンゼンを用いて完全に溶解させた。次いで、ロック溶媒として約0.2mlの重水素化ベンゼンを加え、均一化させた後、130℃でプロトン完全デカップリング法により測定を行った。測定条件は、フリップアングル90°、パルス間隔5T以上(Tは、メチル基のスピン格子緩和時間のうち最長の値)とした。プロピレン系重合体において、メチレン基およびメチン基のスピン格子緩和時間はメチル基のそれよりも短いので、この測定条件では、すべての炭素の磁化の回復は99%以上である。20時間以上の積算を行い測定した。
【0120】
(2)分子量
はじめに試料20mgを30mlのバイアル瓶に採取し、安定剤としてBHTを0.04質量%含有するオルトジクロロベンゼン20gを添加した。135℃に加熱したオイルバスを用いて試料を溶解させた後、孔径3μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルターにて熱濾過を行い、ポリマー濃度0.1質量%の試料溶液を調製した。次に、カラムとしてTSKgel GM H−HT(30cm×4本)及びRI検出器を装着したウォーターズ(Waters)社製GPC150CVを使用し、GPC測定を行った。測定条件としては、試料溶液のインジェクション量:500μl、カラム温度:135℃、溶媒:オルトジクロロベンゼン、流量:1.0ml/minを採用した。
【0121】
分子量の算出に際しては、標準試料として市販の単分散のポリスチレンを使用し、該ポリスチレン標準試料およびポリプロピレンの粘度式から、保持時間と分子量に関する校正曲線を作成し、プロピレン系重合体の分子量の算出を行った。
粘度式としては[η]K・Mαを使用し、ポリスチレンに対しては、K=1.38E−4、α=0.70を、プロピレン系共重合体に対してはK=1.03E−4、α=0.78を使用した。
【0122】
(3)グラフト率
重合体200mgとクロロホルム4800mgを10mlのサンプル瓶に入れて50℃で30分加熱し完全に溶解させる。材質NaCl、光路長0.5mmの液体セルにクロロホルムを入れ、バックグラウンドとした。次に溶解した重合体溶液を液体セルにいれて、日本分光(株)製FT−IR460plusを用い、積算回数32回にて赤外線吸収スペクトルを測定した。無水マレイン酸のグラフト率は、無水マレインをクロロホルムに溶解した溶液を測定し検量線を作成したものを用いて計算した。そしてカルボニル基の吸収ピーク(1780cm−1付近の極大ピーク、1750〜1813cm−1)の面積から、別途作成した検量線に基づき、重合体中の酸成分含有量を算出し、これをグラフト率(質量%)とした。
【0123】
(4)分散粒子径
日機装(株)社製マイクロトラック UPA(モデル9340 バッチ型 動的光散乱法/レーザードップラー法)を用いて測定した。分散体の密度を0.9g/cm、粒子形状を真球形、粒子の屈折率を1.50、分散媒を水、分散媒の屈折率を1.33として、測定時間120秒にて測定し、体積換算として粒径が細かい方から累積で50%粒子径、90%粒子径を求めた。
【0124】
(5)ヒートシール試験
製造例1に記載したポリオレフィン成型シートにテスター産業(株)社製 ヒートシールテスター TP−701を用い加飾シートを温度100℃、荷重1kgf/cm、1分間加圧プレスして試験片を作成した。得られた試験片を24時間、室温で放置してその後FUDOH レオメーター NRM−2003Jを用い180°ピール試験に供した。
【0125】
[製造例1:極性高分子変性ポリプロピレン水分散体の製造]
(1−1) 1,000ml丸底フラスコに、脱塩水110ml、硫酸マグネシウム・7水和物22.2gおよび硫酸18.2gを採取し、攪拌下に溶解させた。この溶液に、市販の造粒モンモリロナイト(水澤化学社製ベンクレイSL)16.7gを分散させ、2時間かけて100℃まで昇温し、100℃で2時間攪拌を行った。その後、1時間かけて室温まで冷却し、得られたスラリーを濾過してウェットケーキを回収した。回収したケーキを1,000ml丸底フラスコにて、脱塩水500mlにて再度スラリー化し、濾過を行った。この操作を2回繰り返した。最終的に得られたケーキを、窒素雰囲気下110℃で終夜乾燥し、化学処理モンモリロナイト13.3gを得た。
【0126】
得られた化学処理モンモリロナイト4.4gに、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(0.4mmol/ml)20mlを加え、室温で1時間攪拌した。この懸濁液にトルエン80mlを加え、攪拌後、上澄みを除いた。この操作を2回繰り返した後、トルエンを加えて、粘土スラリー(スラリー濃度=99mg粘土/ml)を得た。
別のフラスコに、トリイソブチルアルミニウム(東ソー・アクゾ社製)0.2mmolを採取し、ここで得られた粘土スラリー19ml及びジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4−ジメチル−4H−1−アズレニル)ハフニウム131mg(57μmol)のトルエン希釈液を加え、室温で10分間撹拌し、触媒スラリーを得た(触媒の製造方法等については特開2004−002310を参照)。
【0127】
(1−2) 内容積24リッターの誘導攪拌式オートクレーブ内に、トルエン(11L)、トリイソブチルアルミニウム(3.5mmol)及び液体プロピレン(2.64L)を導入した。室温で、製造例(1−1)で得られた触媒スラリーを全量導入し、67℃まで昇温し重合時の全圧を0.65MPaで一定に保持し、同温度で2時間攪拌を継続した。攪拌終了後、未反応プロピレンをパージして重合を停止した。オートクレーブを開放してポリマーのトルエン溶液を全量回収し、溶媒ならびに粘土残渣を除去したところ、10.9質量%のプロピレン重合体トルエン溶液を11kg(1.2kgプロピレン重合体)が得られた。得られたポリプロピレンの分子量はMw191,000、立体規則性[mmmm]は45.8%であった。
【0128】
(1−3) 還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、トルエン(650g)、製造例(1−2)で得られたポリプロピレン(350g)、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温した。昇温後無水マレイン酸(14g)を加え、パーブチルI(t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート、日本油脂社製)(4.7g)を加え10時間同温度で攪拌を続けて反応を行った。反応終了後、系を室温付近まで冷却し、アセトンを加えて、沈殿したポリマーを濾別した。さらにアセトンで沈殿・濾別を繰り返し、最終的に得られたポリマーをアセトンで洗浄した。洗浄後に得られたポリマーを減圧乾燥することにより、白色粉末状の変性ポリマーが得られた。この変性ポリマーの赤外線吸収スペクトル測定を行った結果、無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は、1.25重量%(0.125mmol/g)であった。またGPC測定の結果、重量平均分子量は120,000であった。
【0129】
(1−4) 還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に製造例(1−3)で合成した無水マレイン酸変性ポリプロピレン30g(無水マレイン酸基の含量3.75mmol)とトルエン60gを加え、温度を110℃に昇温し完全に溶解した。ハンツマン社製ポリエーテルアミン ジェファーミンM−1000(メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミン:分子量1000)7.5g(7.5mmol)をトルエン10gに溶解した溶液を加え110℃で3時間反応させた。冷却後トルエンを減圧留去し、黄色のポリマー37gを得た。得られた生成物の赤外吸収スペクトル分析を行った結果、1784cm−1付近の無水マレイン酸に相当するピークは消滅し、完全に無水マレイン酸変性ポリプロピレンとポリエーテルアミンは結合していた。
【0130】
得られた黄色ポリマー25gにTHF75gを加え60℃で完全に溶解させた。純水84gを同温度で1時間かけて滴下し霞ある黄色溶液を得た。温度を40℃に冷却し、減圧度0.03MPaから0.0045MPaまで徐々に減圧度を下げて濃度25重量%になるまで減圧留去し淡黄乳白色の水分散体を得た。
【0131】
分散粒子径を測定した結果50%平均粒子径0.05μmであった。
[製造例2:無水マレイン酸変性ポリプロピレン溶液の製造]
(2−1) 製造例(1−1)と同様にして触媒スラリーを得た。
(2−2) 内容積24リッターの誘導攪拌式オートクレーブ内に、トルエン11L、トリイソブチルアルミニウム3.5mmolおよび液体プロピレン2.64Lを導入した。室温で、上記触媒スラリーを全量導入し、69℃まで昇温し重合時の全圧を0.65MPaで一定に保持し、水素をゲージ系内に8000ppm導入し、同温度で2時間攪拌を継続した。攪拌終了後、未反応プロピレンをパージして重合を停止した。オートクレーブを開放してポリマーのトルエン溶液を全量回収し、溶媒ならびに粘土残渣を除去したところ、12.5質量%のプロピレン重合体トルエン溶液を11kg(1.4kgプロピレン重合体)得た。得られたポリプロピレンの重量平均分子量Mwは56,000、立体規則性[mmmm]は40.6%であった。
【0132】
(2−3) 還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、トルエン500g、製造例(2−2)で得られたポリプロピレン500gを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温した。昇温後無水マレイン酸10gを加え、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(日本油脂社製パーブチルI)3.3gを加え、10時間同温度で攪拌を続けて反応を行った。反応終了後、100℃まで冷却し、メチルシクロヘキサン1500gを加え酸変性ポリプロピレンの溶液(20質量%濃度)を得た。この変性ポリマーの赤外線吸収スペクトル測定を行った結果、無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は、0.50重量%(無水マレイン酸基として0.050mmol/g、反応性基としては0.10mmol/g)であった。またGPC測定の結果、重量平均分子量は48,000であった。
【0133】
[製造例3:加飾シート基材フィルム用放射線硬化性樹脂の製造]
攪拌器、還流冷却器、滴下漏斗、温度計を取り付けた4ツ口フラスコ中にイソホロンジイソシアネート113質量部を仕込み、50℃に加熱し、攪拌しながら加熱したポリカーボネートジオール(クラレポリオールC−1090、水酸基価112KOHmg/g、(株)クラレ製)205質量部、1,9−ノナンジオール((株)クラレ製)33質量部、ジブチル錫ジオクトエート0.01質量部を約1時間で滴下した。温度を80℃に保ち4時間反応させた後、ヒドロキシエチルアクリレート26質量部、メチルハイドロキノン0.22質量部、ジブチル錫ジオクトエート0.07質量部を添加し、さらに3時間、70℃で反応した。反応の終点は赤外線吸収スペクトルの測定により、2260cm−1付近のイソシアネート基に由来するピークの消失によって確認した。その後、得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(A)に希釈モノマー(B)としてイソボルニルアクリレート274質量部、N−ビニルホルムアミド34質量部((A)/(B)=55/45重量比)を滴下希釈し、粘度19600mPa・sのウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー配合液を得た。
【0134】
[製造例4:ポリオレフィン系成形体の製造]
ポリプロピレン−エチレン共重合体樹脂(230℃、荷重21.18Nで測定したメルトフローレート:0.7g/10分、日本ポリケム社製「EG8」)60重量%とエチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴム(エチレン含有量66重量%、ジエン含有量4.5重量%、ジェイエスアール社製「EP57P」)40重量%の配合物を射出成形機(東芝機械社製IS170)を用いて、成形温度220℃の設定で、150mm×70mm×2mmの試験片を射出成形し、塗装性評価用の成形体とした。
【0135】
[加飾シート製造例1]
厚さ200μmのテフロン(登録商標)シートに、製造例1で得たポリオレフィン水分散体をバーコーターを用いて乾燥膜厚5μmになるように塗工し、80℃で10分乾燥した。更にアクリルウレタン系印刷インキを単層で厚さ5μmに塗工し、60℃で20分乾燥した。その後製造例3で得たウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー配合液をアプリケーターを用いて厚さ約100μmとなるように塗工し、アイグラフィックス社製電子線照射装置CB175を用い、酸素濃度100ppm以下の雰囲気下にて、加速電圧175KV、照射線量5Mradの条件で電子線を照射して硬化させ、テフロン(登録商標)シートを剥離し、加飾シート(1)を得た。
【0136】
[加飾シート製造例2]
厚さ120μmのアクリル樹脂シート(メチルメタクリレート−ブチルメタクリレート共重合体、ガラス転移温度105℃)を基材フィルムとし、アクリルウレタン系印刷インキを単層で厚さ5μmに塗工し、80℃で5分乾燥した。その後、製造例1で得たポリオレフィン水分散体を乾燥膜厚5μmになるように塗工し、60℃で20分乾燥して加飾シート(2)を得た。
【0137】
[加飾シート製造例3]
製造例2で得た酸変性ポリプロピレン溶液を用いて接着層を形成した以外は加飾シート製造例1と同様にして加飾シート(3)を得た。
【0138】
[加飾シート製造例4]
酸変性塩素化ポリプロピレンのキシレン溶液(CP343−1、25質量%濃度、イーストマンケミカル製)を用いて接着層を形成した以外は加飾シート製造例1と同様にして加飾シート(3)を得た。
【0139】
[加飾シート製造例5]
酸変性塩素化ポリプロピレン水分散体(CP349W、20質量%濃度、イーストマンケミカル製)を用いて接着層を形成した以外は加飾シート製造例2と同様にして加飾シート(4)を得た。
【0140】
[実施例1]
製造例4で得たポリオレフィン系成形体上に、加飾シート(1)を、接着層が成形体と接するように載置し、温度80℃、荷重1kgf/cmで1分間加圧プレスして積層体を作製した。得られた積層体を24時間、室温で放置して、その後加飾シートと接着剤層を1cm幅になるように切込みをし、その1cm幅の加飾シートの端とポリオレフィン系成形体の端をそれぞれアダプターに挟み、180°ピール試験を行った。
ピール強度は3000g/cm以上あり、密着性は十分であった。
【0141】
[比較例1]
加飾シート(3)を用いた以外は実施例1と同様にして積層体を作製し、同様の方法で180°ピール試験を実施した。
ピール強度は750g/cmであり、密着性は不十分であった。
【0142】
[比較例2]
加飾シート(4)を用いた以外は実施例1と同様にして積層体を作製し、同様の方法で180°ピール試験を実施した。
ピール強度は60g/cmであり、密着性は不十分であった。
【0143】
[比較例3]
加飾シート(5)を用いた以外は実施例1と同様にして積層体を作製し、同様の方法で180°ピール試験を実施した。
ピール強度は400g/cmであり、密着性は不十分であった。
実施例及び比較例の評価結果を表−1にまとめた。
【0144】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム、絵柄層、及び変性ポリオレフィンを含む接着層からなる加飾シートであって、該接着層が変性ポリオレフィンの水分散体又は非水分散体を塗布し乾燥させることにより形成されてなることを特徴とする加飾シート。
【請求項2】
前記変性ポリオレフィンが、ポリオレフィンと極性高分子とのブロック及び/又はグラフト共重合体であり、界面活性剤含有量が変性ポリオレフィン100質量部に対し15質量部以下である請求項1に記載の加飾シート。
【請求項3】
前記基材フィルムが放射線硬化樹脂からなる、請求項1又は2に記載の加飾シート。
【請求項4】
ポリオレフィン系成形体上に請求項1乃至3のいずれか1項に記載の加飾シートが積層されてなることを特徴とする積層体。
【請求項5】
基材フィルム、絵柄層、及び変性ポリオレフィンを含む接着層からなる加飾シートの製造方法であって、基材フィルム上に絵柄層を形成した後、変性ポリオレフィンの水分散体又は非水分散体を塗布し乾燥させることにより接着層を形成することを特徴とする加飾シートの製造方法。
【請求項6】
基材フィルム、絵柄層、及び変性ポリオレフィンを含む接着層からなる加飾シートの製造方法であって、他の基材上に変性ポリオレフィンの水分散体又は非水分散体を塗布し乾燥させて接着層を形成したのち、絵柄層を形成し、放射線硬化性樹脂を塗布し硬化させて基材フィルムとした後、前記他の基材を剥離することを特徴とする加飾シートの製造方法。

【公開番号】特開2007−262337(P2007−262337A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92592(P2006−92592)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】