説明

加飾成形体及びその製造方法

【課題】成形体に表示部として形成する溝部や突起に作業性良く着色による加飾を綺麗に施すことができ、しかも立体感という溝部や突起が本来的に有する視覚効果上の大きな特徴を活かすことのできる加飾成形体及びその製造方法の提供。
【解決手段】溝部6内の導電層3を電極とし溝部6内を除く残余の導電層3を防護層7で覆って着色層4を形成しているため、赤色透明の着色層4を導電層3を介して溝部6の側面6a及び底面6bにのみ綺麗に積層することができる。よって手間をかけずに高品位な加飾キートップ1を実現できる。また着色層4を溝部6の深さ方向に沿う側面6a及び底面6bで構成される形状と同形状に形成でき、着色層4により沈み文字状に視認できる立体加飾の英文字「OK」を有する加飾キートップ1とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機、PDA、リモコン、デジタルカメラ、AV機器、車載電装機器等の各種電子機器の外装部品として用いられる加飾成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機やAV機器等の各種電子機器には、筐体やスイッチなど種々の外装部品を備えている。こうした外装部品の多くは文字、記号、数字、図柄など「加飾」としての表示部が設けられている。この表示部は印刷や塗装などによる塗層で構成されるほか、成形や刻印などによる溝部や突起により構成されているものがある。このうち溝部や突起による表示部は深さや高さを持つ三次元形状であることから立体的に視認することができるという利点がある。さらにこのような三次元形状の表示部については、例えば表示部としての溝部の中に着色層を施すことが知られている(例えば特許文献1,特許文献2)。
【特許文献1】特開平5−127599号公報
【特許文献2】特開平7−169360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような着色層を有する表示部であれば、表示部をその周囲と色彩上明確に識別できるようになり、その視認性を高めることができるという利点がある。しかしながら、着色層の形成方法として溝部の中にインクを塗布する形成方法では、溝部が小さく細かなものであると溝部の外へインクがはみ出し易く、溝部の周囲にインクが付着してしまうことがある。するとはみ出したインクを拭き取る手間がかかるようになり、作業性が悪く製造コストが高くなってしまう。また溝部の容量に合わせてインクの充填量を調整することが難しく、溝部内に対しインクを綺麗に充填することが難しい。
【0004】
また溝部による表示部は三次元形状であることから、立体感というのが本来的に有する視覚効果上の大きな特徴である。ところがインクを塗布して形成した着色層は溝部の中を埋めるような層として形成されてしまい、本来の視覚効果上の持ち味である立体感を活かすことができずなくなるという課題がある。
【0005】
以上のような従来技術を背景になされたのが本発明である。すなわち本発明の目的は、成形体に表示部として形成する溝部や突起に作業性良く着色による加飾を綺麗に施すことができ、しかも立体感という溝部や突起が本来的に有する視覚効果上の大きな特徴を活かすことのできる加飾成形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく本発明は以下のように構成される。
【0007】
本発明は、文字・記号・数字・図形・模様の少なくとも何れかを象る溝部を形成した成形体が、該溝部の深さ方向に沿う側面及び底面に着色層を有しており、該着色層が電気化学表面処理層である加飾成形体を提供する。
【0008】
また、本発明は、文字・記号・数字・図形・模様の少なくとも何れかを象る突起を表面に突設した成形体が、該突起の高さ方向に沿う側面及び突起以外の成形体の表面に着色層を有しており、該着色層が電気化学表面処理層である加飾成形体を提供する。
【0009】
本発明では、溝部の深さ方向に沿う側面及び底面、又は、突起の高さ方向に沿う側面及び突起以外の成形体の表面に有する着色層が電気化学表面処理層である。本発明でいう電気化学表面処理層は、電流の通過に伴う化学変化によって形成される薄膜の層である。この電気化学表面処理層は成形体の表面に選択的に形成された電極面に形成されるため、溝部の深さ方向に沿う側面及び底面、又は、突起の高さ方向に沿う側面及び突起以外の成形体の表面を電極とすれば、他の面に対する着色層の形成を回避することができる。このため従来技術のようなインクのはみ出しが無く、手間をかけずに高品位な加飾成形体を実現することができる。さらに、溝部の深さ方向に沿う側面が底面に対して垂直に形成されている場合や突起の高さ方向に沿う側面が成形体の表面に対して垂直に形成されている場合、従来技術のようなインクの塗布では側面にインクが付着し難いため、側面に沿う着色層を形成することが難しい。しかし本発明では着色層が電気化学表面処理層であるため、側面に沿う着色層を底面に沿う着色層や成形体の表面に沿う着色層と同等の膜厚で容易に形成でき、綺麗な加飾を実現することができる。
【0010】
電気化学表面処理層は薄膜であるため、成形体における溝部の深さ方向に沿う側面及び底面、又は、突起の高さ方向に沿う側面及び突起以外の成形体の表面で構成される形状と同形状に形成することができる。よって溝部の深さ方向に沿う側面及び底面に沿った着色層、又は、突起の高さ方向に沿う側面及び突起以外の成形体の表面に沿った着色層とすることができ、この着色層により立体感という溝部や突起が本来的に有する視覚効果上の大きな特徴を活かすことのできる立体加飾を実現することができる。さらに着色層はそれがない成形体の表面とは明確に識別できるため、視認性を高めることができる。
【0011】
本発明は前記加飾成形体について、成形体が樹脂で形成されており、電気化学表面処理層が、前記側面及び底面、又は、前記側面及び成形体の表面に形成した導電層に積層する電気鍍金膜又は電着塗装膜である。樹脂でなる成形体が絶縁性であっても、溝部の側面及び底面、又は、突起の側面及び成形体の表面に導電層を形成してあるため、この導電層を電極として電気鍍金膜又は電着塗装膜でなる着色層を積層することができる。なお、電気鍍金膜は電気分解による析出を利用して導電層に鍍着した金属薄膜を意味し、電着塗装膜は樹脂塗料に電圧をかけ電気泳動によって導電層に塗着した樹脂塗膜を意味する。
【0012】
また前記加飾成形体では電気化学表面処理層が電気鍍金膜又は電着塗装膜であるため、導電層の反応例えば溶解を伴う酸化反応などを伴わずに均一な薄膜の着色層を導電層上に形成することができる。よって耐久性の高い着色層を実現することができる。
【0013】
本発明は前記加飾成形体について、成形体が金属で形成されており、電気化学表面処理層が、前記側面及び底面、又は、前記側面及び成形体の表面に形成した陽極酸化処理膜である。陽極酸化処理膜は金属から剥離せず金属自体より腐食し難く耐久性も高いため、経時的に安定な薄膜の着色層とすることができる。なお、陽極酸化処理膜は陽極での電解を利用し金属の表面層を酸化反応させて形成した酸化物の薄膜を意味する。
【0014】
本発明は前記加飾成形体について、成形体を押釦スイッチ用のキートップとする。文字などを象る溝部又は突起を形成したキートップに対し、電気化学表面処理層でなる着色層によって加飾している。このため手間をかけずに高品位な加飾キートップとすることができる。またキートップにおける溝部の深さ方向に沿う側面及び底面に形成した着色層、又は、突起の高さ方向に沿う側面及び突起以外の成形体の表面に形成した着色層は、キートップの他の部分とは明確に識別して視認できるうえ、溝部や突起が本来的に有する視覚効果上の大きな特徴を活かすことのできる立体加飾を実現することができる。
【0015】
また、本発明は、文字・記号・数字・図形・模様の少なくとも何れかを象る溝部を形成した成形体の表面に該溝部を除いて防護層を設けるマスク工程と、溝部の深さ方向に沿う側面及び底面に電気化学表面処理による着色層を積層する加飾工程と、防護層を除去する剥離工程と、を有する加飾成形体の製造方法を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、文字・記号・数字・図形・模様の少なくとも何れかを象る突起を表面に突設した成形体の該突起の天面に防護層を設けるマスク工程と、突起の高さ方向に沿う側面及び突起以外の成形体の表面に電気化学表面処理による着色層を積層する加飾工程と、防護層を除去する剥離工程と、を有する加飾成形体の製造方法を提供する。
【0017】
本発明は電気化学表面処理層が成形体の表面に選択的に形成された電極面に形成されることを利用している。溝部を除いて成形体の表面に防護層を設け、成形体における溝部の深さ方向に沿う側面及び底面を電極とすれば、溝部の深さ方向に沿う側面及び底面に電気化学表面処理による着色層を積層することができる。また、突起の天面に防護層を設け、突起の高さ方向に沿う側面及び成形体の表面を電極とすれば、突起の高さ方向に沿う側面及び成形体の表面に電気化学表面処理による着色層を積層することができる。よって従来技術のようなインクのはみ出しが無く、手間をかけずに高品位な加飾成形体を製造することができる。さらに溝部の深さ方向に沿う側面が底面に対して垂直に形成されている場合でも、突起の高さ方向に沿う側面が成形体の表面に対して垂直に形成されている場合であっても、着色層を電気化学表面処理で形成するため、側面を電極とすれば側面に沿う着色層を容易に形成でき、綺麗な加飾を製造することができる。
【0018】
着色層を電気化学表面処理で形成するため、薄膜にすることができる。よって着色層が成形体における溝部の深さ方向に沿う側面及び底面、又は、突起の高さ方向に沿う側面及び成形体の表面で構成される形状と同形状に形成でき、この着色層により立体感という溝部や突起が本来的に有する視覚効果上の大きな特徴を活かすことのできる立体加飾を製造することができる。さらに防護層を除去することで、着色層はそれがない成形体の表面とは明確に識別でき、視認性を高めた着色層を製造することができる。
【0019】
本発明は前記加飾成形体の製造方法について、前記成形体が樹脂成形体であり、前記マスク工程の前に該樹脂成形体の溝部を含む表面に導電層を積層する工程を有し、前記加飾工程で電気化学表面処理として電気鍍金処理又は電着塗装処理を行う。即ち樹脂でなる成形体が絶縁性であっても成形体の溝部を含む表面に導電層を設け、この導電層を電極とすることで、加飾工程にて成形体の表面に導電層を介して電気鍍金膜又は電着塗装膜でなる着色層を積層することができる。
【0020】
前記加飾成形体の製造方法では、着色層が電気鍍金処理又は電着塗装処理で形成されるため、着色層を設ける際に導電層の反応例えば溶解を伴う酸化反応が起こらず、導電層を侵すことなく均一な薄膜の着色層を導電層上に製造することができる。
【0021】
本発明は前記加飾成形体の製造方法について、前記成形体が金属成形体であり、前記加飾工程で電気化学表面処理として陽極酸化処理を行う。加飾工程にて形成される陽極酸化処理膜は金属から剥離せず金属自体より腐食し難く耐久性も高いため、着色層を経時的に安定な薄膜に製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の加飾成形体及びその製造方法では、着色層を電気化学表面処理層とするため、着色層を積層させる面を電極とすれば、他の面に対する着色層の積層を回避することができる。このため手間をかけずに高品位な加飾成形体を実現することができる。さらに同等な膜厚の着色層を形成でき、むらが無く綺麗な加飾を実現することができる。
【0023】
また、成形体における溝部又は突起の形状と同形状に形成することができる。このため溝部又は突起の形状に沿った着色層とすることができ、この着色層により立体感という溝部や突起が本来的に有する視覚効果上の大きな特徴を活かすことのできる立体加飾を実現することができる。さらに着色層は成形体における他の部分とは明確に識別でき、視認性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態の例について図面を参照しつつ説明する。なお、各実施形態で共通する構成については、同一符号を付して重複説明を省略する。
【0025】
以下の実施形態では、「成形体」として携帯電話機などに備えるキートップを適用する例を説明する。なお本発明の加飾成形体はキートップだけでなく、例えば筐体(外装ケース)や装飾部品としても適用することができる。
【0026】
第1実施形態〔図1〜図3〕
第1実施形態の加飾キートップ1は、キートップ2と、導電層3と、着色層4と、を備えている。
【0027】
キートップ2はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂でなり、平面視で円形状に形成されている。そしてこのキートップ2の下端には外方へ突出する環状の鍔部2aを設けてある。本実施形態ではキートップ2の表面2bに平面視で英文字「OK」の表示部5が設けられている。即ち表面2bには英文字「OK」を象る溝部6が形成してあり、この溝部6の側面6aは底面6bに対して垂直に形成されている。このような溝部6は、本実施形態では例えば深さ・溝幅共に0.2mm〜0.5mmとしてある。
【0028】
導電層3は銀色光沢の金属鍍金膜でなり、キートップ2の溝部6を含む表面2bに設けられている。金属鍍金膜について図面では単層で表されているが、その詳細な形態はニッケルでなる無電解鍍金膜を下層としクロムでなる電解鍍金膜を上層とする2層構成である。溝部6を除く表面2b上で表出している導電層3が表示部5である英文字「OK」の周囲を銀色光沢に加飾している。
【0029】
着色層4は赤色透明でアクリル樹脂系の電着塗装膜でなり、キートップ2における溝部6の側面6a及び底面6bに沿うように導電層3を介して均一な層厚で積層している。この着色層4は透明であるため、着色層4の赤色と下に積層する導電層3の銀色光沢とが相まって金属調のような赤色に視認できる。つまりこの着色層4は表示部5である金属調のような赤色の英文字「OK」を表している。なお、本実施形態では着色層4の層厚を5μmとしている。
【0030】
次に第1実施形態の加飾キートップ1の製造方法について説明する(図3)。先ず射出成形にてABS樹脂でなるキートップ2を成形する。この時、射出成形金型のキャビティーによってキートップ2の表面2bに溝部6を形成する(図3(A))。次に溝部6を含む表面2bに無電解鍍金法によってニッケル薄膜を鍍着した後、このニッケル薄膜上に電解鍍金法によってクロム薄膜を鍍着して2層構成で銀色光沢の導電層3を設ける(図3(B))。その後溝部6を除く残余の導電層3上にパッド印刷法を用いてアクリル樹脂系のアルカリ除去型レジストインクでなる防護層7を設ける(図3(C))。次に溝部6内の導電層3を電極とし電着塗装法によって紫外線硬化型のカチオン重合型アクリル樹脂系電着塗料でなる赤色透明の電着塗装膜を着色層4として溝部6内の導電層3上に塗着する(図3(D))。最後にアルカリ水溶液により防護層7を除去し、本実施形態の加飾キートップ1を製造する(図3(E))。
【0031】
ここで本実施形態を構成する各部材の材質を説明する。
【0032】
キートップ2を形成する材質には、硬質樹脂、ゴム状弾性体、金属、セラミックスなどが使用できる。このうち硬質樹脂は、機械的強度、耐久性等の要求性能、及び軽量化により、熱可塑性樹脂又は反応硬化性樹脂が好ましい。例えば、第1実施形態のキートップ1として採用するアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂の他、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリアクリル共重合樹脂、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂が使用できる。またゴム状弾性体は、機械的強度、耐久性のよい熱硬化性エラストマー又は熱可塑性エラストマーが好ましい。例えば、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム、スチレン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、ブタジエン系熱可塑性エラストマー、エチレン−酢酸ビニル系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、イソプレン系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマーが使用できる。また金属としてはステンレス、アルミニウム、銅、マグネシム、真鍮、その他の金属や合金類を用いることができる。
【0033】
導電層3は、金属鍍金膜、導電塗膜などが使用できる。このうち金属鍍金膜を形成する材質はキートップ2に鍍着できる金属であり、例えば、金、銀、銅、ニッケル、亜鉛、錫、クロム、アルミニウム、白金、パラジウム、ロジウムなどが使用できる。これら金属鍍金膜は乾式鍍金法、湿式鍍金法で形成した金属薄膜であり、乾式鍍金法には真空蒸着法、化学蒸着法、物理蒸着法があり、湿式鍍金法には無電解鍍金法、電解鍍金法がある。第1実施形態の導電層3は前述のように2層構成であり、下層としてのニッケルでなる無電解鍍金膜と上層としてのクロムでなる電解鍍金膜を採用している。導電塗膜を形成する材質はキートップ1に塗着できる導電塗料でなり、例えば絶縁性樹脂にカーボン、金属、金属酸化物などの導電性粒子を分散させた導電塗料、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセン、ポリピロールなどの導電性高分子でなる導電塗料などが使用できる。
【0034】
着色層4は、電気化学表面処理により形成できる電気鍍金膜、陽極酸化処理膜、電着塗装膜などが使用できる。このうち電着塗装膜を形成する材質は例えば本実施形態で採用するカチオン重合型アクリル樹脂系の他、アニオン重合型アクリル樹脂系、カチオン重合型やアニオン重合型のエポキシ樹脂系、エポキシアクリル樹脂系などが使用でき、なかでも紫外線硬化型のものは迅速に硬化できるため製造時間を短縮することができる。この場合の好ましい層厚は10μm以下である。電気鍍金膜を形成する材質は例えばクロム、ニッケル、錫、銅、パラジウム、ロジウムなどの金属が使用できる。陽極酸化処理膜を形成する材質は金属の酸化物であり、例えばアルミニウムの表面には酸化アルミニウム、ステンレスの表面には酸化ステンレス、チタンの表面には酸化チタンなどである。
【0035】
防護層7を形成する材質は、キートップ2や導電層3に設けた後に最終的には除去するため、キートップ2や導電層3と反応せずに水溶液や有機溶剤に溶解し易いものが好ましい。例えばアルカリ除去型インクであるアクリル樹脂系インク、エポキシ樹脂系インク、エポキシアクリル樹脂系インクなどが使用できる。
【0036】
最後に、本実施形態の加飾キートップ1及びその製造方法の作用効果について説明する。
【0037】
第1実施形態の加飾キートップ1及びその製造方法によれば、溝部6内の導電層3を電極とし溝部6内を除く残余の導電層3を防護層7で覆って着色層4を形成しているため、赤色透明の着色層4を導電層3を介して溝部6の側面6a及び底面6bにのみ積層することができる。よって従来技術のようなインクのはみ出しを無くすことができ、手間をかけずに高品位な加飾キートップ1を実現することができる。さらに側面6aが底面6bに対して垂直に形成されているが着色層4が電着塗装法による電着塗装膜であるため、側面6aに沿う着色層4を容易に形成でき、綺麗な表示部5を実現することができる。
【0038】
着色層4が電着塗装法による電着塗装膜であるため、着色層4を溝部6の深さ方向に沿う側面6a及び底面6bで構成される形状と同形状に形成することができる。よって着色層4により沈み文字状に視認できる立体加飾の英文字「OK」を有する加飾キートップ1とすることができる。さらに表示部5を表す着色層4が金属調のような赤色であり溝部6の周囲は銀色光沢を呈しているため、表示部5を明確に識別でき、視認性を高めることができる。
【0039】
また着色層4は電着塗装法による電着塗装膜であるため、着色層4を積層する際に導電層3を侵すような反応を伴わずに均一な薄膜の着色層4とすることができる。よって耐久性の高い導電層3や着色層4による表示部5を有する加飾キートップ1を実現することができる。
【0040】
第2実施形態〔図4,図5〕
第2実施形態の加飾キートップ8が、第1実施形態の加飾キートップ1と異なるのは、キートップ9の材質と、導電層が無く着色層10を備えている構成である。残余の構成及びその作用と効果は第1実施形態と同じである。
【0041】
キートップ9はステンレスでなり、平面視で円形状に形成されている。第1実施形態のキートップ2と同様に、このキートップ9の下端には外方へ突出する環状の鍔部9aを設けてあり、表面9bには平面視で英文字「OK」の表示部5が設けられている。即ち表面9bには英文字「OK」を象る溝部6を形成してあり、この溝部6の側面6aは底面6bに対して垂直に形成されている。
【0042】
着色層10は緑色の陽極酸化処理膜でなり、キートップ9における溝部6の側面6a及び底面6bに沿うように均一な層厚で積層している。この着色層10が表示部5である緑色の英文字「OK」を表している。
【0043】
次に第2実施形態の加飾キートップ8の製造方法について説明する(図5)。先ずプレス加工、切削加工、レーザー加工にて表面9bに溝部6を形成したステンレスでなるキートップ9を成形する(図5(A))。次に溝部6を除く表面9b上にパッド印刷法を用いてエポキシ系のアルカリ除去型レジストインクでなる防護層7を設ける(図5(B))。その後溝部6内を電極とし陽極酸化処理によって緑色の陽極酸化処理膜を着色層10として溝部6内に形成する(図5(C))。最後にアルカリ水溶液により防護層7を除去し、本実施形態の加飾キートップ8を製造する(図5(D))。
【0044】
第2実施形態の加飾キートップ8及びその製造方法は、第1実施形態の加飾キートップ1及びその製造方法と同様の作用と効果を発揮できるほか、さらに次の作用・効果を発揮する。
【0045】
加飾キートップ8では、着色層10が陽極酸化処理膜であるため、ステンレス自体より腐食し難く耐久性も高い。よって経時的に安定な着色層10を実現することができる。
【0046】
着色層10の色調は陽極酸化処理時間や電圧で設定できるため、着色層10を形成する際に赤色、緑色、青色、黒色などの色調ごとに陽極酸化処理溶液を変更する必要がなく、低コストでデザインバリエーションを実現することができる。
【0047】
第3実施形態〔図6,図7〕
第3実施形態の加飾キートップ11が、第1実施形態の加飾キートップ1と異なるのは、キートップ12と、着色層13の構成である。残余の構成及びその作用と効果は第1実施形態と同じである。
【0048】
キートップ12は第1実施形態のキートップ2と同様に、ABS樹脂でなり、平面視で円形状に形成され、下端には外方へ突出する環状の鍔部12aを設けてある。そしてキートップ12の表面12bに平面視で英文字「OK」の表示部5が設けられているが、英文字「OK」を象る突起14によって構成されている。この突起14の側面14aは天面14bに対して垂直に形成されている。このような突起14は、本実施形態では例えば高さ・線幅共に0.2mm〜0.5mmとしてある。
【0049】
導電層3は第1実施形態の加飾キートップ1と同様に、銀色光沢の金属鍍金膜でなり、キートップ12の突起14を含む表面12bに設けられている。金属鍍金膜について図面では単層で表されているが、その詳細な形態はニッケルでなる無電解鍍金膜を下層としクロムでなる電解鍍金膜を上層とする2層構成である。突起14の天面14b上で表出している導電層3が表示部5である銀色光沢の英文字「OK」を表している。
【0050】
着色層13は青色透明でカチオン重合型エポキシアクリル樹脂系の電着塗装膜でなり、突起14の側面14a及び突起14以外のキートップ12の表面12bに沿うように導電層3を介して均一な層厚で積層している。この着色層13は透明であるため、着色層13の青色と下に積層する導電層3の銀色光沢とが相まって金属調のような青色に視認できる。つまりこの着色層13は表示部5である英文字「OK」の周囲を金属調のような青色に加飾している。なお、本実施形態では着色層13の層厚を5μmとしている。
【0051】
次に第3実施形態の加飾キートップ11の製造方法について説明する(図7)。先ず射出成形にてABS樹脂でなるキートップ12を成形する。この時、射出成形金型のキャビティーによってキートップ12の表面12bに突起14を形成する(図7(A))。次に突起14を含む表面12bに無電解鍍金法によってニッケル薄膜を鍍着した後、このニッケル薄膜上に電解鍍金法によってクロム薄膜を鍍着して2層構成で銀色光沢の導電層3を設ける(図7(B))。その後突起14の天面14bに設けられた導電層3上にパッド印刷法を用いてエポキシアクリル系のアルカリ除去型レジストインクでなる防護層7を設ける(図7(C))。次に突起14の側面14a及び突起14以外のキートップ12の表面12bに積層する導電層3を電極とし、電着塗装法によってアニオン重合型アクリル樹脂系でなる青色透明の電着塗装膜を着色層13として突起14の側面14a及び突起14以外のキートップ12の表面12bに積層する導電層3上に塗着する(図7(D))。最後にアルカリ水溶液により防護層7を除去し、本実施形態の加飾キートップ11を製造する(図7(E))。
【0052】
第3実施形態の加飾キートップ11は、以下のような第1実施形態の加飾キートップ1及びその製造方法と同様の作用と効果を発揮できる。
【0053】
第3実施形態の加飾キートップ11及びその製造方法によれば、突起14の天面14bを防護層7で覆って着色層13を形成しているため、青色透明の着色層13を導電層3を介して突起14の側面14a及び突起14以外のキートップ12の表面12bに積層することができる。よって従来技術のようにインクが突起14の天面14bに付着することが無く、手間をかけずに高品位な加飾キートップ11を実現することができる。さらに側面14aが天面14bに対して垂直に形成されているが着色層13が電着塗装法による電着塗装膜であるため、側面14aに沿う着色層13を容易に形成でき、綺麗な表示部5を実現することができる。
【0054】
着色層13が電着塗装法による電着塗装膜であるため、着色層13を突起14の高さ方向に沿う側面14a及び突起14以外のキートップ12の表面12bで構成される形状と同形状に形成することができる。よって着色層13により浮き文字状に視認できる立体加飾の英文字「OK」を有する加飾キートップ11とすることができる。さらに表示部5を表す導電層3が銀色光沢であり、周囲の着色層13が金属調のような青色を呈しているため、表示部5を明確に識別でき、視認性を高めることができる。
【0055】
また着色層13は電着塗装法による電着塗装膜であるため、着色層13を積層する際に導電層3を侵すような反応を伴わずに均一な薄膜の着色層13とすることができる。よって耐久性の高い導電層3や着色層13を有する加飾キートップ11を実現することができる。
【0056】
第4実施形態〔図8〕
第4実施形態の加飾キートップ15が、第1実施形態の加飾キートップ1と異なるのは、キートップ16及び導電層17の材質である。残余の構成及びその作用と効果は第1実施形態と同じである。
【0057】
キートップ16は青色透明なポリカーボネート樹脂でなり、平面視で円形状に形成されている。そして第1実施形態のキートップ2と同様に、キートップ16の下端には外方へ突出する環状の鍔部16aを設けてある。キートップ16の表面16bに平面視で英文字「OK」の表示部5が設けられている。即ち表面16bには英文字「OK」を象る溝部18が形成してあり、この溝部18の側面18aは底面18bからキートップ16の表面16bに向かって広がる傾斜面となっている。このような溝部18は、本実施形態では例えば深さ・溝幅共に0.2mm〜0.5mmとしてある。
【0058】
導電層17はITO塗料でなる無色透明な導電塗膜でなり、キートップ16の溝部18を含む表面16bに設けられている。このように溝部18を除く表面16b上で表出している導電層17が無色透明であるため、表示部5である英文字「OK」の周囲は、導電塗膜を通して青色のキートップ16によって加飾されている。
【0059】
次に第4実施形態の加飾キートップ15の製造方法について説明する。先ず射出成形にてポリカーボネート樹脂でなる青色のキートップ16を成形する。この時、射出成形金型のキャビティーによってキートップ16の表面16bに溝部18を形成する。次に溝部18を含む表面16bに塗装法によってITO塗料でなる導電塗料を塗布して無色透明の導電塗膜を導電層17として設ける。その後溝部18を除く残余の導電層17上にパッド印刷法を用いてアクリル樹脂系のアルカリ除去型レジストインクでなる防護層7を設ける。次に溝部18内の導電層17を電極とし電着塗装法によって紫外線硬化型のアクリル樹脂系でなる赤色透明の電着塗装膜を着色層4として溝部18内の導電層17上に塗着する。最後にアルカリ水溶液により防護層7を除去し、本実施形態の加飾キートップ15を製造する。
【0060】
第4実施形態の加飾キートップ15は、第1実施形態の加飾キートップ1及びその製造方法と同様の作用と効果として、手間をかけずに高品位な加飾を実現でき、沈み文字状の立体加飾を実現でき、耐久性の高い加飾を実現できるほか、さらに次の作用・効果を発揮する。
【0061】
第4実施形態では、キートップ16、導電層17、着色層4が各々透明であるため、各部材が透光性を有し、基板に設けたバックライトLの光による所謂照光式の加飾キートップ15とすることができる。なお、非照光時では、表示部5が着色層4によって赤色を呈し、表示部5の周囲がキートップ16によって青色に加飾されている。バックライト照光時は、キートップ16を透過した青色光が赤色の着色層4を通るため表示部5が紫色を呈し、表示部5の周囲が青色に加飾される。このように暗所でも表示部5を明確に識別でき、視認性を高めることができる。なお、第4実施形態では着色層4を赤色透明とする例を示したが、照光式の加飾キートップとするためには、キートップ16、導電層17が透光性であればよく、着色層は非透光性であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】第1実施形態によるキートップの平面図。
【図2】図1のSA−SA線断面図。
【図3】第1実施形態によるキートップの各製造工程の部分拡大説明図。
【図4】第2実施形態によるキートップの図2相当の断面図。
【図5】第2実施形態によるキートップの各製造工程の部分拡大説明図。
【図6】第3実施形態によるキートップの図2相当の断面図。
【図7】第3実施形態によるキートップの各製造工程の部分拡大説明図。
【図8】第4実施形態によるキートップの図2相当の断面図。
【符号の説明】
【0063】
1 加飾キートップ(第1実施形態)
2 キートップ
2a 鍔部
2b 表面
3 導電層(電気鍍金膜)
4 着色層(電着塗装膜)
5 表示部
6 溝部
6a 側面
6b 底面
7 防護層
8 加飾キートップ(第2実施形態)
9 キートップ
9a 鍔部
9b 表面
10 着色層(陽極酸化処理膜)
11 加飾キートップ(第3実施形態)
12 キートップ
12a 鍔部
12b 表面
13 着色層(電着塗装膜)
14 突起
14a 側面
14b 天面
15 加飾キートップ(第4実施形態)
16 キートップ
16a 鍔部
16b 表面
17 導電層(導電塗膜)
18 溝部
18a 側面
18b 底面
L バックライト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
文字・記号・数字・図形・模様の少なくとも何れかを象る溝部を形成した成形体が、該溝部の深さ方向に沿う側面及び底面に着色層を有しており、該着色層が電気化学表面処理層である加飾成形体。
【請求項2】
文字・記号・数字・図形・模様の少なくとも何れかを象る突起を表面に突設した成形体が、該突起の高さ方向に沿う側面及び突起以外の成形体の表面に着色層を有しており、該着色層が電気化学表面処理層である加飾成形体。
【請求項3】
成形体が樹脂で形成されており、
電気化学表面処理層が、前記側面及び底面、又は、前記側面及び成形体の表面に形成した導電層に積層する電気鍍金膜又は電着塗装膜である請求項1又は請求項2記載の加飾成形体。
【請求項4】
成形体が金属で形成されており、
電気化学表面処理層が、前記側面及び底面、又は、前記側面及び成形体の表面に形成した陽極酸化処理膜である請求項1又は請求項2記載の加飾成形体。
【請求項5】
成形体が押釦スイッチ用のキートップである請求項1〜請求項4何れか1項記載の加飾成形体。
【請求項6】
文字・記号・数字・図形・模様の少なくとも何れかを象る溝部を形成した成形体の表面に該溝部を除いて防護層を設けるマスク工程と、
溝部の深さ方向に沿う側面及び底面に電気化学表面処理による着色層を積層する加飾工程と、
防護層を除去する剥離工程と、を有する加飾成形体の製造方法。
【請求項7】
文字・記号・数字・図形・模様の少なくとも何れかを象る突起を表面に突設した成形体の該突起の天面に防護層を設けるマスク工程と、
突起の高さ方向に沿う側面及び突起以外の成形体の表面に電気化学表面処理による着色層を積層する加飾工程と、
防護層を除去する剥離工程と、を有する加飾成形体の製造方法。
【請求項8】
前記成形体が樹脂成形体であり、前記マスク工程の前に該樹脂成形体の溝部を含む表面に導電層を積層する工程を有し、前記加飾工程で電気化学表面処理として電気鍍金処理又は電着塗装処理を行う請求項6又は請求項7記載の加飾成形体の製造方法。
【請求項9】
前記成形体が金属成形体であり、前記加飾工程で電気化学表面処理として陽極酸化処理を行う請求項6又は請求項7記載の加飾成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−55648(P2008−55648A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232623(P2006−232623)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】