説明

加飾成形品の製造方法

【課題】繊維強化熱可塑性樹脂シートを使用しながらも、美観に優れた成形品を得ることのできる加飾成形品を得ること。
【解決手段】熱可塑性樹脂基材シートに装飾処理を施してなる加飾シートSと繊維強化熱可塑性樹脂シートTとの積層体Wを形成しておき、その積層体Wを一対の成形型11,12間に載置して加熱軟化せしめた後、成形型11,12を係合して積層体を加熱加圧することで成形し、冷却固化してから成形型11,12を開放することにより、繊維強化熱可塑性樹脂シートT上に加飾シートSが積層一体化された加飾成形品を得る。繊維強化熱可塑性樹脂成形品の表面に加飾を行うことができ、従来は美観が重視されるために繊維強化熱可塑性樹脂シートを用いることができなかった部位に適用範囲を広げることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂シートを使用した加飾成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、繊維強化された熱可塑性樹脂シート(スタンパブルシートとも呼称される)は既に広く知られており、自動車部品や家電部品など各種の用途によく用いられている。この繊維強化熱可塑性樹脂シートは、熱硬化性樹脂を用いた繊維補強樹脂(所謂FRP)と比較して成形の際に化学反応を伴わないため、板金プレスに近い成形サイクルが可能であり、しかも強度も高い上に薬品にも強いことから、金属に代えて各種の部品に用いられるようになってきている(例えば、特開平8−230114号公報、特開平9−38968号公報等参照)。
【0003】
この繊維強化熱可塑性樹脂シートを使用した加飾成形品を製造する場合、熱可塑性樹脂シートに絵柄印刷を施した加飾シートを一対の成形型間に載置し、次いで繊維強化熱可塑性樹脂シートを加熱熔融状態で載置した後、成形型を係合して加圧することにより、繊維強化熱可塑性樹脂シートを所望の形状に成形するとともに、成形品表面に加飾シートを積層一体化する方法が採られている(例えば、特開平4−25420号公報、特公平7−39102号公報等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−230114号公報
【特許文献2】特開平9−38968号公報
【特許文献3】特開平4−25420号公報
【特許文献4】特公平7−39102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術で述べた加飾成形品に使用する繊維強化熱可塑性樹脂シートは、高強度を実現するためにガラス繊維の含有率が高い。このため、得られる加飾成形品は、ガラス繊維の模様が出ると言った問題点や、着色についても繊維とマトリックス樹脂のムラが目立たない色に限定され外観がよくないという問題点があり、自動車のエンジン部分や家電の骨組み部分など、直接目に触れることのない部分に使用が限定されていた。
【0006】
本発明は、上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、繊維強化熱可塑性樹脂シートを使用しながらも、美観に優れた成形品を得ることのできる加飾成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の加飾成形品の製造方法は、熱可塑性樹脂基材シートに装飾処理を施してなる加飾シートと繊維強化熱可塑性樹脂シートとの積層体を形成しておき、加熱軟化せしめられた該積層体が一対の成形型間に載置された状態で、成形型を係合して積層体を加熱加圧することで成形し、冷却固化してから成形型を開放することにより、繊維強化熱可塑性樹脂シート上に加飾シートが積層一体化された加飾成形品を得ることを特徴とする。
【0008】
そして、上記の加飾成形品の製造方法において、一対の成形型間に積層体を載置して加熱軟化せしめた後、その積層体を成形型のうちの一方の成形型の表面上に真空成形し、しかる後に成形型を係合するようにしてもよいものである。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明の加飾成形品の製造方法によれば、繊維強化熱可塑性樹脂成形品の表面に加飾を行うことができ、従来は美観が重視されるために繊維強化熱可塑性樹脂シートを用いることができなかった部位に適用範囲を広げることが可能となる。
【0010】
また、加飾シートの表面に用いる樹脂を選定することで、成形品に耐候性、耐薬品性、塗装適性といった性能を付与することができる。
【0011】
また、必ずしも使用時に表面にでる全部分を加飾シートで被覆する必要はなく、繊維強化熱可塑性樹脂シートの質感で十分であるならば一部に絵柄や注意書きなどを付加した透明フィルムを用いてもよいし、また、繊維強化熱可塑性樹脂シートの一部のみに加飾シートを貼りつけた仕様も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】熱可塑性樹脂基材シートに装飾処理を施してなる加飾シートを例示した断面図である。
【図2】本発明の製造方法で使用する熱プレス機の一例を示す概略構成図である。
【図3】熱プレス機の成形型間に載置した加飾シートと繊維強化熱可塑性樹脂シートとの積層体を予熱するために熱盤を使用した状態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
加飾シートは熱可塑性樹脂基材シートに装飾処理を施して形成する。この加飾シートは繊維強化熱可塑性樹脂シート表面の欠点を隠蔽し、金型の表面平滑性もしくは加飾用の凹凸を転写できることが望ましいため、後述する繊維強化熱可塑性樹脂シートのマトリクス樹脂よりも予熱時の流動性が低いことが望ましい。
【0015】
このような熱可塑性樹脂基材シートとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、弗素樹脂などの熱可塑性樹脂およびこれらの共重合体や混合物を用いた単層シート、或いはこれら単層シートのうちの異種のもの同士の積層シートを用いることができる。
【0016】
なお、積層シートの形態の代表例を列記すると次のようである。
(1)表面側(繊維強化熱可塑性樹脂シート側とは反対側)に、耐候性、耐薬品性、耐熱性等の表面物性に優れる弗素樹脂を用い、裏面側(繊維強化熱可塑性樹脂シート側)に、表面物性の点では弗素樹脂に劣るが他層との易接着性に優れる樹脂を用いる。該易接着性に優れる樹脂としては、繊維強化熱可塑性樹脂シートのマトリックス樹脂と同種の樹脂、或いはマトリックス樹脂と易接着性の樹脂が好ましい。マトリックス樹脂がポリオレフィン樹脂であれば、易接着性樹脂としてはポリオレフィン樹脂を、マトリックス樹脂がABS樹脂、アクリル樹脂或いはポリスチレンの場合は、易接着性樹脂としてアクリル樹脂を用いる。
(2)表面側に、鏡面平滑性、耐擦傷性、耐熱性に優れるポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートの2軸延伸シートを用い、裏面側に、成形性に優れるポリオレフィン樹脂又はポリ塩化ビニルのシートを用いる。
【0017】
上記アクリル樹脂の具体例としては、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、エチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート−エチレン共重合体、メチル(メタ)アクリレート−スチレン共重合体等のアクリル樹脂(但し(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの意味)が挙げられる。
【0018】
上記ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、エチレン−テレフタレート−イソフタレート共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、非晶質ポリエステル等が挙げられる。ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、ハードセグメントに高結晶で高融点の芳香族ポリエステル、ソフトセグメントにガラス転移温度が−70℃以下の非晶性ポリエーテル等を使用したブロックポリマー等があり、該高結晶性が高融点の芳香族ポリエステルには、例えばポリブチレンテレフタレートが使用され、該非晶性ポリエーテルには、ポリテトラメチレングリコール等が使用される。また、前記非晶質ポリエステルとしては、代表的には、エチレングリコール−1,4−シクロヘキサンジメタノール−テレフタル酸共重合体がある。
【0019】
上記ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン(高密度、中密度、或いは低密度)、ポリプロピレン(アイソタクチック型、或いはシンジオタクチック型)、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、オレフィン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、上記に例示の如き結晶質ポリオレフィン樹脂からなるハードセグメントと、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アタクチックポリプロピレン、スチレン−ブタジエンゴム、水素添加スチレン−ブタジエンゴム等のエラストマーからなるソフトセグメントとを混合したものが使用され、ハードセグメントとソフトセグメントとの混合比は、〔ソフトセグメント/ハードセグメント〕=5/95〜40/60(質量比)程度である。必要に応じて、エラストマー成分は、硫黄、過酸化水素等の公知の架橋剤によって架橋する。
【0020】
上記弗素樹脂としては、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化ポリプロピレン共重合体、エチレン−塩化3フッ化エチレン共重合体等が挙げられる。或いはこれらの弗素樹脂中に前記アクリル樹脂を30〜70質量%程度混合することにより、弗素樹脂の持つ耐候性を維持したまま、繊維強化熱可塑性樹脂シート、絵柄インキ層等の他層との易接着性を付与することができる。
【0021】
上記熱可塑性樹脂基材シートの厚み(積層シートの場合は総厚)は、20〜200μm程度である。また、この熱可塑性樹脂基材シートの耐光(候)性を向上させる場合は、紫外線吸収剤、光安定剤を添加する。このうち紫外線吸収剤としては、例えば次の(1)〜(5)のような化合物が使用できる。
【0022】
(1)ベンゾフェノン系;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン−5−スルホン酸。
(2)ベンゾトリアゾール系;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−ドデジル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕。
(3)アクリレート系;エチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート。
(4)サリシレート系;フェニルサリシレート、4−t−ブチルフェニルサリシレート。
(5)オキザリニド系;2−エトキシ−2’−エチルオキザリックアシドビスアニリド、2−エトキシン−5−t−ブチル−2’−エチルオキザリックアシドビニスアニリド。
【0023】
これらの紫外線吸収剤を適用する割合は、添加する対象の層の樹脂分に対し、好ましくは、0.1〜2質量%の範囲である。0.1質量%未満では添加効果が乏しく、2質量%を超えても、効果の向上が見られない。
【0024】
また、上記光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系のラジカル捕捉剤が使用できる。ヒンダードアミン系のラジカル捕捉剤としては、例えば、ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピパリジニル)セバケート、ビス−(N−メチル、2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペロジニル)セバケート、〔コハク酸ジメチル−16(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン〕縮合物、ポリ{〔6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ〕−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノール〕}等が挙げられる。
【0025】
これらの光安定剤を添加する割合は、添加する対象の層の樹脂分に対し、好ましくは、0.1〜2質量%の範囲である。0.1質量%未満では添加効果が乏しく、2質量%を超えても、効果の向上が見られない。
【0026】
なお、紫外線吸収剤と光安定剤は、それぞれを単独で使用した場合でも効果はあるが、併用した方が、理由は定かではないが、相乗的に効果が向上するため併用することが望ましい。紫外線吸収剤と光安定剤は、単に混合しただけでは、使用中のブリードが避けがたいために、上記のヒンダードアミン系の光安定剤に代えて、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロリルオキシ−1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、または4−(メタ)アクリロイルオキシ−1−ブチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の(メタ)アクリロイルオキシ基をもつ化合物、もしくは4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、または4−クロトノイルオキシ−1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のクロトノイルオキシ基をもつ化合物をグラフト共重合させた樹脂を使用して、ブリードを防止することが望ましい。
【0027】
熱可塑性樹脂基材シートに施す装飾処理の具体例としては、基材シート自体への着色剤添加、絵柄インキ層形成による装飾層の形成等の公知の装飾処理を利用できる。また、これらの装飾処理は、単独で或いは組み合わせて利用できる。
【0028】
熱可塑性樹脂基材シートに装飾処理を施してなる加飾シートを図1(A)〜(E)に例示する。これらのうち、図1(A)の加飾シートSは基材シート1に着色剤を添加したもの、図1(B)の加飾シートSは基材シート1の裏側に絵柄インキ層2を形成したもの、図1(C)の加飾シートSは基材シート1に着色剤を添加するとともに表側に絵柄インキ層2を形成したものである。また、図1(D)の加飾シートSは、着色剤を添加するとともに表側に絵柄インキ層2を形成したものを裏面基材シート3とし、これと表面基材シート4を接着剤層5を介して貼り合わせたものであり、図1(E)の加飾シートSは、基材シート1の裏側に絵柄インキ層2を形成するとともに表側に表面塗膜6を形成し、さらに裏面側の絵柄インキ層2を覆って接着剤層7を設けたものである。
【0029】
熱可塑性樹脂基材シートに施す装飾処理は、好ましくは基材シートの裏側に施す方が、基材シートによって装飾処理の耐磨耗性、耐水性、耐候性等の耐久性を向上できる点で好ましい。
【0030】
絵柄インキ層は、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、インキジェット印刷、転写シートからの転写印刷等の公知の印刷法、或いは手描き等によって形成することができる。また、全面ベタ柄の場合は、グラビアコート、ロールコート、スプレーコート等の公知の塗工法によって形成することができる。絵柄インキ層を形成するインキは、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、セルロース系樹脂等の樹脂を一種又は二種以上混合したものをバインダーとし、これに着色剤、適宜その他添加剤を添加したものを用いる。
【0031】
なお、着色剤としては、例えば、チタン白、亜鉛華、カーボンブラック、鉄黒、弁柄、クロムバーミリオン、群青、コバルトブルー、黄鉛、チタンイエロー等の無機顔料、フタロシアニンブルー、インダスレンブルー、イソインドリノンイエロー、ベンジジンイエロー、キナクリドンレッド、ポリアゾレッド、ペリレンレッド、アニリンブラック等の有機顔料(或いは染料も含む)、或いは、アルミニウム、真鍮等の鱗片状箔片からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の鱗片状箔片からなる真珠光沢顔料(パール顔料)等を用いる。
【0032】
絵柄インキ層の絵柄は、例えば、木目、石目、布目、砂目、タイル貼模様、煉瓦積模様、皮絞模様、幾何学模様、文字、記号、全面ベタ等が挙げられ、用途に合わせてこれらの1種又は2種以上が組み合わせて使用される。
【0033】
また、装飾処理として金属薄膜層を設けてもよい。この金属薄膜層は、アルミニウム、クロム、金、銀、銅等の金属を用い、真空蒸着、スパッタリング等の方法で製膜する。そして、金属薄膜層は、全面に設けてもよいし、或いは部分的にパターン状に設けてもよい。
【0034】
基材シート自体に着色剤を添加する場合は、基材シート中に、前記絵柄インキの着色剤として列記したものと同様のものの中から選択した着色剤を適宜単独或いは複合して添加することで所望の着色を行う。
【0035】
その他、必要に応じて加飾シートには、表面塗膜、発泡樹脂からなるクッション層、磁性体層、蛍光体層、導電体層といった機能発現のための層を設ける。これらの各層は必要に応じて積層した樹脂シートの間に挟み込むこともできる。
【0036】
接着剤層は必ずしも必要ではないが、成形品が長期にわたって使用される場合には熱融着のみでは密着性が不十分な場合があり、このような場合に接着剤層を設ける。接着剤は加飾シートと熱可塑性樹脂基材シートとの接着、加飾シートの層間の接着等に用いる。接着剤としては、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、塩素化ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、或いは、2液硬化型ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の熱硬化性樹脂等からなる感熱型接着剤が好ましい。
【0037】
加飾成形品の基材となる繊維強化熱可塑性樹脂シートは、熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂と補強繊維との複合体からなる。代表的には、ポリプロピレン樹脂に硝子繊維を分散させたものが多く用いられているが、本発明においては特に素材を限定するものではなく、補強繊維として硝子繊維、石英繊維、炭素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維等の無機繊維、或いは、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維を用いてもよい。これら補強繊維の繊維長は、補強効果と成形性の均衡の点から5〜30mm程度とし、また繊維径は5〜30μm程度とする。補強繊維の添加量は(繊維/マトリックス樹脂)=20/80〜70/30(質量比)程度とし、必要に応じ、繊維表面にシランカップリング処理を施してもよい。該シランカップリング剤としては、ビニルシラン系、アミノシラン系、エポキシシラン系等のものが用いられる。また、マトリックス樹脂についても、ポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルやポリオレフィン系の樹脂など、様々な熱可塑性樹脂の中から強度や加飾シートとの密着性を考慮して選択することができる。該マトリックス樹脂として粒状のものを用いることもできる。その場合、粒径としては、補強繊維への分散適性の点から50〜2000μm程度とすることが好ましい。また、補強繊維の分散方法についても、抄造法、ラミネート法、乾式分散法など特に規定するものでもない。
【0038】
本発明の加飾成形品の製造方法は、加飾シートと繊維強化熱可塑性樹脂シートを予め積層した上でブランクとし、これを予め予熱してから一体成形することで絵柄等の付いた外観のよい加飾成形品を得るものである。
【0039】
そして、繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造時に加飾シートを一体成形することにより、加飾シートの繊維強化熱可塑性樹脂シートへの貼り合わせの工程を省略することができる。すなわち、繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造においては、分散法でもラミネート法でも加熱しながら圧力をかける工程があり、この工程で熱圧着するか、或いは密着強度や耐久性能の要求によって接着剤を用いて積層を行う。接着剤は、常温では固体で加熱時に熔融あるいは架橋重合反応する所謂感熱型接着剤を使用することもできるが、スタンピング成形時に成形を阻止しないものを選択する必要がある。また、繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造時に加飾シートを積層しない場合は、接着剤を塗布しながら繊維強化熱可塑性樹脂シートに積層することも可能である。
【0040】
成形温度は、成形すべき繊維強化熱可塑性樹脂シートの種類、成形形状、加飾シートの種類により適宜設定するが、少なくともマトリックス樹脂のVicat軟化温度以上、好ましくは融点(乃至熔融温度)以上である。ただし、樹脂の分解や変質が生じない温度に抑える。通常、120〜230℃程度、成形圧力は3〜50kg/cm2程度、成形時間は1〜10分程度である。
【0041】
加熱加圧成形(熱プレス)は、例えば図2に示す如き公知の熱プレス機を使用し、雌型11と雄型12とからなる一対の成形型間に、加飾シートSと繊維強化熱可塑性樹脂シートTとの積層体Wを載置して行う。
【0042】
本発明では、積層体Wを加熱加圧して成形するに先立ち、その積層体Wを加熱して軟化せしめる。この予熱には、図3に示すように、電熱線やセラミクスヒーター等を用いた赤外線輻射式の熱盤20を用いることが好ましい。このように、成形型間に載置した積層体Wを加熱軟化せしめることによって、積層体Wの成形形状追従性がより良好になり、成形時の破れ、皺の発生も防止できることにより、特に成形形状が深絞形状の場合でも、皺、破れがなく良好に形状追従することができる。
【0043】
なお、図2及び図3の形態では、まず未加熱状態の積層体を成形型間に載置し、しかる後に熱盤を成形型内に挿入して積層体を加熱軟化せしめている。この形態は、加飾シートを型内に搬送する際の積層体Wの変形防止及び積層体Wと成形型との位置ズレの防止の点では優れた製造方法である。ただし、成形サイクルの短縮及び成形効率向上の点においては、(図示は省くが)積層体Wを成形型間に搬送する途中で熱盤等により積層体Wを加熱軟化せしめ、しかる後に成形型間に加熱軟化状態の積層体を載置する形態の方が優れる。
【0044】
また、積層体Wを加熱軟化せしめた後、その積層体Wを成形型のうちの一方の成形型の表面上に真空成形し、しかる後に成形型を係合することが好ましく、この場合、一方の成形型の表面への真空成形は、例えば図3に示すように、雌型11に形成した真空吸引用の孔11a(または溝)を通じて真空ポンプで吸引すればよい。
【0045】
そして、図3に示す状態から、ラム13,14を作動させて雌型11と雄型12を係合し、積層体Wを加熱加圧することで成形する。その後、冷却固化してから雌型11と雄型12を開放することにより、繊維強化熱可塑性樹脂シート上に加飾シートが積層一体化された加飾成形品が得られる。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0047】
(1)繊維強化熱可塑性樹脂シートの作成
まず、下記組成(数字は配合質量比を示す)の分散液を抄紙機にかけ、吸引脱泡を行い、さらに風乾して米坪量600g/m2 の繊維強化熱可塑性樹脂シートを作成した。
【0048】
〔分散液の組成〕
マトリックス樹脂:ポリプロピレン粒子 20.625
補強繊維1:硝子繊維チョップドストランド(A) 9.375
補強繊維2:硝子繊維チョップドストランド(B) 7.500
分散媒:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液 10000
【0049】
上記組成において、ポリプロピレン粒子は、平均粒径が500μmで、融点は155℃である。また、補強繊維1である硝子繊維チョップドストランド(A)は、繊維長13mm、繊維径17μm、アミノシランカップリング剤0.005質量%処理、ポリエチレンオキサイド系収束剤0.05質量%処理、収束本数5000本/束のものである。また、補強繊維2である硝子繊維チョップドストランド(B)は、繊維長13mm、繊維径23μm、アミノシランカップリング剤0.005質量%処理、ポリエチレンオキサイド系収束剤0.05質量%処理、収束本数5000本/束)のものである。
【0050】
(2)加飾シートの作成
アイソタクチックポリプロピレンからなるハードセグメント75質量部とアタクチックポリプロピレンからなるソフトセグメント25質量部との混合物からなるポリプロピレン系熱可塑性エラストマー中に、チタン白、弁柄、黄鉛を主体とする着色剤を添加してなる黄褐色の裏面基材シート(厚さ200μm)を用意した。
【0051】
そして、その裏面基材シート裏面上に、コロナ放電処理を施した上で、ポリエステルポリオール100質量部と1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート6質量部とからなる2液硬化型ウレタン樹脂を4g/m2 (乾燥時)塗布して易接着プライマー層を形成した。該易接着プライマー層の上に、装飾層として木目模様の絵柄インキ層をグラビア印刷により形成した。絵柄インキは、バインダー樹脂として、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体とアクリル樹脂との5対5質量比の混合物を用い、着色剤として、カーボンブラック(墨)と弁柄を主体とするものを用いた。
【0052】
次に、絵柄インキ層上に、接着剤層として、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体とアクリル樹脂とを(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体)/(アクリル樹脂)=2/8質量比で混合してなる透明接着剤層を、グラビアロールコーターにて4μm(乾燥時)の厚さで形成した。
【0053】
次いで、ポリメチルメタクリレートにベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤0.8質量部とヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤0.4質量を添加してなる、厚さ100μmの表面基材シートを熱融着し、図1(D)に示す如き断面構造の加飾シートを得た。
【0054】
(3)加飾シートと繊維強化熱可塑性樹脂シートとの積層体の作成
上記(1)で得た繊維強化熱可塑性樹脂シートと上記(2)で得た加飾シートとを、加飾シートの基材シート側が繊維強化熱可塑性樹脂シートと対向するようにして重ね合わせ、これを170℃に加熱した状態で輪転式ロール熱プレス機の回転する加圧ローラ間に通して圧着し積層した。なお、加圧ローラとしては、表面にクロムメッキを施した表面温度60℃の金属ロールと金属の軸芯の周囲にシリコンゴムを被覆した圧胴ローラとからなるものを使用し、金属ロールの側を表面シートの側に当接した。
【0055】
(4)積層体の加熱加圧
成形図2に示す如く、雌型11と雄型12とからなる一対の成形型間に、上記(3)で得た積層体を挿入した。この時、積層体の表面基材シート側が雌型11の表面側を向くようにして載置した。また、雌型11及び雄型12は炭素鋼製のものを用いた。載置後、図3に示す如く、赤外線輻射式の熱盤20により積層体Wを表面温度120℃に加熱し、雌型11の真空吸引孔11aから吸引を行って積層体Wを雌型11の表面に密着せしめた。
【0056】
続いて、雌型11と雄型12を係合して積層体Wを加熱加圧することで成形を行った。加圧工程での成形条件は、型温度210℃、圧力10kg/cm2 、加圧時間1分間とし、冷却工程での成形条件は、型温度60℃、圧力10kg/cm2 、加圧時間3分間とした。成形後、雌型11と雄型12を開放し、成形品を取り出したところ、表面に加飾シートが積層一体化され、しかも所望の形状に成形された加飾成形品が得られた。
【0057】
以上、本発明の実施形態と実施例について詳細に説明してきたが、本発明による加飾成形品の製造方法は、上記実施形態及び実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは当然のことである。
【符号の説明】
【0058】
S 加飾シート
T 繊維強化熱可塑性樹脂シート
W 積層体
1 基材シート
2 絵柄インキ層
3 裏面基材シート
4 表面基材シート
5 接着剤層
6 表面塗膜
7 接着剤層
11 雌型
11a 孔
12 雄型
13,14 ラム
20 熱盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面基材シート、絵柄インキ層、裏面基材シートをこの順に有する加飾シートと、該加飾シートの裏面基材シート側に積層される繊維強化熱可塑性樹脂シートとの積層体を形成しておき、加熱軟化せしめられた該積層体が一対の成形型間に載置された状態で、成形型を係合して積層体を加熱加圧することで成形し、冷却固化してから成形型を開放することにより、繊維強化熱可塑性樹脂シート上に加飾シートが積層一体化された加飾成形品を得ることを特徴とする加飾成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の加飾成形品の製造方法において、一対の成形型間に積層体を載置して加熱軟化せしめた後、その積層体を成形型のうちの一方の成形型の表面上に真空成形し、しかる後に成形型を係合することを特徴とする加飾成形品の製造方法。
【請求項3】
前記表面基材シートが、弗素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタクリレートのいずれか1種からなることを特徴とする請求項1または2に記載の加飾成形品の製造方法。
【請求項4】
表面基材シート、絵柄インキ層、裏面基材シートをこの順に有する加飾シートと、該加飾シートの裏面基材シート側に積層される繊維強化熱可塑性樹脂シートとが積層一体化されていることを特徴とする加飾成形品。
【請求項5】
前記表面基材シートが弗素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタクリレートのいずれか1種からなることを特徴とする請求項4に記載の加飾成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−235660(P2011−235660A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191697(P2011−191697)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【分割の表示】特願2001−160419(P2001−160419)の分割
【原出願日】平成13年5月29日(2001.5.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】