説明

加飾用ポリ乳酸系樹脂シート並びにそれを用いた加飾部材

【課題】加熱成形性、耐熱性、耐衝撃性、耐光性に優れ、さらに意匠性も両立している加飾用ポリ乳酸系樹脂シートおよびそれを用いた加飾部材を提供することにある。
【解決手段】
ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物100質量%に対して、ポリ乳酸系樹脂5〜95質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂5〜95質量%含んだ樹脂組成物から構成されることを特徴とする、加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加飾用ポリ乳酸系樹脂シートに関し、特にインモールド成形、インサート成形、といった成形加飾用途に使用される加飾用シートに好適に使用される加飾用ポリ乳酸系樹脂シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりにより、自動車部材、電子機器、建材分野などで、溶剤レス塗装、六価クロム代替などの要望が高まり、成形用加飾シートを使用した成形部材の加飾方法の導入が進んでいる。
【0003】
例えば、成形時の応力が特定の範囲の成形用加飾シートが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この提案では、基体フィルムとして多価カルボン酸と2種以上の多価アルコールの重合物からなるポリエステルフィルムが使用されているが、具体的な組成が記載されていないため、環境低負荷を推進するために、石油資源原料を低減して、植物由来原料を積極的に用いるといった思想が見られるものではない。
【0004】
植物由来原料を用いた提案も数多くされている。中でも特にポリ乳酸は、植物由来原料のプラスチックとしてはガラス転移点が約60℃と高く、透明であることなどから、将来性のある素材として最も注目されている。
【0005】
こういった動きから、ポリ乳酸系重合体を用いたフィルムが提案されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、結晶性と面配向度を規定したフィルムであり、加飾用途への展開に関する具体的な記述はない。
【0006】
また、加飾シート用のポリ乳酸系フィルムに関しての提案もあるが(例えば、特許文献3)、詳細な組成を具体的に規定する記述がなく、加飾用に適する特性である、成形性、耐熱性、耐衝撃性、耐光性を十分に満足できるものではなかった。
【特許文献1】特開2000−238070号公報
【特許文献2】特開2003−2984号公報
【特許文献3】特開2005−15783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を解消することにあり、加熱成形性、耐熱性、耐衝撃性、耐光性に優れ、さらに意匠性も両立している加飾用ポリ乳酸系樹脂シートおよびそれを用いた加飾部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、次の構成を有する。すなわち、
(1) ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物100質量%に対して、ポリ乳酸系樹脂5〜95質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂5〜95質量%含んだ樹脂組成物から構成されることを特徴とする、加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
(2) 面配向係数が0以上0.005未満であることを特徴とする、(1)に記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
(3) 120℃において、少なくとも1方向の伸度が400〜1000%である(1)または(2)に記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
(4) ポリ乳酸系樹脂が、ポリL−乳酸と、ポリD−乳酸の混合物からなることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
(5) 少なくとも(A)/(B)2層構成からなり、
(A)層におけるポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物100質量%に対して、ポリ乳酸系樹脂0〜95質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂5〜100質量%含んでおり、
(B)層におけるポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物100質量%に対して、ポリ乳酸系樹脂5〜100質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂0〜95質量%含んでいることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
(6) (A)/(B)/(A)の3層からなることを特徴とする、(5)に記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
(7) ヘイズが0.001〜0.05%/μmであることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
(8) インモールド成形用途に用いられることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
(9) インサート成形用途に用いられことを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
(10) (1)〜(7)のいずれかに記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートを用いてなる加飾部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートは、特に加熱成形などの加工適性、耐熱性、耐衝撃性、耐光性が良好な特徴を有する。このため、本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートは、インモールド成形、インサート成形として好ましく使用され、特に、建材、自動車内外装部品や、携帯電話や電機製品、さらにはカップや、遊技機などの加飾部品に好ましく用いられるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートは、成形性、透明性、耐熱性、環境低負荷の点から、シートを構成するポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物100質量%に対して、ポリ乳酸系樹脂5〜95質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂5〜95質量%含んでいることが重要である。なおここで、本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートが積層シートである場合は、各層におけるポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物の合計100質量%に対して、ポリ乳酸系樹脂5〜95質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂5〜95質量%含んでいることが重要である。
【0011】
ポリ乳酸系樹脂およびポリ(メタ)アクリレート系樹脂は供に、成形性、透明性に優れ、本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートはこれらの樹脂を含むことで、成形性、透明性に優れた樹脂シートとなる。シートを構成するポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物100質量%に対してポリ乳酸系樹脂が5質量%未満であると、バイオマス度が低くなり、環境負荷が大きくなってしまうため好ましくない。また、ポリ乳酸系樹脂が95質量%より多くなると、耐熱性が低下してしまうため好ましくない。
【0012】
携帯電話や電機製品などの加飾に使用される場合は、信頼性試験で重要である80℃での耐熱性を達成するために、ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物100質量%に対して、ポリ乳酸系樹脂5〜50質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂50〜95質量%含んでいることがより好ましい。
【0013】
さらに、スペックの厳しい自動車内装部材などに使用される場合、信頼性試験で重要である90℃での耐熱性を達成できるため、ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物100質量%に対して、ポリ乳酸系樹脂5〜30質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂70〜95質量%含んでいることが好ましい。
【0014】
逆に、カップや、遊技機といったスペックが厳しくない部材には、バイオマス度を高くするために、ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物100質量%に対して、ポリ乳酸系樹脂を50質量%以上95質量%以下が好ましく、より好ましくは70質量%以上95質量%以下含む場合である。
【0015】
また、ここで言う、バイオマス度とは製品中に使用されたバイオマス(再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの)の割合のことを言う。
【0016】
本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂とは、L−乳酸および/またはD−乳酸を原料として得ることができる構造を主たる構成成分とするポリマーであるが(つまりポリ乳酸を主体とするポリマーであるが)、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。
【0017】
かかる他の共重合成分(単量体)としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。上記他の共重合成分(単量体)の共重合量は、ポリ乳酸を主体とするポリマーの全単量体成分100モル%に対し、0〜30モル%であることが好ましく、0〜10モル%であることがより好ましい。
【0018】
本発明において、特に高い耐熱性を有する加飾用ポリ乳酸系樹脂シートを得るためには、ポリ乳酸系樹脂として乳酸成分の光学純度が高いものを用いることが好ましい。ポリ乳酸系樹脂の総乳酸成分のうち、L体が80質量%以上100質量%以下含まれるかあるいはD体が80質量%以上100質量%以下含まれることが好ましく、L体が90質量%以上100質量%以下含まれるかあるいはD体が90質量%以上100重量%以下含まれることがより好ましく、L体が95質量%以上100質量%以下含まれるかあるいはD体が95質量%以上100質量%以下含まれることが特に好ましい。
【0019】
ポリ乳酸系樹脂の製造方法としては、詳細は後述するが、既知の重合方法を用いることができ、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを挙げることができる。
【0020】
ポリ乳酸系樹脂の融点は、特に制限されるものではないが、120℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。ポリ乳酸系樹脂の融点は通常、乳酸成分の光学純度を高くすることにより高くなり、融点120℃以上のポリ乳酸系樹脂は、L体が90質量%以上100質量%以下含まれるかあるいはD体が90質量%以上100質量%以下含まれることにより、また融点150℃以上のポリ乳酸系樹脂は、L体が95質量%以上100質量%以下含まれるかあるいはD体が95質量%以上100質量%以下含まれることにより得ることができる。
【0021】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、耐熱性の点で、ポリL−乳酸と、ポリD−乳酸の混合物からなることが好ましい。ポリL−乳酸とポリD−乳酸の混合物を結晶化させると、通常のL−乳酸もしくはD−乳酸のみからできる結晶(α結晶)とは晶系が異なる、ステレオコンプレックス結晶(SC結晶)が形成する。同一系内にα結晶とSC結晶という2種類の晶系が存在することにより、一方の晶系の結晶成長を、もう一方の晶系の結晶が阻害することによって、結晶サイズを小さく抑制することができる。この方法により、実際のシート中に各結晶を形成させる方法は後に説明するが、α結晶とSC結晶を同時に形成させてもよいし、一方を先に形成させておいてから、もう一方を後で形成させてもよい。SC結晶を先に形成させる方法としては、口金〜キャスト部分における降温結晶化が好ましく用いられる。これは、SC結晶が比較的高温の状態から降温結晶化を始めることを利用している。
【0022】
本発明において、ポリ乳酸系樹脂全体に対するポリL−乳酸とポリD−乳酸のそれぞれの配合割合は特に制限されないが、耐熱性の点で、質量比1:99〜99:1であることが好ましく、5:95〜95:5であることがより好ましく、10:90〜90:10であることがさらに好ましい。
【0023】
また、より効率よくSC結晶を形成させるため、各層におけるポリL−乳酸の重量平均分子量(以下、Mw(L)とする)とポリD−乳酸の重量平均分子量(以下、Mw(D)とする)の比Mw(L)/Mw(D)またはMw(D)/Mw(L)が2〜40であることが好ましく、3〜20であることがより好ましく、4〜10であることがさらに好ましい。これは、ポリL−乳酸とポリD−乳酸の分子鎖長に差をつけることで、相互の接近が容易となり効率的にSCが形成できるからである。各層におけるMw(L)とMw(D)の比Mw(L)/Mw(D)またはMw(D)/Mw(L)が2以上である場合、SCが効率よく形成される点で好ましい。
【0024】
本発明におけるポリ(メタ)アクリレート系樹脂とは、アクリレートおよびメタクリレートから選ばれる少なくとも1種の単量体を構成単位とするものであり、2種以上の単量体を共重合して用いても構わない。ポリ(メタ)アクリレートを構成するアクリレートおよびメタクリレートとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、シアノエチルアクリレート、シアノブチルアクリレートなどのアクリレート、およびメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどのメタクリレートが挙げられるが、より高い高温剛性を付与するには、ポリメチルメタクリレートを用いることが好ましい。
【0025】
これらの単量体を重合あるいは共重合する方法については特に限定されるものではなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合などの公知の重合方法を用いることができる。
【0026】
ポリ(メタ)アクリレート系樹脂としてポリメチルメタクリレートを用いる場合、ポリ乳酸系樹脂との相溶性の観点から、JIS K7210に準じて230℃で測定したポリメチルメタクリレートの流動性が、1〜22g/(10min)であるものが好ましく、1.5〜15g/(10min)であるものがさらに好ましく、2〜10g/(10min)であるものが特に好ましい。
【0027】
本発明で用いられるポリ(メタ)アクリレート系樹脂は、重量平均分子量が2万〜50万であることが好ましく、10万〜20万であることがより好ましい。重量平均分子量が2万未満では加飾用ポリ乳酸系樹脂積層シートの強度が低下する場合があり、重量平均分子量が50万を超えると積層製膜時に粘度斑の発生や、成形時の流動性が低下する場合がある。
【0028】
ポリ乳酸系樹脂やポリ(メタ)アクリレート系樹脂の含有量の定量化の方法としては特に限定されないが、例えば、NMRによる特定が挙げられる。ポリ乳酸とポリメチルメタクリレートの配合量を特定するには、重クロロホルム溶媒中55℃でH核のNMR測定を行い、ポリ乳酸に由来するピーク(例えばメチン基に由来するピーク)とポリメチルメタクリレートに由来するピーク(例えばメトキシ基に由来するピーク)の強度比から算出することができる。H核のピークが重複して算出できない場合は、さらに13C核の測定を行い、特定することができる。
【0029】
本発明にかかるポリ乳酸系樹脂は、各成分を溶媒に溶かした溶液を均一混合した後、溶媒を除去してポリ乳酸系樹脂を製造することも可能であるが、溶媒への原料の溶解、溶媒除去などの工程が不要で、実用的な製造方法である、各成分を溶融混練することによりポリ乳酸系樹脂を製造する溶融混練法を採用することが好ましい。
【0030】
その溶融混練方法については、特に制限はなく、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、単軸または二軸押出機などの通常使用されている公知の混合機を用いることができる。中でも生産性の観点から、単軸または二軸押出機の使用が好ましい。またその混合順序についても特に制限はなく、例えばポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂をドライブレンド後、溶融混練機に供する方法や、予めポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を溶融混練したマスターバッチを作製後、該マスターバッチとポリ乳酸系樹脂とを溶融混練する方法などが挙げられる。また必要に応じて、その他の添加剤を同時に溶融混練する方法や、予めポリ乳酸系樹脂とその他の添加剤を溶融混練したマスターバッチを作製後、該マスターバッチとポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂とを溶融混練する方法を用いてもよい。また溶融混練時の温度は190℃〜250℃の範囲が好ましく、またポリ乳酸の劣化を防ぐ意味から、200℃〜240℃の範囲とすることがより好ましい。
【0031】
本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートを構成するポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレートを含む樹脂組成物には、ポリ乳酸系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂のみで構成されていてもよいが、本発明の目的、効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、ポリ乳酸系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂以外の樹脂を混合してもよい。例えば、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリビニル化合物などの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体などの軟質熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0032】
その中でも特に、ガラス転移温度が60℃以上となるポリビニル化合物は、ポリ乳酸系樹脂組成物の耐熱性を向上させる効果があるために好ましい。ガラス転移温度が60℃以上となるポリビニル化合物の具体例としては、ポリスチレン、ポリ(4−アセチルスチレン)、ポリ(2−メチルスチレン)、ポリ(3−メチルスチレン)、ポリ(4−メチルスチレン)、ポリ(4−メトキシスチレン)、ポリ(4−ヒドロキシスチレン)(ポリビニルフェノール)、ポリ(2−ヒドロキシメチルスチレン)、ポリ(3−ヒドロキシメチルスチレン)、ポリ(4−ヒドロキシメチルスチレン)などの各種スチレン系重合体、およびポリ(ベンゾイルオキシエチレン)、ポリ(シクロヘキサノイルオキシエチレン)、ポリ(4−エトキシベンゾイルオキシエチレン)、ポリ(2−メトキシベンゾイルオキシエチレン)、ポリ(4−メトキシベンゾイルオキシエチレン)、ポリ(4−フェニルベンゾイルオキシエチレン)などの各種ポリビニルエステルなどが挙げられるが、これらの中でもポリ乳酸系樹脂との相溶性の観点からポリ(4−ヒドロキシスチレン)(ポリビニルフェノール)を用いるのが好ましい。
【0033】
本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートを構成するポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレートを含む樹脂組成物には、さらなる耐衝撃性付与、成形性向上の観点から、ガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂を、シートを構成する全樹脂組成物100質量%に対して、0.1質量%〜40質量%、より好ましくは0.2質量%〜30質量%、さらに好ましくは0.5質量%〜20質量%含有することができる。ポリ乳酸系樹脂のガラス転移温度は約60℃のため、耐衝撃性を向上させるためには、ガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂が好ましく用いられる。また、該ポリエステル系樹脂のガラス転移温度は、さらに好ましくは0℃以下であり、下限値は特に制限はないが、好ましくはガラス転移温度が−110℃以上である。
【0034】
該ガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂の重量平均分子量には特に制限はないが、主に耐熱性を維持する観点とポリ乳酸系樹脂との相溶性の観点から、それぞれ下限と上限の好ましい値が存在し、2,000〜200,000であることが好ましく、より好ましくは5,000〜100,000、さらに好ましくは10,000〜80,000である。
【0035】
このガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂の種類については特に制限はないが、芳香族および/または脂肪族ポリエステル、ポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントとポリ乳酸セグメントで構成される樹脂であることが好ましい。
【0036】
ガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンセバケート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/サクシネート、ポリプロピレンセバケート、ポリプロピレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート/テレフタレート、ポリプロピレンアジペート/テレフタレート、ポリプロピレンアジペート/サクシネートなどが挙げられる。
【0037】
ポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントとポリ乳酸セグメントで構成される樹脂は、ポリエーテル系および/またはポリエステル系樹脂とポリ乳酸系樹脂のブロック共重合体であることがさらに好ましい。またこのブロック共重合体一分子中に数平均分子量が1,500以上のポリ乳酸セグメントを一つ以上有することが好ましい。この場合、該ポリ乳酸セグメントが、母材であるポリ乳酸系重合体から形成される結晶中に取り込まれることで母材につなぎ止められる作用を生じ、該ブロック共重合体のブリードアウトを十分に抑制することができる。
【0038】
ポリエーテルの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体などが挙げられる。
【0039】
ポリエステルの具体例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンセバケート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/サクシネート、ポリプロピレンセバケート、ポリプロピレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート/テレフタレート、ポリプロピレンアジペート/テレフタレート、ポリプロピレンアジペート/サクシネートなどが挙げられる。
【0040】
本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートを構成するポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレートを含む樹脂組成物には、さらなる耐衝撃性付与の観点から、耐衝撃性改良剤を添加してもよい。本発明における耐衝撃性改良剤とは、熱可塑性樹脂の耐衝撃性改良に用いることのできるものであれば特に制限されない。例えば下記の各種耐衝撃改良剤などから選ばれる少なくとも1種のものを用いることができる。
【0041】
すなわち、耐衝撃改良剤の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロプレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、各種アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体およびそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体(たとえば、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、酸変性エチレン−プロピレン共重合体、ジエンゴム(たとえばポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン)、ジエンとビニル単量体との共重合体(たとえばスチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリブタジエンにスチレンをグラフト共重合せしめたもの、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体)、ポリイソブチレン、イソブチレンとブタジエンまたはイソプレンとの共重合体、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ポリウレタンゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴム、ポリエステル系エラストマー、およびポリアミド系エラストマーなどを使用することができる。
【0042】
更に、各種の架橋度を有するものや、各種のミクロ構造、例えばシス構造、トランス構造等を有するもの、ビニル基などを有するもの、或いは各種の平均粒径(樹脂組成物中における)を有するものや、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成されるいわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造重合体なども使用することができる。
【0043】
また、上記具体例に挙げた各種の(共)重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体およびグラフト共重合体などのいずれであっても、本発明の耐衝撃改良剤として用いることができる。
【0044】
更には、これらの(共)重合体を作るに際し、他のオレフィン類、ジエン類、芳香族ビニル化合物、アクリル酸、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルなどの単量体を共重合することも可能である。
【0045】
これらの耐衝撃改良剤の中でも、アクリル単位を含む重合体や、酸無水物基および/またはグリシジル基を持つ単位を含む重合体が好ましい。ここでいうアクリル単位の好適例としては、メタクリル酸メチル単位、アクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位およびアクリル酸ブチル単位を挙げることができ、酸無水物基やグリシジル基を持つ単位の好適例としては、無水マレイン酸単位およびメタクリル酸グリシジル単位を挙げることができる。
【0046】
また、耐衝撃改良剤は、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成される、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造重合体であることが好ましく、メタクリル酸メチル単位またはアクリル酸メチル単位をシェル層に含む多層構造重合体であることがさらに好ましい。このような多層構造重合体としては、アクリル単位を含むことや、酸無水物基および/またはグリシジル基を持つ単位を含むことが好ましく、アクリル単位の好適例としては、メタクリル酸メチル単位、アクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位およびアクリル酸ブチル単位を挙げることができ、酸無水物基やグリシジル基を持つ単位の好適例としては、無水マレイン酸単位やメタクリル酸グリシジル単位を挙げることができる。特に、メタクリル酸メチル単位、アクリル酸メチル単位、無水物マレイン酸単位およびメタクリル酸グリシジル単位から選ばれた少なくとも一つをシェル層に含み、アクリル酸ブチル単位、アクリル酸エチルヘキシル単位、スチレン単位およびブタジエン単位から選ばれた少なくとも一つをコア層に含む多層構造体が好ましく使用される。
【0047】
また、好ましい耐衝撃性改良剤としては、ポリウレタンゴムも挙げることができる。ここでポリウレタンゴムとはウレタン結合を有する弾性体全般を総称するものであり、熱可塑性ポリウレタンエラストマーや、それを架橋した架橋ポリウレタンゴムを含む。なかでも熱可塑性ポリウレタンエラストマーが好ましい。熱可塑性ポリウレタンエラストマーはジイソシアネートと短鎖ポリオールからなるハードセグメントと、ジイソシアネートと長鎖ポリオールからなるソフトセグメントを少なくとも有する。熱可塑性ポリウレタンエラストマーを構成するジイソシアネート化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−および2,6−トリレンジイソシアネート、m−およびp−フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが好ましく使われる。短鎖ポリオール成分としては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ブテンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカメチレンジオール等が好ましく使われる。ソフトセグメントとしての長鎖ポリオールとしては、ポリアルキレンアジペート、ポリアルキレンエーテルなどが好ましく、ポリエチレン−ブチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリノナンジオールアジペート、ポリテトラメチレングリコールなどがより好ましい。それぞれの成分は1種又は2種以上の混和物でも好適に用いることができる。
【0048】
また、上記耐衝撃改良剤は、実質的にアニオンが検出されないものであることが、他の樹脂の安定性の観点から好ましい。
【0049】
そして、上記耐衝撃改良剤のガラス転移温度は、−20℃以下であることが好ましく、−30℃以下であることがさらに好ましい。
【0050】
耐衝撃性改良剤の添加量については特に限定されないが、耐衝撃性、透明性の点でポリ乳酸系樹脂シートを構成するポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレートを含む全樹脂組成物を100質量%として、0.1〜40質量%含まれていることが好ましく、0.5〜30質量%含まれていればさらに好ましく、1〜20質量%であれば最も好ましい。
【0051】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートは、成形性、透明性の点で、面配向係数が0以上0.005未満であることが好ましい。ここで面配向係数(fn)とは、アッベ屈折率計等で測定されるフィルムの屈折率により定義される数値であり、フィルムの長手方向の屈折率をnMD、幅方向の屈折率をnTD 、厚み方向の屈折率をnZDとすると、fn=(nMD+nTD)/2−nZDの関係式で表される。面配向係数は、0〜0.004未満であればさらに好ましい。
【0052】
面配向係数が0.005以上になると、成形性、透明性が低下してしまう場合があるので、好ましくない。面配向係数を0以上0.005未満の範囲とする手法は特に限定されないが、未延伸シートとする方法が最も好ましいが、耐経時性を向上させるために、インフレーション法、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法などの方法により、延伸させてもよい。その場合は、延伸温度、延伸倍率を制御することで、面配向係数を上記の範囲とすることができる。
【0053】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートは、単層構成でも、積層構成でもよいが、バイオマス度をできるだけ高くして、さらに耐熱性を両立させるためや、耐衝撃性層を設けて、成形性と耐衝撃性を両立させるために、積層構成をとることも好ましい態様である。
【0054】
(A)/(B)2層構成とする場合、(A)層で耐熱性をもたせるために、(A)層におけるポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物100質量%に対して、ポリ乳酸系樹脂0〜95質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂5〜100質量%含む樹脂組成物からなる(A)層とすることが好ましい。より好ましくは、ポリ乳酸系樹脂0〜90質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂10〜100質量%、さらに好ましくは、ポリ乳酸系樹脂0〜80質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂20〜100質量%である。耐熱性、成形性の要求特性が厳しい場合は、ポリ乳酸系樹脂0質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂100質量%であることが好ましい。
【0055】
また、(B)層はバイオマス度を高めるために、(B)層におけるポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物100質量%に対して、ポリ乳酸系樹脂5〜100質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂0〜95質量%含む樹脂組成物からなる(B)層とすることが好ましい。より好ましくは、ポリ乳酸系樹脂10〜100質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂0〜90質量%、さらに好ましくは、ポリ乳酸系樹脂20〜100質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂0〜80質量%である。耐熱性、成形性の要求特性が厳しい場合は、ポリ乳酸系樹脂100質量%未満、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂が0質量%より多く含まれていることが好ましい。
【0056】
また、表層での耐熱性効果を高めるために、(A)/(B)/(A)の3層構成とすることも好ましい。また、3層よりも多い多層構成もとることができる。
【0057】
積層構成の場合、積層比率は特に限定されないが、耐熱性、バイオマス度を両立するために、2層積層の場合は、(A)/(B)が1:20〜1:1の厚み比率であることが好ましい。また、(A)/(B)/(A)が1:20:1〜1:2:1の厚み比率であることが好ましい。厚み比は、2層積層の場合は、1:15〜1:1であればより好ましく、1:10〜1:1であれば最も好ましい。3層積層の場合は、1:15:1〜1:2:1であればより好ましく、1:10:1〜1:2:1であれば、最も好ましい。
【0058】
本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートは、成形性の点で、120℃おいて、少なくとも1方向の伸度が400〜1000%であることが好ましい。120℃において、少なくとも1方向の伸度が400〜1000%であれば、優れた成形性を示すことができる。均一成形性の点からは、どの方向においても伸度が400〜1000%であることが好ましい。
【0059】
加飾シートの成形加工工程においては、赤外線ヒーターなどによる予熱工程を経た後に真空成形、真空圧空成形、プラグアシスト成形などの熱成形される工程を有する場合が多く、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂シートの成形温度は、ガラス転移温度から120℃付近が多く、成形メーカーでも一般的な成形温度とされている。このため、120℃における伸度が400〜1000%であれば、成形倍率が高い成形体への加飾が可能となるため、非常に好ましい。伸度が400%未満であると、高成形倍率の成形部材を成形する場合に、シートが破断してしまう場合があり、加飾用シートとして使用できない場合がある。また、1000%を超えるシートの設計は、経済的ではなく、また耐熱性に劣る場合もあるため好ましくない。成形性、耐熱性、経済性の点で、より好ましくは120℃おいて、少なくとも1方向の伸度が500〜1000%であり、600〜1000%であればさらに好ましい。また特に好ましくはフィルムの長手方向と幅方向の両方向の伸度が上記範囲を満たす場合である。
【0060】
ここで本発明における120℃におけるシートの伸度について説明する。試験長50mmの矩形型に切り出したシートサンプルを120℃に設定した恒温層中で60秒間の予熱後、300mm/分のひずみ速度で引張試験を行った際、シートが破断したときのフィルムの伸び率を伸度とした。
【0061】
通常のポリ乳酸シートであれば、結晶化温度が120〜130℃付近のため、120℃における伸度は結晶化によって低下してしまうが、本発明のポリ乳酸系樹脂シートはポリ(メタ)アクリレートを規定量含まれているため、結晶性が低下し、120℃での伸度を高くすることを達成した。バイオマス度をある程度保持しつつ、ポリ(メタ)アクリレート量を増やしていくことで、上記の範囲の伸度を達成することができる。
【0062】
上記120℃における伸度を400〜1000%と制御するためには、ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物全体の合計100質量%に対して、ポリ乳酸系樹脂5〜50質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂50〜95質量%含んでいれば好ましく、ポリ乳酸系樹脂5〜30質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂70〜95質量%含んでいれば、さらに好ましい。
【0063】
本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートは、成形体として表面に形成される場合、高級感、鮮明感といった意匠性の観点からヘイズが0.001〜0.05%/μmであることが好ましい。ヘイズが0.001%/μm未満にするには経済的でなく、意匠性にもほとんど影響がない。一方、ヘイズが0.05%/μmであれば、シートが白濁して見られ、意匠性に劣る場合があるため好ましくない。より好ましくは、0.001〜0.03%/μmであり、0.001〜0.01%/μmであれば最も好ましい。
【0064】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂シートは加熱成形されて、加飾部材となることが好ましいことから、加熱成形の予熱工程での白化を抑制することが好ましく、120℃の雰囲気下で1分間保持したあとのヘイズが0.001〜0.05%/μmであることが好ましい。
【0065】
本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートのヘイズを上記範囲にする方法は特に限定されないが、ポリ乳酸系樹脂の結晶の成長を抑制し、微細化し、かつ、結晶化速度を促進するために、透明核剤を混合する方法が好ましく用いられる。また、透明核剤を混合する方法は、加熱した際の結晶の過大成長を抑制することもできるため、120℃の雰囲気下で1分間保持したあとのヘイズを0.001〜0.05%/μmを達成するためにも非常に好ましい。かかる透明核剤は、ポリ乳酸系樹脂との相溶性が良好である必要があり、また、結晶化速度を高め、結晶化した時は該樹脂の透明性を維持する必要がある。このような透明核剤としては、脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸エステル、脂肪族/芳香族カルボン酸ヒドラジド、メラミン系化合物及びフェニルホスホン酸金属塩を使用することができる。
【0066】
かかる脂肪族カルボン酸アミドの具体例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドのような脂肪族モノカルボン酸アミド類、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミドのようなN−置換脂肪族モノカルボン酸アミド類、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、へキサメチレンビスステアリン酸アミド、へキサメチレンビスベヘニン酸アミド、へキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドのような脂肪族ビスカルボン酸アミド類、N,N´−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N´−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N´−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N´−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N´−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N´−ジステアリルテレフタル酸アミドのようなN−置換脂肪族カルボン酸ビスアミド類、N−ブチル−N´−ステアリル尿素、N−プロピル−N´−ステアリル尿素、N−ステアリル−N´−ステアリル尿素、N−フェニル−N´−ステアリル尿素、キシリレンビスステアリル尿素、トルイレンビスステアリル尿素、ヘキサメチレンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスラウリル尿素のようなN−置換尿素類を使用することができる。これらは一種類又は二種類以上の混合物であってもよい。この中でも、脂肪族モノカルボン酸アミド類、N−置換脂肪族モノカルボン酸アミド類、脂肪族ビスカルボン酸アミド類が好適に用いられ、特に、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドが好適に用いられる。
【0067】
また、かかる脂肪族カルボン酸塩の具体例としては、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸水素カリウム、ラウリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸銀等のラウリン酸塩、ミリスチン酸リチウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸水素カリウム、ミリスチン酸マグネシウム、ミリスチン酸カルシム、ミリスチン酸亜鉛、ミリスチン酸銀等のミリスチン酸塩、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸カリウム、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸銅、パルミチン酸鉛、パルミチン酸タリウム、パルミチン酸コバルト等のパルミチン酸塩、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、オレイン酸亜鉛、オレイン酸鉛、オレイン酸タリウム、オレイン酸銅、オレイン酸ニッケル等のオレイン酸塩、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸タリウム、ステアリン酸鉛、ステアリン酸ニッケル、ステアリン酸ベリリウム等のステアリン酸塩、イソステアリン酸ナトリウム、イソステアリン酸カリウム、イソステアリン酸マグネシウム、イソステアリン酸カルシウム、イソステアリン酸バリウム、イソステアリン酸アルミニウム、イソステアリン酸亜鉛、イソステアリン酸ニッケル等のイソステアリン酸塩、ベヘニン酸ナトリウム、ベヘニン酸カリウム、べヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸バリウム、ベヘニン酸アルミニウム、べヘニン酸亜鉛、ベヘニン酸ニッケル等のベヘニン酸塩、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カリウム、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸バリウム、モンタン酸アルミニウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸ニッケル等のモンタン酸塩等を使用することができる。これらは一種類又は二種類以上の混合物であってもよい。特に、ステアリン酸の塩類やモンタン酸の塩類が好適に用いられ、特に、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸亜鉛、モンタン酸カルシウムが好適に用いられる。
【0068】
また、かかる脂肪族アルコールの具体例としては、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール等の脂肪族モノアルコール類、1,6−ヘキサンジオール、1,7−へプタンジール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族多価アルコール類、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール等の環状アルコール類等を使用することができる。これらは一種類又は二種類以上の混合物であってもよい。特に脂肪族モノアルコール類が好適に用いられ、特にステアリルアルコールが好適に用いられる。
【0069】
また、かかる脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、ラウリン酸セチルエステル、ラウリン酸フェナシルエステル、ミリスチン酸セチルエステル、ミリスチン酸フェナシルエステル、パルミチン酸イソプロピリデンエステル、パルミチン酸ドデシルエステル、パルミチン酸テトラドデシルエステル、パルミチン酸ペンタデシルエステル、パルミチン酸オクタデシルエステル、パルミチン酸セチルエステル、パルミチン酸フェニルエステル、パルミチン酸フェナシルエステル、ステアリン酸セチルエステル、べヘニン酸エチルエステル等の脂肪族モノカルボン酸エステル類、モノラウリン酸グリコール、モノパルミチン酸グリコール、モノステアリン酸グリコール等のエチレングリコールのモノエステル類、ジラウリン酸グリコール、ジパルミチン酸グリコール、ジステアリン酸グリコール等のエチレングリコールのジエステル類、モノラウリン酸グリセリンエステル、モノミリスチン酸グリセリンエステル、モノパルミチン酸グリセリンエステル、モノステアリン酸グリセリンエステル等のグリセリンのモノエステル類、ジラウリン酸グリセリンエステル、ジミリスチン酸グリセリンエステル、ジパルミチン酸グリセリンエステル、ジステアリン酸グリセリンエステル等のグリセリンのジエステル類、トリラウリン酸グリセリンエステル、トリミリスチン酸グリセリンエステル、トリパルミチン酸グリセリンエステル、トリステアリン酸グリセリンエステル、パルミトジオレイン、パルミトジステアリン、オレオジステアリン等のグリセリンのトリエステル類等を使用することができる。これらは一種類又は二種類以上の混合物であってもよい。この中でもエチレングリコールのジエステル類が好適であり、特にエチレングリコールジステアレートが好適に用いられる。
【0070】
また、かかる脂肪族/芳香族カルボン酸ヒドラジドの具体例としては、セバシン酸ジ安息香酸ヒドラジド、メラミン系化合物の具体例としては、メラミンシアヌレート、ポリビン酸メラミン、フェニルホスホン酸金属塩の具体例としては、フェニルホスホン酸亜鉛塩、フェニルホスホン酸カルシウム塩、フェニルホスホン酸マグネシウム塩、フェニルホスホン酸マグネシウム塩等を使用することができる。
【0071】
これらの透明核剤の具体的な添加量は、ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む全樹脂組成物の合計100質量%に対して、0.1〜2.5質量%が好ましく、より好ましくは0.3〜2質量%、特に好ましくは0.5〜1.5質量%である。該添加量が0.1質量%より小さいと、透明核剤としての効果が不十分となり、耐熱性が低くなることがある。該添加量が2.5質量%より大きいと、透明性が低下するばかりか、外観や物性の変化を来す場合がある。
【0072】
さらに、ヘイズを0.001〜0.05%/μmにするためには、本発明におけるポリ乳酸系樹脂がポリL−乳酸と、ポリD−乳酸の混合物からなることが好ましい。上記してあるとおり、ポリL−乳酸と、ポリD−乳酸の混合物からなることで、結晶サイズを小さく抑制することができるため、透明性にも非常に有利である。
【0073】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートを構成する樹脂組成物には、各種粒子を含有させることができる。その平均粒子径は0.01〜10μm、含有量は樹脂組成物中のポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部であることが好ましい。平均粒子径は、より好ましくは0.02〜5μm、さらに好ましくは0.03〜2μmである。含有する質量部は、より好ましくは0.02〜1質量部、さらに好ましくは0.03〜0.5質量部である。平均粒子径が0.01μmより小さいと、または含有重量部が0.01質量部より少ないと、粒子添加の効果が現れにくく、例えば、成形金型とフィルムとの滑り性を良くして成形性、金型からの離型性を改善する効果等が現れにくい。一方、平均粒子径が10μmより大きいと、または含有質量部が10質量部より多いと、フィルムの透明性が低下することがある。
【0074】
かかる粒子の種類は、目的や用途に応じて適宜選択され、本発明の効果を損なわなければ特に限定されないが、無機粒子、有機粒子、架橋高分子粒子、重合系内で生成させる内部粒子などを挙げることができる。もちろん、各粒子は、それぞれ単独で使用しても、混合して用いても構わない。混合して用いる場合は、それぞれの種類の粒子が、上記平均粒子径の範囲内となるようにすればよく、また、全ての種類の粒子の総含有量が上記範囲内となるようにすればよい。
【0075】
かかる無機粒子としては、特に限定されないが、シリカ等の酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の各種炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の各種硫酸塩、カオリン、タルク等の各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等の各種リン酸塩、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の各種酸化物、フッ化リチウム等の各種塩等からなる微粒子を使用することができる。
【0076】
また有機粒子としては、シュウ酸カルシウムや、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩などからなる微粒子が使用される。架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体からなる微粒子を使用することができる。その他、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機微粒子も好ましく使用される。
【0077】
また、重合系内で生成させる内部粒子としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物などを反応系内に添加し、さらにリン化合物を添加する公知の方法で生成される粒子も使用される。
【0078】
また、本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートを構成する樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて添加剤、例えば、難燃剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、粘着性付与剤、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑剤またはポリシロキサン等の消泡剤を適量配合することができる。
【0079】
また、本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートを構成する樹脂組成物は、外観をさらに向上させるために、各種着色剤を添加してもよい。使用する着色剤としては、染料、無機顔料、有機顔料などが挙げられる。しかし、染料ではポリエステルからの昇華が起こりやすく、製造工程を汚染する場合があるために無機、有機顔料が好ましく使用される。使用される無機顔料としては、例えば、ベンガラ、モリブデンレッド、カドミウムレッド、などの赤色顔料、赤口黄鉛、クロムパーミリオンなどの橙色顔料、群青、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルーなどの青色顔料、酸化クロム、ピリジアン、エメラルドグリーン、コバルトグリーンなどの緑色顔料、黄鉛、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエローなどの黄色顔料、マンガンバイオレット、ミネラルバイオレットなどの紫色顔料、酸化チタン、硫酸バリウム、亜鉛華、硫酸亜鉛などの白色顔料、カーボンブラック、黒色酸化鉄などの黒色顔料などが挙げられる。また、使用される有機顔料としては縮合アゾ、フタロシアニン、キナクリドン、ジオキサジン、イソインドリノン、キノフタロン、アンスラキノン系などを挙げることができる。また、パール顔料といった特殊な光沢調を発現させる顔料も使用することができる。
【0080】
これらの着色剤の好ましい添加量は、ポリ乳酸系樹脂シートを構成する全樹脂組成物を100質量%として、0.01〜30質量%であり、0.05〜20質量%であればさらに好ましく、0.1〜10質量%であれば最も好ましい。
【0081】
また、ブロッキング防止、帯電防止、成形金型からの離型性付与、耐傷付き性改良などの目的で、表面に主にシリコーン系のコーティング機能層を設けることが有効であり、この機能層の形成には、シートの製造工程内で行うインラインコーティング法、シートの巻き取り後に行うオフラインコーティング法を用いることができる。
【0082】
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、シートおよびこれを用いて得られる成形体の分解による強度低下を抑制し、耐熱性を良好とする点から、該シートのカルボキシル基末端濃度が30当量/10kg以下であることが好ましく、より好ましくは20当量/10kg以下、特に好ましくは10当量/10kg以下である。ポリ乳酸系樹脂中のカルボキシル基末端濃度が30当量/10kgを超える場合には、該積層シートおよび成形体が高温多湿条件下あるいは熱水との接触条件下で使用される際に加水分解により強度が低下し、容器などの成形体が脆くなり割れやすい等といった問題が発生する場合がある。
【0083】
該ポリ乳酸系樹脂積層シートのカルボキシル基末端濃度を30当量/10kg以下とする方法としては、例えば、ポリ乳酸系樹脂の合成時の触媒や熱履歴により制御する方法、シート製膜時の押出温度を低下あるいは滞留時間を短時間化する等熱履歴を低減する方法、反応型化合物を用いカルボキシル基末端を封鎖する方法等を使用することができる。
【0084】
かかる反応型化合物を用いカルボキシル基末端を封鎖する方法では、シート中のカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されていることが好ましく、全量が封鎖されていることがより好ましい。かかる反応型化合物としては、例えば、脂肪族アルコールやアミド化合物等の縮合反応型化合物やカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物等の付加反応型化合物を使用することができるが、反応時に余分な副生成物が発生しにくい点で付加反応型化合物が好ましい。
【0085】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートは、該シート中に含まれるラクチド量が0.5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.4質量%以下、特に好ましくは0.3重量%以下である。該シート中に含まれるラクチド量が0.5質量%を超えると、該シート中に残留しているラクチドが粉末状あるいは液状として析出したときに、ハンドリング性、透明性が悪化する場合がある。また、ポリ乳酸樹脂の加水分解を進行させ、シートの耐経時性が悪化する場合がある。
【0086】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートにおける、シート中に含まれるラクチドとは、上述したポリ乳酸を主体とするポリマーを構成する乳酸成分の環状2量体を意味するものであって、LL−ラクチド、DD−ラクチドおよびDL(メソ)−ラクチドを挙げることができる。
【0087】
次に、ポリ乳酸系樹脂シートを製造する方法を具体的に説明する。
【0088】
本発明におけるポリ乳酸を主体とするポリマー(つまりポリ乳酸系樹脂)は、次のような方法で得ることができる。原料としては、L−乳酸またはD−乳酸の乳酸成分を主体とし、前述した、乳酸成分以外のヒドロキシカルボン酸を併用することができる。またヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、ラクチド、グリコリド等を原料として使用することもできる。更にジカルボン酸類やグリコール類等も使用することができる。
【0089】
ポリ乳酸を主体とするポリマー(つまりポリ乳酸系樹脂)は、上記原料を直接脱水縮合する方法、または上記環状エステル中間体を開環重合する方法によって得ることができる。例えば直接脱水縮合して製造する場合、乳酸類または乳酸類とヒドロキシカルボン酸類を好ましくは有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより高分子量のポリマーが得られる。
【0090】
また、ラクチド等の環状エステル中間体をオクチル酸錫等の触媒を用い減圧下開環重合することによっても高分子量のポリマーが得られることも知られている。このとき、有機溶媒中での加熱還流時の水分および低分子化合物の除去の条件を調整する方法や、重合反応終了後に触媒を失活させ解重合反応を抑える方法、製造したポリマーを熱処理する方法などを用いることにより、ラクチド量の少ないポリマーを得ることができる。
【0091】
以下に本発明の無延伸のポリ乳酸系樹脂シートを得る場合、さらにはテンター式逐次二軸延伸を行う場合の好ましい製膜方法を示すが、本発明は、かかる製膜方法に限定されるものではない。
【0092】
ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を性状に応じた計量装置を用いて、A層用、B層用として、それぞれ所定の比率で、独立した別々の二軸押出機に供給する。二軸押出機としては、ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を未乾燥で供給可能であるため、ベント式二軸押出機を好ましく用いることができる。供給されたポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂、溶融粘度に応じて150〜300℃で溶融し、ダイ外またはダイ内で複合化し、例えばTダイ法によりリップ間隔1〜3mmのスリット状の口金から金属製冷却キャスティングドラム上に、直径0.5mmのワイヤー状電極を用いて静電印加して密着させ、無配向キャストシートを得る。
【0093】
金属製冷却ロールの表面温度の好ましい範囲は0〜30℃であり、より好ましい範囲は3〜25℃であり、特に好ましい範囲は5〜20℃である。金属製冷却ロールの表面温度をこの範囲に設定することで良好な透明性を発現させることができる。
【0094】
耐経時性、耐熱性を付与するために、延伸する場合は、こうして得られた無延伸キャストシートを加熱ロール上を搬送することによって縦延伸を行う温度まで昇温する。昇温には赤外線ヒーターなど補助的な加熱手段を併用しても良い。延伸温度の好ましい範囲は、シートのガラス転移温度によるが、80〜125℃であり、より好ましくは85〜120℃である。このようにして昇温した未配向シートを加熱ロール間の周速差を用いてシート長手方向に1段もしくは2段以上の多段で延伸を行う。合計の延伸倍率は1.2〜3.5倍が好ましく、より好ましくは1.5〜3.0倍である。
【0095】
このように一軸延伸したシートをいったん冷却した後、シートの両端部をクリップで把持してテンターに導き、幅方向の延伸を行う。延伸温度は75〜120℃が好ましく、より好ましくは80〜115℃である。延伸倍率は1.2〜3.5倍が好ましく、より好ましくは1.5〜3.0倍である。
【0096】
シートの幅方向の性能差を低減するためには、長手方向の延伸温度よりも1〜15℃低い温度で幅方向の延伸を行うことが好ましい。
【0097】
さらに必要に応じて、再縦延伸および/または再横延伸を行ってもよい。
【0098】
次に、この延伸シートを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱固定する。主にシートに熱寸法安定性を付与する観点、また同時にシートに含有しているラクチドを飛散させラクチド量を低減させる観点から、好ましい熱処理温度は100〜160℃であり、より好ましくは120〜150℃である。かかる処理時間は0.2〜30秒の範囲で行うのが好ましいが、特に限定されない。弛緩率は、幅方向の熱収縮率を低下させる観点から1〜8%であることが好ましく、より好ましくは2〜5%である。かかる熱固定処理を行う前にいったんシートを冷却することがさらに好ましい。
【0099】
さらに、シートを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、シートを冷やして巻き取り、目的とするポリ乳酸系樹脂シートを得る。
【0100】
上記のような製造方法を採用することにより、本発明のポリ乳酸系樹脂シートを得ることができる。
【0101】
本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートは、例えばインモールド成形用途に使用することができる。ここでいうインモールド成形とは、金型内にシートそのものを設置して、インジェクションする樹脂圧で所望の形状に成形して成形加飾体を得る成形方法である。インモールド成形の場合、樹脂圧のみで所望の形状に成形するので、低応力で、成形できる必要があるが、本発明のポリ乳酸系樹脂シートを用いることで、所望の形状に容易に成形することが可能となる。
【0102】
また、本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートは、さらに深い形状の成形体を得ることができるためにインサート成形用途に好ましく用いられる。ここでいうインサート成形とは、金型内に設置するシート成形体を真空成形、真空圧空成形、プラグアシスト成形、プレス成形などで予めプレ成形しておき、その形状に樹脂を充填することで、成形加飾体を得る成形方法である。シートが厚く、強度が十分であれば、プレ成形した成形体をそのまま部材として使用することも可能である。
【0103】
インモールド成形、インサート成形は成形後にトリミング加工が必要であるが、通常、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂シートでは、トリミング性が悪く、シートの割れが発生してしまう場合があり、歩留まりが低下するが、本発明のポリ乳酸系樹脂シートを使用することで、トリミング性にも優れ、歩留まりも向上することができる。また、インモールド成形およびインサート成形は、シートが成形体に残るため、意匠性が非常に重要になる。例えば、本発明のポリ乳酸系樹脂シートに金属蒸着、印刷、エンボス加工、ヘアライン加工などを施し、加飾を行うことで、成形後の部材が優れた意匠性を示すことができる。
ここで、金属蒸着に使用される金属としては特に限定されるものではないが、インジウム(融点:156℃)、スズ(融点:228℃)、アルミニウム(融点:660℃)、銀(融点:961℃)、銅(融点:1083℃)、亜鉛(融点:420℃)、ニッケル(融点:1453℃)、クロム(1857℃)、チタン(1725℃)、白金(融点:1772℃)、パラジウム(融点:1552℃)などの単体または、それらの合金などが挙げられるが、融点が150〜400℃である金属を使用することが好ましい。掛かる融点範囲の金属を使用することで、金属層の成形加工が可能であり、成形による蒸着層欠点の発生を抑制しやすくなるので好ましい。特に好ましい金属化合物の融点としては150〜300℃である。融点が150〜400℃である金属化合物としては特に限定されるものではないが、インジウム(157℃)やスズ(232℃)が好ましく用いられる。
【0104】
また、蒸着簿膜の作製方法としては、真空蒸着法、EB蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いることができる。なお、ポリエステルフィルムと蒸着層との密着性をより向上させるために、フィルムの表面をあらかじめコロナ放電処理やアンカーコート剤を塗布するなどの方法により前処理しておいても良い。また、蒸着膜の厚みとしては、1〜500nmであれば好ましく、3〜300nmであればより好ましい。生産性の点からは3〜200nmであることが好ましい。また、蒸着層との密着性を高めるために、アンカー層を設けてもよい。
【0105】
また、印刷を施す方法は特に限定されないが、グラビヤ印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷などが好ましく用いられる。また、印刷層の厚みは好ましくは、1〜20μmである。印刷層は、薄すぎると光が透過し、可食対象物の色が透けて見えるため、意匠性を十分に保持できず、また、厚すぎると成形の際に、加飾用ポリ乳酸系樹脂シートの追随性が低下してしまう場合があるので好ましくない。
【0106】
また、本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートは、加飾部材の表層に構成される場合があるため、耐擦傷性、耐摩耗性を向上させるために、ハードコート層を設置してもよい。また、携帯電話、家電、自動車内装などに用いられる場合、指紋が目立つ場合が考えられるため、表面自由エネルギーの低い、シリコーン樹脂、ワックスなどをコーティングしてもよい。
【0107】
さらに、本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートは、耐光性には非常に優れているが、屋外環境下など、厳しい耐光性が必要となる場合は、アクリル系、フッ素系などの耐光性コートを施してもよい。
【0108】
また、インモールド成形、インサート成形用途に用いられる場合は、射出成型する樹脂との密着性を高めるため、シートの樹脂側の表面に易接着層を設置してもよい。射出成型用樹脂としてはポリカーボネート、ポリ乳酸、ABS(Acrylnitrile−butadiene−styrene)、AS(Acrylnitrile−styrene)、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、TPO(Thermo Plastic Olefin elastomer)またこれらの混合樹脂が好ましく用いられるため、これらの樹脂との密着性が高いことが好ましい。易接着層としては特に限定されないが、ポリエステル系、ウレタン系、アクリル系、塩化ポリプロピレン系などが挙げられる。
【0109】
上記のようにインモールド成形、インサート成形用途に用いられる場合、成形性、成形体としての強度の点で、厚みは50〜1000μmが好ましい。さらに好ましくは、75〜800μmであり、100〜500μmであれば最も好ましい。
【0110】
また、本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートは、成形用基材に貼合せて用いることができる。成形用基材と貼合せることで、成形用基材/加飾用ポリ乳酸系樹脂シートから構成される成形用加飾シートとなり、より強度が増すため好ましい。成形用基材としては特に限定されないが、樹脂シート、金属板、紙、木材などが挙げられる。中でも、成形性の点で樹脂シートが好ましく用いられ、高成形性の点で、熱可塑性樹脂シートが好ましく用いられる。
【0111】
ここで、熱可塑性樹脂シートとしては、熱成形が可能な重合体シートであれば特に限定されないが、アクリル系シート、ABSシート、ポリスチレンシート、ASシート、TPOシート、TPU(Thermo Plastic Urethane elastomer)シートなどが好ましく用いられる。該シートの厚みとしては、50μm〜3000μm、より好ましくは100μm〜2500μm、さらに好ましくは250〜2000μmである。
【0112】
また、本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートは成形用基材と貼り合わせて使用する場合、成形用基材との接着性を高めるために、接着層を設けることが好ましい。接着層としては特に限定されないが、ポリエステル系、ウレタン系、アクリル系、塩化ポリプロピレン系などが好ましく使用される。
【0113】
本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートを成形用基材と貼り合わせて使用する場合、製膜性、ラミネート性、取り扱い性の点で、厚みは15〜500μmが好ましい。さらに好ましくは、25〜200μmであり、50〜100μmであれば最も好ましい。
【0114】
ここで、本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートの成形加飾方法について、インサート成形について具体的に説明するが、成形加飾方法はこれに限定されるものではない。
【0115】
150〜400℃の遠赤外線ヒーターを用いて、表面温度が30〜150℃の温度になるように加熱し、金型を突き上げ、真空引きすることによって、所望の形に成形する。倍率の厳しい成形の場合は、シートにさらに圧空をかけて、成形することで、より深い成形が可能となる。このように成形された成形用加飾シートはトリミングを行い成形部材となる。またこの成形部材は、このまま使用してもよいが、成形品としての強度を付与させるために、金型を押し当てて凹んだ部分に上述した樹脂などをインジェクションしてもよい。このようにして、成形部材が完成する。
【0116】
上記のような方法で作成された成形部材は、耐熱性、耐光性にも優れて、さらに意匠性にも優れるため、建材、自動車内外装部品や、携帯電話や電機製品、さらにはカップや、遊技機などの加飾部品に好ましく使用される。
【実施例】
【0117】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
[特性の測定方法]
実施例中に示す測定や評価は次に示すような条件で行った。
【0118】
(1)樹脂成分の特定
あらかじめ使用した各々の樹脂のH−NMR、13C−NMRを測定してから、ポリ乳酸系樹脂シートのH−NMR、13C−NMRを測定し、含有樹脂を特定することができる。なお、本発明のポリ乳酸系樹脂シートについては、フィルム製造時の混合比率から計算により組成を算出した。
(2)積層厚み
フィルムをエポキシ樹脂に包埋し、フィルム断面をミクロトームで切り出した。該断面を透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM H7100)で5000倍の倍率で観察し、積層各層の厚み比率を求めた。求めた積層比率と上記したフィルム厚みから、各層の厚みを算出した。フィルム全体の厚みは、ダイヤルゲージを用いて任意の5ヶ所を測定し平均値を採用した。
【0119】
(3)ポリメチルメタクリレート(PMMA)の重量平均分子量
本発明に使用したポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量とは、ゲルパーミテーションクロマトグラフィーで測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の分子量をいう。
【0120】
具体的には、日本Warters(株)製、Warters2690を用い、PMMAを標準とし、カラム温度40℃、クロロホルム溶媒を用いて測定した。
【0121】
(4)PMMAの流動性
JIS K7210に従って、230℃、37.3Nでの流動性(g/10min)を測定した。
【0122】
(5)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(セイコー電子工業製、RDC220)を用いて測定した。サンプル5mgを用い、25℃から20℃/分で300℃まで昇温した際のガラス状態からゴム状態への転移に基づく比熱変化を読み取りこの温度をガラス転移温度とした。
【0123】
(6)面配向係数
ナトリウムD線(波長589nm)を光源として、アッベ屈折計を用いて、フィルムの長手方向の屈折率(nMD),幅方向の屈折率(nTD),厚み方向の屈折率(nZD)を測定し、下記式から面配向係数(fn)を算出した。
fn=(nMD+nTD)/2−nZD
(7)120℃における伸度
フィルムを長手方向および幅方向に長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しテスト用サンプルとした。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT−100)を用いて、初期引張チャック間距離50mmとし、引張速度を300mm/分としてフィルムの長手方向と幅方向にそれぞれ引張試験を行った。測定は予め120℃に設定した恒温層中にフィルムサンプルをセットし、60秒間の予熱の後で引張試験を行った。サンプルが破断したときの伸度をそれぞれの伸度とした。なお、測定は各サンプル、各方向に5回ずつ行い、その平均値で評価を行った。
※表中には長手方向をMD、幅方向をTDと記載。
【0124】
(8)ヘイズ
JIS K 7105(1985年)に基づいて、ヘイズメーター(スガ試験器社製HGM−2GP)を用いてヘイズの測定を行った。測定は任意の3ヶ所で行い、その平均値を採用した。
【0125】
なお、120℃×1分熱処理後のヘイズについては、50mm×50mmに切り出したサンプルを120℃に設定した熱風オーブン中に1分間保管した後に同様に測定を行った値を採用した。
【0126】
上記のように測定したヘイズ(%)を、(2)で測定したフィルム厚み(μm)で割ることによって、フィルム単位厚み当たりのヘイズ(%/μm)を求めた。
【0127】
(9)成形性(及び耐衝撃性)
本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートを400℃の遠赤外線ヒーターを用いて、表面温度が120℃の温度になるように加熱し、40℃に加熱した円柱形金型(底面直径50mm)に沿って真空成形を行った。その後、成形部材用二軸配向ポリエステルフィルムを剥離させ、成形部材を作製し、金型に沿って成形できた状態を成形度合い(絞り比:成形高さ/底面直径)として評価した。なお、成形テストは25回行い、下記のような基準で評価した。
S:シートの破断、およびクラックの発生がなく、25回全てで絞り比1.0で均一に成形できた。
A:シートの破断、およびクラックの発生がなく、23回〜24回絞り比1.0で均一に成形できた。
B:シートの破断、およびクラックの発生がなく、21回〜22回絞り比1.0で均一に成形できた。
C:5回以上、シートが成形できなかった。
【0128】
(10)成形後耐熱性
(9)方法で得られた成形品について、80℃で1分間、熱風オーブン中で熱処理を行った前後の外観について、10名のパネラーに表面性、白化の有無の観点から観察してもらい、以下の基準で評価を行った。
S:10名が熱処理前後で全く外観に変化がないと評価した。
A:9名が熱処理前後で全く外観に変化がないと評価した。
B:7名〜8名が熱処理前後で全く外観に変化がないと評価した。
C:熱処理前後で全く外観に変化がないと評価したデザイナーが7名未満であった。
【0129】
(11)耐光性
紫外線劣化促進試験機アイスーパーUVテスターSUV−W131(岩崎電気(株)製)を用い、60℃、50%RH、24時間(100mW/cm2)強制紫外線照射試験を行い、測定前後のΔEの値から、以下の基準で評価を行った。なお、ΔEは、強制紫外線照射試験前後のL、a、b値の差ΔL、Δa、Δbから下記の式で求められる。
ΔE=(Δa Δb+ΔL1/2
L、a、bの測定は、JIS Z 8722(2000年)に基づき、分光式色差計(日本電色工業製SE−2000、光源 ハロゲンランプ 12V4A、0°〜−45°後分光方式)を用いて、各フィルムの色調(L*値、a*値、b*値)を透過法により測定した(温度23℃、湿度65%、測定回数5回の平均値)。
S:ΔEが0.5未満であった。
A:ΔEが0.5〜1未満であった。
B:ΔEが1〜1.5未満であった。
C:ΔEが1.5以上であった。
(12)バイオマス度
ポリ乳酸系樹脂シートを構成する樹脂組成物全体を100質量%として、ポリ乳酸系樹脂の含有割合(質量%)を求め、バイオマス度とし、以下の基準にて判断した。
S:バイオマス度が70質量%以上100質量%以下
A:バイオマス度が50質量%以上70質量%未満
B:バイオマス度が5質量%以上50質量%未満
C:バイオマス度が0%質量以上5質量%未満
[ポリ乳酸系樹脂]
実施例で用いたポリ乳酸系樹脂について示す。
PLA−1:
D体含有割合1.4±0.2mol%、PMMA換算の重量平均分子量19万のポリL−乳酸樹脂。
PLA−2:
L体含有割合4.8±1.0mol%、PMMA換算の重量平均分子量16万のポリD−乳酸樹脂
PLA−3
PLA−1とPLA−2を質量比70:30で混合したもの
PLA−4
PLA−1とPLA−2を質量比50:50で混合したもの
[ポリ(メタ)アクリレート系樹脂]
実施例で用いたポリ(メタ)アクリレート系樹脂について示す。
PMMA−1:
ポリメチルメタクリレート(住友化学(株)製“スミペック”(登録商標)HT50Y 流動性:14g/10min)
PMMA−2:
ポリメチルメタクリレート(住友化学(株)製“スミペック”(登録商標)LG21 流動性:21g/10min)
[ポリエステル系樹脂]
実施例で用いたポリエステル系樹脂について示す。
P−1:
ポリブチレンサクシネート樹脂(三菱化学(株)製“GSPla”AZ91TN、Tg=−32℃、融点110℃、バイオマス度=0%)。
P−2
BASF社製樹脂“エコフレックス”(アジピン酸共重合PBT)。
P−3
テレフタル酸ジメチル100質量部、エチレングリコール70質量部の混合物に酢酸マンガン0.04質量部を加え、徐々に昇温し、最終的には220℃でメタノールを留出させながら、エステル交換反応を行った。次いで、リン酸85%水溶液0.025質量部、二酸化ゲルマニウム0.02質量部を添加し、290℃、1hPaの減圧下で重縮合反応を行い、固有粘度が0.65、副生したジエチレングリコール2モル%共重合されたポリエチレンテレフタレート樹脂を得た。
[透明核剤]
実施例で用いた透明核剤について示す。
M−1:
EBLA(エチレンビスラウリル酸アミド)
M−2:
EBSA(エチレンビスステアリン酸アミド)
M−3:
SOR(ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール)
[耐衝撃改良剤]
実施例で用いた耐衝撃改良剤について示す。
N−1:
三菱レイヨン(株)製“メタブレン”(登録商標)S2001(コア=シリコーン/アクリル重合体、シェル=メタクリル酸メチル重合体、屈折率1.44)
N−2:
ローム・アンド・ハース社製“パラロイド” (登録商標)EXL2602(コア=ブタジエン/スチレン重合体、シェル=メタクリル酸メチル重合体、屈折率1.51)
(実施例1)
A/B/Aの3層構成とした。A層用として、ポリ乳酸(PLA−4)とポリメチルメタクリレート(PMMA−1)を質量比5:95で混合し、またB層用として、ポリ乳酸(PLA−4)とポリメチルメタクリレート(PMMA−1)と、透明核剤(M−1)とを質量比30:69:1で混合し、それぞれ独立した別々のベント式二軸押出機に供給し、230℃で溶融させ、Tダイ口金より共押出し、静電印加方式により、30℃に冷却したキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、A層/B層/A層が積層比1:8:1、厚み200μmの無延伸シートを得た。
【0130】
得られたシートは、表1に示したとおり、バイオマス度はやや低いものの、加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとして良好な特性を示すものであった。
(実施例2)
A/B/Aの3層構成とした。A層用として、ポリメチルメタクリレート(PMMA−1)を用い、またB層用として、ポリ乳酸(PLA−4)とポリメチルメタクリレート(PMMA−1)と、透明核剤(M−1)と耐衝撃性改良剤(N−1)とを質量比82:13:1:4で混合し、実施例1と同様にして、A層/B層/A層が積層比1:12:1、厚み188μmの無延伸シートを得た。
【0131】
得られたシートは、表1に示したとおり、加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとして良好な特性を示すものであった。
(実施例3)
A/B/Aの3層構成とした。A層用として、ポリ乳酸(PLA−3)とポリメチルメタクリレート(PMMA−2)を質量比25:75で混合し、またB層用として、ポリ乳酸(PLA−3)とポリメチルメタクリレート(PMMA−2)と、耐衝撃性改良剤(N−2)とを質量比60:35:5で混合し、実施例1と同様にして、A層/B層/A層が積層比1:5:1、厚み100μmの無延伸シートを得た。
【0132】
得られたシートは、表1に示したとおり、加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとして良好な特性を示すものであった。
(実施例4)
単層構成とした。B層として、ポリ乳酸(PLA−3)とポリメチルメタクリレート(PMMA−2)と、ポリエステル系樹脂(P−2)とを質量比50:40:10で混合し、230℃で溶融させ、Tダイ口金より共押出し、静電印加方式により、30℃に冷却したキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、厚み75μmの無延伸シートを得た。
【0133】
得られたシートは、単層で、ポリ乳酸系樹脂の比率が多かったため、成形後の耐熱性にやや劣り、芳香族ポリエステル(P−2)を含むため、耐光性にもやや劣るものの、加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとして良好な特性を示すものであった。
(実施例5)
単層構成とした。B層として、ポリ乳酸(PLA−3)とポリメチルメタクリレート(PMMA−1)と、耐衝撃性改良剤(N−2)とを質量比90:5:5で混合し、実施例4と同様にして、無延伸シートを得た
続いて、連続して70℃の加熱ロール6本により8秒間予熱し、赤外線加熱ヒーターと加熱ロールを併用して延伸温度80℃でロール間にて長手方向に2.1倍延伸(縦延伸)した後、シート端部をクリップで把持してテンター内に導き、85℃の温度で加熱しつつ横方向に2.1倍延伸(横延伸)し、幅方向に2%弛緩させながら140℃、15秒間の熱処理を行い厚み75μmの加飾用ポリ乳酸系樹脂シートを作成した。
【0134】
得られたシートは、面配向係数がやや高く、ポリ乳酸系樹脂の比率が多かったため、120℃における伸度が低くなり、成形性がやや低下し、ヘイズが高めのため、透明性もやや劣るものとなったが、加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとして良好な特性を示すものであった。
【0135】
【表1】

【0136】
【表2】

【0137】
(実施例6)
A/B/Aの3層構成とした。A層用として、ポリ乳酸(PLA−3)とポリメチルメタクリレート(PMMA−1)を質量比5:95で混合し、またB層用として、ポリ乳酸(PLA−3)とポリメチルメタクリレート(PMMA−1)と、耐衝撃性改良剤(N−1)とを質量比85:10:5で混合し、無延伸シートを得た
続いて、連続して70℃の加熱ロール6本により8秒間予熱し、赤外線加熱ヒーターと加熱ロールを併用して延伸温度80℃でロール間にて長手方向に2.3倍延伸(縦延伸)した後、シート端部をクリップで把持してテンター内に導き、85℃の温度で加熱しつつ横方向に2.3倍延伸(横延伸)し、幅方向に2%弛緩させながら140℃、15秒間の熱処理を行い、A層/B層/A層が積層比1:18:1、厚み25μmの加飾用ポリ乳酸系樹脂シートを作成した。
【0138】
該シートを、150℃の熱風オーブン中に2分間保存した成形用基材(ABSシート:200×300mm)に、接着シートを介して、フィルムをラミネーター(150℃、1m/min、0.3MPa)で貼り合わせ、成形用基材/加飾用ポリ乳酸系樹脂シートを作成した。なお、接着シートは(日本合成化学工業(株)製 ポリエスターSP170)をメルトプレス(120℃、4MPa、1min)することで作成した。
【0139】
本シートについては、成形性、成形後耐熱性の評価は、成形用基材/加飾用ポリ乳酸系樹脂シートで、それ以外の評価は加飾用ポリ乳酸系樹脂シートを用いて行った。
【0140】
得られたシートは、面配向係数がやや高く、ポリ乳酸系樹脂の比率が多かったため、120℃における伸度が低くなり、成形性にやや劣ったが、加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとして良好な特性を示すものであった。
(実施例7)
A/B/Aの3層構成とした。A層用として、ポリ乳酸(PLA−4)とポリメチルメタクリレート(PMMA−2)とを質量比50:50で混合し、またB層用として、ポリ乳酸(PLA−4)とポリメチルメタクリレート(PMMA−2)と、透明核剤(M−2)とを質量比90:9:1で混合し、実施例1と同様にして、A層/B層/A層が積層比1:8:1、厚み250μmの無延伸シートを得た。
【0141】
得られたシートは、ポリ乳酸系樹脂の量が多かったため、バイオマス度は非常に高いものの、成形後、成形後の耐熱性がやや低下した。加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとしては、良好な特性を示すものであった。
(実施例8)
A/B/Aの3層構成とした。A層用として、ポリ乳酸(PLA−4)とポリメチルメタクリレート(PMMA−2)とを質量比50:50で混合し、またB層用として、ポリ乳酸(PLA−4)とポリメチルメタクリレート(PMMA−2)と、透明核剤(M−2)とを質量比75:24:1で混合し、実施例1と同様にして、A層/B層/A層が積層比1:8:1、厚み250μmの無延伸シートを得た。
【0142】
得られたシートは、ポリ乳酸系樹脂の量が多かったため、バイオマス度は非常に高くなったが、成形後の耐熱性がやや低下した。加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとしては、良好な特性を示すものであった。
(実施例9)
A/B/Aの3層構成とした。A層用として、ポリ乳酸(PLA−4)とポリメチルメタクリレート(PMMA−2)とを質量比50:50で混合し、またB層用として、ポリ乳酸(PLA−4)とポリメチルメタクリレート(PMMA−2)と、透明核剤(M−2)とを質量比64:35:1で混合し、実施例1と同様にして、A層/B層/A層が積層比1:8:1、厚み250μmの無延伸シートを得た。
【0143】
得られたシートは、表6に示すとおり、加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとしては、良好な特性を示すものであった。
(実施例10)
A/Bの2層構成とした。A層用として、ポリ乳酸(PLA−4)とポリメチルメタクリレート(PMMA−1)とを質量比5:95で混合し、またB層用として、ポリ乳酸(PLA−4)とポリメチルメタクリレート(PMMA−1)と、透明核剤(M−3)とを質量比64:35:1で混合し、実施例1と同様にして、A層/B層が積層比1:4、厚み250μmの無延伸シートを得た。
【0144】
得られたシートは、表6に示すとおり、加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとしては、良好な特性を示すものであった。
【0145】
【表3】

【0146】
【表4】

【0147】
(実施例11)
単層構成とした。B層として、ポリ乳酸(PLA−3)とポリメチルメタクリレート(PMMA−2)とポリエステル系樹脂(P−1)を質量比50:40:10で混合し、実施例4と同様にして、厚み100μmの無延伸シートを得た。
【0148】
得られたシートは、表6に示すとおり、加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとしては、良好な特性を示すものであった。
(実施例12)
A/B/Aの3層構成とした。A層用として、ポリメチルメタクリレート(PMMA−1)使用し、またB層用として、ポリ乳酸(PLA−1)とポリメチルメタクリレート(PMMA−1)と、透明核剤(M−1)と耐衝撃性改良材(N−1)とを質量比82:13:1:4で混合した以外は、実施例2と同様にして、A層/B層/A層が積層比1:12:1、厚み250μmの無延伸シートを得た。
【0149】
得られたシートは、表6に示すとおり、加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとしては、良好な特性を示すものであった。
(実施例13)
A/B/Aの3層構成とした。A層用として、ポリメチルメタクリレート(PMMA−1)使用し、またB層用として、ポリ乳酸(PLA−2)とポリメチルメタクリレート(PMMA−1)と、透明核剤(M−1)と耐衝撃性改良材(N−1)とを質量比82:13:1:4で混合した以外は、実施例2と同様にして、A層/B層/A層が積層比1:12:1、厚み250μmの無延伸シートを得た。
【0150】
得られたシートは、表6に示すとおり、加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとしては、良好な特性を示すものであった。
【0151】
【表5】

【0152】
【表6】

【0153】
(比較例1)
単層構成とした。B層として、ポリ乳酸(PLA−4)とポリメチルメタクリレート(PMMA−1)とを質量比96:4で混合し、実施例4と同様にして、厚み200μmの無延伸シートを得た。
【0154】
得られたシートは、ポリ乳酸系樹脂が多かったため、耐熱性が大幅に低下してしまい、成形性、成形後の耐熱性が悪化したため、加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとしては、使用に耐えないものであった。
(比較例2)
A/B/Aの3層構成とした。A層用として、ポリエステル系樹脂(P−2)を使用し、またB層用として、ポリ乳酸(PLA−3)とポリメチルメタクリレート(PMMA−1)とを質量比4:96で混合し、実施例1と同様にして、積層比1:10:1、厚み150μmの無延伸シートを得た。
【0155】
得られたシートは、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂が多かったため、バイオマス度が低く、表層に芳香族ポリエステル樹脂を積層しているため、耐光性が低下してしまい、加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとしては、使用に耐えないものであった。
(比較例3)
単層構成とした。B層として、ポリエステル系樹脂(P−3)を用い、280℃で溶融させ、Tダイ口金より共押出し、静電印加方式により、30℃に冷却したキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、厚み188μmの無延伸シートを得た
得られたシートは、芳香族ポリエステル系樹脂であったため、バイオマス度、耐光性、成形後の耐熱性に劣ってしまい、加飾用ポリ乳酸系樹脂シートとしては、使用に耐えないものであった。
【0156】
【表7】

【0157】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートは、加熱成形などの加工適性、耐熱性、耐衝撃性、耐光性が良好な特徴を有する。このため、本発明の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートは、インモールド成形、インサート成形として好ましく使用され、特に、建材、自動車内外装部品や、携帯電話や電機製品、さらには遊技機などの加飾部品に好ましく用いられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物100質量%に対して、ポリ乳酸系樹脂5〜95質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂5〜95質量%含んだ樹脂組成物から構成されることを特徴とする、加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項2】
面配向係数が0以上0.005未満であることを特徴とする、請求項1に記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項3】
120℃において、少なくとも1方向の伸度が400〜1000%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項4】
ポリ乳酸系樹脂が、ポリL−乳酸と、ポリD−乳酸の混合物からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項5】
少なくとも(A)/(B)2層構成からなり、
(A)層におけるポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物100質量%に対して、ポリ乳酸系樹脂0〜95質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂5〜100質量%含んでおり、
(B)層におけるポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含む樹脂組成物100質量%に対して、ポリ乳酸系樹脂5〜100質量%、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂0〜95質量%含んでいることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項6】
(A)/(B)/(A)の3層からなることを特徴とする、請求項5に記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項7】
ヘイズが0.001〜0.05%/μmであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項8】
インモールド成形用途に用いられることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項9】
インサート成形用途に用いられことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の加飾用ポリ乳酸系樹脂シートを用いてなる加飾部材。

【公開番号】特開2009−155413(P2009−155413A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333668(P2007−333668)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】