説明

助手席用エアバッグ

【課題】乗員に対する安全性を向上させた助手席用エアバッグを提供することを目的とする。
【解決手段】車両室内のインストルメントパネル104の上面内部に設置された助手席用エアバッグにおいて、助手席用エアバッグの上面と、助手席側であって標準的な乗員の身体の凹凸形状に適合する凹凸形状の乗員接触面180とを含み、インフレータ106からのガスの供給を最初に受けて、インストルメントパネル104から助手席108に向かって略放物線状に膨張するガス流路部130と、ガス流路部130を介してガスが供給されると、助手席側からインストルメントパネル側へ向かって膨張展開する補助膨張部140と、乗員接触面下部にて、ガス流路部130と補助膨張部140を連通させるガス連通口150と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に衝撃が発生した時に膨張展開することで助手席の乗員を保護する助手席用エアバッグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載される安全装置として、衝突時の衝撃から乗員を保護するエアバッグが普及している。エアバッグには、車両への設置場所や機能に応じて様々な種類がある。助手席空間においては、インストルメントパネル(インパネ)の内部にフロンタルエアバッグ(助手席用エアバッグ)が備えられ、助手席の乗員を、衝突事故の衝撃によってインパネへ激突したり、フロントガラスへ向かって飛び出したりすることから保護している。
【0003】
助手席用エアバッグを含め、エアバッグは、インフレータから供給された気体を内部に取り込むことで、膨張展開して乗員を受け止めている。このときのインフレータからの気体の供給は、センサによる衝撃の検出に起因した火薬の爆発によるものである。これらによって、衝撃発生時に乗員の瞬時な保護を可能にしているエアバッグであるが、乗員に向かって爆発的に膨張展開して接触するため、接触した乗員(特に、頭部等の突出した部位)を却って負傷させてしまうことが懸念されていた。
【0004】
上記の問題を解決するために、例えば特許文献1には、インパネに配設され、エアバッグ本体と、インフレータから発生するガスをフロントウインドシールド(フロントガラス)に沿ってエアバッグ本体内へ案内するガス案内筒体を有してなる助手席用エアバッグが開示されている。この構成によれば、助手席用エアバッグの最初の膨張展開がフロントガラスに沿ってなされ、次いで乗員に向けて膨張展開がなされるため、最も激しく膨張する初期の展開過程では乗員に急激な衝撃を与えることがないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−108834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のような助手席用エアバッグでは、初期の膨張過程における衝撃を乗員に与えなくても、乗員を受け止める際に乗員に与える衝撃は小さくないと考えられる。特許文献1では、乗員を受け止める際、エアバッグ本体と乗員とが直接どのように接触し、その接触によって乗員がいかなる作用を受けるかについては言及されていない。本来、特許文献1に記載の助手席用エアバッグは、製造コストの低下やエアバッグ本体の基布の保護を主要な目的としている。そのため、特許文献1では、エアバッグ本体が接触した乗員に与える衝撃の軽減までは考慮していない。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、乗員に対する安全性を向上させた助手席用エアバッグを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで発明者らは、エアバッグの安全性の向上を図り得る手段について検討し、エアバッグへ乗員が接触した際に、エアバッグに偏った荷重(偏荷重)が発生していることに着目した。そして、この偏荷重を分散させることで、乗員の身体の一部に衝撃が集中することを防ぎ、負傷の発生を回避できると考えた。さらに、様々なエアバッグのなかでも、内容積が約80?以上と大きい助手席用エアバッグについて、いかなる手段をもって偏荷重を分散させるかについて検討し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、上記課題を解決するために、本発明にかかる助手席用エアバッグの代表的な構成は、車両室内のインストルメントパネルの上面内部に設置された助手席用エアバッグにおいて、助手席用エアバッグの上面と、助手席側であって標準的な乗員の身体の凹凸形状に適合する凹凸形状の乗員接触面とを含み、インフレータからのガスの供給を最初に受けて、インストルメントパネルから助手席に向かって略放物線状に膨張するガス流路部と、ガス流路部を介してガスが供給されると、助手席側からインストルメントパネル側へ向かって膨張展開する補助膨張部と、乗員接触面下部にて、ガス流路部と補助膨張部を連通させるガス連通口と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、凹凸形状の乗員接触面を形成することで、エアバッグに乗員の身体の各部が接触する時間差を短縮し、乗員に与える接触時の衝撃を特定の部位に集中させることなく分散させることができる。これによって、乗員の身体に同時に接触する面積が広くなり、偏荷重の発生を防ぐことができる。
【0011】
上記構成によれば、内容積が小さく最初にガスが供給されるガス流路部に凹凸を形成するため、早期に凹凸を形成可能である。つまり、内容積の大きな単一のチャンバからなる助手席用エアバッグの外表面に凹凸を形成すると膨張するまでの時間が長くなって凹凸の形成が遅延してしまう問題を解消できる。また凸部の内圧を高めてその形状を維持可能である。このように、完成した凹凸を、より確実に乗員に接触させ、乗員に対する安全性を向上させた助手席用エアバッグを提供することが可能となる。
【0012】
乗員接触面は、車両左右方向の中央において、上下方向にかけて一定の範囲が切り欠かれることで凹形状となって乗員の頭部を拘束する頭部拘束部と、頭部拘束部の左右両側において、凸形状となって乗員の肩部を拘束する肩部拘束部と、を有するとよい。
【0013】
通常、乗員の身体は、身体のなかでも重量が大きく、前方に突出している頭部(特に顔面)から先にエアバッグに接触する。膨張したエアバッグの外表面は相当に緊張しているため、乗員は頭部を負傷しやすい。しかし、本発明による助手席用エアバッグは、乗員の肩部を、内圧の高いガス流路部によって構成された凸形状の肩部拘束部で受け止める一方、乗員の顔面を、ガス流路部の切欠け部分である凹形状の頭部拘束部で受け止める。頭部拘束部は、ガス流路部よりも内圧の低い補助膨張部の外表面である。したがって、本発明では、乗員の頭部に与えられる衝撃を肩部等に分散させて、助手席用エアバッグの安全性の向上をさらに図ることが可能となる。
【0014】
肩部拘束部は、頭部拘束部の位置および外周寸法を変更することで、肩部拘束部の範囲を設定変更可能であるとよい。例えば、インストルメントパネル(インパネ)が車両内の側壁面へ向かって湾曲したデザインの車種において、助手席用エアバッグは、乗員に対して傾斜した状態で設置される場合がある。しかし、このような場合であっても、本発明によれば、頭部拘束部の位置および外周寸法を変更することで、肩部拘束部が乗員の肩部に正対するように設定することができる。これによって、助手席用エアバッグの安全性の向上を図ることができる。
【0015】
乗員接触面は、頭部拘束部よりも下部に、切り欠かれることなく凸形状となって乗員の胸部を拘束する胸部拘束部をさらに有するとよい。かかる構成によれば、胸部拘束部によって乗員の身体との接触面積がさらに拡大し、助手席用エアバッグの安全性をさらに向上させることが可能となる。
【0016】
本発明にかかる助手席用エアバッグは、補助膨張部の内部に設置され、一端が助手席側下部に、他端がインストルメントパネル側上部に縫い付けられることで、助手席用エアバッグの形状を維持する形状維持部材をさらに備えるとよい。
【0017】
上記構成によれば、助手席用エアバッグは、形状維持部材によって、ガス流路部がインパネから助手席に向かって略放物線状となり、略放物線状に湾曲したガス流路部の内側を補助膨張部が埋めるような展開形状を維持することが可能になる。
【0018】
本発明にかかる助手席用エアバッグは、任意の位置に、ガス流路部と補助膨張部を連通させる所定の数および形状の補助連通口をさらに備えるとよい。
【0019】
上記構成によれば、補助連通口の位置、数および形状を設定変更することで、ガス流路部から補助膨張部へ流入するガスの流入方向および流量を容易に設定することができる。これによって、助手席用エアバッグの展開挙動、および内圧を設定することができる。
【0020】
補助膨張部は、それ自体の左右側面に、ガスを排出することで助手席用エアバッグの内圧を制御可能な側面排気口を有するとよい。
【0021】
ガスの流入による圧力を利用して瞬時に膨張展開するエアバッグであっても、過剰な圧力の発生は、外表面の緊張を必要以上に強くし、接触時に乗員へ与える衝撃を増大させてしまう。特に、本発明にかかる助手席用エアバッグにおいて、補助膨張部は、乗員の顔面を受け止める部分であるため柔軟性が要求される。そこで、乗員との接触時に側面排気口によってガスを排出可能にすることで、補助膨張部の柔軟性を確保することができる。したがって、助手席用エアバッグの安全性をさらに向上させることが可能となる。
【0022】
ガス流路部は、多重縫製、コーティング、高密度生地の使用から選択される少なくとも1つのガス漏洩防止手段を有するとよい。かかる構成によって、ガス流路部は、インフレータからの爆発的なガスの供給に耐え、確実に膨張展開しながら補助膨張部へガスを流通させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、乗員に対する安全性を向上させた助手席用エアバッグを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態にかかる助手席用エアバッグの車両室内における設置位置を例示する図である。
【図2】図1の助手席用エアバッグの斜視図である。
【図3】図1の助手席用エアバッグのC-C断面図である。
【図4】第2実施形態にかかる助手席用エアバッグを説明する図である。
【図5】第3実施形態にかかる助手席用エアバッグを説明する図である。
【図6】図5の助手席用エアバッグの斜視図である。
【図7】上記の第1〜第3実施形態に共通したその他の効果を説明する図である。
【図8】上記の第1〜第3実施形態に共通したその他の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0026】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかる助手席用エアバッグの車両室内における設置位置を例示する図である。図1に例示するように、本実施形態にかかる助手席用エアバッグ(以下、単に「エアバッグ100」と記載する)は、車両102のインストルメントパネル(インパネ104)の上面内部に設置される。
【0027】
エアバッグ100は、例えば、その表面を構成する基布を表裏で縫製したり、OPW(One-Piece Woven)を用いて紡織したりすることによって袋体として形成される。
【0028】
車両102に衝突事故等によって衝撃が発生すると、まず車両102に備えられたセンサ(図示省略)がその衝撃を感知し、センサからインフレータ106へ発火信号が発信される。次に、インフレータ106の火薬が爆発し、発生したガスがエアバッグ100へ供給される。そして、ガスが供給されたエアバッグ100は、膨張展開を開始し、ハウジング114から、インパネ104と助手席108の乗員110との間に向かって膨張展開する。そして、乗員110を、インパネ104へ激突したり、フロントガラス112へ向かって飛び出したりすることから保護している。
【0029】
図1に例示するように、エアバッグ100は、ガス流路部130と、補助膨張部140と、ガス連通口150と、形状維持部材160と、側面排気口170とを備える。
【0030】
ガス流路部130は、インフレータ106からガスの供給を最初に受け、ガスを補助膨張部140へ流通させる流路である。ガス流路部130は、ガスの供給を受けると、インパネ104から助手席108に向かって略放物線状に膨張する。ガス流路部130は、エアバッグ100の上面と、乗員接触面180とを含んでいる。乗員接触面180は、エアバッグ100における助手席108側の外表面であって、衝突事故等の発生時に乗員110と接触する(乗員110を受け止める)面である。
【0031】
ガス流路部130には、車両前方向に、インフレータ106と接続するための接続部132が設けられている(図3参照)。接続部132は、固定孔134、ガス受給口136を有している。固定孔134は、ボルト等を挿通させてエアバッグ100をハウジング114の底面に固定させ、ガス受給口136は、インフレータ106と接続してガスの供給を受ける。
【0032】
ガス流路部130は、ガス漏洩防止手段を備えている。ガス漏洩防止手段によって、ガス流路部130は、インフレータ106から爆発的に供給されるガスの圧力に耐え、ガスを好適に流通させることができる。本実施形態にかかるエアバッグ100では、ガス漏洩防止手段として、ガス流路部130を構成する基布同士の縫い位置に多重縫製を行っている(図2における縫製部194)。ガス漏洩防止手段の他の例としては、ガス流路部130を構成する基布への液状樹脂(シリコン等)によるコーティングや、ガス流路部130の基布として密封性の高い高密度生地の使用等を施すことができる(図示省略)。
【0033】
補助膨張部140は、エアバッグ100の全体積のうち、ガス流路部130以外の大部分を占めている部分である。補助膨張部140は、ガス流路部130を介してガスが供給されると、ガス流路部130の略放物線状に湾曲した形状に対して、その湾曲した形状の内側を埋めるように膨張展開する。このときの補助膨張部140の膨張展開は、助手席108側からインパネ104側へ向かって起こる。
【0034】
ガス連通口150は、乗員接触面180の下部にて、ガス流路部130から補助膨張部140へガスを連通させる。ガス連通口150が補助膨張部140からみて助手席108側である乗員接触面180の下部に配置されていることで、補助膨張部140は、助手席108側からインパネ104側へ向かって膨張展開することができる。なお、ガス連通口150は、ガスの通過時に相当の圧力を受けるため、多重縫製等による補強処理が施されていることが望ましい。
【0035】
形状維持部材160は、補助膨張部140の内部に設置され、エアバッグ100の膨張展開後の形状を維持する。形状維持部材160は布で構成されていて、一端が助手席108側下部にて、他端がインパネ104側上部にて、補助膨張部140とガス流路部130とを縫合するように縫い付けられている(図3参照)。形状維持部材160によって、エアバッグ100は、ガス流路部130がインパネ104から助手席108に向かって略放物線状となり、略放物線状に湾曲したガス流路部130の内側を補助膨張部140が埋めるような展開形状を維持することが可能になる。
【0036】
本実施形態にかかるエアバッグ100において、形状維持部材160は、補助膨張部140内における車両左右方向の両側に計2つ設置されている(図3参照)。このように設置することで、形状維持部材160が、ガス連通口150からのガスの流入の妨げとなることを防止している。
【0037】
側面排気口170は、エアバッグ100内の圧力上昇を感知して開口し、ガスを排出する(ベントホール)。これにより、側面排気口170は、エアバッグ100の内圧(圧力)を制御している。通常、エアバッグはガスの流入による圧力を利用して瞬時に膨張展開するが、過剰な圧力が発生すると外表面の緊張を必要以上に強くし、接触時に乗員へ与える衝撃が増大してしまう。そこで、本実施形態にかかるエアバッグ100では、側面排気口170によってエアバッグ100と乗員110との接触時にガスを排出させ、外表面に適度な柔軟性を持たせている。
【0038】
側面排気口170は、補助膨張部140の左右側面に配置されている。側面排気口170が配置されている補助膨張部140は、後述するように、乗員110の顔面を受け止める部分でもあるため、特に柔軟性が要求される。そこで、エアバッグ100は、側面排気口170によって乗員110との接触時に補助膨張部140内のガスを排出させ、補助膨張部140の柔軟性を確保している。このように、側面排気口170は、エアバッグ100の安全性を向上させている。
【0039】
図2は、図1の助手席用エアバッグの斜視図である。図2に例示するように、乗員接触面180は、一部が切り欠かれることで標準的な乗員の身体の凹凸形状に適合する凹凸形状に形成されている。これにより、乗員接触面180は、エアバッグ100に乗員110の身体の各部が接触する時間差を短縮させ、乗員110に与える接触時の衝撃を特定の部位に集中させることなく分散させている。
【0040】
本実施形態にかかるエアバッグ100は、内容積が小さく、かつ最初にガスが供給されるガス流路部130によって凹凸を形成させるため、早期に凹凸を形成できる。つまり、内容積の大きな単一のチャンバからなる助手席用エアバッグの外表面に凹凸を形成すると、膨張するまでの時間が長くなって凹凸の形成が遅延してしまうという問題を解消している。
【0041】
本実施形態においては、乗員接触面180の凹凸は、頭部拘束部182、肩部拘束部184、胸部拘束部186として形成されている。
【0042】
頭部拘束部182は、乗員接触面180の凹形状の部分であり、乗員110の頭部を拘束する(受け止める)部分である。凹形状の頭部拘束部182は、乗員接触面180が、車両左右方向の中央において、上下方向にかけて一定の範囲が切り欠かれることで形成されている。頭部拘束部182では、凹形状の底面として、補助膨張部140の外表面が露出している。ここで、乗員接触面180の凹形状は、切り欠かれたガス流路部130と、その切り欠きから露出した乗員拘束部140とによって形成されていると換言できる。乗員接触面180の凸形状は、ガス流路部130における切り欠きされた部分以外の、膨張が制限されていない領域に、おのずと形成される。
【0043】
通常、乗員の身体は、身体のなかでも重量が大きく、前方に突出している頭部(特に顔面)から先にエアバッグに接触する。膨張したエアバッグの外表面は相当に緊張しているため、乗員は頭部(顔面)を負傷しやすい。しかし、本実施形態にかかるエアバッグ100は、乗員110の顔面を、ガス流路部130よりも内圧が低く柔軟性の高い補助膨張部140の外表面を利用した頭部拘束部182で受け止めることができる。したがって、エアバッグ100は、接触時に乗員110の顔面に与える衝撃を低減できるため、安全性が向上している。
【0044】
肩部拘束部184は、頭部拘束部182の左右両側において凸形状となっている部分であり、乗員110の肩部を受け止める部分である。肩部拘束部184が乗員110の肩部から荷重を受け止めることで、エアバッグ100が乗員110の顔面に与える衝撃はさらに分散される。肩部拘束部184は、頭部拘束部182を構成する補助膨張部140よりも内圧の高いガス流路部130によって構成されているため、凸形状を好適に維持することができる。これにより、肩部拘束部184は、乗員110を確実に受け止めることができる。
【0045】
肩部拘束部184は、頭部拘束部182の位置および外周寸法を変更することで、肩部拘束部184の範囲が設定変更可能である。例えば、インパネが車両内の側壁面へ向かって湾曲したデザインの車種において、エアバッグは、乗員に対して傾斜した状態で設置される場合がある。しかし、このような場合であっても、本実施形態にかかるエアバッグ100によれば、頭部拘束部182の位置および外周寸法を変更することで、肩部拘束部184が乗員110の肩部に正対するように設定変更することが可能である。
【0046】
胸部拘束部186は、乗員接触面180において頭部拘束部182よりも下部に位置し、凸形状となって乗員110の胸部を拘束する部分である。胸部拘束部186は、乗員接触面180が切り欠かれることなく凸形状となった構成をしている。胸部拘束部186によって、エアバッグ100と乗員110の身体との接触面積はさらに拡大するため、乗員110に与える衝撃をさらに分散できる。
【0047】
図3は、図1の助手席用エアバッグのC-C断面図である。図3に例示するように、ガス流路部130は、前面布部材142、後面布部材144、側面布部材146、を含んでいる。
【0048】
前面布部材142は、ガス流路部130の乗員接触面180側の外表面を構成する。前面布部材142は、乗員110との接触時における危険防止のため、基布同士の縫い位置(縫代)である縫製部190および縫製部192が袋体の内側に位置するように縫製されている。
【0049】
後面布部材144は、ガス流路部130の補助膨張部140側の外表面を構成する。後面布部材144は、前面布部材142との縫代である縫製部192を袋体の内側に有しているが、側面布部材146との縫代である縫製部194を袋体の外側に有している。ガス流路部130は、縫製部192を袋体の内側に有することで頭部拘束部182の接触時における危険防止に配慮する一方、縫製部194を袋体の外側に有することでガス流路部130を容易に縫製可能にしている。なお、縫製部194は、補助膨張部140が有する縫代と一体に縫製されている。
【0050】
本実施形態にかかるエアバッグ100は、上述したように乗員接触面180に頭部拘束部182、肩部拘束部184、胸部拘束部186を形成させることで、エアバッグ100に乗員110の頭部が接触する時点と、胸部や肩部が接触する時点とで生じる時間差を短縮させている。したがって、エアバッグ100は、乗員110に与える接触時の衝撃を、頭部のように突出した部位に集中させることなく分散可能である。このように、エアバッグ100は、偏荷重の発生を防ぐことができるため、安全性が向上している。
【0051】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態にかかる助手席用エアバッグを説明する図である。助手席用エアバッグ(以下、単に「エアバッグ200」と記載する)は、補助連通口152を備える点において、第1実施形態にかかるエアバッグ100と異なる。なお、第1実施形態と機能および構成が同様の要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
図4に例示するように、補助連通口152は、ガス流路部130と補助膨張部140とを連通させる。補助連通口152は、ガス流路部130と補助膨張部140とが隣接している任意の位置に、所定の数および形状で設置できる。本実施形態にかかるエアバッグ200においては、補助連通口152として、補助連通口152a、補助連通口152bを備えている。
【0053】
補助連通口152aは、ガス流路部130と補助膨張部140の上面とを連通する。補助連通口152aによって、補助膨張部140へのガスの流入方向として、上方から下方へ向かう流れが発生する。したがって、補助膨張部140は、乗員接触面180と同様の下方に向かう膨張展開が可能になる。そのため、ガス連通口150のみを備えるエアバッグ100と比較して、補助膨張部140と乗員接触面180との膨張展開方向の差異が減少しているため、エアバッグ200は展開挙動が安定している。
【0054】
補助連通口152bは、肩部拘束部184と補助膨張部140とを連通する。肩部拘束部184は、内圧が高いことで乗員の肩部を受け止めやすい構成となっているが、必要以上に高い内圧は肩部に与える負荷が大きくなってしまう。そこで、補助連通口152bを備えることによって、乗員110との接触時における肩部拘束部184内のガスを排出し、適度に内圧を低減することができる。
【0055】
上記のように、補助連通口152によって、エアバッグ200の展開挙動および内圧は設定変更することができる。なお、補助連通口152の形状をガス連通口150よりも小径とすることで、補助膨張部140へのガスの流入は、ガス連通口150を主要な経路として行うことができる。よって補助連通口152を備えたとしても、補助膨張部140は助手席108側からインパネ104側へ向かって膨張展開することができる。
【0056】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態にかかる助手席用エアバッグを説明する図である。助手席用エアバッグ(以下、単に「エアバッグ300」と記載する)は、胸部拘束部を有さない点において、第1実施形態にかかるエアバッグ100と異なる。なお、第1実施形態と機能および構成が同様の要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0057】
エアバッグ300は、一般的な助手席用エアバッグと同様に、シートベルト(図示省略)との併用を前提としている。シートベルトによって乗員114の胸部はインパネ104への激突から保護されるため、エアバッグ300は、胸部拘束部148を省略しても安全性が低下することはない。
【0058】
エアバッグ300は、胸部拘束部186を有さないため、エアバッグ100よりも内容積が小さく、上下方向に短い。このように、エアバッグ300は、エアバッグ100よりも小型であり、インパネ104内部に設置しやすい構成となっている。また、エアバッグ300は小型であることで、エアバッグ100よりも迅速に膨張展開を完了することができる。
【0059】
図6は、図5の助手席用エアバッグの斜視図である。図6に例示するように、頭部拘束部382が乗員接触面380の下部まで形成されているため、ガス流路部330は、乗員接触面380において二又となって肩部拘束部384を構成している。そのため、エアバッグ300では、2つのガス連通口350が二又に分かれた乗員接触面380の下部に配置されている。なお、図5に例示した形状維持部材360は、補助膨張部340の内部においてガスの流入の妨げとならないように、一端を、助手席108側下部であってガス連通項350の間(頭部拘束部382の下部)に縫い付けることができる(図6において図示省略)。このとき、エアバッグ100と異なり、設置される形状維持部材360は1つである。
【0060】
(その他の効果)
図7および図8は、上記の第1〜第3実施形態に共通したその他の効果を説明する図である。図7(a)では従来の助手席用エアバッグ10を例示し、図7(b)では上記の実施形態の助手席用エアバッグの代表として、第1実施形態のエアバッグ100を例示する。図7および図8では、停車している車両を例示している。また、助手席付近にいるが助手席112(図1)には正しく着座していない乗員(正規外着座条件の乗員)として、6歳児相当の幼児116を例示している。
【0061】
図7(a)に例示するように、車両20には、インパネ30の上面前方に設置された従来の助手席用エアバッグ(以下、単に「エアバッグ10」と記載する)が備えられている。助手席付近に幼児116がいる状態において、車両20に備えられたセンサ(図示省略)が幼児116のいたずら等に誤って反応してしまう場合がある。そのような場合、エアバッグ10は、インパネ30の上面前方から幼児116に向かって直線的に膨張展開して接触することになる。幼児116は、成人より身体が小さいため、接触時の衝撃による影響を受けやすい。
【0062】
図7(b)に例示するように、本発明の各実施形態によれば、センサが不測の衝撃を感知したとしても、エアバッグ100は、ハウジング114からフロントガラス112の方向へ膨張した後に助手席方向へ向かって膨張するという略放物線状の軌道で膨張展開して幼児116と接触する。このように、エアバッグ100は、膨張展開初期の爆発的な圧力を幼児116に対して直線的に与えないため、幼児116に与える衝撃が従来のエアバッグ10よりも低減されている。このように、上記の実施形態にかかるエアバッグ100は、幼児116(正規外着座条件の乗員)に対する安全性が向上している。
【0063】
図8に例示するように、幼児116がインパネ104に近接して位置していた場合、エアバッグ100は、上方から幼児116に接触することで、幼児116の背後に向かって展開することも起り得る。しかし、本発明の実施形態であるエアバッグ100は、このように展開しても、幼児116へは内圧が低く柔軟性を有する補助膨張部140から接触するため、幼児116に与える衝撃は小さいものとなる。このように、上記の実施形態にかかるエアバッグ100は、幼児116(正規外着座条件の乗員)に対する安全性が向上している。
【0064】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0065】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0066】
また、上記実施形態においては本発明にかかる助手席用エアバッグを自動車に適用した例を説明したが、自動車以外にも航空機や船舶などに適用することも可能であり、同様の作用効果を得ることができる。
【0067】
さらに、本発明にかかる助手席用エアバッグは、助手席以外の後列席等においても有効に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、車両に衝撃が発生した時に膨張展開することで助手席の乗員を保護する助手席用エアバッグに利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
10 …エアバッグ
20 …車両
30 …インパネ
100、200、300 …エアバッグ
102 …車両
104 …インパネ
106 …インフレータ
108 …助手席
110 …乗員
112 …フロントガラス
114 …ハウジング
116 …幼児
130 …ガス流路部
132 …接続部
134 …固定孔
140 …補助膨張部
142 …前面布部材
144 …後面布部材
146 …側面布部材
150 …ガス連通口
152 …補助連通口
152a …補助連通口
152b …補助連通口
160 …形状維持部材
170 …側面排気口
180 …乗員接触面
182 …頭部拘束部
184 …肩部拘束部
186 …胸部拘束部
190 …縫製部
192 …縫製部
330 …ガス流路部
340 …補助膨張部
350 …ガス連通口
380 …乗員接触面
382 …頭部拘束部
384 …肩部拘束部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両室内のインストルメントパネルの上面内部に設置された助手席用エアバッグにおいて、
当該助手席用エアバッグの上面と、助手席側であって標準的な乗員の身体の凹凸形状に適合する凹凸形状の乗員接触面とを含み、インフレータからのガスの供給を最初に受けて、前記インストルメントパネルから助手席に向かって略放物線状に膨張するガス流路部と、
前記ガス流路部を介してガスが供給されると、前記助手席側から前記インストルメントパネル側へ向かって膨張展開する補助膨張部と、
前記乗員接触面下部にて、前記ガス流路部と前記補助膨張部を連通させるガス連通口と、
を備えることを特徴とする助手席用エアバッグ。
【請求項2】
前記乗員接触面は、
車両左右方向の中央において、上下方向にかけて一定の範囲が切り欠かれることで凹形状となって乗員の頭部を拘束する頭部拘束部と、
前記頭部拘束部の左右両側において、凸形状となって前記乗員の肩部を拘束する肩部拘束部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の助手席用エアバッグ。
【請求項3】
前記肩部拘束部は、前記頭部拘束部の位置および外周寸法を変更することで、該肩部拘束部の範囲を設定変更可能であることを特徴とする請求項2に記載の助手席用エアバッグ。
【請求項4】
前記乗員接触面は、前記頭部拘束部よりも下部に、切り欠かれることなく凸形状となって乗員の胸部を拘束する胸部拘束部をさらに有することを特徴とする請求項2または3に記載の助手席用エアバッグ。
【請求項5】
当該助手席用エアバッグは、前記補助膨張部の内部に設置され、一端が前記助手席側下部に、他端が前記インストルメントパネル側上部に縫い付けられることで、当該助手席用エアバッグの形状を維持する形状維持部材をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の助手席用エアバッグ。
【請求項6】
当該助手席用エアバッグは、任意の位置に、前記ガス流路部と前記補助膨張部を連通させる所定の数および形状の補助連通口をさらに備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の助手席用エアバッグ。
【請求項7】
前記補助膨張部は、それ自体の左右側面に、ガスを排出することで当該助手席用エアバッグの内圧を制御可能な側面排気口を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の助手席用エアバッグ。
【請求項8】
前記ガス流路部は、多重縫製、コーティング、高密度生地の使用から選択される少なくとも1つのガス漏洩防止手段を有することを特徴とする請求項1から7に記載の助手席用エアバッグ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−51413(P2011−51413A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200393(P2009−200393)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【復代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
【Fターム(参考)】