説明

動力伝達装置及びその組付方法

【課題】組付性を向上することができる動力伝達装置及びその組付方法を提供する。
【解決手段】静止側のケーシング3と、第1のベアリング5と、内側回転部材7と、外側回転部材9と、複数の内側クラッチ板11と、複数の外側クラッチ板13と、内側回転部材7と外側回転部材9との径方向間に配置され複数の内側クラッチ板11と複数の外側クラッチ板13とからなり内側回転部材7と外側回転部材9との間で動力伝達可能なクラッチ部15とを備えた動力伝達装置1において、外側回転部材9が、複数の外側クラッチ板13が係合される筒状部17と、この筒状部17に対して第1のベアリング5と軸方向反対側に配置されクラッチ部15に軸方向に臨んで筒状部17と一体回転可能に係合して固定されて筒状部17の内部を閉塞する閉塞部19とを有した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用される動力伝達装置及びその組付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内側回転部材と外側回転部材との間に複数のクラッチ板が配置された動力伝達装置としては、内側回転部材としてのピニオンシャフトと、外側回転部材としてのフロントハウジングと、ピニオンシャフトとフロントハウジングとにそれぞれ一体回転可能に連結される複数のインナクラッチプレートと複数のアウタクラッチプレートとからなるメインクラッチとを備えたものが知られている。(例えば、特許文献1参照)
この動力伝達装置では、フロントハウジングの閉壁部と複数のインナクラッチプレートとにピンが挿入される注入孔と貫通孔を形成し、フロントハウジングに対するピニオンシャフトの組付前に、フロントハウジングに対してメインクラッチの複数のクラッチプレートを収容して注入孔と貫通孔とにピンを挿入している。
【0003】
このように注入孔と貫通孔とにピンを挿入することにより、フロントハウジングから複数のインナクラッチプレートが脱落することがなく、メインクラッチが組付けられたフロントハウジングに対してピニオンシャフトを組付けることによって装置の組付けを完了することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−14100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような動力伝達装置では、ピンを挿入することによってフロントハウジング内にメインクラッチなどの収容部材を保持しているが、ピンによって位置決めされた収容部材では回転方向に対して各部材に微少なガタつきがある。
【0006】
このため、収容部材が収容されたフロントハウジングに対してピニオンシャフトを組付ける際には、各部材のガタつきを補正しながらピニオンシャフトを組付けなければならず、スムーズにピニオンシャフトを組付けることができず、装置の組付性が低下していた。
【0007】
そこで、この発明は、組付性を向上することができる動力伝達装置及びその組付方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、静止側のケーシングに対して第1のベアリングを介して回転可能に配置された内側回転部材と、この内側回転部材の外周側に前記内側回転部材と相対回転可能に配置された外側回転部材と、前記内側回転部材と一体回転可能で軸方向移動可能に係合された複数の内側クラッチ板と、これら複数の内側クラッチ板に対して軸方向に交互に配置され前記外側回転部材と一体回転可能で軸方向移動可能に係合された複数の外側クラッチ板と、前記内側回転部材と前記外側回転部材との径方向間に配置され前記複数の内側クラッチ板と前記複数の外側クラッチ板とからなり前記内側回転部材と前記外側回転部材との間で動力伝達可能なクラッチ部とを備えた動力伝達装置であって、前記外側回転部材は、前記複数の外側クラッチ板が係合される筒状部と、この筒状部に対して前記第1のベアリングと軸方向反対側に配置され前記クラッチ部に軸方向に臨んで前記筒状部と一体回転可能に係合して固定されて前記筒状部の内部を閉塞する閉塞部とを有することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の動力伝達装置であって、前記ケーシングは、前記第1のベアリングの支持部から前記筒状部に向けて延設された延設部を有し、前記筒状部は、第2のベアリングを介して前記延設部に回転可能に支持されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の動力伝達装置であって、前記第1のベアリングと前記クラッチ部との軸方向間には、前記クラッチ部の動力伝達状態を制御可能な操作部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、静止側のケーシングに対して第1のベアリングを介して回転可能に配置された内側回転部材と、この内側回転部材の外周側に前記内側回転部材と相対回転可能に配置された外側回転部材と、前記内側回転部材と一体回転可能で軸方向移動可能に係合された複数の内側クラッチ板と、これら複数の内側クラッチ板に対して軸方向に交互に配置され前記外側回転部材と一体回転可能で軸方向移動可能に係合された複数の外側クラッチ板と、前記内側回転部材と前記外側回転部材との径方向間に配置され前記複数の内側クラッチ板と前記複数の外側クラッチ板とからなり前記内側回転部材と前記外側回転部材との間で動力伝達可能なクラッチ部とを備え、前記外側回転部材は、前記複数の外側クラッチ板が係合される筒状部と、前記筒状部に対して前記第1のベアリングと軸方向反対側に配置され前記クラッチ部に軸方向に臨んで配置され前記筒状部と一体回転可能に係合して固定されて前記筒状部の内部を閉塞する閉塞部とを有した動力伝達装置の組付方法であって、前記内側回転部材を前記ケーシングに対して前記第1のベアリングを介して回転支持させると共に、固定手段により前記内側回転部材と前記ケーシングとの軸方向の相対位置を決定する第1工程と、前記内側回転部材の外周に前記筒状部を嵌合して組付ける第2工程と、前記筒状部の内部に前記クラッチ部を組付ける第3工程と、前記筒状部に対して前記閉塞部を一体回転可能に係合させる第4工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の動力伝達装置は、外側回転部材が複数の外側クラッチ板が係合される筒状部と、この筒状部に対して第1のベアリングと軸方向反対側に配置されクラッチ部に軸方向に臨んで筒状部と一体回転可能に係合して固定されて筒状部の内部を閉塞する閉塞部とを有するので、内側回転部材と筒状部とを組付けた後に、クラッチ部などの収容部材を筒状部内に組付け、閉塞部によって筒状部の内部を閉塞させればよい。このため、内側回転部材の組付前に外側回転部材の内部に収容部材を収容する必要がなく、収容部材のガタつきの補正を行う必要がない。
【0013】
従って、ガタつきを補正しながら各部材を組付ける必要がなく、各部材をスムーズに組付けることができ、装置の組付性を向上することができる。
【0014】
請求項2の動力伝達装置は、ケーシングが第1のベアリングの支持部から筒状部に向けて延設された延設部を有し、筒状部が第2のベアリングを介して延設部に回転可能に支持されているので、筒状部をケーシングに支持させた後に、収容部材を筒状部内に組付け、閉塞部によって筒状部の内部を閉塞させればよい。このため、ケーシングに対して外側回転部材が支持されている場合においても、装置の組付性を向上することができる。
【0015】
請求項3の動力伝達装置は、第1のベアリングとクラッチ部との軸方向間にクラッチ部の動力伝達状態を制御可能な操作部が設けられているので、内側回転部材を組付けた後に、操作部の全体、もしくは一部を配置させ、筒状部を組付けた後に、クラッチ部や操作部の一部などの収容部材を筒状部内に組付け、閉塞部によって筒状部の内部を閉塞させればよい。このため、クラッチ部の動力伝達状態を制御可能な操作部が設けられている場合においても、装置の組付性を向上することができる。
【0016】
請求項4の動力伝達装置の組付方法は、内側回転部材をケーシングに対して第1のベアリングを介して回転支持させると共に、固定手段により内側回転部材とケーシングとの軸方向の相対位置を決定する第1工程と、内側回転部材の外周に筒状部を嵌合して組付ける第2工程と、筒状部の内部にクラッチ部を組付ける第3工程と、筒状部に対して閉塞部を一体回転可能に係合させる第4工程とを有するので、第1,第2工程の後に、第3工程によって筒状部内に収容部材を組付け、第4工程によって装置の組付けを完了すればよい。このため、どの工程においても収容部材のガタつきを補正しながら組付作業を行う必要がない。
【0017】
従って、ガタつきを補正しながら各部材を組付ける必要がなく、各部材をスムーズに組付けることができ、装置の組付性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る動力伝達装置の断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る動力伝達装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1,図2を用いて本発明の実施の形態に係る動力伝達装置について説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1を用いて第1実施形態について説明する。
【0021】
本実施の形態に係る動力伝達装置1は、静止側のケーシング3に対して第1のベアリング5を介して回転可能に配置された内側回転部材7と、この内側回転部材7の外周側に内側回転部材7と相対回転可能に配置された外側回転部材9と、内側回転部材7と一体回転可能で軸方向移動可能に係合された複数の内側クラッチ板11と、これら複数の内側クラッチ板11に対して軸方向に交互に配置され外側回転部材9と一体回転可能で軸方向移動可能に係合された複数の外側クラッチ板13と、内側回転部材7と外側回転部材9との径方向間に配置され複数の内側クラッチ板11と複数の外側クラッチ板13とからなり内側回転部材7と外側回転部材9との間で動力伝達可能なクラッチ部15とを備えている。
【0022】
そして、外側回転部材9は、複数の外側クラッチ板13が係合される筒状部17と、この筒状部17に対して第1のベアリング5と軸方向反対側に配置されクラッチ部15に軸方向に臨んで筒状部17と一体回転可能に係合して固定されて筒状部17の内部を閉塞する閉塞部19とを有する。
【0023】
また、第1のベアリング5とクラッチ部15との軸方向間には、クラッチ部15の動力伝達状態を制御可能な操作部21が設けられている。
【0024】
さらに、このような動力伝達装置1の組付方法は、内側回転部材7をケーシング3に対して第1のベアリング5を介して回転支持させると共に、固定手段としての固定ボルト23とベアリングナット25とにより内側回転部材7とケーシング3との軸方向の相対位置を決定する第1工程と、内側回転部材7の外周に筒状部17を嵌合して組付ける第2工程と、筒状部17の内部にクラッチ部15を組付ける第3工程と、筒状部17に対して閉塞部19を一体回転可能に係合させる第4工程とを有する。
【0025】
図1に示すように、静止側のケーシング3は、車体フレームなどの静止系部材(不図示)に対してスタッドボルト27によって固定される。また、ケーシング3には、シール部材29,31,33と、シール部材33のリップ部と当接してケーシング3内への泥水などの浸入を防止するダストカバー35とが配置され、ケーシング3の内部空間と外部空間とが区画されている。また、ケーシング3には、内部に潤滑油を流入させる孔部37が形成され、この孔部37は潤滑油を供給した後に蓋部材39によって閉塞される。このケーシング3内には、動力伝達部材として入出力部材を備える差動機構41が収容されている。
【0026】
差動機構41は、デフケース43と、ピニオンシャフト45と、ピニオン47と、一対のサイドギヤ49,51とを備えている。デフケース43は、軸方向両側に形成されたボス部53,55でそれぞれベアリング57,59を介してケーシング3に回転可能に収容支持されている。また、デフケース43にはリングギヤ61が固定され、このリングギヤ61が内側回転部材7に設けられたピニオン63と噛み合い、駆動力が伝達されてデフケース43を回転駆動させる。このデフケース43には、ピニオンシャフト45とピニオン47と一対のサイドギヤ49,51とが収容されている。
【0027】
ピニオンシャフト45は、端部をデフケース43に係合してピン65で抜け止めされ、デフケース43と一体に回転駆動される。このピニオンシャフト45には、ピニオン47が支承されている。
【0028】
ピニオン47は、ピニオンシャフト45に支承されてデフケース43の回転によって公転する。また、ピニオン47の背面側とデフケース43との間には、ピニオン47の公転時に発生する径方向への移動を受ける球面ワッシャ67が配置されている。このピニオン47は、一対のサイドギヤ49,51に駆動力を伝達すると共に、噛み合っている一対のサイドギヤ49,51に差回転が生じると回転駆動されるように自転可能にピニオンシャフト45に支持されている。
【0029】
一対のサイドギヤ49,51は、ボス部69,71でデフケース43に相対回転可能に支持され、ピニオン47と噛み合っている。また、一対のサイドギヤ49,51とデフケース43との間には、ピニオン47との噛み合い反力によるサイドギヤ49,51の軸方向への移動を受けるスラストワッシャ73,75が配置されている。この一対のサイドギヤ49,51は、内周側にスプライン形状の連結部77,79が設けられ、出力側の伝動機構に連結された出力部材(不図示)がサイドギヤ49,51と一体回転可能に連結され、内側回転部材7からピニオン63とリングギヤ61とからなるギヤ組を介してデフケース43に入力された駆動力を出力側の伝動機構へ出力する。
【0030】
内側回転部材7は、中実の軸状に形成され、軸方向一端に連続する一部材として形成されたピニオン63側の外周でケーシング3に対して第1のベアリング5を介して支持され、外周側の中間部と軸方向他端側で外側回転部材9に対してXリング81及びベアリング83とベアリング85とを介して相対回転可能に配置されている。なお、第1のベアリング5は、2つのテーパローラベアリングからなるユニットベアリングとなっており、外径側に形成されたフランジ部でケーシング3に対して固定ボルト23で固定され、内径側が内側回転部材7に対してベアリングナット25によって位置決めされている。この固定ボルト23とベアリングナット25とによって、内側回転部材7とケーシング3との軸方向の相対位置が位置決めされている。また、ピニオン63は、第1のベアリング5と共にケーシング3に設けられた開口8から固定ボルト23の取付軸方向に挿通され、リングギヤ61との噛み合い位置に組付けられる。また、Xリング81は、シール手段としても機能しており、外側回転部材9の内部と外部とを区画すると共に、ケーシング3内部に封入された潤滑油が内外側回転部材7,9によって形成される空間内へ流通することを防止している。また、内側回転部材7の軸方向他端側の外周には、複数の内側クラッチ板11が係合されるスプライン形状の係合部87が形成されている。この内側回転部材7の外周には、外側回転部材9が内側回転部材7と相対回転可能に配置されている。
【0031】
外側回転部材9は、筒状部17と、閉塞部19とを備えている。筒状部17は、筒状に形成され、内周に複数の外側クラッチ板13が係合されるスプライン形状の係合部89が形成されている。この筒状部17には、閉塞部19が筒状部17と一体回転可能に係合されている。
【0032】
閉塞部19は、筒状部17に対して第1のベアリング5と軸方向反対側に配置されクラッチ部15に軸方向に臨んで筒状部17の係合部89に一体回転可能かつ着脱可能に係合されている。なお、閉塞部19は係合部89と異なる係合部を介して筒状部17と係合してもよい。また、閉塞部19の端部には、筒状部17の端部内周に形成されたねじ形状の連結部91にねじ締結されたナット93が当接され、筒状部17に対する閉塞部19の軸方向の位置決めがなされている。また、筒状部17と閉塞部19との径方向間には、シール手段としてのOリング95が配置され、外側回転部材9の内部と外部とを区画しているが、液状ガスケットのような他のシール手段を設けることもできる。この閉塞部19には、入力側の伝動機構に連結された入力部材(不図示)がスタッドボルト96によって外側回転部材9と一体回転可能に連結される。この外側回転部材9に入力された駆動力は、クラッチ部15によって断続され、このクラッチ部15が接続状態であるとき、内側回転部材7に伝達される。また、閉塞部19の軸心側には、内外側回転部材7,9で形成される空間内に他の潤滑油を封入するプラグ20が固定されているが、プラグ20を設けずに一体壁として、そのうえ小孔を形成して他の潤滑油を導入した後、チェックボールにより封止する構成をとることもできる。これらの他の潤滑油の封入工程は、後述する第4工程の後の第5工程として行われる。
【0033】
クラッチ部15は、複数の内側クラッチ板11と、複数の外側クラッチ板13とを備えている。複数の内側クラッチ板11は、内側回転部材7の外周に形成された係合部87に軸方向移動可能で内側回転部材7と一体回転可能に係合されている。複数の外側クラッチ板13は、複数の内側クラッチ板11に対して軸方向に交互に配置され、外側回転部材9の筒状部17の内周に形成された係合部89に軸方向移動可能で外側回転部材9と一体回転可能に係合されている。このクラッチ部15は、複数の内側クラッチ板11と複数の外側クラッチ板13とで構成された多板クラッチであり、滑り摩擦を伴い伝達トルクを中間制御可能な制御型の摩擦クラッチとなっている。このクラッチ部15は、操作部21によって制御可能に断続操作される。
【0034】
操作部21は、第1のベアリング5とクラッチ部15との軸方向間に配置され、ロータ97と、電磁石99と、アーマチャ101と、パイロットクラッチ103と、カム機構105と、プレッシャリング107とを備えている。ロータ97は、磁性材料からなり、筒状部17の端部外周に形成されたねじ形状の連結部109にねじ締結され、外側回転部材9と一体回転可能に配置されている。また、ロータ97と筒状部17との径方向間にはシール手段としてのOリング111が配置され、外側回転部材9の内部と外部とを区画している。このロータ97は、電磁石99と軸方向に隣接配置され、電磁石99の励磁による磁束を透過して磁路を形成させる。
【0035】
電磁石99は、ベアリング113を介してロータ97に支持されると共に、ケーシング3に対して回り止め部材115によって回り止めされ、電磁コイル117とコア119とを備えている。コア119は、リード線121を介して通電を制御するコントローラ(不図示)に接続されており、コントローラの制御によってクラッチ部15に必要な摩擦トルクを生じさせるように電磁コイル117に通電される。この電磁石99の励磁により、アーマチャ101が吸引移動される。これらの電磁石99の外側回転部材9への組付け工程は、後述する第1工程と第2工程との間に行われる第1’工程であり、外側回転部材9に対して電磁石99を仮組みした後、図示外のリード線をケーシング3に対して組付ける工程と、回り止め部材115を組付ける工程とを含むものである。なお、回り止め部材115は外径側に設けているが、ケーシング3の軸方向に対向する壁面や第1のベアリング5のアウタレース、或いは固定ボルト23の頭部に対して係合させてもよく、この場合、外径側の張り出し形状を簡素化することができる。
【0036】
アーマチャ101は、磁性材料からなり、外側回転部材9内に軸方向移動可能で軸方向にパイロットクラッチ103を挟んでロータ97と対向配置されている。このアーマチャ101は、電磁石99が励磁されたとき、コア119、ロータ97、パイロットクラッチ103、アーマチャ101を介した磁力線が循環されて形成される磁束ループによって電磁石99側に吸引移動され、パイロットクラッチ103を接続させる。
【0037】
パイロットクラッチ103は、外側回転部材9内でロータ97とアーマチャ101との軸方向間に配置され、筒状部17の係合部89に軸方向移動可能で外側回転部材9と一体回転可能に連結する複数の外側プレートと、カムリング123の外周に複数の外側プレートに対して軸方向間に配置され軸方向移動可能でカムリング123と一体回転可能に連結する内側プレートとで構成されている。このパイロットクラッチ103の締結トルクは、カム機構105を介して軸方向推力に変換され、プレッシャリング107でクラッチ部15を押圧して所定の駆動トルクが伝達される。
【0038】
カム機構105は、カムリング123とプレッシャリング107とに周方向に形成されたカム面を対向させ、この間に介在させたカムボール125を備えている。カムリング123は、内側回転部材7の外周に軸方向移動可能に配置され、パイロットクラッチ103の内側プレートが一体回転可能に連結されている。このカムリング123とロータ97との軸方向間には、カム機構105で生じるスラスト反力を受けるスラストベアリング127が配置されており、一方、カムスラスト力は係合部89を周方向に欠歯して形成された環状溝に係合するリング状の受け部材90を介して筒状部17に入力して、スラスト反力と相殺される。
【0039】
カムボール125は、カムリング123とプレッシャリング107とに形成されたカム面の間に配置されている。このカムボール125は、パイロットクラッチ103の接続によってカムリング123とプレッシャリング107との間に差回転が生じることにより、パイロットクラッチ103に生じる摩擦トルクに応じた強さでプレッシャリング107をクラッチ部15の接続方向へ軸方向押圧移動させるカムスラスト力を発生させる。
【0040】
プレッシャリング107は、内側回転部材7の外周に軸方向移動可能に配置されている。また、プレッシャリング107とクラッチ部15との軸方向間には、プレッシャリング107をクラッチ部15の接続解除方向に付勢するリターンスプリング129が配置されている。このプレッシャリング107は、カム機構105で生じるスラスト力によってリターンスプリング129の付勢力に抗してクラッチ部15の接続方向に軸方向移動され、クラッチ部15に押圧力を付与して接続させ、内側回転部材7と外側回転部材9とを接続させる。
【0041】
このように構成された動力伝達装置1は、電磁石99への通電制御によってアーマチャ101が吸引移動され、パイロットクラッチ103を押圧し、パイロットクラッチ103が制御された摩擦トルクをもって接続される。パイロットクラッチ103が接続されるとカム機構105でカムスラスト力が発生してプレッシャリング107がクラッチ部15側に押圧移動される。このプレッシャリング107の移動によりクラッチ部15が接続され、内側回転部材7と外側回転部材9とが接続される。この内側回転部材7と外側回転部材9との接続により、外側回転部材9に入力された駆動力が内側回転部材7に伝達され、内側回転部材7から差動機構41側へ出力される。
【0042】
このように構成された動力伝達装置1の組付方法は、第1のベアリング5を組付けた内側回転部材7をケーシング3の開口側(図1中の右側)から挿入し、内側回転部材7のピニオン63とリングギヤ61とを噛み合わせる。次に、固定ボルト23によって第1のベアリング5をケーシング3に固定させ、ベアリングナット25によって内側回転部材7とケーシング3との軸方向の相対位置を決定する。(第1工程)
この第1工程の後、内側回転部材7に対して第1’工程として電磁石99を組付けたロータ97をケーシング3の開口側から挿入し、電磁石99とロータ97とを内側回転部材7の外周に配置させる。次に、筒状部17をロータ97との連結部109にねじ締結させ、ロータ97と筒状部17との組付体を内側回転部材7の外周に配置させる。(第2工程)
この第2工程の後、筒状部17と内側回転部材7との径方向間にパイロットクラッチ103とアーマチャ101とカム機構105などを挿入する。次に、内側回転部材7の係合部87と筒状部17の係合部89とに、内側クラッチ板11と外側クラッチ板13とを交互に係合させ、クラッチ部15を組付ける。(第3工程)
この第3工程の後、筒状部17と内側回転部材7との径方向間に閉塞部19を挿入し、筒状部17の係合部89に閉塞部19を係合させる。次に、筒状部17の連結部91にナット93をねじ締結させ、筒状部17に対して閉塞部19を固定して筒状部17の内部を閉塞して組付けを完了する。(第4工程)さらには、他の潤滑油を内外側回転部材7,9とで形成された空間内に封入する。(第5工程)
このような動力伝達装置1では、外側回転部材9が複数の外側クラッチ板13が係合される筒状部17と、この筒状部17に対して第1のベアリング5と軸方向反対側に配置されクラッチ部15に軸方向に臨んで筒状部17と一体回転可能に係合して固定されて筒状部17の内部を閉塞する閉塞部19とを有するので、内側回転部材7と筒状部17とを組付けた後に、クラッチ部15などの収容部材を筒状部17内に組付け、閉塞部19によって筒状部17の内部を閉塞させればよい。このため、内側回転部材7の組付前に外側回転部材9の内部に収容部材を収容する必要がなく、収容部材のガタつきの補正を行う必要がない。
【0043】
従って、ガタつきを補正しながら各部材を組付ける必要がなく、各部材をスムーズに組付けることができ、装置の組付性を向上することができる。
【0044】
また、第1のベアリング5とクラッチ部15との軸方向間にクラッチ部15の動力伝達状態を制御可能な操作部21が設けられているので、内側回転部材7を組付けた後に、操作部21の一部を配置させ、筒状部17を組付けた後に、クラッチ部15や操作部21の一部などの収容部材を筒状部17内に組付け、閉塞部19によって筒状部17の内部を閉塞させればよい。このため、クラッチ部15の動力伝達状態を制御可能な操作部21が設けられている場合においても、装置の組付性を向上することができる。
【0045】
さらに、動力伝達装置1の組付方法では、内側回転部材7をケーシング3に対して第1のベアリング5を介して回転支持させると共に、固定ボルト23やベアリングナット25などの固定手段により内側回転部材7とケーシング3との軸方向の相対位置を決定する第1工程と、内側回転部材7の外周に筒状部17を嵌合して組付ける第2工程と、筒状部17の内部にクラッチ部15を組付ける第3工程と、筒状部17に対して閉塞部19を一体回転可能に係合させる第4工程とを有するので、第1,第2工程の後に、第3工程によって筒状部17内に収容部材を組付け、第4工程によって装置の組付けを完了すればよい。このため、どの工程においても収容部材のガタつきを補正しながら組付作業を行う必要がない。
【0046】
(第2実施形態)
図2を用いて第2実施形態について説明する。
【0047】
本実施の形態に係る動力伝達装置201は、ケーシング203は、第1のベアリング5の支持部から筒状部17に向けて延設された延設部205を有し、筒状部17は、第2のベアリング207を介して延設部205に回転可能に支持されている。なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、構成及び機能説明は第1実施形態を参照するものとし省略するが、得られる効果は同一である。
【0048】
図2に示すように、ケーシング203は、第1のベアリング5の支持部から筒状部17に向けて外側回転部材9の外周側を覆うように延設された延設部205を有している。この延設部205には、第2のベアリング207を介して筒状部17が支持され、外側回転部材9がケーシング203に対して回転可能に収容支持されている。なお、第2のベアリング207が配置された軸方向外側の延設部205と筒状部17との径方向間には、シール部材33とダストカバー35とが配置され、外側回転部材9の外部空間とケーシング203の外部とが区画されている。また、第2実施形態によれば、第1のベアリング5の端部にシール部材34を設け、差動機構41側のケーシング3内部の潤滑油を区画するので、延設部205の内部は、例えば、エア空間として区画することが可能となる。この場合、第2のベアリング207はグリスなどにより自己潤滑が可能なシールベアリングを用いるのが適当である。
【0049】
このような動力伝達装置201では、ケーシング203が第1のベアリング5の支持部から筒状部17に向けて延設された延設部205を有し、筒状部17が第2のベアリング207を介して延設部205に回転可能に支持されているので、筒状部17をケーシング203に支持させた後に、収容部材を筒状部17内に組付け、閉塞部19によって筒状部17の内部を閉塞させる構造及び組付工程を成せばよい。このため、ケーシング203に対して外側回転部材9が支持されている場合においても、装置の組付性を向上することができる。
【0050】
なお、本発明の実施の形態に係る動力伝達装置では、クラッチ部が複数の内外側クラッチ板が摩擦係合するものとしているが、これに限らず、ビスカスカップリングのように粘性流体のせん断抵抗を動力伝達に用いるものでもよい。
【0051】
また、操作部は、外側回転部材又はケーシングのいずれかに支持されているものであればよい。加えて、外部通信可能な電流や流体圧を用いたアクティブコントロールタイプだけではなく、伝達トルクや差回転をトリガーとしてメカ的にコントロールするパッシブタイプの操作部であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1,201…動力伝達装置
3,203…ケーシング
5…第1のベアリング
7…内側回転部材
9…外側回転部材
11…内側クラッチ板
13…外側クラッチ板
15…クラッチ部
17…筒状部
19…閉塞部
21…操作部
23…固定ボルト(固定手段)
25…ベアリングナット(固定手段)
205…延設部
207…第2のベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止側のケーシングに対して第1のベアリングを介して回転可能に配置された内側回転部材と、この内側回転部材の外周側に前記内側回転部材と相対回転可能に配置された外側回転部材と、前記内側回転部材と一体回転可能で軸方向移動可能に係合された複数の内側クラッチ板と、これら複数の内側クラッチ板に対して軸方向に交互に配置され前記外側回転部材と一体回転可能で軸方向移動可能に係合された複数の外側クラッチ板と、前記内側回転部材と前記外側回転部材との径方向間に配置され前記複数の内側クラッチ板と前記複数の外側クラッチ板とからなり前記内側回転部材と前記外側回転部材との間で動力伝達可能なクラッチ部とを備えた動力伝達装置であって、
前記外側回転部材は、前記複数の外側クラッチ板が係合される筒状部と、この筒状部に対して前記第1のベアリングと軸方向反対側に配置され前記クラッチ部に軸方向に臨んで前記筒状部と一体回転可能に係合して固定されて前記筒状部の内部を閉塞する閉塞部とを有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記ケーシングは、前記第1のベアリングの支持部から前記筒状部に向けて延設された延設部を有し、前記筒状部は、第2のベアリングを介して前記延設部に回転可能に支持されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の動力伝達装置であって、
前記第1のベアリングと前記クラッチ部との軸方向間には、前記クラッチ部の動力伝達状態を制御可能な操作部が設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
静止側のケーシングに対して第1のベアリングを介して回転可能に配置された内側回転部材と、この内側回転部材の外周側に前記内側回転部材と相対回転可能に配置された外側回転部材と、前記内側回転部材と一体回転可能で軸方向移動可能に係合された複数の内側クラッチ板と、これら複数の内側クラッチ板に対して軸方向に交互に配置され前記外側回転部材と一体回転可能で軸方向移動可能に係合された複数の外側クラッチ板と、前記内側回転部材と前記外側回転部材との径方向間に配置され前記複数の内側クラッチ板と前記複数の外側クラッチ板とからなり前記内側回転部材と前記外側回転部材との間で動力伝達可能なクラッチ部とを備え、前記外側回転部材は、前記複数の外側クラッチ板が係合される筒状部と、前記筒状部に対して前記第1のベアリングと軸方向反対側に配置され前記クラッチ部に軸方向に臨んで配置され前記筒状部と一体回転可能に係合して固定されて前記筒状部の内部を閉塞する閉塞部とを有した動力伝達装置の組付方法であって、
前記内側回転部材を前記ケーシングに対して前記第1のベアリングを介して回転支持させると共に、固定手段により前記内側回転部材と前記ケーシングとの軸方向の相対位置を決定する第1工程と、前記内側回転部材の外周に前記筒状部を嵌合して組付ける第2工程と、前記筒状部の内部に前記クラッチ部を組付ける第3工程と、前記筒状部に対して前記閉塞部を一体回転可能に係合させる第4工程とを有することを特徴とする動力伝達装置の組付方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−144858(P2011−144858A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5085(P2010−5085)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)
【Fターム(参考)】