説明

動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置

【課題】隣接する符号化済み各MB(マクロブロック)の動きベクトルを利用して、処理MBにおける適切な予測動きベクトルを生成すると共に、新たな付加情報を必要としない動画像符号化装置を提供する。
【解決手段】インター符号化予測値生成部9は、隣接する符号化済みMBにおける符号化効率に基づいて、該隣接する符号化済みMBの動きベクトルに与える重み係数を決定する重み係数算出部と、該重み係数に応じて該隣接する符号化済みMBにおける動きベクトルに重み付けを行い、該重み付けを行われた動きベクトルから予測動きベクトルを算出する予測動きベクトル生成部とを具備する。該重み係数算出部および予測動きベクトル生成部は、隣接する符号化済みMBにおける動きベクトルについて、各MBにおける残差信号および/または符号量に基づく重み付けを行い、重み付けられた動きベクトルの和を予測動きベクトルとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画面内のマクロブロック(以下、MB)単位での符号化の際にインター符号化を許容する動画像符号化装置に関し、特に、符号化済み隣接MBにおける動きベクトルから、処理MBにおける動きベクトルの予測ベクトルを生成する動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画面内のMB単位での符号化の際にインター符号化を許容する動画像符号化装置において、動き補償により動きベクトルを決定するとともに、隣接する符号化済みMBの動きベクトルに基づいて予測動きベクトルを生成し、動きベクトルと予測動きベクトルの差分を符号化することで、動きベクトルに関する符号量を抑制し、符号化効率の向上を図る手法が、下記の非特許文献1に示されている。この非特許文献1では、予測動きベクトルの生成手法として、隣接する2つ以上の符号化済みMBにおける動きベクトルについて、x成分およびy成分に関するメディアン(中央)値を算出し、同x成分およびy成分によって成されるベクトルを予測動きベクトルとする。しかしながら、該非特許文献1の予測動きベクトル生成手法では、隣接する符号化済み各MBの参照先フレームを考慮していない。したがって、各MBが異なるフレームを参照する場合、予測動きベクトルに時間的に異なる動きベクトルのメディアン値が用いられるため、不適切な予測動きベクトルが生成される恐れがある。なお、該非特許文献1に示されている動画像符号化装置の詳細については、図5、図6を参照して後述する。
【0003】
前記動画像符号化装置の前記の問題を解決するため、下記の特許文献1では、隣接する符号化済み各MBの参照先フレームを考慮して、対象フレームとの時間的な関係又はそれらの時刻情報に基づき各MBにおける動きベクトルの大きさをスケーリングする手法が提案されている。この手法では、隣接する各MBにおける重み付け動きベクトルに対して、メディアン値を算出することで予測動きベクトルを生成する。
【0004】
また、前記非特許文献1の予測動きベクトル生成手法では、隣接する符号化済み各MBにおける動きベクトルが処理MBにおける予測動きベクトルとして適しているか否かを考慮していない。この問題を解決するために、下記の非特許文献2では、隣接する符号化済みMBの動きベクトルについて、それぞれを予測動きベクトルとして適用した場合の符号量を評価する手法が提案されている。同手法では、符号量が最も小さくなる動きベクトルを予測動きベクトルとして採用し、動きベクトルを採用した隣接MBに関する付加情報を符号化する。
【非特許文献1】Joint Video Team (JVT) of ISO/IEC MPEG and ITU-VCEG, "Text of ISO/IEC 14496 10 Advanced Video Coding 3rd Edition", July 2004.
【特許文献1】特開2004−336369
【非特許文献2】Tomoyuki Yamamoto, "A new scheme for motion vector predictor encoding", ITU-T SG16, VCEG-AF13, Apr. 2007.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記非特許文献1の予測動きベクトル生成手法では、隣接する符号化済み各MBにおける動きベクトルが処理MBにおける予測ベクトルとして適しているかを考慮していない。したがって、適切な動きベクトルの生成が困難な絵柄では、予測動きベクトルの精度が著しく低下し、符号化効率の悪化を招くという課題がある。
【0006】
前記特許文献1のものでは、前記非特許文献1の課題の一つである、隣接する符号化済み各MBにおける動きベクトルの参照先を考慮しない問題を解決している。しかしながら、隣接する符号化済み各MBにおける動きベクトルについて、処理MBにおける空間的な妥当性は、非特許文献1と同様に考慮されていない。したがって、適切な動きベクトルの生成が困難な絵柄での、予測動きベクトルの精度低下を抑止できないという課題がある。
【0007】
前記非特許文献2に記載のものでは、隣接する符号化済み各MBにおける動きベクトルについて、処理MBにおける妥当性を考慮しないという前記非特許文献1の課題に対して、動きベクトルの符号化に要する符号量の観点から妥当性を評価し、最も評価が高い動きベクトルを予測動きベクトルとして採用する。しかしながら、予測動きベクトルとして採用する動きベクトルを識別するための情報である、新たな付加情報が必要となる。さらに、適切な動きベクトルの生成が困難な絵柄では、本手法による改善が見込まれない一方で、従来手法に対して前記の新たな付加情報が発生することになるため、符号化効率が低下することが懸念される。
【0008】
本発明は、前記した従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、隣接する符号化済み各MBの動きベクトルを利用して、処理MBにおける適切な予測動きベクトルを生成すると共に、前記非特許文献2のような新たな付加情報を必要としない動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した目的を達成するために、本発明は、マクロブロック単位での符号化の際にインター符号化を許容する動画像符号化装置において、隣接する符号化済みマクロブロックにおける符号化効率に基づいて、該隣接する符号化済みマクロブロックの動きベクトルに与える重み係数を決定する重み係数算出部と、該重み係数算出部で得られた重み係数に応じて該隣接する符号化済みマクロブロックにおける動きベクトルに重み付けを行い、該重み付けを行われた動きベクトルから予測動きベクトルを算出する予測動きベクトル生成部とを具備した点に特徴がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、隣接する符号化済みMBにおける動きベクトルについて、各MBにおける残差信号および/または符号量に基づく重み付けを行い、重み付けられた動きベクトルの和を予測動きベクトルとするので、適切な動きベクトルの生成が困難な領域においても、より確からしい動きベクトルに近い予測動きベクトルを生成することが可能となる。
【0011】
また、本発明では、予測動きベクトルを生成するための新たな付加情報を必要としない。よって、動きベクトルの生成が困難な領域においても、H.264に対して動きベクトルの符号量を削減し、符号化効率を改善することが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。まず、本発明の前提となる、前記非特許文献1に記載されている動画像符号化装置を、図5、図6を参照して説明する。
【0013】
図5は、画面内のMB単位での符号化の際にインター符号化を許容し、動き補償により動きベクトルを決定するとともに、隣接する符号化済みMBの動きベクトルに基づいて予測動きベクトルを生成し、動きベクトルと予測動きベクトルの差分を符号化する動画像符号化装置のブロック図である。なお、以下では最良の実施形態として、本発明をH.264符号化のリファレンス符号化器に用いた場合について説明するが、本発明はこれに限定されず、周知のJMエンコーダやJSVMエンコーダ等にも用いることができる。
【0014】
イントラ符号化予測値生成部1では、入力映像a、符号化済みMBにおける局所復号された輝度値b、および符号化済みMBにおけるイントラ予測方向に関する情報cを入力とする。ここに、入力映像aは、輝度値、色差もしくはRGB信号のいずれであってもよいが、以下では輝度値を用いて説明する。該イントラ符号化予測値生成部1では、符号化済みMBにおける局所復号された輝度値bに基づき、処理MBにおける各イントラ予測方向の予測値を生成する。該予測値に対して、入力映像aとの差分を得る事で、イントラ符号化における符号化歪みを算出する。また、符号化歪みおよび符号化済みMBにおけるイントラ予測方向に関する情報cに基づき、各イントラ予測方向におけるコスト値を算出する。算出されたコスト値を比較し、最も処理MBの符号化に適したイントラ予測方向を選択する。該イントラ符号化予測値生成部1の出力として、最適なイントラ予測方向における予測値d、同予測方向に関する情報e、および同予測方向におけるコスト値fを出力する。
【0015】
インター符号化予測値生成部2では、入力映像a、符号化済みフレームにおける局所復号された輝度値b、および同一フレーム内の隣接する符号化済みMBにおけるMVcを入力とする。該インター符号化予測値生成部2の詳細については、図6と併せて後述する。
【0016】
モード判定制御部3では、イントラ符号化予測値生成部1およびインター符号化予測値生成部2から出力されるコスト値f、iを入力とし、該コスト値f,iの比較を行い、処理MBに適する符号化モードjを選択する。つまり、モード判定制御部3は、イントラ符号化予測値生成部1およびインター符号化予測値生成部2から出力される予測値d、gおよび予測に関する情報e、hについて、処理MBの符号化に適する符号化モードが符号化に用いられるように切り替える。
【0017】
DCT/量子化部4は、入力映像aに対する予測値kとの差分lを入力とし、該差分lにDCT処理および量子化処理を施す。該DCT/量子化部4の出力として、量子化されたDCT係数mを出力する。IDCT/逆量子化部5では、量子化されたDCT係数mを入力とする。該IDCT/逆量子化部5は、入力される信号に対して、逆量子化処理および逆DCT処理を施す。そして、該IDCT/逆量子化部5の出力として、逆DCTされた輝度信号nを出力する。
【0018】
エントロピー符号化部6では、量子化されたDCT係数mおよび予測に関する情報oを入力とする。該エントロピー符号化部6では入力される信号についてエントロピー符号化を行う。該エントロピー符号化部6の出力として、エントロピー符号化された結果を、符号化データpとして出力する。
【0019】
ローカルメモリ(1)7は、予測値kと逆DCTされた輝度信号nの和をとった信号、すなわち局所復号された輝度値qを入力とする。ローカルメモリ(1)7では、局所復号された輝度値qを蓄積し、適宜、イントラ符号化予測値生成部1およびインター符号化予測値生成部2に同信号q、すなわち符号化済みMBにおける局所復号された輝度値bを供給する。
【0020】
ローカルメモリ(2)8は、符号化済みMBにおいて適用された予測方法に関する情報oを入力とする。該ローカルメモリ(2)8では、符号化済みMBにおける予測情報oを蓄積し、適宜、イントラ符号化予測値生成部1およびインター符号化予測値生成部2に同信号o、すなわち予測方向に関する情報cを供給する。
【0021】
図6に、前記非特許文献1に記載される予測動きベクトル生成手法に基づく、インター符号化予測値生成部2を示す。近傍MBのMV抽出部21は、ローカルメモリ(2)8から供給される近傍の符号化済みMBにおける符号化データ予測情報c(動きベクトルについて、予測動きベクトルからの差分)を入力とする。該近傍MBのMV抽出部21では、入力される符号化データ予測情報cから、近傍MBにおけるMVの情報を抽出し、その出力として、処理MBに隣接する符号化済みMBにおけるMV21aを出力する。
【0022】
メディアン値算出部22は、処理MBに隣接する符号化済みMBにおけるMV21aを入力とする。該メディアン値算出部22では、入力されるMV21aのx成分およびy成分について、各成分のメディアン値を求める。メディアン値の求め方を以下に示す。3値x1、x2、x3に対してメディアン値を得る関数をmid()とする。mid()の動作を式(1)に示す。メディアン値算出部22の出力として、x成分およびy成分に関するメディアン値22aの結果の組を出力する。
【0023】
【数1】

【0024】
予測動きベクトル生成部23では、隣接符号化済みMBにおけるMVについてのx成分およびy成分のメディアン値22aを入力とする。該予測動きベクトル生成部23では、入力されるメディアン値22aの組を、動きベクトルの予測ベクトル(予測動きベクトル)とし、その出力として、予測動きベクトル23aを出力する。
【0025】
参照先決定部24では、入力映像aの輝度値および符号化済みフレームにおける局所復号された輝度値bを入力とする。該参照先決定部24では、処理MBにおける入力映像aの輝度値について、局所復号された輝度値bを対象に探索範囲内で最も輝度信号が近い同矩形の位置を探す。最も輝度信号が近い位置について、処理MBからの空間的な相対位置を、動きベクトルとする。また、最も輝度信号が近い位置における局所復号された輝度値について、同輝度値を予測値とする。さらに、入力映像の輝度値に対する予測値の差分を、予測誤差とする。該参照先決定部24の出力として、動きベクトル24a、予測誤差24b、および予測値gを出力する。
【0026】
ベクトル差分抽出部25では、動きベクトル24aおよび予測動きベクトル23aを入力とする。該ベクトル差分抽出部25では、動きベクトル24aに対する予測動きベクトル23aの差分を、ベクトル差分hとする。また、ベクトル差分hについて、エントロピー符号化を施し、ベクトル差分により発生する符号量を求める。該ベクトル差分抽出部25の出力として、ベクトル差分h(デコードする際に用いられる予測に関する情報)およびベクトル差分hの符号化に要する符号量25aを出力する。
【0027】
歪み算出部26では、入力映像aの輝度値、予測誤差24b、および予測値gを入力とする。該歪み算出部26では、入力される予測誤差24bについて、DCT、量子化、逆量子化、逆DCTの処理を施す。逆DCTまで施した結果に対して予測値gを加えた信号(局所復号信号)を得る。ここで、入力信号に対する局所復号信号の差分を求め、差分信号について二乗和を得る。該歪み算出部26の出力として、差分信号の二乗和26a(符号化歪み)を出力する。
【0028】
コスト値算出部27では、ベクトル差分の符号量25aおよび符号化歪み26aを入力とする。該コスト値算出部27では、符号量および符号化歪みをコスト関数に入力し、コスト値を得、その出力として、コスト値iを出力する。
【0029】
以上は、本発明の前提となる動画像符号化装置の説明であるが、以下に、本発明の実施形態を説明する。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態における動画像符号化装置のブロック図である。本実施形態の動画像符号化装置が図5の動画像符号化装置と異なる所は、インター符号化予測値生成部9およびローカルメモリ(3)10のみであり、それら以外の符号は図5と同一または同等物を示す。
【0031】
ローカルメモリ(3)10は、符号化済みMBにおける予測誤差について、DCT、量子化を施した結果を入力とする。該ローカルメモリ(3)10は、符号化済みMBにおける残差信号rを蓄積し、適宜、インター符号化予測値生成部9に同信号rを供給する。
【0032】
図2に、本発明における予測動きベクトル生成に基づく、インター符号化予測値生成部9の一具体例の構成を示す。近傍MBのMV抽出部21では、ローカルメモリ(2)8から供給される近傍の符号化済みMBにおける符号化データ予測情報cを入力とする。該近傍MBのMV抽出部21では、入力される符号化データ予測情報cから、近傍MBにおけるMVの情報を抽出し、その出力として、処理MBに隣接する符号化済みMBにおけるMV21aを出力する。
【0033】
近傍MBの符号化情報残差信号抽出部11では、ローカルメモリ(1)7から供給される近傍の符号化済みMBにおける予測情報c、およびローカルメモリ(3)10から供給される近傍の符号化済みMBにおける符号化データ残差信号rを入力とする。該近傍MBの符号化情報残差信号抽出部11では、入力される予測情報cから、符号化効率に影響する情報として残差信号および動きベクトルの符号量を算出し、その出力として、隣接する符号化済みMBにおける残差信号および符号量11aを出力とする。
【0034】
重み係数算出部12は、処理MBに隣接する符号化済みMBにおける残差信号および符号量11aを入力とする。該重み係数算出部12では、残差信号および符号量の大きさに応じて、隣接する符号化済み各MBにおけるMVに対する重み係数を決定する。具体的な重み係数の決定方法については、後述の動作例にて説明する。該重み係数算出部12の出力として、隣接する符号化済み各MBにおけるMVに対する重み係数12aを出力する。
【0035】
予測動きベクトル生成部13は、隣接する符号化済み各MBにおけるMVおよび各MVに対する重み係数12aを入力とする。該予測動きベクトル生成部13では、入力される各MVに対して重み係数を乗じた重み付きベクトルを求め、重み付きベクトルの和もしくは代表値から、予測動きベクトルを生成する。該予測動きベクトル生成部13の出力として、生成された予測動きベクトル13aを出力する。
【0036】
参照先決定部24は、入力映像aおよび符号化済みフレームにおける局所復号された信号bを入力とする。該参照先決定部24では、処理MBにおける入力映像について、局所復号された信号を対象に探索範囲内で最も信号が近い同矩形の位置を探す。最も信号が近い位置について、処理MBからの空間的な相対位置を、動きベクトルとする。また、最も信号が近い位置における局所復号された信号について、同輝度値を予測値とする。さらに、入力映像に対する予測値の差分を、予測誤差とする。該参照先決定部24の出力として、動きベクトル24a、予測誤差24b、および予測値gを出力する。
【0037】
ベクトル差分抽出部25は、動きベクトル24aおよび予測動きベクトル13aを入力とする。該ベクトル差分抽出部25では、動きベクトル24aに対する予測動きベクトル13aの差分を、ベクトル差分hとする。また、ベクトル差分hについて、エントロピー符号化を施し、ベクトル差分により発生する符号量25aを求める。ベクトル差分抽出部25の出力として、ベクトル差分h(デコードする際に用いられる予測に関する情報)およびベクトル差分の符号化に要する符号量25aを出力する。
【0038】
歪み算出部26は、入力映像a、予測誤差24b、および予測値gを入力とする。歪み算出部26では、入力される予測誤差24bについて、DCT、量子化、逆量子化、逆DCTの処理を施す。逆DCTまで施した結果に対して予測値gを加えた信号(局所復号信号)を得る。ここで、入力信号に対する局所復号信号の差分を求め、差分信号について二乗和を得る。歪み算出部26の出力として、差分信号の二乗和(符号化歪み26a)を出力する。
【0039】
コスト値算出部27では、ベクトル差分の符号量25aおよび符号化歪み26aを入力とする。コスト値算出部27は、符号量および符号化歪みをコスト関数に入力し、コスト値を得る。コスト値算出部27の出力として、コスト値を出力する。
【0040】
次に、本発明の要部である前記重み係数算出部12および予測動きベクトル生成部13の動作を具体的に説明する。本発明では、残差信号、発生符号量および隣接する符号化済みMBにおける動きベクトルに基づき、処理MBにおける予測動きベクトルを生成する。
【0041】
ここで、入力映像の輝度値に対する予測値との差分(予測誤差)の大きさは、予測値の精度に強く依存するものであり、予測誤差の大きさで予測性能を評価することが可能である。また、残差信号は、予測誤差について量子化処理を施した信号である。したがって、量子化ステップ幅が一定の条件下では、残差信号の大小により予測性能を評価することが可能である。
【0042】
MB単位での量子化ステップ幅の制御に関して、近傍MB間での極端な量子化ステップ幅の変化は局所的な主観画質を著しく低下する恐れがあるため、隣接MB間での量子化ステップ幅はほぼ一定に保たれる。したがって、隣接する符号化済みMBにおける残差信号の大小により、各MBにおける動きベクトルの精度を相対的に評価することが可能である。
【0043】
また、符号化における効率は、符号化歪みの大きさに対する発生符号量により評価される。さらに、各MBにおける、符号化歪みと大小関係がほぼ等価である残差信号と、該残差信号に対する発生符号量について、該発生符号量および、残差信号と発生符号量に基づくコスト関数を用いて、各MBにおける動きベクトルの精度による評価を行うことで、符号化効率を評価することが可能である。
【0044】
以下に、該重み係数算出部12および予測動きベクトル生成部13の動作例1〜3について説明する。
【0045】
なお、該動作例は、次の場合を想定して説明されるが、これに限定されるものではない。すなわち、図3に示されているように、処理MB0に対して、上、右上、左に接するMBを、それぞれMB1、MB2、MB3とする。また、MB1、MB2、MB3において、MB0の動きベクトル予測に用いられる分割ブロックを、それぞれDB1、DB2、DB3とする。ただし、MBn (n=1,2,3)における分割ブロックDBn (n=1,2,3)の決定方法は、既存のH.264に従うものとする。図3の各ブロックの分割サイズは、その一例である。
【0046】
また、図示されているように、分割ブロックDB1、DB2、DB3における動きベクトルをそれぞれV、V、Vとし、分割ブロックDB1、DB2、DB3における残差信号の二乗和平均値をp、p、pとする。また、分割ブロックDB1、DB2、DB3における発生符号量をb、b、bとする。
・動作例1・・・残差信号のみによる動作例
【0047】
(1)重み係数算出部12の動作
【0048】
分割ブロックDBn (n=1,2,3)における残差信号は以下の通りである。分割ブロックDBnにおける原画像の輝度値に対する、動きベクトルVにより得られる予測値の差分を、Dnとする。ただし、Dnは2次元で表示される輝度値の行列である。Dnに対して、2次元DCT、量子化、逆量子化、2次元逆DCTを施した結果をD'nとするとき、D'nが残差信号に該当する。残差信号D'nにおける(i,j)に位置する要素をD'n(i,j)とし、DBnの大きさを幅w画素、高さhラインとすると、残差信号の二乗和平均値p(n=1,2,3)は式(2)で表される。
【0049】
【数2】

【0050】
ここで、pの逆数をVに関するベクトルの重みとした場合、VからVの重み係数wからwは式(3)で表される。なお、pの対数の逆数をベクトルの重みとした場合でも、同等の効果が得られる。
【0051】
【数3】

【0052】
(2)予測動きベクトル生成部13の動作
【0053】
(2-1)残差信号に基づく重みベクトルの和による予測動きベクトル生成
【0054】
前記(3)により得られる重み係数を、動きベクトルVに掛けた重み付きベクトル(wV)を求め、該重み付きベクトルの和により、予測動きベクトルpreVを得る。予測動きベクトルを式(4)で表す。
【0055】
【数4】

【0056】
(2-2) 残差信号に基づく重み係数による順位付けを用いた予測動きベクトル生成
【0057】
前記式(3)により得られる重み係数について順位付けを行い、係数値が大きいベクトルを予測動きベクトルとして採用する。判定動作を式(5)に示す。ただし、max()は、引数の中で最大の値を返す関数である。
【0058】
【数5】

・動作例2・・・ 発生符号量のみによる動作例
【0059】
(1)重み係数算出部12の動作
【0060】
隣接する符号化済みMBにおける発生符号量bの逆数をVに関するベクトルの重みとした場合、VからVの重み係数wからwは式(6)で表される。
【0061】
【数6】

【0062】
(2)予測動きベクトル生成部13の動作
【0063】
(2-1)発生符号量に基づく重み付けベクトルの和による予測動きベクトル生成
【0064】
前記式(6)により得られる重み係数をVに掛けた重み付きベクトルを求め、重み付きベクトルの和により、予測動きベクトルpreVを得る。予測動きベクトルを式(7)で表す。
【0065】
【数7】

【0066】
(2-2)発生符号量に基づく重み係数による順位付けを用いた予測動きベクトル生成
【0067】
前記式(6)により得られる重み係数について順位付けを行い、係数値が大きいベクトルを予測動きベクトルとして採用する。判定動作を式(8)に示す。ただし、max()は、引数の中で最大の値を返す関数である。
【0068】
【数8】

・動作例3・・・ コスト関数による動作例
【0069】
(1)重み係数算出部12の動作
【0070】
評価隣接する符号化済みMBにおける残差信号pおよび発生符号量bからコスト値jを求め、jの逆数をVに関するベクトルの重みとする。コスト値の算出を式(9)に示す。VからVの重み係数wからwを式(10)に示す。ただし、λはラグランジュ乗数である。
【0071】
【数9】

【0072】
(2)予測動きベクトル生成部13の動作
【0073】
(2-1)コスト値に基づく重み付けベクトルの和による予測動きベクトル生成
【0074】
前記式(10)により得られる重み係数をVに掛けた重み付きベクトルを求め、重み付きベクトルの和により、予測動きベクトルpreVを得る。予測動きベクトルを式(11)で表す。
【0075】
【数10】

【0076】
(2-2)コスト値に基づく重み係数による順位付けを用いた予測動きベクトル生成
【0077】
前記式(10)により得られる重み係数について順位付けを行い、係数値が大きいベクトルを予測動きベクトルとして採用する。判定動作を式(12)に示す。ただし、max()は、引数の中で最大の値を返す関数である。
【0078】
【数11】

【0079】
本発明者は、シミュレーションとして、エンコーダに本発明手法を実装し、符号化実験を行った。処理MBの上、右上、左のMBをそれぞれ、MB1、MB2、MB3とし、該処理MBの近傍符号化済みMBにおける、動きベクトルおよび残差信号の大きさを図4に示す。
【0080】
該処理MBに対する動き探索結果は、(-7, 1)であった。従来手法のメディアン値による予測ベクトル生成では、該処理MBの予測動きベクトルは(-15, 0)となり、動きベクトルとの差分である(8, 1)を符号化する必要がある。一方で、本発明手法では、残差信号に基づく重み付けによる予測動きベクトル生成(前記動作例1)により、予測動きベクトルは、(-7, 1)となる。
【0081】
したがって、発明手法では、動きベクトルとの差分が無いため、差分を符号化する必要が無く、上記の例では、本発明を用いると、動きベクトルの符号化に要する符号量が低減していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施形態の動画像符号化装置の概略の構成を示すブロック図である。
【図2】図1のインター符号化予測値生成部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】処理ブロックと隣接ブロックとの位置関係を示す図である。
【図4】符号化実験で得られた符号化済みMBにおける符号化結果を示す図である。
【図5】従来の動画像符号化装置の概略の構成を示すブロック図である。
【図6】図5のインター符号化予測値生成部の詳細な構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0083】
1・・・イントラ符号化予測値生成部、3・・・モード判定制御部、4・・・DCT/量子化部、5・・・IDCT/逆量子化部、6・・・エントロピー符号化部、7・・・ローカルメモリ(1)、8・・・ローカルメモリ(2)、9・・・インター符号化予測値生成部、10・・・ローカルメモリ(3)、11・・・近傍MBの残差信号抽出部、12・・・重み係数算出部、13・・・予測動きベクトル生成部、21・・・近傍MBのMV抽出部、24・・・参照先決定部、25・・・ベクトル差分抽出部、26・・・歪み算出部、27・・・コスト値算出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロブロック単位での符号化の際にインター符号化を許容する動画像符号化装置において、
隣接する符号化済みマクロブロックにおける符号化効率に基づいて、該隣接する符号化済みマクロブロックの動きベクトルに与える重み係数を決定する重み係数算出部と、
該重み係数算出部で得られた重み係数に応じて該隣接する符号化済みマクロブロックにおける動きベクトルに重み付けを行い、該重み付けを行われた動きベクトルから予測動きベクトルを算出する予測動きベクトル生成部とを具備することを特徴とする動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置において、
前記重み係数算出部は、隣接する符号化済みマクロブロックにおける残差信号について、該残差信号の関数として表される係数を当該符号化済みマクロブロックにおける動きベクトルの重みとすることを特徴とする動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置。
【請求項3】
請求項2に記載の動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置において、
前記残差信号の関数は、前記隣接する符号化済みマクロブロックにおける残差信号の積の和の逆数に比例することを特徴とする動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置。
【請求項4】
請求項2に記載の動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置において、
前記残差信号の関数は、前記隣接する符号化済みマクロブロックにおける残差信号の対数の積の和の逆数に比例することを特徴とする動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置。
【請求項5】
請求項1に記載の動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置において、
前記重み係数算出部は、隣接する符号化済みマクロブロックにおける発生符号量について、該発生符号量の値の関数として表される係数を当該符号化済みマクロブロックにおける動きベクトルの重みとすることを特徴とする動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置。
【請求項6】
請求項1に記載の動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置において、
前記重み係数算出部は、隣接する符号化済みマクロブロックにおける残差信号および発生符号量について、該残差信号および発生符号量を入力とするコスト関数により得られる係数を当該符号化済みマクロブロックにおける動きベクトルの重みとすることを特徴とする動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置。
【請求項7】
請求項1に記載の動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置において、
前記予測動きベクトル生成部は、隣接する符号化済みマクロブロックにおける動きベクトルに対して、請求項2から請求項6のいずれか1つで得られる重み付け係数を乗じた重みベクトルを求め、該重みベクトルの和を予測動きベクトルとすることを特徴とする動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置。
【請求項8】
請求項1に記載の動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置において、
前記予測動きベクトル生成部は、隣接する符号化済みマクロブロックにおける動きベクトルについて、請求項2から請求項6のいずれか1つで得られる重み付け係数に関する順位付けにより得られた動きベクトルを、予測動きベクトルとすることを特徴とする動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置において、
前記インター符号化は、輝度値、色差もしくはRGB信号に対するインター符号化であることを特徴とする動画像符号化装置の予測動きベクトル生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−49519(P2009−49519A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211494(P2007−211494)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】