説明

化学反応物の製造方法及び製造装置

【課題】高流量処理を行うために反応流路の流路径を太くしたり原料液を高濃度にしたりしても反応熱の急激な発熱を精密に制御することができるので、目的反応物の収率向上を図ることができるだけでなく工業化を実現することができる。
【解決手段】複数の原料液をそれぞれの供給路から反応流路の合流部に合流させて発熱反応させる際に、反応熱の影響により目的反応物以外の副反応物が生成されるのを抑制する化学反応物の製造装置10において、複数の原料液L1,L2の少なくとも1つの原料液を分割して、反応流路24の合流部24Aにおいて原料液L1,L2同士が交互に配列した複層流Lを形成することにより原料液L1,L2同士を薄層状態で反応させる分割手段12と、反応流路24の外側から冷却する外部冷却手段22と、複層流Lのうちの少なくとも中央部を流れる中央流体を反応流路24に合流させる前に予め冷却する内部冷却手段20と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学反応物の製造方法及び製造装置に係り、特に、急激な発熱を伴う反応熱の影響による副反応によって目的反応物以外の副反応物が生成されるのを抑制する化学反応物の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
反応熱による急激な発熱を伴う発熱反応としては、ハロゲン−リチウム交換反応、ニトロ化反応、重合反応等がある。この中で例えば、ハロゲン−リチウム交換反応を利用して製造するリチウム化合物は、高付加価値の最終製品を合成する際の中間体として産業用途において有用な物質であり、医薬品、農薬、液晶、電子写真、染料等の各種分野で製造されている。
【0003】
しかし、ハロゲン−リチウム交換反応は、目的反応物であるリチウム化合物の反応性が高く、しかも反応熱による急激な発熱を伴う発熱反応であるため過剰反応が生じ易く、副反応によって目的反応物以外の副反応物が生成され易い。したがって、過剰反応が生じないように、反応熱を精密に制御することが必要になる。
【0004】
このことから、ハロゲン−リチウム交換反応は、従来、−78℃の超低温条件で、しかも一方の原料液の液滴を他方の原料液中に滴下することにより発熱を抑えることにより急激な発熱を伴う反応熱を制御している。
【0005】
しかし、従来の滴下方法は、超低温設備が必要になるため設備コストやランニングコストの点で問題がある。また、滴下方法は、滴下反応時間に長時間必要とされ、熱に不安定な目的反応物であるリチウム化合物が劣化し易いと共に、生成された目的反応物が未反応の原料液と反応して副生成物が生成され易いという問題がある。
【0006】
即ち、発熱反応の影響による副生成物の生成を抑制するには、反応熱を精密に制御することに加えて、反応を短時間(瞬時反応)で終わらせることが重要となる。
【0007】
このことから、特許文献1には、超低温設備が必要なく、且つ低コストでハロゲン−リチウム交換反応を行う製造方法が提案されている。特許文献1の製造方法では、
ハロゲン化合物と有機リチウム試薬とを、熱交換効率に優れたマイクロリアクター等の連続反応器を少なくとも1つ用いて反応させるようにしたものである。これにより、マイクロリアクターの外部から比較的穏やかな冷却条件で冷却しても反応熱による急激な発熱を抑えることができるので、リチウム化合物を高収率で得ることができるとされている。即ち、特許文献1の方法は、マイクロリアクターの熱交換効率の良さと、瞬時反応を行うことができる特徴を利用することで目的反応物を高収率で得られるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−104871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の場合には、良好な伝熱性を確保するために反応流路の流路径を細くせざるを得ないために原料液を高流量で流すことができず処理量が上がらないという問題がある。原料液の濃度を高めることによっても処理量を上げることができるが、高濃度の原料液同士を反応させると更に急激な発熱を伴い温度制御が難しくなる。したがって、特許文献1の方法では、生産性が重要視される工業化への適用が難しい。
【0010】
マイクロリアクターの特徴は、反応流路の流路径が細く、反応流路壁面と反応流路を流れる流体との接触面積が大きいために、反応流路の外部からの冷却でも熱交換効率が良いことである。しかし、量産化のために流路径を太くすると、伝熱面積は2乗、体積は3乗で変化することから、熱交換効率が急激に悪化するためにスケールアップできないという問題がある。この対策としてマイクロリアクターの数を増やすナンバリングアップという手法が提案されているが、実験室スケールのマイクロリアクターを工業化スケールにスケールアップするには何千、何万ものマイクロリアクターを準備する必要があり、現実的ではない。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、高流量処理を行うために反応流路の流路径を太くしたり原料液を高濃度にしたりしても反応熱の急激な発熱を精密に制御することができるので、目的反応物の収率向上を図ることができるだけでなく工業化を実現することができる化学反応物の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の化学反応物の製造方法は前記目的を達成するために、複数の原料液をそれぞれの供給路から反応流路の合流部に合流させて発熱反応させる際に、反応熱の影響により目的反応物以外の副反応物が生成されるのを抑制する化学反応物の製造方法において、前記複数の原料液の少なくとも1つの原料液を分割して、前記反応流路の合流部において原料液同士が交互に配列した複層流を形成することにより原料液同士を薄層状態で反応させる原料液の分割工程と、前記複層流のうちの少なくとも中央部を流れる中央流体を前記反応流路に合流させる前に予め冷却することにより前記反応流路の内部から前記反応熱を冷却する内部冷却工程と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明は、原料液の分割工程と反応熱の内部冷却工程とを組み合わせるようにしたので、反応熱の冷却を効果的に且つ精密に制御することができる。
【0014】
即ち、原料液の分割工程では、反応流路の合流部において原料液同士が交互に配列した複層流を形成して薄膜状態で反応させることにより、反応熱の急激な発熱を緩和することができる。
【0015】
そして、内部冷却工程では複層流のうちの少なくとも中央部を流れる中央流体を反応流路に合流させる前に予め冷却することにより、反応流路の内部から反応熱を冷却する。
【0016】
このように、原料液を分割して反応熱の急激な発熱を緩和すると共に、反応流路の内部から反応熱を冷却することにより、反応熱の急激な発熱を精密に制御できるので、反応熱の影響により目的反応物以外の副反応物が生成されるのを抑制することができる。特に、分割工程を設けたことにより、複層流を構成する各流体における1流体ごとの径方向断面積が小さくなるので、高流量処理を行うために反応流路の流路径を太くしても、分割された流体ごとに見た場合にマイクロリアクターでの反応と同様である。具体的には、複層流を構成する各流体の径方向断面積が1mm以下であることが好ましい。
【0017】
したがって、本発明の化学反応物の製造方法では、高流量処理を行うために反応流路の流路径を太くしたり原料液を高濃度にしたりしても反応熱の急激な発熱を効果的に抑制することができるので、副反応部の生成を抑制できる。これにより、目的反応物の収率向上を図ることができるだけでなく工業化を実現することができる。
【0018】
本発明においては、前記反応流路の外側から該反応流路を冷却して前記反応流路の外部から前記反応熱を冷却する外部冷却工程を更に備えることが好ましい。
【0019】
反応流路の内部と外部との両方から冷却することで、反応流路の径方向断面での反応熱分布が小さくなるので、反応場が安定し、副反応物の生成を一層抑制できる。
【0020】
そして、前記内部冷却工程では、前記複層流を構成する各流体について、前記反応流路の中央部から離れる流体ほど冷却程度を小さくすることが好ましい。
【0021】
これにより、前記外部冷却工程では、前記反応流路の両壁面側から前記中央部に向けて冷却するので、前記内部冷却工程が外部冷却工程と逆方向(中央部から両側壁面方向)に冷却すれば、複層流の流路幅方向の液温度を均一化することができる。
【0022】
本発明においては、前記複層流を構成する各流体が前記反応流路に合流する際の流速を均一化する流速均一化工程、を更に備えることが好ましい。
【0023】
これにより、複層流を構成する各流体が反応流路に合流する際に渦流が発生しにくくなるので、発熱反応を行う反応場を安定化させることができる。この結果、副反応物の生成を一層抑制することができる。
【0024】
なお、流速均一化工程で流速を均一化するためには、分割工程における複数の原料液の分割数を調整したり、複数の原料液の濃度を調整したりすることで達成できる。また、反応流路に連通するそれぞれの供給路の径方向断面積を異ならせることによっても達成できるので、好ましい方法を適宜選択すればよい。
【0025】
また、前記反応流路を中心線として前記それぞれの供給路を左右対称に形成することで、対向する流体の速度ベクトルの方向が逆向きで大きさが等しくなるようにすることが好ましい。
【0026】
これにより、反応流路の合流部において渦流が一層発生しにくくなるので、発熱反応を行う反応場を安定化させることができる。
本発明においては、前記反応はハロゲン−リチウム交換反応、ニトロ化反応、重合反応の何れかであることが好ましい。
【0027】
本発明は、発熱反応によって化学反応物を製造する全てに適用可能であるが、これらの反応において特に有効だからである。
【0028】
本発明の化学反応物の製造装置は前記目的を達成するために、複数の原料液をそれぞれの供給路から反応流路の合流部に合流させて発熱反応させる際に、反応熱の影響により目的反応物以外の副反応物が生成されるのを抑制する化学反応物の製造装置において、前記複数の原料液の少なくとも1つの原料液を分割して、前記反応流路の合流部において原料液同士が交互に配列した複層流を形成することにより原料液同士を薄層状態で反応させる原料液の分割手段と、前記複層流のうちの少なくとも中央部を流れる中央流体を前記反応流路に合流させる前に予め冷却することにより前記反応流路の内部から前記反応熱を冷却する内部冷却手段と、を備えたことを特徴とする。
【0029】
本発明においては、前記反応流路の外側から該反応流路を冷却して前記反応流路の外部から前記反応熱を冷却する外部冷却手段を更に備えることが好ましい。
【0030】
これは、本発明を装置発明として構成したものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明の化学反応物の製造方法及び製造装置によれば、高流量処理を行うために反応流路の流路径を太くしたり原料液を高濃度にしたりしても反応熱の急激な発熱を精密に制御することができるので、目的反応物の収率向上を図ることができるだけでなく工業化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の化学反応物の製造装置の一例であり、反応器として6方リアクターを用いた斜視図
【図2】製造装置を平面的に見た概念図
【図3】反応流路の合流部における縮流を説明する説明図
【図4】反応流路の合流部に合流する5流体の流速を均一化する説明図
【図5】供給路の径方向断面積を変えて5流体の流速を均一化する説明図
【図6】反応器の別態様として3方リアクターの概念図
【図7】実施例に反応器としてT字型リアクターを用いた場合を説明する説明図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面に従って本発明の化学反応物の製造方法及び製造装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0034】
図1は、本発明の化学反応物の製造装置10の一例として、反応器として6方リアクターを使用した場合の斜視図である。また、図2は、製造装置10を平面的に見た概念図である。なお、図1では後記する分割手段及び希釈手段は省略して図示してある。
【0035】
本実施の形態では、2種類の原料液L1,L2(図2参照)を用い、原料液L1を3流体に分割し、原料液L2を2流体に分割する例で説明する。
【0036】
図1に示すように、製造装置10は、主として、発熱反応を行う2種類の原料液L1,L2を分割する第1及び第2の分割手段12(12A,12B)(図2参照)と、分割された原料液L1,L2を反応させる6方リアクター14と、分割された原料液L1,L2を6方リアクター14に送液するそれぞれの送液手段16(16A,16B,16C、16D、16E)と、各送液手段16と6方リアクター14とを連結する複数の送液管18(18A、18B、18C、18D、18E)と、各送液管18に設けられて原料液L1,L2自体を冷却することにより6方リアクター14の内部から反応熱を冷却する内部冷却手段20(20A、20B、20C、20D、20E)と、6方リアクター14を上下から挟むことにより、6方リアクター14の外部から反応熱を冷却する外部冷却手段21(21A,21B)と、で構成される。
【0037】
分割手段12は、液体を精度良く分割できるものであれば、どのようなものでもよい。
【0038】
6方リアクター14は、基板14Aと蓋板14Bとが合わさって形成され、基板14Aの合わせ面には、複数本(本実施の形態では5本)の供給溝及び1本の反応溝が刻設される。そして、基板14Aに蓋板14Bが合わさって一体化されることによって、5本の供給路22(22A,22B,22C,22D,22E)及び1本の反応流路24が形成される。図2において、反応流路24に対向配置される供給路を第1供給路22Aとし、以下時計回り方向に、第2供給路22B、第3供給路22C、第4供給路22D、第5供給路22Eと言うことにする。
【0039】
また、蓋板14Bと上側の外部冷却手段21Aには、各送液管18を各供給路22に連結するための貫通孔が形成され、各供給路22の先端部とそれぞれ連結される。反応流路24の流路断面積は、分割手段12(12A,12B)によって分割される分割数によって設定することが好ましい。即ち、分割された各流体における1流体の径方向断面積が1mm以下になるように反応流路24の流路断面積を設定する。例えば、原料液L1,L2を合計で5流体に分割する場合には、反応流路24の流路断面積の最大が5mmになるように設定する。したがって、分割数が多いほど、太い径の反応流路24にすることが可能となる。
【0040】
6方リアクター14は、マイクロドリル加工、マイクロ放電加工、めっきを利用したモールディング、射出成形、ドライエッチング、ウエットエッチング、及びホットエンボス加工等の精密加工技術を利用して製作することができる。また、上記の如く反応流路24の流路径を等価直径で1.0mm以上として、一般的なマイクロリアクターにおける反応流路(マイクロ流路)に比べて拡大化できるので、汎用的な旋盤、ボール盤を用いる機械加工技術も利用できる。
【0041】
6方リアクター14の材料としては、特に限定されるものではなく、上述の加工技術を適用できるものであればよい。具体的には、金属材料(鉄、アルミニウム、ステンレススチール、チタン、各種の金属等)、樹脂材料(アクリル樹脂、PDMS等)、ガラス(シリコン、パイレックス(登録商標)、石英ガラス等)や、石英ガラスやパイレックス(登録商標)ガラスにパリレン(パラキシレン蒸着)処理を行ったもの、フッ素系又は炭化水素系のシランカップリング処理を行ったものを好適に使用できる。
【0042】
また、6方リアクター14は、後記するように、2種類の原料液L1,L2を分割した5流体が合流部で縮流する縮流状態を視覚により観察できるように、透明な材料で製作することが好ましい。
【0043】
送液手段16は、小容量の液体を精度良く送液できるものであればよく、例えばマイクロシリンジポンプを好適に使用することができる。
【0044】
内部冷却手段20及び外部冷却手段21の冷却温度制御そのものは、従来からの温度制御技術でもペルチェ素子に代表される新規な温度制御技術でも可能であり、適切な冷却機構と温度センシング機構の選択、ならびに外部制御系の構成を組み合わせて最適な方法を選択することができる。
【0045】
また、6方リアクター14には、反応流路24の終端から外部に排出される反応液LMの排出管26(図1参照)が設けられ、蓋板14B及び上側の外部冷却手段21Aに形成された貫通孔を介して反応流路24の終端部に接続される。
【0046】
次に、上記の如く構成された化学反応物の製造装置10を使用して本発明の製造方法を説明する。
【0047】
図2に示すように、発熱反応を行う2種類の原料液L1,L2のうち、原料液L1は第1の分割手段12Aによって3流体L1a,L1b,L1cに3分割される。一方、原料液L2は、第2の分割手段12Bによって2流体L2a,L2bに2分割される。
【0048】
分割された3流体L1a〜L1cは、第1供給路22A、第3供給路22C、及び第4供給路22Dに送液される一方、分割された2流体L2a,L2bは、第2供給路22B、第5供給路22Eに送液される。これにより、反応流路24の合流部24Aにおいて、中央部と反応流路24の両壁面側とを流れる原料液1同士の間に原料液2が挟まれたサンドイッチ状の5層流からなる複層流L(図3参照)を形成する。この複層流Lが反応流路24を流れながら原料液同士が反応して発熱する。
【0049】
かかる発熱反応において、各流路22A〜22Eの途中には、内部冷却手段20A〜20Eがそれぞれ設けられ、反応流路24の中央部を流れる中央流体L1aを反応流路24に合流させる前に予め冷却される。また、6方リアクター14の全体が外部冷却手段21で冷却される。これにより、反応流路24の外部からの熱交換による冷却の遅れを、反応流路24の内部から流体を直接冷却することで補うことができるので、反応熱を効果的に冷却することができる。また、反応流路24の径方向断面において冷却の遅れがなくなるので、反応熱を制御し易くなる。特に、分割工程を設けたことにより、複層流Lを構成する各流体における1流体ごとの径方向断面積が小さくなるので、高流量処理を行うために反応流路24の流路断面積を大きくして流路径を太くしても、分割された流体ごとに見た場合にマイクロリアクターでの反応と同様である。具体的には、上記したように複層流を構成する各流体の径方向断面積が1mm以下であることが好ましい。これにより、反応熱の急激な発熱を制御できるので、反応熱の影響により目的反応物以外の副反応物が生成されるのを抑制することができる。
【0050】
なお、上述の内部冷却では、反応流路24の中央部を流れる流体L1aのみを冷却したが、複層流Lを構成する5流体L1a〜L2b全てを冷却することが好ましい。この場合には、複層流Lを構成する各流体L1a〜L2bについて、反応流路24の中央部から離れる流体ほど冷却程度を小さくすることが好ましい。これにより、6方リアクター14を外部冷却手段21で冷却する外部冷却と相俟って複層流Lの径方向断面の液温度を均一化することができる。このように、複層流Lを構成する5流体L1a〜L2bの反応流路24の存在場所ごとに、予め冷却温度を制御することで、反応性が良く、1つの6方リアクター14での処理量を飛躍的に増やすことが可能となり、ナンバリングアップのコストに比べて大幅なコスト削減となる。この場合、反応流路24の両壁面から遠い流体(中央部を流れる流体)と近い流体のそれぞれについて、反応による発熱量と冷却による冷却量とを予め予備試験やシミュレーション等により求め、求めた結果に応じて、複層流Lの径方向断面の液温度を均一化するように各流体L1a〜L2bを冷却することが好ましい。
【0051】
また、反応流路24の径方向断面積は、5本の供給路22A〜22Eの径方向断面積の合計値よりも小さくなるように形成されることが好ましい。これにより、図3に示すように、反応流路24の合流部24Aに合流して形成される複層流Lは、縮流して薄膜化する。したがって、反応流路24において原料液L1,L2同士を薄層状態で発熱反応させることができるので、反応熱の急激な発熱を緩和することができる。
【0052】
この場合、図4に示すように、反応流路24の合流部24Aに合流する5流体L1a〜L2bの流速V1,V2を均一化することが好ましい。これにより、5流体L1a〜L2bが反応流路24の合流部24Aに合流する際に渦流が発生しにくくなるので、反応場が安定する。したがって、副反応物の生成を一層抑制することができる。反応流路24に合流する際に渦流が発生すると、反応流路24での発熱反応が不安定になるので、反応場が不安定になると共に反応熱を精密で制御しにくくなる。この結果、生成された目的生成物が反応熱の影響により未反応の原料液と反応してしまい副反応物が生成され易くなる。また、渦流によって複層流が破壊されてしまうので、内部から反応熱を冷却する際の制御精度が悪くなる。
【0053】
反応流路24に合流する5流体L1a〜L2bの流速を均一化する方法としては、原料液L1,L2の分割数を調整することで5流体L1a〜L2bの流量を同じにする方法を好適に採用できる。しかし、原料液L1,L2の分割を調整するだけでは5流体L1a〜L2bの流速を均一化できない場合もあるので、図2の分割手段12A,12Bの前に原料液L1,L2を希釈する希釈手段28A,28Bを設けることが好ましい。これにより、原料液L1,L2の濃度調整を行うことで反応流路24に流入する原料液1及び原料液2の供給量をそれぞれ変えることができるので、分割調整と組み合わせれば流速の均一化が容易になる。
【0054】
また、反応流路24の合流部24Aにおいて渦流を発生させないためには、図2に示すように、反応流路24を中心線30(2点鎖線)として、それぞれの供給路22A〜22Eを左右対称に形成することで、対向する流体の速度ベクトルの方向が逆向きで大きさが等しくなるようにすることが好ましい。例えば、図2では、第2供給路22Bと第4供給路22Dが対向配置されることにより、対向する流体L2aと流体L1cとの速度ベクトルの向きが逆で大きさが等しくなる。更に、第3供給路22Cと第5供給路22Eとが対向配置されることにより、対向する流体L1bと流体L2bとの速度ベクトルの向きが逆で大きさが等しくなる。これにより、対向する流体の運動エネルギーを互いに打ち消しあうことができるので、合流部24Aでの渦流の発生を確実に抑制できる。
【0055】
また、図5に示すように、それぞれの供給路22の径方向断面積を異ならせることにより、反応流路24に合流する各流体L1a〜L2bの流速を同じにすることも可能である。図5では原料液L1が供給される第1、第3、及び第4の供給路22A,22C,22Dの径方向断面積を、原料液L2が供給される第2及び第5の供給路22B,22Eの径方向断面積よりも小さくすることで、5流体L1a〜L2bの流速が同じになるようにした場合である。
【0056】
なお、本実施の形態では2種類の原料液L1,L2の例で説明したが、発熱反応を行う反応系であれば原料液の数は限定されない。また、反応器として6方リアクター14の例で説明したが、供給路が2本以上ある反応器であれば本発明の製造方法を適用できる。
【0057】
図6は分割手段も組み込んだ3方リアクター32の一例であり、原料液L1を2分割する場合である。図6に示すように、3方リアクター32は、反応流路34と、原料液L1を2本の分岐流路36A,36Bに分割して反応流路34の合流部34Aに合流させる第1の流路36と、原料液L2を合流部34Aに合流させる第2の流路38とで構成される。この3方リアクター32の場合にも、図1及び図2で説明したと同様に、原料液L1,L2の少なくとも1方を内部冷却する内部冷却手段20、及び3方リアクターを外部から冷却する外部冷却手段21が設けられる。
【0058】
[実施例]
次に本発明の化学反応物の製造方法のより具体的な実施例を説明する。
【0059】
下記に示す試験1〜試験4の条件によって(3−メトキシフェニル)トリメチルシランを合成する試験を行った。
【0060】
(試験1)
試験1は、反応器として図7(A)に示すT字型ミキサー40を用い、T字型ミキサー40の外部からのみ冷却して反応熱を冷却すると共に、原料液L1,L2の流速が異なる場合である。
【0061】
試験1では、図7(A)に示したT字型ミキサー40(SUS316製、流路内径0.8mm、流路断面積0.5mm2)を用い、3−ブロモアニソール溶液(原料液L1)と、n−ブチルリチウム溶液(原料液L2)とを、それぞれの供給路42、44から反応流路46の合流部46Aに送液して衝突させることによりハロゲン−リチウム交換反応を行った。
【0062】
原料液L1は、3−ブロモアニソールの2.46gを、テトラヒドロフランで全量が50mLになるように希釈し、濃度0.26mol/Lになるように調整した。
【0063】
原料液L2は、n−ヘキサン溶液に1.58mol/Lになるように溶解されている市販試薬を購入し、n−ブチルリチウムの含量を滴定で求めて使用した。
【0064】
また、上記原料液L1及びL2とは別に、100mLの二口フラスコに、クロロトリメチルシランの1.5gと、テトラヒドロフランの9mLを加えて攪拌したものを用意した。
【0065】
そして、原料液L1と原料液L2は、ガラスシリンジに吸い上げた後、それぞれHARVARD APPARATUS INC.社製のPHD2000型計量ポンプ、及びKd Scientific社製のModel100型計量ポンプを用いて、反応流路46の合流部46Aに送液した。原料液L1と原料液2の送液流量は、それぞれ5.0mL/分、1.0mL/分で行った。即ち、それぞれの供給路42、44の流路断面積は同じなので、原料液L1と原料液L2の流速は5:1の関係になる。
【0066】
T字型ミキサー40の反応流路46で反応させた反応液LMは、最初の1分間はドレン側に捨て、その後に三方バルブ(図示せず)を切り替えて、前述の100mlの二口フラスコ側に7分間通過させた。これにより、(3−メトキシフェニル)トリメチルシランを合成した。この反応において、T字型ミキサー40、及びそこからの配管(図示せず)を外部から25℃に冷却し、T字型ミキサー40から流出する液温度を測定した結果、液温度は25℃であった。
【0067】
そして、得られた(3−メトキシフェニル)トリメチルシランの溶液を定量分析した。その結果、収率は78%であった。
【0068】
なお、図7(B)は、ANSYS社製のFUENT6.3を用いて、反応流路46の合流部46Aにおける状態をシミュレーションした結果であり、原料液L1,L2の流速が異なることで、合流部に渦流48(白い部分)が発生している。
【0069】
(試験2)
試験2は、試験1と同様に反応器の外部からのみ冷却すると共に原料液L1,L2の流速が異なる場合であるが、反応器として6方リアクターを用いることにより、原料液L1,L2を分割して薄層状態で反応させたものである。
【0070】
ハロゲン−リチウム交換反応を行う反応器として、5つの供給路と1つの反応流路を有する図1の6方リアクター14(SUS316製、流路内径1.5mm、流路断面積1.77mm2)を用いたが、内部冷却手段20を使用しないで行った。
【0071】
そして、原料液L1の総流量である25.0mL/分を3分割し、反応流路24の径方向断面の中央と両サイドを流れる3つの流体を形成した(1流体につき8.3mL/分)。一方、原料液L2の総流量である5.0mL/分を2分割し、2つの流体に分解した(1流体につき2.5mL/分)。そして、原料液L1と原料液L2とが交互に配列されるようにした。即ち、それぞれの供給路22A〜22Eの流路断面積は同じなので、原料液L1と原料液L2の流速は8.3:2.5の関係になる。
【0072】
6方リアクター14の反応流路24からの反応液LMは、試験1と同様に、最初の1分間はドレン側に捨て、その後に三方バルブ(図示せず)を切り替えて、前述の100mlの二口フラスコ側に7分間通過させた。この反応において、6方リアクター14、及びそこからの配管(図示せず)を外部から25℃に冷却し、6方リアクターから流出する液温度を測定した結果、液温度は25℃であった。
【0073】
そして、得られた(3−メトキシフェニル)トリメチルシランの溶液を定量分析した。その結果、収率は88%であった。
【0074】
(試験3)
試験3は、試験2を更に改良したものであり、内部冷却手段20を用いて、反応流路24の中央に合流する中央流体を予め冷却して、反応流路24の外部と内部の両方から反応熱を冷却した場合である。
【0075】
ハロゲン−リチウム交換反応を行う反応器として、試験2と同じ6方リアクター14を使用した。
【0076】
そして、原料液L1の総流量である25.0mL/分を3分割し、反応流路の径方向断面の中央と両サイドを流れる3つの流体を形成した。そして、3分割した流体うち反応流路の中央に合流する中央流体を6方リアクター14に送液する前に予め内部冷却手段20で冷却し、6方リアクター14の入口での液温が0℃になるようにした。
【0077】
一方、原料液L2の総流量である5.0mL/分を2分割し、2つの流体に分解し、原料液L1と原料液L2とが交互に配列されるようにした。そして、分割した2流体を6方リアクター14に送液する前に予め内部冷却手段20で冷却し、6方リアクター14の入口での液温が15℃になるようにした。
【0078】
6方リアクター14の反応流路24からの反応液LMは、試験1と同様に、最初の1分間はドレン側に捨て、その後に三方バルブ(図示せず)を切り替えて、前述の100mlの二口フラスコ側に7分間通過させた。この反応において、6方リアクター14、及びそこからの配管(図示せず)を外部から25℃に冷却し、6方リアクター14から流出する液温度を測定した結果、液温度は25℃であった。
【0079】
そして、得られた(3−メトキシフェニル)トリメチルシランの溶液を定量分析した。その結果、収率は96%であった。
【0080】
(試験4)
試験4は、試験3を更に改良したものであり、供給路の径方向断面積を変えることによって、原料液L1及び原料液L2を分割した各流体が反応流路に合流する流速が全て同じになるようした。このため、原料液L1が供給される第1、第3、及び第4の供給路22A、22C、33Dを内径1.5mm、流路断面積1.77mmとし、原料液L2が供給される第2及び第5の供給路22B、22Eを内径0.83mm、流路断面積0.54mmとし、全ての流路から合流部24Aに供給される流速が均一になるようにした。
【0081】
6方リアクター14の反応流路24からの反応液LMは、試験1と同様に、最初の1分間はドレン側に捨て、その後に三方バルブ(図示せず)を切り替えて、前述の100mlの二口フラスコ側に7分間通過させた。この反応において、6方リアクター14、及びそこからの配管(図示せず)を外部から25℃に冷却し、6方リアクターから流出する液温度を測定した結果、液温度は25℃であった。
【0082】
そして、得られた(3−メトキシフェニル)トリメチルシランの溶液を定量分析した。その結果、収率は98%であった。
【0083】
[試験結果の考察]
試験1の収率は78%であり試験2の収率は86%であった。
【0084】
これに対して、本発明の製造方法を実施した試験3の結果から分かるように、原料液L1、L2を分割して反応流路24において薄層状態で反応させると共に、反応流路24を外部と内部の両方から冷却することで、ハロゲン−リチウム交換反応における副反応物の生成を抑制でき、その結果、(3−メトキシフェニル)トリメチルシランの収率を96%まで上げることができた。
【0085】
更には、本発明の製造方法の更に好ましい試験4の結果から分かるように、試験3の条件に更に反応流路の合流部に合流する各流体の流速を均一化することで、(3−メトキシフェニル)トリメチルシランの収率を98%まで上げることができた。
【0086】
なお、本実施例では、ハロゲン−リチウム交換反応の例で説明したが、ニトロ化反応、重合反応等の発熱反応にも本発明を提供できる。
【符号の説明】
【0087】
10…化学反応物の製造装置、12…分割手段、14…6方リアクター、18…送液管、20…内部冷却手段、21…外部冷却手段、22…供給路、24…反応流路、24A…反応流路の合流部、26…排出管、28…希釈手段、30…中心線、32…3方リアクター、34…反応流路、36…第1の流路、38…第2の流路、40…T字型リアクター、42、44…供給路、46…反応流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の原料液をそれぞれの供給路から反応流路の合流部に合流させて発熱反応させる際に、反応熱の影響により目的反応物以外の副反応物が生成されるのを抑制する化学反応物の製造方法において、
前記複数の原料液の少なくとも1つの原料液を分割して、前記反応流路の合流部において原料液同士が交互に配列した複層流を形成することにより原料液同士を薄層状態で反応させる原料液の分割工程と、
前記複層流のうちの少なくとも中央部を流れる中央流体を前記反応流路に合流させる前に予め冷却することにより前記反応流路の内部から前記反応熱を冷却する内部冷却工程と、を備えたことを特徴とする化学反応物の製造方法。
【請求項2】
前記反応流路の外側から該反応流路を冷却して前記反応流路の外部から前記反応熱を冷却する外部冷却工程を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の化学反応物の製造方法。
【請求項3】
前記内部冷却工程では、前記複層流を構成する各流体について、前記反応流路の中央部から離れる流体ほど冷却程度を小さくすることを特徴とする請求項1又は2に記載の化学反応物の製造方法。
【請求項4】
前記複層流を構成する各流体が前記反応流路に合流する際の流速を均一化する流速均一化工程、更に備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の化学反応物の製造方法。
【請求項5】
前記流速均一化工程では、前記分割工程における複数の原料液の分割数を調整することによって、前記反応流路に合流する各流体の流速を均一化することを特徴とする請求項4に記載の化学反応物の製造方法。
【請求項6】
前記流速均一化工程では、前記複数の原料液の濃度を調整して前記反応流路に合流する複数の原料液の供給量を変えることによって、前記反応流路に合流する各流体の流速を均一化することを特徴とする請求項4に記載の化学反応物の製造方法。
【請求項7】
前記流速均一化工程では、前記複数の原料液の分割数及び濃度を調整することによって、前記反応流路に合流する各流体の流速を均一化することを特徴とする請求項4に記載の化学反応物の製造方法。
【請求項8】
前記流速均一化工程では、前記それぞれの供給路の径方向断面積を異ならせることによって、前記反応流路に合流する各流体の流速を均一化することを特徴とする請求項4に記載の化学反応物の製造方法。
【請求項9】
前記反応流路を中心線として前記それぞれの供給路を左右対称に形成することで、対向する流体の速度ベクトルの方向が逆向きで大きさが等しくなるようにすることを特徴とする請求項1〜8の何れか1に記載の化学反応物の製造方法。
【請求項10】
前記複層流を構成する各流体の径方向断面積が1mm以下であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1に記載の化学反応物の製造方法。
【請求項11】
前記反応はハロゲン−リチウム交換反応、ニトロ化反応、重合反応の何れかであることを特徴とする請求項1〜9の何れか1に記載の化学反応物の製造方法。
【請求項12】
複数の原料液をそれぞれの供給路から反応流路の合流部に合流させて発熱反応させる際に、反応熱の影響により目的反応物以外の副反応物が生成されるのを抑制する化学反応物の製造装置において、
前記複数の原料液の少なくとも1つの原料液を分割して、前記反応流路の合流部において原料液同士が交互に配列した複層流を形成することにより原料液同士を薄層状態で反応させる原料液の分割手段と、
前記複層流のうちの少なくとも中央部を流れる中央流体を前記反応流路に合流させる前に予め冷却することにより前記反応流路の内部から前記反応熱を冷却する内部冷却手段と、を備えたことを特徴とする化学反応物の製造装置。
【請求項13】
前記反応流路の外側から該反応流路を冷却して前記反応流路の外部から前記反応熱を冷却する外部冷却手段を更に備えたことを特徴とする請求項12に記載の化学反応物の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−183311(P2011−183311A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51839(P2010−51839)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】