説明

化学機械研磨パッドの製造方法

【課題】研磨速度、被研磨面のスクラッチおよび被研磨面の面内均一性に優れ、多数の被研磨体を連続研磨する場合でも安定した研磨速度を示す利点を有する化学機械研磨パッドを提供する。
【解決手段】(1)シート状の高分子成型体を製造する工程と、(2)前記シート状の高分子成型体に対して電子線を照射線量10〜400kGyの範囲で照射する工程とを含む、化学機械研磨パッドの製造方法によって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学機械研磨パッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体装置等の製造において、優れた平坦性を有する表面を形成することができる研磨方法として、化学機械研磨(一般に「CMP」と略称される。)が多く採用されている。この化学機械研磨においては、使用される化学機械研磨パッドの性状および特性等により研磨結果が大きく左右されることが知られている。前記研磨結果には、例えば研磨速度、被研磨面のスクラッチ、被研磨面の面内均一性等が含まれる。
かかる化学機械研磨パッドとしては、従来から様々なものが提案されている。
【0003】
例えば特許文献1および特許文献2では、化学機械研磨パッドを構成する材料について検討されている。また例えば特許文献3では、パッドの表面(研磨面)の溝のデザインについての検討がなされている。これら化学機械研磨パッドは、架橋重合体と、これに分散された空孔または水溶性粒子とからなるものが主流である。かかる化学機械研磨パッドとして、例えば特許文献1には、架橋重合体としての熱可塑性ポリウレタン樹脂とこれに分散された空孔とからなる化学機械研磨パッドが、特許文献4には架橋重合体としての1,2−ポリブタジエンとこれに分散された水溶性粒子とからなる化学機械研磨パッドが、それぞれ開示されている。
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂および空孔からなる化学機械研磨用パッドは、あらかじめ製造しておいた発泡ポリウレタンブロックを、所望の研磨パッドの厚さおよび形状に切り出すことにより製造するのが一般的である。この発泡ポリウレタンブロックの製造には、例えば150℃程度の温度において1〜4時間処理することが必要であり、さらにこれを研磨パッド形状に成型するための切削加工を要するため、かかる研磨パッドの生産性は高くない。
【0004】
一方、上記1,2−ポリブタジエンとこれに分散された水溶性粒子とからなる化学機械研磨パッドは、熱可塑性ポリウレタン樹脂とこれに分散された空孔とからなる化学機械研磨パッドの研磨性能上の欠点を克服した優れた研磨パッドであり、例えば1,2−ポリブタジエン、水溶性粒子および過酸化物を含有するパッドの原料組成物を金型内で加熱して1,2−ポリブタジエン成分を過酸化物架橋することにより、製造することができる。この場合の加熱は、研磨パッドの1枚あたり170〜180℃の温度において10〜20分加熱処理することを要し、やはり研磨パッドの生産性はさほど高くはない。また、1,2−ポリブタジエンとこれに分散された水溶性粒子とからなる化学機械研磨パッドの場合、製造直後の初期研磨速度こそ優れるものの、多数の被研磨体を連続して化学機械研磨すると研磨速度が徐々に減少する現象が見られる。さらに、このタイプの研磨パッドは、研磨速度の温度依存性がやや大きいことが指摘されている。
【特許文献1】特表平8−500622号公報
【特許文献2】特開2000−34416号公報
【特許文献3】特開平11−70463号公報
【特許文献4】特開2004−327974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、
研磨速度、被研磨面のスクラッチおよび被研磨面の面内均一性に優れ、多数の被研磨体を連続研磨する場合でも安定した研磨速度を示す化学機械研磨パッドを、生産性の高い簡易な方法で製造することができる化学機械研磨パッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、本発明の上記目的および利点は、
(1)シート状の高分子成型体を製造する工程と、
(2)前記シート状の高分子成型体に対して電子線を照射線量10〜400kGyの範囲で照射する工程と
を含む、化学機械研磨パッドの製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、研磨速度、被研磨面のスクラッチおよび被研磨面の面内均一性に優れ、複数の被研磨物、例えば50枚以上の多数の被研磨物、を連続研磨する場合でも安定した研磨速度を示す化学機械研磨パッドを、生産性の高い簡易な方法で製造することができる化学機械研磨パッドの製造方法が提供される。
本発明の方法により製造された化学機械研磨パッドは、例えば絶縁膜、配線材料もしくはバリアメタルまたはこれらの複数からなる被研磨面を有する被研磨体の化学機械研磨に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(1)シート状の高分子成型体を製造する工程
シート状の高分子成型体における「シート状」とは、該成型体の全体にわたって厚みが1.0〜5.0mmの範囲にある形状のことであり、その平面形状や厚み以外の次元におけるサイズは、所望の化学機械研磨パッドに応じて適宜に設定することができる。
かかるシート状の高分子成型体は、例えば原料組成物を準備し、次いでこれを適宜の方法によりシート状に成型することにより製造することができる。
上記シート状の高分子成型体を製造するための原料組成物は、該シート状の高分子成型体に電子線を照射した後の成型体について測定した破断残留伸びが好ましくは120%以下、より好ましくは101〜110%となるような原料組成物である。この破断残留伸びは、電子線照射後の成型体についてJIS K 6251に準拠した3号ダンベルを用いた引張試験を行い、その結果、破断後に分断された試験片を合わせた合計長さの、試験前のダンベルの全長に対する割合をいう。
【0009】
上記原料組成物は、電子線照射後の成型体の30℃における貯蔵弾性率(E’(30))と90℃における貯蔵弾性率(E’(90))との比(E’(30)/E’(90))が4〜6となるような原料組成物が好ましい。この貯蔵弾性率は、ティー・エイ・インスツルメント社製、型式「RSAIII」を用い、引張モードにおいて歪み速度10rad/s、歪み0.05%、昇温速度5℃/minの条件下で測定した貯蔵弾性率の温度依存性試験により得られる値である。
上記原料組成物は、電子線照射後の成型体について測定したショアD硬度が、好ましくは30以上、より好ましくは30〜100、さらに好ましくは40〜90、特に好ましくは40〜75となるような原料組成物である。
【0010】
さらに、本発明の方法により製造される化学機械研磨パッドは、化学機械研磨時にスラリーを保持し、研磨屑を一時的に滞留させる等の機能を有するポアが、研磨時までに形成されていることが好ましい。このため、化学機械研磨パッドは、非水溶性部分およびこれに分散した水溶性粒子を含有する素材か、あるいは非水溶性部分およびこれに分散した空孔を含有する素材(例えば発泡体)からなることが好ましい。ここで、前者の素材は、水溶性粒子が研磨時に化学機械研磨用水系分散体に含有される水系媒体と接触することにより溶解または膨潤して脱離し、脱離により形成されたポアにスラリーを保持することができる。一方、後者の素材は、空孔として予め形成されているポアにスラリーを保持することができる。したがって、上記原料組成物としては、非水溶性材料および水溶性粒子を含有する組成物または発泡体の前駆体である組成物が好ましい。
【0011】
前者の組成物において、非水溶性高分子材料としては、所定の形状への成形が容易であり、適度な硬度や適度な弾性等の所望の性状を容易に付与できることなどから、有機材料が好ましく用いられる。有機材料としては、例えば熱可塑性樹脂、エラストマー、ゴム、硬化性樹脂等を単独でまたは組み合わせて用いることができる。
上記の熱可塑性樹脂としては、例えば1,2−ポリブタジエン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル樹脂、ビニルエステル樹脂(ただしポリアクリル樹脂に該当するものを除く)、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等を挙げることができる。前記ポリオレフィン樹脂としては例えばポリエチレン等を;
前記ポリアクリル樹脂としては例えば(メタ)アクリレート系樹脂等を;
前記フッ素樹脂としては例えばポリフッ化ビニリデン等を、それぞれ挙げることができる。
【0012】
上記のエラストマーとしては、例えばポリオレフィンエラストマー(TPO)、スチレン系エラストマー、熱可塑性エラストマー、シリコーンエラストマー、フッ素エラストマー等を挙げることができる。前記スチレン系エラストマーとしては、例えばスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、その水素添加ブロック共重合体(SEBS)等を挙げることができる。前記熱可塑性エラストマーとしては、例えば熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)、熱可塑性ポリエステルエラストマー(TPEE)、ポリアミドエラストマー(TPAE)等を挙げることができる。
上記のゴムとしては、例えば共役ジエンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレン−α−オレフィンゴムおよびその他のゴムを挙げることができる。前記共役ジエンゴムとしては、例えばブタジエンゴム(高シスブタジエンゴム、低シスブタジエンゴム等)、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム等を;
前記ニトリルゴムとしては、例えばアクリロニトリル−ブタジエンゴム等を;
前記エチレン−α−オレフィンゴムとしては、例えばエチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエンゴム等を;
前記その他のゴムとしては、例えばブチルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等を、それぞれ挙げることができる。
【0013】
水溶性粒子を構成する材料としては、有機水溶性粒子および無機水溶性粒子を挙げることができる。上記有機水溶性粒子としては、例えば糖類(でんぷん、デキストリンおよびシクロデキストリンの如き多糖類、乳糖、マンニット等)、セルロース類(ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等)、蛋白質、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキサイド、水溶性の感光性樹脂、スルホン化ポリイソプレン、スルホン化イソプレン共重合体等からなる粒子を挙げることができる。上記無機水溶性粒子としては、例えば酢酸カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、リン酸カリウム、硝酸マグネシウム等からなる粒子を挙げることができる。これらの水溶性粒子は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記水溶性粒子は、製造される化学機械研磨パッドの硬度を適正な値とするという観点から、中実体であることが特に好ましい。
水溶性粒子の平均粒径は、好ましくは0.1〜500μmであり、より好ましくは0.5〜100μmである。このことにより、水溶性粒子が脱離することにより形成されるポアの大きさは、好ましくは0.1〜500μmとなり、より好ましくは0.5〜100μmとなる。水溶性粒子の平均粒径を前記の範囲とすることにより、高い研磨速度を示し、且つ機械的強度に優れた化学機械研磨パッドとすることができる。
【0014】
水溶性粒子は、研磨パッド内において表層に露出した場合にのみ水等に溶解または膨潤し、研磨パッド内部では吸湿してさらには膨潤しないことが好ましい。このため水溶性粒子は最外部の少なくとも一部に吸湿を抑制する外殻を備えることができる。この外殻は水溶性粒子に物理的に吸着していても、水溶性粒子と化学結合していても、さらにはこの両方により水溶性粒子に接していてもよい。このような外殻を形成する材料としては、例えばエポキシ樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリシリケート、シランカップリング剤等を挙げることができる。この場合、水溶性粒子は、外殻を有する水溶性粒子と外殻を有さない水溶性粒子とからなっていてもよく、外殻を有する水溶性粒子はその表面のすべてが外殻に被覆されていなくても十分に前記効果を得ることができる。
上記前者の原料組成物における水溶性粒子の使用割合としては、非水溶性高分子材料および水溶性粒子の合計を100体積%とした場合に、好ましくは1〜90体積%である。
このような割合で水溶性粒子を使用することにより、電子線照射後の成型体が上記の好ましい破断残留伸び、30℃における貯蔵弾性率と90℃における貯蔵弾性率との比(E’(30)/E’(90))およびショアD硬度を有することが担保され、従ってかかる原料組成物から製造される化学機械研磨パッドは、研磨速度、被研磨面のスクラッチおよび被研磨面の面内均一性に優れ、且つ研磨速度の安定性に優れることとなる。
【0015】
一方、後者の非水溶性部分およびこれに分散した空孔を含有する材料からなる化学機械研磨パッドを構成する非水溶性部材としては、例えばポリウレタン、メラミン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリビニルアセテート等を挙げることができる。従って、その原料組成物としては、電子線照射によりこれらを導く前駆体からなる組成物が好ましい。
本発明の化学機械研磨パッドが後者の材料からなる場合、非水溶性部分に分散する空孔の大きさは、平均値で、好ましくは0.1〜500μm、より好ましくは0.5〜100μmである。空孔の含有割合は、好ましくは1〜50体積%で、更に好ましい割合は1〜20体積%である。特に5〜20体積%が好ましい。空孔の割合が多くなりすぎると硬度が不足する場合がある。一方、空孔の割合が少なくなりすぎると空孔が本来有するべき機能を発現しない場合がある。
【0016】
かかる原料組成物は、例えば所定の材料の混合物を混練機等を用いて混練することにより得ることができる。混練機としては従来より公知のものを用いることができる。例えばロール、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機(単軸、多軸)等の混練機を挙げることができる。混練時の温度は、250℃を超えないことが好ましく、50〜200℃であることがより好ましく、さらに70〜150℃であることが好ましい。混練の時間は、好ましくは2〜10分であり、より好まししくは4〜10分である。このような条件において原料組成物を調製することにより、原料組成物に含有される有機材料の分解をきたすことなく原料組成物を均一に混合することができ、従って製造される化学機械研磨パッドが均質且つ機械的特性に優れることとなり、その結果、これを化学機械研磨に用いたときに、被研磨面の面内均一性に優れる利点を有することとなる。
【0017】
なお、原料組成物が非水溶性高分子材料およびこれに分散した水溶性粒子を含有するものである場合、混練時の温度において水溶性粒子が固体であることが好ましい。すなわち、予め前述の好ましい平均粒径範囲に分級した水溶性粒子を用い、水溶性粒子が固体である条件下で混練することにより、水溶性粒子と非水溶性部分との相溶性の程度にかかわらず、水溶性粒子を前記の好ましい平均粒径で分散させることができることとなる。従って、使用する非水溶性高分子材料の加工温度により、水溶性粒子の種類を選択することが好ましい。
かくして得られる原料組成物をシート状に成型するには、例えば圧縮成形法、射出成形法、射出圧縮成形法、Tダイ押出法等の適当な方法によって、先ず原料化合物を可塑化し、次いでこれを所望のシート形状に契合するキャビティーを有する型、好ましくは金型、の中で冷却固化する方法等によることができる。
【0018】
原料組成物を可塑化するためには、加熱が行われる。この加熱温度は、250℃を超えないことが好ましく、より好ましくは80〜250℃であり、さらに好ましくは90〜230℃であり、特に好ましくは95〜200℃であり、最も好ましくは100〜170℃である。可塑化のための所要時間としては、好ましくは5分以下であり、より好ましくは0.5〜3分であり、さらに好ましくは0.5〜2分である。可塑化の温度が80℃未満であるかまたは可塑化の時間が0.5分以下である場合には、可塑化が不十分のため形状が不安定となる場合があり好ましくなく、一方、可塑化温度が250℃を超えるかまたは可塑化時間が5分を超えると、高分子材料の分子切断が進行し、製造される化学機械研磨パッドの強度低下が生じる場合があるため好ましくない。
型中で冷却固化する際、型内の成型体を、好ましくは10〜80℃、より好ましくは20〜70℃、さらに好ましくは30〜60℃、特に40〜50℃にまで冷却することが好ましい。成型体の温度が10℃未満では冷却速度が不均一になり易く、従って面内の厚み分布が大きくなる場合があるため好ましくなく、一方、80℃を超える温度で型から取り出すと冷却が不十分になり、成型体に反りやうねり等の意図しない変形が生じる場合があるため好ましくない。
【0019】
上記のようにして得られるシート状の高分子成型体は、さらに厚み調整をした後に次工程の電子線照射工程に供してもよい。この厚み調整は、例えばワイドベルトサンダー等によることができる。
上記前記シート状の高分子成型体を製造する工程を通じて、最高到達温度は250℃を超えることがないことが好ましい。この最高到達温度は、より好ましくは80〜250℃であり、さらに好ましくは90〜230℃である。また、原料組成物がこのような最高到達温度に曝される時間は、上記の原料組成物を可塑化する工程における好ましくは3分以下、より好ましくは0.2〜2分、さらに0.2〜1分に過ぎない。本発明の化学機械研磨パッドの製造方法においては、従来の熱架橋による製造方法と異なり、原料組成物が最高到達温度に晒される時間が極めて短いため、分子切断等が生じにくく物性低下を起こすことがなく、従って製造される化学機械研磨パッドは、タフネスが大きく磨耗しにくいとの利点を有することとなる。
【0020】
(2)前記シート状の高分子成型体に対して電子線を照射線量10〜400kGyの範囲で照射する工程
本発明の化学機械研磨パッドは、前記の如きシート状の高分子成型体に電子線を照射することにより製造される。前記シート状の高分子成型体に対して電子線を照射する工程において、電子線の照射線量は10〜400kGy(Gy:グレイ、J/kg)の範囲である。照射線量は、より好ましくは25〜300kGyであり、さらに好ましくは50〜200kGyであり、最も好ましくは75〜150kGyである。電子線の照射線量が10kGy未満では電子線によるラジカル発生が不十分のため架橋度が不足するため好ましくなく、一方、照射線量が400kGyを超えると分子切断による機械的強度の低下が生じるため好ましくない。
【0021】
電子線は一回の照射で所定の照射線量を照射してもよいし、数回に分けて照射してもよい。数回に分ける場合は、各照射における照射線量をそれぞれ等しい値としてもよく、あるいは相異なる照射線量としてもよく、合計の照射線量が上記の照射線量となればよい。
照射する電子線の加速電圧は、前記シート状の高分子成型体の電子線透過性に応じて適切に設定されることが好ましい。電子線の透過の程度は、被照射体の厚みと電子線の運動エネルギーとに依存することが知られている。従って、高分子成型体の厚みに応じて電子線の加速電圧を適宜に設定することにより、高分子成型体の厚み方向におけるか強度分布をコントロールすることができる。例えば高分子成型体の厚み方向に均一に透過可能となるように加速電圧を設定すると、厚み方向で架橋度が均一である高分子成型体とすることができる。一方、厚み方向に不均一に透過するように加速電圧を設定すると、厚み方向で架橋分布を有する高分子成型体とすることができる。
【0022】
本発明における電子線の照射工程においては、高分子成型体の厚みの1/2の位置における相対照射線量が、高分子成型体の照射側表面における照射線量に対して、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。この相対照射線量が30%未満であると、電子線が高分子成型体の厚み方向に十分に浸透しないため、十分な電子線照射効果が得られない場合がある。
電子線照射においては、その加速電圧と被照射体の密度により、電子線の到達深度が変化することが知られている。例えば高分子成形体の比重を1とした場合、電子線の好ましい加速電圧は下記第1表のとおりである。
【0023】
【表1】

【0024】
高分子成型体の密度が0.8である場合には、その厚みに応じて上記第1表から読み取れる値の0.8倍の加速電圧が好ましい。
加速電圧は、高分子成型体の密度および厚みによらず、3MVを超えないことが好ましい。加速電圧が3MVを超えると、高分子成型体中の高分子材料の切断が起こり、得られる化学機械研磨パッドの機械的特性が損なわれる場合がある。
【0025】
電子線の照射に際しては、シート状の高分子成型体に対して電子線のビームを往復して照射する等して、必要な照射線量をできるだけ短時間、例えば2分以内、好ましくは1分以内、で照射することが好ましい。電子線の照射は、高分子成型体の片側表面のみに行ってもよく、あるいは両側の表面に対して行ってもよい。さらに、成型体表面の中心付近を通る成型体表面に垂直な直線を軸として高分子成型体を回転しながら電子線を照射してもよい。これらのうち、高分子成型体を回転しながら電子線のビームを往復して、高分子成型体の全面に照射することが、電子線架橋の均一性および化学機械研磨パッドの生産性の観点から好ましい。
電子線を照射すると、被照射体の温度は上昇するのが一般であるが、本発明において電子線を照射する際のシート状の高分子成型体の温度は、100℃以下に制御することが好ましく、80℃以下に制御することがより好ましく、さらに室温〜60℃に制御することが好ましい。この温度を上記の範囲とすることにより、電子線照射中の成型の熱変形を防止できる利点が得られる。この温度制御は例えば成型体を保持する保持板を冷却する方法によって実現することができる。
【0026】
上記のようにして得られる電子線照射後のシート状の高分子成型体に対して、さらに厚み調整を行ってもよい。この厚み調整は、例えばワイドベルトサンダー等によることができる。
上記の如くして電子線を照射されたシート状の高分子成型体は、JIS K 6251に準拠した3号ダンベルを用いた引張試験を行い、その結果、破断後に分断された試験片を合わせた合計長さの、試験前のダンベルの全長に対する割合(破断残留伸び)が好ましくは120%以下であり、より好ましくは101〜110%である。電子線照射により、高分子成型体の破断残留伸びは小さくなる。
【0027】
電子線照射後の高分子成型体につき、ティー・エイ・インスツルメント社製、型式「RSAIII」を用い、引張モードにおいて歪み速度10rad/s、歪み0.05%および昇温速度5℃/minの条件下で測定した貯蔵弾性率の温度依存性試験により測定された30℃における貯蔵弾性率(E’(30))と90℃における貯蔵弾性率(E’(90))との比(E’(30)/E’(90))は、好ましくは4〜6である。電子線照射により、E’(30)/E’(90)の値は小さくなる。
電子線照射後の高分子成型体について測定したショアD硬度は、好ましくは30以上であり、より好ましくは30〜100であり、さらに好ましくは40〜90、特に好ましくは40〜75である。例えば、50〜99質量%の1,2−ポリブタジエンおよび1〜50質量%のβ−サイクロデキストリンからなる原料組成物から製造された厚み2.5〜3.0mmの高分子成型体に対して、加速電圧1〜1.5MVの条件で、照射線量が25〜30kGyの照射を8〜10回繰り返して得た電子線照射後の高分子成型物のショアD硬度は、電子線照射前と比較して2〜10ポイント向上する。
【0028】
(3)シート状の高分子成型体に溝を形成する工程
本発明の化学機械研磨パッドの製造方法においては、前記(2)電子線を照射する工程の後、または前記(2)電子線を照射する工程の前に、シート状の高分子成型体に溝を形成する工程を行うことができ、またこれを行うことが好ましい。溝の形成は、高分子成型体の片面にのみ行ってもよく、両面に対して行ってもよい。溝を高分子成型体の片面にのみ行った場合には、溝を有する面が化学機械研磨パッドの研磨面となり、両面に行った場合には、どちらを研磨面としてもよい。
【0029】
シート状の高分子成型体に溝を形成する工程を(2)電子線を照射する工程の後に行う場合には、電子線照射後の高分子成型体に対して切削加工を施す方法によることができる。一方、溝を形成する工程を(2)電子線を照射する工程の前に行う場合には、すでに成型された高分子成型体に対して切削加工を施す方法もしくは高分子成型体を成型する際に所望の溝と契合する凸部を有する型を使用する方法またはこれらの組み合わせによることができる。これらの方法のうち、形成される溝の寸法精度が高いことから、切削加工によることが好ましい。
シート状の高分子成型体に溝を形成する工程を(2)電子線を照射する工程の後に行うことにより、得られる化学機械研磨パッドの形状付与が容易となり、研磨パッドとしての寸法精度を高く保つことができることとなる。一方、溝を形成する工程を(2)電子線を照射する工程の前に行うことにより、化学機械研磨時のスラリーの保持性がより高い溝とすることができる。これらのうち、化学機械研磨パッドには高度の寸法精度が必要であることから、溝の形成工程は、電子線を照射する工程の後に行うことが好ましい。
【0030】
形成する溝の形状は、溝の幅が0.5〜2.0mmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.8mmであり、さらに好ましくは0.5〜1.6mmであり、特に好ましくは0.5〜1.4mmである。溝のピッチは、2.0〜8.0mmであることが好ましく、より好ましくは3.0〜8.0mm、さらに好ましくは4.0〜8.0mmであり、特に好ましくは4.0〜7.0mmmである。溝の深さは0.1mm以上とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜2.5mm、さらに好ましくは0.2〜2.0mmである。このような溝とすることにより、研磨速度に優れ、且つ被研磨面における研磨量の面内均一性に優れる化学機械研磨用パッドを容易に製造することができることとなる。
【0031】
溝の内面の表面粗さ(Ra)は20μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05〜15μmであり、さらに好ましくは0.05〜10μmである。この表面粗さを20μm以下とすることにより、化学機械研磨工程の際に被研磨面に発生するスクラッチをより効果的に防止できることとなる。前記表面粗さ(Ra)は、下記数式(1)により定義される。

Ra=Σ|Z−Zav|/N (1)

(数式(1)において、Nは測定点数であり、Zは粗さ曲面の高さであり、Zavは粗さ曲面の平均高さである。)
【0032】
(4)化学機械研磨パッド
上記のようにして得られる電子線照射後の、好ましくは溝が形成されたシート状高分子成型体は、これをそのまま化学機械研磨パッドとして使用することができ、またはその非研磨面(研磨面の裏面)上に支持層を配置した複層型パッドとして使用することができる。
この支持層は、化学機械研磨パッドを研磨面の裏面側で支える層である。この支持層の特性は特に限定されないが、パッド本体(電子線照射後の高分子成型体)に比べてより軟質であることが好ましい。より軟質な支持層を備えることにより、パッド本体の厚さが薄い場合であっても、研磨時にパッド本体が浮き上がることや、研磨層の表面が湾曲すること等を防止でき、安定して研磨を行うことができる。この支持層の硬度は、パッド本体のショアD硬度の90%以下が好ましく、さらに好ましくは50〜90%であり、特に好ましくは50〜80%であり、就中50〜70%が好ましい。
【0033】
支持層は、多孔質体(発泡体)であっても、非多孔質体であってもよい。さらに、その平面形状は、例えば円形、多角形等とすることができるが、研磨パッドの平面形状と同じ平面形状であり、かつ同じ大きさであることが好ましい。その厚さも特に限定されないが、0.1〜5mmであることが好ましく、さらに0.5〜2mmとすることが好ましい。
支持層を構成する材料は特に限定されないが、所定の形状および性状への成形が容易であり、適度な弾性等を付与できることなどから有機材料を用いることが好ましい。有機材料としては、原料組成物の非水溶性部分を構成する材料として例示した有機材料を使用することができる。
【0034】
(5)化学機械研磨方法
上記のようにして製造された化学機械研磨パッドを使用して、被研磨物を化学機械研磨することができる。この化学機械研磨は、市販の化学研磨装置に本発明の方法により製造された化学機械研磨パッドを装着すること以外は公知の方法により実施することができる。
【0035】
被研磨面を構成する材料としては、配線材料たる金属、バリアメタルおよび絶縁体ならびにこれらの組み合わせからなる材料を挙げることができる。前記配線材料たる金属としては、例えばタングクテン、アルミニウム、銅およびこれらのうちの少なくとも一種を含有する合金等を挙げることができる。前記バリアメタルとしては、タンタル、窒化タンタル、ニオブ、窒化ニオブ等を挙げることができる。前記絶縁体としては、例えばSiO、SiOに少量のホウ素およびリンを添加したホウ素リンシリケート(BPSG)、SiOにフッ素をドープしたFSG(Fluorine−Doped Silicate Glass)と呼ばれる絶縁体、および低誘電率の酸化シリコン系絶縁体等を挙げることができる。SiOとしては、例えば熱酸化膜、PETEOS(Plasma Enhanced−TEOS)、HDP(High Density Plasma Enhanced−TEOS)、熱CVD法により得られるSiO等を挙げることができる。
本発明の化学機械研磨方法に適用する被研磨物としては、銅または銅を含む合金からなる被研磨物、銅または銅を含む合金および絶縁体からなる被研磨物、銅または銅を含む合金ならびにバリアメタルおよび絶縁体からなる被研磨物が好ましい。
【0036】
(6)本発明の化学機械研磨パッドの製造方法の利点
上記した通り、本発明の化学機械研磨パッドの製造方法によると、上記(1)シート状の高分子成型体を製造する工程における原料組成物の可塑化に要する時間は好ましくは2分以内であり、冷却固化に要する時間は好ましくは1分以内であり、さらに(2)電子線照射工程に要する時間は好ましくは2分以内であるから、パッド一枚あたりの処理時間は、好ましくはわずか5分以内であり、かかる処理により均一な架橋密度の化学機械研磨パッドを得ることができる。
【0037】
これに対して例えば特許文献1に記載されている化学機械研磨用パッドは、予め製造しておいたウレタンブロックを所望のパッドの形状およびサイズに合わせて切削加工して製造するのが一般的である。この場合、ウレタンブロックの製造には、150℃程度で1〜4時間処理する必要があり、さらに所望のパッドの形状に成型するための切削加工が必要となるため、パッドの生産性は高いものではない。また、このようなウレタンブロックはその中央部と外周部とで組成のばらつきが発生するために、均一な組成のシートを得ることは困難である。
また、特許文献4に記載されている、1,2−ポリブタジエンを過酸化物を用いて熱架橋した化学機械研磨用パッドは、170〜180℃の熱プレスによりパッド形状の成型と熱架橋を同時に行って製造されるものであるが、この熱プレスはパッド1枚あたり10〜20分を要するものであり、生産性はさほど高くない。
【0038】
これら二つの製造方法は、現在の化学機械研磨パッドの製造の代表的な例である。これらの方法と比較すると、本発明の方法がいかに簡易であり、生産性が高いものであるかが容易に理解されるであろう。
さらに、本発明の方法により製造された化学機械研磨パッドが、1,2−ポリブタジエンおよび水溶性粒子からなる原料組成物を用いて製造されたものである場合、類似の原料組成物を用いて熱架橋によって製造された例えば上記特許文献4に記載の研磨パッドに比べて、耐磨耗性が高い利点を有する。
【実施例】
【0039】
実施例1
(1)シート状の高分子成型体の製造
(1−1)原料組成物の調製
非水溶性部分の材料として熱可塑性樹脂である1,2−ポリブタジエン(JSR(株)製、商品名「JSR RB830」)72.2質量部および水溶性粒子としてβ−シクロデキストリン(塩水港精糖(株)製、商品名「デキシパールβ−100」、平均粒径15μm)27.8質量部を、160℃に調温されたルーダーにより混練りすることにより、原料組成物のペレットを調製した。
(1−2)シート状の高分子成型体の製造
上記原料組成物のペレットを金型に充填し、150℃にて1分間加熱して可塑化した後、金型内の温度を30℃に冷却し、この温度を1分間維持して冷却固化することにより、直径840mm、厚さ3.5mmの平面形状が円形であるシート状の高分子成型体を製造した。なお、この高分子成型体におけるβ−シクロデキストリンの体積割合は、1,2−ポリブタジエンとβ−シクロデキストリンとの合計に対して20体積%であった。
【0040】
(2)電子線の照射
上記で得たシート状の高分子成型体を、スキャン方式の電子線照射装置((株)NHVコーポレーション製、型式;EPS−3000)にセットして、高分子成型体の温度を常温に維持しつつ、常圧下において、加速電圧1MV、1回あたりの照射線量25kGyの条件で8回照射を行い、合計照射線量200kGyの電子線照射を行った。この電子線照射に要した時間は約2分であった。その後、ワイドベルトサンダーを用いて電子線が照射されたシート状の高分子成型物の厚み調整を行い、厚さ2.5mmとした。
上記のようにして製造された電子線照射後のシート状の高分子成型体のショアD硬度を、JIS K 6253に準拠する方法で測定したところ、ショアD硬度は64であった。また、電子線照射後のシート状の高分子成型体からJIS K 6251に準拠した3号ダンベルを打ち抜き、これを試料として引張速度500mm/minで引張試験を行い、引張強度および破断残留伸びを測定した。引張強度は18MPaであった。また、この引張試験前の試料の全長は100mmであり、破断した後の試料を合わせた全長は105mmであり、従って、破断残留伸びは105%であった。さらに、ティー・エイ・インスツルメント社製の「RSAIII」を使用し、引張モードにて歪み速度10rad/s、歪み0.05%、昇温速度5℃/minの条件下で貯蔵弾性率の温度依存性を測定したところ、30℃における貯蔵弾性率(E’(30))を90℃における貯蔵弾性率(E’(90))で除した値(E’(30)/E’(90))は5.3であり、化学機械研磨パッドとして最適な数値であった。
【0041】
(3)溝の形成
上記で得た電子線照射後のシート状の高分子成型体の片面に、(株)加藤機械製の溝形成機(切削機)を用いて、ピッチ1.5mm、幅0.5mm、深さ1.0mmの同心円状の溝を形成し、化学機械研磨パッドとした。溝の内面の表面粗さをレーザーテック(株)製の「1LM21P」により測定したところ、約2.0μmであった。
【0042】
(4)化学機械研磨試験
上記で得た電子線照射後のシート状の高分子成型体の、溝を形成していない面へ、3M社製の両面テープ「#422」をラミネートした後、アプライドマテリアル社製の化学機械研磨装置「Applied Reflexion」に装着し、12インチパターン付きウェハ(SEMATECH製、商品名「SEMATECH−754」)を被研磨物として以下の条件にて化学機械研磨を行った。

定盤回転数:120rpm
研磨ヘッド回転数:36rpm
研磨圧力:RP/Zone1/Zone2/Zone3 = 7.5/6.0/3.0/3.5 [psi]
水系分散体供給速度:300mL/分
化学機械研磨用水系分散体:CMS7401/CMS7452(JSR(株)製)
研磨時間:1分

研磨後の被研磨物の被研磨面につき、ケーエルエー・テンコール社製の欠陥検査装置(型番「KLA2351」)にてウェハ全面のスクラッチ数を測定したところ、0個であった。
【0043】
次に、被研磨物として12インチCu膜付きウェハ(Cu膜厚=1μm)を用いて前記の研磨装置および研磨条件にて研磨を行った。研磨後の被研磨体の被研磨面の直径方向に、両端からそれぞれ5mmの範囲を除いて均等にとった33点について化学機械研磨前後のCu膜の厚さを測定した。この測定結果から、下記式により、研磨速度および研磨量の面内均一性を計算した

研磨量 = 研磨前の膜厚−研磨後の膜厚
研磨速度 = 研磨量の平均値/研磨時間
面内均一性(%) =(研磨量の標準偏差÷研磨量の平均値)×100

さらに、研磨後の被研磨体について、ケーエルエー・テンコール社製、サーフスキャンSP1にてウェハ全面のスクラッチ数を測定したところ、0個であった。
評価結果は第2表に示した。
【0044】
実施例2
上記実施例1における「(1−1)原料組成物の調製」と同様にして原料組成物のペレットを調製した。
直径850mm,深さ3.0mmのキャビティーを有する金型を40℃に調温し、シリンダー温度を160℃にセットした射出成形機(三菱重工プラスチックテクノロジー(株)製;型式「1600MMIIIW」)を用いて、可塑化時間0.5分の条件で上記原料組成物のペレットの射出成形を行うことにより、直径845mm、厚さ3.2mmのシート状の高分子成型体を得た。
この高分子成型体につき、実施例1と同様の条件で電子線照射および厚み調整を行うことにより、厚さ2.5mmの電子線が照射されたシート状の高分子成型体を得た。
このようにして得た電子線照射後の高分子成型体につき、実施例1と同様にしてショアD硬度、引張強度、破断残留伸びおよびE’(30)/E’(90)を測定したところ、ショアD硬度は63、引張強度は18MPa、破断残留伸びは104%およびE’(30)/E’(90)は5.1であり、いずれも化学機械研磨パッドとして最適な数値であった。
【0045】
次に、上記電子線照射後の高分子成型体につき、実施例1と同様にして片面に溝を形成し、化学機械研磨パッドとした。ここで形成した溝の内面の表面粗さを実施例1と同様にして測定したところ約2.3μmであった。
上記で製造した化学機械研磨パッドを用いて実施例1と同様にしてCu膜の化学機械研磨試験を行った。結果は第2表に示した。
【0046】
実施例3
非水溶性部分の材料として熱可塑性樹脂である1,2−ポリブタジエン(JSR(株)製、商品名「JSR RB830」)72.2質量部および水溶性粒子としてβ−シクロデキストリン(塩水港精糖(株)製、商品名「デキシパールβ−100」、平均粒径15μm)27.8質量部を、間隙を2.8mmに調整した幅900mmのTダイを先端に備えたルーダー(シリンダー温度を160℃、Tダイの温度を130℃にセットしたもの)に投入し、滞留時間2分の条件で混練りしてTダイ押出しを行い、ロールで冷却することにより厚み3.1mmのシート状の高分子成型体を得た。なお、この高分子成型体におけるβ−シクロデキストリンの体積割合は、1,2−ポリブタジエンとβ−シクロデキストリンとの合計に対して20体積%であった。
この高分子成型体につき、実施例1と同様の条件で電子線照射および厚み調整を行うことにより、厚さ2.5mmの電子線が照射されたシート状の高分子成型体を得た。
この電子線照射後の高分子成型体につき、実施例1と同様にしてショアD硬度、引張強度、破断残留伸びおよびE’(30)/E’(90)を測定したところ、ショアD硬度は66、引張強度は17MPa、破断残留伸びは103%およびE’(30)/E’(90)は5.6であり、いずれも化学機械研磨パッドとして最適な数値であった。
【0047】
次に、上記電子線照射後の高分子成型体につき、実施例1と同様にして片面に溝を形成し、化学機械研磨パッドとした。ここで形成した溝の内面の表面粗さを実施例1と同様にして測定したところ約2.3μmであった。
上記で製造した化学機械研磨パッドを用いて実施例1と同様にしてCu膜の化学機械研磨試験を行った。結果は第2表に示した。
【0048】
実施例4
実施例1の(1−1)原料組成物の調製において非水溶性部分の材料として1,2−ポリブタジエンの代わりにエチレン−アクリル酸共重合体(三井・デュポンポリケミカル(株)製、商品名「ニュクレルN1560」)を用い、また(2)電子線の照射において、1回あたりの照射線量25kGyの条件で4回照射とし、合計照射線量を100kGyとした以外は実施例1と同様にして実施し、厚さ2.5mmの電子線が照射されたシート状の高分子成型体を得た。
この電子線照射後の高分子成型体につき、実施例1と同様にしてショアD硬度、引張強度および破断残留伸びを測定したところ、ショアD硬度は62、引張強度は16MPa、破断残留伸びは107%であった。
次に、上記電子線照射後の高分子成型体につき、実施例1と同様にして片面に溝を形成して化学機械研磨パッドとし、これを用いて実施例1と同様にしてCu膜の化学機械研磨試験を行った。結果は第2表に示した。
【0049】
実施例5〜16、比較例1〜3
上記実施例1において、(1−2)シート状の高分子成型体の製造における可塑化温度、冷却固化温度および(2)電子線の照射における照射回数をそれぞれ第2表に記載の通りとしたほかは、実施例1と同様にして実施し、各種の評価を行った。
ここで、(2)電子線の照射における1回あたりの照射線量は、実施例5〜16ならびに比較例1および3においては25kGyに固定して行い、比較例2においては8kGyとした。
評価結果は第2表に示した。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
実施例17
上記実施例1で製造した化学機械研磨パッドを用いて、実施例1と同様の条件で、60枚の12インチCu膜付きウェハ(Cu膜厚=1μm)を連続研磨した。このときの研磨速度の推移を第3表および図1に示した。
【0054】
比較例4
1,2−ポリブタジエン(JSR(株)製、商品名「JSR RB830」)72.2質量部およびβ−シクロデキストリン(塩水港精糖(株)製、商品名「デキシパールβ−100」、平均粒径15μm)27.8質量部を160℃に調温されたルーダーにより混練りしてペレットAを製造した。このペレットA100質量部およびパークミルD−40(日油(株)製)0.55質量部を、130℃に調温されたルーダーにより混練することにより、ペレットBを製造した。
上記ペレットBを、170℃に調温された金型内で18分保持し、次いで金型が室温になるまでそのまま放冷することにより、直径845mm、厚み3.1mmの円盤状成型体を得た。このとき成型と同時に過酸化物による架橋反応が生じる。その後ワイドベルトサンダーを用いてこの高分子成型体の厚み調整を行い、厚さ2.5mmとした。
この電子線照射後の高分子成型体につき、実施例1と同様にしてショアD硬度、破断残留伸びおよびE’(30)/E’(90)を測定したところ、ショアD硬度は65、破断残留伸びは104%およびE’(30)/E’(90)は14.6であった。
この高分子成型体の片面に、実施例1と同様にして溝を形成し、化学機械研磨パッドとした。
この化学機械研磨パッドを用いて実施例1と同様にして12インチCu膜付きウェハ(Cu膜厚=1μm)の化学機械研磨を行ったところ、研磨速度は7,100Å/分、面内均一性は7.0%であった。
これに引き続き、さらに59枚の12インチCu膜付きウェハを連続研磨した(合計連続研磨枚数60枚)。このときの研磨速度の推移を第3表および図2に示した。
【0055】
【表5】

【0056】
上記第3表および図1における研磨速度は、いずれも5枚目の研磨速度を100として表した相対値である。
上記第3表および図1から明らかなように、過酸化物を用いて熱架橋された比較例4の化学機械研磨パッドは、被研磨体を連続研磨することにより研磨速度が徐々に下降していくのに対して、本発明の方法により得られた化学機械研磨パッドは、被研磨体を連続研磨しても研磨速度はほぼ一定に保たれた。
【0057】
図2に、上記実施例1で製造した電子線照射後の高分子成型体ならびに上記比較例1および4でそれぞれ得た電子線照射後の高分子成型体について測定した、貯蔵弾性率の温度依存性のグラフを示した。この貯蔵弾性率の温度依存性は、それぞれ実施例1に記載した条件で測定されたものである。
このグラフから、実施例1における電子線照射後の高分子成型体の貯蔵弾性率は比較例1および4における電子線照射後の高分子成型体に比べて、室温付近から60℃までの変化が小さいことが確認された。
【0058】
上記第3表および図1によると、実施例17の化学機械研磨パッド(すなわち実施例1で製造した化学機械研磨パッド)の方が比較例4に比べて安定した研磨速度を示したが、このことの原因は以下のように推察される。すなわち、化学機械研磨において多数の被研磨物を連続研磨すると、研磨パッドの温度上昇および下降が繰り返されることとなるが、このときの貯蔵弾性率の変化の小さい研磨パッドの方が連続研磨における機械的特性の変化が小さく、従って研磨速度が長いこと安定するのであろう。研磨パッドの製造方法の違いによりかかる効果が発現することは、本願発明者らが今回はじめて見い出したことであり、従来技術からは全く予想外のことである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例17および比較例4の連続研磨における研磨速度の推移を示す図である。
【図2】実施例1ならびに比較例1および4で得られた電子線照射後の高分子成型体について測定した貯蔵弾性率の温度依存性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)シート状の高分子成型体を製造する工程と、
(2)前記シート状の高分子成型体に対して電子線を照射線量10〜400kGyの範囲で照射する工程と
を含むことを特徴とする、化学機械研磨パッドの製造方法。
【請求項2】
前記電子線を照射する工程における電子線の加圧電圧が0.5〜3MVである、請求項1に記載の化学機械研磨パッドの製造方法。
【請求項3】
前記シート状の高分子成型体を製造する工程における最高到達温度が250℃を超えることがなく、
前記電子線を照射する工程におけるシート状の高分子成型体の温度が100℃以下である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記高分子成形体が、非水溶性高分子部分およびこれに分散した水溶性粒子を含有するものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記非水溶性高分子部分が、1,2−ポリブタジエンからなるものである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記(2)電子線を照射する工程の後に、(3)シート状の高分子成型体に溝を形成する工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化学機械研磨パッドの製造方法。
【請求項7】
前記(2)電子線を照射する工程の前に、(3)シート状の高分子成型体に溝を形成する工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化学機械研磨パッドの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする、化学機械研磨パッド。
【請求項9】
請求項8に記載の化学機械研磨パッドを使用して被研磨物を化学機械研磨することを特徴とする、化学機械研磨方法。
【請求項10】
複数の被研磨物を連続して研磨する、請求項9に記載の化学機械研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−117815(P2009−117815A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265257(P2008−265257)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】