説明

医療用デバイスおよび医薬製剤において有用な粘膜付着性キシログルカン含有製剤

本発明の目的は、キシログルカン構造を有する0.05〜5重量%の天然の精製ポリマーおよび10〜70重量%のグリセロールを含有する水溶液からなる粘膜付着性の制御放出製剤である。このような製剤は、保湿剤および柔軟剤または医薬放出系として、ヒト粘膜、例えば、鼻粘膜、口腔粘膜および膣粘膜などへの適用に適する。本発明のさらなる目的は、粘膜付着性の制御放出製剤を活性成分および賦形剤とともに含有する、ヒト粘膜への適用に適した医薬製剤および医療用デバイスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保湿剤および柔軟剤として、または局所および/または全身使用のための医薬放出系としての使用のための、ヒト粘膜への適用に適した粘膜付着性製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
粘膜は、体腔の内表面を覆う膜であり、かつ外部、すなわち口腔、胃腸管、気道および膣腔と直接または間接的に連結された器官のチャネルである。個々の各器官に典型的な差異がいくつかあるにもかかわらず、粘膜は、本質的に、器官の腔またはチャネルの内腔を覆う上皮と、支持機能を有するより深部の結合組織(固有層または粘液性の皮膚)とから構成されており、該組織は、弾性の線維およびリンパ球を多く含むものであり得る。粘膜は、その層内に含まれた腺の分泌液または該腺を構成する腺上皮によって直接生成される分泌液で湿った状態である。かかる液は、主に、水、糖タンパク質(ムチン)、脂質、無機塩類および酵素からなる。あらゆる分泌液の基本的な機能は、上皮細胞とその環境間の相互作用を、潤滑/水和プロセス、病原体に対する防御バリアとしても作用する「生態系(ecosystem)」腔の物理化学的レベルおよび微生物学的レベルでの制御プロセスによってモジュレートすることである。
【0003】
液の分泌の低下は、多くの病理学的状態と関連する症状である「乾燥」の不可避的な発生を引き起こす。実際、粘膜の乾燥は、ほとんどの症例において、シェーグレン症候群(外分泌腺が冒され、その活性の進行性の低下が引き起こされる全身性自己免疫疾患)の最初の臨床症状である。臨床像は、涙および唾液の分泌の低下(角結膜炎を伴う眼の乾燥、口内乾燥症、嚥下困難)ならびに膣粘液および気管支樹分泌液の低下を特徴とする。
【0004】
膣粘膜は、角質化されていない重層された単層扁平上皮で構成されている。上皮の中間層は、グリコーゲン高含有細胞を示す。該上皮は、腺がなく血管(そのほとんどは静脈)を多く含む粘膜固有層上に位置する。この粘膜は、生理学的条件下では、主に子宮内膜、頚管内腺(頚部粘膜)および大前庭腺(バルトリン(Bartolino)腺)によって生成される潤滑性の液で覆われている(J.R. Bermanら, Eur. Urol., 38, 20-29, 2000)。
【0005】
妊娠可能な女性の膣液は通常、酸性(pH3.5〜4.5)であるが、思春期前ならびに閉経後の分泌液はアルカリ性である傾向がある。膣液は粘性であり、水分が主成分(90〜99%)であるが、ムチン(糖タンパク質)が0.5〜5重量%まで含まれる。ムチンは、膣液の物理化学的特性、特に、粘度および粘膜付着性に関与する。膣液はまた、血漿タンパク質、酵素(プロテアーゼ、ベータグルクロニダーゼ、酸およびアルカリホスファターゼならびにエステラーゼ)、アミノ酸、コレステロール、脂質、無機イオン、乳酸、酢酸ならびに剥離上皮細胞を含む。膣粘膜に加え、血清漏出液もまた膣内に存在する。
【0006】
粘膜の生産およびその種々の成分の濃度は、月経周期に応じて異なる(M. M. Garrey, “Ginecologia Illustrata”, Ed. Il Pensiero Scientifico, 1974)。
【0007】
膣粘膜生産は、主に、分泌液の生物理学的特性に影響を及ぼす性ステロイドによって制御される。ホルモンの変化は粘膜生産の低下の原因となり得、膣粘膜の潤滑性の低下(膣の乾燥)という結果を伴い得る。この状態は、多くの場合、閉経時に、循環エストロゲンレベルの低下の結果として生殖器が解剖学的変化を受け、形態学的特性および機能的特性の変化という結果を伴う場合に生じ得る。卵巣は硬化した状態となり、子宮内膜は萎縮し、腺成分は消失する傾向にあり、頚部のチャネルは狭窄して頚部粘膜が消失し、膣は狭小化してその弾性を失い、膣壁は細くなり萎縮して乾燥状態となる。その退縮は、膣および頚部の両方の絨毛膜において非常に明白であり、血漿漏出がなくなる。
【0008】
粘膜生産の減少により、性交時に生じ得る表皮剥脱の結果として、粘膜は感染に対してより大きく攻撃され易い状態に曝される。かかる易感染性は、閉経期に典型的な膣の変様(細胞内グリコーゲンの減少、pHおよび微生物叢の変様)によってさらに増大され得る(G. B. Candiani, V. Danesino, A. Gastaldi, La Clinica Ostetrica e Ginecologica, Ed. Masson, 1992)。この状態が、無視できない心理的および性的反跳性を伴う性交疼痛、焼灼感および掻痒感を特徴とする症候(symptomatology)を引き起こす。
【0009】
一過性で周期的な、または確定的な膣の乾燥は、思春期から閉経までの女性において一生のうちの任意の時点に見られ得る共通の問題であり、多くの場合、性交時に痛みを伴い得るか、または不可能とさえなり得る。
【0010】
膣の乾燥を引き起こす最も一般的な状態を明白に示す閉経に加え、内分泌性のもの(循環エストロゲンレベルの低下)または非内分泌性のもの(例えば、子宮摘出/卵巣摘出など)のいずれか、経口避妊薬の使用、無月経、微生物因子または化学薬品によって引き起こされる膣粘膜の刺激、特定の薬物による処置、シェーグレン症候群、真性糖尿病および精神的な変調という多くの他の原因が存在する。
【0011】
口腔粘膜に関する限り、口峡の乾燥は、内分泌の病態、精神的な変調(不安および鬱など)、栄養不足、脳神経の病変;または、いくつかの薬物、例えば、抗鬱剤、ACE阻害薬、化学療法薬/放射線療法薬、交感神経興奮薬、抗レトロウイルス薬、抗不安薬および鎮静薬、不整脈治療剤、抗炎症剤、抗高血圧症剤、抗ヒスタミン剤、抗腫瘍剤および神経弛緩剤などの有害な副作用とも関連するいくつかの臨床像の症状であり得る。
【0012】
分泌液の減少はまた、生理学的平衡の保護系および調節系の変化と関連する徴候に関与する。例えば、唾液生成の減少は、口腔の乾燥(口内乾燥症)、味覚の変化、虫歯および歯肉炎症の発生の増大、口内炎ならびに咀嚼問題の原因となり得る。
【0013】
口峡の乾燥はまた、亜急性または慢性咽頭炎および慢性喉頭炎などの臨床状態と関連する症状であり得、これらの疾患の病因因子は、病原性微生物因子であり、また、大気汚染物質、煙草の煙、乾燥冷気、胃酸物質によって引き起こされる慢性刺激(胃食道逆流)などの刺激因子でもある(J. Woodley, Bioadhesion, New possibilities for Drug Administrations, Clin. Pharmacokinetic, 40, 77-84, 2001)。
【0014】
上記の考慮事項に鑑み、粘膜乾燥と直接および/または間接的に関連する負の効果を低減または除くことができる医療用デバイスおよび医薬調製物を提供することが有用である。
【0015】
さらに、粘膜が存在する器官はまた、特異的な病態に供され、さらに、薬物を吸収することができるため、薬物をかかる部位に放出する医薬を利用可能にすることが有用である。
【0016】
かかる目的のため、生体付着性ポリマー、または生体膜に付着することができる物質(例えば、EP0770384 B1に開示されているもの)が、膣での使用のための調製物に使用され得る。
【0017】
キシログルカンは、セルロースと構造的に類似し、高等植物の細胞壁においてセルロースと密接に会合している多糖類の一類型である。さらに、キシログルカンは、インドおよび東南アジア原産のTamarindus Indica、アフリカ(特に、ナイジェリア)に分布しているDetarium senegalense Gmelin、中央アフリカおよび東アフリカ、また、サバンナや森林および東アフリカ沿岸部近辺にも分布しているAfzelia africanaならびにジャトバ(Jatoba)などの植物の種子の主成分の1つであり、おそらく、エネルギー貯蔵の機能を果たしている。
【0018】
キシログルカンは、α(1,6)結合を介してグリカン残基に連結されたα−D−キシロピラノースおよびβ−D−ガラクトピラノシル−(1,2)−α−D−キシロピラノースの側鎖の置換基を有する(1,4)−β−D−グルカン主鎖を特徴とする。側鎖における残基の分布は、種々の型のキシログルカンにおいて異なる。3つのオリゴマー単位、すなわち、単糖類、八糖類および七糖類(互いにガラクトース側鎖の数が異なる)が、キシログルカン構造において同定されている(U. Hiroshi, Trends in Glycoscience and Glycotechnology, 14, 355-376, 2002)。
【0019】
キシログルカンの主な用途は、ヒトおよび動物の栄養物である。さらにまた、キシログルカンを含有する上記の植物の種子から得られる粉末は、一般に、栄養業界において安定化剤、ゲル化剤および増粘剤として使用されている。
【0020】
医療用デバイスにおいて、または医薬調製物の一成分としてのキシログルカンの使用もまた報告されているが、あまり多くない。例えば、キシログルカンは、代用涙液として使用される製品における粘性剤として使用されており、病変および刺激に対して特に敏感である眼の粘膜に投与した場合であっても安全な毒物学的プロフィールを示す(M. F. Saettoneら、US6,056,950)。WO9729777(M. Shozoら)には、制御放出製剤の調製における一成分としての使用のための、ガラクトシダーゼなどの酵素で部分分解されたキシログルカン調製物が開示されている。この特許によれば、キシログルカンからガラクトース残基を一部除去することにより、高いゲル化特性がもたらされ、その結果、かかるゲル内に組み込まれた活性成分が適用部位に徐々に放出され得る。
【0021】
今回、適切な量のグリセロールと組合わされた適当に精製されたキシログルカンの調製物が、予期せぬ粘膜付着特性を示すことが見出され、これが本発明の目的である。グリセロールの存在は、予期せずして、キシログルカンの粘膜付着性を増大させる。
【0022】
さらに、グリセロール含量は、このキシログルカン調製物の制御放出挙動と直接的に関連し、粘膜付着性は、溶液の粘度を低下させても持続される。
【発明の開示】
【0023】
本発明の目的は、キシログルカン構造を有する0.05〜5重量%の天然の精製ポリマーおよび10〜70重量%のグリセロールを含有する水溶液からなる粘膜付着性の制御放出製剤である。このような製剤は、保湿剤および柔軟剤または医薬放出系としてヒト粘膜、例えば、鼻粘膜、口腔粘膜および膣粘膜への適用に適している。本発明のこの組合せは、活性成分(active principle)および当業者に既知の賦形剤と共に、ヒト使用ための医薬調製物または医療用デバイス(これらは、本発明のさらなる目的である)の作製のために添加され得る。
【0024】
このような医薬調製物および医療用デバイスは、液剤、ゲル剤、膣坐剤、スプレー剤、マウスウォッシュ、クリーム剤、軟膏剤(ointments)、膣洗浄液および任意の他の適当な投与系として製剤化され得る。
【0025】
多数の活性成分、好ましくは、抗生物質、抗真菌薬、抗原虫薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬、消毒薬、化学療法薬、鎮痛薬、粘液溶解薬、鎮咳薬、充血除去薬、カルシウム吸収調節剤、ホルモンおよびワクチンが本発明において使用され得る。
【0026】
本発明の精製キシログルカンは、キシログルカンの植物抽出物の精製によって、または栄養業界における使用のための種々の純度等級を有する未完成の市販品として得られる。
【0027】
精製は、以下の方法にしたがって行なわれる。原料粉末キシログルカン抽出物の0.5〜5%懸濁液(好ましくは1〜2%)を冷蒸留水中で調製する。次いで、その懸濁液を4倍容量の沸騰蒸留水中に注ぎ、溶液を攪拌下、沸騰下に15〜30分の間維持する。得られた溶液を、侠雑タンパク質および線維が沈殿するまでスタンドレフト(standleft)に10〜20時間放置する。次いで、溶液を4000〜8000rpmで15〜30分の間の時間遠心分離する。上清みを6μmポリプロピレンフィルターに通して濾過し、濾液を12000〜18000rpmで30〜60分の間の時間さらに遠心分離する。次いで、上清みは、0.22μmポリプロピレンフィルターに通して、または121℃のオートクレーブ内で20〜40分の間の時間のいずれかで、滅菌され得る。得られた溶液は、そのまま直接使用され得るか、または凍結乾燥され得る。記載した方法により、精製キシログルカンが、出発生成物に対して30〜80%の収率でもたらされる。
【0028】
かかる精製方法により、医薬使用に適したキシログルカンが得られ、特にヒトにおける使用のための、より特別には粘膜に対する適用のための安全性プロフィールがもたらされる。本発明の精製方法により、粘度および粘膜付着性に関して再現性が保障される一定の技術的特性を有する生成物が提供される。粘度は、粘膜付着性調製物が意図される生成物を特徴付けるより重要なパラメータの1つである。本発明の方法により、2重量%の水溶液において、200秒-1の剪断速度および15分間の静止時間で機能する25℃の温度で回転式粘度計を用いることにより測定したとき、本発明の範囲に適した粘度を有する精製キシログルカンが提供される。
【0029】
得られる粘度値は出発原料生成物に応じて異なり得る。本発明の範囲内での使用に適した粘度値は150〜800mPa・秒の範囲である。
【0030】
さらに、該精製方法により、出発材料中に存在するタンパク質不純物の著しい低減がもたらされる。粘膜部位は刺激物質に対して特に敏感であるため、タンパク質不純物を含まないキシログルカンが必要である。同時に、口腔への投与によりアナフィラキシー反応が誘発され得る。この理由のため、本発明により、残留タンパク質の間接的な尺度となる280nmにおけるUV吸光度の上限を導入した。本発明に適した精製キシログルカンは、25℃の温度で2重量%水溶液において測定した場合、0.5abs単位未満の280nmにおける吸光度値を有するものであるのがよい。
【0031】
図1に、実施例3の表2のデータにしたがって、漸増グリセロール濃度の精製キシログルカンを含有する製剤の粘膜付着性プロフィールを報告する。かかるプロフィールは、粘膜付着性の増大におけるグリセロールとキシログルカンの相乗効果を示す。
【0032】
図2は、実施例3の表2のデータによると、粘膜付着性の増大が、それぞれの溶液の粘度値と関係していないことを示す。
【0033】
最後に、実施例3の表2は、有意なレベルの粘膜付着性が低粘度値、例えば、30mPa・秒未満の値でも確保されていることを示す。
【0034】
後者の考察は、本発明が考慮される適用に関して特に重要である。実際は、粘膜への投与後、局所調製物は、ともに粘膜付着性に対して潜在的に負の影響を有する2つの現象に供され得、現実に粘膜表面付近では、温度と生体液の複合作用により調製物に対して粘度の低下および希釈効果が誘導される。逆に、本発明のキシログルカン-グリセロール調製物は、粘膜付着性を、低濃度かつ粘度と関連しないレベルに維持する。
【0035】
本発明によれば、10〜70重量%の濃度でのグリセロールを、0.05〜5重量%の濃度の精製キシログルカンの溶液に添加することにより、グリセロール含量とは直接的に関連するが、最終溶液の粘度とは関連しない様式での薬物の制御放出がもたらされる。
【0036】
実施例2に記載のようにして調製し、表1に報告する溶液からの薬物の制御放出は、フランツセルにより経時的に薬物放出を測定することによって示した。
【0037】
制御放出特性を粘膜付着特性と組み合わせると、ジクロフェナクに関して表3に報告するように、作用部位において一定で長時間の活性成分の放出がもたらされる。
【0038】
本発明のキシログルカンおよびグリセロールを含有する製剤を安全性について評価した。得られた結果(実施例11、12、13で報告)は、良好な局所耐容性を示し、感作および細胞傷害特性は存在しない。
【0039】
また、本発明の該組合せの有効性および安全性は、膣用坐剤の形態の医療用デバイスの使用により、膣の乾燥による性交疼痛の処置において非常に良好な結果がもたらされた実施例10に報告する臨床試験によっても示される。
【0040】
本発明の製品の粘膜付着性と制御放出とが一緒になったこの特定の特性は、薬物放出のための革新的な医薬形態の調製の決定因子的特徴でもある。その利点は、医薬用成分が作用部位で長時間、活性に維持され、薬物バイオアベイラビリティが増大する可能性と関連している。さらにまた、薬物制御放出と組み合わされた長時間の奏功により、投与頻度の減少が可能になる。かかる特性は、口腔粘膜、鼻粘膜および膣粘膜への薬物の投与に有用であり得る。
【0041】
本発明はまた、医薬活性成分および賦形剤に加えて、キシログルカン構造を有する0.05〜5重量%の精製された天然ポリマーと、10〜70重量%のグリセロールとを含む医療用デバイスおよび医薬調製物に関する。
【0042】
本発明によれば、好ましい活性成分は、抗炎症剤(例えば、ジクロフェナクおよびベンジダミンなど)、ホルモン(例えば、プロゲステロンおよびカルシトニンなど)から選択される。好ましい製剤形態は、膣坐剤、ゲル剤、洗浄液およびスプレー剤である。
【0043】
本発明による医薬調製物の例は、ジクロフェナクナトリウムを含有する口腔咽頭用スプレー剤、プロゲステロンを含有する膣用ゲル剤、塩酸ベンジダミンを含有する膣洗浄液およびカルシトニンを含有する鼻腔用スプレー剤である。
【0044】
本発明による医療用デバイスの例は、水和特性を有する膣用坐剤および柔軟特性を有する口腔咽頭用スプレー剤である。
【0045】
上記の医療用デバイスおよび医薬調製物を以下の実施例に、より詳細に記載する。
【0046】
実施例1
精製キシログルカンの調製
200mlの冷蒸留水を20gの粉末形態のGlyloid(登録商標)3S(大日本製薬)に添加することにより、懸濁液を調製する。懸濁液を800mlの沸騰蒸留水中に注ぎ、溶液を磁気攪拌下、沸騰下に20分間維持する。得られた溶液を12時間放置し、次いで、5000rpmで20分間遠心分離する。上清みを6μmポリプロピレンフィルターに通して濾過し、得られた溶液を15000rpmで30分間さらに遠心分離する。次いで、溶液を0.22μmポリプロピレンフィルターに通して滅菌する。最後に、得られた溶液を凍結乾燥し、14gの精製キシログルカン調製物を得る。
【0047】
水溶液中2重量%の濃度の精製された生成物の粘度は、25℃の温度で200秒-1の「剪断速度」および15分間の静止時間で測定した場合、229mPa・秒である。
【0048】
25℃の温度における2重量%水溶液の吸光度は、280nmで測定した場合、0.2abs単位である。
【0049】
実施例2
ジクロフェナクナトリウムを含有する溶液の調製
パラオキシ安息香酸メチル ナトリウムを70℃の温度の水に溶解し、次いで、冷却した溶液に、一塩基性のリン酸二ナトリウムであるジクロフェナクナトリウムおよびグリセロールを添加する。溶液を、完全に溶解するまで攪拌下に維持する。
【0050】
次いで、精製キシログルカンを添加し、溶液を、完全に膨潤するまで攪拌下に8時間維持し、次いで、水で100mlにする。
【0051】
ジクロフェナクナトリウム溶液の組成を表1に報告する。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例3
ジクロフェナクナトリウムの溶液の粘度および粘膜付着性の測定
実施例2にしたがって調製したジクロフェナクナトリウム溶液の粘度を、円錐型プレートC 60/1を有する測定構成を有するレオスタットを用い、200秒-1の「剪断速度」および3分間の静止時間を用いて測定した。
【0054】
実施例2にしたがって調製した溶液の粘膜付着性のインビトロ測定を、Sandri G.ら(J. Pharm. Pharmacol., 56, 1083-1090, 2004)に記載のような傾斜面法により行なった。この試験は、ブタの胃のムチン層で被覆した傾斜不活性支持体上で試料を滑らせることにより行なわれる。ムチン層上への吸収を、非被覆傾斜不活性支持体上の同じ試料の吸収を参照として数値化する。
【0055】
精製キシログルカンを含有する表1に報告した溶液の各試料500mgを、60°に傾斜させた面上の高い方に配置し、2分間の時間内で面上を滑り落ちた部分の混合物を回収し、計量する。
【0056】
実施例2に記載のジクロフェナクナトリウム溶液の粘度および粘膜付着性値を表2に報告する。
【0057】
【表2】

【0058】
実施例4
ジクロフェナクナトリウム溶液の制御放出特性の評価
実施例2にしたがって調製したジクロフェナクナトリウム含有溶液の制御放出特性を、フランツセル上の粘性溶液の耐洗浄性を測定して評価した。
【0059】
この溶液を、37℃にサーモスタット制御した装置内で、pH7.4のリン酸塩バッファーで洗浄し、放出された活性成分の量を1、2、3および4時間後に測定した。総量に対する放出されたジクロフェナクナトリウムの割合を表3に報告する。
【0060】
【表3】

【0061】
実施例5
水和特性を有する精製キシログルカンを含有する膣坐剤の調製
アロエ・バルバデンシス(Aloe barbadensis)凍結脱水抽出物、アイシングラス(fishgelatine)、p−ヒドロキシ安息香酸メチル ナトリウム、p−ヒドロキシ安息香酸エチル ナトリウムおよびp−ヒドロキシ安息香酸プロピル ナトリウムを、70℃にて15mlの水中で可溶化する。完全に可溶化後、溶液を25℃まで冷却し、精製キシログルカンを添加する。溶液を攪拌下に約8時間維持し、完全に膨潤後、温度を45℃にし、グリセロールを添加する。
【0062】
混合によるホモジネーション後、脱イオン水を総重量30グラムまで添加し、生成物を10個の鋳型内に分配する。
【0063】
10個の膣坐剤の調製のための各成分の量を表4に報告する。
【0064】
【表4】

【0065】
実施例6
プロゲステロンを含有する膣用ゲル剤の調製
パラヒドロキシ安息香酸メチルを70℃で水に添加する。完全な可溶化および溶液の冷却後、予め可溶化させたプロゲステロンを含有する硬化パーム油グリセリドを添加する。完全に混合後、精製キシログルカンを添加し、混合物を攪拌下に8時間、ポリマーが完全に膨潤するまで維持する。最後に、グリセロールを添加し、最終溶液を攪拌する。
【0066】
膣用ゲル剤の調製のための種々の成分の量を表5に報告する。
【0067】
【表5】

【0068】
実施例7
塩酸ベンジダミンを含有する膣洗浄液の調製
p−トルエンスルホン酸トリメチルセチルアンモニウム、ローズ香料および塩酸ベンジダミンを水中で可溶化する。完全に可溶化後、精製キシログルカンを添加し、溶液を攪拌下に8時間、ポリマーが完全に膨潤するまで維持する。グリセロールを添加し、最終溶液を、完全に均一になるまで混合する。
【0069】
種々の成分の量を表6に報告する。
【0070】
【表6】

【0071】
実施例8
カルシトニンを含有する鼻腔用スプレー剤の調製
塩化ナトリウム、クエン酸一水和物、クエン酸ナトリウム二水和物および塩酸を、65mlの水に添加する。混合物を、完全に溶解するまで攪拌下に維持し、次いで、予め可溶化させたカルシトニンを含有する10mlの水を添加する。精製キシログルカンを添加し、ポリマーが完全に膨潤するまで攪拌を8時間維持する。次いで、グリセロールを添加し、溶液を混合し、水を必要重量まで添加する。
【0072】
種々の成分の量を表7に報告する。
【0073】
【表7】

【0074】
実施例9
天然抽出物を含有する口腔咽頭用スプレー剤の調製
天然抽出物、ソルビン酸カリウムおよび一塩基性リン酸ナトリウム一水和物を65mlの水に添加する。精製キシログルカンを添加し、完全に溶解するまで攪拌を8時間維持する。次いで、水を必要容量まで添加する。
【0075】
種々の成分の量を表8に報告する。
【0076】
【表8】

【0077】
実施例10
志願者における精製キシログルカンを含有する膣坐剤の有効性および耐容性の評価
実施例4にしたがって調製した膣坐剤の有効性および安全性を、ホルモン置換療法を受けていない閉経期の女性において膣の乾燥によって引き起こされる性交疼痛処置において評価した。
【0078】
このオープンスタディの目的は、性交疼痛、外陰焼灼感および掻痒感などの膣の乾燥と関連する一連の症状の低減における、実施例4の膣坐剤による処置の有効性を評価することであった。
【0079】
年齢が45〜65歳で、ほぼ3年間閉経状態であり、活動性の膣感染症のない8名の女性を本試験に登録した。処置計画は、膣経路による膣坐剤の投与を1日2回、8日間で予測した。
【0080】
クリニカルエンドポイントを、0(総体的症状なし)〜5(非常に強い総体的症状)のスコア段階を用いることにより評価した。
【0081】
患者はすべて、最後まで処置を受けた。該薬物は、表9に示されるように、局所レベルおよび全身レベルの両方で充分耐容性があり、有効であるという結果であった。副作用は観察されなかった。
【0082】
【表9】

【0083】
実施例11
キシログルカンおよびグリセロールを含有する調製物の局所耐容性試験
口腔粘膜に対する実施例9の口腔咽頭用スプレー剤の局所効果を、試験品目をSyrianハムスターの頬袋内に、7日間にわたった反復して配置した後の局所組織変化を検査することにより調べた。5匹の雄および5匹の雌動物で構成した一群を、各動物に対して0.5mlの用量を同じ日に2時間間隔で合計3回、各動物に対して合計1.5mlの日投薬量が与えられるように該医薬調製物で毎日処置した。
【0084】
対照群動物は、滅菌水で同じ期間処理した。該試験の全身性効果の徴候は、処置期間中、観察されなかった。軽微な粘膜刺激が、該医薬調製物で処置した動物において最後の適用のおよそ1時間後に観察されたが、24時間で副作用は観察されず、従って、ハムスター口腔粘膜における良好な耐容性が立証された。
【0085】
実施例12
キシログルカンおよびグリセロールを含有する調製物の遅発型(delayed)皮膚感作試験
モルモットモデルを、MagnussonおよびKligman(J. Invest. Dermatol., 268-276, 1969)の試験で使用し、遅発型皮膚感作を誘発および惹起した。感作を誘導するため、20匹の動物の試験群および10匹の動物の対照群に、完全フロイントアジュバント乳剤(前方部位)、未希釈試験品目(中間部位)および完全フロイントアジュバント乳剤中50%の濃度の試験品目(後方部位) を皮内注射した。1週間後、この適用を、注射部位における100%の試験品目の局所的適用によって追加免疫刺激した。対照群動物は、滅菌水で同じ期間処理した。第2の誘導段階の2週間後、すべての動物を両方のビヒクルの局所的適用によって抗原刺激した。
【0086】
試験終了時、試験群または対照群いずれの動物においても応答は見られず、ビヒクル単独に対する反応は、いずれの動物においても観察されなかった。
【0087】
実施例13
キシログルカンおよびグリセロールを含有する溶液の細胞毒性アッセイ
キシログルカンおよびグリセロールを含有する溶液のインビトロ細胞傷害性を、BALB/C3T3細胞において評価し、細胞毒性に関するニュートラルレッドの取込みの測定を、異なる濃度の試験品目で処理したBALB/C3T3細胞の培養物において行ない、処理の終了時、試験品目の毒性効果による細胞の形態の変化を評価するために該培養物を検査した。陰性対照および陽性対照をこの実験に含めた。
【0088】
試験品目を培養培地中で可溶化し、使用濃度を、39.1;78.1;156;313;625;1250;2500および5000マイクログラム/ミリリットルとした。24時間の処理時間後、細胞傷害性を解析した。試験品目での処理後、いずれの実験においてもいずれの試験濃度でも細胞の形態の変化は観察されず、関連性のあるニュートラルレッド取込みの低減も観察されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】実施例3の表2のデータにしたがって、漸増グリセロール濃度の精製キシログルカンを含有する製剤の粘膜付着性プロフィールを報告する。かかるプロフィールは、粘膜付着性の増大におけるグリセロールとキシログルカンの相乗効果を示す。
【図2】実施例3の表2のデータによると、粘膜付着性の増大が、それぞれの溶液の粘度値と関係していないことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中でキシログルカン構造を有する0.05〜5重量%の濃度の精製された天然ポリマーと、10〜70重量%の濃度のグリセロールとの組合せを含むヒト粘膜への適用に適した粘膜付着性製剤。
【請求項2】
キシログルカン構造を有する精製された天然ポリマーが、200秒-1の剪断速度および15分間の静止時間で機能する25℃の温度で150mPa・秒〜800mPa・秒の粘度、ならびに25℃の温度の2重量%の水溶液中で0.5abs単位未満の280nmにおける吸光度値を有することを特徴とする請求項1記載の粘膜付着性製剤。
【請求項3】
ヒト粘膜が、鼻粘膜、口腔咽頭粘膜および膣粘膜であることを特徴とする請求項1または2記載の粘膜付着性製剤。
【請求項4】
活性な医薬成分と、医薬調製物および医療用デバイスに適した賦形剤とを含有できることを特徴とする請求項1〜3に記載の粘膜付着性製剤。
【請求項5】
制御放出製剤の形態の請求項4記載の粘膜付着性製剤。
【請求項6】
制御放出が、キシログルカン溶液中のグリセロールの割合を調整することにより提供される請求項5記載の粘膜付着制御放出製剤。
【請求項7】
活性な医薬成分および賦形剤を、キシログルカン構造を有する0.05〜5重量%の精製された天然ポリマーおよび10〜70重量%のグリセロールとともに含むヒト粘膜の処置に適した医薬調製物および医療用デバイス。
【請求項8】
キシログルカン構造を有する精製された天然ポリマーが、200秒-1の「剪断速度」および15分間の静止時間で機能する25℃の温度で150〜800mPa・秒の粘度、ならびに25℃の温度の2重量%の水溶液中で0.5abs未満の280nmにおける吸光度値を有することを特徴とする請求項5記載の医薬調製物および医療用デバイス。
【請求項9】
活性成分が、抗生物質、抗真菌薬、抗原虫薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬、消毒薬、化学療法薬、鎮痛薬、防腐薬、粘液溶解薬、鎮咳薬、充血除去薬、カルシウム吸収剤、カルシウム調節剤、ホルモンおよびワクチンから選択されることを特徴とする請求項5および6記載の医薬調製物および医療用デバイス。
【請求項10】
液剤、ゲル剤、膣坐剤、スプレー剤、マウスウォッシュ、クリーム剤、軟膏剤、軟膏および洗浄液の形態であることを特徴とする請求項5〜7記載の医薬調製物および医療用デバイス。
【請求項11】
請求項1および2に記載の粘膜付着性製剤を酸ジクロフェナクまたはその塩とともに含有する、口腔咽頭用スプレー剤の形態の医薬調製物。
【請求項12】
請求項1および2に記載の粘膜付着性製剤をプロゲステロンとともに含有する、膣用ゲル剤の形態の医薬調製物。
【請求項13】
請求項1および2に記載の粘膜付着性製剤を塩酸ベンジダミンとともに含有する、膣洗浄液の形態の医薬調製物。
【請求項14】
請求項1および2に記載の粘膜付着性製剤を塩酸ベンジダミンとともに含有する、経口スプレー剤の形態の医薬調製物。
【請求項15】
請求項1および2に記載の粘膜付着性製剤をカルシトニンとともに含有する、鼻腔用スプレー剤の形態の医薬調製物。
【請求項16】
請求項1および2に記載の粘膜付着性製剤を賦形剤とともに含有する、保湿活性を有する膣用坐剤の形態の医療用デバイス。
【請求項17】
請求項1および2に記載の粘膜付着性製剤を賦形剤とともに含有する、柔軟活性を有する口腔咽頭用スプレー剤の形態の医療用デバイス。
【請求項18】
200秒-1の剪断速度および15分間の静止時間で機能することにより25℃の温度で150〜800mPa・秒の粘度値、ならびに25℃の温度の2重量%水溶液中で0.5abs未満の280nmにおける吸光度値を特徴とするキシログルカン構造を有する精製された天然ポリマー。
【請求項19】
タマリンドの種から得られることを特徴とする、請求項18記載のキシログルカン構造を有する精製された天然ポリマー。
【請求項20】
原料キシログルカンの抽出物0.5〜5重量%を、ある容量の冷蒸留水中に懸濁すること、得られた懸濁液を、4倍より大きい容量の沸騰蒸留水中に注入すること、沸騰下を維持し、15〜30分間攪拌すること、10〜20時間放置すること、4000〜8000rpmで15〜30分間遠心分離すること、上清みを6μmポリプロピレンフィルターに通して濾過すること、濾液を12000〜18000rpmで30〜60分さらに遠心分離すること、および濾液を0.22μmポリプロピレンフィルターに通して、または121℃のオートクレーブ内で20〜40分間のいずれかで、滅菌することを含むキシログルカン構造を有する天然ポリマーの精製方法。
【請求項21】
原料キシログルカン抽出物がタマリンドの種子の抽出物であることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
原料キシログルカン抽出物がDetarium senegalense Gmelinの抽出物であることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項23】
原料キシログルカン抽出物がAfzelia africanaの抽出物であることを特徴とする請求項20記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−542324(P2008−542324A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514019(P2008−514019)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際出願番号】PCT/EP2006/005240
【国際公開番号】WO2006/131262
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(590006228)アルファ ワッセルマン ソシエタ ペル アチオニ (1)
【Fターム(参考)】