説明

十字状の接合部を形成するシールドトンネルの止水構造とそれに用いる水膨張性シール材のコーナー部の成形方法

【課題】 高水圧にも耐える止水性能を有し、かつ、コーナー部のボリューム過多によるセグメントへの悪影響もない十字状の接合部を有するシールドトンネルの止水構造とそれに用いるシール材のコーナー部の成形方法を提供すること。
【解決の手段】 矩形湾曲板形状のセグメントを多数接合してなり、トンネル周方向に接合された隣接セグメントの接合境界面とトンネル軸方向に接合された隣接セグメントの接合境界面とが十字状の接合部を形成するトンネル構造体において、各セグメントの接合面に帯状の水膨張性シール材を連続的に装着してなるシールドトンネルの止水構造であって、前記十字状の接合部に会合する前記水膨張性シール材のコーナー部の内外隅がいずれも略直角に加工されるとともに、前記コーナー部の外隅端部の少なくともいずれか一方が減肉されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドトンネル工法におけるセグメントの目地間の止水構造とそれに用いる水膨張性シール材のコーナー部の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールドトンネル工法では、図6に示すように、ユニット化された多数の被シール部材としてのセグメント1を、坑道の周壁の方向aと、坑道の長さ方向bとの両方向に接合するが、それぞれの接合面には帯状のシール材3が介装され、漏水防止の機能を発揮させている。
【0003】
すなわち、各セグメント1の板面の4周縁には、シールドトンネルの軸方向(坑道の長さ方向a)に直角な方向(坑道の周壁の方向b)のリング面5と、シールドトンネルの軸方向に略平行となる方向のピース面7からなる接合面が形成されており、隣接するセグメント1は、互いに、その接合面5,7において、結合ボルト(ボルト孔9)によって接合されるが、これらセグメント1の組立に際しては、地山からの湧水の、トンネル内への漏洩を防止するために、各接合面にシール材3が装着される。
【0004】
シール材3をセグメント1の接合面5,7に装着する方法については、帯状のシール材3をそのまま接合面5,7に形成されたの溝に接着剤で貼り付けていく廻し貼りと呼ばれる方法、あるいは、予め長さをセグメント1の周長に合わせた定尺のシール材3を環状に加工し、これをセグメント1に嵌め込んで接合面5,7に装着する方法などがある。
シール材3の厚さが比較的小さい場合は、コーナー部を加工しなくても問題ないが、シール材3の厚さが増すほど、シール材3の弾力性に起因してシール材3をセグメント1のコーナーに密着させることが困難になり、また、シール材3のコーナー部における外隅のRが大きくなる結果、コーナー部でシール材3のボリュームが不足する。
【0005】
このようなシール材3の厚さが比較的大きい場合の問題点を解消するため、古くは、セグメント1の外周に沿った直線部分とL字状コーナー部とを接合する方法が用いられ、また、近年には、シール材3のコーナー部を加工する方法が提案され、実用化されている(特許文献1及び2参照。)。
特許文献1には、帯状のシール材の所定箇所に入れた切れ目を外側として直角に折り曲げ、この折り曲げ箇所に角柱状の未加硫のゴム材料を充填し、加硫プレス成形によりコーナー部を形成することが開示され、特許文献2には、切れ目を入れる代わりにV字状にカットし、上記と同様の成形方法で傾斜面を有する一部減肉したコーナー部を形成することが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特許第2524308号公報
【特許文献2】特開2001−132394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、シールド工法におけるトンネル構造体において、セグメントを接合して形成されるリング状構造体同士の接合形態は、通常、リング状構造体を構成する隣接セグメントの接合境界面が千鳥状になるように配置され、リング状構造体を構成する隣接セグメントの接合境界面と隣接するリング状構造体の接合境界面とがT字状の接合部を形成しており、従来のコーナー加工を施したセグメント用シール材は、いずれもこのようなT字状の接合部が形成されたトンネル構造体に対応したものであった。
【0008】
一方、近年、上記の接合形態以外に、リング状構造体を構成する隣接セグメントの接合境界面が面一に配置され、リング状構造体を構成する隣接セグメントの接合境界面と隣接するリング状構造体の接合境界面とが十字状の接合部を形成する接合形態が見られる。
【0009】
かかる接合形態においては、帯状のシール材を通常の廻し貼りで装着すると、コーナー部でボリューム不足になるため、高水圧条件での止水が困難であり、コーナー部のボリューム不足を補うためにコーナーシールを貼付すると、コーナー周辺のボリュームが過多になるため、シール材の圧縮反力によるセグメントのクラック発生要因にもなり、好ましくない。また、従来の高水圧対応のコーナー加工品を使用すると、十字状の接合部においてボリュームが過多になるため、やはりセグメントに悪影響を及ぼす。
【0010】
本発明は、上記の如く、十字状の接合部が形成されたシールドトンネル構造体に適した止水構造が知られていない現状に鑑み、高水圧にも耐える止水性能を有し、かつ、コーナー部のボリューム過多によるセグメントへの悪影響もない十字状の接合部を有するシールドトンネルの止水構造とそれに用いるシール材のコーナー部の成形方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、シール材のコーナー部を角形に加工するとともにコーナー部の外隅箇所を減肉してコーナー部のボリュームを調節することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明に係るシールドトンネルの止水構造は、矩形湾曲板形状のセグメントを多数接合してなり、トンネル周方向に接合された隣接セグメントの接合境界面とトンネル軸方向に接合された隣接セグメントの接合境界面とが十字状の接合部を形成するトンネル構造体において、各セグメントの接合面に帯状の水膨張性シール材を連続的に装着してなるシールドトンネルの止水構造であって、前記十字状の接合部に会合する前記水膨張性シール材のコーナー部の内外隅がいずれも略直角に加工されるとともに、前記コーナー部の外隅端部の少なくともいずれか一方が減肉されていることを特徴とするものである。
また、上記シールドトンネルの止水構造に用いる水膨張性シール材のコーナー部の成形方法は、水膨張性加硫ゴムからなる帯状のシール材本体の所定箇所において該シール材本体の全幅に亘って厚み方向に切れ目又は略V字状のカット部を設けて薄肉ヒンジ部を形成し、該薄肉ヒンジ部を内隅側として前記シール材本体を折り曲げることによって形成された前記切れ目又はカット部の開き箇所に未加硫ゴムを充填し、該充填部分の未加硫ゴムを加熱プレス機で加硫成形することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、十字状の接合部が形成されたシールドトンネル構造体において、シール材のコーナー部のボリュームを容易に調節することができ、高水圧にも耐える止水性能を有するとともにコーナー部のボリューム過多によるセグメントへの悪影響もないシールドトンネルの止水構造が得られるものであり、セグメントに装着されるシール材のコーナー加工は、従来のコーナー加工治具に若干肉盛りするだけで、従来のコーナー加工に用いる装置と方法を利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るシールドトンネルの止水構造及びシール材のコーナー部の成形方法について、好適な実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は十字状の接合部を有するトンネル構造体を示し、図2は本発明に係る止水構造に用いられるシール材全体を示し、図3はシール材のコーナー部においてその外隅端部の両方及び一方が減肉されている例を示し、図4及び図5はシール材のコーナー部の成形手順を示す。
【0014】
本発明に係るシールドトンネルの止水構造は、図1に示すとおり、リング状構造体を構成する隣接セグメントの接合境界面と隣接するリング状構造体の接合境界面とが十字状の接合部を形成するトンネル構造体に関するものである。
【0015】
本発明に係るシールドトンネルの止水構造に用いられるシール材は、図2に示すとおり、そのコーナー部の内外隅が略直角に加工されるとともに、その外隅端部が減肉されている。図3はコーナー部の部分拡大図であり、(a)は外隅端部の両方が減肉されている例を示し、(b)は外隅端部の両方が減肉されている例を示す。図3においては、減肉された部分の形状が三角錐状である実施態様を示したが、本発明は図示した例に限らず他の実施態様も包含する。
【0016】
また、シール材の減肉された部分の体積は、コーナー部の体積の5〜25%程度であることが望ましい。5%より小さいとコーナー部がボリューム過多になり易く、25%を超えると十分な止水圧が得られない可能性がある。
なお、減肉比率のベースになる角形加工された上記コーナー部の体積とは、外隅端部が減肉された角形コーナー部23に減肉された部分を加えた体積、すなわち、内外隅が直角に加工され、外隅端部が減肉されていないことを想定した真角柱状コーナー部の体積(シール材の厚さ×厚さ×幅)を指す。
【0017】
本発明において、十字状の接合部に会合するシール材の各コーナー部は、その外隅稜線部において、同形状に、かつ、シール材の幅方向に対称的に両外隅端部が減肉されていることが、シール材のコーナー部のボリュームを補う上でバランスがよく、止水性能を高める観点から好ましい。
また、角形に加工されたコーナー部の外隅中央部が減肉されずに残存しているので、各コーナー部の会合箇所における止水圧を高める効果がある。
【0018】
セグメント用シール材が装着されるセグメント1は、矩形板状に形成されるとともに板面が湾曲して形成され(図6参照)、対辺位置となるシールドトンネルの軸方向(坑道の長さ方向b)に直角な方向(坑道の周壁の方向a)の一対のリング面5と、このリング面5に隣り合いシールドトンネルの軸方向に略平行となる方向のピース面7からなる接合面が形成されている。
【0019】
本発明に係るシールドトンネルの止水構造に用いられるシール材21は、セグメント1の外周に沿った無端環状に形成され、セグメント1の各コーナーに対応する角形コーナー部23を有している。角形コーナー部23は、セグメント外周部の出隅部を挟んで直交する二方向の接合面であるリング面5,ピース面7に亘って貼り付けられる。
接合面5,7にはシール装着用溝が形成され、シール材3はその溝中に装着される。
【0020】
角形コーナー部23は内外隅が角形に加工され、その外隅において減肉されている。
したがって、本発明に係るシールドトンネルの止水構造においては、シール材のコーナー部におけるボリューム不足をコーナー部の角形加工により解消するとともに、セグメントの締結時における角形コーナー部23の突出量をコーナー部の外隅における減肉量で調節することによりボリューム過多になるのを防ぐことが可能である。
【0021】
シール材21は、ゴム物質と水膨張性樹脂とを主成分とする水膨張性シール材からなる。ゴム物質としては、天然ゴム、クロロプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、EPDMゴム等が用いられる。水膨張性樹脂としては、ポリアクリル酸系、イソブチレン・無水マレイン酸系、ポリウレタン系、ポリビニルアルコール系等が用いられる。これらゴム物質と水膨張性樹脂に加硫剤、加硫促進剤、無機質充填剤、着色剤、軟化剤等の適宜な添加剤を混合して得ることができる。
【0022】
次に、このシール材21の製造方法、特に、角形コーナー部23の成形方法について図4に示される手順に従って説明する。
【0023】
シール材21は、先ず、水膨張性シール材を押し出し成形して帯状のシール材本体25を成形する。なお、この水膨張性シール材は、非水膨張性ゴム層をベースとし、これに水膨張性ゴム層を組み合わせた複合型が好ましい。
【0024】
次いで、シール材本体25を加硫した後、セグメント1の周長、すなわち、セグメント1の4つの接合面の合計長さに切断し、得られた定尺のシール材本体25をセグメント1に装着したとき、セグメント1の各コーナーに対応する4箇所に、図4(a)に示すとおり、シール材本体25の全幅に亘って厚み方向に切れ目を入れて薄肉ヒンジ部をそれぞれ形成する。
【0025】
次に、図4(b)に示すとおり、このヒンジ部が内隅側になるようにシール材本体25を直角に折り曲げ、切れ目が開いて形成された開き個所に、角柱状の未加硫ゴムを充填する。
その後、未加硫ゴムの充填部を加熱プレス機でプレスし、プレス状態で一定時間加熱して加硫することにより、図4(c)に示すとおり、外隅端部を減肉した角形コーナー部23を成形することができる。
【0026】
図4においては、シール材の厚み方向に入れた切れ目を直角に開く態様について述べたが、外隅端部をより深く減肉する場合には、図5(a)に示すとおり、先ず、シール材本体25の全幅に亘って厚み方向に略V字状のカット部を設けて薄肉ヒンジ部を形成し、以下前記手順と同様にして、図5(b)に示すとおり、シール材本体25を直角に折り曲げてV字カット面が鈍角に開いた開き個所を形成し、これに角柱状の未加硫ゴムを充填した後にプレス加硫し、図5(c)に示すとおり、外隅端部を深く減肉した角形コーナー部が形成される。
【0027】
角形コーナー部23を4箇所形成したシール材21の両端部25aを対向させ、ゴム系硬化型接着剤を塗布して接合する。
なお、ゴム系硬化型接着剤としては、塩素化天然ゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリブタジエンゴム等のゴム成分と、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等の低温硬化剤、フェノール樹脂、レゾール樹脂、ポリイソシアネート等の硬化剤成分からなる2液の溶剤タイプのものを挙げることができる。
【0028】
その後、接着部分を加熱して硬化させ、図2に示すとおり、角形コーナー部23を4箇所有する環状のシール材21を得ることができる。
【0029】
なお、上述した実施の形態では、押出成形にて得られる帯状のシール材本体25をセグメント1の各接合面の合計長さに切断して、セグメント1の各隅部に沿わせる4箇所を角形にコーナー加工し、シール材本体25の各端部25aを接合して無端環状にシール材21を形成させる例について述べたが、環状に形成しない帯状のシール材21をセグメント1の接合面に装着してもよく、また、シール材本体25の2箇所を角形にコーナー加工したものを2つ接合してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】十字状の接合部を有するトンネル構造体を示す説明図である。
【図2】本発明に係る止水構造に用いられるシール材全体を示す正面図である。
【図3】シール材のコーナー部においてその外隅端部の両方及び一方が減肉されている例を示す斜視図である。
【図4】シール材のコーナー部の成形手順(切れ目を入れる場合)を示す説明図である。
【図5】シール材のコーナー部の成形手順(V字カットする場合)を示す説明図である。
【図6】従来のトンネル構造体を示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1・・・セグメント
5・・・リング面
7・・・ピース面
21・・・セグメント装着用シール材
23・・・角形コーナー部
25・・・シール材本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形湾曲板形状のセグメントを多数接合してなり、トンネル周方向に接合された隣接セグメントの接合境界面とトンネル軸方向に接合された隣接セグメントの接合境界面とが十字状の接合部を形成するトンネル構造体において、各セグメントの接合面に帯状の水膨張性シール材を連続的に装着してなるシールドトンネルの止水構造であって、前記十字状の接合部に会合する前記水膨張性シール材のコーナー部の内外隅がいずれも略直角に加工されるとともに、前記コーナー部の外隅端部の少なくともいずれか一方が減肉されていることを特徴とするシールドトンネルの止水構造。
【請求項2】
前記コーナー部の外隅端部の両方が減肉されている請求項1に記載のシールドトンネルの止水構造。
【請求項3】
前記水膨張性シール材の減肉された部分の体積が前記コーナー部の体積の5〜25%である請求項1又は2に記載のシールドトンネルの止水構造。
【請求項4】
水膨張性加硫ゴムからなる帯状のシール材本体の所定箇所において該シール材本体の全幅に亘って厚み方向に切れ目又は略V字状のカット部を設けて薄肉ヒンジ部を形成し、該薄肉ヒンジ部を内隅側として前記シール材本体を折り曲げることによって形成された前記切れ目又はカット部の開き箇所に未加硫ゴムを充填し、該充填部分の未加硫ゴムを加熱プレス機で加硫成形することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシールドトンネルの止水構造に用いる水膨張性シール材のコーナー部の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−207217(P2006−207217A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19439(P2005−19439)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】