説明

半導体ウェハーの製造方法及び半導体ウェハー

【課題】シリコンインゴットを切断装置で分断してシリコンブロックを加工したときに発生しがちな加工歪を除去及びシリコンブロックの薄板にスライスするときなどに発生しがちな、薄板の割れ、欠けなどを抑制した半導体ウェハーの製造方法及び半導体ウェハーを提供すること。
【解決手段】本発明の半導体ウェハーの製造方法は、以下(1)〜(4)の工程を含むことを特徴とする。(1)半導体シリコンインゴットを分断して所定大きさのシリコンブロックに形成するブロック形成工程、(2)前記シリコンブロックを酸化性雰囲気中で熱処理して、そのブロックの表面に二酸化珪素膜を形成する成膜工程、(3)前記シリコンブロックを前記二酸化珪素膜を介してワークに装着するワーク装着工程、(4)前記ワークに装着された前記シリコンブロックを切断装置で所定肉厚の薄片にスライスしてウェハーを形成するスライス工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体ウェハーの製造方法及び半導体ウェハーに係り、詳しくは半導体シリコンインゴットから所定大きさのシリコンブロックに切り出す際、或いはこのシリコンブロックを機械加工して所要形状の部材に加工する際に発生しがちな加工歪み、チッピング、割れ欠けなどの発生を抑制して、高い歩留まりを確保した、特に太陽電池に好適な半導体ウェハーの製造方法及びこの方法で製造された半導体ウェハーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体シリコンは、半導体集積回路(IC)及び太陽電池などの基板材料として使用されている。特に、太陽光からクリーンな電気エネルギーへ変換する太陽電池の基板材料としては、薄膜型の有機物からなるものもあるが、シリコン半導体基板からなるものが多く使用されている。
【0003】
シリコン半導体基板を用いた太陽電池は、多結晶或いは単結晶シリコン半導体材料を加工した半導体ウェハー(以下、ウェハーという)を用いて製造されている。このウェハーは、所定大きさのシリコンインゴットを所定形状の複数個のシリコンブロックに切断した後に、個々のブロックを所定厚の薄板にスライスする工程を経て製造されている。
【0004】
多結晶シリコンインゴットは、通常、鋳造法によって製造されている。この鋳造法は、石英製ルツボなどに原材料の多結晶シリコンを充填して、鋳造炉内で加熱することによって多結晶シリコン原料を溶融させて、この溶融した多結晶シリコンを黒鉛製ルツボなどの鋳型に流し込んで凝固させる工程などでシリコンインゴットを製造する方法である。この鋳造法では、また凝固したシリコンインゴットをそのまま冷却させてしまうと、多結晶シリコンインゴットに大きな残留応力が生じて、割れ、ヒビなどの原因となるので、凝固終了後に、鋳造炉内において高温で加熱処理する、いわゆる炉内アニール処理を施して、これらの割れ、ヒビなどの発生を抑制している。
【0005】
ウェハーは、このシリコンインゴットを複数に分断するブロック形成工程、分断されたシリコンブロックを所定厚の薄片にスライスするスライス工程などの機械加工を経て作成されるが、これらの工程中で機械加工による加工歪み、うねりなどが発生し、割れ、チッピング、ヒビ或いは欠けなどが発生する。勿論、上記のシリコンインゴットの製造工程において、シリコンインゴットに残留応力が発生していると、次工程のシリコンブロック形成及びスライス工程で同様の割れ、チッピング、ヒビなどの破損が発生する。そこで、これまでのシリコンインゴットの鋳造法及びシリコンブロックの加工法では、これらの歪、割れ、チッピング、ヒビ或いは欠けなどの破損を防止するための対策が講じられている(例えば、下記特許文献1〜3参照)。
【0006】
例えば、下記特許文献1に開示されている多結晶シリコンインゴット及び多結晶シリコン部材の製造方法は、従来技術の凝固終了後の熱処理工程を工夫して上記課題を解決したものである。具体的には、シリコンインゴットは、結晶シリコンインゴットを鋳造する工程、鋳造後のシリコンインゴットを鋳型より取り出し保持する工程、さらに1000〜1400℃に昇温して、その後、冷却する熱処理工程を順次行い製造するものである。また、シリコン部材は、鋳造された多結晶シリコンインゴットをシリコンブロックに機械加工する工程、シリコンブロックを1000〜1400℃に昇温した後に冷却する熱処理工程、熱処理後に所望形状部材に機械加工する工程を順次行って所要形態の部材を製造するものである。また、下記特許文献2には、シリコンブロックに切り出す際に発生した歪みを化学エッチングによって除去する方法が開示されている。さらに、下記特許文献3には、ブラシ研磨によって、シリコンブロック表面の加工歪みを除去する方法が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−161575号公報(段落〔0018〕〜〔0021〕)
【特許文献2】特開2006−278701号公報(段落〔0034〕〜〔0037〕、図1)
【特許文献3】特開2004−356657号公報(段落〔0016〕〜〔0019〕、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に開示された製造方法によれば、シリコンブロックを高温(1000〜1400℃)で処理することにより、シリコンブロック表面の歪みを除去することができる。しかしながら、この方法は、大気雰囲気下で熱処理し、一方で酸素雰囲気での処理はシリコン内部に不純物が拡散するので好ましくないとされている。また、上記特許文献2の方法は、ブロックに切り出すことで発生した歪みを化学エッチングで除去するものであるが、この方法は強酸を用いるのでエッチングの制御が難しいという課題がある。さらに、上記特許文献3の方法は、ブラシ研磨によってシリコンブロック表面の加工歪みを除去するものであるが、この方法ではワイヤーソー工程で発生しがちなチッピングなどを抑制できるが、この工程後の割れ、欠けなどの発生を抑制することが難しい。
【0009】
本発明は、上述のような従来技術が抱える課題を解決するためになされたものであって、本発明の目的は、シリコンインゴットを切断装置で分断してシリコンブロックを加工したときに発生しがちな加工歪みを除去及びシリコンブロックを薄板にスライスするときなどに発生しがちな、薄板の割れ、欠けなどを抑制した半導体ウェハーの製造方法及び半導体ウェハーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の半導体ウェハーの製造方法は、以下(1)〜(4)の工程を含むことを特徴とする。
(1)半導体シリコンインゴットを分断して所定大きさのシリコンブロックを形成するブロック形成工程、
(2)前記シリコンブロックを酸化性雰囲気中で熱処理して、その表面に二酸化珪素膜を形成する成膜工程、
(3)前記シリコンブロックを前記二酸化珪素膜を介してワークに装着するワーク装着工程、
(4)前記ワークに装着された前記シリコンブロックを切断装置で所定肉厚の薄片にスライスするスライス工程。
【0011】
上記半導体ウェハーの製造方法に係る発明によれば、成膜工程(2)において、シリコンブロックを酸化性雰囲気中で熱処理することによって、半導体シリコンインゴットから所定大きさのシリコンブロックに切断したときに発生しがちな表面加工歪み、すなわちブロック表面付近の格子欠陥を緩和することができる。同時にまた、この工程では、シリコンブロックの表面に二酸化珪素膜が成膜されるので、ワークへ装着、例えば接着材で接着する際に、接着剤をシリコン材に直接接触させずに接着できる。そのため、シリコン材にストレスが掛からなくなる。また、次のスライス工程(4)での切断装置によるスライス或いはその後の接着剤からのウェハー剥離が容易になる。その結果、各工程において、シリコン材のチッピング、割れ欠け不良が減少して品質及び歩留まりが向上し、また、接着工程、スライス加工及びその後の剥離工程の作業性の向上を図ることができる。
【0012】
また、上記半導体ウェハーの製造方法において、前記二酸化珪素膜の成膜の厚さは、0.5μm〜2.0μmであると好ましい。
【0013】
上記好ましい態様によれば、二酸化珪素膜の厚さを0.5μm〜2.0μmの範囲にすることにより、上記の作用効果を適格に奏することができる。また、この範囲の膜厚にすると成膜時間の短縮ができて生産性の低下をきたすことがない。
【0014】
また、上記半導体ウェハーの製造方法において、前記スライス工程は、前記切断装置にワイヤーソー切断機を用いて、前記ワイヤーソー切断機は、前記二酸化珪素膜を切削するときの切削速度を前記シリコンブロックのシリコン材を切削するときの切削速度よりも遅い速度にしてスライスすると好ましい。
【0015】
上記好ましい態様によれば、切断装置にワイヤーソー切断機を用い、この切断機の切削速度を2段変速にして、二酸化珪素膜の切削速度をシリコン材の切削速度よりも遅くすることにより、シリコンブロックをスライスする時に発生しがちなチッピング、割れ欠けなど不良発生を抑制できる。すなわち、二酸化珪素膜の切削速度をシリコン材の切削速度と同等或いはそれ以上に早めると、切断箇所が定まらない段階での振動の多い切断となってしまい、その結果、周辺部分でウェハー厚みが薄くなり易く、しかもチッピング、割れ欠けなどの不良が多くなるが、上記のように遅くすることにより、これらの不良を抑制できる。
【0016】
本発明の半導体ウェハーは、上述した半導体ウェハーの製造方法で製造されたことを特徴とする。
【0017】
上記半導体ウェハーに係る発明によれば、チッピングや割れ欠けなどの不良がない高品質の半導体ウェハーを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の最良の実施形態を説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための半導体ウェハーの製造方法及び半導体ウェハーを例示するものであって、本発明をこれらに特定することを意図するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものも等しく適応し得るものである。
【0019】
最初に、主に図1を中心にして、本発明の実施形態に係る半導体ウェハーの製造工程を説明する。なお、図1は本発明の実施形態に係る半導体ウェハーの製造工程を示す工程図である。
半導体ウェハーの製造工程は、図1に示すように、先ず、シリコンインゴット製造メーカなどで製造されたシリコンインゴットが加工メーカ、すなわちスライス専門メーカへ受け入れられる(S1)。このスライス専門メーカでは、このシリコンインゴットをダイヤモンドバンドソーなどの大型バンドソーを用いて所定の大きさを有する、例えば複数本の角柱状のシリコンブロックに分断する(S2)。これらのシリコンブロックは、同様の小型バンドソーを用いて端部を切り落として所定形状のシリコンブロックに形成する(S3)。次いで、このシリコンブロックを例えば図2及び図3に示すような熱処理装置3あるいは3Aまで搬送して、この熱処理装置3又は3Aにより、所定の酸化性雰囲気中において、所定温度で所定時間掛けてシリコンブロックの表面に所定厚の二酸化珪素膜を形成する(S4)。
【0020】
上記酸化性雰囲気について詳述すると、この酸化性雰囲気は、非酸化物(シリコン)を酸化させることができる雰囲気であって、乾燥した、又は少量の水蒸気を含む酸素などの気体で形成される。これらの気体のうち、前者の酸素は、一般にドライ酸素とも呼ばれているもので、このガスを使用することにより、酸化速度が少し遅くなるが緻密な二酸化珪素膜を形成できる。また、後者の酸素は、酸素に少量の水蒸気を含ませたものでウエット酸素とも呼ばれており、この酸素は水蒸気の存在によって酸化反応が加速されるので、酸化反応が速く、厚い成膜を形成できる。
【0021】
この酸化性雰囲気を構成する酸素は、その濃度は100%が望ましいが、他の気体、例えば空気を混入したものでよい。この空気の混入率は、少なくとも酸素濃度が30%以上となるように調整すると好ましい。このような酸素濃度であれば、これらの気体の流量を少なくしてもシリコンブロックに厚みのバラツキの少ない二酸化珪素膜を形成することができる。しかしながら、空気のみとした、いわゆるドライ空気は好ましくない。その理由は、空気は概ね酸素21重量%、窒素79重量%の混合ガスで構成されており、酸素の分圧が低くしかも水蒸気を含んでいないので酸化速度が非常に遅く、所定厚の成膜ができないためである。すなわち、シリコンブロックの歪みを除去するだけであれば、ドライ空気も有効であるが、この実施形態では、酸化性雰囲気中で熱処理を行なうことによって、シリコンブロックの歪み除去だけでなく、シリコンブロック表面に所定厚の二酸化珪素膜を形成して、この成膜を次工程でワイヤーソーワークへ接着する際に、ワークとの接着界面に利用するので、この成膜が殆ど形成されないか、成膜されても長時間掛りしかも所定の厚みを形成するのが難しいドライ空気は使用できない。なお、このワークとの関係は後述する。
【0022】
熱処理条件のうち、処理温度は、シリコンウェハーから作る半導体デバイスの製造工程を考慮して決めるのが好ましい。すなわち、半導体デバイスの製造工程における最高温度よりも30〜50℃高い温度とするのが好ましく、この温度は約1100〜1150℃である。また、処理時間は1〜10時間の範囲にし、この時間帯でも3時間程度が好ましい。さらに、成膜する膜厚は、0.5μm〜2.0μmが好ましい。この範囲外であると、効果が少なく、成膜に時間が掛かるなどの課題が出現するからである。
【0023】
この条件の熱処理によって、シリコンブロックは、前工程などで発生した歪みなどを除去できるとともに、ブロックの表面に所定厚さの二酸化珪素膜を成膜できる。この成膜によって、シリコンブロックをワークへ接着剤で接着する際に、シリコンブロックが直接接着剤に接触されなくなるので、シリコンブロックにストレスが掛からなくなり、ワイヤーソー及び接着剤からのウェハーの剥離が容易になる。その結果、ワイヤーソー及びその後の剥離時でのチッピングや割れ欠けなどの不良発生を抑制できる。
【0024】
次に、この熱処理を行なう熱処理装置を図2及び図3を参照して説明する。なお、図2は熱処理装置を示す概略平面図、図3は別の熱処理装置の概略図である。
図2の熱処理装置3は、ドライ酸素を用いて熱処理する装置の一例である。この熱処理装置3は、図2に示すように、内部にシリコンブロック1を収容できる大きさの空間Sを設けた電気炉4を有している。この電気炉4は、空間Sを有する炉本体5と、炉本体5の開口5bを開閉自在に覆う扉6とを有し、これらの炉本体5及び扉6は、いずれも耐熱性を有する材料で形成されている。炉本体5は、一端に酸素供給源に連結される入口5aと、他端にシリコンブロック1を搬入・搬出できる大きさの開口5bとが形成されている。扉6には、炉本体5内部の酸素を外部へ導出する出口6aが設けられている。炉本体5の周囲には、内部を加熱するヒータ7が設けられている。この電気炉4には、酸素供給源10及び気体処理装置11に配管P、Pで連結されている。
【0025】
この熱処理装置3の使用状態について説明すると、先ず電気炉4の扉6を開いて炉本体5内の空間Sにシリコンブロック1を挿入する。その後、炉本体5の開口5bを扉6で塞閉し、ヒータ7への通電を開始して、空間S内を所定温度に昇温する。この状態で、酸素供給源10から電気炉4内に所定量のドライ酸素を所定時間継続して供給し、電気炉4から送出される酸素は、気体処理装置11へ送られて処理される。この熱処理装置3によって、シリコンブロック1は、歪みなどが除去されるとともに、その表面に所定厚さの二酸化珪素膜2が形成される。
【0026】
図3の熱処理装置3Aは、ウエット酸素を用いて熱処理する装置の一例である。この熱処理装置3Aは、上述した処理装置3と比べて、酸素供給源10と電気炉4との間に、加速酸化用水容器8を配設した構成が異なるのみで他の構成は同じになっている。すなわち、この加速酸化用水容器8は、所定量の水9を貯留できる大きさの容器で構成されており、この容器は酸素供給源10へはパイプP11により、及び電気炉4へはパイプP12によりそれぞれ接続されている。
【0027】
そして、この容器内に貯留した水9をバブリングすることで電気炉4へ少量の水蒸気を含んだ酸素を供給して、シリコンブロック1に所定厚さの二酸化珪素膜を形成できる。
【0028】
再び図1に基づいて半導体ウェハーの製造工程を説明すると、工程S4で熱処理したシリコンブロックは、次の工程S5において、図4に示すように、接着剤13でワーク(台座)12に接着固定する。なお、図4はシリコンブロックをワークへ接着した状態の斜視図である。
【0029】
この固定は、図4に示すように、ワーク12にガラス板(図示省略)を固定し、このガラス板に所定の接着剤、例えばエポキシ樹脂からなる接着剤13を塗布して、シリコンブロック1を載置して接着する。この接着により、ワーク12とシリコンブロック1とは、シリコンブロック1の表面に成膜された二酸化珪素膜を介在して接着固定される。
【0030】
この接着固定は、シリコンブロック1が接着剤13と直接接触することなく二酸化珪素膜2を介して接着されるので、シリコンブロック1にストレスが掛からなくなり、ワイヤーソー及び接着剤からのウェハーの剥離が容易になる。その結果、ワイヤーソーによるスライス加工時及びその後の剥離時でのチッピングや割れ欠けなどの不良発生を抑制できる。すなわち、シリコンブロックの接着面に利用するエポキシ樹脂は硬いため、ワイヤーソーによるスライス加工中及び加工後にしばしば接着部のシリコンに応力をかけ、破壊させる。その結果、スライシングしたウェハーの周辺部にチッピングと呼ばれる小さなクラックを発生させ、品質の低下や歩留まりの低下となるが、成膜を介して接着することにより、このような課題は解決できる。
【0031】
ワーク12に固定されたシリコンブロックは、例えば図5に示すようなマルチワイヤーソー装置15を用いて所定肉厚の薄片にスライスする(S6)。なお、図5はマルチワイヤーソー装置の主要部を示した概要図である。
【0032】
マルチワイヤーソー装置15は、図5に示すように、1本のワイヤー18が巻き付けられる3本のローラー16A〜16Cが備え付けられている。これらのローラー16A〜16Cのうち、ローラー16Aはモータ等からなる駆動源19に連結されて駆動ローラーとなっており、他の2本のローラー16B、16Cはこの駆動ローラー16Aの回転に追随して回転する従動ローラーとなっている。駆動ローラー16Aは駆動源19によって設定速度で回転される。各ローラー16A〜16Cの外周表面には複数本の溝17a〜17cが所定ピッチで形成されており、1本のワイヤー18がこれらの溝17a〜17cに嵌め込まれるようにして巻き付けられる。溝17a〜17cのピッチは、切断加工によって切り出す薄板の厚さによって設定されている。ワイヤー18は、例えば硬鋼線(ピアノ線)から形成され、その太さは0.06〜0.25mm程度のものが使用される。このワイヤー18の一端18Aは不図示の送出しリールに巻回されており、他端18Bは不図示の巻取りリールに巻き付けられている。
【0033】
このワイヤー18は、駆動ローラー16Aの回転に応じて数キログラム重の張力を受けながら案内されて、所定速度で一定方向に沿って走行しながら、送出しリールから巻取りリールに巻き取られる。
【0034】
マルチワイヤーソー装置15を用いたシリコンブロックの切断処理は、ワーク12を走行するワイヤー18のうち、各従動ローラー16B、16Cとの間に張架した部分に所定速度Vで移動させてシリコンブロック1をワイヤーへ押し当てる。この押し当てにより、一定ピッチで配列されたワイヤー18がマルチワイヤーソーとして、先ず、シリコンブロック表面の二酸化珪素膜2を切断速度Vで切断する。その後、シリコンブロック1をワイヤー18に押し当てて切断速度Vで切断する。シリコンブロック1を切断した後に、再び接着剤で接着された部分の二酸化珪素膜2を切断し、最後に、ワーク12に固定されたガラス板(図示省略)の一部を切削して、ワイヤー列のピッチ及びワイヤーの太さによって決まる厚さの多数のウェハーを同時に切り出す。切出されたウェハーは、接着剤13によってワーク12に結合されている。この切断は、ローラー及びシリコンブロックにスラリーが供給されて行なわれる。
【0035】
二酸化珪素膜2の切断速度Vとシリコンブロック1の切断速度Vとの関係は、V<Vとするのが好ましい。二酸化珪素膜2の切断速度Vをシリコンブロック1の切断速度Vと同等以上に早めると切断箇所が定まらないままの振動の多い切断となり、その結果、周辺部分でウェハー厚みが薄くなりやすくチッピング、割れ、欠けなどの不良が発生するからである。
【0036】
再び図1に基づいて半導体ウェハーの製造方法を説明すると、スライシングが終了したシリコンブロック1は、所定の剥離液に浸漬して、ワーク12からウェハーを剥離する(S7)。このとき、各ウェハーは、接着剤13で結合された状態でワーク12に固定されている。各ウェハーは、このスラリー及び工程S6で使用された接着剤13を除去するために、所定の洗浄液に浸漬されてスラリーの除去及び接着剤13の剥離を行なう(S8)。洗浄されたウェハーは、所定の検査工程(S9)を経た後に、製品として太陽電池製造メーカなどへ出荷される(S10)。
【0037】
以下、上述した工程からなる本発明の半導体ウェハーの製造方法を実施した実施例について説明する。
【0038】
[実施例1]
底辺の縦70センチ横85センチ高さ25センチの多結晶シリコンインゴットから、一辺が約16センチで長さ25センチのシリコンブロック1をバンドソーで切り出した。なお、切り出したシリコンブロック1の表面には段差、ソーマーク、表面凹凸を肉眼で観察することができた。このシリコンブロック1を図2に示す熱処理装置3を用い、1100℃で3時間保持した後に10℃/分で徐冷した。この熱処理によりシリコンブロック1の表面に0.5μmの二酸化珪素膜2が形成された。このシリコンブロック1上の二酸化珪素膜2とワイヤーソー用のワーク12(台座)との間にエポキシ系接着剤13を介在して接着した(図4参照)。
【0039】
その後、図4に示すように、ワイヤーソー(砥粒:#1200、ピアノ線径:140μm、ピアノ線の移動速度:5m/秒、二酸化珪素2部分のワーク移動速度:0.1m/秒)を用いてスライス加工して、厚みが200μmのウェハーを得た。なお、シリコンブロック1部分のワーク移動速度は、3m/秒である。結果は、下記表1の通り。
【0040】
[実施例2]
直径20センチの円筒状シリコン単結晶から、一辺16センチ、長さ40センチのシリコンブロック1をバンドソーで切り出した後、図3に示す熱処理装置3Aで熱処理、すなわちシリコンブロック1を95℃の水を潜り抜いた(バブリング)酸素雰囲気中で、1150℃で5時間保持して、厚み1.3μmの二酸化珪素膜2を得た。このシリコンブロック1を実施例1と同様にワーク12に接着し、その後ワイヤーソーで切断した。結果は、下記表1の通り。
【0041】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は本発明の実施形態に係る半導体ウェハーの製造工程を示す工程図である。
【図2】図2は図1の工程で使用される熱処理装置を示す概略平面図である。
【図3】図3は図2の処理装置と異なる別の熱処理装置の概略平面図である。
【図4】図4はシリコンブロックをワークへ接着した状態の斜視図である。
【図5】図5はマルチワイヤーソー装置の要部概略図である。
【符号の説明】
【0043】
1 シリコンブロック
2 二酸化珪素膜
3、3A 熱処理装置、石英治具
4 電気炉
5 炉本体
6 扉
7 ヒータ
8 加速酸化用水容器
9 水
10 酸素供給源
11 気体処理装置
12 ワーク
13 接着剤
15 マルチワイヤーソー装置
16A〜16C ローラー
17a〜17c 溝
18 ワイヤー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(1)〜(4)の工程を含むことを特徴とする半導体ウェハーの製造方法。
(1)半導体シリコンインゴットを分断して所定大きさのシリコンブロックを形成するブロック形成工程、
(2)前記シリコンブロックを酸化性雰囲気中で熱処理して、その表面に二酸化珪素膜を形成する成膜工程、
(3)前記シリコンブロックを前記二酸化珪素膜を介してワークに装着するワーク装着工程、
(4)前記ワークに装着された前記シリコンブロックを切断装置で所定肉厚の薄片にスライスするスライス工程。
【請求項2】
前記二酸化珪素膜の成膜の厚さは、0.5μm〜2.0μmであることを特徴とする請求項1に記載の半導体ウェハーの製造方法。
【請求項3】
前記スライス工程は、前記切断装置にワイヤーソー切断機を用いて、前記ワイヤーソー切断機は、前記二酸化珪素膜を切削するときの切削速度を前記シリコンブロックのシリコン材を切削するときの切削速度よりも遅い速度にしてスライスすることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体ウェハーの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の半導体ウェハーの製造方法により製造されたことを特徴とする半導体ウェハー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−182180(P2009−182180A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20362(P2008−20362)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000133685)株式会社ティ・ケー・エックス (8)
【Fターム(参考)】