説明

半導体ウエハの不純物分析方法

【課題】 シリコンおよびゲルマニウムからなるウエハに含まれる不純物量を、効率的かつ高精度で測定可能とするために、最小限の工程で、測定試料を調製して分析する半導体ウエハの不純物分析方法を提供する。
【解決手段】 シリコンおよびゲルマニウムからなるウエハ表面に、フッ化水素酸の濃度が0.31〜0.0063%、硝酸の濃度が67.4〜68%である混酸を接触させて溶解した回収液を加熱濃縮して、シリコン成分およびゲルマニウム成分を揮発させたものを測定試料として、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置または原子吸光分析装置にて不純物分析を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンおよびゲルマニウムからなるウエハに含まれる不純物量またはウエハの厚さ方向における不純物分布を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハに含まれる金属不純物は、該ウエハから作製される半導体デバイスの特性に深刻な影響を及ぼすため、該ウエハの純度を分析して、厳密に品質管理することが重要である。
前記半導体ウエハに含まれる微量の金属不純物の検出には、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)、原子吸光分析装置(AAS)等が一般に用いられ、これらによる分析を行うためには、測定試料を溶液化する必要がある。
【0003】
例えば、ウエハ表面のシリコン薄膜に含まれる金属不純物量の測定方法としては、前記シリコン薄膜をフッ化水素酸と硝酸との混酸でエッチングし、ウエハを加熱してエッチング液を濃縮乾固させて、シリコン成分を蒸発させた後、該ウエハ表面について、直接、全反射蛍光X線分析を行う方法の他、ウエハ表面を測定目的の金属元素を溶解可能な希酸等に溶解させて、ICP−MS等にて分析する方法が知られている。
【0004】
しかしながら、数十%のゲルマニウムを含むようなシリコンおよびゲルマニウムからなるウエハ(以下、SiGeウエハともいう。)の場合には、上記のような方法による試料調製では、測定目的とされないゲルマニウムを多量に含有する測定試料となる。この多量のゲルマニウムの存在により、分析装置の感度の低下、さらには、装置内の汚染等が招来され、正確な分析を行うことは困難であった。
【0005】
これに対しては、例えば、特許文献1に、SiGeウエハの分析方法として、フッ化水素酸と硝酸の混酸をウエハ表面に接触させてウエハを分解した液を、加熱濃縮によりシリコン成分を揮発させた後、塩酸を添加して、再度加熱濃縮してゲルマニウム成分を揮発させ、ICP−MSで測定する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−85339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1記載の方法は、分解液を一旦加熱濃縮した後、塩酸を添加して再度加熱濃縮して、ゲルマニウム成分を揮発させるものであり、多段階の工程を経ることから、不純物混入および測定目的とする微量の金属元素のロス等の機会が多いものである。
また、2回の濃縮に時間を要するため、効率面でも劣り、さらに、使用される塩酸に含まれる不純物による検出限界が高くなるという課題も有していた。
【0007】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、シリコンおよびゲルマニウムからなるウエハに含まれる不純物量を、効率的かつ高精度で測定可能とするために、最小限の工程で、測定試料を調製して分析する半導体ウエハの不純物分析方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る半導体ウエハの不純物分析方法は、シリコンおよびゲルマニウムからなるウエハに含まれる不純物の分析において、前記ウエハ表面に、フッ化水素酸と硝酸の混酸を接触させて溶解した回収液を加熱濃縮して、シリコン成分およびゲルマニウム成分を揮発させたものを測定試料とすることを特徴とする。
上記方法によれば、ゲルマニウムをフッ化物として揮散させることができ、最小限の工程で測定試料を調製して、効率的かつ高精度で、SiGeウエハ中の不純物分析を行うことができる。
【0009】
前記混酸は、フッ化水素酸の濃度が0.31〜0.0063%、硝酸の濃度が67.4〜68%であることが好ましい。
例えば、濃度38%のフッ化水素酸と濃度68%の硝酸を混合した場合は、フッ化水素酸と硝酸との体積比が1:120〜1:6000であることが好ましい。
このように、混酸中におけるフッ化水素酸の比率を低くすることにより、ゲルマニウムを測定試料中に残存させずに、効率的に、フッ化物として揮散させることができる。
【0010】
前記測定試料に含まれる不純物は、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置または原子吸光分析装置にて分析することが好ましい。
測定試料が溶液として調製されることから、微量の金属不純物量を測定するためには、上記分析装置が好適に用いられる。
【0011】
また、本発明に係る半導体ウエハの不純物分析方法においては、上記方法を用いて、測定試料を同一のウエハから繰り返し採取し、各測定試料に含まれる不純物量を求め、該不純物量と前記混酸により溶解したウエハの厚さから、ウエハの厚さ方向における不純物量分布を求めることを特徴とする。
本発明に係る方法によれば、ステップエッチングの要領で、ウエハの厚さ方向における不純物量分布を求めることも可能である。
【発明の効果】
【0012】
上述したとおり、本発明に係る半導体ウエハの不純物分析方法によれば、シリコンおよびゲルマニウムからなるウエハに含まれる不純物について、最小限の工程で、測定試料を調製して分析することができるため、効率的かつ高精度で測定可能である。
したがって、上記方法は、シリコンおよびゲルマニウムからなるウエハの厳密な品質管理に貢献し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明に係る半導体ウエハの不純物分析方法は、SiGeウエハに含まれる不純物の分析に関するものであり、前記ウエハ表面に、フッ化水素酸と硝酸の混酸を接触させて溶解した回収液を加熱濃縮して、シリコン成分およびゲルマニウム成分を揮発させたものを測定試料とすることを特徴とするものである。
上記方法によれば、従来のように、加熱濃縮を繰り返すことなく、ゲルマニウム成分もシリコン成分とともに揮発させることができる。
すなわち、ゲルマニウムをフッ化物として揮散させることができ、最小限の工程で測定試料を調製して、SiGeウエハ中の不純物分析を効率的かつ高精度で行うことができる。
【0014】
本発明に係る方法においては、まず、不純物分析を行うSiGeウエハの表面をフッ酸と硝酸の混酸に一定時間接触させて、溶解(エッチング)する。
ここで用いられる混酸は、シリコンおよびゲルマニウムを十分に溶解するために、濃度38%のフッ化水素酸と濃度68%の硝酸が混合されたものであることが好ましい。
この場合のフッ化水素酸と硝酸との体積比は、1:120〜1:6000の範囲内となるように混合されたものであることが好ましい。
すなわち、前記混酸は、フッ化水素酸の濃度が0.31〜0.0063%、硝酸の濃度が67.4〜68%であることが好ましい。混酸の残部は純水である。
【0015】
フッ化水素酸の硝酸に対する濃度比が0.31%/67.4%よりも大きくなる場合、回収液中に含まれるゲルマニウムの量が多くなり、完全にゲルマニウムを除去することが難しく、上記特許文献1記載の方法等のように、ゲルマニウムを除去するために塩酸を加える必要が生じる。また、フッ化水素酸の濃度比(体積比)が高いと、溶解されるSiGe層の厚さが厚くなり、SiGe層についてエッチングを繰り返し行い、不純物分布を算出することは難しくなる。
一方、フッ化水素酸の硝酸に対する濃度比が0.0063%/68%よりも小さい場合、SiGe層の溶解される厚さが1nm以下となり、半導体ウエハに要求される高感度な分析が実際上は不可能になる。
前記濃度比は、より好ましくは、0.31%/67.4%〜0.038%/67.9%である。
【0016】
前記混酸の使用量は、ウエハの表面積に応じて、ウエハ表面全体が混酸で覆われるように、10〜20ml程度に適宜調節する。
また、ウエハと混酸との接触時間は、溶解させるべきウエハの所望の体積または厚さに応じて、1〜10分の範囲内で適宜調節する。
【0017】
次に、上記においてウエハ表面を溶解した液を、ピペット等でテフロン(登録商標)製容器等に回収する。そして、この回収液を加熱濃縮する。
この過程において、シリコン成分だけでなく、生成したゲルマニウムのフッ化物も揮散する。
前記加熱温度は、ゲルマニウムのフッ化物を十分に揮散させるため、130〜180℃とすることが好ましい。
また、加熱時間は、溶液が蒸発するまでの十分な時間であればよい。
【0018】
なお、上記加熱濃縮前に、前記回収液に、少量の硫酸を加えておくことが好ましい。
これにより、不純物が硫酸中に取り込まれ、加熱濃縮後、純水による測定試料溶液調製の際、測定目的とする不純物金属を確実に回収することができる。
【0019】
上記において、前記回収液を濃縮乾固させた後の残留分は、一定量の純水または0.1〜1%程度の硝酸を適宜加えて、測定試料溶液として調製し、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)または原子吸光分析装置(AAS)にて、溶液に含まれる不純物濃度を測定する。
この測定値とSiGeウエハの溶解量から、SiGeウエハに含まれる不純物量を求めることができる。
【0020】
また、本発明に係る方法によれば、同一のウエハについて、上記操作を繰り返して、測定試料を逐次採取し、各測定試料に含まれる不純物量を求めることにより、該不純物量と前記混酸により溶解したウエハの厚さから、ウエハの厚さ方向における不純物量分布を算出することも可能である。
上記のように、本発明において用いられる混酸中のフッ化水素酸濃度(体積比)が低いことから、このようなステップエッチングの要領で、ウエハの厚さ方向における不純物量分布を求めることができる。
【0021】
なお、SiGeウエハのゲルマニウム濃度が予め特定されている場合は、前記混酸による溶解後の回収液を、加熱濃縮する前に一定量分取し、必要に応じて純水を加えた後、ICP−MSまたはICP発光分析により、溶液中のゲルマニウム濃度を測定し、溶解したウエハの厚さ(深さ)を算出することができる。
これにより、SiGeウエハにおけるゲルマニウム層の厚さの簡易分析も可能である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
シリコンウエハ表面にGe濃度15%のSiGe層を厚さ500nmで形成したウエハをテフロン(登録商標)製治具で固定した。
一方、濃度38%のフッ化水素酸と濃度68%の硝酸を用いて、フッ化水素酸と硝酸との体積比が1:120である混酸を調製した。
この混酸10mlを前記ウエハ表面に接触させて3分間放置した後、溶液をピペットでテフロン(登録商標)製ビーカーに回収し、1%硫酸1mlを加えた。
【0023】
前記硫酸添加後の溶液から100μlを分取して、純水10mlを加え、ICP発光分析にて、溶液中のゲルマニウム含有量を測定した。
また、前記硫酸添加後の溶液を、ホットプレートにて150℃で12時間加熱濃縮した後、純水10mlを加え、これについても、上記と同様に、ICP発光分析にて、溶液中のゲルマニウム含有量を測定した。
【0024】
その結果、溶液中のゲルマニウム含有量は加熱前が1900μg、加熱濃縮後が1.5μgであり、ゲルマニウムの残留率は0.1%であった。
このことから、上記加熱濃縮後の残留分を測定試料とすることにより、ゲルマニウム成分の99.9%を揮散させることが可能であることが認められた。
また、上記加熱濃縮後の残留分に、純水1mlを加えて、ICP−MS等による不純物分析に供したところ、高精度での不純物分析が可能であることが認められた。
【0025】
[実施例2〜6]
混酸におけるフッ化水素酸と硝酸との体積比を1:300〜1:6000の範囲で変化させ、それ以外については、実施例1と同様に、ゲルマニウム濃度の測定を行った。
上記測定結果から求めた加熱によるゲルマニウム成分の揮散率を表1にまとめて示す。
上記測定結果から求めた加熱によるゲルマニウム成分の揮散率を表1にまとめて示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示したように、フッ化水素酸と硝酸との体積比が1:120〜1:6000の範囲である場合(実施例1〜6)は、加熱濃縮によるゲルマニウム成分の揮散率が99.9%であり、SiGeウエハについて、高精度での不純物分析が可能であることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンおよびゲルマニウムからなるウエハに含まれる不純物の分析において、前記ウエハ表面に、フッ化水素酸と硝酸の混酸を接触させて溶解した回収液を加熱濃縮して、シリコン成分およびゲルマニウム成分を揮発させたものを測定試料とすることを特徴とする半導体ウエハの不純物分析方法。
【請求項2】
前記混酸は、フッ化水素酸の濃度が0.31〜0.0063%、硝酸の濃度が67.4〜68%であることを特徴とする請求項1記載の半導体ウエハの不純物分析方法。
【請求項3】
前記測定試料に含まれる不純物を、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置または原子吸光分析装置にて分析することを特徴とする請求項1または請求項2記載の半導体ウエハの不純物分析方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の方法を用いて、測定試料を同一のウエハから繰り返し採取し、各測定試料に含まれる不純物量を求め、該不純物量と前記混酸により溶解したウエハの厚さから、ウエハの厚さ方向における不純物量分布を求めることを特徴とする半導体ウエハの不純物分析方法。

【公開番号】特開2007−64702(P2007−64702A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−248598(P2005−248598)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000221122)東芝セラミックス株式会社 (294)
【Fターム(参考)】