説明

半導体チップ、半導体多層回路、及び、半導体チップの製造方法

【課題】表面から裏面に電気信号を伝播させる接続用配線を有する半導体チップを提供するにあたり、従来周知の半導体技術を利用して、製造時間やコストを増加させることなく、電気信号の減衰を抑制する。
【解決手段】半導体基板20と、表面配線30と、接続用配線40を備えている。半導体基板は、第1主表面20aから第2主表面20bに向けて面積が小さくなる開孔25を有している。表面配線は、半導体基板の第1主表面上に形成されている。また、接続用配線は、開孔の側面上に形成されていて、表面配線と接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表面側から裏面側に信号を伝送するための配線構造を有する半導体チップと、この半導体チップが実装された半導体多層回路、及び、半導体チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信量の爆発的な増加により、電気信号を処理するLSI自体にも、高速動作化や省スペース化のための技術が求められている。このような技術の実現のため、半導体チップを多層基板に実装するなどの、半導体チップの三次元実装の試みがなされている。
【0003】
半導体チップを下部基板上に実装する場合には、半導体チップの表面(上面)側で処理した電気信号を、裏面(下面)側の下地基板や他の半導体チップに伝送するための配線構造が必要となる。この裏面側に電気信号を伝送するための配線構造として、貫通ビア構造が知られている。
【0004】
図7を参照して、この貫通ビア構造の形成方法について説明する。図7は、従来の貫通ビア構造の形成方法を説明するための工程図であって、主要部の切断端面を示している。
【0005】
先ず、シリコン基板122に対して、深い開口125を形成する(図7(A))。
【0006】
高周波の電気信号(高周波信号)を伝送するには、半導体チップの表面を伝播する高周波信号が、ビアホールで反射あるいは減衰しないことが要求させる。例えば、開口125の入口付近がオーバーハングした形状になるなど、後の工程でビアホールとなる開口125の中間付近の径が大きくなると、ビアホール内に設けられた貫通電極の特性インピーダンスが所望の値にならず、高周波信号の反射が大きくなる可能性がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
側面が垂直となり径が一定であるような開口、すなわち、アスペクト比が大きい開口を形成する方法として、ボッシュ法が知られている。ボッシュ法は、SFとCを交互に流して行うエッチング方法である。
【0008】
次に、開口125の内部を金属メッキにより充填して貫通電極140を形成する(図7(B))。金属メッキとして銅メッキを施す配線技術として、ダマシンプロセスが有名である。しかしながら、開口125の内部への銅メッキは、開口125の径、深さ、分布密度などによって、ダマシンプロセスの最適条件が異なるので、この条件の最適化は容易ではない。十分な最適条件を見出さないまま銅メッキを行うと、開口125の内部に空隙が残ってしまう。
【0009】
これを防ぐために、促進剤、抑制剤、平滑剤と呼ばれる様々な添加剤を銅メッキ液に添加し、銅メッキの成長を制御する工夫がなされている。
【0010】
また、他の銅メッキの技術として無電解メッキがある(例えば、非特許文献2参照)。
【0011】
次に、不要な領域にメッキされた金属を研磨によって除去し、さらに、シリコン基板120の裏面を研磨して貫通ビア構造を完成させる(図7(C))。
【0012】
シリコン基板の研磨は現状では確立された技術である。しかし、銅メッキ後に表面に析
出した不要な銅を除去する場合と、シリコン基板120の裏面の研磨において、貫通電極140の近傍の研磨を行うと、貫通電極140の断面が皿上にくぼむディッシングや、貫通電極140とともにシリコン基板120も必要以上に削れてしまうエロージョンと呼ばれる現象が起こる。これらの現象を防ぐために、研磨液、研磨装置に工夫が施されており、ある程度の軽減がなされている(例えば、非特許文献3参照)。
【0013】
このように、貫通ビア構造を形成するのに用いられる、開口を形成するエッチング技術、金属メッキ技術、並びに、金属及び半導体の研磨技術のそれぞれについて、良好な結果が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】富坂学他著「3次元実装に用いるチップ貫通電極形成技術」デンソーテクニカルレビュー Vol.6、No.2、2001
【非特許文献2】Z.Wang et al.,“Bottom−Up Fill for Submicrometer Copper Via Holes of ULSIs by Electroless Plating”, Journal of The Electrochemical Society, 151(12)C781−C785(2004)
【非特許文献3】富永茂他著「Cu配線材の電気化学的ポリシング法の基礎的研究(3)」埼玉大学地域共同研究センター紀要Vol.6(2005)p.10−15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上述の従来例のエッチング、金属メッキ及び研磨技術での良好な結果は、それぞれ特殊な条件下で得られているに過ぎず、一般的な半導体製造工程にこれら全ての技術を適用し、最適化するには、時間及びコストの増加が予想される。
【0016】
エッチング技術については、アスペクト比が大きい開口を形成できるボッシュ法は、特殊なエッチング装置でしか実現できない。また、開口の側面に、SFとCを交互に流すことに起因する微細な凹凸が生じることが避けられない。この凹凸によって貫通電極における特性インピーダンスが所望の値にならないので、電気信号の反射の原因になりうる。
【0017】
ボッシュ法におけるエッチング条件を最適化することにより凹凸を軽減することが可能であるが、そのために工程が長時間化する可能性がある。
【0018】
また、ダマシンプロセスによる金属メッキ技術では、開口内に空隙が残存するのを防ぐために用いられる添加剤が各種多様である。このため、添加剤の種類や添加量の最適条件を見出すには時間がかかり、また、専門の知識や経験を有しない者が最適条件を見出すのは非常に困難である。
【0019】
一方、無電解メッキの場合は、メッキ工程にかかる時間が長くなる。非特許文献2では1時間程度のメッキ時間で充填を実現した例が記載されているが、開口の深さは数μm程度であるため、貫通ビア構造を実現するには、最終的に半導体基板を数μm厚に研磨しなければならない。このような薄層化は、後の工程において半導体チップの破損につながり、半導体チップのハンドリングに対する問題が大きくなってくる。
【0020】
研磨工程については、研磨液、研磨装置に工夫を施し、ある程度ディッシングやエロージョンを軽減している。しかし、汎用性の高い研磨技術は知られていない。
【0021】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、この発明の目的は、従来周知の半導体技術を利用可能であって、製造時間やコストを増加させることのない、電気信号の減衰を抑制できる半導体チップ、この半導体チップが実装された半導体多層回路、及び、半導体チップの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上述した目的を達成するために、この発明の半導体チップは、半導体基板と、表面配線と、接続用配線を備えている。半導体基板は、第1主表面から第2主表面に向けて面積が小さくなる開孔を有している。表面配線は、半導体基板の第1主表面上に形成されている。また、接続用配線は、開孔の側面上に形成されていて、表面配線と接続されている。
【0023】
また、この発明の半導体多層回路は、上記半導体チップが、半田バンプを備える下部基板上に設けられ、接続用配線が半田バンプに接続されて構成される。
【0024】
また、この発明の半導体チップの製造方法は、以下の工程を備えている。先ず、半導体基板の第1主表面側に、第2主表面に向けて面積が小さくなる凹部を形成する。次に、半導体基板の第1主表面上に表面配線を形成し、及び、凹部の側面上に、表面配線と接続される接続用配線を形成する。次に、半導体基板を第2主表面側から少なくとも凹部に達するまで薄層化する。また、この発明の半導体チップの製造方法の他の実施形態は、以下の工程を備えている。先ず、半導体基板の第1主表面側に、第2主表面に向けて面積が小さくなる凹部を形成する。次に、半導体基板を第2主表面側から少なくとも凹部に達するまで薄層化することにより、開孔を形成する。次に、半導体基板の第1主表面上に表面配線を形成し、及び、開孔の側面上に、表面配線と接続される接続用配線を形成する。
【発明の効果】
【0025】
この発明の半導体チップ、半導体多層回路及び半導体チップの製造方法によれば、接続用配線が、半導体チップの第1主表面から第2主表面に向けて面積が小さくなる開孔の側面上に形成されている。この構成によれば、開孔の側面が、第1主表面に対して傾斜して形成されるので、側面上への接続用配線の形成は、通常の金属蒸着技術によって行うことができる。このため、ダマシンプロセスや無電解メッキを用いる従来技術に比べて、容易に接続用配線を形成することができる。
【0026】
また、接続用配線を蒸着により形成するので、凹部の形成にあたり、高アスペクト比が要求されず、通常のエッチング技術を用いて凹部を形成することができる。さらに、半導体基板の研磨の際にディッシングやエロージョンが起こらない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】半導体チップ及び半導体多層回路の一実施形態を説明するための概略図である。
【図2】半導体チップが備える接続用配線を説明するための概略図である。
【図3】半導体チップの製造方法を説明するための工程図である。
【図4】インピーダンスの計算に用いる多層回路の模式図である。
【図5】半導体基板の厚さに対する特性インピーダンスの計算結果を示す図である。
【図6】コプレーナ線路の周囲が、樹脂で満たされた構造を示す概略図である。
【図7】従来の貫通ビア構造の形成方法を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎ
ない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0029】
図1及び図2を参照して、半導体チップ及び半導体多層回路について説明する。図1は、半導体チップ及び半導体多層回路の一実施形態を説明するための概略図である。図1(A)は、半導体チップを立体的に示しており、図1(B)は、半導体チップが搭載された半導体多層回路の主要部の切断端面を示している。また、図2は、半導体チップが備える接続用配線を説明するための概略図である。図2(A)は、半導体チップの主要部の切断端面を示しており、図2(B)は、図2(A)の接続用配線の部分を拡大して示している。なお、図1(A)中、構成要素にハッチングを施してあるが、このハッチングは断面を表示するのではなく、各構成要素の領域を強調して示してあるに過ぎない。
【0030】
半導体チップ10は、半導体基板20、表面配線30及び接続用配線40を備えて構成される。この、半導体チップ10は、下地基板あるいは他の半導体チップ上に配置される。以下の説明では、下地基板あるいは他の半導体チップを下部基板50と称する。この下部基板50の半導体チップ10が搭載される側の主表面50a上には、配線パターン62が形成されている。また、下部基板50の主表面50a上には、配線パターン62に接続された半田バンプ60が形成されている。
【0031】
半導体基板20として、例えば、シリコン基板(シリコンウエハ)が用いられる。シリコンウエハの厚さは、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)等の業界団体で標準化されている。シリコンウエハの厚さは、径に比例して厚くなるように定められていて、直径3インチのシリコンウエハの厚さは380μmであり、直径4インチのシリコンウエハの厚さは525μmとなっている。
【0032】
なお、ここでは、半導体基板としてシリコン基板を用いる例について説明するが、半導体基板はシリコン基板に限られない。半導体基板として、GaAs基板やInP基板などの化合物半導体基板としても良い。
【0033】
半導体基板20には、一方の主表面である第1主表面(表面)20aから、他方の主表面である第2主表面(裏面)20bに至る開孔25が形成されている。この開孔25の側面25aは、表面20a及び裏面20bに対して傾斜していて、開孔25の面積は、表面20aから裏面20bに向けて小さくなる。
【0034】
表面配線30は、電気信号の伝送に用いられ、半導体基板20の表面20a上に形成される。この表面配線30は、例えば伝送線路32と、伝送線路32を挟む位置に一対の接地線路34を備える、いわゆるコプレーナ線路として構成することができる。
【0035】
接続用配線40は、表面配線30と、下部基板50が備える半田バンプ60との接続に用いられる。すなわち、接続用配線40は、開孔25の側面25a上に、半導体基板20の表面20aから裏面20bにかけて形成されている。この接続用配線40は、表面配線30と同様に、伝送線路42と、伝送線路42を挟む位置に一対の接地線路44を備える、いわゆるコプレーナ線路として構成することができる。接続用配線40の伝送線路42が、表面配線30の伝送線路32に接続され、接続用配線40の一対の接地線路44が、表面配線30の一対の接地線路34にそれぞれ接続される。半導体チップ10を下部基板50上に実装するに当たり、半導体チップ10は、接続用配線40が半田バンプ60に接続されるように配置される。
【0036】
ここで、開孔25の側面25aの傾斜角度θは、半導体基板20の表面20a及び裏面20bに対して、30〜60度の範囲内の角度であるのが良い。
【0037】
これは、開孔25の側面25aの傾斜角度θが90度に近くなると、側面25aがほぼ垂直の状態となり、フォトリソグラフィと金属蒸着による接続用配線40の形成が不可能になるからである。
【0038】
一方、接続用配線40の長さが定められている場合、傾斜角度θが1〜20度である場合、半導体基板20を薄くする必要がある。従って、半導体チップの割れや欠けが生じやすくなり、取扱いが困難になる。また、半導体基板20の厚さを一定以上にする場合、必然的に開孔25の面積も大きくならざるを得ない。開孔25の面積が大きくなるにつれて、半導体チップ10の面積が大きくなるのでコスト増につながり、また、省スペース化の観点からも好ましくない。
【0039】
これに対し、傾斜角度θを30〜60度の範囲内の角度にすると、強度が十分な半導体基板20として、その厚さを100μmとすると、開孔25の側面25aの、半導体基板20の表面20aから裏面20bまでの長さは、最大でも半導体基板20の厚さの2倍程度であり、その長さは120〜200μm程度となる。
【0040】
半田バンプ60の形成技術では、高さ20μm以上、間隔が25μm以上のものが製造可能である。この半田バンプ60の構造に合わせて、コプレーナ線路として構成される表面配線30及び接続用配線40の伝送線路32及び42の線路幅や、伝送線路32及び42と接地線路34及び44の距離を調整するなどして、特性インピーダンスが制御できる。
【0041】
図3を参照して、半導体チップの製造方法について説明する。図3(A)〜(D)は、半導体チップの製造方法を説明するための工程図であって、主要部の切断端面を示している。
【0042】
先ず、半導体基板22の第1主表面22a上に、フォトリソグラフィ技術を用いて、レジストパターン100を形成する。このレジストパターン100は、開孔が形成される領域(開孔形成領域)23の半導体基板22を露出し、それ以外の部分を覆っている。なお、このレジストパターン100の形成にあたっては、露光及び現像の後、リフローによりそのエッジ部分を丸めても良い(図3(A))。
【0043】
次に、例えば、電子サイクロトロン共鳴プラズマエッチング法(ECRプラズマエッチング法)を用いた、アルゴン(Ar)イオンによるエッチングにより、凹部26を形成する。この場合、半導体基板24をエッチングガスの運動方向(図3(B)中、矢印Iで示す。)に対して傾けることにより、凹部26の側面26aの傾斜角度を制御できる。このようにして形成された凹部26は、半導体基板24の第1主表面(表面)24aから第2主表面(裏面)24bに向けて、面積が小さくなる(図3(B))。
【0044】
次に、半導体基板24の第1主表面24a上に表面配線30を形成するとともに、凹部26の側面26a上に接続用配線40を形成する。この接続用配線40は、凹部26の側面26a上に、半導体基板24の第1主表面24aから凹部26の底面26bに向けて形成される。この表面配線30及び接続用配線40の形成は、従来周知のフォトリソグラフィ、金属蒸着及びリフトオフにより行われる。なお、フォトリソグラフィは、露光装置としてステッパを用いて行われる(図3(C))。
【0045】
次に、半導体基板20を第2主表面20b側から研磨して薄層化する。この研磨は、凹部26に達するまで、すなわち、凹部26の底面26bが除去されて開孔25が形成されるまで行われる。この実施形態の構成では、ビアホール内を貫通電極で埋め込む、従来の貫通ビア構造を用いていないので、ディッシングやエロージョンなどの発生を考慮することがなく、この研磨は、CMP法など、任意好適な従来周知の技術を用いて行うことができる(図3(D))。
【0046】
以上説明したように、この実施形態の半導体チップ、半導体多層回路及び半導体チップの製造方法によれば、接続用配線が、半導体チップの第1主表面から第2主表面に向けて面積が小さくなる開孔の側面上に形成されている。この構成によれば、開孔の側面が、第1主表面に対して傾斜して形成されるので、側面上への接続用配線の形成は、通常の金属蒸着技術によって行うことができる。このため、ダマシンプロセスや無電解メッキを用いる従来技術に比べて、容易に接続用配線を形成することができる。
【0047】
また、接続用配線を蒸着により形成するので、凹部の形成にあたり、高アスペクト比が要求されず、通常のエッチング技術を用いて凹部を形成することができる。さらに、半導体基板の研磨の際にディッシングやエロージョンが起こらない。
【0048】
また、この製造方法では、新規な装置を導入することなく、従来の半導体チップ製造装置を用いて、裏面接続用配線を有する半導体チップを容易に製造することができる。また、エッチング、金属メッキ、研磨の各工程において、最適条件の取得に時間をかけることなく、半導体チップを製造することができる。
【0049】
図3を参照して説明した製造方法では、エッチングによる凹部の形成、表面配線及び接続用配線の形成、半導体基板の裏面からの研磨の順に行ったが、これに限定されない。エッチングによる凹部の形成を行った後、先に、半導体基板を裏面から研磨し、開孔を形成し、その後、表面配線及び接続用配線を形成する工程を行っても良い。
【0050】
図1を参照して説明した構成では、半導体チップ10と下部基板50の間は、空気で満たされる。しかし、周囲が空気で満たされた伝送線路32及び42や、半田バンプ60は特性インピーダンスが大きくなる傾向にある。そこで、この半導体チップ10と下部基板50の間の空間を、紫外線硬化樹脂等の絶縁性材料で満たすのが良い。
【0051】
半導体チップ10と下部基板50の間を、樹脂で満たした場合の特性インピーダンスについて、空気で満たした場合と比較して説明する。
【0052】
樹脂としては、例えば、スリーボンド社製の紫外線硬化性シリコーン樹脂や、旭硝子社製AL Polymer(商品名)などの市販されている樹脂を用いることができる。これらの樹脂は、液体の形態で、半導体チップ10と下部基板50の間に、スポイト等で滴下・充填した後、紫外線照射をするかあるいは200〜300℃の温度にすることで硬化させることができる。
【0053】
E.Chen et al.,“Characteristics of Coplanar Transmission Lines on Multilayer Substrates: Modeling and Experiments”,IEEE Trans. Microwave Theory and Techniques, Vol.45, 939(1997)では、5層の多層基板に形成されたコプレーナ線路の特性インピーダンスを計算する式が開示されている。ここでは、図4(A)及び(B)に示す、3層の多層基板について検討する。図4(A)及び(B)は、インピーダンスの計算に用いる多層基板の模式図である。図4(A)は斜視図であり、図4(B)は、主要
部の、伝送線路に直交する方向の切断端面を示している。
【0054】
この多層基板は、下部基板50、樹脂70、半導体基板20の3層構造である。下部基板50をシリコン基板とし、その厚さh1を300μmとする。樹脂70は、旭硝子社製のAL Polymerとし、その厚さh2を100μmとする。この樹脂の厚さh2は、半田バンプ60の高さに対応する。半導体基板20は、シリコン基板で構成され、その厚さh3は、研磨後の厚さであり、100μmとする。
【0055】
下部基板50及び半導体基板20の比誘電率をε1とし、樹脂70の比誘電率をε2とする。下部基板50及び半導体基板20をシリコン基板とした場合は、比誘電率ε1は、約11.9である。また、樹脂70をAL Polymerとした場合は、比誘電率ε2は、約2.5である。また、ここでは、表面配線30及び接続用配線40をコプレーナ線路としている。ここで、第1主表面20aに平行する方向であって、伝送線路32に直交する方向をx軸とする。伝送線路32のx軸方向の中心のx座標を原点0とする。コプレーナ線路は、この原点0を通り第1主表面20aに直交する軸(図4(B)中、Iで示す。)に対して、線対称であるとして、x座標が0以上の領域について検討する。
【0056】
伝送線路32の端部の座標をxaとし、接地線路34の伝送線路32側の端部の座標、及び反対側の端部の座標を、それぞれxb及びxcとする。伝送線路32及び接地線路34の幅をそれぞれ100μm、伝送線路32と接地線路34の間隔を50μmとすると、xa、xb及びxcは、それぞれ、50、100及び200となる。
【0057】
コプレーナ線路の周囲に誘電体が存在しない場合のコプレーナ線路の静電容量をC0、下部基板が形成する静電容量をC1、樹脂が形成する静電容量をC2、半導体基板が形成する静電容量をC3とすると、コプレーナ線路全体の静電容量Ccpwは、以下の式(1)で表される。
【0058】
Ccpw=C0+C1+C2+C3 (1)
ここで、C0、C1、C2及びC3は、それぞれ、以下の式(2)〜(5)で与えられる。ただし、K(k)は第1種完全楕円積分を表す。
【0059】
【数1】

【0060】
【数2】

【0061】
【数3】

【0062】
【数4】

【0063】
これらを用いると、コプレーナ線路の有効誘電率εeffは、以下の式(6)で与えられ、特性インピーダンスZ0は、以下の式(7)で表すことができる。
【0064】
【数5】

【0065】
従って、上記式(1)〜(7)から、表面配線30における特性インピーダンスとして52〜53Ωが得られる。ここで、接続用配線40における特性インピーダンスは、半導体基板20の厚さh3を100μm〜0μmまで変化させて同様に計算すれば良い。
【0066】
図5は、半導体基板の厚さに対する特性インピーダンスの計算結果を示している。図5では、横軸に半導体基板の厚さを採って示し、縦軸に特性インピーダンスを採って示している。図5中、曲線Iは、半導体基板と下地基板の間を樹脂で満たした場合、すなわち、樹脂層を有する場合の計算結果を示している。また、図5中、曲線IIは、樹脂層を備えない場合の計算結果を示している。
【0067】
通常のシリコン基板上に形成されたコプレーナ線路では、特性インピーダンスは、シリコン基板の厚さが100μm以上の場合ほとんど変化せず、100μm以下になると厚さが減るとともに特性インピーダンスが増大する傾向にある。そこで、ここでは特に、シリコン基板の厚みが100μm以下の場合について示している。また、半導体チップ10と、下部基板50の間が空気で満たされているか、樹脂で満たされているかにより特性インピーダンスの比較を行う。
【0068】
樹脂70を有しない場合(曲線II)、特性インピーダンスは100Ωを超えることがあるが、樹脂70を有する場合(曲線I)、特性インピーダンスを90Ω以下に抑えることができる。
【0069】
次に、半田バンプの特性インピーダンスについて説明する。半田の大きさを無視すると、図6に示されるように、半田バンプ60は周囲を樹脂70で満たされた構造になる。図6は、半田バンプ60の周囲が、樹脂70で満たされた構造を示す概略図である。C.P.Wen,“Coplanar Waveguide:A Surface Strip Transmission Line Suitable for Nonreciprocal Gyromagnetic Device Applications”,IEEE Trans. Microwave Theory and Techniques, Vol.17 1087(1969)によれば、等角写像により、xaおよびxbがそれぞれa,bに変換されるとすると、コプレーナ線路の静電容量Cは、以下の式(8)で与えられる。
【0070】
【数6】

【0071】
この場合、コプレーナ線路における位相速度νは、以下の式(9)で与えられ、特性インピーダンスZ0は、以下の式(10)で得られる。
【0072】
【数7】

【0073】
各半田バンプ60の幅Wを100μm、間隔Gを50μmとして計算すると、半田バンプ60の周囲が樹脂(ε2=2.5)で満たされている場合、半田バンプの特性インピーダンスZ0は76.2オームとなる。一方、樹脂で満たされていない場合、半田バンプの特性インピーダンスZ0は120.5Ωとなり、50Ωから大きくずれることがわかる。
【0074】
従って、半導体基板20の表面20aから、下部基板50に伝播する電気信号の減衰をできるだけ低減するには、半導体基板20と下部基板50の間を樹脂で満たしたほうが有利である。
【0075】
さらに、下部基板50の主表面に形成される線路についても、50Ωの特性インピーダンスを実現するには、表面に樹脂を厚さ10μmで塗布するのが良い。
【0076】
以上説明したように、半導体チップを構成する半導体基板と下部基板の間を樹脂で満たすと、接続用配線や、半田バンプなどで、特性インピーダンスZ0を50Ωに近づけることができる。
【符号の説明】
【0077】
10 半導体チップ
20、22、24 半導体基板
25 開孔
26 凹部
30 表面配線
32、42 伝送線路
34、44 接地線路
40 接続用配線
50 下部基板
60 半田バンプ
62 配線パターン
70 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主表面から第2主表面に向けて面積が小さくなる開孔を有する半導体基板と、
前記半導体基板の第1主表面上に形成された表面配線と、
前記開孔の側面上に形成された、前記表面配線と接続されている接続用配線と
を備えることを特徴とする半導体チップ。
【請求項2】
前記開孔の側面の傾斜角度が、前記第1主表面に対して、30〜60度の範囲内の角度である
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体チップ。
【請求項3】
半田バンプを備える下部基板と、
半導体チップであって、第1主表面から第2主表面に向けて面積が小さくなる開孔を有する半導体基板、前記半導体基板の第1主表面上に形成された表面配線、及び、前記開孔の側面上に形成された、前記表面配線と接続されている接続用配線を備える当該半導体チップと
を備え、
前記半導体チップが前記下部基板上に設けられ、及び、前記接続用配線が前記半田バンプに接続されている
ことを特徴とする半導体多層回路。
【請求項4】
前記開孔の側面の傾斜角度が、前記第1主表面に対して、30〜60度の範囲内の角度である
ことを特徴とする請求項3に記載の半導体多層回路。
【請求項5】
前記下部基板と前記半導体チップの間に樹脂が充填されている
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の半導体多層回路。
【請求項6】
半導体基板の第1主表面側に、第2主表面に向けて面積が小さくなる凹部を形成する工程と、
前記半導体基板の第1主表面上に表面配線を形成し、及び、前記凹部の側面上に、前記表面配線と接続される接続用配線を形成する工程と、
前記半導体基板を第2主表面側から少なくとも前記凹部に達するまで薄層化する工程とを備えることを特徴とする半導体チップの製造方法。
【請求項7】
半導体基板の第1主表面側に、第2主表面に向けて面積が小さくなる凹部を形成する工程と、
前記半導体基板を、第2主表面側から少なくとも前記凹部に達するまで薄層化することにより、開孔を形成する工程と、
前記半導体基板の第1主表面上に表面配線を形成し、及び、前記開孔の側面上に、前記表面配線と接続される接続用配線を形成する工程と
を備えることを特徴とする半導体チップの製造方法。
【請求項8】
前記凹部を形成するにあたり、前記凹部の側面の傾斜角度を、前記第1主表面に対して、30〜60度の範囲内の角度にする
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の半導体チップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−204979(P2011−204979A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72207(P2010−72207)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】