説明

半導体レーザ、及び光モジュール

【課題】光検出機能を有していても、小型で狭い実装スペースに搭載できる半導体レーザ及び光モジュールを実現する。
【解決手段】素子本体5の内部に活性層4が設けられると共に、素子本体5の上面には第1の電極6が形成され、素子本体5の下面には第2の電極7、及び第3の電極8が形成されている。そして、素子本体5の一方の端部は、第1の電極6から第2の電極7にかけて超薄膜の量子ドット膜9が形成されている。これをAPC駆動回路に接続し、量子ドット膜9で検出された光をモニタすることにより、半導体レーザに入力されるバイアス電流をフィードバック制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体レーザ、及び光モジュールに関し、より詳しくは光通信用の半導体レーザ、及びこの半導体レーザが搭載された光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光通信に用いる送信モジュールは、主に半導体レーザとその駆動回路で構成されている。
【0003】
そして、この種の光通信では、通常、半導体レーザの出力が常に一定に保持されるように、自動出力制御(Auto Power Control;以下、「APC」という。)が行なわれており、例えば、図7に示すように、半導体レーザ101の出力光Pmonをフォトダイオード102(モニタフォトダイオード;以下、「MPD」という。)で受光し、APC回路103ではMPD102から入力されるモニタ電流IMPDを信号として半導体レーザ101のバイアス電流Ibiasを出力している。すなわち、APC回路103では、出力光Pmonの平均値が一定となるようにフィードバック制御し、半導体レーザ101の出力光Pmonが大きすぎる場合はバイアス電流Ibiasを低下させ、半導体レーザ101の出力光Pmonが小さすぎる場合はバイアス電流Ibiasを増加させることによってレーザ出力を一定に保っている。
【0004】
そして、特許文献1には、図8に示すような半導体レーザが開示されている。
【0005】
すなわち、この半導体レーザは、半導体光増幅素子105と、電界吸収型半導体素子106とが結合素子107を介して接合され、内部に光導波路108が設けられている。また、この半導体レーザは、反射を抑制するための反射防止膜109、110が端面に設けられている。
【0006】
この特許文献1では、半導体光増幅素子105と電界吸収型半導体素子106とを接合し、図7のMPD102の機能を電界吸収型半導体素子106に担わせることにより、MPD102を不要としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−236209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、APC回路103のMPD102の機能を電界吸収型半導体素子106に担わせているものの、該電界吸収型半導体素子106を半導体光増幅素子105と一体化させているため、電界吸収型半導体素子106及び結合素子107の寸法だけチップサイズが大きくなり、このため大きな実装面積を必要とするという問題点があった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、光検出機能を有していても、小型で狭い実装スペースに搭載できる半導体レーザ、及び光モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明に係る半導体レーザは、素子本体の内部に活性層が設けられると共に、前記素子本体の上下両主面に電極が形成され、 前記素子本体の一方の端部には、前記電極と接するように超薄膜の量子ドット膜が形成されていることを特徴としている。
【0011】
また、本発明の半導体レーザは、前記量子ドット膜は、前記活性層から出力されるレーザ光を検出することを特徴としている。
【0012】
さらに、本発明の半導体レーザは、前記素子本体の上下主両面に形成された電極のうち、いずれか一方の主面に形成された電極は、レーザ駆動用電極と光検出用電極とを兼ねた共通電極であることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の半導体レーザは、前記量子ドット膜が、半導体超微粒子で形成されていることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の半導体レーザは、前記量子ドット膜は、波長帯域に応じた材料及び平均粒径が選択されることを特徴としている。
【0015】
また、本発明に係る光モジュールは、上記いずれかに記載の半導体レーザを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の半導体レーザは、素子本体の内部に活性層が設けられると共に、前記素子本体の上下両主面に電極が形成され、前記素子本体の一方の端部には、前記電極と接するように超薄膜の量子ドット膜が形成されているので、素子本体の大きさと略同一のスペースに実装することが可能な光検出機能を有する半導体レーザを得ることができる。
【0017】
また、前記量子ドット膜は、前記活性層から出力されるレーザ光を検出するので、別途MPDを要することもなくレーザ光を検出することができる。
【0018】
また、前記素子本体の上下主両面に形成された電極のうち、いずれか一方の主面に形成された電極は、レーザ駆動用電極と光検出用電極とを兼ねた共通電極であるので、他方の主面に形成された電極をレーザ駆動用単独電極、光検出用単独電極とすることにより、所望の光モジュールを容易に組み立てることが可能となる。
【0019】
また、前記量子ドット膜は、半導体超微粒子で形成されているので、量子サイズ効果により、バルク半導体よりもバンドギャップエネルギーを短波長側にシフトすることが可能となる。そして、使用する波長帯域に応じた材料及び平均粒径が選択されることにより、所望の通信波長帯域での光検出をモニタすることが可能となる。
【0020】
また、本発明の光モジュールは、上記いずれかに記載の半導体レーザを備えているので、別途MPDを設けなくとも、小型で種々の使用通信波長帯域での光検出をモニタできる光モジュールを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る半導体レーザの一実施の形態(第1の実施の形態)を示す斜視図である。
【図2】上記半導体レーザの縦断面図である。
【図3】本発明に係る光モジュールの一実施の形態(第1の実施の形態)を示す斜視図である。
【図4】上記光モジュールの駆動回路を示す電気回路図である。
【図5】本発明に係る半導体レーザの第2の実施の形態を示す斜視図である。
【図6】本発明に係る光モジュールの第2の実施の形態を示す斜視図である。
【図7】APC機能の概略を示すブロック構成図である。
【図8】特許文献1に記載された一体型半導体素子の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づき詳説する。
【0023】
図1は本発明に係る半導体レーザの一実施の形態(第1の実施の形態)示す斜視図であり、図2は図1の縦断面図である。
【0024】
この半導体レーザ1は、InP等で形成された第1及び第2のレーザ素子2、3を有すると共に、第1のレーザ素子2の中央部に設けられた凹溝にはInGaAsP等らなる活性層4が形成されている。そして、第1のレーザ素子2、第2のレーザ素子3、及び活性層4で素子本体5を形成している。
【0025】
また、第1のレーザ素子2の上面には第1の電極6が形成されると共に、前記第2のレーザ素子3の下面には第2の電極7、及び第3の電極8が形成されている。
【0026】
具体的には、第1の電極6は、第1のレーザ素子2の一方の端部の側面に沿うように略T字状に形成されている。また、第2の電極7は、素子本体5を介して第1の電極6と対向するように前記第2のレーザ素子3の端部に形成されている。さらに、第3の電極8は、第2の電極7と電気的に接しないように該第2の電極7と一定の離間距離を有して前記第2のレーザ素子3の下面に形成されている。
【0027】
この半導体レーザ1は、素子本体5の一方の端面から第1の電極6の上面、及び第2の電極7の下面に架けて超薄膜の量子ドット膜9が形成されている。
【0028】
そして、この第1の実施の形態では、素子本体5、第1の電極6、及び第3の電極8でレーザダイオード部(以下、「LD部」という。)10を構成し、量子ドット膜9、第1の電極6、及び第2の電極7で光検出部11を構成している。すなわち、第1の電極6は、レーザ出力用陽極と光検出用陰極とを共用する共通電極とされると共に、第2の電極7が光検出用陽極を形成し、さらに第3の電極8がレーザ出力用陰極を形成し、これにより、LD部10の活性層4から出力されるレーザ光12に比例した漏れ光を光検出部11で検出している。
【0029】
上記量子ドット膜9は、以下のような方法で容易に製造することができる。
【0030】
まず、量子ドットが界面活性剤を介して分散溶媒中に分散した量子ドット分散溶液を用意する。
【0031】
ここで、量子ドットは、平均粒径Dが2〜10nmの超微粒子からなり、通信する波長帯域のバンドギャップエネルギーEgoに応じ、所望の材料が適宜選択される。
【0032】
すなわち、バルク半導体のバンドギャップエネルギーEgo(eV)は、波長をλ(nm)とすると数式(1)で表わされる。
【0033】
go=1240/λ …(1)
また、表1は、量子ドット膜9となるバルク半導体とバンドギャップエネルギーEgo及び波長λとの関係を示している。
【0034】
【表1】

【0035】
量子ドットは、上述したように平均粒径Dが2〜10nmの超微粒子であるから、量子サイズ効果により、バルク半導体のバンドギャップエネルギーEgoより大きくなり、短波長側にシフトする。
【0036】
すなわち、量子ドットのバンドギャップエネルギーEは、有効質量近似で数式(2)で表わすことができる。
【0037】
【数1】

【0038】
ここで、hはプランク定数、mは電子の有効質量、eは電気素量、εは誘電率である。
【0039】
この数式(2)から明らかなように、量子ドットの平均粒径Dが小さくなるほど、量子ドットのバンドギャップエネルギーEgは大きくなる。そして、量子ドットの材料種及び平均粒径を適宜選択することによって所望の通信波長帯での光検出を行なうことができる。
【0040】
尚、分散溶媒としては、量子ドットを分散させることができるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、トルエンや、ヘキサンとオクタンの混合溶液を使用することができる。
【0041】
また、界面活性剤は、量子ドットが分散溶液中で凝集したり沈澱するのを避けるために添加されるものであり、例えば、ヘキサデシルアミン(HDA、CH(CH15NH)、トリ−n−オクチルフォスフィンオキシド(TOPO、n−(C17P=O)等を使用することができる。
【0042】
そして、この量子ドット分散溶液をディップコート法等で塗布し、乾燥することにより、容易に量子ドット膜9を得ることができる。
【0043】
尚、量子ドット膜9の膜厚は、光検出機能を奏する程度であれば十分であり、例えば、50〜100nm程度に制御するのが好ましい。
【0044】
このように構成された半導体レーザ1では、第1の電極(レーザ出力用陽極)6と第3の電極(レーザ出力用陰極)8との間に閾値を超える電圧が印加されると、活性層4からレーザ光12が出力される。そして出力されるレーザ光12に比例した漏れ光が量子ドット膜9で検出され、第1の電極(光検出用陰極)6と第2の電極(光検出用陽極)7を介して光電流が取り出され、これによりレーザ光12をモニタすることができる。
【0045】
このように本第1の実施の形態では、量子ドット膜9の厚みは超微小であり、LD部10の外径寸法と略同一寸法であるので、素子本体5の大きさと略同一のスペースに実装することが可能となる。
【0046】
図3は上記半導体レーザ1が搭載された光モジュールとしての光通信モジュールの一実施の形態(第1の実施の形態)を示す斜視図であって、TO−CANパッケージに実装されている。
【0047】
すなわち、台座13に載設されたステム14の一方の表面にサブマウント15が設けられると共に、該サブマウント15に上記半導体レーザ1が搭載され、該半導体レーザ1はステム14にダイボンド接続されている。また、この光通信モジュールは、共通電極である第1の電極6接続用の第1の接続端子16、第2の電極7接続用の第2の接続端子17、及び第3の電極8接続用の第3の接続端子18が台座13に貫設され、さらに、台座13の下面にはケース端子19が設けられている。そして、第1の電極6は第1のワイヤ20により第1の接続端子16にボンディング接続され、第2の電極7は第2のワイヤ21により第2の接続端子17にボンディング接続され、第3の電極8は第3のワイヤ22により第3の接続端子18にボンディング接続されている。そして、この光通信モジュールは、不図示のレンズキャップが被せられて封止されている。
【0048】
図4は光通信モジュールの電気回路図である。
【0049】
半導体レーザ1は、APC駆動回路23に接続されている。そして、APC駆動回路23が駆動すると、該APC駆動回路23からバイアス電流IBIAS及び変調電流IがLD部10に供給され、これによりLD部10には変調された光電流が入力される。すなわち、APC駆動回路23から出力される変調電流Iは補正回路24で出力波形が整合され、コイル25を通過したバイアス電流IBIASと合流して所定の光電流をLD部10に供給する。
【0050】
そして、変調された光信号の出力強度(平均値)を光検出部11で検出し、その検出信号であるモニタ電流IMPDがAPC駆動回路23にフィードバックされ、該APC駆動回路23はバイアス電流IBIASを制御する。すなわち、APC駆動回路23に入力されるモニタ電流IMPDが所定値より小さい場合はバイアス電流IBIASを大きくし、モニタ電流IMPDが所定値より大きい場合はバイアス電流IBIASを小さくし、これにより、光信号の出力強度が所定値となるようにフィードバック制御される。
【0051】
そして、本第1の実施の形態では、素子本体5の端部に量子ドット膜9を形成し、この量子ドット膜9に光検出機能を担わせているので、先行技術のように電子吸収型半導体素子を一体形成するほどの素子サイズの拡大を招くことはなく、LD部10と略同一の外径寸法でもって光検出機能を得ることができ、APC機能を実現することができる。
【0052】
図5は本発明に係る半導体レーザの第2の実施の形態を示す斜視図である。
【0053】
すなわち、この半導体レーザ30は、素子本体5の上面に短冊上の第1の電極(LD用陰極)31が形成されると共に、第1のレーザ素子2の一方の端部には側面に沿うように第2の電極(光検出用陽極)32が形成され、第1の電極31と第2の電極32とは電気的に接続されないように一定の離間距離を有している。また第2のレーザ素子3の下面の全域には第3の電極(LD用陽極兼光検出用陰極)33が形成されている。
【0054】
そして、この半導体レーザ30は、素子本体5、第1の電極31、及び第3の電極33でLD部34を構成し、量子ドット膜9、第2の電極32、及び第3の電極33で光検出部35を構成している。
【0055】
図6は本発明の係る光モジュールとしての光通信モジュールの第2の実施の形態を示す斜視図である。
【0056】
この第2の実施の形態では、半導体レーザ30は台座36上に設けられたステム37に直接実装され、さらに第3の電極33はステム37を介してケース端子38に直接接続されている。また、第1の電極31は第1のワイヤ39を介して第1の接続端子40にボンディング接続され、第2の電極32は第2のワイヤ41を介して第2の接続端子42にボンディング接続されている。
【0057】
このように本第2の実施の形態では、上記第1の実施の形態と同様、量子ドット膜9の厚みだけ素子が大きくなるのみで、先行技術のように電子吸収型半導体素子を一体形成するほどの素子サイズの拡大を招くことはなく、LD部34と略同一の外径寸法でもって光検出機能を得ることができ、APC機能を実現することができる。
【0058】
しかも、素子本体5の下面の第3の電極33がLD部34と光検出部35の共通電極を構成しているため、サブマウントが不要となり、ワイヤボンド工程も簡素なものとなり、光通信モジュールの簡略化を図ることが可能となる。また、半導体レーザ30がステム37に直接実装されるので、放熱性を向上させることが可能となる。
【0059】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能であるのはいうまでもない。また、本発明で光検出を担わせている量子ドット膜9は、光検出の応答は速くはないが、光検出はモニタ電流IMPDの平均値を検出できれば十分であることから、高速で応答する必要性はなく、したがって、量子ドット膜9はこのような低応答性で十分に足りる用途に適したものである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
別途MPDを設けなくとも、素子に光検出機能を持たせることができ、かつ実装スペースもレーザ素子の大きさと略同一である。
【符号の説明】
【0061】
1 半導体レーザ
4 活性層
5 素子本体
6 第1の電極
7 第2の電極
8 第3の電極
9 量子ドット膜
30 半導体レーザ
31 第1の電極
32 第2の電極
33 第3の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子本体の内部に活性層が設けられると共に、前記素子本体の上下両主面に電極が形成され、
前記素子本体の一方の端部には、前記電極と接するように超薄膜の量子ドット膜が形成されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項2】
前記量子ドット膜は、前記活性層から出力されるレーザ光を検出することを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ。
【請求項3】
前記素子本体の上下主両面に形成された電極のうち、いずれか一方の主面に形成された電極は、レーザ駆動用電極と光検出用電極とを兼ねた共通電極であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の半導体レーザ。
【請求項4】
前記量子ドット膜は、半導体超微粒子で形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の半導体レーザ。
【請求項5】
前記量子ドット膜は、波長帯域に応じた材料及び平均粒径が選択されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の半導体レーザ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の半導体レーザを備えていることを特徴とする光モジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−96833(P2011−96833A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248987(P2009−248987)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】