説明

半導体レーザジャイロ

【課題】回転の検出精度が高い半導体リングレーザジャイロを提供する。
【解決手段】本発明のジャイロは、環状の光軌道23を有する共振器を備え光軌道23を互いに逆方向に伝播するレーザ光L1およびL2を発生させるレーザ素子20と、レーザ光L1およびL2のそれぞれを光軌道23から引き出すための引き出し手段と、引き出されたレーザ光L1とレーザ光L2との周波数差を検出するための検出手段とを備える。共振器の光軌道23の部分には、光増幅を生じるアクティブ領域21と光増幅を生じないパッシブ領域22とが存在する。アクティブ領域21の活性層およびパッシブ領域22の光ガイド層は、それぞれ、下方のクラッド層と上方のクラッド層とに挟まれている。上方のクラッド層がリッジ状であり、下方のクラッド層が平面状に広がっている。そして、アクティブ領域の活性層と、パッシブ領域の光ガイド層とが、バット−ジョイント構造で結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザジャイロに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、環状の共振器を備える半導体レーザ素子を用いた光ジャイロが提案されている(たとえば特許文献1)。ジャイロが回転すると、環状の共振器を互いに逆方向に周回する2つのレーザ光の周波数に差が生じるため(sagnac効果)、その差を検出することによってジャイロの回転を検出できる。2つのレーザ光の周波数差Δfは、以下の式で表される。
【0003】
【数1】

【0004】
式中、Lは共振器の周長であり、Aは共振器内の面積であり、λはレーザ光の波長であり、nは光路の屈折率であり、Ωは角速度である。
【特許文献1】特開2000−230831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、半導体リングレーザジャイロで回転を実際に検出することは難しかった。それは、従来知られていなかった、回転の検出を阻害する要因があったためである。
【0006】
このような状況において、本件発明者らは、回転の検出精度が高い半導体リングレーザジャイロを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本件発明者らが検討した結果、共振器の内部損失が大きいと、高いQ値が得られず、サニャック効果の観測が難しくなってしまうということを見出した。すなわち、本件発明者らは、共振器の内部損失を低減することによって、回転角速度の検出が容易になることを見出した。共振器の内部損失がサニャック効果の観測に影響を与えることは、従来考慮されていなかった事項であり、この発明は、全く新しい観点から半導体リングレーザジャイロの容易な実現を目指すものである。
【0008】
すなわち、本発明の半導体レーザジャイロは、環状の光軌道を有する共振器を備え前記光軌道を互いに逆方向に伝播する第1および第2のレーザ光を発生させる半導体レーザ素子と、前記第1および第2のレーザ光のそれぞれを前記光軌道から引き出すための引き出し手段と、引き出された前記第1のレーザ光と前記第2のレーザ光との周波数差を検出するための検出手段とを備え、前記共振器の前記光軌道の部分には、光増幅を生じる第1の領域と光増幅を生じない第2の領域とが存在し、前記第1の領域の活性層および前記第2の領域の光ガイド層は、それぞれ、下方のクラッド層と上方のクラッド層とに挟まれており、前記上方のクラッド層がリッジ状であり、前記下方のクラッド層が平面状に広がっており、前記第1の領域の活性層と、前記第2の領域の光ガイド層とが、バット−ジョイント構造で結合されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回転の検出精度が高い半導体レーザジャイロが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について例を挙げて説明する。ただし、本発明は以下で述べる例には限定されない。たとえば、以下の説明において特定の材料や特定の数値を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の材料や他の数値を適用してもよい。
【0011】
[半導体レーザジャイロ]
以下、本発明の半導体レーザジャイロについて説明する。本発明の半導体レーザジャイロは、半導体レーザ素子と、引き出し手段と、検出手段とを備える。
【0012】
半導体レーザ素子は、環状の光軌道を有する共振器を備え、その光軌道を互いに逆方向に伝播する第1および第2のレーザ光L1およびL2を発生させる。引き出し手段は、第1および第2のレーザ光L1およびL2のそれぞれを上記光軌道から引き出す。検出手段は、引き出された第1のレーザ光L1と第2のレーザ光L2との周波数差を検出するための手段である。
【0013】
ジャイロが回転している場合、レーザ光L1の周波数とレーザ光L2の周波数との間には、回転の角速度に応じた差が生じる。そのため、この周波数差から、回転角速度を算出することが可能である。
【0014】
半導体レーザ素子の共振器の光軌道の部分には、光増幅を生じる第1の領域(アクティブ領域)と光増幅を生じない第2の領域(パッシブ領域)とが存在する。第1の領域(アクティブ領域)の活性層および第2の領域(パッシブ領域)の光ガイド層は、それぞれ、下方のクラッド層と上方のクラッド層とに挟まれている。そして、上方のクラッド層がリッジ状であり、下方のクラッド層が平面状に広がっている。換言すれば、活性層および光ガイド層と、それらの上下に配置されたクラッド層とは、環状の光軌道(環状の共振器)を構成する。上方のクラッド層の横幅は、たとえば0.7μm〜4μmの範囲にあり、一例では、1μm〜2μmの範囲にある。下方のクラッド層の横幅は、少なくとも上方のクラッド層の横幅よりも広く、たとえば、上方のクラッド層の横幅の10倍以上である。
【0015】
第1の領域(アクティブ領域)の活性層と、第2の領域(パッシブ領域)の光ガイド層とは、バット−ジョイント構造で結合されている。すなわち、両者の端面が光路に沿ってつきあわされている。結合されている部分において、活性層の端面と光ガイド層の端面とは、密着していてもよいし、0.2μm〜0.5μm程度離れていてもよい。活性層と光ガイド層とをバット−ジョイント構造(Butt−Joint構造)で結合することによって、共振器の内部損失を大きく低減できる。
【0016】
なお、光ガイド層とは、クラッド層に挟まれ、クラッド層よりも屈折率が高い材料からなる層である。この光ガイド層およびその近傍をレーザ光が伝播する。
【0017】
本発明とは異なり、下側のクラッド層も上側のクラッド層と同様にリッジ構造とした場合、リッジ構造の部分(下側クラッド層、活性層または光ガイド層、上側クラッド層)と空気との屈折率差によって、光の左右方向の閉じ込めが行われる。このような場合、リッジの作製の際に生じる表面の荒れの影響で光の散乱が大きくなって共振器内における光の損失が大きくなる。これに対し、本発明の半導体レーザ素子では、下側のクラッド層が平面状に広がっており、リッジ構造を形成していない。そのため、上記散乱による光の損失を抑制でき、光の内部損失を低減できる。なお、活性層についても同様であり、活性層の両サイドが空気であるよりも、活性層自身が平面的に広がっているか、細い活性層の両サイドに活性層よりも屈折率が低い層が存在することが好ましい。
【0018】
本発明の効果が得られる限り、光軌道の形状は、円環状であってもよいし、楕円環状であってもよいし、円環を引き延ばした形状(図1参照)であってもよい。
【0019】
理論的には、光軌道の周長は長い方が、角速度の測定精度を高めることができる。一方、光軌道の周長が長すぎると、半導体レーザ素子を精度よく製造することが難しくなる。光軌道の周長は、たとえば10mm〜50mmの範囲にあり、一例では15mm〜35mmの範囲にある。
【0020】
光軌道の周長に占めるアクティブ領域の長さの割合は、たとえば1〜20%の範囲にあり、一例では4〜10%の範囲にある。
【0021】
アクティブ領域には、活性層を含む半導体多層膜と、活性層に電流を注入するための電極とが配置される。アクティブ領域では、活性層へのキャリアの注入によって誘導放出が生じ、光が増幅される。一方、パッシブ領域では光は増幅されない。活性層は、単一量子井戸層であってもよいし、多重量子井戸層であってもよいし、量子ドット型の層であってもよい。
【0022】
パッシブ領域におけるレーザ光の減衰を防止するため、パッシブ領域の光ガイド層のバンドギャップは、アクティブ領域の活性層のバンドギャップよりも広いことが好ましい。すなわち、パッシブ領域の光ガイド層のバンドギャップ波長は、アクティブ領域の活性層のバンドギャップ波長よりも短いことが好ましい。この構成によれば、アクティブ領域で発生したレーザ光が、パッシブ領域で吸収されることを抑制できる。
【0023】
半導体レーザ素子の共振器は、半導体によって形成でき、たとえば、III−V族化合物半導体で形成できる。また、引き出し手段の光導波路も、同様の半導体によって形成してもよい。
【0024】
引き出し手段は、たとえば、所定の位置に配置された1本または2本の光導波路であってもよい。それらの光導波路の一部は、光軌道(共振器)に隣接して且つ光軌道の接線方向と平行に配置されてもよい。その一部は、光結合器として機能するため、第1および第2のレーザ光L1およびL2が光軌道(共振器)からこの光導波路に伝播する。引き出し手段を構成する光導波路の構造は、レーザ光L1およびL2を光軌道(共振器)から引き出すことができる限り特に限定はなく、たとえば、パッシブ領域と同様の積層構造としてもよい。
【0025】
本発明のジャイロでは、上記検出手段は、第1のレーザ光L1を検出する第1の受光素子と、第2のレーザ光L2を検出する第2の受光素子とを含んでもよい。それらの受光素子の信号は、たとえば、外部の回路に出力され、その信号に含まれる振動成分から2つのレーザ光の周波数差が求められる。検出された周波数差から、ジャイロの回転角速度を求めることができる。本発明のジャイロにおいて、受光素子には、フォトダイオードやフォトトランジスタを用いることができる。
【0026】
また、本発明のジャイロでは、上記検出手段は、引き出された第1および第2のレーザ光L1およびL2を結合するための結合手段と、結合された第1および第2のレーザ光L1およびL2のビート信号を検出する受光素子とを含んでもよい。結合手段には、光結合器を用いることができる。第1のレーザ光L1と第2のレーザ光L2とを結合することによって、ビート信号が生じる。このビート信号を検出することによって、第1のレーザ光L1と第2のレーザ光L2との周波数差を求めることができる。
【0027】
[半導体レーザジャイロの一例]
本発明のジャイロの一例について、主要部の配置を図1に示す。
【0028】
図1のジャイロ10は、半導体リングレーザ素子20、結合導波路31、結合導波路32、およびフォトダイオード33〜36を含む。これらは、基板(図示せず)上に形成されている。半導体リングレーザ素子20は、アクティブ領域21と、パッシブ領域22とを含む。アクティブ領域21とパッシブ領域22とによって、リング状の光軌道23が形成されている。アクティブ領域21は、光軌道23の直線状の部分に形成されている。結合導波路31および32は、それぞれ、リング状の光軌道23と結合(coupling)している。なお、フォトダイオード33および36のいずれか一方、およびフォトダイオード34および35のいずれか一方を省略してもよい。
【0029】
アクティブ領域21の活性層に、閾値以上の電流が注入されると、レーザ素子20のリング状の光軌道を時計回りに伝播するレーザ光L1と、反時計回りに伝播するレーザ光L2とが励起される。レーザ光L1の一部およびレーザ光L2の一部は、結合導波路31および32に伝播される。その結果、レーザ光L1はフォトダイオード33および36で検出され、レーザ光L2は、フォトダイオード34および35で検出される。レーザ光L1およびレーザ光L2のそれぞれの検出信号には、レーザ光L1とレーザ光L2との周波数差に対応する振動成分が含まれていることが、理論および実験から分かっている。そのため、ジャイロ10では、レーザ光L1およびレーザ光L2のうちのいずれか一方の検出信号に含まれる周波数成分から、回転の角速度を求めることが可能である。したがって、ジャイロ10のフォトダイオードは、1つであってもよい。
【0030】
なお、結合導波路で引き出したレーザ光L1およびL2を結合器で重ね合わせ、それによって生じるビート信号を受光素子で検出してもよい。そのようなジャイロの一例について、主要部の配置を図2に示す。
【0031】
図2のジャイロ10aは、半導体リングレーザ素子20、結合導波路37、およびフォトダイオード38を含む。結合導波路37は、レーザ素子20のリング状の光軌道23と結合している。また、結合導波路37は、結合器37aを含む。結合器37aにおいて、結合導波路37の一部は、結合導波路37の他の一部と結合している。レーザ素子20の光軌道23を伝播するレーザ光L1およびL2は、それぞれ、結合導波路37に引き出される。引き出されたレーザ光L1およびL2は、結合器37aにおいて、方向を揃えられて結合される。その結果、2つのレーザ光の周波数差に基づくビート信号が生じる。このビート信号は、フォトダイオード38で検出される。
【0032】
以下に、図1に示したジャイロ10について、構造の詳細を説明する。
【0033】
レーザ素子20について、アクティブ領域21の断面図を図3(a)に示し、パッシブ領域22の断面図を図3(b)に示す。図3(a)は、図1の線IIIa−IIIaにおける断面図である。図3(b)は、図1の線IIIb−IIIbにおける断面図である。
【0034】
アクティブ領域21は、n−InPからなる基板40と、基板40上に順に形成された多層膜によって構成されている。その多層膜は、n−InPからなるバッファ層41、ノンドープのInGaAsPからなる活性層42、p−InP層43、p−InP層44、p−InGaAsP層45、およびp−InGaAsP層46を含む。活性層42の両サイドには、ノンドープのInGaAsP層51が形成されている。また、InGaAsP層51上には、ノンドープのInP層52が積層されている。パッシブ領域22では、基板40上に、ノンドープのInGaAsP層51(光ガイド層)と、ノンドープのInP層52(パッシブ領域での最大厚さ:0.8μm)とが積層されている。
【0035】
それぞれの層の厚さおよびドープ量を表1に示す。また、一部の層のバンドギャップ波長λgも表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
基板40上の多層膜は、絶縁膜(図示せず)によって覆われている。アクティブ領域21のp−InGaAsP層46上の絶縁膜には、電極を接続するための開口部が形成されている。その開口部および基板40の裏面には、電流注入用の電極(図示せず)が形成されている。
【0038】
活性層42とp−InP層44とを上方から見たときの両者の配置を、図4に示す。図4では、活性層42の平面形状に網掛けを付している。活性層42の端面は、光路に対して斜めになっている。これは、端面で反射された光が、光軌道23に戻ることを防止するためである。
【0039】
アクティブ領域21とパッシブ領域22との接続部について、光路に沿った断面図を図5に示す。接続部では、活性層42と、パッシブ領域22のInGaAsP層51(光ガイド層)とが、バット−ジョイントによって結合されている。
【0040】
活性層42と、パッシブ領域22におけるInGaAsP層51(光ガイド層)とを上方から見たときの配置を図6に示す。また、InP層52のリッジ部52aの配置を点線で示す。活性層42とInGaAsP層51とは、両者の端面がつきあわされるように結合されている。
【0041】
p−InPからなる基板40およびバッファ層41とp−InP層43および44とは、活性層42およびパッシブ領域22のInGaAsP層51(光ガイド層)よりも屈折率が低い。そのため、基板40およびバッファ層41とp−InP層43および44とは、活性層42を挟むクラッド層、およびパッシブ領域22のInGaAsP層51(光ガイド層)を挟むクラッド層として機能し、レーザ光の上下方向の閉じ込めをする。
【0042】
アクティブ領域21において、p−InP層43およびp−InP層44は、リッジ型に形成されている。また、パッシブ領域22において、InGaAsP層51上には、リッジ型のInP層52が形成されている。これらのリッジ型のクラッド層は、レーザ光の左右方向の閉じ込めをする。環状に形成されたリッジ型の上側クラッド層、およびその下方に存在する光ガイド層、活性層、および下側クラッド層が、環状の光軌道(共振器)を構成する。上下方向および左右方向の光閉じ込めの結果、レーザ光L1およびl2は、アクティブ領域21の活性層およびパッシブ領域22の光ガイド層を中心とする近傍を伝播する。
【0043】
レーザ素子20では、下側のクラッド層(基板40およびバッファ層41)がリッジを構成しておらず、平面的に広がっている(すなわち、リッジ部よりも広がっている)。すなわち、レーザ光に対する左右方向の閉じ込めは、リッジ形状を有する上側のクラッド層(p−InP層43および44、InP層52)によって行われる。そのため、レーザ素子20では、光の散乱に基づく光の損失を抑制できる。
【0044】
結合導波路31および32は、基板40上に、ノンドープのInGaAsP層51と、ノンドープのInP層52とが積層されることによって形成されている。結合導波路31および32と、光軌道23との間の距離は、レーザ光の伝播が生じる距離とされる。その距離は、たとえば0.2μm〜1.5μmの範囲にあってもよい。
【0045】
フォトダイオード33〜36は、アクティブ領域21と同じ積層構造を有する。
【0046】
[ジャイロの製造方法の一例]
ジャイロ10の製造方法の一例について、以下に説明する。なお、以下の工程は、一般的な半導体素子製造方法で用いられる技術によって実施できる。たとえば、MOCVDなどの成膜法、フォトリソグラフィー法、RIEなどのドライエッチング法、およびウェットエッチング法などを用いることによって実施できる。
【0047】
まず、n−InPからなる基板40上に、バッファ層41、活性層42となるノンドープのInGaAsP層、およびp−InP層43を形成する。次に、活性層42となる部分に対応する領域に、SiO2からなるマスクを形成する。次に、マスク以外の部分を、バッファ層41に到達するまでエッチングする。このようにして、アクティブ領域21以外の領域において、バッファ層41の表面を露出させる。なお、アクティブ領域21と同じ積層構造を有するフォトダイオード33〜36を用いる場合には、それらが形成される領域も、マスクで保護される。
【0048】
次に、露出したバッファ層41の表面から、半導体層を再成長させる。具体的には、InGaAsP層51とInP層52とを順にエピタキシャル成長させる。
【0049】
次に、アクティブ領域21のマスクを除去する。次に、p−InP層43およびInP層52を覆うように、p−InP層44、p−InGaAsP層45およびp−InGaAsP層46を形成する。
【0050】
次に、リッジ部を形成する領域の両サイドを除く部分にSiO2からなるマスクを形成する。そして、マスクの部分以外を、エッチングする。エッチングは、p−InP層43の途中に到達するまで行う。このエッチングによって、リッジ部が形成される。なお、リッジ部の形成と同時に、結合導波路31および32を形成してもよい。
【0051】
次に、全体を覆うように、SiO2膜を形成する。次に、アクティブ領域21上に形成されているSiO2膜の一部に、電極を接続するための開口部を形成する。最後に、アクティブ領域21のp−InGaAsP層46上、および基板40の裏面に電極を形成する。また、フォトダイオード33〜36のそれぞれにも電極が形成される。このようにして、レーザ素子20を含むジャイロ10が形成される。ジャイロ10aも、ジャイロ10と同様の工程で製造できる。
【0052】
上述した構造を有するレーザ素子20を実際に作製し、その特性を測定した。作製したレーザ素子の光軌道(共振器)は、直線部分の長さが2.1mmで、半円部分の直径が5mmとした。光軌道全体の長さは、約20mmである。また、アクティブ領域の長さは1.5mmとした。レーザ光は、結合導波路のフォトダイオードで検出した。注入電流と検出された光強度との関係を図7に示す。図7に示すように、時計回り(CW)のレーザ光L1と、反時計回り(CCW)のレーザ光L2が観測された。発振閾値電流は、144mAであった。
【0053】
また、結合導波路の端面に光ファイバを結合し、発振スペクトルを観測した。その結果を、図8(a)に示す。また、発振スペクトルの拡大図を図8(b)に示す。この図から、発振のモード間隔を求めると25pmであった。これは、光軌道の長さから得られる縦モード間隔に対応し、周回モードでの発振が生じていることを示唆している。
【0054】
なお、別の観点では、本発明で用いられる半導体レーザ素子は、環状の光導波路と、その途中に挿入された半導体光増幅器(SOA)とによって構成されているとみなすことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、ジャイロに利用できる。本発明のジャイロは、物体の回転の検出が必要な様々な電子機器に適用できる。代表的な例としては、姿勢制御装置やナビゲーション装置、手ぶれ補正装置に利用できる。具体的には、本発明のジャイロは、ロケットや飛行機などの航空機、自動車やバイクといった移動手段に利用できる。また、本発明のジャイロは小型で消費電力が低いという利点を生かし、携帯電話や小型のパーソナルコンピュータといった携帯情報端末、玩具、カメラなどに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の半導体レーザジャイロの一例について、主要部の配置を示す図である。
【図2】本発明の半導体レーザジャイロの他の一例について、主要部の配置を示す図である。
【図3】図1に示す半導体レーザジャイロについて、(a)アクティブ領域の断面図、および(b)パッシブ領域の断面図である。
【図4】図1に示す半導体レーザジャイロについて、活性層およびリッジ部の配置を模式的に示す図である。
【図5】図1に示す半導体レーザジャイロについて、アクティブ領域とパッシブ領域との結合部を示す断面図である。
【図6】図1に示す半導体レーザジャイロについて、活性層と光ガイド層との結合部の配置を示す図である。
【図7】実際に作製した半導体レーザ素子について、電流と光強度との関係を示すグラフである。
【図8】実際に作製した半導体レーザ素子について、発振スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0057】
10、10a ジャイロ
20 半導体リングレーザ素子
21 アクティブ領域(第1の領域)
22 パッシブ領域(第2の領域)
23 光軌道
31、32、37 結合導波路
33、34、35、36、38 フォトダイオード(検出手段)
37a 結合器
40 基板(クラッド層)
41 バッファ層(クラッド層)
42 活性層
51 InGaAsP層(光ガイド層)
52 InP層(クラッド層)
52a リッジ部
L1、L2 レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の光軌道を有する共振器を備え前記光軌道を互いに逆方向に伝播する第1および第2のレーザ光を発生させる半導体レーザ素子と、
前記第1および第2のレーザ光のそれぞれを前記光軌道から引き出すための引き出し手段と、
引き出された前記第1のレーザ光と前記第2のレーザ光との周波数差を検出するための検出手段とを備え、
前記共振器の前記光軌道の部分には、光増幅を生じる第1の領域と光増幅を生じない第2の領域とが存在し、
前記第1の領域の活性層および前記第2の領域の光ガイド層は、それぞれ、下方のクラッド層と上方のクラッド層とに挟まれており、
前記上方のクラッド層がリッジ状であり、前記下方のクラッド層が平面状に広がっており、
前記第1の領域の活性層と、前記第2の領域の光ガイド層とが、バット−ジョイント構造で結合されている、半導体レーザジャイロ。
【請求項2】
前記検出手段は、前記第1のレーザ光を検出する第1の受光素子と、前記第2のレーザ光を検出する第2の受光素子とを含む請求項1に記載の半導体レーザジャイロ。
【請求項3】
前記検出手段は、引き出された前記第1および第2のレーザ光を結合するための結合手段と、結合された前記第1および第2のレーザ光のビート信号を検出する受光素子とを含む請求項1に記載の半導体レーザジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−103646(P2009−103646A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277609(P2007−277609)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「シームレスな位置情報検出を実現する高精度角速度センサチップの研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】