説明

半導体レーザ

【課題】 従来、水平横モードの光閉じ込めが不十分で、低しきい値電流動作で安定した単一横モード動作可能なGaN系半導体レーザが実現できなかった。
【解決手段】 電流狭窄層24としてSiO等の誘電体を用い、前記電流狭窄層を貫通するストライプ状の開口部25を作製した後に活性層28を含むレーザ結晶層を成長した構造を用いた。前記電流狭窄層24の光吸収や低屈折率の性質によって光閉じ込めの良好な実屈折率導波型や損失導波型の導波路を形成することができ、低しきい値電流密度で安定した屈折率導波による単一横モード型GaN系半導体レーザを実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報処理分野等への応用が期待されているGaN系半導体レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルビデオディスク等の大容量光ディスク装置が実用化され、今後さらに大容量化が進められようとしている。光ディスク装置の大容量化のためにはよく知られるように読み取りや書き込みの光源となる半導体レーザの短波長化が最も有効な手段の一つである。したがって、現在市販されているデジタルビデオディスク用の半導体レーザは、AlGaInP系材料による波長650nmであるが、将来開発が予定されている高密度デジタルビデオディスク用では400nm帯のGaN系半導体レーザが不可欠と考えられている。
【0003】
光ディスク用に用いる半導体レーザは、長寿命、低しきい値電流動作は当然として、他に安定な単一横モード動作、低非点隔差、低雑音、低アスペクト比等が求められるが、現状ではこれら全ての特性を満たす400nm帯半導体レーザは実現されていない。
【0004】
従来、単一横モード型GaN系半導体レーザとして、図3に示す素子の断面構造をもつものが提案されている。サファイア基板101上に第1の結晶成長によりGaNバッファ層102、n−GaN層103、p−GaN電流狭窄層104が成長され、一旦、成長装置から取り出した後ストライプ状の開口部105が、例えばClガスによる反応性イオンエッチングにより形成されている。前記ストライプ状の開口部105は、少なくともp−GaN電流狭窄層104を完全に貫通していなければならない。
【0005】
次に、再び、結晶成長装置に導入し、第2の結晶成長によりn−AlGaN第1クラッド層106、n−GaN第1光ガイド層107、Ga1−xInN/Ga1−yInN(0<y<x<1)から成る多重量子井戸活性層108、p−AlGaNキャップ層109、p−GaN第2光ガイド層110、p−AlGaN第2クラッド層111、p−GaNコンタクト層112が成長される。
【0006】
最後に、ストライプ状の開口105の直上に、例えばNi/Auから成るp電極113、また、一部をn−GaN層103が露出するまでエッチングした表面に、例えばTi/Alから成るn電極114が形成され、図3に断面構造を示す単一横モード型GaN系半導体レーザが作製される。
【0007】
この素子において、n電極114を接地し、p電極113に電圧を印加すると、多重量子井戸活性層108に向かってp電極113側からホールが、また、n電極114側から電子が注入され、前記多重量子井戸活性層108内で光学利得を生じ、レーザ発振を起こす。なお、このレーザ駆動時のバイアスはp−GaN電流狭窄層104とn−AlGaN第1クラッド層106との接合については、逆バイアスとなるためp−GaN電流狭窄層104が存在しないストライプ状の開口部105のみに電流が集中する。
【0008】
一方、ストライプ状の開口部105上に形成された多重量子井戸活性層108は、図3に示すように屈曲した形状を有するために成長層に水平な方向に屈折率差が生じ、レーザ光もまた安定してストライプ状の開口部105の直上の多重量子井戸活性層108内に閉じ込められる。このため、注入キャリアと光の分布がほぼ一致し、低しきい値電流密度での発振が可能となる。また、前述のように成長層に水平な方向に屈折率差を有する屈折率導波構造なので、光学モードは安定し、また非点隔差も極めて小さい高性能の半導体レーザが実現できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−93192号公報
【特許文献2】特開平11−233886号公報
【特許文献3】特開平11−150296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記単一横モード型GaN系半導体レーザを実際に作製する場合において極めて回避困難な問題点が存在する。図3において、p−GaN電流狭窄層104が用いられているが、GaNは比較的屈折率の大きい材料である。即ちn−AlGaN第1クラッド層106よりも屈折率は大きい。多重量子井戸活性層108が屈曲しているため、図4の成長層に水平な方向における屈折率分布に示すように、n−AlGaN第1クラッド層106との間の屈折率差により光が閉じ込められる。しかし、n−AlGaN第1クラッド層106のさらに外側にn−AlGaN第1クラッド層106よりも屈折率の大きいp−GaN電流狭窄層104が存在すると、光がp−GaN電流狭窄層104へ多量に漏れ、多重量子井戸活性層108への光閉じ込めが著しく低下する。特に、ストライプ幅が3μm以下の狭ストライプ構造ではそれが顕著となる。
【0011】
多重量子井戸活性層108への光閉じ込めが低下すると、しきい値電流やビーム広がり角のアスペクト比の増大等、光ディスク用光源としての応用上好ましくない特性となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以上述べた従来の単一横モード型GaN系半導体レーザの問題点に鑑みてなされたもので、安定な単一横モード動作、低アスペクト比、低しきい値電流等、高性能の単一横モード型GaN系半導体レーザを提供するものである。
【0013】
本発明では、電流狭窄層に低屈折率のSiO、SiN、Al等の誘電体を用い、水平方向に屈曲した活性層への光閉じ込めを高めるものであり、その結果、低しきい値電流でアスペクト比の小さい、安定した屈折率導波による単一横モード型GaN系半導体レーザを実現できる。
【0014】
すなわち、本発明は、基板と、n型層と、誘電体から成る電流狭窄層と、前記電流狭窄層を貫通するストライプ状開口部と、前記ストライプ状開口部上に形成された量子井戸活性層とを備え、前記量子井戸活性層を含む複数の結晶層が、前記ストライプ状開口部上と前記電流狭窄層上に亘って、前記ストライプ状開口部の側壁面の段差に沿って屈曲して形成され、前記誘電体が、SiO、SiN、Alの何れか1種であり、前記複数の結晶層の最下層が前記n型層の一部であるn型AlGaN層から成る第1クラッド層であることを特徴とする半導体レーザを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、低しきい値電流密度を有し、単一横モード、低アスペクト比等、光ディスク用光源に適した高性能な短波長半導体レーザが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】参考例に示すGaN系単一横モード半導体レーザの素子断面図
【図2】実施例に示すGaN系単一横モード半導体レーザの素子断面図
【図3】従来例のGaN系単一横モード半導体レーザの素子断面図
【図4】図3に示す従来例の成長層に水平な方向における屈折率分布を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
先ず、電流狭窄層を高融点金属で形成する参考例について説明し、その後、電流狭窄層を誘電体で形成する実施例について説明する。参考例と実施例は、電流狭窄層を構成する材料が異なるだけで、その他の構成要素は共通する。
【0019】
〈参考例〉
図1は、参考例を示す単一モード型GaN量子井戸半導体レーザの素子断面図である。有機金属気相成長法により(0001)サファイア基板1上に第1の結晶成長によりAlNバッファ層2、n−GaN層3を成長させ、一旦、成長装置から取り出した後タングステンからなる電流狭窄層4を真空蒸着により膜厚1μm程度堆積する。その後幅2μmのストライプ状の開口部5を、例えばイオンミリングにより形成する。前記ストライプ状の開口部5は少なくともタングステンからなる電流狭窄層4は完全に貫通していなければならない。
【0020】
次に、再び、結晶成長装置に導入し、第2の結晶成長によりn−Al0.07Ga0.93N第1クラッド層6、n−GaN第1光ガイド層7、Ga1−xInN/Ga1−yInN(0<y<x<1)から成る多重量子井戸活性層8、p−Al0.08Ga0.92Nキャップ層9、p−GaN第2光ガイド層10、p−Al0.07Ga0.93N第2クラッド層11、p−GaNコンタクト層12を成長させる。
【0021】
最後に、ストライプ状の開口5直上に、例えばNi/Auから成るp電極13、また、一部をn−GaN層3が露出するまでエッチングした表面に、例えばTi/Alから成るn電極14を形成する。
【0022】
多重量子井戸活性層8は、例えば厚さ3nmのGa0.9In0.1N量子井戸層と9nmのGa0.97In0.03Nバリア層とから構成されている。また、タングステンからなる電流狭窄層4上に積層されたn−Al0.07Ga0.93N第1クラッド層6以降の結晶層は、多結晶化しており高抵抗となっている。したがって、電流はストライプ状の開口部5 直上の多重量子井戸活性層8に選択的に注入される。
【0023】
多重量子井戸活性層8内で発生した光は、垂直方向で見るとn−GaN第1光ガイド層7、多重量子井戸活性層8、p−Al0.08Ga0.92Nキャップ層9、およびp−GaN第2光ガイド層10の4層内に特に強く閉じ込められるが、段差によって成長層に水平な方向にも屈折率差が生じている。多重量子井戸活性層8における屈曲部17の幅は約1.5μmとなり、これを実効的なストライプ幅とする屈折率導波構造となっている。
【0024】
本参考例の場合、狭ストライプ構造を用いているので水平方向の光はタングステンからなる電流狭窄層4へも広がるが、多重量子井戸活性層8内で発生した光を強く吸収するため損失導波作用が生じ、多重量子井戸活性層8への光閉じ込め効果が一層強く現れ、90%以上の光閉じ込め係数が得られる。したがって、低しきい値電流で安定な単一横モード、低アスペクト比等、光ディスク用光源に適した高性能が実現できる。さらに、多重量子井戸活性層8は屈曲部17がなく平坦な場合でもタングステンから電流狭窄層4によって屈折率差が生じていれば同様の効果が得られる。
【0025】
〈実施例〉
図2は、実施例を示す単一モード型GaN系量子井戸半導体レーザの素子断面図であり、参考例におけるW電流狭窄層をSiO電流狭窄層とした。SiO電流狭窄層24が真空蒸着により膜厚1μm程度堆積されている。その後、幅2μmのストライプ状の開口部25が、例えばCFを用いたドライエッチングにより形成されている。前記ストライプ状の開口部25は、少なくともSiO電流狭窄層24は完全に貫通していなければならない。
【0026】
SiO電流狭窄層24は絶縁体なので、電流はストライプ状の開口部25直上の多重量子井戸活性層28に選択的に注入される。多重量子井戸活性層28内で発生した光は、垂直方向で見るとn−GaN第1光ガイド層27、多重量子井戸活性層28、p−Al0.08Ga0.92Nキャップ層29、およびp−GaN第2光ガイド層30の4層内に特に強く閉じ込められるが、段差によって成長層に水平な方向にも屈折率差が生じている。多重量子井戸活性層28における屈曲部37の幅は約1.5μmとなり、これが実効的なストライプ幅とする屈折率導波構造となっている。
【0027】
本実施例の場合、狭ストライプ構造を用いているので、水平方向の光はSiO電流狭窄層24へも広がるが、SiO電流狭窄層24は低屈折率材料であるため、多重量子井戸層28への光閉じ込め効果が一層強く現れる。その結果90%以上の光閉じ込め係数が得られる。
【0028】
多重量子井戸活性層28は屈曲部37がなく平坦な場合でも、SiO電流狭窄層24によって屈折率差が生じていれば同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0029】
1,21: (0001)サファイア基板
2,22: AlNバッファ層
3,23: n−GaN層
4: W電流狭窄層
24: SiO2 電流狭窄層
5,25: ストライプ状の開口部
6,26: n−Al0.07Ga0.93N第1クラッド層
7,27: n−GaN第1光ガイド層
8,28: Ga1−xInN/Ga1−yInN多重量子井戸活性層
9,29: p−AlGaNキャップ層
10,30:p−GaN第2光ガイド層
11,31:p−Al0.07Ga0.93N第2クラッド層
12,32:p−GaNコンタクト層
13,33:p電極
14,34:n電極
17,37:活性層の屈曲部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、n型層と、誘電体から成る電流狭窄層と、前記電流狭窄層を貫通するストライプ状開口部と、前記ストライプ状開口部上に形成された量子井戸活性層とを備え、
前記量子井戸活性層を含む複数の結晶層が、前記ストライプ状開口部上と前記電流狭窄層上に亘って、前記ストライプ状開口部の側壁面の段差に沿って屈曲して形成され、
前記誘電体が、SiO、SiN、Alの何れか1種であり、
前記複数の結晶層の最下層が前記n型層の一部であるn型AlGaN層から成る第1クラッド層であることを特徴とする半導体レーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−55009(P2011−55009A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277392(P2010−277392)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【分割の表示】特願平11−248044の分割
【原出願日】平成11年9月1日(1999.9.1)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】