説明

半導体発光素子

【課題】半導体発光素子を長時間使用しても、使用環境の影響による劣化を防止できるようにする。半導体発光素子の発光出力を高くする。
【解決手段】活性層7の上方に設けられた半導体層15の上面に、半導体層15の上面よりも高い耐湿性を有する保護膜部30を設けた。保護膜部30には、半導体層15に対して接合された半導体層接合面31aを有する第一の保護層31と、上部電極17に対して接合された電極接合面32a、32bを有する第二の保護層32とを備えた。また、第一の保護層31は、半導体層15に対する接合性が第二の保護層32よりも高い性質を有し、第二の保護層32は、上部電極17に対する接合性が第一の保護層31よりも高い性質を有するとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば光通信の光源などに使用される半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)や半導体レーザー(レーザーダイオード)などの発光素子は、光通信などに使用されている。近年では、プラスチック光ファイバー(POF)用の光源として、半導体レーザーよりも安価である発光ダイオードが注目されている。しかしながら、より高い出力、高速応答性、高い信頼性を実現するためには、従来の一般的な発光ダイオードでは不十分であり、様々な改良が試みられている。例えば、発光ダイオードを構成する層が、使用環境の湿度などの影響を受けて変質すると、層の劣化、発光出力の低下等の問題が生じる。そのような不具合を防止するため、発光ダイオードの表面に、耐湿性が高い保護膜を設ける、または半導体層の最上層を耐湿性の高い層とする構造が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
例えば面発光型発光ダイオードに関しては、発光ダイオードの上面(光の出射側)に、Si(珪素、シリコン)系の保護膜(パシベーション層)、即ち、酸化珪素(SiO)からなる保護膜、窒化珪素(SiN)からなる保護膜、又は、窒化酸化珪素(SiO1−x)からなる保護膜を設ける構成が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、垂直共振器型発光ダイオード(RCLED:Resonant−Cavity Light Emitting Diode)に関しては、InGa1−xPからなる耐湿層を設ける構成が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平9−246593号公報
【特許文献2】特開2002−111054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のSi系の保護膜は、保護膜が接合される層(半導体層)、あるいは、発光ダイオードの上面側に設けられている電極(金属)との接合性(密着性)が不十分であった。例えば酸化珪素からなる保護膜は、半導体層との接合性は高いが、電極との接合性が低い問題があった。逆に、窒化珪素からなる保護膜は、電極との接合性は高いが、半導体層との接合性が低い問題があった。また、窒化酸化珪素を保護膜に用いた場合でも、半導体層や電極との十分な接合性は得られなかった。従って、いずれのSi系の保護膜を用いた場合も、例えば発光ダイオードを長時間使用した際等には、保護膜と電極との間、または、保護膜と半導体層との間において、剥離が生じるおそれが高かった。即ち、剥離した箇所の隙間を通じて、外部の雰囲気(外気)が侵入し、半導体層の変質、劣化、発光出力の低下等の不具合が発生するおそれがあった。
【0007】
また、InGa1−xPからなる耐湿層を形成した場合、InGa1−xPは禁制帯幅(バンドギャップ)が小さく、発光ダイオードの内部(活性層)において発生させられる光が短波長であると、光が耐湿層を透過して出射する際に、光エネルギーの一部が、耐湿層によって多く吸収され、出射光の光エネルギーが大幅に減少させられてしまう。即ち、発光出力が耐湿層によって低下させられる問題があった。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、長時間使用しても、使用環境の影響による劣化を防止でき、かつ、発光出力が高い半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明によれば、光を発生させる活性層と、前記活性層の上方に設けられた半導体層と、前記半導体層の上方に設けられた上部電極とを備える半導体発光素子であって、前記半導体層よりも高い耐湿性を有する保護膜部を備え、前記保護膜部は、前記半導体層に対して接合された半導体層接合面と、前記上部電極に対して接合された電極接合面とを備え、前記半導体層接合面は、前記半導体層に対する接合性が前記電極接合面よりも高い性質を有し、前記電極接合面は、前記上部電極に対する接合性が前記半導体層接合面よりも高い性質を有することを特徴とする、半導体発光素子が提供される。
【0010】
前記半導体層接合面は、酸化珪素によって形成しても良い。前記電極接合面は、窒化珪素によって形成しても良い。
【0011】
また、前記活性層の下方に、第一の反射層を備え、前記活性層の上方に、第二の反射層を備え、前記第一の反射層と前記第二の反射層とによって、光を共振させる共振器構造を構成しても良い。前記半導体層は、前記第二の反射層であっても良い。前記第二の反射層と前記上部電極との間には、コンタクト層を備えても良い。
【0012】
さらに、前記上部電極に、光を出射させる光出射部を備え、前記上部電極の下方に、電流狭窄を行う電流狭窄層を備えても良い。前記光出射部は、前記電流狭窄層の開口部に対して重なる位置に設けても良い。
【0013】
また、前記電極接合面は、前記保護膜部の側面及び上面に設けても良い。前記保護膜部は、前記半導体層接合面を有する第一の保護膜と、前記電極接合面を有する第二の保護膜とを備える構成としても良い。前記第一の保護膜の厚さと前記第二の保護膜の厚さとを合計した厚さは、(m/4)×(λ/n)(m:正の奇数、λ:前記活性層が発生させる光の波長、n:第一の保護膜と第二の保護膜の平均屈折率)としても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、保護膜部と半導体層の接合性、保護膜部と上部電極の接合性を高めることができる。発光出力の経時変化を防止でき、信頼性の高い半導体発光素子とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明にかかる実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態にかかる半導体発光素子の一例としての発光ダイオード1を示した平面図であり、図2は、発光ダイオード1の縦断面図である。かかる発光ダイオード1は、いわゆる垂直共振器型発光ダイオード(RCLED)の一種であり、光を共振させる垂直共振器(後述する共振器構造52)と、活性層への電流密度を向上させる電流狭搾構造(後述する電流狭窄層13)とを有するものである。なお、以下では説明の便宜のため、光が出射される側(後述する光出射部25側)を上方とし、その反対側(後述する下部電極35側)を下方として説明する。
【0016】
図2に示すように、発光ダイオード1は、基板2の一面(上面)側に、バッファ層3、第一の反射層5、第一のクラッド層6、光を発生させる活性層7、第二のクラッド層8、エッチングストップ層12、電流狭窄層13、半導体層(保護膜接合層)としての第二の反射層15、及び、コンタクト層16と上部電極17からなる電極層部18が、所定方向(下方から上方に向かう方向)においてこの順に、また、互いに略平行に積層された構造を備えている。なお、電流狭窄層13は、第二の反射層15内に埋め込まれており、電流狭窄層13に設けられている通過部用孔13a(開口部)には、第二の反射層15の一部である通過部15aが形成されている。また、上部電極17には、光を発光ダイオード1の外部に出射させる光出射部25(窓部)が設けられている。光出射部25の下方には、第二の反射層15の上面を保護する保護膜部30が設けられている。この保護膜部30は、二層構造になっており、下層である第一の保護膜31と、上層である第二の保護膜32とを備えている。一方、基板2の他面(図2においては下面)側には、下部電極35が層状に設けられている。
【0017】
基板2は、例えばn型GaAs(ガリウム砒素)の基板である。バッファ層3は、例えばn型GaAsからなる層であり、第一の反射層5の結晶性を高めるために設けられている。
【0018】
活性層7は、光を発生させる発光部として機能する層であり、例えば量子井戸(QW:Quantum Well)構造からなる層としても良く、単一量子井戸構造や多重量子井戸構造とすることができる。また、活性層7とその上下に設けられている2つのクラッド層(即ち、活性層7の下方に備えられている第一のクラッド層6と、活性層7の上方に備えられている第二のクラッド層8)によって、ダブルへテロ接合構造51が構成されている。なお、活性層7、第一のクラッド層6、第二のクラッド層8は、III−V族半導体層とすることができ、例えばAlGaIn1−X−YP(X:Alの組成、Y:Gaの組成、0<X+Y<1)からなる層であっても良い。
【0019】
また、活性層7の上下に設けられている2つの反射層(即ち、活性層7の下方に備えられている第一の反射層5と、活性層7の上方に備えられている第二の反射層15)によって、活性層7で発生した光を上下方向に繰り返し反射させて共振させる共振器構造52(垂直共振器構造)が構成されている。なお、第一の反射層5、第二の反射層15としては、例えばAlGaAs系のブラッグ反射層を用いても良い。
【0020】
コンタクト層16は、第二の反射層15の上面(保護膜部30によって覆われている上面中央部を除いた部分)を覆うように設けられている。なお、コンタクト層16を第二の反射層15と上部電極17との間に設けると、第二の反射層15と上部電極17との間に生じる接触抵抗を低減できる。そのようなコンタクト層16の材質としては、例えばGaAs等の半導体を用いても良い。
【0021】
上部電極17は、コンタクト層16の上面を覆うように形成されており、コンタクト層16を介して、第二の反射層15の上面に接合されている。また、上部電極17は、保護膜部30の側部(第一の保護膜31の上部側面と第二の保護膜32の側面全体)にも接合され、さらに、保護膜部30の上面(第二の保護膜32の上面)の一部にも接合されている。即ち、上部電極17は、保護膜部30の上面にオーバーラップさせたオーバーラップ部17aを備えている。このようなオーバーラップ部17aが設けられていると、オーバーラップ部17aを形成しない場合よりも、上部電極17と保護膜部30との接合面積を広くすることができ、上部電極17と保護膜部30をより強固に接合させることができる。図示の例では、オーバーラップ部17aは、保護膜部30の上面周縁部全体に沿って、略円環状に形成されている。なお、上部電極17の材質は、金属、例えばAu(金)を含有する合金(例えばAu、AuZn合金、AuBe合金等)などであっても良い。因みに、下部電極35も、上部電極17と同様に、例えばAuを含有する合金などからなる層であっても良い。
【0022】
光出射部25は、オーバーラップ部17aの内側かつ保護膜部30の上方に形成されている略円形の開口部であり、図示の例では上部電極17の中央部に開口されている。つまり、上方から見た平面視において(発光ダイオード1の中心軸方向からみて)、光出射部25は、保護膜部30及び通過部用孔13a(通過部15a)に対して重なる位置に設けられている。即ち、前述した上部電極17と下部電極35に電圧が与えられ、電流狭窄層13によって電流が狭窄され、通過部15aの直下における活性層7の電流密度が高められ、活性層7で光が発光すると、発生した光は、共振器構造52において共振した後、保護膜部30を透過し、光出射部25を通じて上方(発光ダイオード1の外部)に向かって出射させられるようになっている。
【0023】
保護膜部30は、光出射部25の下方において、第二の反射層15の上面中央部(電極層部18によって覆われていない部分)を覆うように設けられている。即ち、第二の反射層15の上面中央部に外気を接触させないように設けられており、第二の反射層15が外気に接触して変質すること(大気中の水分に接触して酸化すること)を防止している。
【0024】
また、保護膜部30は、上下に積層された2つの層、即ち、第一の保護膜31と、第一の保護膜31よりも上方に設けられた第二の保護膜32とを備えている。第一の保護膜31は、図示の例では、上方から見た平面視において、略円形に形成されており、第二の反射層15の上面、コンタクト層16、上部電極17、及び、第二の保護膜32に対して接合されている。第二の保護膜32は、第一の保護膜31と同様に、上方から見て略円形に形成されており、第一の保護膜31の上面、及び、上部電極17に対して接合されている。
【0025】
即ち、本実施形態において、第二の反射層15に対して接合された半導体層接合面(反射層接合面)とは、第一の保護膜31の下面31aのことである。上部電極17に対して接合された電極接合面とは、第二の保護膜32の側面32a、及び、第二の保護膜32の上面周縁部32b(オーバーラップ部17aに接合された面)のことである。換言すれば、半導体層接合面は、保護膜部30の下面に設けられ、電極接合面は、保護膜部30の側面及び上面に設けられている。
【0026】
第一の保護膜31と第二の保護膜32は、いずれも耐湿性に優れた材質によって形成することが好ましく、特に、第二の反射層15の上面よりも高い耐湿性を有する材質によって形成することが好ましい。そうすれば、第一の保護膜31、第二の保護膜32が外気中の水分によって変質することを防止でき、第二の反射層15を長期間、確実に保護できる。
【0027】
また、第一の保護膜31と第二の保護膜32は、いずれも絶縁性を有し、禁制帯幅が大きいものを使用することが好ましい。そうすれば、活性層7において発生する光が第一の保護膜31や第二の保護膜32によって吸収されることを防止でき、光を効率的に出射させることができる。さらに、第一の保護膜31と第二の保護膜32は、活性層7において発生する光の透過率が高い性質によって形成することが好ましい。この場合も、光を効率的に出射させることができる。
【0028】
さらに、第一の保護膜31としては、第二の反射層15の上面に対する接合性が第二の保護膜32よりも高い性質を有する膜を用いることが望ましく、第二の保護膜32としては、上部電極17に対する接合性が第一の保護膜31よりも高い性質を有する膜を用いることが望ましい。このような材質を組み合わせて使用することで、保護膜部30と第二の反射層15との間の接合力を確保しながらも、保護膜部30と上部電極17との間の接合力も高めることができる。つまり、第二の反射層15の上面に対しては、第一の保護膜31を強固に接合させることができ、第二の反射層15と保護膜部30との間で剥離が生じることを防止できる。一方、上部電極17に対しては、第二の保護膜32を強固に接合させることができる。例えば上部電極17と第一の保護膜31との間の接合力が低い場合でも、上部電極17と第二の保護膜32との間の接合力によって、上部電極17と保護膜部30との間の接合力を補強し、上部電極17と保護膜部30との間で剥離が生じることを防止できる。以上のように、保護膜部30を第二の反射層15にも上部電極17にも強固に接合させることで、第二の反射層15を確実に保護することができる。
【0029】
なお、上記のような性質(耐湿性、絶縁性、透光性、接合性等)を満たす材質としては、例えばSi系の材料を用いることができる。第一の保護膜31は、例えば酸化珪素(SiO、例えばSiO等)によって形成しても良く、第二の保護膜32は、例えば窒化珪素(SiN、例えばSiN等)によって形成しても良い。
【0030】
また、本実施形態のように、発光ダイオード1を共振型の発光素子とする場合、保護層部30の上下方向(発光ダイオード1の中心軸方向)における厚さT(即ち、第一の保護膜31の上下方向における厚さTと、第二の保護膜32の上下方向における厚さTとを合計した寸法)は、(m/4)×(λ/n)(m:正の奇数、λ:活性層7が発生させる光の波長、n:第一の保護膜31と第二の保護膜32の平均屈折率)であることが望ましい。ここで、平均屈折率nは、第一の保護膜31の屈折率をn31、第二の保護膜32の屈折率をn32とした場合、n=(n31×T+n32×T)/(T+T)で決まる値である。このように保護膜部30の厚さTを調節することで、発光ダイオード1の発光出力をさらに向上させることができる。
【0031】
次に、発光ダイオード1の製造方法の一例を説明する。先ず、図3に示すように、基板2上に、例えば化学気相成長法(CVD法)や有機金属化学気相成長法(MOCVD法:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)等を用いて、バッファ層3、第一の反射層5、第一のクラッド層6、活性層7、第二のクラッド層8、エッチングストップ層12、電流狭窄層13を、下方からこの順に形成(エピタキシャル成長)させる。
【0032】
電流狭窄層13を形成したら、図4に示すように、電流狭窄層13のエッチングを行い、通過部用孔13aを形成する。このエッチングは、電流狭窄層13の選択エッチングであり、エッチングストップ層12に対しては行われない。即ち、エッチングの進行は、エッチングストップ層12の上面によって停止させられ、通過部用孔13aの底部においては、エッチングストップ層12の上面中央部が露出させられる。
【0033】
こうして通過部用孔13aを形成したら、図5に示すように、電流狭窄層13上に、第二の反射層15を例えばCVD法あるいはMOCVD法を用いて形成する。このとき、通過部用孔13a内(エッチングストップ層12上)には、通過部15aが形成される。その後、第二の反射層15上に、コンタクト層16を例えばCVD法あるいはMOCVD法を用いて形成する。
【0034】
次に、図6に示すように、コンタクト層16上に、保護膜部30を形成するために用いられる第一のマスク71を、例えばフォトリソグラフィー法により形成する。第一のマスク71(保護膜部30を設ける部分)には、開口71aを形成する。さらに、開口71aの底部に露出させたコンタクト層16の一部(保護膜部30を設ける部分)をエッチングし、第二の反射層15の上面中央部を露出させる。
【0035】
次に、図7に示すように、エッチングによって形成されたコンタクト層16の開口内(第二の反射層15上)に、例えばスパッタリング法などを用いて、第一の保護膜31を形成する。さらに、第一のマスク71の開口71a内(第一の保護膜31上)に、例えばスパッタリング法などを用いて、第二の保護膜32を形成する。
【0036】
その後、第一のマスク71を除去し、コンタクト層16の上面、及び、保護膜部30の側部(第一の保護膜31の側面上縁部と第二の保護膜32の側面)を露出させる。次に、図8に示すように、第二の保護膜32の上面、即ち光出射部25を形成する位置に、第二のマスク72を形成する。
【0037】
次に、図9に示すように、第二の保護膜32上に第二のマスク72を形成した状態のまま、例えばスパッタリング法などを用いて、上部電極17を形成する。その後、第二のマスク72のみを除去すると、光出射部25が開口され、第二の保護膜32の上面が露出される。また、基板2の下面には、下部電極35を形成する。
【0038】
以上のようにして、各層を総て形成した後、ダイシング等を行う。即ち、以上の工程においては、図10に示すように、1枚の基板に対して複数のチップ(回路)が形成されるので、これら複数のチップを、例えば格子状の切断線に沿って(図10においては点線)分割する。これにより、複数の図1に示すような発光ダイオード1が得られる。
【0039】
かかる発光ダイオード1の構造によれば、保護膜部30を二層構造とし、下層である第一の保護膜31を第二の反射層15に対する接合力が強い膜とし、上層である第二の保護膜32を上部電極17に対する接合力が強い膜とすることにより、保護膜部30を第二の反射層15と上部電極17に対して強固に接合させ、第二の反射層15を確実に保護できる。即ち、保護膜部30と第二の反射層15の間で剥離が生じること、保護膜部30と上部電極17の間で剥離が生じることを防止できる。つまり、外気が保護膜部30と上部電極17の間、保護膜部30と第二の反射層15の間に侵入することを防止できる。従って、第二の反射層15が外気に晒されて変質すること(水分に接触して酸化すること)を防止できる。
【0040】
例えば発光ダイオード1を高湿度環境において長時間使用する場合等であっても、第二の反射層15を第一の保護膜31と第二の保護膜32によって確実に保護できる。これにより、第二の反射層15の変質、劣化、発光ダイオード1の発光出力の低下等の不具合が生じることを防止できる。つまり、発光ダイオード1の発光出力の経時変化を防止して、信頼性の高い発光ダイオード1とすることができる。
【0041】
また、第一の保護膜31や第二の保護膜32の材料として、禁制帯幅が大きいものを使用することで、活性層7において発生する光が第一の保護膜31や第二の保護膜32によって吸収されることを防止でき、光を効率的に出射させることができる。即ち、発光ダイオード1の発光出力を高めることができる。
【0042】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0043】
例えば半導体発光素子を構成する各層の材質などは、以上の実施形態には限定されない。例えば保護膜部30が接合される半導体層は、第二の反射層15であるとしたが、かかるものには限定されない。コンタクト層16は、必ずしも設けなくても良い。また、半導体発光素子は、電流狭搾層13を有するものとしたが、かかるものには限定されない。即ち、電流狭窄構造は、電流狭窄層13を挿入することで形成されるものには限定されず、例えばプロトンのイオン注入によって、高抵抗半導体領域を第一の反射層5、第一のクラッド層6、活性層7、第二のクラッド層8、第二の反射層15等に設けることで形成されるものであっても良い。
【0044】
また、半導体発光素子は、実施の形態に示したような共振器構造52を有する垂直共振器型には限定されず、例えば面発光型の発光素子であっても良い。
【0045】
通過部15a、保護膜部30、光出射部25の形状は、略円形には限定されず、任意の形状であっても良い。半導体層接合面や電極接合面の形状も、以上の実施形態には限定されない。
【0046】
さらに、以上の実施形態では、保護膜部30は、半導体層接合面を有する第一の保護膜31と電極接合面を有する第二の保護膜32からなる二層構造をなすとしたが、かかる構成には限定されない。例えば第一の保護膜31と第二の保護膜32との間に、1又は2以上の中間層を設け、二層以上の複数層構造にしても良い。例えば第一の保護膜31が酸化珪素からなり、第二の保護膜32が窒化珪素からなる膜である場合、中間層は、例えば窒化酸化珪素(SiO1−X)からなる層にしても良い。また、保護膜部30は、明確に分割された複数層構造になっていなくても良い。例えば保護膜部30をSiO1−X(X:Oの組成比)によって形成し、保護膜部30の下面(半導体層接合面)においてはX=1(SiO)になるようにし、下方から上方に向かうに従い、Xが次第に減少し、保護膜部30の上部(上部側面、上面周縁部などの電極接合面)において、X=0(SiN)になるように構成しても良い。要するに、保護膜部30は、半導体層よりも高い耐湿性を有しているものであれば良く、さらに、少なくとも半導体層接合面は、半導体層に対する接合性が優れたもの(電極接合面よりも高いもの)になっていればよく、少なくとも電極接合面は、上部電極に対する接合性が優れたもの(半導体層接合面よりも高いもの)になっていれば良い。そうすれば、保護膜部30を半導体層と上部電極に対して強固に接合させ、半導体層を確実に保護できる。
【実施例】
【0047】
(実施例)
本発明者らは、本実施形態にかかる発光ダイオード1を試験体として作製し、その耐湿性試験を行った。なお、活性層7はInGaP層とし、発光波長λは650nmとした。第二の反射層15は、AlGaAs層とした。また、第一の保護膜31はSiO層、第二の保護膜32はSiN層とした。また、保護膜部30全体の光学膜厚は、(3/4)・λ/n(n:第一の保護膜31と第二の保護膜32の平均屈折率)にした。
【0048】
耐湿性試験においては、先ず、新品の発光ダイオード1に、室内環境(温度25℃、相対湿度60%)において20mAの電流を通電し、積分球を用いて、初期発光出力Pを測定した。
【0049】
さらに、発光ダイオード1を高温かつ高湿環境下(85℃、相対湿度85%)において、10mAの電流を累積発光時間が168時間、500時間、1000時間(t=168、500、1000)となるようにそれぞれ通電した。
【0050】
その後、発光ダイオード1に、室内環境(温度25℃、相対湿度60%)において20mAの電流を通電し、積分球を用いて、発光出力P(累積発光時間がt時間の状態で発光させたときの発光出力)を測定した。さらに、上記の各発光出力P、Pより、P/P(発光出力低下率)を求めた。その結果を図11、図12に示す。
【0051】
図11に示したように、発光ダイオード1の初期発光出力Pは、1.8mWであった。t=1000でのP/Pは1.00であり、殆ど低下していなかった。即ち、発光ダイオード1の構成によれば、高温、高湿の使用環境においても、発光出力の低下を好適に防止できることがわかった。
【0052】
(比較試験1)
比較試験1の試験体(比較試験体T、図13参照)として、実施例の発光ダイオード1において、第一の保護膜31及び第二の保護膜32に換えて、SiNの単層を保護膜として設けたものを作製した。そして、上記の耐湿性試験と同様の条件で試験を行い、初期発光出力P、P/Pを求めた。その結果、図11及び図12に示すように、Pの値は、発光ダイオード1と殆ど同じ1.8mWであったが、P/Pの値は、累積発光時間が長くなるに従い低くなり、t=1000では、0.83まで低下した。即ち、発光出力の低下を防止する効果が、発光ダイオード1と比較して少ないことがわかった。
【0053】
(比較試験2)
比較試験2の試験体(比較試験体T、図14参照)として、実施例の発光ダイオード1において、第一の保護膜31及び第二の保護膜32に換えて、SiOの単層を保護膜として設けたものを作製した。そして、上記の耐湿性試験と同様の条件で試験を行い、初期発光出力P、P/Pを求めた。その結果、図11及び図12に示すように、Pの値は、発光ダイオード1と殆ど同じ1.8mWであったが、P/Pの値は、比較試験体Tと同様に、累積発光時間が長くなるに従い低くなり、t=1000では、0.84まで低下した。即ち、発光出力の低下を防止する効果が、発光ダイオード1と比較して少ないことがわかった。
【0054】
(比較試験3)
比較試験3の試験体(比較試験体T、図15参照)として、コンタクト層16(GaAs層)をエッチングせずに残し、コンタクト層16の上方に光出射部25を形成したものを作製した。光出射部25の底部には保護膜を形成せず、コンタクト層16の上面を露出させた状態とした。かかる試験体について、上記の耐湿性試験と同様の条件で試験を行い、初期発光出力P、P/Pを求めた。その結果、P/Pの値は殆ど低下せず、t=1000では、1.02であった。しかし、初期発光出力P0(20mA)は、発光ダイオード1より低く、1.0mWであった。これは、光がコンタクト層16を通過する際に、コンタクト層16によって吸収される光エネルギーが多いためと考えられる。このことより、発光ダイオード1のほうが、発光を効率的に行えることがわかる。
【0055】
以上の結果より、発光ダイオード1は、比較試験体T、T、Tと比較して、発光効率の点でも、発光出力の低下を防止する効果の点でも、優れていることがわかった。
【0056】
本発明は、例えば光通信に用いられる発光ダイオード等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本実施形態にかかる発光ダイオードの平面図である。
【図2】発光ダイオードの縦断面図である。
【図3】発光ダイオードの製造工程において、基板上に電流狭窄層までの層を積層させた状態を示した縦断面図である。
【図4】発光ダイオードの製造工程において、電流狭窄層に通過部用孔を形成した状態を示した縦断面図である。
【図5】発光ダイオードの製造工程において、第二の反射層とコンタクト層を形成した状態を示した縦断面図である。
【図6】発光ダイオードの製造工程において、第一のマスク層と開口を形成し、コンタクト層をエッチングした状態を示した縦断面図である。
【図7】発光ダイオードの製造工程において、第一の保護膜と第二の保護膜を形成した状態を示した縦断面図である。
【図8】発光ダイオードの製造工程において、第二のマスク層を形成した状態を示した縦断面図である。
【図9】発光ダイオードの製造工程において、上部電極を形成した状態を示した縦断面図である。
【図10】発光ダイオードの製造工程において、各チップを分割する前の状態を示した平面図である。
【図11】実施例にかかる耐湿性試験、比較試験1、比較試験2、比較試験3の試験結果を示した表である。
【図12】実施例にかかる耐湿性試験、比較試験1、比較試験2、比較試験3の試験結果において、発光出力低下率の時間変化を示したグラフである。
【図13】比較試験1において用いた比較試験体の上面側の構造を示した縦断面図である。
【図14】比較試験2において用いた比較試験体の上面側の構造を示した縦断面図である。
【図15】比較試験3において用いた比較試験体の上面側の構造を示した縦断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 発光ダイオード
2 基板
3 バッファ層
5 第一の反射層
6 第一のクラッド層
7 活性層
8 第二のクラッド層
12 エッチングストップ層
13 電流狭窄層
13a 通過部用孔
15 第二の反射層
15a 通過部
16 コンタクト層
17 上部電極
25 光出射部
30 保護膜部
31 第一の保護膜
31a 下面(半導体層接合面)
32 第二の保護膜
32a 側面(電極接合面)
32b 上面周縁部(電極接合面)
35 下部電極
52 共振器構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を発生させる活性層と、前記活性層の上方に設けられた半導体層と、前記半導体層の上方に設けられた上部電極とを備える半導体発光素子であって、
前記半導体層よりも高い耐湿性を有する保護膜部を備え、
前記保護膜部は、前記半導体層に対して接合された半導体層接合面と、前記上部電極に対して接合された電極接合面とを備え、
前記半導体層接合面は、前記半導体層に対する接合性が前記電極接合面よりも高い性質を有し、
前記電極接合面は、前記上部電極に対する接合性が前記半導体層接合面よりも高い性質を有することを特徴とする、半導体発光素子。
【請求項2】
前記半導体層接合面は、酸化珪素によって形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記電極接合面は、窒化珪素によって形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記活性層の下方に、第一の反射層を備え、
前記活性層の上方に、第二の反射層を備え、
前記第一の反射層と前記第二の反射層とによって、光を共振させる共振器構造が構成され、
前記半導体層は、前記第二の反射層であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記第二の反射層と前記上部電極との間に、コンタクト層を備えることを特徴とする、請求項4に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記上部電極に、光を出射させる光出射部を備え、
前記上部電極の下方に、電流狭窄を行う電流狭窄層を備え、
前記光出射部は、前記電流狭窄層の開口部に対して重なる位置に設けられていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記電極接合面は、前記保護膜部の側面及び上面に設けられていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項8】
前記保護膜部は、前記半導体層接合面を有する第一の保護膜と、前記電極接合面を有する第二の保護膜とを備えることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項9】
前記保護膜部の厚さは、(m/4)×(λ/n)(m:正の奇数、λ:前記活性層が発生させる光の波長、n:前記第一の保護膜と前記第二の保護膜の平均屈折率)であることを特徴とする、請求項8に記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−21323(P2009−21323A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181844(P2007−181844)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】