説明

半導体装置、DC/DCコンバータおよび電源システム

【課題】 セルフターンオンを防止し、電源変換効率を大幅に向上できる半導体装置を提供する。
【解決手段】 ハイサイドスイッチとローサイドスイッチと2つのドライバとが1パッケージ化された電源用システムインパッケージにおいて、ローサイドスイッチのゲート−ソース間に補助スイッチが内蔵され、このローサイドスイッチのローサイドMOSFET3と補助スイッチの補助MOSFET4とは同一チップ上に構成されることで、セルフターンオンを防止できるため、閾値電圧の低いローサイドMOSFET3が搭載可能になり、電源変換効率が大幅に向上する。さらに、補助MOSFET4のゲート駆動は、ハイサイドMOSFET2のドライバを利用することで、新たな駆動回路を設ける必要もなく、また既存製品と同一ピン配置で実現でき、置き換えが容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源回路の半導体装置に関し、特に、DC/DCコンバータに用いられる、ハイサイドスイッチとローサイドスイッチ及びドライバを1パッケージ化した半導体装置、いわゆるシステムインパッケージと呼ばれる半導体装置において、電源変換効率の向上に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明者が検討したところによれば、電源回路の半導体装置に関しては、以下のような技術が考えられる。
【0003】
近年、電源回路などの小型化、高速負荷応答を達成するため、電源に使用されるパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)の高周波数化が進んでいる。
【0004】
特に、パーソナルコンピュータやコンピュータゲーム機などの電源回路に用いられる、非絶縁型DC/DCコンバータは、駆動するCPUなどの大電流化や、受動部品であるチョークコイル、入出力容量の小型化の要求などに伴い、大電流化、高周波数化の傾向にある。
【0005】
たとえば、パーソナルコンピュータやコンピュータゲーム機などの電源回路には、非絶縁型DC/DCコンバータが広く用いられている。非絶縁型DC/DCコンバータは、電子システムに搭載されるCPUなどの大電流化や低電圧化に伴い、高効率化、小型化が要求される。
【0006】
このような非絶縁型DC/DCコンバータは、ハイサイドスイッチとローサイドスイッチで構成され、該スイッチはパワーMOSFETがそれぞれ用いられている。
【0007】
これらスイッチは、ハイサイドとローサイドとを同期を取りながら交互にON/OFFすることにより、電圧変換を行っている。ハイサイドスイッチは、DC/DCコンバータのコントロール用スイッチであり、ローサイドスイッチは同期整流用スイッチとなる。
【0008】
また、最近のDC/DCコンバータでは、チップ間の寄生インダクタンスを小さくし、高速応答・小型化に対応するため、ハイサイドスイッチ・ローサイドスイッチ及びそれらを駆動するドライバを1パッケージ化した、システムインパッケージ化の傾向がある。
【0009】
以下において、本発明者が本発明の前提として検討した従来のシステムインパッケージの一例を、図8〜図10を用いて説明する。
【0010】
図8は、従来のDC/DCコンバータ向けシステムインパッケージの回路構成の一例を示す。システムインパッケージ29は、ハイサイドMOSFET2、ローサイドMOSFET3、それぞれのMOSFETを駆動するドライバ5,6からなる構成になっている。ここで、ハイサイドMOSFET2は半導体チップ7、ローサイドMOSFET3は半導体チップ8、ドライバ5,6は半導体チップ9であり、上記3つのチップが1つのパッケージに搭載されている。
【0011】
上記システムインパッケージを用いたDC/DCコンバータの動作原理及び各端子について説明する。PWMコントローラ10から、PWM入力端子18にPWM信号が入力されることで、ドライバ5,6が配線14,16を介してハイサイドMOSFET2及びローサイドMOSFET3のゲートを駆動する。ドライバ5,6には、ハイサイドMOSFET2及びローサイドMOSFET3のソース電位が、配線15,17を介して伝えられており、各ゲート電圧はソース電位を基準に与えられる。各MOSFETのゲートに印加される電圧は、外部電源VGH及びVGLから、VGH入力端子20及びVGL入力端子19を介して与えられる。ハイサイドMOSFET2とローサイドMOSFET3のオン期間の割合によって、入力端子23に入力された電圧は所望の電圧に変換され、出力端子24に出力される。出力された電圧は、平滑用インダクタ11及び平滑用コンデンサ12により平滑化される。
【0012】
また、上記システムインパッケージでは、ハイサイドMOSFET2にn型のMOSFETを使用しているため、ゲートを駆動するためにブートストラップ回路を用いており、そのためのコンデンサ28及びブート用端子21が設けられている。なお、ブートストラップ回路には、逆流防止のためにダイオードが用いられるが、本発明には無関係なので省略している。その他には、ハイサイドMOSFET2及びローサイドMOSFET3のゲート電圧を監視するための、VGHモニター端子22及びVGLモニター端子26、パワーグランド端子25、ロジックグランド端子27が設けられている。
【0013】
図9は、従来のDC/DCコンバータ向けシステムインパッケージのパッケージ外観及びチップ配置、ワイヤボンディング配置の一例を示す。パッケージはノンリード表面実装パッケージの1つである、QFN(Quad Flat Non−leaded package)を使用している。図のように、パッケージのタブは3つに分かれており、ハイサイドMOSFETの半導体チップ7、ローサイドMOSFETの半導体チップ8、ドライバの半導体チップ9が搭載されている。各チップ間はワイヤボンディングで接続されており、特徴としては、各MOSFETのゲート駆動用の配線14,16と基準となるソース電位を伝えるための配線15,17がそれぞれ近接かつ平行に配線されることで、MOSFETのゲート−ドライバ間及びソース−ドライバ間の寄生インダクタンスを低減している。
【0014】
ところが、上記DC/DCコンバータにおいては、ローサイドMOSFET3がオフ状態で、ハイサイドMOSFET2がオンすると、ローサイドMOSFET3のドレイン電圧(図8、図9の出力端子24の電圧)が上昇し、その電圧変化に伴い、ローサイドMOSFET3のゲート−ドレイン間の帰還容量を介して、ローサイドMOSFET3のゲート−ソース間に充電電流が流れ、ローサイドMOSFET3のゲート電圧が上昇する、という現象が起こる。この時、ローサイドMOSFET3のゲート電圧が、閾値電圧を超えてしまうと、ローサイドMOSFET3がオン状態になり、ハイサイドMOSFET2からローサイドMOSFET3へ大きな貫通電流が流れ(セルフターンオン現象)、変換効率が大幅に低減するという問題が生じる。
【0015】
図10は、セルフターンオン現象を説明するための各電圧のタイミングチャートを示す。ハイサイドMOSFET2がオンすると、出力端子24の電圧が上昇し、そのピーク電圧時に、ローサイドMOSFET3のゲート−ソース間電圧もピーク電圧を持ち、閾値電圧を超えてしまうことがわかる。実際のローサイドMOSFETは、セルフターンオンを起こさないようにある程度高い閾値電圧を持つMOSFETを使用する必要があり、そのため導通損失が大きくなり、高効率化ができないという問題がある。
【0016】
上記問題の解決策として、たとえば特許文献1では、ローサイドスイッチと補助スイッチを同一パッケージ内に内蔵し、ローサイドスイッチのゲート−ソース間に補助スイッチを接続し、ローサイドスイッチのゲート電圧が上昇した際に、補助スイッチをオンすることでローサイドスイッチのゲート−ソース間を短絡し、ゲート電圧の上昇を防ぎ、セルフターンオンを防止する手段を提示している。
【特許文献1】特開2002−290224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、上記特許文献1では、次のような問題点及び、検討不十分な点があることが本発明者により見い出された。
【0018】
たとえば、上記特許文献1では、上記セルフターンオン現象を防ぐために、ローサイドスイッチと補助スイッチを同一パッケージ内に内蔵しているが、補助スイッチを駆動するための別回路が必要であり、専用のコントロールICが必要であった。また、既存製品とパッケージのピン配置が変わってしまうために、既存製品との置き換えが容易ではなかった。また、補助スイッチとローサイドスイッチを別チップで1パッケージ化するという記載が中心で、補助スイッチとローサイドスイッチの1チップ化について、具体的なデバイス構造などの記載がなかった。
【0019】
後述するが、本発明者の検討によると、前記で述べたシステムインパッケージにおいてもセルフターンオンは問題になるため、別チップで1パッケージ化ではセルフターンオンを完全には防止できない。さらに、最近のDC/DCコンバータの高周波数化・小型化に対応するための傾向である、システムインパッケージについての記述がされていなかった。
【0020】
そこで、本発明の目的は、DC/DCコンバータに用いられるシステムインパッケージにおいて、ローサイドスイッチとセルフターンオン防止のための補助スイッチを1チップ化することで、セルフターンオンを防止し、電源変換効率を大幅に向上できる技術を提供することにある。さらに、システムインパッケージ内でセルフターンオン防止を実現するため、既存製品と同一ピン配置で実現でき、置き換えが容易である。
【0021】
また、本発明の他の目的は、上記補助スイッチをハイサイドスイッチのドライバを利用して駆動することで、新たな駆動回路を必要とせず、容易にセルフターンオンが防止できるシステムインパッケージを提供することである。
【0022】
さらに、本発明の他の目的は、ローサイドスイッチとプリドライバの最終段を1チップ化することで、セルフターンオンを防止するとともに、ローサイドスイッチの駆動能力を上げることができ、電源変換効率をさらに向上できるシステムインパッケージを提供することである。
【0023】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0025】
本発明は、ハイサイドスイッチと、ローサイドスイッチと、ハイサイドスイッチおよびローサイドスイッチをそれぞれ駆動する2つのドライバとを有し、ハイサイドスイッチとローサイドスイッチと2つのドライバとが1パッケージ化されたシステムインパッケージに適用し、以下のような特徴を有するものである。
【0026】
すなわち、本発明のシステムインパッケージにおいて、ローサイドスイッチのゲート−ソース間に補助スイッチが内蔵され、ローサイドスイッチと補助スイッチとは同一チップ上に構成されているものである。
【0027】
さらに、本発明のシステムインパッケージにおいて、補助スイッチの駆動は、ハイサイドスイッチを駆動するドライバを利用して駆動するものである。また、ローサイドスイッチは縦型のMOSFETで形成され、補助スイッチは横型のMOSFETで形成されている。さらに、ローサイドスイッチのMOSFETと補助スイッチのMOSFETとのゲート酸化膜は同一工程で形成される。また、補助スイッチのMOSFETのゲート−ソース間耐圧は、ローサイドスイッチのMOSFETのゲート−ソース間耐圧より高い。また、補助スイッチのMOSFETのドレイン−ソース間耐圧は、ローサイドスイッチのMOSFETのドレイン−ソース間耐圧より低い。また、ローサイドスイッチのMOSFETの閾値電圧は1V以下とするものである。
【0028】
また、本発明のシステムインパッケージは、ローサイドスイッチのゲートの前段にプリドライバが内蔵され、ローサイドスイッチとプリドライバとは同一チップ上に構成されているものである。さらに、ローサイドスイッチは縦型のパワーMOSFETで形成され、プリドライバは横型のMOSFETで形成されているものである。
【0029】
また、本発明は、前記のようなシステムインパッケージを用いたDC/DCコンバータ、さらにこのDC/DCコンバータを用いた電源システムに適用され、ハイサイドスイッチを駆動するドライバおよびローサイドスイッチを駆動するドライバにPWM信号を供給するPWMコントローラと、ハイサイドスイッチおよびローサイドスイッチから出力された電圧を平滑化するインダクタおよびコンデンサとを有するものである。
【発明の効果】
【0030】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0031】
(1)電源用システムインパッケージにおいて、セルフターンオンを防止することができる。
【0032】
(2)その結果、閾値電圧の低いローサイドMOSFETが使用でき、電源変換効率を大幅に向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、本発明の前提として検討した従来技術との関係においても、同様に繰り返しの説明は省略する。
【0034】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1によるシステムインパッケージの回路構成の一例を示す図、図2は、図1のパッケージ外観及びチップ配置、ワイヤボンディング配置の一例を示す図、図3はセルフターンオンが防止できる効果を説明するための各電圧のタイミングチャートを示す図、図4は効果を説明するためのシミュレーション結果を示す図、図5はデバイスの断面構造の一例を示す図である。
【0035】
図1は、本発明の実施の形態1のシステムインパッケージの回路構成の一例を示す。図1の特徴は、前述した図8の従来回路の構成図と比べて、ローサイドMOSFET3にゲート−ソース間を短絡させるための補助MOSFET4が同一チップ上に内蔵されている点である。また、ハイサイドMOSFET2を駆動するためのドライバ5から配線13を介して、補助MOSFET4のゲートを駆動している点である。
【0036】
すなわち、本実施の形態1のシステムインパッケージ1は、ハイサイドスイッチのハイサイドMOSFET2、ローサイドスイッチのローサイドMOSFET3、補助スイッチの補助MOSFET4、それぞれのMOSFETを駆動するドライバ5,6からなる構成において、ハイサイドMOSFET2は半導体チップ7、ローサイドMOSFET3及び補助MOSFET4は半導体チップ8、ドライバ5,6は半導体チップ9であり、上記3つの半導体チップが1つのパッケージに搭載されている。
【0037】
図2は、本実施の形態1のシステムインパッケージのパッケージ外観及びチップ配置、ワイヤボンディング配置の一例を示す。図2の特徴は、前述した図9の従来のシステムインパッケージと比べて、ローサイドMOSFET3の半導体チップ8に、補助MOSFET4のゲートパッド39を設けた点と、ハイサイドMOSFET2を駆動するためのゲート電位を、配線13を介して補助MOSFETのゲートパッド39に伝達している点である。
【0038】
すなわち、半導体チップ7には、ハイサイドMOSFET2のゲートパッド34、ソースパッド(ドライバ−ソース接続用)35、ソースパッド(主電流用)36が設けられている。半導体チップ8には、ローサイドMOSFET3のゲートパッド37、ソースパッド(ドライバ−ソース接続用)38、補助MOSFET4のゲートパッド39、ローサイドMOSFET3のソースパッド(主電流用)40が設けられている。
【0039】
なお、配線13のうち、ドライバ5,6の半導体チップ9上でワイヤボンディングしている部分は、半導体チップ9の内部で配線しても構わない。
【0040】
このシステムインパッケージ1では、補助MOSFET4の駆動を、ハイサイドMOSFET2のドライバ5を利用して行うため、パッケージに新たに駆動用のピンなどを配置する必要がなく、従来製品との置き換えが容易であるという利点もある。
【0041】
図3は、本実施の形態1によってセルフターンオンが防止できる効果を説明するための各電圧のタイミングチャートを示す。ローサイドMOSFET3がオン状態からオフ状態に切り替わると、ローサイドMOSFET3のボディーダイオードに還流電流が流れ始め、出力端子24の電圧が0Vよりボディーダイオードの順方向電圧分下がる。ローサイドMOSFET3及びハイサイドMOSFET2が共にオフの期間(デッドタイム)が過ぎると、ハイサイドMOSFET2がオンし始める。ハイサイドMOSFET2がオンし始めると、出力端子24の電圧も上昇し始める。前述したように、出力端子24の電圧が上昇し始めると、それに同期するようにローサイドMOSFET3のゲート−ソース間電圧も上昇し始め、出力電端子24の電圧がピーク電圧になる時点で、ローサイドMOSFET3のゲート−ソース間電圧もピーク電圧になる。
【0042】
ところが、本実施の形態1では、ローサイドMOSFET3のゲート−ソース間に補助MOSFET4が内蔵されているので、この補助MOSFET4を駆動するゲート電圧は、ハイサイドMOSFET2のゲート電位が伝達されており、また、ハイサイドのゲート電圧は出力端子24を基準電位として与えられているため、補助MOSFET4のゲート−ソース間にかかる電圧は、図のようにハイサイドMOSFET2のゲート−ソース間電圧と出力端子24の電圧の和になる。つまり、補助MOSFET4は、出力端子24の電圧がピーク電圧になる時点の前にすでにオン状態にあり、ローサイドMOSFET3のゲート−ソース間容量に充電電流が流れ、ローサイドMOSFET3のゲート−ソース間電圧が上昇するのを防止する。その結果として、セルフターンオンを防止することができる。
【0043】
また逆に、補助MOSFET4によってローサイドMOSFET3がオンしにくくなることが懸念されるが、ハイサイドMOSFET2がオフすると、ローサイドMOSFET3の内蔵ボディーダイオードに還流電流が流れ始めるため、出力端子24の電圧は0Vよりボディーダイオードの順方向電圧だけ低い電位になり、その結果、補助MOSFET4にかかる電圧も十分小さくなり、次のローサイドMOSFET3がオンする際には障害にはならない。
【0044】
ここで、補助MOSFET4によって、どの程度ローサイドMOSFET3のゲート−ソース間電圧の上昇を防止できるのか、という点は、ローサイドMOSFET3のゲートと補助MOSFET4の間にある寄生インダクタンスに、大きく依存している。すなわち、上記寄生インダクタンスが大きいと、補助MOSFET4のドレイン−ソース間に電流が流れる前に、ローサイドMOSFET3のゲート−ソース間容量に充電電流が流れてしまい、ローサイドMOSFET3のゲート−ソース間電圧が上昇してしまう。
【0045】
図4は、上記で示したローサイドMOSFET3のゲートと補助MOSFET4のドレインの間にある寄生インダクタンスの影響をシミュレーションした結果を示す。すなわち、補助MOSFET4がない場合、補助MOSFET4とローサイドMOSFET3を別チップ同一パッケージで搭載した場合(寄生インダクタンス:1nH程度)、補助MOSFET4とローサイドMOSFET3を同一チップで搭載した場合(寄生インダクタンス:0.1nH程度)における、ローサイドMOSFET3のゲート−ソース間電圧をシミュレーションした。
【0046】
これより、補助MOSFET4とローサイドMOSFET3を別チップ同一パッケージで搭載しても、ローサイドMOSFET3のゲート−ソース間電圧が1.5V程度に上昇してしまうので、例えば閾値電圧が1V程度のパワーMOSFETをローサイド用途としては使用できない。一方、補助MOSFET4とローサイドMOSFET3を同一チップで形成した場合には、ローサイドMOSFET3のゲート−ソース間電圧の上昇は1.0V以下に抑えられ、例えば閾値電圧が1V程度、1V以下のパワーMOSFETをローサイド用途として使用できる。
【0047】
図5は、上記ローサイドMOSFET3と補助MOSFET4の1チップ化したデバイスの断面構造の一例を示す。一般的に電源用DC/DCコンバータにおいて、ローサイドスイッチは、オン抵抗の低いトレンチ型パワーMOSFETが使用される。本実施の形態においても、トレンチ型パワーMOSFETに補助MOSFETを内蔵した構造を示す。43は、本体部であるローサイドMOSFET3の1セルの断面構造を示し、44は、補助MOSFET4の1セルの断面構造を示す。
【0048】
ローサイドMOSFETセル43は、縦型と呼ばれるトレンチ型パワーMOSFETであり、n+基板上のn-エピ層、p型拡散層46中にトレンチを形成し、ゲート酸化膜47を介して、ゲートのポリシリコン電極49が埋め込まれている構造になっている。ゲートのポリシリコン電極49に電圧を印加すると、p型拡散層(ウエル層)45中に反転層が生じ、MOSFETは導通状態になる。また、周辺領域の耐圧確保のために、p型拡散層45は深いp型ウエル層で形成されている。補助MOSFETセル44は、プレーナ型の電極構造を持つ横型MOSFETであり、図のようにローサイドMOSFETセル43の周辺部に形成され、ゲート酸化膜48を介して、ゲートのポリシリコン電極50が形成されている。ローサイドMOSFETセル43と補助MOSFETセル44は、図のように絶縁膜51上のAL電極52を用いて結線されている。
【0049】
このデバイスの断面構造においては、補助MOSFETセル44のゲート酸化膜48及びゲートのポリシリコン電極50は、ローサイドMOSFETセル43のゲート酸化膜47及びゲートのポリシリコン電極49の形成と同時にでき、またp型拡散層45及びn+コンタクト層もローサイドMOSFETセル43の形成と同時にできるため、補助MOSFETセル44は、従来のパワーMOSFETの形成プロセスを利用して形成でき、新たにプロセスを追加する必要はない。
【0050】
図5の補助MOSFETセル44には、次の2つの特徴がある。
【0051】
(1)ドレイン−ソース間耐圧が、本体のローサイドMOSFETセル43より低い。
【0052】
補助MOSFETセル44は、p型拡散層45とn+コンタクト層でドレイン−ソース間耐圧を保持しているため、ローサイドMOSFETセル43と比べて、ドレイン−ソース間耐圧は低くなる。ただし、補助MOSFETセル44のドレイン−ソース間耐圧は、ローサイドMOSFETセル43のゲート−ソース間に印加される電圧より高ければよく、一般的にCPUなどに用いられるDC/DCコンバータにおけるMOSFETのゲートの駆動電圧は5V程度であり、図5のような構造で充分に5V以上のドレイン−ソース間耐圧を確保することができる。
【0053】
(2)ゲート−ソース間耐圧が、本体のローサイドMOSFETセル43より高い。
【0054】
図3のタイミングチャートで示すように、補助MOSFETセル44のゲート−ソース間には、出力端子24の電圧とハイサイドMOSFET2のゲート−ソース間電圧とを加算した電圧が印加される。一般的にCPUなどに用いられるDC/DCコンバータでは、入力電圧は12V程度、ゲート駆動電圧は5V程度あり、出力端子電圧が20V程度まで跳ね上がるとすると、25V程度のゲート−ソース間耐圧が必要になる。補助MOSFETセル44のゲート酸化膜48は、ローサイドMOSFETセル43のゲート酸化膜47と同時に形成するため、それぞれのゲート酸化膜の膜厚は同じである。ただし、ローサイドMOSFETセル43のようなトレンチ型パワーMOSFETにおいては、トレンチゲートのボトムの局率部で電解集中が起きやすいため、補助MOSFETセル44で示すようなプレーナ型のゲート構造に比べて、ゲート−ソース間耐圧は低くなる。
【0055】
つまり、補助MOSFETセル44のゲート酸化膜48とローサイドMOSFETセル43のゲート酸化膜47は、同じ膜厚ではあるが、ゲート−ソース間耐圧は補助MOSFETセル44の方が高い。一般的にトレンチゲートのゲートソース間耐圧が12V程度のゲート酸化膜厚仕様で、プレーナ型のゲート構造では30V程度の耐圧が確保できるので、このような膜厚仕様でそれぞれのゲート酸化膜を形成すれば、補助MOSFETセル44のゲート−ソース間耐圧は充分確保できる。
【0056】
以上により、本発明の実施の形態1によれば、ローサイドMOSFET3と、セルフターンオン防止のための補助MOSFET4を1チップ化することで、セルフターンオンを防止し、電源変換効率を大幅に向上できる。さらに、システムインパッケージ内でセルフターンオン防止を実現するため、既存製品と同一ピン配置で実現でき、置き換えが容易である。
【0057】
また、補助MOSFET4をハイサイドMOSFET2のドライバ5を利用して駆動することで、新たな駆動回路を必要とせず、容易にセルフターンオンが防止できる。
【0058】
(実施の形態2)
図6は、本発明の実施の形態2によるシステムインパッケージの回路構成の一例を示す図、図7は、図6のパッケージ外観及びチップ配置、ワイヤボンディング配置の一例を示す図である。
【0059】
図6は、本発明の実施の形態2のシステムインパッケージの回路構成の一例を示す。図6の特徴は、前述した図1で示す本発明の実施の形態1に、ローサイドMOSFET3のゲートの前段にプリドライバを内蔵し、ローサイドMOSFET3を駆動するプリドライバの最終段を同一チップ上に内蔵している点である。すなわち、本発明の実施の形態2のシステムインパッケージ30は、ローサイドMOSFET3のゲートを駆動するためのp型の補助MOSFET31が同一チップ上に内蔵され、この補助MOSFET31と補助MOSFET4とでインバータを構成している。なお、前記実施の形態1と同様に、ローサイドMOSFET3はトレンチ型の縦型パワーMOSFETで形成され、補助MOSFET4,31はプレーナ型の横型MOSFETで形成される。
【0060】
プリドライバの駆動電圧は、配線32を利用して、ローサイドMOSFET3のゲート電圧の入力端子19から伝達されている。このような構成にすることで、前記実施の形態1で説明したような、セルフターンオン現象が防止できると共に、ローサイドMOSFET3をオン、オフするための補助MOSFET31,4が内蔵されているために、ローサイドMOSFET3のゲートの駆動能力が上がり、更なる低損失化ができる。
【0061】
図7は、本発明の実施の形態2のシステムインパッケージのパッケージ外観及びチップ配置、ワイヤボンディング配置の一例を示す。図7の特徴は、前述した図2の本発明の実施の形態1のシステムインパッケージと比べて、ローサイドMOSFET3のゲートパッド37の位置に、補助インバータ駆動用パッド41を設け、配線33を用いて、ドライバ6からの電位が伝達される。さらに、補助MOSFET4の駆動用のゲートパッド39の位置に、補助インバータ入力電圧用パッド42を設け、補助インバータ入力電圧用パッド42に、配線32を用いて、ローサイドMOSFET3のゲート電圧の入力端子19の電位を伝達している。
【0062】
なお、配線32のうち、ドライバの半導体チップ9上でワイヤボンディングしている部分は、半導体チップ9の内部で配線しても構わない。
【0063】
以上により、本発明の実施の形態2においても、前記実施の形態1と同様に、パッケージに新たに駆動用のピンなどを配置する必要がなく、従来製品との置き換えが容易である。また、図には示していないが、補助MOSFET31をローサイドMOSFET3に内蔵するためには、新たにn型のウエル層を設け、p型のコンタクト層を使うことで、形成できる。
【0064】
特に、本発明の実施の形態2によれば、ローサイドMOSFET3と補助MOSFET31を1チップ化することで、セルフターンオンを防止するとともに、ローサイドMOSFET3の駆動能力を上げることができ、電源変換効率をさらに向上できる。
【0065】
以上、本発明者によってなされた発明を発明の実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0066】
たとえば、前記実施の形態においては、システムインパッケージを主に説明したが、このシステムインパッケージを用い、PWMコントローラ、平滑用インダクタおよびコンデンサなどを有するDC/DCコンバータや、さらにこのDC/DCコンバータを用い、パーソナルコンピュータやコンピュータゲーム機などの電源システムなどに広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施の形態1によるシステムインパッケージの回路構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1において、図1のパッケージ外観及びチップ配置、ワイヤボンディング配置の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1において、セルフターンオンが防止できる効果を説明するための各電圧のタイミングチャートを示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1において、効果を説明するためのシミュレーション結果を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1において、デバイスの断面構造の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態2によるシステムインパッケージの回路構成の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2において、図6のパッケージ外観及びチップ配置、ワイヤボンディング配置の一例を示す図である。
【図8】本発明の前提として検討した従来のシステムインパッケージの回路構成の一例を示す図である。
【図9】本発明の前提として検討した従来のシステムインパッケージのパッケージ外観及びチップ配置、ワイヤボンディング配置の一例を示す図である。
【図10】本発明の前提として検討した従来のシステムインパッケージにおいて、セルフターンオン現象を説明するための各電圧のタイミングチャートを示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1,29,30…システムインパッケージ、2…ハイサイドMOSFET、3…ローサイドMOSFET、4…補助MOSFET、5,6…ドライバ、7,8,9…半導体チップ、10…PWMコントローラ、11…平滑用インダクタ、12…平滑用コンデンサ、13,14,15,16,17…配線、18…PWM入力端子、19…VGL入力端子、20…VGH入力端子、21…ブート用端子、22…VGHモニター端子、23…入力端子、24…出力端子、25…パワーグランド端子、26…VGLモニター端子、27…ロジックグランド端子、28…コンデンサ、31…補助MOSFET、32,33…配線、34,37,39…ゲートパッド、35,36,38,40…ソースパッド、41…補助インバータ駆動用パッド、42…補助インバータ入力電圧用パッド、43…ローサイドMOSFETセル、44…補助MOSFETセル、45…p型拡散層、46…p型拡散層、47,48…ゲート酸化膜、49,50…ポリシリコン電極、51…絶縁膜、52…AL電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイサイドスイッチと、ローサイドスイッチと、前記ハイサイドスイッチおよび前記ローサイドスイッチをそれぞれ駆動するドライバとを有し、
前記ハイサイドスイッチと前記ローサイドスイッチと前記ドライバとが1パッケージ化された半導体装置であって、
前記ローサイドスイッチのゲート−ソース間に補助スイッチが内蔵され、前記ローサイドスイッチと前記補助スイッチとは同一チップ上に構成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置において、
前記補助スイッチの駆動は、前記ハイサイドスイッチを駆動するドライバを利用して駆動することを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1記載の半導体装置において、
前記ローサイドスイッチは、縦型のMOSFETで形成され、
前記補助スイッチは、横型のMOSFETで形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項3記載の半導体装置において、
前記ローサイドスイッチのMOSFETと前記補助スイッチのMOSFETとのゲート酸化膜は同一工程で形成されることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項3記載の半導体装置において、
前記補助スイッチのMOSFETのゲート−ソース間耐圧は、前記ローサイドスイッチのMOSFETのゲート−ソース間耐圧より高いことを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項3記載の半導体装置において、
前記補助スイッチのMOSFETのドレイン−ソース間耐圧は、前記ローサイドスイッチのMOSFETのドレイン−ソース間耐圧より低いことを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項3記載の半導体装置において、
前記ローサイドスイッチのMOSFETの閾値電圧は1V以下であることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項1記載の半導体装置を用いたDC/DCコンバータであって、
前記ハイサイドスイッチを駆動するドライバおよび前記ローサイドスイッチを駆動するドライバにPWM信号を供給するPWMコントローラと、前記ハイサイドスイッチおよび前記ローサイドスイッチから出力された電圧を平滑化するインダクタおよびコンデンサとを有することを特徴とするDC/DCコンバータ。
【請求項9】
請求項8記載のDC/DCコンバータを用いたことを特徴とする電源システム。
【請求項10】
ハイサイドスイッチと、ローサイドスイッチと、前記ハイサイドスイッチおよび前記ローサイドスイッチをそれぞれ駆動するドライバとを有し、
前記ハイサイドスイッチと前記ローサイドスイッチと前記ドライバとが1パッケージ化された半導体装置であって、
前記ローサイドスイッチのゲートの前段にプリドライバが内蔵され、前記ローサイドスイッチと前記プリドライバとは同一チップ上に構成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項11】
請求項10記載の半導体装置において、
前記ローサイドスイッチは、縦型のパワーMOSFETで形成され、
前記プリドライバは、横型のMOSFETで形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項12】
請求項10記載の半導体装置を用いたDC/DCコンバータであって、
前記ハイサイドスイッチを駆動するドライバおよび前記ローサイドスイッチを駆動するドライバにPWM信号を供給するPWMコントローラと、前記ハイサイドスイッチおよび前記ローサイドスイッチから出力された電圧を平滑化するインダクタおよびコンデンサとを有することを特徴とするDC/DCコンバータ。
【請求項13】
請求項12記載のDC/DCコンバータを用いたことを特徴とする電源システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−25567(P2006−25567A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203094(P2004−203094)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【Fターム(参考)】